クラブ同窓会~ブルマ持ち込むべからず

    作者:佐伯都

     もう10年、されど10年。護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)もすっかり大人の女性に成長していた。
     かつて互いに競い合った部員達もそれぞれの道を歩んでいることだろう。懐かしい、久方ぶりのライブハウス会場にサクラコは目を細めた。
    「同窓会をするなら、やっぱりここ以外には考えられませんね」

    ●クラブ同窓会~ブルマ持ち込むべからず
     ……そんなわけで、『†―星葬剣―†』の同窓会会場として選ばれた一室。立食パーティーのため、並んだテーブル上にはケータリングによる料理や、思い出の一コマをおさめたアルバム、誰かが部室に残していったのだろう優勝記念のトロフィー等々が見えた。
    「まあ星葬剣の祝勝会と言えばアレ、でしょうけど」
     誰が持ち込んだともわからぬ料理ならまだしも、このたびはきちんと業者に依頼してのケータリングだ。まさかそこで異物混入などあるはずがないし、万が一あったら営業停止モノだ。色々な意味で間違いないはず。
    「ましてや誰かが手を回してこっそり……なんて事、まさか、うん」
     それでもサクラコの脳裏に一抹の不安がよぎるのは何故なのか。そんな事あってはならない。ここまで完璧に準備にを進めたのに、これが全力のフリとかまさかそんな。ええそんな事あるわけがない。
    「10年も過ぎてるんだから、まさかもう誰も覚えてないでしょうし」
     ライブハウス主体のクラブだっただけに模擬戦の真似事でもしようかと思い立ち、シミュレータだって持ち込んだ。うん絶対このほうが星葬剣らしい。衣類の混入なんてそんな、保健所のお世話になりかねないネタなんて、うん。
    「……それともやっぱりお知らせするべきだった?」
     やはり案内のハガキに明記するべきであったか、とサクラコはやや青くなってきた顔に手をあてる。
     そう、『ブルマ持ち込み禁止』と。


    ■リプレイ

     しんと静まりかえったライブハウス会場――であった場所。もはやそこに、立っている人影はたった一人きり。
     果たしてその惨劇の引き金を最初に引いたのは、誰であったのか。
     今となってはその真相も、誰にもわからない。文字通りの死屍累々、クラブメンバーが力なく横たわるライブハウスの惨状から逃れるように、サクラコは両手で顔を覆って崩れ落ちた。ああ、どうして、どうして同窓会がこんなひどい事になってしまったのか。
    「星葬剣同窓会にようこそ! みなさまお久しぶりでいす!!」
     そう、思えば、始まりは普通の、どこにでもあるごく普通の立食パーティー同窓会であったはず。
     なのに、どうして――どうして、こんな結末に。

     開場時間ぴったり、続々と詰めかけてきた元クラブメンバー達の姿にサクラコの心は浮き立つ。まったく変わらぬように思えるものもいれば、いい意味で変わったように思えるものもいる。悪い意味の変化をしたものが誰一人見当たらないことは、心から喜ぶべきことと言えた。
     先陣をきって姿を現したポンパドールの元気な声。相棒のチャルダッシュも相変わらずのようだ。
    「ヤッホーサクラコ、身長伸びたー!? みんななつかしいなあ、元気だったみたいでうれしい!」
    「いやあ皆、久しぶりだね。それにしてもサクラコは……またますます大きくなって……」
     ううっ、と感慨深げに目頭を押さえる耕平が恒例の身長いじりをしてくる。見守りスタイルに入ったレニーの生暖かい笑顔がつらい。
    「ライブハウスか、本当に懐かしい……あの頃は我ながらがむしゃらだったなぁ」
    「いやぁ~なっつかしいね~! みんな元気そうでよかったよ。団長のでいすちゃんは、身長また伸びたかな?」
     桃夜は現在、クリスとフランスで暮らしているため今回は久方ぶりの帰国だ。クリスに至っては日本語自体がすっかり御無沙汰でもある。
    「ああ、先輩はやはり10年経っても相変わらず大きいですね……いえトーテムポールとまではいきませんが」
    「トーテムポールとか言わない! と言うか揃いも揃ってそこまで言うなら神妙に崇め奉るのでいす!!」
     ふんすと鼻を鳴らし胸をそらすサクラコに、まるで堪えていない様子でヨギリが笑った。身長でいじられる部長の図は、10年過ぎても星葬剣の鉄板ネタらしい。
    「……皆さん、お久しぶりです、ね。あまりお変わり、ないようで、安心しました」
     薬剤師の国家試験に向けて猛勉強中の蒼もまた、良い意味であまり変わらずにいるようだ。変わったのは、以前に比べ表情豊かになったというあたりだろう。
     一方の周は考古学者として、またはヒーローとして世界中を忙しく飛び回る毎日だ。遺跡荒らしもとい、墓荒らし的なトレジャーハンターに遭遇する事も多いので自己鍛錬は欠かせない。
    「本当に、懐かしい……第一回大会からずいぶん長い事ここで戦ってたっけ。優勝できたのはたった一回きりだったけどな」
     けれど、そのただ一度の優勝が何ものにも替えられない思い出であることも確かだ。集まったメンバーを前にサクラコが満を持して乾杯の音頭を取る。
    「お、今日はまともな料理が並んでる! ……んだよね? 今日のは爆発したりしないよなサクラコ?」
    「耕平さまは失礼なのでいす! ちゃーんと業者に頼んだので間違っても異物混入とか女性衣類混入とか起こるわけがないのでいす!」
     ……思えばこのサクラコの発言が、全力の死亡フラグだったのかもしれない。
     ロリータ服姿のアイレインを発見し、飲み物片手にミルドレッドが駆け寄ってきた。アイレインの相棒、ハールの変わらない様子が少しほっとする。
    「剣のみんなと会うのも久しぶり。みんな相変わらずなのかな?」
    「ええと、アイはモデルさんをしているの♪ 自分でデザインもしたり」
     ちなみにこれは今年の新作、とボリュームたっぷりのスカートを広げ軽くポーズをとったアイレインに、ハールがさりげなく合わせてきた。今でも息はぴったりなようで、横で眺めていた治胡もつい苦笑する。
    「しかし祝勝会のツケ全部、ココに居ない奴のツケにしまくったのもイイ思い出だな……」
    「(……そのツケは今どーなってるんだろうね?)」
     それは治胡にはいい思い出かもしれないが、ツケを背負わされた相手にとってみればいい迷惑ではないのだろうか……とポンパドールが一瞬遠い目になる。とりあえずツケの行方は訊かないでおいた方がよさそうだ。君子危うきに近寄らず。
    「それはともあれ、貧乏だったのは違いねーから祝勝会飯にはマジで世話になったぜ。……おい猫、俺のステーキ取るな」
    「あったなー祝勝会のご飯。ここもいい米使ってるね、ショップのライスともいい勝負な気がするよ」
     可愛らしい小ぶりサイズにまとめられた手まり寿司を頬張り、周はご満悦のようだ。
     猫は猫らしく魚でも食べていろと自分のウィングキャットと壮絶な、しかしながらどうしようもなく低レベルな争いを始めた治胡をよそに、サクラコは各テーブルを回って挨拶を交わしている。
    「お久しぶりですサクラコさん」
     現在は一人で諸外国を旅しているシャノンだが、かつては36回もの優勝経験を誇る星葬剣の実力者でもあった。
     10年が過ぎ、他も認める立派なレディになれた自負はあるものの、やはり身長だけはサクラコに負けている気がする――というのは、黙っておく。
    「シャノンさん、優勝記録36回でしたかねい。トロフィー持ち込むの大変だったでしょう?」
    「しまいこんだままでしたが、改めて数えると少ない数ではありませんでしたね……シミュレータもあると聞きました、のちほど模擬戦も楽しませてもらいます」
     模擬戦もとい、戦いの匂いを嗅ぎつけ大人しくしてはいられない面々がシミュレータ周辺に集まってきた。それこそライブハウスで数々の優勝を飾ってきた星葬剣の、あるべき正しい姿かもしれない。
    「耕平も皆も久しいな、お元気そうで何よりだ。模擬戦と聞いては黙っていられなくてな」
    「お、学園司書殿じゃないか。久しぶりだねニコ」
     都内の私立大で司書の傍ら時々代理戦争という生活を送る耕平にとって、武蔵坂学園の司書教諭の立場にあるニコは同業者だ。欧州出身らしい長身と精悍な体躯も相まって、三十路に入ったニコは貫禄十分、といった雰囲気がある。
    「うむ、護宮をはじめ剣の皆には其の節は本当にお世話になった。こうして集まると、優勝の度に催した祝勝会を思い出す――優勝した当事者に限って悲惨な食事を引き当てたりで密かに気の毒に思っていたものだが、10年が過ぎた今となっては良き思い出に他ならない」
     ただまあ一点、いつもの魔法使いの三角帽子のかわりに何故だかブルマを被っているのは周回遅れでやってきた若気の至りか、それとも実は仕事のストレスが天元突破でもしているのか、あるいは全力の(通常運行とも言う)真顔でネタ振りをしているつもりなのかは誰にもわからない。と言うか誰もニコを止めなかったのは何故なのか。なんかしみじみいい話っぽく滔々と語ってるけど頭、頭! と会場のそこかしこから声が上がっていたことは完全に黙殺される。
     今やデキル=メイドを自負するミーアが、こそこそとポンパドールに耳打ちしてきた。
    「……あの、ポンパドール様、ポンパドール様。何故ニコ様はあのような珍妙な被り物をなさっておいでなのでしょう。ドレスコード等はありませんでしたが流石にブルマというのは、こう」
    「俺だって止めようと思ったんだよ、そりゃ招待状にはブルマ禁止も何も書いてなかったけどさあ、どう考えたってブルマ被ってくなんてヒトとしておかしいじゃん……」
     ポンパドールが色々一周回りすぎた友の勇姿に、こっそり壁際で男泣きしていたなんてニコは知るよしもない。よしよしどうどうとミーアに慰められ、相棒のチャルダッシュにも背中をたしたし叩かれてようやくポンパドールは顔を上げた。
    「持ち直されましたか? 何か飲み物をお持ちしましょうか?」
    「いいや大丈夫、ありがとね。ニコさんは――放置する」
     その時のポンパドールのあまりに清々しい笑顔を、恐らくミーアは一生忘れないだろう。さすがは星葬剣の皆様、過去は振り返らず常に前を向かれる姿にミーアは感動するのです……と、多少バイアスのかかった思い出を振り返りながらそっとニット生地のように見える鍋敷きをブイヤベースの鍋の下へ滑り込ませる。メイドたるもの、いつでも熱でテーブルを傷めないため鍋敷きは常時所持しているものだ。なおこの場合、鍋敷きとは表現したものの鍋敷きであるとは言っていないのがポイントである。ここ次のテストに出ますよ。
     ミーアが次々と皿の下へ鍋敷きという名目の何かを滑り込ませている一方、シミュレータの周辺では歓声が上がっていた。
    「皆様、宴もたけなわですがどうぞこちらにご注目くださいませ!」
     頃合いを見計らい、サクラコがテーブルクロスを取り払った下から姿を現したのは――山積みされたクリームパイ。パイ投げに使われるアレだ。我が意を得たりとばかりに桃夜が首肯する。
    「剣といえばライブハウス、そしてパイ投げ。みんな忘れてないみたいだね」
    「まさか同窓会でも投げる……のか……」
     クリスがざーっと顔を青くしたことはきれいに黙殺されたらしい。
    「この通り、本日はパイをご用意いたしました。……説明は、不要ですねい?」
     ……そう、これが。
     思えば、きっとこれが地獄の釜の蓋を開ける宣言だったのだ。
    「では、開戦でいす!」
     誰も、何も、この後に訪れる惨劇など予想だにしていなかった。むしろここで『クラブのお約束』に乗った部員を誰が責められるだろう。
    「戦いとなれば遠慮はしません!」
    「あぁ始まってしまった……やはり剣のパーティーが平和に終わるわけありませんよね……私は楽しく平和に立食パーティーを楽しみに来ただけなのに……」
     やる気(と書いて殺る気と読む)満々のシャノンから逃れるように、ヨギリは料理が満載されたトレイを抱えてテーブル下へ入った。あれは存在してない存在してない、パイとかブルマとかパイとか、……あれ?
    「ん……始まったかな? これでもくらえっ!」
    「やったわね、くらいなさーい!!」
     瞬く間にミルドレッドとアイレインの間で激しいパイの応酬が始まる。手当たり次第に手近なものを投げまくるアイレインの手に、何やら生暖かい生地が触れた。が、気にせず投擲。
    「わぷっ!? なんか生温い……ちょっと誰これ入れたのー!!」
    「やだ、このパイ、ブルマ混ざってる!」
     逆に色々ヒートアップしてきたアイレインは当然のことながら、パイに混じってミーアが会場じゅうに鍋敷きとして仕込んだブルマが飛び交いはじめる。それはもう、ひどい光景だった。レニーが何やら悪者めいた哄笑をあげる。
    「ははは、ブルマ持ち込み禁止と明記すべきだったねサクラコ! 何とでも呼ぶがいいさ、いつぞや僕が闇堕ちしたときはブルマ集中砲火される側だったからね!!」
     レニーさんそれは大上段で言い放ってもあんまりかっこよくないです、と誰かが呟いたとか呟いていないとか。
    「おいこらトーヤ! そのスーツ高いのに……ってぶふぅ!!」
    「あれ、今何か飛んで……黒っぽいあれはっ、剣伝説のブルマ!!」
    「そんなものあるかああ!!」
     クリスの全力のツッコミももはや桃夜の耳には入っていない。爛々と目を輝かせた桃夜の絶叫が響く。
    「あれをクリスに穿いてもらわなければ……それ即ちブーケトスならぬブルマトス! そのブルマを取ったものは幸せになれる!」
    「何さらっと捏造してやがる、三十路の僕にブルマを履かせようとか軽く放送事故だろう!! そんなにブルマが欲しいなら君が頭にでも被ってくれ!」
     桃夜も桃夜だがクリスも大概ひどい。
     マジックミサイルならぬマジックパイ(渾身の心のホーミングつき)を食らえ、とばかりにクリスの投げたパイが耕平へクリーンヒットする。
    「ぶっ! ……ほおお、そーかいそーかい。ならこちらもご希望に答えないとねー……『持ってて良かったクリームパイ3段重ね星葬剣印ブルマ添え』、喰らえやああ!」
    「例えパイにまみれようともオレは幸せのためにブルマを……取る!!!!」
    「うるさい僕は履かないぞ!! ところでヨギリ先生はどう? 確か恋人いるんだよn」
    「――私のプライベートをゲロったクリス先輩、クリティカルダブルですよ」
     大惨事に陥りつつある会場などどこ吹く風、蒼はちゃっかりテーブルを盾にもくもくと皿を空にしている。ブルマ、伝説のブルマ、と譫言のように呟いていた桃夜が、しれっと参加していた治胡のパイで撃沈する。
    「あ、やべ。スマン、これは事k」
     スパァン! と大変にいい音が響き治胡の顔はパイ生地で蓋をされた。

     ――ああ、やはり招待状にはきっちり明記すべきだったのだ、ブルマ厳禁と。ブルマ持ち込むべからずと。
     サクラコは己の罪深さに目もくらむ思いしかない。何度も言うようだが本当にこの世のものとも思えぬひどい光景だ。クリームだけならまだしもブルマ乱舞とか目も当てられない。
     と言うかそもそもクリームまみれのブルマ乱舞とか、それが黒歴史として許される年齢をおおかたの人間がとっくに余裕でパスしている現実が一番ひどい。
    「……まあそれはそれとして、起こっちゃったものは仕方ないですねい! そういうわけでみなさまSee you again! またいつかお会いしましょう!!」
     ばいばーい☆ とどこぞへカメラ目線で手を振るサクラコの背後には、ブルマとクリームまみれになって倒れた部員達。
    「えっサクラコだけ無傷とか許されるの……?」
    「様式美とは徹底したお約束の上で成立するものだ。お約束と言えば……なあ?」
     ずももも、と効果音が聞こえそうなおどろおどろしさでポンパドールとニコのシルエットが黒く浮かびあがる。これまた何度も言うようだが、既婚者かつ子供もいる身で終始徹底してブルマ頭を貫き続けるニコの執念は果たしていったいどこから来るのか。
    「まったく……僕イコールブルマなんて図式は心外にもほどがあるよ。これからはサクラコイコールブルマ、を浸透させたい所だね。積極的に」
     ふふふふふ、と据わった目で起き上がったレニーの手元へ、心得たタイミングでミーアがクリームパイを載せる。さすがはデキル=メイド。
    「えっ何、みんなどうしたの目が本気。いやいやいやなんか羽交い締めにされてる気がするのでいす! 軽ーい冗談ですよねい! ちょっとちょっと待って治胡さま顔が本気と書いてマジでいす嫌ああああやめてえええ!!!!」
    「冗談? ああ、ジョークって事か。アメリカン的な。そうだなァ、お約束のジョークグッズとしてクリームパイはメジャーな存在なのかもしれねえ、ッッなあ!!!!」

     ――治胡の渾身のパイ投擲をサクラコが避けえたかどうかは、神のみぞ知る所である。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:15人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ