クラブ同窓会~再びの少女彫像研究会

    作者:佐和

    「ふわぁ。すごいですぅ」
    「閉館してからずっと放置されていたようですの」
     シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)の案内で、彼岸花・深未(石化系男子・d09593)が訪れたのは、ちょっと辺鄙な場所にあるとある美術館。
     説明の通り大分前に閉館したそこを訪れる者は、今は2人以外になく。
     展示されていた美術品も、台座やガラスケースが幾つか残るのみで影も形もない。
    「明かりは点かないですぅ?」
    「手配はしましたの。数日中には電気が使えるようになりますの」
     ……かつて、武蔵坂学園には『少女彫像研究会』というクラブがあった。
     様々な少女の彫像を並べ、その鑑賞を楽しんでいた部活。
     だが諸々の事情により、学園のクラブ棟を使えなくなったそのクラブは解散。
     部員も散り散りとなってしまっていた。
     しかし、10年近い時が経ち。
     この古い建物を得たシエナは、『少女彫像研究会』の仲間を再び集めようと思い立って。
     まずはと深未に声をかけたのだった。
    「新しい活動拠点には充分ですぅね」
     にこにこと嬉しそうに笑う深未の評価は上々。
     きっと他の仲間達にも気に入ってもらえるだろうとシエナは確信する。
     これから、残る仲間達に声をかけて。
     集まったら、何をしよう?
     昔の都市伝説依頼の思い出話には、次々と花が咲くことだろう。
     クラブがない間どうしていたのか、話したいし聞いてみたい。
     そして何よりも……皆が集まったなら、やらかすことは決まっている。
    「楽しみですの」
     シエナも口の端に笑みを浮かべ、広い美術館を見渡した。


    ■リプレイ

    ●再会
     灯りの点いた美術館は、幾分華やかさを取り戻したようだった。
     相変わらず展示品の1つもなく、がらんとした広い部屋が続く中、シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)は改めて屋内を確かめていく。
     年月を感じさせるくすんだカーテンは、充分に陽の光を遮り。
     刻まれた細かな傷すら貫禄に見える床を、静かに鳴らして足音が響く。
     絵画の跡が微かな日焼けとして残る壁は、辛うじて白さを保ち。
     ガラスのショーケースは幾つかが割れずに残っていた。
     作品を置かなくなって久しい台座は大小高低様々あって。
     ふと、シエナはそのうちの1つに目を留める。
     そこには見覚えのある少女の石像が立っていた。
     制服の上からケープを羽織り、さらに包み込むようにふわりと長髪を広げて。
     どこかおっとりと微笑むのは六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)。
     記憶の中と同じ10年前の姿を象った石像に、シエナは懐かしそうに目を細める。
     だが、シエナの目を惹いたのは、その精緻な作りではなく。
    (「深未さんが置いていったのかな?」)
     石像がそこにある覚えがない、という点だった。
     立ち止まったシエナは振り返り、彼岸花・深未(石化系男子・d09593)を見つめる。
     先だってこの場所へ案内し、一緒に準備を整えてきた深未なら……というか、自分か深未にしかここに石像を用意することはできなかったはず。
     そしてシエナに心当たりがない以上、深未がと考えるのが当然ではあるのだが。
     皆を先導していた深未は、そんなシエナに気付いて。
    「ここにしますぅ? ソファもありますし、一休みには丁度いいですぅね」
     思惑を読み違えたらしく、案内は一旦中断と、仲間達に席を勧め始めた。
    「座って大丈夫かな?」
    「ここは掃除したですぅ。簡単にですけど……」
     恐る恐る腰掛ける神山・美佳(芝刈り機は待ってくれない・d36739)に、深未はちょっと照れたように笑い。
     その様子を見た河本・由香里(雑貨屋魔法使い・d36413)が笑顔で首を傾げる。
    「掃除は深未くんとシエナちゃんの2人で?」
    「そうですぅ。でも、まだ全部の部屋は掃除できてないですぅよ」
    「そこはこれから皆でやればいいわね」
     深くソファに身を沈め、コルト・トルターニャ(魔女・d09182)は微笑んだ。
     そう、これから。
     頷いたシエナも石像に背を向け、ソファに座ると5人は改めて向かい合った。

    ●追憶
    「昔はなんだかんだ楽しかったよね。
     ドレス着て蝋人形にされたり、雪像作って自分たちも雪像にされたり」
     懐かしい仲間達を見回した由香里が口火を切ると、コルトも続いて。
    「等身大アイスにもされたわよね。
     あ、皆を雪まつりの作品にした写真、今でも持ってるわよ」
     差し出した写真に写るのは、城を襲うドラゴンを背景に、助けを求める深未姫。
     騎士シエナと魔法使い由香里はシスターと共に敵と対峙して。
     手前に立つ笑顔のコルトがその光景を指し示す。
     ……という雪像群。
     精緻な出来栄え、と言いたいところですが、人物は全て本人です。
    「私も。持って来てみました」
     続けて由香里が見せたのは、琥珀に閉じ込められ固められた深未。
     もう1枚には同様なシエナが写っていて。
     見せて、と声をかけた美佳に渡された写真には、見覚えのある人物の氷像が並ぶ。
    「アイスを食べた人をアイスにしてしまう都市伝説がいたんです」
    「ミス・アイスメーカーね」
     由香里の説明に、コルトが懐かしそうにその名を口にする。
     へぇ、と楽しそうに話を聞いていた美佳だったけれども。
    「でもこれ、アイスじゃなくて氷だね?」
    「それは、まあ、コルトさんがいましたから……」
     疑問符には由香里の苦笑が返り、察した美佳は納得の色を見せた。
    「都市伝説……思えば色々いましたですぅね!」
     深未も感慨深く思い出す。
     マネキンに仲間にと求められ、次々とマネキンに変えられていったり。
     巨大なシャコ貝の居る海で、呑み込まれた挙句に真珠に変えられたり。
     石像のダンスパーティーで、一緒に石化してサタデーナイトしたり。
     イケメン氷像、お持ち帰りを狙う雪ん子に凍らされたり。
     蝋人形デビュタントにされて、女王に連れられてお披露目されたり。
     ボッチで嫉妬深い雪女の前で、キスを交わすリア充な氷像になったり。
     写真には残っていないけれど、鮮明に記憶に残る体験を。
     ……って、こんなにやってたんですね。これでも全部ではないのですが。
     美佳も、ここと同じ美術館で見つけた、人を閉じ込めようとする絵画などを思い出して、都市伝説かぁ、と呟いて。
    「なんか響きが懐かしいね!」
     世界が変わった10年前。
     ダークネスはまだ残存してはいるが、その中にタタリガミの姿はなく。
     ゆえに人々に害を成す都市伝説は消え去っていた。
     安全という意味では喜ぶべきこと、なのだが。
    「都市伝説が現れなくなったのが本当に残念ですの」
     人入り飴細工の綺麗な写真を手に、シエナは心底そう思う。
     その時、話の輪の外に立つ石像の影で、黒い何かが動いたような気がしたが。
     誰も気付かないまま昔話は盛り上がっていく。

    ●現状
     広げられた写真の中には、先日消滅したブレイズゲート・緋鳴館でのものもあった。
     呪いのフランス人形に囲まれて喜ぶコルトや。
     呪いを受けた状態で、シルキーに様々なメイド服へ着せ替えされた深未。
     何故かメイド服以外にも着替えているシエナ。
     それを見た美佳は、そういえば、と問う。
    「この10年はみんなどうしてたの?」
     写真の影響か、最初に美佳の目が向いたのはミニスカメイド服姿の由香里で。
    「今は、流行らない雑貨屋やってます。これは客引きの衣装ですね」
     謙遜しつつの説明と共に、フリルの多いスカートをそっと持ち上げて見せる。
     少女らしい可愛らしさが強かったその服装は、今は清楚でいて妖艶な、どこか不思議で大人びた雰囲気を纏っていた。
    「私は刑務官よ。
     都市伝説は消えたけど、灼滅者やエスパーの犯罪はあちこちにあるもの」
     続くコルトは、抜群のスタイルで纏う衣装に施された魔女らしい意匠は変わらないけれども、どこか制服のようなキッチリさがあって。
     看守と聞いて、なるほど、と美佳はその服装の変化に納得する。
     それにしても堅実な職についたのだなぁ、と感心していると。
    「悪い事した人は皆魔法でオブジェに変えて、牢屋にぶち込んでおいたわ♪」
     本質は全く変わっていないようでした。
     むしろその変わらなさが嬉しくて美佳は笑う。
    「石像や氷像ばかりの牢屋ですか。見学したいかも」
    「……まあ、脱走防止措置した後、元に戻してしまうのだけど」
     羨ましそうに言う由香里に、コルトは残念そうに肩を竦めて。
     見ても面白くないわよ、と付け加えてからシエナに順番を示すように視線を送る。
    「わたしは治療部隊で働いていますの。
     その合間に、ダークネスの拠点跡地を巡ったりもしてますが」
     かつてベヘリタスが成し遂げた魂の分離の技術。
     シエナは今も変わらず、その復活を目指しているのだと告げた。
     灼滅者は癒しを得なくても闇堕ちしなくなった。
     エスパーの闇堕ちも発生していない。
     それは、内なるダークネスが消えたからでは、という説もある中で。
    (「灼滅者の中で彼らが生きていると信じてますの」)
     シエナはそっと胸に手を当て、目を伏せる。
     だが、すぐに顔を上げ、緑色の瞳を輝かせて。
    「あと、研究中の実験に失敗して物品に成り果てかけたりしましたの」
    「やっぱみんな色々やってるんだね~!」
     楽し気に笑った美佳は、次は自分の番と手を掲げて見せた。
    「あたしはなんちゃってトレジャーハンター!
     色んなところでお宝拾って、先人達の残したものを現代に伝える仕事だよ」
     あそこもここもと様々な国名を挙げながら、お宝話を披露する。
    『常に継続してやっていれば、素晴らしいことが出来るようになる』
     そんな誰かの言を信じ、ためになることを続けていたのだと告げる一方で。
    「もちろん、例のアレも御無沙汰してるわけじゃないよ」
     お宝話の中には、石やら氷やらのあれこれも含まれていた。
    「この前は宝石だったかな。そのたびに観光名所になるのはやめて欲しいね!」
    「でも、本当にあったら観光しに行きたいですぅ」
     あはは、と笑う美佳に、深未の赤瞳が憧れに輝く。
    「ボクは……特に目立ったことはないんですが……」
     その深未に順番は巡り、もふもふウサギのぬいぐるみに顔を半分埋めて考え考え。
     そうですぅ、と思い出したように顔を上げた。
    「ある美容室で無料で蝋パックがありまして、珍しいからつい行ってしまったのですぅ」
     深未が語り始めたのは最近の体験。
     案内された個室で、溶けた生温かい蝋を浴びせられて全身ドロドロになり。
     そして蝋ゆえに固められたのだと、その時撮られた写真を見せながら話す。
     もちろんここに居る以上、ちゃんと元通り自由にはなったし。
     肌は生まれ変わったかのようになったのだと、実際に手や腕を差し出して見せながら、効果の程を証明する。
    「機会があったらみんなで一緒に行きましょう?
     ……とても、気持ちいいですぅよ?」
     誘う言葉に皆の目が輝いた。
     抱いた期待は、肌への効果か、その過程へなのか。
     その時。
    「いいですねろう。うふふ、ろうにんぎょうがたくさんですね」
     響いた少女の声は聞き覚えのあるもので。
     振り向き顔を上げ視線を集めたその先には、件の石像。
    「あれ? シエナさんが置いたですぅ?」
     不思議そうな声を上げる深未に、シエナが問いを重ねるより前に。
     石像の後ろから、黒色のゴスロリ服と長い黒髪を翻し、少女がひょっこり姿を見せた。
    「フニョもろうにんぎょう作りましょうかうふふふ」
     無邪気な中に妖しさを混ぜて笑いながらフニョミョール・デビョニュドーラ(石の見る悪夢・d32961)がソファに向かい歩み寄ると、付き従うかのように石像の薫も動き出した。
    「やあ、10年ぶり?」
    「薫さん!?」
    「フニョ!」
     突然の登場に驚いていた皆がやっと我に返り仲間の名を呼ぶ。
    「なんだかみんなおっきくなってるような」
     端から順に皆を見上げていくフニョミョールはそんなことを呟くけれど。
     むしろ気になるのは、成長した皆ではなく、成長してない2人の方で。
    「2人とも胸とかお尻は貧相なままですの」
    「えーと、まぁ色々あって。
     まぁフニョが隣りにいるってことで察してくれると嬉しい」
     首を傾げたシエナに、薫がぼうっとした視線を向ける。
     その身体は確かに10年前と同じに見え。
     興味津々な由香里と美佳に、触ってみる? と石の手を差し出してみたりして。
    「フニョは全く変わってませんよ」
     んふー、と笑いながらフニョミョールも昔のままの姿を見せていた。
    「今までどこで何をしていたの?」
    「いままで沢山集めました。これからも今も」
     コルトの問いに返ってきたのは、名詞を抜いた答え。
     それでも皆には正確に伝わり。
     伝わったと分かっていながら、フニョミョールは妖しく笑う。
    「何をって? ここにいるからにはわかるでしょうに」
     そのためにここにいるのだろうと言うように。

    ●惨状
    「今日はどうします? 石像ですか? マネキンですか? 何でもいいですよ?」
     始まりはフニョミョールのそんな問いかけからだった。
    「楽しみましょうマスター。材料はたくさんあります」
     薫はどこからともなく怪しい薬品や何かの道具を広げて。
     ぼんやりした瞳で『材料』を見渡す。
     そんな様子に懐かしさを感じながら美佳はちょっと苦笑を見せ。
    「ほ、本当に変わらないね。
     ねえ、コルトさん……って、あら、なんかこっちも目線がこわ……!?」
     振り返った先で、氷の魔女も動き出す。
     早速出来上がった困惑顔の氷像に、コルトはにっこりと微笑んだ。
    「カメラ持ってきたわよ」
    「私もです」
     光学機器を構えれば、由香里も続いてシャッターを切る。
    「これやるの久しぶりだなぁ……」
     カメラ越しに氷像を眺めながら、正面に側面に、下から斜めからと美佳を撮っていった。
    「だばー」
    「ふええぇ!?」
     その間に、フニョミョールは薫から受け取ったバケツを深未に向けてひっくり返す。
     中に入っていた粘性の黒い液体が、深未に襲い掛かるかのようにぶっかけられて。
    「ねばねばしますぅ。一体、これは……何、です……」
    (「どんどん固まっていくのですぅ!?」)
     気付けば黒く輝く彫像が出来上がっていた。
     ウサギのぬいぐるみも一緒に、戸惑う仕草で固まった深未は、だがどこか喜悦の表情を浮かべている。
    「黒真珠みたいですの」
     シエナは憧れるような瞳で不思議な輝きを眺めて。
     ふと振り返ると、シエナをじっと見据えるフニョミョールの妖しい笑顔があった。
    「んふふ。どう私を遊ばせてくれますか?」
    「あ、蝋パックのホースとタンクならここに」
     今度はコルトが道具を差し出す。
     先ほどの深未の体験談を思い出したシエナが身を震わせたそこへ。
    「ぷわわー」
     ホースからだばだばと白い蝋が放たれた。
    「ああっ。どろどろで、すごい勢いですの。
     こんなにいっぱい……ぷはっ、顔にまで、かけられ……っ」
     悦びながら受け入れたシエナは、嬌声と共に冷えた蝋に固められて。
     動かなくなった蝋人形を由香里が撮影していく。
    (「やっぱこういうのいいなー」)
     懐かしさを織り交ぜ高揚する気持ちを胸に、由香里は思う。
    (「雑貨屋やりつつ、私も旅とかに出ようかな?」)
     美佳のように世界を巡れば、新しい体験が待っているのかもしれないと。
     期待を抱いたところに、水飴が襲い掛かった。
     七不思議の1つを語りながら、薫は人入り飴細工を創り上げて。
     すぐさまコルトのカメラがシャッター音を響かせる。
     しかし、不意にその足が縫い留められたかのように動かなくなり。
    「ちょっ、フニョ!? やっぱり私もやられ……」
     抗議の声と共にコルトは石に封じこめられていく。
     氷像、蝋人形、飴細工に石像。
     あっという間に出来上がった作品をフニョミョールはぐるりと眺めて。
    「まだまだつづくのですね」
    「それじゃ、元に戻してもう1回かな」
    「……ぷはぁ! あー、寒かったぁ」
    「びっくりしたのですぅ。でも……やっぱりよかったのですぅ」
    「深未くん、今度は一緒に固まりませんか?」
    「でしたらわたしはヴァグノとを希望しますの。
     追加部品と人形とで、闇堕ち姿を模してみたいですの」
    「皆纏めて氷のオブジェにしたいわ」
    「んふふ。ぜんぶやりますぜんぶ。だいさんじまったなしです」
    「アイスもあるよ」

    『少女彫像研究会』
     様々な少女の彫像を並べ、その鑑賞を楽しんでいた部活。
     だがそれは表向きの活動で。
     裏では、人を固めたり固められたりする事の追求を行っていた。
     それゆえにクラブは解散に至ることとなり……。
     けれども部員達の探求は、10年を経た今も尚、続いている。

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月27日
    難度:簡単
    参加:7人
    結果:成功!
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