「ああ、ここでしたね」
アルバムをめくっていた鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)はセプテントリオンの面々が写る数枚の写真のところで手を止めた。部員に混じった鳥井・和馬(高校生ファイアブラッド・dn0046)が高校の制服姿なのはアルバムの日付が十年前であるからだろう。その中の不自然に空いた空白に写真を入れてゆく。
「結婚式の時に抜いたままでしたけど」
そのままでは忘れてしまうと戻しているのだろう。
「結婚式と言えば――」
そんな蒼香の視線がふいに動いた先にあったのもアルバム。ただし、それはまだ真新しく、手を伸ばして開けば、そこにはウェディングドレス姿の蒼香自身が微笑んでいた。つい最近結婚式を挙げた時のモノである。
「結婚式の後も色々ありましたね」
こうして蒼香の意識は過去へと飛んだ。
●変わるもの、変わらぬもの
「和馬ちゃんも久しぶりにゃね、立派な背中になったのにゃ」
そう言って現れたクロが無邪気に鳥井・和馬(高校生ファイアブラッド・dn0046)の背中へ抱きついたことで一波乱ある始まり方だったと、蒼香は記憶している。
「ちょっ、クっぷ」
押しつけた胸が110cmと成長した事以外は年をとっているのかすら怪しい程にクロが変わらなければ、あたふたする和馬の反応もこの光景を見て即座に動いたアルゲーの反応も十年前から変わらなかった。アルゲーに抱き寄せられ、顔を胸に埋められた和馬がもがき、やっぱり窒息は脅威だよなと葵が遠い目をするところまで含めて。
「アルゲーさんも120cmまで行ったみたいだし良かったわね」
違いがあるとすれば、女性陣の胸がそれぞれ大きくなっていることぐらいの気もする。共に豊胸に勤しんでいた同志が成果を存分に発揮している場だからか、翠はパンフレットを丸めることもなく、その光景を見やる。自身も110cmのNカップまで育ったからか、どことなく余裕も感じられるように思え。
「ただ殆どの人がさらに立派になったわね……当然の流れかもしれないけど」
すぐさま周りを見て遠い目をする辺り、錯覚であったようだが。
「二次会までは参加できませんでしたので、あらためておめでとうございます」
「ん、お二人ともおめでとうございます。とてもお似合い、だね」
「……改めて同窓会です、結婚式では皆さんにお世話になりました」
ともあれ、三次会からの参加はクロのみではない。七波と七葉がそれぞれ祝辞を口にすれば、我に返ったアルゲーがぺこりと頭を下げてから席に着き。
「3次会だけどお疲れ様ね、皆元気そうで何よりだわ」
「お、お疲れ様です。花嫁さんも結婚式も綺麗でしたね」
引き続きの参加者を労う翠の言葉に、寝始めた息子を抱えた満月は応じる。子供の顔を隠す145のZカップに約一名が一瞬怯んだ気もするが、これもある意味いつも通りだ。
「和馬もアルゲーも改めておめでとさんだな、いい挙式だったんだぜ!」
「結婚式には間に合わなかったにゃけとアルゲーちゃんも和馬ちゃんもおめでとうなのにゃ♪ お似合いの夫婦にゃね♪」
葵が祝うのに頷きつつクロも夫婦になったばかりの二人へお祝い品を差し出し。
「……ありがとうございます」
礼を言ったアルゲーは立ち上がると自分の荷物を置いた場所へと向かい、綺麗な猫の置物を荷物の上へ鎮座させる。
「あー」
「えっと……ごめん……」
居合わせた面々の顔を見ると、きっと妥当な判断だった。零桜奈が気まずげに謝った理由はお察しである。
●宴は始まる
「結婚式も盛り上がりましたがこちらでも盛り上がっていきましょう♪」
気を取り直すように蒼香が音頭を取り。
「うん……楽しもうか……」
夫の零桜奈がこれに真っ先に応えて三次会は始まった。
「「乾杯」」
グラスとグラスが交わされ。
「あ、改めて紹介しますが娘の優月ちゃんと息子の陽城ちゃんです」
幾つかの箸やフォークが料理に伸びる中、満月は傍らでうとうとし始めた娘と抱っこした息子を示し。
「可愛い子供達でしょ? 大変ですけど……満月が頑張ってくれて日々幸せです」
ジャケットを上に着込んだ少しラフな格好の結城も惚気てみせる。
「た、頼れる夫のおかげですくすくと育ってますよ」
照れた様子で俯いた弾みに満月の大きな胸が揺れたのは、きっと仕方のないことなのだろう。その様子を翠がじっと見ていたのも。
「私も結婚して子供を生めばまた変わるのかしら?」
回想の中で翠がそう言ったわけではない。だが、表情が物語り。
「子供」
聞き取れたのは、小さな呟きの中のそんな一単語のみ。
「ぷっ」
「どうしました?」
暫くしてパンフレットを丸めると突然自分の頭を叩いた翠に問うも、何でもないわと言う答えが返って来るだけだった、だから。
「胸囲160cmをプレゼント、見た目だけ闇落ちした時に果たせると思っておったんじゃがのぅ、随分かかってしもうたわい。じゃが、何とかプレゼント出来てワシも心の荷が下りたわ、メリークリスマス」
と想像の中で20人くらいの子供に囲まれた胸囲160cmの翠に都市伝説のサンタが言っていたなんて知るよしもない。
「……そういえば皆さんは最近はどんな活動をされているのでしょうか?」
「わたしの方は後続の育成ですね。中々やりがいのある仕事ですし」
きょとんとしていたものの、アルゲーが切り出せばそちらに答え。
「私は……医者として……働いてるかな……。後続の育成は……蒼香に任せちゃってるかも……。手伝える部分は……手伝うけどね……」
続く形になった零桜奈は先に近況を明かした妻をちらりと見つつ補足もすれば。
「あとは零桜奈くんとラブラブに過ごせてますからね、充実してますよ♪」
「うん……蒼香とラブラブに……過ごせてるよ……毎日が……充実してるし……」
130cmのVカップを誇示するように胸を張った蒼香の姿に、零桜奈が顔を赤くし落ち着かなげに視線を彷徨わせた。
●いつものやつ
「あ……空いたお皿を……集、っ」
もっとも、視線を彷徨わせただけで終わらないのが、零桜奈か。先程まであたふたしていた様を誤魔化すように空になったお皿を移動させようと立ち上がった零桜奈は誰かの足に躓き、つんのめり。
「零桜奈く」
「っ」
蒼香が声を上げようとする中、立ち上がった緋那が皿ごと零桜奈の腕を確保する。とりあえずお皿は割れずに済みそうではあったが、問題は、それ以外。
「ありがとう……緋、わっ」
「「きゃあっ」」
不自然な体勢で堪えきれなかった零桜奈は緋那を巻き込む形で蒼香の方へと倒れ込み、女性の悲鳴が二つ重なる。
「とりあえず、ソファに座っていて良かったですね」
「ごめんなさい……」
「皿は無事ですね、良かった」
結城と満月の子供達が殆ど眠っていたのは幸いと言うべきか。胸を鷲掴みにされ、下敷きになりつつも謝る夫に蒼香は笑顔で応じ、皿を守った代償に服を引っかけられ、胸をむき出しにされながらも緋那は緋那で安堵の息をついていた。
「ん゛ん゛ん゛ーんん?」
くぐもった声は夫の頭を挟み込んだアルゲーの胸の谷間から。
「いつも通りかしらね」
ポツリと漏らしたのは、パンフレットを丸めた翠。
「とりあえず、料理も無事なのにゃ」
蒼香の前にあった魚料理の大皿をいつの間にか抱えつつクロが報告し、自分の取り皿によそってから元の場所に戻す。
「な、何というか慣れがありますね?」
「ん、そんな感じだね」
被害を軽減しすぐさま宴会を再開出来る様子に満月がどことなく微妙な表情をすれば、七葉がこれに同意し。
「で、近況だったよな? 式でも話したけど俺も妻の家で一緒にご当地物産の販売とかしてるんだぜ」
何事も無かったかのように再開される、歓談。
「あとは義理の両親の事業とかのお手伝いも少しだなーそういえば和馬のほうはどうなんだぜ?」
「オイラ? オイラは製菓店に務めてるよ」
自分の事を話し終えた葵に聞かれ、和馬が答えれば、あぁと葵は納得した様子を見せる。
「そう言えば時々ケーキとか作ってたもんな」
「時々『店員のお姉さん』って呼ばれたりするけどね」
「お互い色々あったよな。特に女性に間違えられるのが多かった気がするけど」
未だに間違えられるのは、口ぶりと表情からすると、葵も同様なのだろう。遠い目をする和馬にお酒を勧め。
「そう言えば、アルゲーもこれからは鳥井・アルゲーでいいのか?」
思い出したように問うと、和馬の隣にいたアルゲーが無言で頷いた。
「……私は和馬くんと付き合いつつ加工の仕事をしてます。アクセサリーとかは中々人気がありますよ」
「アクセサリですか? 見せていただいてもいいですかね?」
「……いいですよ」
そのまま話題がアルゲーの近況に移ったのは、ごく自然な流れであり。七波のリクエストに応えてアクセサリーを取ってきたアルゲーはテーブルに作品を置くと、夫の隣に戻ると押し付けるように育った胸をその腕を抱く。
「……あとは和馬くんと一緒に色んな所に旅行にも行きましたね、一緒に回れるとやっぱり幸せです」
「うん、熱々で金属も融けちゃいそうですね」
「うんうん、一緒に居られることはとても素敵なことだよね」
七波がカメラを片手に冷やかす一方で、七葉はにっこり微笑み、ちらりと視線で兄を一瞥した。兄のイタズラをお仕置きする様子は蒼香も見ているので意味はだいたい理解でき。
「二人が結ばれて本当に良かったわね。蒼香さん達のほうは特に心配してなかったけど仲睦まじいようだし」
アルゲー達から自分に向けられた翠の視線に蒼香は苦笑する。
「私? 私は旦那様と一緒に平和な生活かな。とても幸せだよ」
苦笑している間に誰かから話を振られたらしく、七葉は惚気ながら子供が居ることも明かし。
「実は山岳写真家とかやったりしていますよ」
宴会の合間合間にシャッターを切っていた七波は、手にしていたカメラを示す。狼変身できるので登ることが大変なところも楽々なのだとか。
「他の皆はどうかな?」
「クロはあちこち出掛けているにゃね、皆の結婚式や同窓会に合わせて帰ってきたのにゃ」
七葉に話を振られて答えたクロは、思えば遠くに出かけてたものにゃと述懐しつつ先程とは別の魚料理に手を伸ばし。
「仕事は温泉餅の普及ね、最近はスーパーに卸せる様になったわ。あ」
ちょっと得意げに翠は胸を反らすと、ふいに一人の参加者の方を向く。
「そういえば緋那さんも最近は何かあったかしら?」
「私ですか? 一番大きなことは、今日こうして結婚式に呼んで頂いた事だと思いますが――」
受けたわけではないとは言え、求婚もされていたのだ間違いなく大きなイベントだったのだろう。それを除けば何処かで戦う日々だったとか。婚活中だった飢婚者に誘われて合コンという慣れない戦場に駆り出されたこともあったらしいが。
「つ、ツッコミどころでしょうか?」
「本人にボケて言った意図はなさそうだから、微妙に憚られるわね」
満月の言葉に温泉餅店のパンフに視線を落とした翠は微妙そうな表情をした。
●更に先の未来を
「これは甘甘ですかね? かね? ぶっ」
冷やかしモードの七波がツッコミを入れられ、蹌踉めきつつもカメラを守り。
「あ、そういえば見せてませんでしたね、うちの双子の娘の桜香と息子の蒼桜です」
カメラから荷物に入れていた一枚の写真のことを思い出した蒼香は取り出した我が子の写真を仲間達へと見せた。
「わぁ、かわいい」
歓声を上げたのは誰だったか。幾人かが席を立って移動し蒼香を中心に人の輪ができ。
「ところで、皆さんは子供はどうされるんですか?」
結城が疑問を口にしたのは、そんな時だった。
「え゛」
まぁ、幾人かは既婚者なのだ、覚えても無理はない疑問ではあったが、約一名声を上げて凍り付いた人物が居て。
「結城さん、その」
ワンピースを身に纏った満月が躊躇いがちに夫にツッコむ。
「今日が最初の夜だものね」
別の意味で何かを意識してしまったのだろう。真っ赤になって俯くアルゲーの姿を認めた翠はパンフレットを丸めた。
「どうした、和馬、アルゲー? もしも困ったことがあったら言ってくれよ、いつでも手伝いにはいくんだぜ」
二人の様子を訝しみ葵が声をかけるも、酔っているのか二人が何故そうなったかには思い至らないようであり。
「皆のお子さんといつか一緒に遊べると良いですね」
「そうですね♪」
「うん」
既に子供の居る蒼香は夫と共に満月のフォローへ真っ先に同意すると、まだ固まったままの新婚夫婦を見やり。
「どうしたのかにゃ?」
和馬の方に近寄って行くクロを見ておおよそ次の展開を察した。
「にゃー」
「わぁ?! ちょ、あ」
つつくクロ、突かれて驚き、アルゲーの方に倒れ込む和馬。
「大丈、あ」
名誉挽回とばかりに支えに行こうとして、やっぱり足を取られつんのめる零桜奈。
「「きゃぁぁ?!」」
お約束の様な展開にあがる女性陣の悲鳴。
「アルゲーさん、ごめん、えっと……」
「……大丈夫ですよ」
押し倒す形になった夫に謝られるも、怒るどころかアルゲーは少し嬉しそうで。
「……本当にこの時間が幸せですね」
微笑むと和馬の頬に唇で触れ。
「そう言えばあの時も撮られていたんでしたね」
回想から戻ってきた蒼香は二組のハプニングが収められた写真をアルバムへと追加したのだった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:簡単
参加:10人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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