クラブ同窓会~久しぶりの部室で

    作者:聖山葵

    「タイミングが悪かったですかねぇ?」
     部室の戸口をくぐり、紅羽・流希(挑戦者・d10975) はポツリと呟いた。 学校卒業後もOB・OGとして、時間は違えど、学園に用がある時、稀に部室に顔を出していたが、この日もTG研メンバー全員が揃うという事は無く。
    「でしたら――」
     お互いの状況報告と、あの当時、仲の良かった人達も呼んで同窓会を部室にて開くことを決め流希は手紙をしたためることを決めた。
    「あれから10年ですか」
     あの当時から遊んでいるゲーム、自分達が勉強やとめどない会話、ダークネストの戦いの相談をした机、座るたびにギシリと音を立てた椅子、連絡やとりとめの無い一言を書き綴ったノート。
    「本当に懐かしい」
      部室を歩き回れば、細部は変わっていてもふと自分が、学生時代の時、頻繁に顔を出していた頃を思い出す。
    「誰が来てくれますかねぇ」
     やがて部室を後にして帰路についた流希は購入したハガキを抱えて空を仰ぐ。その空には手紙を出す面々の顔が浮かんでいたのだろう。
    「語らおう、10年の時の流れをあの当時の心に戻って」
     帰宅し次第書き始めた手紙の末尾を見て、ほうと声を漏らした者が居た。
    「同窓会か」
    「ええ。あ」
     妻の言葉に頷いた流希は手紙の文面に視線を戻し、思わず声を上げた。
    「あ、差し入れはお酒以外なら何でも受け付けますよ~」
     書き忘れていた一文を追加で書き加えると、筆を置いたのだった。


    ■リプレイ

    ●部室に一人
    「いやはや、はるひさんにも手伝ってもらって料理を作ってきましたが……。皆さん、忙しいのでしょうかねぇ……」
     誰も居ない部室。いつも自分が着いていた席にちょこんと座り、流希は料理を詰めた弁当箱から部室の壁へと視線を移し、一人ため息をついた。
    「とりあえず、隠れてるけど……やっぱり、変わらないな、流さんは」
     いつものように感情の起伏無く淡々と呟きながらその光景を眺めるのは、鎗輔。
    「さて、流希兄ちゃんには申し訳ないけど、ちょっとびっくりしてもらおうか」
     同じ光景を眺めていた登がここまでは予定通りと見て踵を返す。借りていた空き教室へと向かうのだろう。
    「この分なら、うまく行くよね。準備もほぼ終わってるし――」
     そして時は少し遡る。

    ●サプライズのために
    「ご主人にはくれぐれも内密にと手紙を送りましたが」
     良太の視線に座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は委細了解していると答えた。
    「頃合いを見計らって断り無く此方にやって来た。今頃は『そういえば、はるひさんもどこかへ行ったきり、ですよ……』とでも呟いている頃だろう」
    「サプライズ結婚式ですか……良いですね。協力させていただきます」
     壁に背を預けて立つはるひの姿を視界に入れつつ反芻した清美は企画に賛同し。
    「サプライズ結婚式……私達にもサプライズなのだが……」
     梨乃は遠い目をしていた。
    「何の用意も出来てないぞ!」
     続けた悲鳴のような告白が真実なら、無理もない。
    「結婚式場が決まったら、皆さんに招待状を出す予定だったんですが……カリシュウゲンですが……まさかこのような形で挙げる事になるとは……」
     半ば呆然としつつブツブツ呟いているジェフにとっても予想外であったらしい。
    「しかも同窓会の日付けを明日だと思っていた上、詳細聞いたの6時なんですが……」
    「けど、日付を勘違いした部分は僕達の落ち度じゃないような」
     心以外の準備も大急ぎでしなくては行けなかったのだろう、もっとも誰かが指摘したように日付を間違えていたところについてはこのサプライズを考えた面々に責任がなさそうな気もするが。
    「えーと……え?」
     微妙な表情をして片隅で言葉を探していた和馬は不意に肩を叩かれ、振り返る。
    「さて、それはそれとして鳥井君にはこれを着てもらいましょう。なに、最初の余興だけですから」
    「ちょっ」
    「鳥井君、ついに白無垢を着る立場になったんだね」
     笑顔で白無垢を差し出す良太に顔を引きつらせるも、それが確定事項のような口ぶりの鎗輔に挟まれており。
    「さ、挟まれたらひっくり返って白無垢を着るのが決まりですよ。TG研だけに」
    「人間TG?!」
     驚愕する和馬に良い笑顔で近寄る良太はまだ気づかない、同じく良い笑顔で自分の背後に立つ清美と遠心力を乗せるべく手で振り回し始めたブラックジャックを。
    「さて、同窓会です。ちょくちょく会ったりとかもしてたけど、みんなで集まるのは十年ぶりかな」
     痛そうな音と共に出現した残酷映像という名のツッコミシーンをスルーしつつ夕月は周囲を見回し。
    「目一杯楽しみますのでよろしくお願いします!」
    「うん。皆で、手はずを合わせて、驚かせようね」
     参加者達に頭を下げれば、ツッコミ第二号を喰らって突っ伏していた鎗輔もむくりと起きあがってこれに応えれば。
    「それじゃ、花嫁お三方に着替えてもらおっか。オレ達男性陣は席を外すから、後はよろしくね?」
    「ちょ、お三方って何ーっ?! って、あ、オイラも」
     登は良太を回収して部屋の外へと向かい、おそらくは花嫁の一人にカウントされた和馬が白無垢を抱えて叫ぶと慌てて登の背中を追いかけ、退室する。
    「では、はるひ先輩と梨乃ちゃんがウエディングドレスに着替えるののお手伝いをしますね」
    「助かる」
     夕月の宣言に頭を下げたはるひが躊躇いなく服を脱ぎ出し。
    「はあ、先に嫁かれてしまいましたね……」
     どことなく複雑そうな表情で清美は梨乃の前に立った。だが、そんな表情を浮かべていたのは一瞬のこと。無言でウエディングドレスを支えると服を脱いだ梨乃がドレスへ身体を通すのを補助し。
    「梨乃、幸せになるのですよ」
    「お姉ちゃん……」
     沈黙を破った姉の呟きに梨乃の視界が滲む。
    「ありがとうなのだ。安藤君はああ見えても頼りになるのだ。だから大丈夫だと思うぞ。……まあ、家の中が爆発物だらけだが、爆発しても死なないしな」
     泣き笑いに近い表情で梨乃は惚気る。若干ツッコミどころも見受けられたような気はするが、当人が問題なさそうなのできっと外野がとやかく言うことではないだろう。
    「では僕達も着替えておきましょうか」
    「あ、うん……って、着替える?」
     場所は変わって男性陣側、結婚式の神父役があるからだろう促す良太の言葉に反射的に頷いた和馬は手にしていたモノに視線を落として固まる。
    「安心して下さい、気付けも一人では大変かも知れないので手伝いますから」
    「安心出来るかーっ!」
     笑顔の良太に叫んではみたが、止めてくれそうな清美はここには居らず。どうなったかはもうお察しであった。

    ●始めよう
    「やぁ、梨乃ちゃんも綺麗になって……!」
     親戚の様な口ぶりで自身を褒める夕月に桜井先輩ありがとうなのだと梨乃は礼の言葉を口にした。
    「安藤君と、梨乃さんが結婚したのには、驚いたなぁ……」
     着替えも終わって女性陣との再合流を果たした鎗輔は仮祝言を迎える二人を眺めながらポツリと呟くと清美に向き直る。
    「秋山さん、竹尾君と、富山君、どっちがよさそうかなぁ?」
     言葉足らずな問いだが、状況を考えれば何を言いたいかは明白であり。
    「私は結婚出来そうにないですね」
     短い沈黙を挟んで答えた清美は誰にも聞こえないように呟く。
    「私達3人の関係はこのままが一番だと思いますので」
     と。
    「ふむ、深いな」
     ひょっとしたら鎗輔の問いは遠回しなプロポーズでもあったのではないかと考えた誰かが一連のやりとりを眺めて唸ってもいたとかいなかったとか、ともあれ。
    「さて、これ以上、待たせると流さん、凹み過ぎて立ち直れなくなりそうだから、そろそろ、出ていこうか?」
     清美の答えを聞いた鎗輔はドアの隙間から流希の様子を確認すると仲間達に提案し。
    「……仕方がありません、片付けて帰りましょうか……?」
     青い背もたれのパイプ椅子を引き、流希が立ち上がったのはそのすぐ後だった。
    「「紅羽先輩」」
     ただ、立ち上がったばかりの流希はドアを開けて入ってきた面々の声にの動きをとめ。
    「……おや、皆さん……? それに、はるひさんまで……?」
     突入してきた面々を見回して見つけた妻は、無言でサバト服の良太を示し。
    「紅」
     何か言おうとしたところで清美が張り倒す。ある意味様式美であった。
    「あ、安藤さんに、梨乃さん、ご結婚、おめでとうございますよ……?」
     もっとも、一連のコントでは意図が伝わらなかったのか、流希は倒れた良太から他の面々に視線を戻すと一組の男女を認めて祝福の言葉をかけ。
    「あの、富山さん、秋山さん、その、はるひさんは何故、ウエディングドレスを……? 桜井さん、これは一体どういうことなのでしょうか……?」
     怪訝そうなまま三者に尋ねれば、起きあがった良太は花嫁衣装を身に纏う人物の後ろに回り込み背中に手を置く。
    「え? え?」
    「紅羽部長、TG研メンバーを招かずに結婚式を挙げた罰でっ」
     慌てふためく白無垢姿の和馬を差し出そうとしたところで再び震われたブラックジャック。
    「わっ」
    「大丈夫か、白無垢のお嬢さん? 今夜は俺とパーリナィ……って鳥井じゃねーか!?」
     中途半端に押されて蹌踉めいた和馬を支えた誠は流れるようにナンパに移行しようとして、角隠しの下の顔を見てツッコんだ。
    「まぁ、色々と拙いよね鳥井君は人妻だし」
    「誰が人妻ーっ!」
    「あ、お初目にかかりますよ、砕牙さん……えーっと、鎗輔、これは一体……? 何故、私の結婚式の時の衣装を持ってるのでしょうか……?」
     清美のツッコミが追いつかないカオスな光景の中、流希はひとまず初対面の誠に挨拶してから鎗輔にも質問をして、直後に問う相手を間違えたと悟る。鎗輔の後ろには良い笑顔の清美がブラックジャックを構えていたのだから。
    「竹君……? 説明を……? 一体、どういう事なのでしょうか……?」
    「オレと良太はあの場に居たから見てたけど、その後は手紙だけってひどくない?」
     条件反射的に逆らってはいけない方の眼鏡の人に土下座しかけるのを堪えて尋ねる人を変えれば、登は開口一番に非難しつつも、説明する。
    「だから、こっちで結婚式を用意しようと思ってね。序でに式場が見つからないと言ってるジェフと梨乃さんのもやるよ」
     そんな説明が終わるが早いか、ウクレレの音が零れた。
    「まさかはるひちゃんが紅羽と結婚していたとは……。フッ、失恋ダンディになっちまったな? だがイケメン☆忍者はクールに祝うぜ!」
     宣言と共に何やらポーズをとった誠の手には先程の音の元となったと思しきウクレレがあり。
    「お~めで~と~う~♪ 安藤と梨乃ちゃんも結婚おめ~で~とう~♪」
     同窓会と結婚式の始まりを告げるかのように誠は歌う。
    「じゃあ、流さんは着替えてきてね」
    「「あ」」
     ただ、式の開始はある意味当然な鎗輔の言によって流希の着替え後までお預けとなるのだが、新郎だけ普通の服ではおかしいので無理もない、だが。
    「じゃ、今の内に部室を飾り付けてしまおうか。流さんが居たからここは手が付けられなかったし」
    「そっか」
    「成る程」
     鎗輔の言わんとすることを察した参加者達はそれぞれ飾り付けの作業に移るのだった。

    ●テイク2、あるいは本番
    「改めておめでとう! 流希兄ちゃん、はるひさん。ジェフ、梨乃さん」
     最初に口を開いたのは、登だった。
    「紅羽先輩、はるひ先輩、改めておめでとうございます。とても綺麗ですよ、はるひ先輩」
    「はるひ先輩お綺麗です」
    「ありがとう」
     これに清美が続き、ほのぼのとした様子で賛辞を送る夕月も含めた二人分の言葉にはるひは笑顔で応じる。
    「紅羽先輩、はるひさん。おめでとうございます。そして皆さん、ありがとうございます」
    「先輩方、このような場を用意してくれて感謝なのだ」
     ジェフもまた先輩夫婦を祝いつつ礼を言い、梨乃も参加者達に頭を下げ。
    「では始めましょうか。紅羽部長とはるひさんからでいいですね?」
     着替えたのか下に着込んでいたのか、いつの間にか神父の格好になっていた良太が前へと進み出る。
    「新郎新婦は前へ」
     声をかけられ、従ったのは、流希とその妻。参加者達が見守る中、永遠の愛を誓った流希ははるひのヴェールをまくり上げ、唇を重ね。
    「紅羽先輩、はるひ先輩。とてもお似合いなのだ」
     自分達の番を待っていた梨乃は拍手を送る。いや、梨乃だけではない。
    「どうぞ末永くお幸せに!」
     夕月も声をかけていたし、他の参加者達も口々におめでとうと祝福を送り。
    「安藤君。梨乃をお願いします」
    「はい。秋山先輩……お義姉さん。必ず梨乃さんと一緒に幸せになりますよ」
     いよいよもう一組の番が迫る中、清美の声に力強く頷いたジェフは梨乃に手を差し伸べる。
    「行きましょう」
    「うむ」
     梨乃がジェフの手を取った時、流希達はもう参列者側へと加わっており。
    「梨乃さん、綺麗ですよ。まさか僕がこんな美人の嫁さんを貰えるなんて……」
    「私こそ、こんな良い旦那さんが見つかるとは思ってなかったのだ。これからも宜しくお願いするぞ」
     足を止め向き合って見とれるジェフに梨乃は笑顔で言う。
    「ダイスロールでチェックとか、ボケも思いつかないわけではありませんが」
     普通に神父役を務める良太の前で、もう一組の夫婦も愛を誓い。
    「では、次は鳥井君のば」
     最後まで言い終えたり、指名された和馬が何らかの反応を見せる前に神父はブラックジャックの一撃で床に這う。
    「同窓会というか、このあと披露宴的にご飯食べながらお話しとかするのかな?」
    「たぶんね。もっとも、ボードゲームを広げた上に料理は並べられないかな」
     敢えてそちらを見ないようにしつつ確認する夕月に鎗輔が首肯して見せつつ補足し。
    「では、こちらへ。自分と清美ちゃんで色々手配しておきましたから」
     やがて一同はは料理が用意された空き教室こと露宴会場へと移動する。
    「「乾杯」」
     夕月の音頭でグラスが交わされ。
    「名古屋名物、ウイロウいかが?」
     すかさずご当地なお菓子を勧める鎗輔。
    「まぁ、それで終わらないのがTG研だよね」
     食事が終われば、一行は部室に戻ってくる。ある意味でここからが本番なのかも知れない。戸棚にしまい込まれた沢山のゲーム。
    「ここで過ごすのも、なんだか、久しぶりなようなって、考えてみれば、暫く来てないや」
    「みんなでできるパーティ用のボードゲームにしますかね。何が良いかなー」
     鎗輔が天井を見上げ、周囲を見回す一方で、夕月はガラス戸を開け中を物色する。
    「あ、僕、カードゲームを持って来てますが」
     そんな夕月の背に声をかけたのは、ジェフで。
    「じゃあ、まずカードゲームにしよっか?」
     夕月が遊ぶゲームを決める前だったこともあり、一つ目のゲームはジェフが持参したモノになり。
    「このタイミングでそのカードは……」
    「容赦ないですねぇ……」
     場に出されたカードを見て顔を引きつらせた登の横で流希はポツリと漏らす。
    「まさか倉槌さんにもっていかれるとはなぁ」
     招待状を送った登もこの展開は予想外だったか。
    「しかし、竹尾も富山も俺に負けないぐらいのイケ☆メンになりやがって! 桜井も相変わらずの癒されオーラだな♪ おっと、一枚引くぜ」
     場に出せないカードを扇状に広げた誠は参加者達に話しかけつつ山札に手を伸ばし。
    「そんじゃ、コイツを出し――」
     引いたカードを場に出そうとしたところでたまたま目があったのは、反対側に座っていた清美。
    「秋山は相変わらずささやかな胸……何でもないぜ?」
    「そうですか、胸があるはずの所に何もありませんか」
     言葉の途中で慌てて取り消し震える誠を前に清美は笑顔で。
    「待って! そんなこと誰も言ってないから?! 富山、助」
    「すみません、ボケ役で通すつもりでしたが、ゲームは真剣にやりたいので」
     溺れる者は藁をも掴むというか、たまたま視界に入ったことで助けを求められた良太は笑顔で謝ると、場にカードを出す。
    「あ、えっと『しばらくお待ち下さい』的なボードを用意しますね」
    「桜井も待って?! それ、何の解決に゛」
     次に視線を向けられた夕月は何やら作業を始め、完成したボードによって声の途絶えた誠が隠される。
    「えーと」
    「さて、そろそろ他のゲームにしましょうか」
     ボードの裏の残酷映像に何とも言えない表情をした誰かごとスルーして良太は戸棚からゲームの箱を取り出し。TG研らしい同窓会は続く。おそらくはゲームの展開であがる笑い声や悲鳴に包まれながら。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
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