「うわあ、ひろーい!!」
神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)はあまりにも広大な豪邸のただ中で、わくわくと心を躍らせた。
「どこに隠れるか迷っちゃうねー……皆はどうする? 時間は10分間。早く決めないと鬼が来ちゃうのよ」
10年ぶりに再会した仲間たちを振り返り、結月は照れたように笑った。
「まさか、同窓会で目隠し耳栓して強制拉致されるとは、思わなかったけど。さすが獅之宮家の財力……! ほらほら、急ぎましょ? ルールは簡単。参加者は10分以内に隠れ場所を探して、20分経過したらそこを移動するかしないかを選べるのよ。ただし、階の移動はだめ!」
獅之宮本家のどでかい豪邸の前に腕を組んで仁王立ちした 獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)は、特注の金棒を手にきらきらと目を輝かせている。
「あと1分……! 手加減なしでいくぞ!」
隠れ場所は地下~2Fまで、見つけたら即ケツバット! ほどなく規定の10分が過ぎ去り、かくれんぼの開始を告げる一発の銃声が敷地内に響き渡った。
●獅之宮邸地下にて捜索が始まるのこと
「にゅふふ、この感じ久々で楽しいなー!」
獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)はぶんぶんと特製バットを振りながら地下に続く階段を降りようとして――踊り場にいた烏丸・伴(ブラッククロウ・d04513)をさっそく発見した。
「……」
「あ、いや、号砲でうっかり俺を撃とうとした玲を捕まえようとしてたら逃げられて……ばたばたしてる間に隠れそこねたっていうか――」
「1人目見つけたぁー!! はいドーン!」
「痛ってぇぇぇ!」
遠くで聞こえた悲鳴に、シアタールームでばったり行き会った夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)と白木・衛(ふしぎなホイル焼き・d10440)が同時に顔を上げた。
「誰か見つかったのか? やっぱ堂々と映画なんて見てないでカーテンの代わりになりそうなもんでも探して隠れるか……猫、お前はどう思う?」
だが、ウイングキャットは他人事のように尾をぱたぱた振るばかりだ。
「勝手にしろ? マジかー」
「まあ、ここは俺に任せて下さい。こうやって、子猫動画をくるりさんが入ってきたら流れるようにセットして、と……ん? うまくセットできないなこの機器弄ったことないタイプで」
ごそごそとタイマーをセットしているうちに間違って再生が始まってしまう。
(「か、かわいい……」)
思わず見入ってしまった衛と治胡の背後で扉が開き、特製バットを手にしたくるりがにやりと笑った。
「うわぁぁぁケツはいややぁぁ!!」
その時、トレーニングルームに置いてある機器の陰でうたた寝していたストレリチア・ミセリコルデ(白影疾駆の呑天狼・d04238)はふと目を覚ました。
「ん……なにやらものすごい断末魔の叫びが聞こえたような……それにしても、このいかにも高そうな器具……筋トレなんかしたらさぞかし楽しいでしょうね。でも今はかくれんぼ中ですし、我慢しなければ! でもでも……! そうだ、もし10分経っても鬼が来なければその時は移動する代わりにちょっとだけ筋トレなんかしちゃっても構わないのでは?」
ガラッ! とその時、トレーニングルームの扉が開いた。
「あ」
「見つけたぁー!!」
スッパァーンッッ!!
『いぇい、コトネだよっ♪ 今日はお友達とかくれんぼ!』
すぐ近くで次々と皆が見つかっているとも知らず、若葉・杏子(あんこのだらだらシンデレラ・d16586)は完全装備で貯蔵庫の棚の隙間から生放送配信中。
『どこにいる? ってだーめ、ないしょー♪』
唇の前で愛らしく人差し指を立てる彼女の前に、凶器を持った鬼がふらりと近づいた。にこにこと微笑んだそれは、カメラの前で凶行に走る――!
「ひゃっ、やば、放送事故――!?」
慌てて逃げるも、ケツバットの被害者――4人目。
●そして1階へ鬼は駆け上がる
「壷の中には誰もいなかった! よし次はクローゼットだな」
テンションがさらに上がってきたくるりは目を爛々と輝かせて1階のクローゼットを開いた。一着ずつ服をよけて奥まで覗き込む。
「どこだどこだー?」
「う、ひゃっ、くすぐった、ふふっ」
「む! 誰かいるぞぅ!?」
「僕はコートの妖精。爽太じゃないよ」
「見つけたぁー!!」
「ああっ、せっかく涙をのんでひらりさんと別行動までしたのに!」
コートの中から転げ出たのは間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)だ。気持ちよくケツバットをお見舞いしてから、くるりは「はて」と首を傾げる。
「他のクローゼットにも誰か隠れていた気配はあるのだが……もう探し始めて10分か。どこかに移動したのかもしれないな」
あとは、とくるりは広い浴室に向かった。
そこでは、一人の使用人が一生懸命に浴室の掃除をしている。
「なんだ、掃除中か。ここに誰か入ってこなかったか?」
「は、はい~。誰も見てませんよぉ」
「なんか聞いたことある声だな」
「ち、違います」
「んー?」
「ああっ!」
使用人室で借りた服を着た榊・くるみ(がんばる女の子・d02009)は、くるりに帽子を取られて小さな悲鳴を上げた。
「あらら、見つかっちゃいましたか……えへへっ♪」
ケツバットされたお尻を撫でつつ、照れ隠しのように舌を出して尋ねた。
「せっかくなのでついていっていいですか?」
「もちろんだ。次は二階にいくぞぅ!」
お供を連れて、鬼は進撃し続ける。
階段を身軽に駆けあがると、そこには西洋鎧の置かれた長い廊下が広がっていた。
●2階――暴かれる過去と本の匂いの夢現
「……これは、いけません」
ちらかり放題のくるりと沢崎・虎次郎(地獄の厨師・d01361)の部屋を片付けてから、カーテンに包まる星野・華月(雪むすめ・d04395)の足元がちらっと覗いている。
「そこだ!」
「えっと……えへへ」
誤魔化すように微笑みながら後ずさる華月ににじり寄り、くるりは特注バットを振り回す。
「片付けてくれた礼に優しくドーン!」
「きゃー!」
「ふう。後は例の鎧と書斎とトイレだけか」
ぽんぽんと特注バットを手のひらに打ち付けながら、くるりは二階全域に聞こえるような大声で廊下を練り歩いた。
「恥ずかしい話をします! とらじとーりゅーじはー小学校の頃ープールの時間にーパンツ」
「待ってちょっと何言ってんのやめてその思い出はダメやめてほんと無理無理無理!」
幼馴染の口から喧伝される思い出暴露話の前に、鎧を着込んだ芹澤・龍治(愛に生きる男・d05256)がたまらずその正体を現した。
「りゅーじ、本当にその鎧の中に隠れるとはな!」
「ああ、予想外にきついから脱げなくなったらどうしようかと思った。コレ800万って聞いたけどマジ?」
「壊したら弁償で年収が吹っ飛ぶレベルっすなぁ……実際入ってみると息苦しさ半端ないっすわー。あっさり見つかって命拾いしたかも」
兜を脱いだ虎次郎は汗をぬぐいつつ、最高に邪悪な笑みを浮かべるくるりの前に絶望を味わった。昔と変わらない笑顔はもしかして、成長していないといった方がふさわしいのではないかというあながち間違いとも言えない想いが脳裏を過ぎる。
「虎……逝くか……」
「おう、逝く時は一緒っすよ……」
がしょん、と鎧の擦れる金属音を立てながら並んで後ろを向いた二人のケツにくるりバットが容赦も慈悲もまるでない連続炸裂。
一方、書斎では――。
「じゃあ、元気でね、生きてたらまた会おう」
「生きてたら、か……物騒だけど一理あるな。それにしても獅之宮の人間はここに住んでる、のか? どこに……?」
別の場所へと移動するグロード・ディアー(火鷹の目・d06231)と別れた雨宮・莉都(勿忘草・d01995)は、行き会った日渡・千歳(踏青・d00057)に会釈されて軽く頭を下げた。どうやら、書斎には結構な人数が集まっているようだ。
(「さすが大富豪の書斎、珍しい資料がたくさんある」)
同じく、千歳も目線にあった稀覯本を壁際に座り込んで読み耽る。さっきまでいたはずの両角・式夜(絞首台上の当主様・d00319)はいつの間にか姿を消していた。
「はっ、つい読み耽っちゃった!」
今何分、と時間を確かめようとした神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)は、慌てて頭を上げたせいで隠れていた机の下にゴンッとぶつかってしまう。
「大丈夫か?」
「う、うん……って、くるりちゃん!」
そこには、足音を消して近づいていた鬼がにっこりと笑っている。
「て……、手加減してね?」
「はいドーン!」
「……い、いたぁい!!!」
「次次次次ぃ!!」
「うわ、せめて手加減とか……痛い」
「………ええ。隠れんぼ、だったわね。目先の好奇心に負けた罰、ひと思いにどうぞ」
近くの書棚の影にいた莉都と千歳が相次いで発見、即ケツバットの犠牲者となる。まだいるはずだ、ときょろきょろ辺りを見回したくるりの視界に大きなおしりがカットイン。
「はあはあ、この恋愛小説すごい嵌る!! 私もこんな恋愛したかっ……ひいぃ!?」
天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)は慌てて目の前にあった机の下に隠れるも、まさに頭隠して尻隠さず。
「ふふふ、覚悟ー!」
「ちょ、タンマ、おとーさんまってまってまってひぎいぃぃ!!!??」
気持ちよくケツバットをお見舞いしたくるりは最後に2階のトイレを覗いて誰もいないことを確認してから、「ひーふーみー」とこれまでに見つけた人数を数えあげた。
「あと7人か、意外と残ってるな。もう一度地下から順に見回ってみるとしよう」
「うう、給仕手伝いとしてお供します……見つかった皆さんはリビングですよね?」
だが、ひらりがリビングでお茶を振る舞う間、くるりは下から上までさっき探したところを再び確かめていくものの新しく見つかる者はひとりもいない。
●勝者は何処
「おっと、いけない。かくれんぼ中だし、人の家を勝手に撮るのは駄目だよね」
職業病でうっかりバルコニーからの風景を撮影していた青海・竜生(青き海に棲む竜が如く・d03968)は我に返って顔を上げるが、鬼の気配は既に別階へと消えていた。
「これは、もしかして逃げれた……? プロポーズの神様が味方してくれたのかな」
「い、生き残ったのか? よっしゃー!」
同じく、見晴らしのよい絶景に惹かれてバルコニーに身を寄せていたグロードが昔のように破顔一笑して喜びを表した。
「え? 逃げきれたの?」
最初に隠れていたクローゼットから移動して使用人部屋のベッド下にもぐりこんでいた水沢・安寿(かはたれどき・d10207)は、隅っこで猫のように丸まったまま身じろいだ。
「どうやら、そのようですね」
隣のベッドの下から、菊月・笙(神さまの愛し子・d23391)がそろそろと這い出しながら呟いた。周りにはクローゼットに隠れていた時に持ち出した服や袋がカモフラージュに落ちている。
「いやー、意外と行けるもんだな」
ベッドの上で寝転がりつつ、書斎から持ち出した本を読んでいたのは式夜である。彼はのんびりと伸びをして勝利の余韻に浸った。
「お、終わった、のかな? やったね、玲ちゃんっ」
芹澤・夢(虹色パスカル・d08286)は一緒に隠れていた大水池・玲(終末大蛇・d07163)と手を取り合って喜んだ。
「地下のおトイレなんて、ドア開けたらすぐに見つかっちゃうけど。探しにこない可能性に賭けてよかった、ね」
「ふふ、久しぶりに会えた親友の夢ちゃんとまたこうして馬鹿騒ぎに興じられるのは昔に戻ったみたいで楽しいですね」
集合場所のリビングに向かいながら、夢は嬉しそうに頷いた。
「うん。股旅館の頃は毎日お祭りみたいで、寂しかった時間を埋めてくれた大切な場所だった。だからこうして大好きな玲ちゃんに久しぶりに会えて本当に、嬉しい。これからも宜しくね、玲ちゃん」
「私も夢ちゃんがお友達でいてくれて、とても嬉しいです。これからもよろしくね」
●いつまでも残るもの
「はい、今から撮りますよ」
記念写真に参加して下さる方は庭に集まってください、という竜生の呼びかけに応じた伴は行き会った夢の耳元で意味ありげに囁いた。
「お、夢ちゃん。今日はアキラと一緒に出掛けるって言ってたっけ。帰りは遅くなる?」
「はい、今日は少し遅くなりますけど、伴さんもでしょう?」
「ま、近い内にお前等にも話して……いや、招待してやるさ」
首を傾げる夢に伴は悪戯っぽい笑みを浮かべ、小箱を取り出す。中身は――指輪だ。光り輝く、たった一人のための。
「股旅館が始まりでこうして色んな人と知り合えた。昔みたく一緒じゃないしこれからも変わっていくんだよな」
伴と莉都に挟まれて、グロードはしみじみと呟いた。
「……とりあえず、皆にまた会えて良かった」
股旅館で過ごした期間は濃厚すぎて胸焼けすら起こしそうで。友人も相棒もそこで得られたことを想えば、莉都には感謝の念しか浮かばない。
「ちゃんと全員いるのかしら。減ったり増えたりしていそう」
千歳のつぶやきはさもありなん。
「ボクも混ざっていいんですか? ありがとうです♪」
ざわざわする仲間達の中ほどに囲まれて、くるみはわくわくとこちらにレンズを向けるカメラを見つめた。
「ゆっきーってば、今なにしてんの?」
「あのね、服飾を勉強して、今は大人ガーリーなブランドのデザイナーなのよ!」
「へー、いいな。あたしももっと仕事とらないとなー。でも面倒ー」
結月と杏子はお喋りしながら記念写真の列に加わり、爽太はひらりの肩を抱き寄せて満面の笑顔。霊犬のお藤もお行儀よく式夜の前にお座りしている。治胡の猫が少し拗ねたようなのは「バットなら猫に幾らでもどーぞ」という冗談を根に持っているのかもしれない。
「竜生ちゃん、素敵に撮ってね」
愛しい結月の呼びかけに、竜生は勿論と頷いた。
「それじゃ、またたびー!!」
「大好きです。またたび」
衛の合図に合わせて華月が勢いよくくるりに抱き着いた途端、シャッターが切られる。
何でもかんでも無茶苦茶だけど、それでも走り切れたバランス良すぎな面子の再会。
(「……私が一度も闇に染まり切なかったのは、この写真の景色のおかげ。どうか末永く、よしなに――」)
楽しげに前列でピースするストレリチアの胸の内に郷愁にも似た感情が湧き起こる。
(「出来たら額に入れてリビングに飾ろう」)
楽しみだな、と安寿は自然と頬が綻んだ。いきなり拉致されても「あぁ、またか」と思えてしまう股旅館の不思議な魅力は、十年経っても色褪せるどころか鮮やかな思い出となって一枚の写真に収められたのだった。
作者:麻人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:簡単
参加:22人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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