海にほど近い和風旅館に宿をとった『 Fly High』ご一行は早速こぞって浜辺に出た。
それぞれが挨拶などを交わす中、
「これからどうしよう、開会式とかするのかな?」
「それなら部長に何か言ってもらわなくちゃだな」
「部長、一言お願いしまぁす」
アメリア・イアハッター(ロマン求めて空駆けよ・d34548)が部員の前に押し出される。
海を背に、コホンと咳払い一つしてから、昔と変わらぬ笑顔をみせる。
「皆、元気にしてた? あの闘いの日々から早10年! 世界は確かに平和になったよね」
彼女の言葉に部員たちが頷く。
「でも、それぞれが自分の人生を進む中で、学生の頃感じていた何かを忘れてはいないかな?」
各々があの頃を振り返る。仲間……友情……BBQ……大空……カタパルト……。
「そう思ったので皆で夏っぽいことをやることにしました。Fly Highの恒例行事、夏合宿、ここに開幕を宣言します!」
ワアーッと歓声が上がった。
「イベントはとりあえず、三つ考えてみたよ、他にもアイデアがあったら言ってくれていいからね」
アメリアは指を三本立てながら、話を続ける。
「一つはBBQ。皆で好きな具材を持ち寄って焼いて食おう! 何でもOKの闇鍋ならぬ闇BBQ! それと夜は花火大会。線香花火でも手持ち花火でも打ち上げ花火でも、とにかく楽しもう、カオス上等! そして、この海」
彼女は両手を広げてみせる。
「貸し切りだから海水浴もマリンスポーツも自由にできるよ。それに勿論、学園祭でも開催したカタパルトで大海原に向かってFlyHigh! もね」
アメリアはそういって、再び皆に笑いかける。彼女が背にしてるのは輝くばかりの青い海。それにFly Highに良く似合う青空だ。
●
「フハハ颯爽とシケンヤ参ッ上ッ!」
「キャプテンOD、参上ッ!」
決めポーズの綴と和守。綴はヘルメット姿に海パンだが、和守はフル装備。任務は子供達の面倒やパラソルの為の穴あけやBBQの準備や裏方仕事。
「少年も手伝うか。では水を汲んできてもらおう!」
「了解」
指示を与えたり荷物運びをしていると子供が声を上げる。
「OD、煙が出てる! おーばーひーとで爆発?」
「違う、これは湯気が……暑い!」
堪らずアーマーパージ。綴と同じ姿に。
「海行っていい?」
幼子が綴に尋ねる。
「一人では危険だッ! だがBBQの準備が」
「俺が連れてく。一緒に行く子いるかな?」
ライの言葉に何人かの手が上がる。
「小さなお友達の皆ッ! その前に準備運動。ライさんも一緒にッ!」
「これや! これに魂惹かれて私は翔んだんや」
カタパルトに飛びつく枢。発射台へ。高所恐怖症故、半泣きで足も震え。
「あの時に感じた風を」
ズドン!
「って、眼鏡メガネーっ!」
響く枢の声。
「揺れるー」
「暴れんな。ロングボードだから大丈夫、今日は波に慣れる位で十分だよ」
宗田は澪を乗せ、波乗り指導中。合間に海上からカタパルト組の救助や眼鏡や水着を拾ったり、澪の防水カメラで浜辺の皆や射出を激写したり。
「現像したら送るからね。もう少し寄れる?」
「了解」
浜辺では深香が二人をカメラで撮影。
「姉さん、鬼ごっこしよー」
「日焼けは?」
「対策してる。アイドルですもん。鬼は僕ね、タッチ! 切り返しは無しだよ」
「即、俺が鬼かよ、待て」
「わたしも参戦なの」
里恵が深香や澪に水をかける。
「えへへ、どうだー……なのっ」
「わぁっ!?……やったなー!」
水遊びの後、里恵はカタパルトに。
「先輩のカッコいい所を見せるのっ……待って! こっちは海側じゃなくて陸向き」
射出。何とか着地!
「皆との夏合宿は10年ぶり、まだまだ思いきりはしゃぐよ!」
国臣とオリヴィアも。
「学生の頃は合宿は来ず終いだったな」
国臣が乗り込み大空に! のはずが、射角不足、海面を平行に飛んでいき水切りショットに。続きオリヴィア。こちらは逆にやや上向きすぎ。ドボン! 凄い勢いで海に着弾し巨大な水柱。苦笑する。
「水着で正解でしたね」
「カタパルト用意していたのですね、おねーちゃん」
「当然よ、のんくん」
折角だ、10年ぶりになろう。千の風に! 射出! 望は軽やかに飛ぶ。
「ふふふー♪ 風がー気持ちーいいのですー♪」
「元部員としてお手本って、仕方ないわね……や、今はちょっと待って、水着の紐が解」
耀の射出姿に笑い転げる玲奈。
「玲奈。あなたも行くのよね?」
「うん、久し振りに空を飛びたいかな?」
普段、心の病に対峙する医療者だが、懐かしい人々といる今日は。玲奈は後先考えずカタパルトで飛び、思い切りはしゃぐ。
BBQは美味しそうな肉野菜から、名状し難い何かまで様々。
十十十は水着にパーカー左手の缶ビールを呷り右手はトングで焼き担当。
「海に行かないの?」
「……海、泳げないんだ。サメ映画見すぎた後遺症でさ」
サメでは仕方ないな。
「はじめまして♪ エリス・フラグメントです。アリスお姉ちゃんが留学中なので差し入れを届けるように言われて来ました♪」
「エリスさんはアリスさんそっくりですね。是非楽しんで行ってください」
木乃葉が笑顔で。
眼鏡ツインテにすればあの頃のアリスと瓜二つ。
「海ですわ! カタパルトも発見ですわ、とりあえず頭から!」
残暑がズドンと太陽まで一直線!
「エリス様もカタパルトをしませんこと? おススメ致しますわ!」
「やる!」
見事な射出。残暑は浮き輪で彼女に近寄り。
「クイーンの血筋は伊達ではありませんわね! またいつでも遊びましょう!」
静がカタパルト組に手を振りつつ釣りをしている。
「私もご一緒してもよいかしら」
「どうぞ。飛んでいく人間を見ながら平和を味わうのも風流……悲鳴もある? 気のせい気のせい」
「えいっ! 長靴が釣れた? 何なのこの海」
残暑が覗き込み、続きドボーンという音が響く。
「何かすごいでかいのがかかった!」
大きく曲がる竿を静が一気に引き上げる。
「うおお――お嬢様が釣れたわ。残暑さっきまで隣に居なかったっけ?」
「ここで速報。静パイセンがお嬢様を釣り上げました!」
陽司が箸を持ちアナウンス。
「まぁいいや陽司、写真撮って。いえーい」
静と残暑は釣果を携え、
「追加食材だよー」
様々な魚や何か不思議な海産物やら。
「長靴と残暑は駄目だよ」
聖香が言う。
「活きの良い海の幸ね。任せて」
一児の母の耀は黒ビキニの上にエプロンの支度で腕を振るう。
ミサが妙な魚も構わず捌いていく。ついでに。
「シャオさん焼きトウモロコシ出来ましたよ」
オウカは久々の合宿に高揚し一緒に悪戯心も沸き。
「いい感じに焼けてるよ!」
と、怪しげな何かを配るが、耀は、
「変なモノは網に乗せた人が自分で処理するように。オウカさん、はいどうぞ」
笑顔だが有無を言わせぬ威圧感。
「待って耀ちゃん! 口に謎肉を押し付けなみぎゃー!?」
世の中に悪の栄えた試し無し。
「悪戯しちゃダメですよ。変な肉はこうです」
ミサが謎肉を食べていく。以前ラスボスを制覇した彼女である。
枢が取り出したのは。
「肉・海鮮・お好み焼き粉、鉄板もあるよ。お好み焼き作る人、手え挙げてー」
ライがヘラを受け取る。
「これお勧めの日本酒樽」
他にも美味しい日本酒情報募集中という枢に陽司は猪口を持つ仕草、
「枢さんや熱海で旨いそうな地酒見付けてさ、今度どう?」
隙を見て宗田はBBQに。
「樽酒を。俺と澪は早朝現場入りだ。肉が足りなきゃこっちで用意した奴勝手に使ってくれ」
「ふかふかは?」
「私は現場入りが1日前で、車の運転もあるし、お酒は遠慮して。代わりにジュースを……うん残念だけれどツアーの為に準備しておかないと。お野菜も一寸貰うわね♪」
澪と里恵が来る。
「柴崎君。ずるい。あ、そのお肉もーらいっ♪ おいしい、何のお肉?」
「謎肉」
「さてと、また後で強奪に来るんでよろしくな」
「あ、待てー」
澪が走り出すのを見て深香が、
「私も行くね」
彼女のカメラの中には澪のベストショットの数々が既にあるが、まだまだシャッターチャンスはありそうだ。
「久しぶりと言えばカタパルトもだよね如月オウカ! 10年ぶりに行っきまーす!」
「新鮮な林檎持ってきましたー。ってうわ、相変わらず食材カオスですねー」
「……俺もちょっとカタパルトるわ!」
陽司も射出!
「がきんちょよ、コレはアレだ、伝統芸能だ」
アトシュの息子が、これは何かと綴に尋ねる。
「カタパルトとはすなわち『飛べない人が飛ぶための物』…そう考えればなんか良い感じのほら…アレだなッ!」
和守が続けて。
「こうやって使うんだ。ハッチ開け! ガイドビーコン確認、進路良し! キャプテンOD。出撃する!」
ズドン!
「和守さん発射の角度で伸び悩みましたねー」
陽司の適当な解説。
ハッチもビーコンも実際は無く少年がどう思ったのか謎だが、
「空を目指した男達に……幸あれッ!」
綴の敬礼を少年も隣でしていた。
ミサがカタパルトに。
「以前は怖いものでしたが人生経験を積んだ今ならカタパルトくらい大丈夫ですよ。今の私はクールですからね」
射出!
「あああああ!!」
昔と変わらぬ悲鳴。
「おっとミサ今の着水は見事でしたねー」
「望ー、焼き林檎と焼きパイナップルもあるけど、食べる? 焼けたの乗せるよ」
聖香の言葉に、
「食べます! 意外と焼くと美味しい果物、多いのですよねー」
「これも美味しかったから、何かは分からないけどついでに」
「わ、変な物はやめて下さい、野菜か果物で」
「アメリアは? まぁ大丈夫だろう……多分」
「あっきーちゃんの挑戦、受けて立つよ」
「やっぱ…変なもの乗っけるのかよ、お前ら…」
アトシュは子供達に妙な物が渡らないように気を付けつつ木乃葉や、怖いもの知らずの人たちの皿に変な物体を載せる。
「いざという時のヒールは私がしよう。一応酒も控えて普通の物を頂くよ」
国臣が治療を請負う。オリヴィアはBBQの仕事を自らも食べながらこなす。
シャオがアトシュに、
「今回のバーベキューはとんでも珍味あるです? ラスボスとかラスボスとか」
「ラスボス程じゃないが、これ食うか?」
「僕は軽いの、お野菜とかでいいんだけど。あ、ソーセージもいいな……潮風に当たりながらの食事ってなんかいいね、わー飛んでるー」
フライハイする皆を眺めながらソーセージをもぐもぐ食べる。あ、と呟き、クーラーボックスを叩き、
「デザート少し作って来たから、ご自由にここからどうぞ。……子供優先だぞ」
七ノ香も入部した年の10年前のメンバーで来れたのはとても嬉しい…幸ちゃんにも見せたかったけれど。彼女は鉄板上の物々を危険、挑戦、美味と場所分けする。
「子供を危険にはさらせませんから♪ さぁ一段落したし私も」
大人だし平気だと細身の体をカタパルトに。
「きゃぁああーーっ♪」
楽し気な悲鳴。
「白峰さんだ。現役部長の飛行、見ものですね」
木乃葉が笑む。
「現FlyHigh部長、白峰歌音! 現役代表とし進化した飛行を見」
ズドン! セリフは中途だが飛びは見事。
「今飛んだの誰だー? 歌音か? かっこいいな」
「かのちゃん部長の空は、どうだった?」
「すっごく楽しい空になったよ! あー姉!」
興奮冷めやらず。
「ふふ、今日だけはまた私の空にさせてもらうけどね! 飛ぶわよ!」
「あー姉のFlyHighに戻ってきたみたいでワクワクしちゃう!」
ズドン!
「やっぱり空は最高ね! I Can Fly!」
アメリアが手を振る。
賑やかなBBQを横目に教育に悪影響はと心配げなニコを見て未知は笑む。大和がシャベルで砂のお城を作っている。
「大和、屋根はここを……」
「んっ」
時折ニコが手伝う。
「大和凄い! 将来芸術家になれるぞ!」
未知は二人をスマホで撮影しつつ自分も別の砂像を。
「できた。ほーら大和、うさみっち」
べしっ! 間髪入れずにシャベルを振り下す。
「って壊すなー!」
「ぶっ……ハハハって、すまん。子供というのは時に残酷な事をするなあ」
ズドーン!
「見事な飛びっぷりだなアメリア部長」
懐かしいカタパルトの発射音に引き寄せられる思い。
「体が疼く? よし、ここで大和と一緒に応援してやるからパパ頑張って飛んでこーい!」
「とんでこーい」
「よし。未知と大和に格好良い所を見せてやろう」
チセの白のオフショルダーワンピースは睡蓮の髪飾りによく合っていた。食材を焼いたり盛り付けたりする彼女の前にコンテチーズ丸々一個。
「ネニュるん、これはそのまま食べるの?」
「はい、よく熟成されたのをフランスから持ってきました。火を通すとよく溶けるので他の物に合わせるのも良いですよ」
●
「木乃葉よォ花火お前の手製だって? 期待してンぜ」
陽司の言葉に。
「渾身の一作、です」
「この夜空を私達の色で染め上げて、今だけはこの空を私達だけのものにしちゃいましょう!」
アメリアの掛け声に皆が花火を始める。木乃葉が皆の色に合うよう作ったFly Highロゴ入り打ち上げ花火。
ミサは青い花火。
「上を見上げると、あの時と何も変わりませんね。でも隣を見ると、皆さんとても変わったように見えます。そんなこともないんでしょうけどね」
「私の赤い花火。ちゃんと見たのは初めてですけど、花火ってとても綺麗なのですねー♪ また皆で見たいですね」
望の呟き。
「あまり近づいちゃだめだよ」
ライは子供達の面倒を見つつ花火を見る。
歌音は想いを馳せる、昼の事もっと前からのクラブの事。
「もうすぐ私も、次の部長にこの帽子と一緒に全てを任せる時が来るよ。次の部長はどんな空になるんだろうね?」
「気になるなら」
アメリアは言う。
「また10年後も、夏合宿ね♪」
一同の歓声。
「もう帰らなきゃね」
少女は海岸から遠ざかる。髪を変え片眼鏡を付け元の表情に。
「夏合宿は10年後もその先だって続くよ…部長の証のこれも」
赤いテンガロンハット。『ありぷーへ』と書かれた招待状は初代部長の写真立てに忍ばせてあったものだ。
耀の真紅。
「空の曼殊沙華ね」
「耀ちゃんの着物みたい」
玲奈はお酒を片手に空を見、自分の患者である心に傷持つ子供達を思う。
「あの子達にも見せたいな」
「玲奈、お母さんの顔してる」
「独身で子供もいないのに? でも、そうかな……」
「私も次の時は娘も連れてくるわね」
「シャオは何色?」
静が聞く。
「……黒?」
「黒?」
流石に花火は青だった。
「静は?」
「僕はあれ! 黄色か金色か……僕の瞳の色!」
「次は院の皆にもお声掛けしてみていいかなぁ?」
「きっと大丈夫。この関係も、まだ10年くらいは余裕で続くよね」
残暑は白。
「かーぎやー! お空もう滅茶苦茶ですが私達らしいですわね! 10年後もわたくしはお嬢様ですわ!」
国臣とオリヴィアは深い緑と白。
「良い日だったな、今日は10年。どれだけ変わっても変わらん物がある、か」
花火で遊ぶ面々を見ながらビールを呷る。
「あぎとん先輩の息子さんもいい吹っ飛びだったね」
「な、海で遊んでたんじゃないのか」
他の人に呆れてる間に。だが息子に誇らしげに笑い返されたら何も言えない。
「また、これやるのかよ!? 俺は裏方しかやらんからな!」
「たまやー! かぎやー!」
里恵は自分の白い花火だけでなく皆の花火にも。
「10年後…だいぶ先だね。でも絶対行くからね!」
「嗚呼、夢よりもっと綺麗な現実、やねえ」
黄緑だけでなく色溢れる空に、枢は自然と口をついた。
「花火と冷酒は合う……ずっと飲んでんな、僕。玉屋もいいけど、ここは……木ー乃葉屋ー!」
綴は紫。
「あの綺麗な空に混ざる事が出来た、一生の誇りだッ!」
和守は深緑。
「この騒ぎのためなら、また十年頑張れるというものだ」
木乃葉の緑と聖香の黄緑。
「とても良いもの見せてもらったよ。また来れるといいな」
「10年後もまた、こうして楽しい時を過ごしましょう、ボクも腕を上げておきます」
ニコは赤。未知はピンク。
「これが最後か…え、十年後も? いっそ何十年も何百年も続く恒例行事に」
LIVENの澪のオレンジに深香のピンクに宗田の赤。
「皆相変わらずみたいで安心した」
「また集まんなら、スケジュールに空き入れとかねぇと。早めにマネに伝えとくか」
「子供達や後輩と話せる機会、逃せないわよね」
チセは空を見、
「星は10年後も大丈夫と示してます」
「線香花火いかがですか」
七ノ香が配る。輪になり火を見つめる。
「また、来ましょうね」
オウカが夜空を見上げる。この合宿が終われば再び旅の日々。部員の皆にも、それぞれの日々が待っている。彼女は空に向かって伸びし、
「元気補充できたし、これからの旅もがんばるぞー!」
作者:八雲秋 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:簡単
参加:30人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 3
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