クラブ同窓会~再会はいつも笑顔で

    作者:天木一

     サイキックハーツ大戦から10年。一通の手紙が届いた。
    『お久しぶり! 探求部~S.T.R.U.C.T~のみんなで同窓会を開こうよ!』
     守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)から届いた手紙を開けると、10年前に戻ったような気分になる一文から同窓会への招待文が綴られていた。
    「結衣奈さんからの手紙……同窓会か、楽しそうだな、だが私が参加してもいいのだろうか?」
     高校生の頃に比べ少し大人びたスーツ姿の貴堂・イルマ(ヤークトパンター・dn0093)がネクタイを緩めながら手紙を読み進めていくと、追伸に『イルマちゃんも遠慮せずに遊びに来てね!』と書かれていた。
    「ふふっ――結衣奈さんには昔からお世話になっていることだし、参加させてもらうとしよう」
     自分の考えが読まれていることに苦笑しながらイルマは参加することを決める。
    「しかし、場所は温泉か。プールのような施設みたいだが、こういうのは初めてだな……。そうだ、水着。最近泳ぐことも無かったから水着が無いな、新しい水着を買っておかないと」
     灼滅者として各地を飛び回る仕事仕事に追われていた最近の出来事を振り返り、ここらで羽を伸ばすのもいいかと手紙を丁寧に畳んで仕舞い、早速買い物に出かけようと立ち上がってクローゼットを開け鏡の前でどの服を着ようかと合わせる。そこには学生時代に戻ったような無邪気な笑みが映っていた。


    ■リプレイ

    ●クラブ同窓会
     灼滅者達が力を合わせ戦い、勝利を得たサイキックハーツ大戦から10年。『探求部~S.T.R.U.C.T~』の面々が同窓会の会場である屋内型大型スパへと集まっていた。室内は夏の海を思わせる青で天井が染まり、大きな窓から日の光が差して暗さを感じない広々とした空間となっていた。今日は夕方まで貸し切りとなっており、そんな場所を自由に使うことが出来た。そこへそれぞれが更衣室で水着に着替え、浅いプールのような浴場へと姿を現す。何年ぶりに顔を合わすだろうか、成長した友人達を見て顔を綻ばせる。
    「探求部のみんな、久しぶり! 結衣菜だよー、すっかり大人候補です!」
     昔の面影を残したまま成長した羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)が、待ち切れなかったとばかりに元気に大きく手を振る。それと同時に成長した胸も揺れた。
    「はねゆいちゃん久しぶりだね!」
    「もりゆいおねえちゃんもお久しぶりー!」
     先に来ていた守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)と手を合わせ、きゃっきゃと少女に戻ったようにはしゃぐ。
    「久しぶりだなみんな。ほら、お父さんとお母さんのお友達に挨拶して」
     そして夫の秦・明彦(白き狼・d33618)が長女と長男を連れて傍にやってくる。すると子供達は明奈6歳、勇斗3歳ですと緊張しながらもお行儀よく挨拶をする。
    「皆さんお久しぶりです。今日はうちの可愛い子達を紹介しますね」
    「統弥と手を繋いでるのが息子の琉統。この子は娘の沙弥香でまだ0歳の生まれたばっかりよ」
     仲睦まじい夫婦の葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)と志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)が子供を連れて顔を見せる。皆から歳を尋ねられた息子の統弥は3歳ですと自己紹介し、子供達同士の顔見せをする。
    「みんなかわいい!」
     どの子も可愛いと結衣菜はテンションを上げて、こんにちはと屈んで目線を合わせて挨拶をする。子供達もこんにちはと返し、結衣菜は偉い偉いと頭を撫でてあげた。
    「本当にみんな可愛いな……あ、お久しぶりです。今日は誘っていただいてありがとうございます」
     子供達に目を奪われ自分も撫でてみたい手を伸ばしかけていた貴堂・イルマ(ヤークトパンター・dn0093)が、はっと我に返ってぺこりと頭を下げた。多少身長も伸びて年相応に凛々しさの増した姿で、青いビキニの水着姿を披露していた。
    「イルマちゃんも綺麗になったね……。いい人は出来た?」
    「いえ、残念ながら。仕事で飛び回ってるのがいけないのだろうか……私も結衣奈さんのように幸せな家庭を築きたいな」
     結衣奈の言葉に残念そうにイルマが首を振る。そして近況の事を喋り合う。
    「お久しぶりでございます」
     10年前と姿を変えぬ九形・皆無(昏き炎の消える頃・d25213)が懐かしい顔を見せる。
    「皆無先輩は見た目は10年前そのままだ!?」
     その若々しい姿に結衣奈は目を丸くして驚いた。
    「皆さんはずいぶんと変わられたようですね。ああ、そうそう。お誘いを頂きよい機会ですので後で調べた資料をお渡ししておきますね」
     遊ぶ前に仕事の話を終わらせておこうと、世界中を巡りながら神や遺された超機械についての情報を集めた資料の編纂をお願いする。
    「どうも情報を纏めるというのが苦手でして、お忙しいとは思いますが少し手を貸していただけませんでしょうか」
     そう言って皆無は少々困った顔を見せると、二つ返事で任せてと変わらず頼りになる結衣奈は胸を叩いた。
    「しかしまぁ、貴堂さんも綺麗になられましたね。ちょっと吃驚しました」
    「あ、ありがとうございます。皆無さんはお変わりないようで安心しました」
     皆無に褒められイルマは顔を赤くして照れながら言葉を返した。

    ●水鉄砲合戦
    「私はこの子の面倒を見てますね。いい、お父さんの言うこと良く聞いて危ないことはしないでね」
     娘の沙弥香に温泉は早いということで、藍は息子の琉統にはしゃぎ過ぎないように注意すると、娘をあやしながら休憩室の方へと向かう。
     後で交代するからねと結衣奈が見送り、皆で温泉に入ろうとする。
    「同窓会、温泉プールだ! とくれば何故に水鉄砲!?」
     いざ温泉に入ろうとした結衣奈の顔に水が掛けられる。結衣奈が驚いて顔を向けると、ライフル型の水鉄砲を構えた新城・七波(藍弦の討ち手・d01815)がイイ笑顔を見せる。
    「10年たとうが若い心は忘れちゃいかんですよ、偉い人には(以下略」
     言葉を省略して不意を突こうと七波がまた水を飛ばす。
    「なるほど、七波くんに童心は大事だね!」
     その水をステップで回避すると、こんなこともあろうかと結衣奈も用意しておいた水鉄砲で反撃する。
     そんな姿に子供達がポカンとした顔で見上げる。
    「ほら、みんなも一緒に遊ぼう!」
     七波が子供達を誘って子供でも扱えるシンプルな水鉄砲を渡し、喜んだ子供達が楽しそうに水を掛け合う。
     そんな様子を懐かしく眺めながら、遅れて更衣室から出て来た他の仲間達が再会を喜び合う。
    「お久しぶりです、皆さん!」
     渡米してから久方ぶりの再会だと、白地に中央に赤丸のブーメランビキニの神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)が手を振る。
    「すごいセンスの水着だな……」
     明彦がじーっと視線を向けてそんな趣味だったかなと記憶を掘り返す。
    「……ん? この水着ですか? 向こうで部下が餞別にくれたんですよ。……ええ、『部下』です」
     恥ずかしながらと三成が頭を掻きながら説明する。
    「実は私……向こうでESP犯罪者の更生施設の所長をしてるんです。あっちは国土に比べて灼滅者の数が少ないですからね。私一人でもお役に立てれば……と」
    「部下!? って更生施設の所長さんなんだ! 灼滅者だからこその仕事だね!」
     ヒャッハーから真面目くんに!?と結衣奈が驚いて足を止めると、そこへまた七波から水が掛けられた。
    「三成さんは立派な仕事もやってるんだね。10年前は考えられなかった仕事だよねー。私もどういう仕事につこうかな……?」
     社会人として働いている仲間の話を聞いて、結衣菜は自分はどうしようと真剣に考え始める。
    「お一人でそちらに入ったのですか?」
     話しの流れで皆無が気になった事を尋ねる。
    「……ええ、『一人』ですよ。理由は……まあ、今晩にでもお話しましょう。お子さんに聞かせる話でもありませんし……ね」
     微笑んだ三成は水鉄砲に水を込める子供の頭を優しく撫でた。
    「さて、難しい話はここまでにして……俺様も参戦するぜヒャッハー!!」
     童心に戻ったように二丁の水鉄砲を手にした三成が飛び出し水鉄砲合戦が開始した。
    「そうですね。では私も参加するといたしましょうか」
     皆無も水鉄砲を手にすると、追って参戦する。
    「懐かしいな。水鉄砲なら私も少々自信がある」
     イルマも水鉄砲を手に取り、学生の頃のイベントを思い出しながら駆け出した。
    「おねえちゃんも仲間に入れて!」
     子供達の相手をしようと結衣菜も水鉄砲を手に遊びに交じり、無邪気に子供達と水の撃ち合いをする。
    「狙いを付けて引き金を引くんだ。僕も一緒に戦うから大丈夫」
     統弥は息子の琉統に使い方を教え、こうするんだと手本を示そうと戦いに参加し荒ぶる三成の顔に命中させた。だが命中させて注意が逸れた統弥にも横から水が飛び、顔に容赦なく水が当たる。
    「10年たっても油断は禁物ですよ!」
     横から七波が屁理屈をこねながら撃ちまくり、統弥が濡れていく。
    「ええ、その通りですね」
    「ヒャッハー!! 蜂の巣だぜ!」
     そんな調子に乗る七波を、皆無と三成が包囲し責め立て追い込む。
    「こういうときは、逃げるが勝ちです!」
     そう言い捨てて七波は周囲からの反撃に不利になると狼に変身して逃げ出した。それを逃すまいと水が飛び交い、三成と皆無の追撃を躱しノリノリで駆けていると子供達の居るエリアに入ってしまい慌てて急ブレーキする。
    「みんな! この犬のおにいちゃんに向けて撃っちゃえー!」
    「ぐわ~~!」
     そこへ結衣菜と子供達から集中砲火を浴び、七波はずぶ濡れとなってコロンと地面に横になった。
    「よーし、次は俺が相手だ~」
     子供達の相手をしようと明彦がプールから現れ、大きく手足を広げて的になる。
    「そうですか、では倒すとしましょう」
    「ヒャッハー!! びしょびしょにしてやるぜー!」
     すると皆無と三成が水鉄砲を構え、他の仲間達も子供と一緒に銃口を向けた。
    「え? ちょっ子供達の相手でぶあっ」
     慌てる明彦に全方位から水が飛び、全身が一瞬にしてびしょ濡れになる。
    「うわっ~やられた~!」
     わざとらしい台詞と共に明彦はプールの中へと沈んでいき、笑い声が室内に響いた。

    ●休憩室
    「藍ちゃん、わたしもお手伝いするから交代交代で遊ぼうね」
    「ありがとうございます。ちょうどご飯も終わったところです」
     子供の世話を代わろうと結衣奈が休憩室に入り、藍から慣れた手付きで受け取り抱き上げてあやし面倒を見始める。それにくっついて子供に興味津々な結衣菜とイルマもやって来た。
    「藍ちゃんももりゆいおねえちゃんも子供ができて、ホント幸せそうー!」
     目を輝かせた結衣菜は可愛い可愛いと、赤ん坊を眺める。
    「おお、本当に小さな赤ん坊は可愛いな。私も触っても大丈夫だろうか?」
     イルマが尋ねると藍は大丈夫よと頷き、イルマは恐る恐る赤ん坊の手に触れた。すると小さな手がきゅっと指を握り返してくる。
    「まるで天使のようだな」
     イルマはその愛らしい赤ん坊に心奪われる。
    「いいなーうらやましいなー。幸せな家庭ってこういうのなんだー」
     自分もいつかこんな可愛い子供が欲しいと結衣菜は未来の家庭を思い描いて微笑む。
    「うむ、赤ん坊の顔を見ているだけでこちらも幸せな気分になるな」
     イルマも自分もいつかこんな子供を抱いて幸せな家庭を持ちたいなと憧れる。
    「子供を育てるのは大変だけど、それを上回る楽しさがあるのよ」
    「そうそう、産むときなんてすっごく大変だったけど、赤ちゃんの顔を見た瞬間そんな苦労も吹き飛んじゃうから!」
     すっかり母親らしくなった藍が子供の可愛さを語り、結衣奈も母としての苦労と幸せを話し出し、女性4人で話に花を咲かせ、姦しく女子トークが続く。

    ●ゆったりとした時間
     大人達が遊び疲れて子守りを交代しながら湯に入っていると、子供達はまだまだ元気にプールサイドではしゃいでいる。いつの間にか仲良くなり施設から噴き出したシャボン玉を追いかけていた。
    「いやーいいお湯ですねー」
    「ええ、日頃の疲れが消えるようです……」
     捕まってもう暴れないよう拘束された七波がのんびりと温泉に浸かり、隣で三成も気持ちよさそうに湯船を楽しむ。
     温泉に浸かっていた結衣奈は、結衣菜の成長ぶりを確認しようと手をワキワキさせながら近づく。
    「もりゆいちゃん、手をワキワキしてどうしたの?」
    「どれだけ大人になったか確認だよ?」
     ニコリと笑顔でにじり寄る結衣奈に、じりじりと結衣菜が下がるとその背が温泉の壁に当たる。
    「どこを触ろうとしてるの……!? きゃー」
    「これは!? 立派に成長してる!」
     抱きつかれた結衣菜が黄色い悲鳴を上げ、結衣奈はその成長した柔らかな感触に驚きの顔を見せた。
    「ええい、よくもやったな、お返しだよー!」
    「ちょっちょっと待ってはねゆいちゃん……!」
     お返しだと結衣菜がワキワキと手を伸ばし、結衣奈の身体を揉み始め、黄色い悲鳴を上げさせた。
    「こうしてのんびりするのも悪くないですねぇ」
     そんな学生時代からよく見る光景を懐かしく思いながら、皆無も男たちの集まった場所で湯に浸かる。
    「最近どうしてる?」
     明彦が男連中に尋ね、家庭や仕事と男同士で日々の苦労を語り合う。
    「仕事と家事で忙しいけど慣れてくると何とかなるもんだよ。子供達が手伝ってくれるし。なので3人目がそろそろ欲しいんだよなあ~」
     そう言いながら明彦は意味ありげな視線を結衣奈にチラリと向けた。
    「って三人目!? 明彦、ここで答えるのは恥ずかしいよ!?」
     ボンと顔を真っ赤にした結衣奈がわたわたと手を振って顔を隠した。だがその顔は満更でもないように緩んでいた。
    「ほらほら、オモチャを出しっぱなしにしないで、片付けなきゃダメよ」
     赤ん坊を抱いた藍が戻って来て遊んでいる子供達に注意をする。はーいと素直に子供達は放り出していた水鉄砲を拾った。
    「まだまだ遊びたい気持ちはあるが、そろそろ終わりの時間だ。出る準備をしようか」
     その後に続いて赤ん坊の世話の仕方を教えてもらっていたイルマが戻り、落ちている水鉄砲を拾い上げた。その視線が窓に向かうと、既に空はオレンジに染まっていた。楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、終わりの時刻が迫っていた。

    ●笑顔の一枚
     温泉から上がった皆が集まり、名残惜しそうに言葉を交わす。
    「今日は久々に日本に帰ってきて良かったですよ」
     こうして皆の顔を見るだけで元気が出るようだと三成は笑う。
    「そうですね。こうして平穏を感じられるからこそ、それを守る仕事も遣り甲斐があるというものです」
     皆無もまた疲れが吹き飛んだように笑みを見せた。その顔には生気が宿っている。
    「ええ、こんな当たり前の日常を守る為ならば、どんな苦難も乗り越えられそうです」
     頷いたイルマが、遊び疲れた子供達に視線を向け微笑んだ。
    「たまにはハメを外すのもいいものですねー」
     のんびりした調子で七波がそう言うと、いつもだろうと皆からツッコまれる。
     誰も彼もが来た時よりも元気になり、日々の疲れを吹き飛ばして活力を取り戻していた。それは温泉と懐かしい友との再会、両方の効用だった。
    「次に会う時はこの子ももっと大きくなってるから、その時はこの子とも一緒に遊んであげてね」
     藍が赤ん坊を見せると、結衣奈の左右に手を引かれた子供の明奈と勇斗がうんと大きく頷いて、赤ん坊を見つめ返した。
    「これからもよろしくお願いします」
     またこうして集まりましょうと統弥が仲間達に軽く頭を下げると、息子の琉統も真似をしてお辞儀した。
    「こちらこそよろしくだよ! 絶対にまたこうして集まろうね!」
     結衣奈もお返しにお辞儀をし、明奈と勇斗も同じように真似をして、何かおかしい気分になって子供達が笑い合う。
    「みんな今日は楽しめたようだな。それじゃあ最後に記念写真を撮ろうか」
     明彦が用意しておいたカメラを持ってきてプールサイドにセットする。
    「わぁっいいですね! みんなで並びましょー!」
     楽しそうに結衣菜がこっちこっちとプールのような温泉が映る位置に呼んで、子供達も手を繋いだり抱いたりして全員映るように並んでいく。並び終わると明彦がタイマーをセットして列に入る。そして掛け声を合わせようとせーのと音頭を取る。
    『探求部は最高だ!』
     明彦の掛け声に皆も声を合わせ、咲き誇る笑顔が一枚の写真に収まった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:8人
    結果:成功!
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