眠り姫に憎しみを

    作者:篁みゆ

    「新沢くんと一緒だと働きやすくて助かる!」
     君の笑顔が好きだ。
    「背、高いといいねぇ。ひょいって荷物とれちゃうっ」
     君の笑う声が好きだ。
    「ありがと、助かっちゃった!」
     君が僕を見る瞳が好きだ。
     だから、仙夜にだけはそれを向けてほしくなかったんだ――。

     先に知り合ったのは俺だ。高校に入ってすぐ、バイトを始めた時に一緒に入ったのが彼女。一つ下の仙夜がこのレストランに来て彼女に一目惚れしたのは今年の春。だから俺のほうが先だったはずなのになんで……。
    「俺達付き合うことになったんだ」
     そう報告を受けた時の衝撃。バイトの帰りに迎えに来た仙夜に見せる彼女の笑顔は、俺の見たことのないものだった。
     ああ、そうか。なら記憶をいじってしまえばいいんだ。彼女が仙夜のことを嫌いになってしまえば、彼女はあんな笑顔を浮かべなくなる。
     そうだ、そうしよう――。

    「来てくださってありがとうございます」
     灼滅者達が姿を見せると、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は微笑んで頭を下げた。
    「シャドウへの闇堕ちを察知しました」
     通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし彼は元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
    「彼が灼滅者の素質を持つのならば、闇落ちから救い出してください。けれども完全なダークネスになってしまうようであれば……その前に灼滅をお願いします」
     灼滅者の素質を持つものならばKOすることで闇堕ちから救い出すことができる。
    「彼は新沢・冬舞(にいざわ・とうま)さん、高校二年生です。千葉県内のレストランでバイトをしているのですが、バイト仲間の千賀・春子(ちが・はるこ)さんのソウルボードに侵入し、彼女の心を操ろうとしています」
     冬舞には多田・仙夜(ただ・せんや)という一つ年下の幼馴染がいる。冬舞はバイトを始めてからずっと春子に思いを寄せていたが、今年の春に春子と出会った仙夜がいつの間にか春子と付き合うことになった事を知って、大きなショックを受けたらしい。春子が仙夜を嫌いになるように仕向けようとしている。
    「春子さんの心を自分に向けようとせずに仙夜さんを嫌いになるように操ろうとしている……それが良心の現れなのかもしれませんが、逆に仙夜さんへの恨みを晴らそうとしているようにも見えます。真意は冬舞さんしか知り得ませんが」
     小さくため息を付いて、姫子は言葉を続ける。
    「冬舞さんがソウルボードへの侵入を試みるのは、店長が早く帰ってしまって遅番の冬舞さんと春子さんが遅くまで片付けで残ることになった日です。疲れが溜まっていた春子さんは休憩室でうたた寝をしています」
     その時を狙って、冬舞はソウルボードへ侵入しようとする。灼滅者達が踏み込むのは、冬舞がソウルアクセスで春子のソウルボードへ入った直後が良いだろう。
    「ソウルボード内での冬舞さんはそれほど強くはありませんが、バイト仲間の姿を模した配下を二人連れています。二人は冬舞さんを守るように戦うでしょう」
     店の表の入り口は閉められ、ホールの電気は落とされた後だ。入るなら裏口からとなる。休憩室はすぐに見つかるだろう。
    「人の気持ちを操るなんて、やはり良くないことです。油断しなければ大丈夫だと思いますが、説得する場合は彼の気持ちを考えることが必要となるでしょう」
     よろしくお願いいたします、姫子は頭を下げた。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    平・等(渦巻き眼鏡のレッドキャバリア・d00650)
    茶季院・景織子(影城の水蓮花・d01861)
    篠原・朱梨(闇華・d01868)
    夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)
    伊東・晶(中学生シャドウハンター・d03982)
    皇・もこ(アホ毛の王子様・d06015)
    白灰・黒々(無色透明無味無臭・d07838)

    ■リプレイ

    ●あの子の心
     店舗部分の明かりが消えた。裏口からすみやかに店舗に侵入した灼滅者達は急いで休憩室へ向かい、そして春子のソウルボードへと侵入を果たした。
     ソウルボード内はレストランのようだった。見たところ、冬舞達が働いているレストランに似ているように思える。
     その壁に貼り付けられているのは大きく引き伸ばした写真のようなもの。春子の心の欠片、記憶の一部なのかもしれない。冬舞や春子と同じレストランの制服を着た者達の写真が貼られている。その中でも冬舞の写真は比較的大きめで、それだけで春子の関心が強いであろう事が知れた。
     だが、冬舞以上に大きな写真。冬舞以上にたくさんある写真は勿論――。
    「仙夜……」
     灼滅者達と少し距離をおいて冬舞が立っている場所には、仙夜と思しき人物の姿が大きな写真となって映しだされていて。冬舞はその事にショックを受けているのか、呆然とそれを見上げていた。
    (「まったく、呆れたヤツだぜ。相手を貶めれば自分の株が上がるって言うのか? オレはこういう輩が大嫌いなんだ」)
     彼の姿を見て呆れたようにため息を付いた平・等(渦巻き眼鏡のレッドキャバリア・d00650)。
    (「だが、罪は罪として、オレはこのトンマクンを救うつもりだ。叱り飛ばしてでもな」)
     その心には、強い意思が潜んでいる。同じく冬舞を見て物思うのは夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)だ。
    (「失恋は辛いことだけどこんなことしたってもっと傷つくだけなのになぁ……」)
     だから、ちゃんと前に進めるようにしてあげたい。
    「恋は盲目といいますけど……ね」
     呟かれた白灰・黒々(無色透明無味無臭・d07838)のその一言にはいろいろな意味と感情が含まれていて。けれどもあえて多くは語らない。語るとすれば、冬舞に呼びかけるその時だ。
    「冬舞さん!」
     呆然と仙夜の写真を見上げる冬舞の背に、篠原・朱梨(闇華・d01868)が声を投げかける。
    「大好きな人が他の誰かと笑ってる、辛いね、私もそれはわかるの。朱梨も言えない想い、ずっと抱えてるから。痛いほど……よくわかるよ」
     絞りだすような朱梨の言葉に、冬舞はゆっくりと振り返った。まるで灼滅者達がそこにいるのに今しがた気がついたかのように。
    「でも、冬舞さん、こんなやり方はだめだよ。これじゃ、誰も幸せになんてなれない。大好きな人を、大事な人を傷つけるだけだよ」
     痛いほどに気持ちはわかるから。朱梨はだからこそ絶対に冬舞を救いたいと思う。好きな人の笑顔を奪ってしまうなんて、悲しすぎるから……。
    「幼なじみに先を越された……お辛い気持ちはわかりますが……そんなことをしても、春子さんは振り向いてくれませんわよ」
     茶季院・景織子(影城の水蓮花・d01861)が優しくではあるが尤もな言葉を投げかける。すると冬舞は引きつったような笑みを浮かべ、うつろな瞳で灼滅者達を見つめた。
    「ああ……知っているのか。間抜けな俺のことを。告白しそびれているうちに幼馴染に好きな子取られた情けないやつ、って」
    「そんなこと無い! 間抜けだなんて、そんなこと無いよ。……すごく悲しかったよね……。僕も似たような経験あるからさ、わかるよ」
     初恋の人に告白して振られた経験――千歳の苦い経験。思い出すたびに苦い水を飲み込んだようになるけれど、けれども今は、彼を救いたいから思い出すことをためらわない。
    「ねえお兄さん。こんな方法でお姉さんの気を引いたらさ、お姉さんが誰かに好意を寄せる度に、そいつを嫌いにさせ続ける事にならない? そんな事続けたら性格の悪い女だと皆に思われるよ。好きになった人の評判を落とすなんておかしいよ」
    「……っ!」
     冷静にというより純粋に疑問に思っているのかもしれない。ソウルボードに入る前と人格が変わったような喋り方をする伊東・晶(中学生シャドウハンター・d03982)の指摘に冬舞はびくっと肩を震わせた。確かに今、春子の気持ちを仙夜から逸らしても、冬舞を好きになるとは限らず。とすれば冬舞は春子が自分以外の人に好意を寄せるたびにソウルボードへの侵入を繰り返す可能性も危惧される。
    「そしてそんな事を続けたら、歪められたお姉さんの心がお兄さんを見ていないって事に気がつくんじゃないの? そしたらお兄さんもすごく傷つくしお姉さんだってお仕舞だよ」
     淡々と告げていたように思えた晶の声がだんだんと思いを募らせていく。
    「僕みたいなガキに言われたって納得できないかも知れないけど、身近な人の心を失うのって辛いんだよ!」
     肩で息をするようにして言い切った晶。皇・もこ(アホ毛の王子様・d06015)は「落ち着くのだ」と小さく呟いて晶の背中を軽く叩き、もこも冬舞に疑問を投げかける。
    「冬舞は春子の心を弄って、どうするつもりであるか? 心を弄った事実を抱えて、春子の好意や、仙夜の友情と向き合えるであるか? 大好きな人の心を力で捻じ曲げる男は、春子に相応しい男であるか?」
     幼いが故に自分の心に素直なもこは、冬舞が自分と向き合ってくれそうな問いを選んで投げかける。人は皆、自分の中に自分の答えを持つはずだ。そして自分の事は自分で決めるべきだと思う。だから。
    「自分の心は弄れない。自分の行動は全て自分の中に残るのである。冬舞……力を使う事に迷いはないであるか? それで幸せになれるであるか?」
    「……幸せに、なれるさ……きっと……」
     もこの言葉に返された冬舞の言葉だけ見れば、彼に言葉が届いていなかったようにも思える。しかし彼は唇をかみしめ、渋い顔をしている。まるで自分にそう言い聞かせているようだと千布里・采(夜藍空・d00110)は思った。冬舞にはまだ、迷いがあるようである。ソウルボードに入ってすぐにいじらなかった、それがその証かもしれない。
    「理不尽なんもよぅわかる。せやけど、人の心操ったって、本当の気持ちは手に入らん。その力に振り回されたら人でなくなるで」
    「人で、なくなる……」
    「冬舞さん、もうわかってるんやろ? 誰か憎むん、疲れるもんなぁ」
     采の柔らかい声に乗せられる優しい言葉が冬舞を包む。そう、誰かを憎むのには沢山のエネルギーが必要だ。冬舞とて本当は仙夜を憎みたくはないはずだ。でも心に巣食うダークネスが、彼を衝動に駆り立てる。だから、采は優しく、言葉を選んで声をかけて。
    「悪夢、終わりにしよ? 此処にいる仲間はその手助けに来たんやで」
    「う……うう……」
     がくり、冬舞は片手で顔を覆ってその場に膝をついた。
     誰もが一瞬、説得が通じて冬舞が膝から崩れ落ちたのかと思った。彼の肩は震えている。表情は掌で覆われていて伺えない。
    「……う、く……く、く、く……く、く……」
    「!?」
     うめき声がだんだんと笑い声へと変わっていく。灼滅者達が反射的に身構えると、冬舞はゆらりゆらりと身体を揺らしながらゆっくりと立ち上がる。
    「抑えられて、たまるものか……衝動のままに、書き換えを……!」
     顔を抑えた冬舞の片手の指と指から覗く瞳は今までとは違って、ギラギラしたものになっていた。彼の中のダークネスが表面化しているのだ!
     灼滅者達は身構える。その中で等はメガネの奥の瞳で冬舞をしかと捉え、冷静に言葉を紡ぐ。
    「言いたい事は多いが、分かりやすくキミの罪を挙げてやろう。ひとつ。自分の想いを打ち明けなかった事を棚に上げて、逆恨みした事」
     猫背気味に立つ冬舞が不気味に揺れる。
    「ふたつ。その挙げ句、仲違いさせようとして想い人の心に侵入して踏みにじった事」
     すっと、仲間たちが隊列を整える。
    「みっつ。これが一番重要だ。仮にこの手段で春子クンと付き合う事ができたとする。生涯を通して、そのままウソをつき通せるかね? キミの行いはそれほどに重い。自分の胸に手を置いて、よーく考えてみることだ」
     冬舞が顔を覆っていた片手をゆっくりと外す。鋭い視線が灼滅者達を舐めるように見据えた。
     誰もが肌で感じている。戦闘開始だ!

    ●心に、訴えて
    「すべての事象に白黒を……ブラン・グリ・ノワール!」
    「私の『影』が目覚める時……まいりますわよ」
     黒々と景織子が解除コードを口にする。倣うようにして他の灼滅者達が解除していく間に、冬舞と同じ制服姿の男が二人、冬舞を守るようにして出現した。
     最初に動いた冬舞が放ったのはカトラリーのナイフを使った、冴え冴えとした月の如き衝撃。それは千歳と晶を襲ったが、身構えていたほどの衝撃はない。
    「手下を集中攻撃してさっさと退治してしまおうぜ」
     等が指輪から魔法弾を放つ。一瞬軌跡を描いたその弾丸は手下の肩を貫いた。ナノナノの煎兵衛はサーヴァントがたくさんいるのが珍しいのか、仲間達を見回した後千歳の傷を癒す。
     痛みに身体を揺らした手下の横を漆黒の弾丸が通り抜ける。
    「冬舞さん、目を覚ますんやで」
     采の想念を集めた弾丸を追うように、彼の霊犬が手下の足元を通り抜けて冬舞へと刀を振るう。
    「彼女の気持ちを歪めて、仮にそれで冬舞さんが彼女と結ばれたって、そんなの意味ない。冬舞さんの素直な気持ちをぶつけなきゃ、本当の意味で幸せになんてなれないよ」
     心から絞りだすように朱梨は思いをぶつける。冬舞に接近した朱梨は、茨の蔦の形をした影で作った触手を放つ。
    「だから、目を覚まして! 大好きな人の笑顔を、こんな形で失うのなんて、悲しいよ……」
     朱梨の心の叫びは通じただろうか。冬舞の瞳に宿ったギラついた光が一瞬、揺れたように見えた。
    「冬舞くん! あなたの行動は春子さんの笑顔を奪う行為だということに気付いていますか? 春子さんが仙夜くんを嫌いになっても何も解決しませんよ!」
     それまで黙っていた黒々が、『ブラン・グリ・ノワール』を構えて叫ぶ。
    「春子さんが笑顔でいられる一番の方法は何か、よく考えてください! 今からでも遅くはないです、変わりましょう!」
     そう、今からでもまだ遅くはない。ダークネスの奥にいる冬舞自身に語りかけるように言葉を紡ぎ、そして魔法光線で冬舞を貫く!
    「みこと、頼むのだ」
     もこは裁きの光を発して手下を穿つ。それに合わせるようにしてナノナノのみことは晶の傷を癒した。
     オーラを纏った晶の拳が手下を連打する。追うようにビハインドの攻撃が手下に決まる。
    「怖くても、逃げちゃダメだ! こんなことをしても彼女が確実に君の事を好きになってくれる保証なんてないこと、ちゃんとわかってるんだろう?」
     シールドを広げて味方を守る千歳の叫びは冬舞の心を打つ。一瞬彼が震えたように見えて。
    「彼女の立場なら……好きな方の悪いことを言う人に対して良い気持ちになれませんわね。本当にそれでよろしくて?」
     優雅に言い置いた景織子が手下達の熱を急激に奪う。一体の手下が倒れ伏して消えたことを確認し、景織子は冬舞を見据えた。
    「私も人の夢に入れますが、これは人を助けるため……冬舞さん、今あなたがしていることは、彼女をこの夢の中で苦しめることですのよ? その時点であなたは、普通の人ではないことも……」
    「うるさいうるさいうるさい、俺は、俺は……! おれ、は……」
     積もり積もった言葉を振り払うかのように頭を振る冬舞。彼をこれ以上混乱させぬとでも言うように、残った手下が漆黒の弾丸を放つ。それは晶の身体へと吸い込まれていく。
    「おれ、は……」
     明らかに冬舞の表情が先ほどとは異なっている。惑うように瞳を動かして放たれた弾丸は朱梨を狙った。だが――自分の後ろに意地でも攻撃を通さないと決めていた千歳の動きのほうが早かった。朱梨を庇い、弾丸をその身に浴びる。
    「ここから出たら勇気を出して好きって気持ち、春子ちゃんに伝えてごらん」
     優しく、笑顔で。千歳は冬舞を見つめた。
     等が石化の呪いを手下にかけ、煎兵衛が晶を回復する。采の影が冬舞を襲い、霊犬がそれに合わせる。
    「冬舞さん!」
    「冬舞くん!」
     朱梨と黒々が攻撃を挟みながら呼びかけ、もこが、晶が、ビハインドが手下に傷を刻む。みことが千歳の傷を癒し、千歳が配下にとどめを刺した。
     掻き消えた配下の向こうの冬舞に狙いを定め、景織子と等、采達が彼の目覚めを信じて力を振るう。
     そっと、朱梨の茨の蔦が冬舞を捕らえると、彼はがくり、四肢の力を抜いてその場へと倒れ伏した。

    ●彼の心の向かう先
    「夢、じゃなかった……?」
     休憩室で目覚めた冬舞は自分を見つめる八人を見て、ぽつり、呟いた。夢じゃなかったということは、自分がしようとしたことも本当だったことになる。けれども以前ほどどす黒い衝動がないのは、彼自身が一番良く知っている。
    「お目覚めかな? 十分に裁きは受けたんだ、武蔵坂学園は冬舞クンの編入を歓迎するはずだ」
    「武蔵坂学園?」
     等の言葉を繰り返す冬舞に、晶ともこが学園について説明をする。自分の持つ力が常人ならざるものであることは、冬舞とて自覚している。彼は「そうか」と小さく答えた。
    「冬舞がしたいようにするがいいぞ。何なら、我輩の友達にしてやっても良いであるぞ」
     尊大に言い放つもこ。けれどもこれはもこなりの歓迎の意。みことがすりよって主の代わりに「ナノナノ♪」と挨拶している。
    「学園には、あなたのように闇堕ちで傷ついた方が多くいますわ。良かったら来てみませんこと? 今度は誰かを助けるために」
    「どうです? 良かったらボクらと一緒に学園へ来ませんか? 己を磨いて春子さんを惚れ直させるのですっ! 新たな出会いもあるかもしれませんしね……」
    「ああ、でもその前にあなたも想いを伝えてはどうです? このままよりよほど良いですわよ」
     誘いを掛けた景織子が、微笑んで告げた黒々の言葉にふと思い立って告白を促す。
    「いっぺん彼女と向きおうた方がええよ」
     采もそれに賛成の意を述べて。
    「気持ち整理ついたら、連絡してや。一緒にいろんな人と逢いにいこ?」
     柔らかく告げれば決心したかのように冬舞は頷いた。
    「諦めなければね、恋は続くんだよ」
     もっと素敵になってからまた告白するのもいい。たとえ今すぐ報われずとも、五年後、十年後はわからない。
    「あんな形で彼女の笑顔をなくしちゃうよりも、私はそうする方が、ずっと素敵だって思うな」
     朱梨の笑顔を受けて、冬舞は立ち上がる。その背中をそっと、千歳が押した。
    「がんばれ!」
     冬舞の、眠る春子を見る目は愛おしそうで悲しそうで。後は彼が自分で頑張る番だと灼滅者達はそっと休憩室を出る。
    「……あれ、新沢くん、私、寝ちゃってた?」
    「千賀、俺……」
     ドアの隙間から小さく漏れ聞こえる声。これ以上聞くのは冬舞に失礼だ、と八人は急いで建物を出た。
     しっかり気持ちに区切りをつけて、冬舞が学園を訪れる日も近いかもしれないと感じる。
     それは冷たい風の吹く、初冬の夜だった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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