クラブ同窓会~集い花咲き誇りて糸括

    作者:ねこあじ


     葉色鮮やかに晩秋深まる時期、対する空の青は薄く、見上げた木元・明莉(楽天日和・d14267)の瞳に映りこむ。
    『花手毬』を使い糸括屋敷の扉を開けば、長い間留まっていたロビーの空気が動きだす。
    「あ、うさぎ♪」
     気配を感じて顔をのぞかせたうさぎを見つけた妻が、微笑み言った。そのまま鞄からうさぎのおやつを取り出して、にじり寄っていく彼女の後姿をしばし堪能したのち、明莉は屋敷内を見回した。
     大学の卒業をきっかけに、糸括屋敷は閉ざされることとなった。この時に開いた宴会――光景は今だ鮮やかによみがえる。
     それからも定期的に手入れはされてきた屋敷だが、時の進みはやはり老朽化を促す。
     加えて、いつの間にか屋敷の庭に居着いていたうさぎ達が、とうとう屋内への侵入を果たしてしまったようだ。見て回ってみれば、結構な散らかり具合となっていた。
     クラブの共用備品、学園のイベントで使った道具などがある物置は無事であったが、扉を開いた際、丁度やってきたうさぎが侵入しようとしたので明莉はひょいと抱えた。
    「ほら、あっちに行ってな」
     廊下の窓縁に乗せ、ぽんと軽く叩いて促せば、うさぎはぴょんと跳んで中庭に降り立った。
     長い廊下を歩き、各部屋の空気を入れ替えるべく窓を開ければ糸括の木が目に入る。この屋敷で、何度花見をしたことだろう――ある日は花弁舞う木の下で。ある日は絵画を鑑賞するように室内で。
     悲しくて苦しくてやるせない時もあったけれど、それを上回る賑やかさと優しさ。
     ひとつひとつが、いとおしい日々であった。


     続く大地の日本であったり、遠く異国の地であったり、されど繋がる空の下で、灼滅者達は生き、自らの足で立ち、駆け回っている。
     そのなかで、ふとした瞬間、いとおしい日々に心寄せた時、縁で括られた思い出が花開く。鮮やかに舞う花弁は春の日のことであったり、秋の日のことであったり。
     そんなある日、『あなた』のもとに一通の手紙が届いた。
     薄緑色の封筒の中から、桜色の便箋。優しい色のそれらを開けば、どこか懐かしい香り。
     挨拶と近況を読んでいき、次の文面には「部長」が見えて、思わず微笑んでしまった。
    『この度、糸括の屋敷を全面改装する事になりました。
     それに伴い、屋敷内の片付けをしようと思いますので皆様お誘い合わせの上、掃除道具を持参してお集まり下さい。
     あ、掃除だからメイド服必須ネ☆ ウサミミもダヨ☆』
     ――声が聞こえてくるようだ。噴き出してしまった人もいるだろうなぁ、と、『あなた』は皆の色々な笑顔を思い出す。
     掃除の後は庭で宴会もするようだ。
     結構な広さがある洋式の屋敷の掃除をしながら昔に思いを馳せたり、宴会での酒盛りで近況報告したり。話題が尽きることなど、きっとない。
     新しい思い出を括る日に向けて、そう、まずは何よりもメイド服の用意だ。どれを着ようかと考えながら、『あなた』は丁寧な手つきで便箋を封筒へと戻した。


    ■リプレイ


    「この服に袖を通すのも10年ぶりか……ふ。時間の重みを感じるぜ」
     世界を飛び回るフォトジャーナリストとして経験を積む男、陽司はシュッと着用し、最後に頭装備のアレを。
    「ってまたうさみみメイドかよ!
     31歳メイドとか誰得だ恥ずかしい!」
     ウサミミを見て我に返ったマサムネだが彼も颯爽と着替えている。
    「こういう事は中途半端に恥じらっては駄目なのだ。胸を張れ、堂々とだ!」
    「「応!」」
     ニコの言葉に、敢えて野太い声やら中性的な声やら。
    「諸君、ドロワーズは履いてるな? 見えたら大惨事だぞ☆」
     と、明莉チェック。
     服装規定に引っかかった想希が連行されたりと『いつも』の賑やかな騒ぎに渚緒が微笑む。
     久しぶりの糸括屋敷。
     さてと、とビクトリアンメイド服の紗里亜が呟いた。
    「輝乃ちゃんが手入れしてくれてるとは聞いてますが……腕が鳴りますね♪」
    「……さあ……掃除を始めましょうか……」
     こくりと頷き、わさっとゴミ袋を持った清音。
    「やるからにはきっちりと、な」
     クラシカルなウサミミメイド姿の伊織が微笑みながら、ハタキを装備。
     紗里亜は上に溜まった埃を絡めとるべく片手にハンディモップ、片手にハタキと水を得た魚の様に動き始めた。
    「そいえば鍵持ってたケド、掃除したことなかったなぁ♪」
    「そうだったんですか……あ、ミカエラさん、そこにうさぎが」
     てへっとしたミカエラに声を掛ければ、「お任せ~☆」の声と同時に保護される。
    「それにしても、どこから来たんだろね、このメルヘンうさぎ。糸括伝説?」
     庭に放しに行く途中、屋敷案内中の真名一行と会う。服のせいか淑やかな礼をされた彼女は手を振っていらっしゃいと返事。
     玄関、廊下、大広間とそこに繋がるキッチン、奥に小ホールの美術室。
    「そして、ここは茶の間です。一言綴が置かれています」
    「一言綴か。これにも歴史があるね」
     思い思いに綴ったものを目に感慨深い顔で勇弥が言う。
     が。
     頭は垂れたウサミミ。当然メイド服。
     タイトなウサミミメイドで真名が案内する本日のお手伝い組は、草太、さくらえ、ふと遠い目になる勇弥――普通に屋敷前を通り掛かっただけなのに、気付くとウサミミメイドであった――である。
    「郷に入れば郷に従えだよネ」
     と自らをツインテールにしたさくらえはさすがであった。
     更に脇差に『膝上13センチのすゝめ』とかされたりして……今に至る。
    (「授業が終わって、駆け足で、この廊下を通り大広間の戸を開けたなあ」)
     ハイウエストのスカートはサーキュラータイプ。カフェオレ色をふわっと揺らし、杏子は懐かしそうにあの時の道をモップで辿る。
    「あ、うさぎさん、滑っちゃだめよ?」
     階段の手すりを滑るように降りるうさぎへ声をかけながら、また一つ、思い出のページを繰った。
     と、うさぎはジャンプし、とっとこ駆けた。垂れ耳を付けた輝乃を見て「エサきたー?」と言わんばかりに寄っていく。
    「うん、ご飯は後で。
     ……あ、また子うさぎが増えてる」
     水洗いする物を抱えつつ、うさぎを誘導する輝乃が見知らぬ子うさぎを見つけて呟く。
    「じゃあ、こっちは確保っと」
     ゴスロリウサミミメイド服の千尋が保護。掃除道具を一旦置き、温かなそれを優しく抱きかかえる。
    「そこで遊んでな。後でご飯あげるから」
     中庭に放せば仲間の元へと寄っていくうさぎ。
     日中の柔らかな陽射し。お天道様を見上げたのち千尋は再び掃除に戻る。
    「あ、水洗いは僕がやるよ。手が荒れたら大変でしょう?」
     と澪。輝乃の次に明莉達へ声を掛ける。
    「はい喋ってる暇あったらこっち手伝って。
     と ど か な い の …… !」
     高所を指してニッッッコリとして言う澪と、ニヤリとする明莉はうさぎを抱えている。
    「高い場所は任せろ と ど く か ら ♪」
    「……はいはいお前はこっちな」
     微笑ましく不穏な二人の間からうさぎを助けた脇差。
    「後は任せて俺は休憩に」
    「こら、サボんなっ」
     見逃さないと目を光らせている部長と鞭持ったねこさんの姿に、思わず脇差は溜息。
    「……分かってるよ、やればいいんだろやれば」
    「さっさかさとやってくぜ」
     ハンディモップを手にマサムネが応じる。
     仲間内の空気は変わらず、雑談に盛り上がっていた日々を思い出す。まるで昨日のことのようだとマサムネは感じた。
     地下図書の蔵書を虫干しするのはアリスと、「力仕事ならまかせてネ」と言ったポンパドールが高身長を活かして高所の本を取り、草太と共に運んでいく。
    「日陰に並べて風に晒して、虫がいなくなるように、ね」
     言ったアリスは丁寧な手つきだ。次の準備にも取り掛かる。
    「分類は改めた方が良いかしらね?」
     ゴシックなメイド服の彼女が首を傾げれば、金色のウサミミが揺れた。
     廊下では雑巾がけに精を出す和奏と、黙々と拭いている彼女についていくうさぎ。カルガモ親子のよう。
    「おお、可愛い光景だ♪」
     と言って写真を撮るのはるりかだ。あっちもこっちもウサミミメイド。これは写真に残さないと、と、今日は一声かけたのち、様々な場面をゲット中。
    「? あっ、いつの間に」
     驚き、後ろのうさぎを撫でる和奏にるりかは、
    「ボクも雑巾がけ手伝うねー」
     手伝いを申し出た。
     袖にフリル。ロングスカートなメイドとなり、割り箸に布を括りつけて窓の縁、見落としがちな隅などを掃除していく未知。
    「あ。やっほー、うさぎさん」
     壁と家具の隙間にいた灰うさぎに声を掛ければ、撫でろと言わんばかりに出てくる。
    「よしよし……ん?」
     と、賑やかな声が聞こえ顔を上げた。
    「高身長組! そっちの梁の上にうさぎ! 俺が下から追い込む!」
     陽司、続いて勇弥の了解。
    「梁の上……って、屋根裏まで入っちゃったのかい!?」
    「ここは俺が行こう」
     箒を使い、フリルスカートなメイド服を靡かせニコが颯爽とうさぎを丁重に保護する。
     胸元に抱かれたうさぎは硬い胸ではなく大きなリボンに包まれた。
     未知は見る。うさぎを優しくくわえて運んでいく加具土、次に用具を持った渚緒メイドが通り過ぎ、続くミニ丈ゴスロリメイド――未知より少し濃いピンク系の垂れ耳の澪――と目が合った。
     互いに似合っていて、ちょっと遠い目になってフッと笑みを送り合う。
    「っと、危ないから、上はやるよー」
    「わかったわ」
     渚緒が深香に声を掛ける。
     棚上の中の拭き上げをやっていく渚緒。
    「カルラ、そっちの段ボールの組み立てお願いするよ」
     胸元を編み上げたセクシー系メイド服にピンクのうさ耳姿の深香が食器を段ボールに詰めつつ、宴会に使えそうな物はまた別にしていく。
    「あら、うさぎさんだわ。こっちにいてね」
     と深香。
    「……大きい物……小さい物……不燃……可燃……うさぎ……」
     部屋の出入口付近では清音が仕分けを行なっていて、うさぎは清音の手で通り掛かった輝乃へと渡された。本日名物うさぎリレーである。
     はたはたとハタキをかけていた伊織は、ふとにっこりとした。
    「これも掃除してまおか」
    「わっ、びっくりした!」
     はたはたされたのはポンパドール。
     像のようにじっとしていた彼の先には小ホールの美術室――室内を見て、伊織は懐かしそうに目を細めた。
    「なつかしいなあ、って見入っちゃってたよ」
     どこを見ても思い出。
     アレだネ、部屋のそうじ中についついマンガ読みふけっちゃう系のヤツ。と言う彼に、もう一本ハタキを渡す伊織。
    「存分に見ておいで」
     掃除しながら。こくりとポンパドールは頷いた。
    「私も行きますね♪」
     小走りに紗里亜。
     変わらぬ友人たちに浮かぶ笑み。この場に感謝をこめて伊織は掃除を続けた。
     同じく、変わらぬ皆と会った微笑ましい気持ちで糸括ならではの空気を感じ取っていた想希。
    「ちょっと庭も片付けましょうか」
     と草取りを始める傍らで、うさぎと遊ぶ着ぐるみ残暑。
     思い寄らぬフラグって大体こんな風に成立するんだろうなという場。
    「うさぎさん達、食前の運動ですわ!」
     うさぎと残暑が庭から飛び出さないよう、見守る加具土――残暑もうさぎも、認識としては同じ枠である。
     同枠の残暑がお嬢様であるのだから、うさぎ達も令息令嬢なのである。故に加具土は護衛犬に徹す。
    「そういえば、あの頃もこんな感じでしたね」
     混沌なのかメルヘンなのか、そんな場で懐かしい気持ちが迷走し始める想希。だが正しい思い出である。
     そんな彼の声を聞き、ふふっとお嬢様の顔で残暑がはにかんだ。
    「目を瞑れば――あの日々が思いzzz」
     突然意識を失う残暑。さすがに驚く想希。
    「えっ、ちょ、あの、大丈夫ですか!? あっ、寝てます!?」
     どうしたどうしたと群がるうさぎが、彼の肩に、着ぐるみの腹にと乗ってくる。
    「……なんか、すごいことになってるねー」
     さかさかと掃きながら目撃してしまったさくらえが呟いた。
     周囲を見れば掃除して保護してと長閑な光景。
    (「それにつけてもうささんと戯れるウサミミメイダーズ。いろんな意味で絵になるねぇ」)
     と和むさくらえ。
     眠れる庭の残暑とうさぎ、その中で想希がふと見上げれば二階バルコニーに明莉がいて、ひらりと手を振られた。


    「さ、お待ちかねの宴会始めよっか。みんな、手を洗っておいで~♪」
     皆に声を掛けるミカエラの元に、トコトコ残暑。
    「お、お嬢、立派な黒うさぎになって……」
     遊ぶ子寝る子は育つ的な感極まった陽司の声。
    「着ぐるみが真っ黒になってしまいましたわ!」
    「クリーニングを持つお客様~、って確かあったハズだよね」
     きょろと見回すミカエラ。ESPのある執事服。深香が『今日いる物』として仕分け済。
    「希望する人は順番にやっていこうか」
     一時的に装備した渚緒が掃除の汚れを払って、いざ!

     天から地から、糸括を照らすは月と灯り。
     火の入った暖かいBBQ道具を傍らに。
     うさぎは「何ぞ」とうろついたり、寝ていたり。
    「はい、大掃除お疲れ様。まずは乾杯だね」
     仕出しを並べ、皆が杯を持ったのを確認しつつ千尋が言ったのち、
    「「乾杯!!」」
     大音声に、宴は始まる。
    「輝乃さん、俺のドイツ土産焼こーぜ! 絶対旨い! 旦那さんや部長にも大人気なはずだって!」
    「あ、美味しそう。酒の肴に持ってこいだね」
     ソーセージ、チーズ、蜂蜜と出す陽司。
    「……そっか、みんなお酒飲めるようになったんだ。大惨事鍋とか、這い寄るおべんととか、色々あったね~」
     十年前は小学生、高校生だった二人の会話にほっこりとした口調のミカエラ。思い出は……イロイロ。
    「陽司もドイツに行ったのか、良い所だったろう」
     というわけで、ドイツ産のビールだ、とニコ。
    「そこにわたくしのタコさんウインナーを投入ですわ!」
     ビールに合う物を残暑が、続いては杏子。
    「私はね、アフリカから色々持ってきたよ」
    「異国情緒溢れる賑やかな食卓となっていくね」
     まさに様々。渚緒が楽しそうに言った。
    「あ、僕はジュースで。よく覚えてないけど、結構弱いみたいだから……」
    「は~い、ジュースいっちょう♪」
     澪にはミカエラがジュースのお酌。
    「こっちにはお重を置きますね」
     紗里亜が持参した季節の三段重並べていく。その隣には伊織の稲荷寿司。脇差の出し巻き卵。
     酒が回る前にと、打ち合わせ無しの緊迫感ある殺陣を輝乃と草太が披露し、次はさくらえの日舞。
     拍手が舞って、宴は進む。
     ハーブ取り入れたレストランを経営しているるりかは、ローズマリーで下味をつけたチキンソテーを。
     勇弥や伊織の感想は経営者視点が含まれて、るりかは嬉しそうに頷いた。
    「うん。ボク、希望するお客さんにはアロマハンドトリートメントもしてるんだ」
    「今はやとわれ店長だケド、いつかはおれも自分のお店を!」
     ぐっと拳を作るポンパドールに、それじゃあ、と勇弥。
    「カフェ・ロワイヤルや砂糖控え目にしたアイリッシュコーヒーを振舞おうか」
    「オレも。プロ同士、お手並み拝見といきましょか」
     喫茶兼Barを経営する伊織も、カクテルを作り振舞っていく。
    「身体を動かした後は、お酒も美味しいわね」
     フランス産のワインを振舞うアリス。
    「ヴィンテージは2018年よ。
     私達があれから駆け続けてきたように、この子も開けられる日をセラーの中で待っていたの」
    「10年物ワイン頂きます」
     真名が言う。
     まったり味わい、蜂蜜ホットワインにしたり、楽しみ方は色々。
    「うお、千尋さん! これ箱根の地酒やん! 海外ばっかだから般若湯がしみますわあ」
    「俺も、もらっていいですか?」
     と想希が言えば、「注ぎますよ!」と陽司が酌んでくれた。
    「美味しいものがいっぱいですねーふふー」
     持ち寄った物全制覇という心意気の和奏は地酒を手にニコニコ。
    「そうだ。酒には合いませんけど、シュークリーム持ってきたんでした」
     そう言った想希が冷蔵庫へ。チーズクッキーはつまみになるだろうと、それも持ちキッチンから戻れば、
    「私うさぎ型のドーナツ買ってきましたよー」
    「おれも! 勤務先の焼き菓子もってきた」
     と、和奏とポンパドールが合わせて出した。
    「焼き芋もできましたよー」
     集めた落ち葉で焼いた芋は、紗里亜が割るとほくほくと甘い香り。
    「あつあつだね」
     はふ、と草太。
    「あ、これも焼けてるね。はい、次の方~」
     火ばさみでアルミに包まれた芋を取り、渡すさくらえ。
     熱のせいか、お酒のせいか、頬染めて焼き芋を食べる姿を見合っていると童心にも返る。
     学園の話。
     月日がたち武蔵坂学園の多くはエスパーで、その様子の語りに皆、興味深げに聞く。
     仕事の話、今の話。
    「いつもテレビでみているよ」と、仕事の話を振られた深香。
    「澪もゲスト参加するLIVEN特集の組まれたファッション誌が、もうじき発売予定なの。
     興味がある人には送るから、見てもらえると嬉しいわ♪」
    「僕達の事はテレビである程度分かるだろうけど……僕が皆の事聞く機会少ないからさ、もっと皆の聞かせてよ。ね、日向さんも」
     澪の言葉に頷く草太、そして脇差が、
    「惚気でも何でもいいな」
     話題は尽きないだろう、とそれぞれが話していく。
    「……世界を旅しながら……歌を歌ったり聞いたりしてたわ……」
     清音は、糸括での思い出の歌を、リンドウを歌う。曲調を変えれば伴う想いも変わる、寄り添う歌。
    「オレ? 大切な人が隣に居る、そんな『当たり前』が幸せやないと思います?」
     伊織が言う。
    「現在は法学者としてESP法の整備に飛び回る日々です。本当に、大変ですがその分やりがいもありますね」
     と、紗里亜。十年前に思い描いていた未来と違うけれど、と微笑む。
     開業者、神の伝承残る遺跡の調査、今はひたすら経験を積む者など――今も未来に向かって歩み続けている。
     幸も不幸もある世界に生きる者に手を差し伸べて、導く者、伝えようとする者。
     皆のそれぞれ。日本酒を片手に明莉は彼らの様子に笑み零れている。
    「今日ここに来れてよかった。また仕事頑張れそうだ――うん、禁煙も頑張る。家族の、ために!」
     言うマサムネは二児の父。通訳の仕事も軌道に乗り、世界中飛び回って忙しい様子。
     脇差は、
    「俺?
     そりゃ勿論幸せだぜ。こんなに可愛い嫁さん貰ったしな」
     照れた輝乃は反撃を試みる。
    「あっ、脇差。部屋のベッドの下にあった大きな包み。アレ何?」
    「……包み?
     何の事かな」
     目が泳ぎ思わず上半身のぐらついた脇差に、明るい笑いが起きる。
     皆の今を聞き始めて結構な時間が経っているが、宴はまだまだ続く。
     ミルク割りの甘いカクテルを飲んでいた未知はにこやかに、
    「宴会といえばやっぱ歌だな!
     ベルクシュタイン夫妻、一曲歌いまーす!」
    「なんっ……!?」
     ご機嫌に飲んでいたニコは吃驚し、杯を持ったまま未知に引っ張られていく。
    「それじゃあわたくしはお嬢様なダンスを披露いたしますわ!」
     と言った残暑が千尋の手を引っ張って、笑顔。
    「え、あたしも何かやれって? ……しょうがないなぁ!」
     楽し気に笑う千尋達を想希が手を振って見送った。
    「それにしても、これで見納めと思うと少し寂しいですね。
     改装後もやっぱりうさぎはいるんですか?」
     きっとうさぎもいるのだろう。
     別荘として開放される予定の屋敷。
    「新しい思い出を作る場所になるように、願いを込めて」
     と言う真名に、ねこさんを撫でながら杏子は微笑む。
    「お屋敷も新しい思い出を綴っていくんだね。
     ――学園で、私はいつだって一人じゃなかった。
     あかりん部長。糸括を作ってくれてありがとう」
    「……ほら、キョンも行ってきな」
     やや目を逸らしつつ明莉が言う。
     賑やかな踊りと歌が糸括の下で披露されゆく。
    「猫も犬も、ビハもキャリも、ウサギも。なんでもアリが、糸括だね!」
     ほんのり頬を桜色に、ふふふっと笑ってミカエラは猫となる。
    「月見て跳ねるや糸括兎たち」
     なぁんてね、と明莉は「年老いても集えたらいいな。もち、ウサミミメイドで」と呟けば、
    「同窓会はウサミミメイド大集合会だった……?」
     と、やや真顔の渚緒。
    「おじいちゃん(業大老)なウサミミメイド達……」
     想像してしまった杏子は戦いた。想像できる辺り、可能性の高い未来なのかもしれない。
    「また楽しく集まれるといいね」
     るりかの言葉に。彼らに。真名は杯を掲げた。
    「皆さんの進む道に、善き華が咲き誇りますように」
     また、いつか。
     集まって咲こう、今日の思い出を新たに括る。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:25人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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