クラブ同窓会~懐かしいあの場所へ

    作者:六堂ぱるな

    ●紅葉かつ散れども色は鮮やかな
     乾いた風と高くなった空が秋を物語る。箒を動かす手をしばし休めて、久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)は晴れた空を見上げた。
     武蔵坂学園の近くにあるその建物自体は古いものだが綺麗に手入れされ、奥には日本庭園や露天風呂も備えた下宿、『撫子荘』は未だ健在だ。撫子とて凛とした姿勢と立ち居振る舞い、たおやかな美貌は変わらない。
     それでも、確かに色々なものは移り変わっていた。
     激しい戦いは10年前に終わりを告げ、いまや武蔵坂学園に通う生徒はおおかたがエスパーだ。寮に住んでいるのもエスパーたちであり、自身も生徒たちの世話に加えて子育ても行っている。

     ひらりと鮮やかに色づいた紅葉が目の前を横切って、撫子はふと気を取り直した。
     そう、あまりゆっくりはしていられない。
     今日は10年前にこの寮で武蔵坂学園の学園生として生活しつつ、日夜ダークネスとの戦いをこなしていた仲間が集う。つまり同窓会だ。
     場所はもちろんこの『撫子荘』。手直しやリフォームはしているが、外観も敷地の状態も出来るだけあの頃のままを保っている。日本庭園は今は紅葉が始まって、池に赤や黄色の美しい錦絵が映っていた。
     何人来ても困らないようたくさんの料理を用意して、新旧の住人の交流に10年間の活動報告や、今のとりとめもない話に花を咲かせよう。
    「あとは、皆さんが鈍って無いか確認でしょうか?」
     相変わらず寮の管理人はしているが、そればかりではない。どことは言わないが時折、某政府の依頼や個人的理由のために、世界各国の紛争地帯や事件発生現場へ出向き武力介入をしている。そういう意味では、やっていることは10年前とあまり変わっていなかったりした。
     学園に確認してみるとライブハウス会場は幾つかあり、一つを使って構わないという。有志でも同窓会の参加者全員でも、相手取るだけの場所は困らない。
     たとえ『かつての』住人といえど、管理人としてメンテナンスをしなければ。
     おっとり微笑んで、落ち葉掃きを終えた撫子は料理に取りかかるべく玄関へ向かった。


    ■リプレイ

    ●まずはライブハウスで撫子さんと遊ぼう
     かつては武蔵坂学園で灼滅者たちがしのぎを削った『ライブハウス』。腕を磨き競い合い激突したその場所は、今も変わらぬ強度を保っている。
     天峰・結城(d02939)の操るスポットライトが照らし出すのは、いつものように着物をまとった久瑠瀬・撫子(d01168)だった。
    「貴方達はそこから出てはだめですからね?」
     見学組の現在の寮生と自身の子供達を観客席に行かせて、ゆらりと振り返る。10年前とそう変わりなく見える彼女が携えるのは愛用の十文字槍。
    「撫子さん、お久しぶりでーす」
    「みんなは元気かな?」
     すっかり成長した星野・華月(d04395)が小走りで、神楽坂・檸檬(d18197)がゆったりとやってきた。しなやかな肢体には変わりのない華宮・紅緋(d01389)も一礼する。
    「管理人さん、お久しぶりです。高校までお世話になりました」
    「さすが10年、皆様様変わりですね」
    「それより、管理人さんがお相手してくれると聞いて、久しぶりに全力を出せるって楽しみにして来たんです。一つ、お手合わせお願いします!」
     声を弾ませる紅緋におっとり微笑み、撫子は居並ぶ者へ向き直った。
    「腑抜けた様なら徹底的に潰させて頂きますね」
    「ま、そうだね、10年前だと手合わせの機会も無かったし」
     愛用の太刀を手に進みでてきたのは太刀津・手徒(手向けの徒花・d25230)。蒼い和服の彼女も元は寮生であり、今日の目的もここにあった。
    「この10年、僕も遊んでいた訳では無い。どのくらい戦えるか、試させてもらおうか」
    「……撫子姉さんと腕試し……全力で行くわ……」
     訥々と呟く高原・清音(d31351)のまとうリボンがざわりと揺れる。花が描かれたそれは彼女の武器であり、防具。
    「懐かしいな」
     同窓会で戦闘とは久瑠瀬らしい、というのが颯・十牙(d06240)の感想だ。無論、手加減は抜き。全力で行くとしよう。
    「……牙、解放……」

     瞬間、撫子は舞台へ上がった紅緋めがけ、炎噴き上がる槍で突きかかった。
    「行きます!」
     迎撃は激しく渦をまくカミの力がもたらす風の刃。間一髪避けた撫子の刺突は跳ねて躱す。
     急停止した撫子の死角へ清音が回り込んだが斬撃は槍の柄で阻まれ、跳び退く背を追って手徒が異形化した腕をふるう。しかし爪は届かなかった。
    「あ、ユイちゃんは。相変わらずお手伝いお願いしますね」
    「承知しました」
     間合いに飛び込んだユイ・サカザキ(d12879)が、受け止め弾き返した。
    「撫子ちゃーん、できれば寸止めでよろしく~」
     のんびりした口調とは対照的に、檸檬の操る鋼糸は容赦なく目標を絡め取ろうと広がった。十牙が稲妻這う拳を捻じ込もうと疾走する。かすめた拳に笑みをこぼし、身を翻す撫子からダイダロスベルトが放たれた。
    「ッ!」
     肩を裂かれた十牙のふるう標識が唸りをあげる。肉を斬らせて骨を断つ如き反撃はようやく撫子を捉え、清音は魔導書の頁をめくると禁呪を解き放って爆煙を巻き上げた。
     紅緋の身体を深い赤のオーラが覆い、華奢な腕がぼこりと膨れて鬼の膂力を宿した異形の腕へと変じる。今度こそ爪は撫子の腹を裂いたが、彼女の速度は少しも落ちない。
    「寸止めはレーティングにありませんね」
     結界へ封じ込めようとする檸檬の糸を打ち払い、死角から咽喉を狙った手徒の斬撃は槍の柄で防ぎきった。距離を取りながら檸檬が慨嘆する。
    「おねーさん元々後方支援要員だったからタイマンは専門外なんだけどねー」
     死角から斬りかかるユイの刃をモンラッシェで受け止め、紅緋はそのまま赤黒い影をかつての管理人に疾らせた。その軌道の先、撫子は十文字槍を構え氷弾を清音に撃ち込む。肌を蝕む氷の呪いには構わず、清音も全ての熱を奪う死の魔法を叩きつけた。遅れず手徒も追い討ちの神薙刃を叩きこむ。
    「いけるか――?!」
     応えは鋭い払い。十文字槍が鼻先をかすめ、跳び退く手徒と入れ替わりに交通標識を振りかぶった十牙が踏み込んで。軋む音をたてて糸を引き絞る檸檬の妨害をせんとユイが挑みかかった。
    「刀を振るうのも久しいですね。さぁ派手にやりましょう」
     腱を狙った斬撃は足の自由を少しずつ奪っていく。未だ観戦モードの華月が、興味深げに戦いの趨勢を見守っていた。

     猛攻と反撃。ダークネスとの戦いもなくなった昨今、灼滅者が全力で戦う機会は少ない。それだけに戦いは久々に熱を帯びた。
     十牙の放った輝きは光条となり、撫子の胸を撃ち抜いた。さしもの撫子が息をつき、うねるダイダロスベルトで自身を鎧う。紅緋の放った渦巻く牙風は、抜き放ちざまのユイの刀の一閃で斬りはらわれた。流れるような仕草で一礼。
    「ただいま、御館様は休憩時間でございます。そのあいだは変わりまして、撫子荘付きメイドがおもてなしを担当させていただきます」
     返す刀でユイの刃が清音の首めがけて疾る。刀に檸檬の鋼糸が絡みついたのは次の瞬間で、渾身の力をこめた手徒の異形の腕はユイを叩きのめした。
    「ぐうっ!」
     ふらつくユイはそのまま、撫子を絡めとろうと清音が翼を広げるようにリボンを放つ。ぎしりと骨の軋む音がした。リボンに絞めあげられても、撫子の戦意に衰えはない。
    「……少しは実戦もあったから……身体はそれなりに動くわ……」
    「いいですね、そうあって欲しいものです」
     血にまみれようとも悠然たる口調に変わりもない。観戦を続けていた華月は、試合が終わる前に参戦することにした。
    「私の子達も大きくなったんですよ」
     ほら、と影の猫たちを紹介してみせる。じゃれつく仕草が自由を奪い封じこめたが、微笑んで猫を引き剥がした撫子の槍は、刹那かすんだ。
    「痛たた!」
     鋼の糸を絡め取った槍がしたたか檸檬の腹に突き刺さる。
     悲鳴をあげた彼女にはそれ以上追撃せず、撫子は振り返りざま手徒の刀を跳ねあげた。回転する十文字槍の隙をつき、十牙が鋼すら砕く拳撃を腹に捻じ込む。
     一閃、反撃の燃え上がる払いで斬り裂かれ、痛みと熱さに十牙は呻いた。雷をはらむユイの拳をまともに食らい、たたらを踏んだ清音が詠唱圧縮した矢をユイへ撃ち込む。
     加速する撫子と紅緋の視線が交差した。
     かろうじて視認できる槍の穂先を紅緋は鬼の腕で真っ向から迎え撃った。加速した十文字槍が螺旋を描いて鬼の腕に突き刺さり、抜けないように紅緋が力を込める。互いに身動きもままならぬまま、赤黒い影が撫子の、撫子のダイダロスベルトが紅緋の咽喉を抉らんとした一瞬。

     時が凍りついたように二人は止まった。

     紅緋が笑みをこぼし、撫子も無造作に彼女の腕から槍を引き抜くと微笑む。
    「ここまでとしましょうか。お疲れさまです」
     見ているものすら戦慄するほどの殺気に溢れた試合は、唐突に終わりを告げた。観客席にいるエスパーたちからすれば、声すら出ないほどの戦いだった。
    「……感謝する……良い試合だった……」
     一礼した十牙の膝ががくりと崩れた。呆れるほどに本気だったのは誰もが同じだ。久しぶりの全力の激突を終えて、撫子は変わらぬ笑顔で微笑んだ。
    「それでは、寮生の皆さん。帰りましょうか」

    ●撫子荘でのんびりしよう
     少しばかり激しめに旧交を温めた一行は、そのまま学園から撫子荘へ移動した。
    「お帰りなさいませ皆様。多少様変わりしておりますが、皆様の心の故郷、撫子荘は本日も健在でございます」
     一足先に戻っていたユイが玄関口で出迎える。10年前から現在に至るまで撫子荘に残ってメイドとして撫子を支えてきた彼女にとっては当然のことだ。
    「ふふふ、久しぶりにやってきました撫子荘」
     激しい戦いの後など感じさせない快活さで檸檬が声を弾ませる。撫子の帰還を知って出てきた少年少女たちが、『先輩』である灼滅者たちに目を瞬かせた。
    「この子達がここに今住んでいる子達です。 そしてこちらの方々は、10年前此処に住んでいた方々。存分にお話ししてくださいね?」
     撫子の紹介で、おずおずと、あるいは興味津々にエスパーたちが灼滅者へ自己紹介を始める。現役の学生を前にすれば、流れた歳月を否応なく実感した。
     撫子荘そのものは手直しやリフォームを経ているが、間取りや庭の景色はというと。
    「わー変わってませんね。お昼寝した縁側はまだあるでしょうか」
     ぱたぱたと広間や台所を覗いた華月が歓声をあげる。彼女が襖をあけ放つと、縁側には少し驚いた顔の不破・九朗(d31314)がいた。見事な紅葉や銀杏の配された日本庭園を眺めていたのだ。
    「あ、お留守の間にお邪魔しました」
     廊下の向こうから古海・真琴(d00740)も顔を出した。灼滅者は引退状態の彼女は、直接撫子荘に来て待っていたらしい。
    「お待たせしちゃいましたね。皆さんでお茶にしましょうか」
     撫子に促され、九朗は立ちあがって合流した。一通り屋内を回って満足した華月が、台所で結城と手分けして人数分のお茶を淹れてテーブルへ並べ始める。
    「もうすっかりお姉さんですね」
    「お姉さんよりすっかり、お母さんな雰囲気かも?」
     ほんわか笑った華月がちょっと身を乗り出して首を傾げる。
    「どうです? 少しは撫子お姉さんに近づけました?」
    「そうですね、素敵ですよ」
     笑顔で頷く撫子に、紅緋が広間や襖の向こうの庭園を眺めて微笑む。
    「ここは、今でも変わっていませんね」
    「……本当に……久しぶり……」
     お茶で咽喉を潤した清音がこくりと首肯する。結城からお茶を受け取った檸檬は、今の住人であるエスパーたちに世話を焼く撫子へ笑顔で話しかけた。
    「ずいぶん貫録がついたねぇ~撫子ちゃん」
    「そうですか? この10年はどうしていたんです?」
    「わたし?この10年は芸能関係の仕事をしていたよ。主に裏方で色んなコンサートや演劇のプロデュースをしたりね。お姉ちゃんももちろん元気元気」
    「私はサッカークラブのコーチをしていますよ」
     今度は真琴が報告を始めた。実は武蔵坂にもスポーツ理論研究者として残っているので、天狗丸で『撫子荘』の前や上空を通っていたりもしたのだが。
    「まさに通っていたと言うだけで……」
     たはは、とご無沙汰ぶりに苦笑する彼女に撫子がくすりと笑う。
    「紅緋ちゃんはどうしていたんです?」
    「近況といっても、宗教がらみのややこしいお話ばっかりですから、面白くありませんよ?」
     役職持ちの紅緋からすれば、ここで話せないことも多いのだろう。代わって九朗が湯呑を置いて口を開いた。
    「僕はサイキックアブソーバーや超機械についての研究を行っています」
     大学を卒業した彼は、人造灼滅者の霊子強化ガラスやグローバル・ジャスティスが作ったという『ダークネス生殖化装置』、サイキックアブソーバーのような特殊なものの研究を続けている。
    「再現は超機械創造の力を持つラグナロクのみが為せるというが、それを灼滅者のサイキックや現代科学で再現出来ないか、という試みだね」
     続いて水を向けられた清音は、昔と変わらぬ口調で話し始めた。
    「……私は……卒業してからは……世界中を旅していたわ……歌を歌ったり……聞いたりしながら……ルナの代わりに……色んな音に触れようと思って……」
     帰ってこれなかった彼女のことを忘れたことはない。
    「エスパーの能力も沢山見たわね……印象に残ってるのは……木霊を起こせる人かしら?」
     全員の顔に浮かんだ『こだま?』って感じの表情を見て取り、清音がぽつりと続ける。
    「……一人輪唱をしていたわ……」
     一人輪唱。
    「それはちょっと聞いてみたいですねえ」
     撫子はくすりと笑い、広間の端で聞いていた十牙が感慨深げに呟いた。
    「……皆、色々とあった様だな…」
     十牙はと言えば、世界各地を旅して残存する殲術道具の収集をしていた。紛争や犯罪への武力介入を行うこともある。

     撫子やユイたちで用意した心づくしの料理を味わい、かつての寮生たちは思い思いにゆっくりした時間を過ごした。手徒はほとんど顔を出すだけで帰って行ったが、他のみんなはまだ寛いでいる。
     その間に露天風呂へ入り込んだ真琴が、懐かしい景色に感嘆の声をあげた。
    「ここでしたか~そういえば、学園祭で足湯でお世話になってて……」
     ごそごそと持ちこんだのはクーラーバッグ。中には大量のアイスやカップかき氷が詰めてある。それを露天風呂の入口へ配して、ふうと息をついた。
    「ここで食べるわけにはいきません、けどね。久瑠瀬先輩や腕試しに参加された方々への、餞別です」
     久しぶりにライブハウスで暴れてきたのだ、こんな楽しみがあってもいい。仕込みを終えて出てくると、檸檬がうきうきと水着とタオルを手にお風呂へ入っていった。
    「久しぶりにのんびりしようっと♪」
     彼女にバスタオルを渡したユイに、手徒が首を捻って問いかけるのが聞こえてくる。
    「以前とは口調が違っているよね?」
    「いまの私はメイドですから」
     給仕に駆けずりまわる横を通り抜け、九朗は再び縁側に座って、いつかのように庭を眺めてみた。
     子供だった自分、ここで暮らしていた日々の記憶が鮮やかに蘇る。昔使っていた部屋はもう今の生徒が使っているだろうけれど、ここで暮らしていた懐かしさは止められない。
     懐かしい一方、今は自分がちゃんと自分の足で歩いている、という事もまた事実で。
     少し離れた畳の上で、十牙がぽつりと呟いた。
    「……平和になってもう十年か……、早い物だな……」
     あっという間だったような気がする。
     かつて戦いに明け暮れた日々、ここに帰ることで日常へと戻ってこれた。

     仲間とのひと時の邂逅。
     時は遥かに過ぎてゆき、あの頃へ時は戻らないけれど。
     あの頃の思い出を抱いて、彼らはこれからも生きていく。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:11人
    結果:成功!
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