クラブ同窓会~綺蹟の惑星

    作者:夕狩こあら

    「ふあ~、月が綺麗ッスねー!」
    「仲間があそこで待っていると思うと不思議だわ」
     日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が冴月を仰いで嘆声を零す隣、月光に白皙を照らされた槇南・マキノ(弥勒・dn0245)が薄く頬笑む。
    「自分、初めての月旅行に緊張してるッス」
    「……実は私も」
     刻下、月へと向かう船の出発を前に、二人は其々に宛てられた招待状を改めて読み返す。
    「月面探査基地にて『月見』ならぬ『地球見』を開催するなんて、アリスの姉御はお人形みたいな澄まし顔で大胆な事を考えるッス!」
    「聞いた当初は驚いたけど、とても素敵な企画よね」
     芳しい馨香を漂わせる古欧風の封筒、封蝋に捺された壮麗な印璽は紛れもない、あのアリス・ドール(絶刀・d32721)のもの。
     彼女より同窓会主催の知らせを受け取った二人は殊の外喜んだものだが、開催場所が月面探査基地――まさか地球を離れるとは度肝を抜かれた。
    「でも、アリスの姉御らしいっちゃらしいッス」
    「そうね。『あの場所』と雰囲気が似ている気がするんだもの」
     あの場所、と二人が思い浮かべる空間はひとつ。
     音も光もない、静かな外の宇宙空間は、すでに閉じられたあの部室――そう、嘗てアリスを収めた【開かずの人形部屋】と似ているのだ。
     ノビルとマキノはこっくり頷いて、
    「アリスの姉御らがダークネスから守り抜いた地球を、自分達が住む惑星の平和を、月から眺めるンす!」
    「青い惑星(ほし)を見ながら、静かにあの頃を振り返る……とても良い時間になりそう」
     十年前。
     灼滅者が何を護り、守り続けたのか――目に見る事は難しい。
     だが大地を離れた月からなら、瞳に迫る青の美しさに其を感じる事が出来るだろう。
    「早く皆に会いたいわ」
    「アリスの姉御は息災っすかね!」
     何故だろう、懐かしさと共に嘗ての雄渾まで蘇ってくる。
     笑みを交した二人は、そうして再び月を仰いだ。


    ■リプレイ


     とめどない茫漠、時すら忘る久遠――全き静寂の世界に無線通信が疾走る。
     電波に変換された音声こそ無機質だが、マイクに向かう主の声調は懐かしく、聴く者を郷愁に誘う。

     ――おーいアリス! 聞こえる? 久しぶりじゃねえの、元気してた?
     ――今、陽司君とそちらに向かっています。小さなクラス会になりそうで楽しみですね。

    「アリスが同窓会をやるって、会場が月とは流石、俺のクラスメイトだ!」
    「月面基地とは、十年前は考えられなかった場所ですね」
     其が肉声に変われば、一気にあの頃の――武蔵境キャンパスで談笑を交した青春時代に時を戻される。
    「……二人共、月へようこそ」
     ほんのり微笑を浮かべて旧友を迎えるは、此度、月面探査基地での同窓会を発起したアリス・ドール(絶刀・d32721)。
    「……遠い所まで来てくれてありがとう。嬉しいよ」
    「陽司君と船が一緒で、道中はあっという間でした」
    「家内も連れてくりゃ良かったな。二人に会ったって話したら、悔しがるかも!」
     彼女は月往きの船を同じくした加持・陽司(世界の篝火・d36254)と月影・木乃葉(狼に心囚われた赤頭巾・d34599)の変わらぬ仲の良さに窃笑しつつ、基地内部へと案内する。
     扉を開けた先では、既に榎・未知(浅紅色の詩・d37844)がビハインドの大和と月ならではの浮遊感を愉しんでおり、
    「あっ、陽司さんに木乃葉さん! 月で会うなんて奇遇だなあ」
    「未知さん!」
    「この十年で月旅行ができるとは思ってもなかったけど、折角の機会だし俺も来た!」
     初めて得る感覚の全てに輝く清澄の眸が、懐かしい顔ぶれに柔く細む。
     折角の貴重な機会だからと成層圏を飛び出したのは彼だけではない。
    「やったぁ、月への一歩はあたしの勝ちです!」
    「んおおぉぉっ、でも宇宙の匂いを嗅いだのは自分が先ッス!」
     十年経ってもライバル関係は変わらぬか、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)と日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)は互いに先んじようと、年齢も忘れて走って来る。
     二人はアリスの前で頬笑を揃え、
    「アリスの姉御! お招き頂きありがとうございますッス!」
    「今回は参列させてくださり感謝です!」
     続々とやって来る参列者を迎えるアリスの隣、犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)は彼女に代わって施設内を紹介するサポーターを務める。
    「皆、いらっしゃい。中々来られない場所だし、ゆっくりしていくといい」
     その指に嵌められた指輪は、アリスと対を成す夫婦の証。
     忙しい中にもふと瞶め合う瞬間が微笑ましく、次いでやって来た槇南・マキノ(弥勒・dn0245)と戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)にも笑顔が移る。
    「二人は慥か6月に式を挙げたのよね。改めて、結婚おめでとう」
    「戦場で轡を並べた仲間として、とても喜ばしく。おめでとうございます」
     二人から祝辞を寄せられたアリスは、淡い麗笑に礼を返すが、再び瞳を持ち上げた彼女に映る蔵乃祐はどこか神妙で、
    「厚意に甘える形で恐縮ですが、今は場をお借りして最後の冒険がしたく」
    「……最後の、冒険……?」
     何卒御容赦くださいね、と言い足す彼について、多くを語らずとも理解るのは、灼滅者として死線を潜った同士だからか、或いは既婚者故にか――人形姫は、唯、こくんと頷く。
     頑張って、とその背を送り出したアリスは、時に自身の背中にぎゅっと抱き付いたエミーリア・ソイニンヴァーラ(おひさま笑顔・d02818)に振り向かされ、懐かしい香に包まれる。
    「わふ~! アリスねえさまが同窓会を開くと聞いて来ましたがっ! 月に集合だなんて、発想がすごいですっ☆」
     鈴を振る様な声に続くは、軽やかな足取りで靴音を奏でるコルト・トルターニャ(魔女・d09182)。
    「お人形に、操り糸を持ってきたわ。そしてティーセットも」
     彼女は片手に下げたバスケットを小気味よく持ち上げ、
    「……うふふ、月のふわふわお茶会と行きましょう?」
     と、時を経て変わらぬ嫣然を零す。
     参列者を模した人形が愛らしく部屋を飾れば、そこはまるで嘗て【開かずの人形部屋】と呼ばれた空間になって――不思議なティーパーティーが始まった。


    「地球よりも、ずっと軽い!」
     愛用の箒に跨ったコルトは随分と違和感を覚えながら、カモミールティーを淹れたカップを傾ける。
     繊麗の指に結ばれた糸の先では、可愛らしい人形達もまたふわふわと月世界を踊って、一同の会話を愉しげに聴くよう。
    「先月はブレイズゲートの消滅に付き合った訳だけど。ブレイズゲートと言えば、アリスさんとは連れ出された縁から親交が始まったかしら」
     慥かあれは……とコルトが記憶を遡れば、エミーリアは自分とそっくりなワンコ人形を撫でつつ口を開き、
    「思えばアリスねえさまとの出会いは、わたしが小学6年生に進学した、2015年の4月……」
     と、未だ褪せぬ思い出をニコニコ顔で語り出す。
    「とーとつにブレイズゲートに連れ出してもらって『……こ、これ……お礼…………そ、そそ、それじゃあ……」と足早に逃げ去ってくアリスねえさま。思わず『……わふ?』と、ぼーぜんと見送るわたし」
    「アリスは人見知りだったし、その時の光景が目に浮かぶよ」
     吃々と相槌を打つは給仕も務める沙雪。
     彼が紅茶の馨を運ぶ傍ら、エミーリアは懐かしい物語を紐解いて、
    「その後も、何度も連れ出してもらっては『……は、話すの……苦手だから……な、なな、治そうと……色々な人に……こ、声かけてるの……』と言って、逃げていくアリスねえさまでした……」
    「エミーリア言わないで~、思い出すと恥ずかしい」
    「わふ~♪」
     含羞に色付く頬に手を宛てるアリスを目に愛でる。
     続くコルトも思い出を添え、
    「刀で切り開くアリスさん、頼もしかったわ」
    「アリスの姉御は虫も殺さない様な綺麗な顔で、ずばんずばん斬り裂いていくギャップがカッケーっす!」
    「もう、ノビルさんまで……」
     彼女が変わったとは、エミーリアをはじめ卓を囲む仲間も強く感じよう。常に無表情だった佳顔には微笑や苦笑が浮かび、あの頃より幾許か豊かになった。
     たどたどしい口調は多少の名残はあるも、優しい、柔かな口調へと変わっている。
     アリスと日常を過ごした木乃葉と陽司も、彼女に訪れた佳き変化に瞳を細めつつ、
    「俺はクラスでの何気ない会話も良い思い出だな」
    「お会いしたのは中学2年のクラス移動の時ですから、もう長い付き合いになりますね~」
     どれだけの日々を共にしたろうと、過ぎ去りし日を懐かしむ。
     蓋し全てが平和な毎日であった訳でなく、サイレーン灼滅戦後の闇堕ち事件などは、アリスと、彼女を取り巻く友達にとって大きな転機の一つとなったろう。
    「お会いしてすぐ闇落ちされて……皆で呼び覚ましに行った事もありました」
    「……あの時は皆に心配かけちゃった。ノビルさんの予知が無ければどうなってたか」
    「姉御は自分が初めて闇堕ちを予知した灼滅者で、あの時は姉御が戻ってきてくれるかマジで不安だったんスけど、こんな風にまた月で会えるなんて……本当に良かったッス!」
     闇堕ち時には皆々に助けられたアリスだが、彼女もまた多くの灼滅者を危機から救い出しており、陽桜も救援の手を差し伸べられた一人。
    「アリスさんには、魂の改竄で失敗して独房に閉じ込められてた時、助けてもらったのです。その節はお世話になりました♪」
    「姉御ほどの実力者を引っ張り出せる灼滅者は中々居ねーっスもんね。タマスィーの暴走が止められて良かったッス」
    「はいっ」
     救い、救われ。
     絆を縒り合わせて美し絹布と成す灼滅者達に、ノビルも一入の尊敬の眼差しを注ぐ。
    「皆がアリスと知り合ったきっかけとか、聞いていると面白いな」
     と、端整に淡い艶笑を湛えて言つは沙雪。
     彼は尽きぬ思い出話に紅茶が冷めぬよう、ポットにティーコージーを被せながら話を聴く。
     華やかな円卓は饒舌を誘うか、木乃葉は馥郁たる馨に癒されつつ口を開き、エミーリアはコルトが用意したお団子風カスタードマカロンを手に佳声を転がす。
    「今はたしか小学生の先生ですっけ? 成績学年トップだったアリスさんにピッタリです」
    「アリスねえさま、がんばりましたね♪ えらいですっ☆ あたまなでなでしてあげますね!」
     二人の話を聴いて教壇に立つアリスを想像したコルトは、微かに冷気を帯びたペンデュラムを揺らして言ち、
    「どんな子が育つのかしらね、アリスさんの学生さん」
    「コルトの姉御、まさかお気に入りを見つけてお人形にしようとか……無いッスよね?」
     ノビルが震えるのも無理はない。
     今や氷の魔女は悪い灼滅者を獄に繋ぐ刑務官――特にヤンチャな子は魔法で彫像に変えられちゃうとの噂があるからなのだが、
    「今は牢屋で鞭はたいたり、魔法でお仕置きしたりする看守やってるけど」
    「お仕置き、とは……」(ごくり)
     あくまで噂であろうか。
     どうか噂であって欲しい。
    「んんんンンンえっと! 自分は兄貴と姉御が今何してんのかもっと聞きてーっす!」
     ノビルが汗だくで助け船を出した相手は陽桜。
     翠瞳を注がれた花顔はふんわり咲んで、
    「あたしは旦那さんと和カフェ運営してるのです。機会ありましたら、遊びに来てくださいね♪」
    「お店の名刺欲スィっす。激マブの奥様誘って行くっすよ!」
    「ノビルさん、ちゃんとしっかり旦那さんしてますか?」
    「勿論っす! 自分が作る奥様専用味噌汁は天下一! 姉御の嫁業といい勝負っす!」
     と、いつしか約束した幸せ競争をして見せる。
    「因みにマキノの姉御は――」
     そうしてノビルが卓を見渡した時にパフェが運ばれたのは至妙であったろう。
    「学園の同窓会なんだし、ここはひとつ」
     料理の腕に覚えのある沙雪は、2015年の芸術発表会の創作料理部門で表彰された『ナノナノパフェ』を今の時代に合わせてバージョンアップし、月限定『ナノナノパフェスペシャル』を皆に振舞う。
    「さぁ、どうぞ召し上がれ」
    「わふ~♪」
     零れるは歓喜か嘆声か。
     皆々の視線を一気に釘付けにした沙雪は、配り終えて尚も二つ残るパフェを、密かに庫へ取り置いた。

     基地内で最も壮大な外景を見せてくれる窓際で、マキノと蔵乃祐は故郷の惑星を眺める。
    「月でこうして逢えるなんて……誘ってくれたアリスちゃんと、世界を平和にしてくれた灼滅者の皆と、それと、今日の時間を作ってくれた蔵乃祐さんに感謝しなきゃ」
     蔵乃祐さん、と面映ゆそうにつつやく彼女が、彼と距離を縮めたのは最近の事。
     大戦後、其々の道を歩いていた二人は、やっと交わった道辻で時の針を合わせ、刹那を惜しむ様に盤上を巡っている。
     嬉々と地球を眺めるマキノの隣、蔵乃祐は同じく窓景に視線を注ぎつつ、
    「十年前から、色んな場所で待ち合わせが出来ていたら……と考えてしまう毎日です」
     優し声の低音に振り向く彼女に、自嘲を含ませた苦笑を見せる。
     言は続いて、
    「僕、結構白髪が増えてしまったんですよね」
     学園を通せば幾らでも連絡出来たのに。自分に度胸が無かった不甲斐なさの顕れだろうと、くしゃり、頭を掻く。
    「、そんな」
     髪に触れるくらいには近しくなったマキノは、彼を労らんと手を伸ばすが、刻下その手は耳に近付いた処で温もりに包まれる。
    「遅くなってしまってごめんなさい」
     灰色の眸は真直ぐ。
     逆の手に小さな箱を開けて。
    「マキノさん。この指輪を受け取って貰えますか? 僕の人生この先全てを、貴女と共に分かち合いたい」
     言は実直に、環は燦然と。視線を繋いだ先、マキノの時を止める。
    「……私、普段は落ち着いてる方だけど。貴方にはいつもドキドキさせられるの」
     彼に魔法を掛けられたのはいつのことだろう。
     誕生日には会えなくて。後日に向かった戦場で、「お誕生日おめでとう」と祝いの言葉を届けてくれる彼に、いつも驚かされ、いつしか惹かれていた。
     彼がくれた恋の感情を反芻したマキノは、塊麗の微笑を添えて、
    「私を全部差し上げます。蔵乃祐さんに全てお捧げします」
     凡そ欲しがらぬ彼女が、初めて願い出る。
    「戒道のお名前をください。貴方の道を、一緒に歩かせてください」
     永遠に、永久に。
     ずっと傍に置いて欲しい、と語尾は震えて。
     そうして差し出された白磁の指に環を通した蔵乃祐は、薔薇色に染まる佳顔を瞶め、
    「宜しければ指輪を嵌めた貴女の手の甲に。誓いの口づけをお許し下されば」
     と、身を屈めた。


     月面探査基地での同窓会を企画した人形姫は、流石というべきか、提案が粋で大胆だ。
    「……月面に出てみませんか?」
     月の砂漠を歩いてみようと言うアリスの誘いには全員が驚いたものの、灼滅者たる冒険心や好奇心を刺激された彼等は、久方の昂揚に基地を飛び出す。
     先ずは肉眼に迫る青に息を呑もう、未知は天藍の瞳を皿の様に丸くして、木乃葉も圧倒的な存在感で迫ってくる命の惑星に嘆声を零す。
    「並の事しか言えないけど……でかい! 青い!!」
    「……『地球は青かった』とは有名な言葉ですが……えぇ、生で見るのは違いますね……」
    「あまりに壮大過ぎて、『俺らが守り抜いた地球』って言ってもピンとこないなぁ」
     白く棚引く雲の下に模られた大地には見覚えがある。
    「あれは、アフリカ大陸……十年前にはエチオピアに行きましたっけ……」
    「ダークネスとでっかい戦争をした時は世界の色んな地域に行ったから、最終的には宇宙に行くかな、なんて思ったんだ。最後の敵、コスモダークネス!! みたいな」
    「ふふふ、その時は月が凱旋の地になっていたかもしれませんね」
     二人が会話する隣では、陽司が今の感動ごと切り取らんとカメラを構えており、
    「こうも被写体が立派だと腕が鳴る」
    「やはり本職ですね。ここは地球で待つ奥さまに、綺麗な写真を撮って帰らなきゃ」
    「……それ、プレッシャー」
     と、シャッター音に苦笑を被せて。
     プロでなくとも、この絶景にはカメラを向けたくなるだろう。陽桜は【葵桜】を揺らしたカメラで青い惑星を撮影し、
    「地球って、本当にこんなに青く見えるものなのですねぇ。この景色はしっかりカメラに収めて、帰ったら旦那さんと共有するのです」
     撮る側に居る夫を思い起こし、にっこり花顔を綻ばせる。
     皆々の感歎を挟んで地球を眺めるコルトはというと、
    「地球は青かったって、絶対誰かが言うと思ったけど。皆が皆、言うなんてね」
     でも、それくらいこの惑星は青くて美しいのだ――とも思う。
    「この惑星に何億もの命が息吹いていると思うと、迫るものがあるね」
    「……平和になった今の世界にも、授業を受けられない子供達がいると思うと……立ち止まっていられないなぁって……」
     獣医たる沙雪は命を見、海外教育にも力を注ぐアリスは子供達の姿を映して――嘗て名もなき者の為に戦った二人は、今も別なる方法で彼等を守っている。
     扨て青き地球が彼等を吃驚に満たしたなら、月は一同の無垢な童心を誘おう。
     広大な荒涼が自由の心を解き放ち、
    「十年前から、海外で暮らしたりと地球内はそれなりに足を運んだ気もしてるのですけど、こんな風に月を歩くなんて、感激なのです……っ」
     踏み心地が、こう……と藍瞳をキラキラさせる陽桜。
     その直ぐ傍をノビルは颯爽と駆け抜け、
    「ククク。今なら姉御に勝てそうな気がするッス! ダッシュっす!」
    「あら。箒ならあっという間よ」
    「あーっ!」
     コルトはその背を更に追い越して。
     一方の未知は何やら色々と担いで四方を見渡し、
    「月には兎が餅つきしてるっていうよね。この裏側でうさみっちがお餅ついてるかもね」
    「……これは何の準備をしているんです?」
    「木乃葉さん。俺、動画投稿サイトで稼いでるんだけど、月に行ってみた動画とか撮ったら面白いかなって」
     大和を映してベストプレイスを探っていたカメラは、瞬刻、ふんわりと画面を横切る陽司を追い掛けた。
    「国際情勢のしがらみと、ついでに重力から解き放たれて身軽だね」
     幾許の皮肉を添えた彼は、果てなき空間を仰ぐや何か閃いたようで、
    「良い記事の種思いついた。その内エスパーも地球の外に適応するのかも」
     と、直ぐにもペンを走らせる、ジャーナリスト魂は裡に秘めた炎の如く熱い。
    「俺は動画配信主でも記者でもないけど、動画か写真は撮っておきたいよね。記念に」
     沙雪の声に頷いたアリスは、ならばと手を振って一同に呼びかける。
    「……私達の住む星……皆で守った星。……皆さん、地球をバックに写真撮りませんか?」
     是非もない、と集うは頬笑。
     月での茶会で絆を強めた灼滅者達は、主催者のアリスを中心に集まり、十年前と変わらぬ笑顔をカメラに向ける。
     この時ノビルは、凄艶に近付くや当初より(若しか全員が)抱いていた疑問を口にして、
    「因みにアリスの姉御。いったい基地の手配はどうやったんスか?」
    「……それは秘密です。……守秘義務がありますので♪」
     にっこり。
     其は何処か悪戯な、人形姫の極上の咲み。
     その瞬間にフラッシュを炊いたカメラには、今日一番の笑顔が撮れていた。

     青い惑星、命輝く地球。
     今日び『地球見』を愉しんだ仲間達は、再び大地に戻って其々の道を往く。
     素晴らしい時間は過ぎようとも、仰ぐ月が今日の記憶を鮮やかに呼び覚まし、未来へと進む背を押してくれるに違いなかった――。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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