クラブ同窓会~人の憩

    作者:中川沙智

    ●wonderful day
     雨咲・ひより(フラワリー・d00252)が取り出したのはチケットだった。
     よくよく見ると、パステルカラーを基調としたポップなイラストが施されたそれには『メリーワールド無料招待券』と書いてあるようだ。それなりの量があるらしい。
    「メリーワールドって今年出来たばかりの大きなテーマパークなんだよね。ちょうど職場の上司からたくさん招待券をもらったの。だから久々に皆で集まって、遊びに行けたらいいなあと思って」
     年月を経てもひよりの持つ柔らかな空気は変わらない。手に提げていたバッグから、何やらパンフレットを取り出したようだ。開いて見せる。
     表面にマスコットキャラクターなのだろう、キュートな二頭身の羊が描かれている。名前はメリーさん。ふわもこ星から来たらしいが真偽は不明だ。どうやら園内で遭遇したら一緒に写真が撮れるらしい。
     入場門にはふわもこ星(パステルカラーのリボンや星で飾られている。本当にもこもこしているが触ってはいけない)のモニュメントが据えられている。
     メリーワールドは独自のアトラクションを取り揃えたというよりは、昔ながらの定番遊具を恙無く備えているのが売りらしい。レトロでノスタルジックでスイートな世界。ジェットコースターに観覧車、ティーカップにメリーゴーランドなど。目新しいものはないが、各乗り物の意匠がメルヘンチックで可愛らしい。フォトジェニックな事請け合いだ。
     レストランやカフェは充実している。メリーさんを模ったパンケーキ、メリーさんの好物であるマシュマロを用いたスモア、木の実をふんだんにあしらったワッフルなど。メリーさんのふわもこスリーブつきのカップで飲むホットドリンクが人気らしい。本格イタリアンからカフェ飯まで幅広く取り揃えられているから腰を落ち着けて昔話をしたくなったらこちらへどうぞ。
     夜になるとライトアップが行われる。イルミネーションが至る所で輝きを放ち、まるで星空の向こうのメリーワールドに本当に辿り着いたみたい。散歩道がある庭園もあって、跳ね橋や星を模った東屋、レンガの小路をゆっくり散歩するのも悪くない。
     灼滅者が勝ち取った夢と希望に溢れた世界ならではの、メリーワールド。
    「当日会えたら、きっといろんな話を聞かせてね」
     ひよりが微笑みを咲かせる。
     さあ行こう。虹のふもと、宝物が埋まっているふわもこの星へ。


    ■リプレイ

    ●メリーワールド
     本日晴天。
     秋晴れの空は高く澄んでいる。メリーワールドは今日も賑やかだ。
     入場門のふわもこ星モニュメントの前で、ひよりがくるりとターンしてみせた。
    「絶好のお出掛け日和だね!」
     視線を巡らせれば昔馴染みの仲良しの顔がたくさん。それだけで嬉しい。久し振りの人もそうでない人も、初めましての人も。今日は誰もが等しく夢の世界の住人だ。
    「はじめましての人もよろしくねー!」
    「はい、是非一緒に遊んで頂けると嬉しいです!」
     遊園地も久しぶりだけれど、また皆と会えた事が感動的で、恵の頬はついつい綻んでしまう。隣のアンリエット・ピオジェ(ローズコライユ・dn0249)も揃って笑顔になる。
     ひよりの快諾もあり、風峰一家もメリーワールドでの一日を楽しもうと参戦している。家族を代表して大黒柱の静がひよりに目礼した。
    「今日は招待券融通してくれてありがとね。いっぱい楽しませてもらうつもり」
    「ですです。子供達もはしゃいじゃって大変ですよ」
     娘の琴の手を引き、ベビーカーできゃっきゃする息子の響をあやしながら、仁恵もご挨拶。ひよりは嬉しそうに笑顔解けさせつつ、可愛い子供達に「今日は楽しんでね」と許されるなら軽く頭を撫でていたかも。
    「うわん、ふわふわして理想の世界ーっ」
    「うはは、るねさん超生き生きしてる」
     嘗て瑠音やひより、七星が遭遇したふわもこに相通じるようなもふもふなメリーさん。何となく懐かしい気持ちで瑠音が嬉しげに目を細める様に、春もつられてはにかんだ。きっと今日も楽しい一日に違いないと確信が胸で躍る。
    「今日は思いっきり楽しもう!」
    「そうだなっ。春、紗奈。今日はよろしく!」
    「こちらこそ!」
     初対面ではあるがひよりの交友関係というだけで仲良く出来る気しかしなくて、七星と春、紗奈は絡んだもん勝ちとばかりにハイタッチ。
    「時が経ってもこんなに集まるなんてひよりの人望すげーよなっ」
    「ひよりん先輩の人望には同意するな。だからこそ空気が和やかなんだろうね」
     人望だなんて大袈裟だよ、そう照れ笑いするひよりが七星の肩を軽く押す。鴇永は一歩下がった立ち位置で、それでも輪の中にはちゃんと入っている。眩しそうに皆を見つめるのは、素敵な一日になるだろうと予感するから。
    「わたしはみんなに会いたかっただけ。今日は賑やかで嬉しいな」
     嬉しい楽しい、そんな気持ちはきっと全員共通だ。揃った面々の瞳はきらきらしている。
     入場門に備え付けられた、メリーさんを意匠した旗が秋風に翻っている。
    「じゃあ行こう! ふわもこメリーさんの待つメリーワールドへ!」
     ひよりの号令に皆が歓声を上げる。
     十年前のいつかみたいに、きらめく思い出をたくさん作ろう。

    ●スイートテイル
     メリーさんの顔を描いた風船が揺れる。園内BGMのラッパの音が軽快に、皆の背中を押していく。
    「ななおにーちゃん早く早くっ♪」
    「走って転ぶなよー?」
     瑠音がメルヘンな街並み模る曲がり角で手を大きく振った。
     昔に戻ったみたいな距離感が嬉しくて、ストロベリーブロンドを見つめる七星の目は優しい。
    「本当に遊園地の定番アトラクションが勢揃いだな! どこから攻めようか?」
    「迷う迷うー! でもまずはメリーゴーランドどうかな!」
     パンフ広げ童心丸出しの春の手許を覗き込み、紗奈がマップのある一点を指差した。賛成と声を上げた面々で歩を進めるは、メルヘンチックの代名詞とも言うべきメリーゴーランドだ。
     それはパステルカラーの星間を泳ぐような設えになっている。本来普通の馬だったりするそれがユニコーンだったり、ペガサスだったり。馬車は土星モチーフで、輪がLEDで光を放つ仕様。当然メリーさんの背中に乗れる座席まで完備だ。
    「ひよりちゃん早くいこ!」
    「わ、待って! ちゃんと行くからー!」
     紗奈がひよりの手を引く。紗奈はメリーさんの背に乗って、その隣のユニコーンにひよりが座る。くるくる回る、可愛らしくもノスタルジックな音楽に乗せて、夢の向こうに跳ねていこう。
    「わ、久し振りに乗ったけど楽しいね!」
    「うん! 春はちゃんと写真撮ってね!」
     二人の仲睦まじさを見守ってくれている彼に手を振って、記念の一枚を切り取ってもらおう。隣の大好きな彼女と視線を合わせて弾けるように笑う。
     巡る景色すら、夢の世界のバックグラウンド。外から見るよりずっと早く感じるのは、楽しい時間程過ぎるのが早いからかもしれない。
     ゆっくりと回転が止まったなら、ひよりはちょっと高いユニコーンの背から地面に降り立つのに躊躇を挟んだ。そんな時迷わずに、紗奈はひよりに手を差し出した。恙無く降りるためのエスコートだ。
    「そう。いつもこうして優しさをくれるのね」
     紗奈の華奢な手をそっと握って、ありがとうって微笑んで。親愛の温度を分け合いながら、当然だもんと紗奈は破顔した。
    「ひよりちゃんはわたしの友達でわたしのお姫様だもん」
     いつまでも、そうやって優しく笑ってて欲しい。
     だからきっとまた手を伸ばす。重ねて、繋いで、一緒に幸せを編み上げるんだ。

     一方ジェットコースター組。
     メリーワールドのジェットコースターは『2228年メリーフューチャー号』という名前の、宇宙ロケットを模したものだ。
     それでもスピードは本物の勢いのそれだし、コースは星雲を走り抜けるという触れ込みで、雲を抜けたら空のてっぺん! なんて驚きも楽しい。専用のフォトスポットもあるから、そこでスタッフが撮った写真を買い取ることも出来る。
     ふわふわ雲から飛び出してくるその撮影スポットを指差して、恵が笑顔を咲かせる。
    「ほらあそこだぜ、今の内に決めポーズ考えとこ!」
    「どうするどうする? 両手上げる? それともふわもこ戦隊的なポーズにする?」
    「戦隊なの? じゃあ皆で星を指差すポーズもいいかも♪」
     七星と瑠音も話し合いに参加。撮影スポットに出た先に太陽のモニュメントが飾られていて、それに手を伸ばすと太陽をつかまえたような、あるいは太陽を生み出したような構図にも出来るらしい。ので、それを狙おうという意見の一致。
     宇宙ロケットの最前方を確保して、一番前の一人席に瑠音が、二番目の二人席に恵と七星が乗り込んだ。
    「わー! めっちゃドキドキするっ。ほらほら、もうすぐ落ちるぞー!?」
     七星の煽りに恵もわくわくを押さえきれず噴き出して。
     めぐる巡るジェットコースター、徐々に最高点に到達する、そして。
    「きゃ――――――――!!」
     急転落下の宇宙旅行。太陽を見つけたら恵と七星が両側から持ち上げるように手を添えて、瑠音がバンザイのポーズをしたらまるで三人が太陽を召喚したみたい。その様子は写真にばっちり収められていると後で知れるから。
    「けーちゃんどんな顔してるかな、写真が楽しみ」
    「でも見るのちょっと怖いな~!」
     そしてみんなで写真の現物を覗き込めば。
    「うわ、ポーズ決まってるのにすげー変な顔……わわ、るねあんま見ないで!」
     半眼になっていた恵が写真を手で隠そうとしたけれど、生憎思い出のフィルムにばっちり現像されてしまっていた。
     ふと、今頃別行動の皆は何をしているかなって瑠音が視線を向ける。
    「そういえばお化け屋敷は色んな意味で絶叫かな? 鴇永くん色々仕掛けそうだし、あずまくんの顔も見たかったなぁ……」
     気になるけれど、きっと後で皆がいろんな話を聞かせてくれる。
     それを楽しみにして、ひとまずこちらも今をめいっぱい堪能しよう。

    ●ティンクルホラー
     メリーワールドのお化け屋敷は、満天の星の下で古びた洋館を巡るというミステリーツアー仕立てだ。
     レトロでクラシカルな洋館は居住まいこそ可愛らしいけれど、それでもひっそりと何かが憑いていると思わせるホラー感にあふれている。
     カンテラを手に、そろりそろりと廊下を歩く。館には明かりがついていない。星の光が照らしてくれるから歩くには不自由はしないけれど、まさに文字通り一寸先は闇、だ。
    「……けれどね。原因となったそのぬいぐるみは、今も、見つかっていないんだってさ」
     鴇永が語ったのは、洋館に住む末娘が大事にしていたぬいぐるみが発端となった怪談。パンフレットの解説に基づいた内容ではあるのだが、そこは七不思議使いの本領発揮。しっとりした語り口が恐怖を煽る。
    「ふ、ふーん。そりゃ、その女の子も怖かったでしょうねえ」
    「って事は、今もそのぬいぐるみは、この洋館をさ迷っているのか……」
     春が冷汗だらだら。しかし何も気にしてないとばかりに強がって笑みを貼る。ジェットコースター組から合流した恵も、鴇永の話を神妙に聞き入ってしまう。その傍らでアンリエットが恐る恐る、階段の踊り場で視線を上げた。
    「あ」
    「えっ何!?」
     薄ら光る何かが見えた。きょとり首を傾げるアンリエットに、春が声を裏返した。どれどれと鴇永が上を見遣ると、階段の壁に飾られている絵画が淡く光っているように見える。明滅するつぎはぎうさぎの輪郭が、半端に電気が通じているようにじじ、じじじ、そう音を立てているような気がする。
    「これ順路? 一気に駆け上がったほうがいいんじゃー―」
     早口で言いかけて、恵が後方にいる鴇永に視線を向けた瞬間だった。春もつられて目線を重ねてしまった。
     壁掛けの鏡からゆらり、ぬいぐるみの姿が浮かび上がった。
    「ぎゃっ!!」
    「わああ!!」
     春と恵の悲鳴が重なる。様子を見ていた鴇永が「これは多分映像を投射しているんだろうね」と手を伸ばしたら、ぬいぐるみの姿が透けた。
    「ま、まあ。驚いた時に叫ぶのは不可抗力な訳で」
     照れ笑いする春がついうっかり鏡を覗き込んでしまったら。
     背後に、ぬいぐるみを手にした血塗れの少女がいた。
    「ぎゃああああああああ!!」
     その叫びだって、当然不可抗力だ。

    「仁恵、羊のテーマパークとか君にぴったりじゃないの」
    「何年も羊ぶってきた甲斐がありましたね。……ありましたよね?」
     羊角飾り装備の娘と父親でティーカップにチャレンジだ。メルヘンチックなお茶会の世界にはしゃいだ娘が全力でハンドルを回したから、静達のカップだけ異様な高速回転を披露していた。
    「あっはっは、調子乗って回し過ぎだよ琴、……足元ふらっふらする」
     三半規管は灼滅者でも鍛えようがなかったらしい。ゆらゆら蛇行する静が娘の手を引きながら、手を振る妻と息子のいるところまで戻ってくる。
    「琴は思ったよりチャレンジフルな動きでしたね……」
    「新境地過ぎて未来が見えたね。ね、どう? 写真ちゃんと撮れてる?」
    「ああ、ハイ。静がくしゃみした瞬間もバッチリ」
    「あの凄まじいスピードの中でよりによってそのタイミングを……」
     ある種奇跡の一枚だ。まあそれでも、きっと後日見返した時に微笑ましくなること請け合いだ。
     まだまだ元気な娘が静の服の裾を引く。指で示したのはジェットコースターだ。
    「琴は次アレに乗りたいって。今度は君が一緒に行ってきなよ。絶叫系得意でしょ?」
    「確かにコーヒーカップであの動きなら琴も楽しめそうですね」
     満面の笑み浮かべる娘の柔らかいほっぺを指でつつきながら仁恵が問いかける。
    「ハイハイ、琴。じゃ次は母と乗りましょう。静、響の事頼……」
     というところで、ベビーカーにいた息子が目をぱちぱちさせていた。視線の先を追うと、そこには何とメリーさんがいるではないか。娘も瞳をきらきらさせている。
    「あ、ほらメリーさんが居る、せっかくだから写真撮ってもらおうよ」
    「おや。折角ですし捕えに行きましょうか。昔取った杵柄ってヤツです」
     手をわきわきさせながら一歩一歩近寄る仁恵。メリーさんがヒエッとしているように見えたけれどきっと気のせい。お写真よろしいですか、と仁恵が丁寧に告げればメリーさんも快諾してくれた。
     メリーさんに抱き着く娘、嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐ息子を見ていれば、何だここが夢の世界だったのかなんて気持ちになってくる。
    「知ってたかい。お母さんはメリーさんと同じふわもこ星から来たんだよ、あはは」
    「ふわもこ星人は狩猟民族なんです。昔は大量のメリーを捕えたモノですよ。嘘ですけど」
     嘘なのかよと突っ込む人は残念ながらこの場には存在しなかった。
     メリーさん写真撮影限定フレームに収まった四人はもれなく笑顔だ。
     家族で、皆で、思い出を分かち合うという事は、こんなに幸せなんだって再認識する。
     静の表情も緩めば、仁恵もつられて口の端を上げる。
     楽しい時間はまだまだ続くから、手を繋いで夢へ渡ろう。

    ●ワンダーランド
    「さーな。前の約束、覚えてる? アイス奢るよ、何が良い?」
     カフェスタンドで自分のカフェオレを確保しながら、メニューを指差し鴇永が問う。遅くなってゴメンね、そう告げる鴇永に紗奈が首を横に振った。
    「ううん、覚えててくれてうれしい。チョコミントがいいな! 好きなものもずっと変わらないの」
     紗奈はついでに絶対買うって決めていたふわもこスリーブを手にして満足顔だ。
    「春も買おう、おうちでも使おう。あとでお土産も見ようね」
    「あー紗奈すげー好きそう」
     結局男の子バージョンの水色蝶ネクタイメリーさんと、女の子バージョンのピンクのお花メリーさんのそれぞれをお買い上げ。あたたかい飲み物がもっとあたたかくなったような気がする。
     春は指先でふわもこスリーブに触る。色違いのふわふわが少し擽ったい、けれど、嫌だなんてちっとも思わなかった。
     パステルカラーのパラソルの下、飲み物やスイーツを並べれば笑顔も並ぶ。
     スモアを食みながら紗奈の微笑みは綻ぶばかり。
    「ふふ、しあわせの味。皆なに頼んだの? 一口交換しよ」
    「あ、じゃあボクのパンケーキはいかがですか?」
    「じゃあこっちも! 焼きたてワッフルアイスのせだよ」
     アンリエットと恵が一口切り取ってあーんと差し出す。幸せのお裾分けは、こころまで満たしてくれるから不思議だ。
     近況報告なんかも兼ねて、こんな素敵があったよ、こんな大好きを見つけたよ。そんな楽しい話題を重ねれば、おなかだけでなくこころも優しく満たされていく。
     だから、気づいたのは結構遅かった。
    「あ!」
     食べるのに夢中で写真に収め忘れた。紗奈は悔しそうに表情を曇らせるも、はたと気付く。
    「けど、また皆で来ればいいよね」
    「賛成!」
    「いいんじゃないかな」
     未来の約束を紡ぐように、またひとつ笑顔が弾けた。

     イルミネーション点灯の時間だ。
     手にはショップで買ったお土産の袋が揺れている。アトラクションも、庭園も、外灯も。星屑散らしたような輝きで満ちていく。
     みんなの笑い声を聴いてると、学生に戻ったみたい。ひよりの心が感慨に浸る。
    「なあひより、また遊びに行くよな?」
    「勿論だよ。また絶対、みんなで遊ぼうね」
     皆があんまり満ち足りた表情をしているから、ひよりがあんまり幸せそうに笑うものだから、少し目頭が熱くなった気がする。春はすんと鼻をすすった。
    「この光景、撮った写真、他愛ない会話一つ一つ。ちゃんと全部持ち帰ろう」
     春がスマホにで表示したカメラロールを見て、頬を綻ばせた。紗奈も頷く。笑顔は伝染する。幸せは、いつまでだって続いていく。
     だから瑠音は胸裏の感傷を飼い慣らして、ひよりの隣にそっと身を寄せた。
    「ありがとう、この時間は先輩のお蔭だよ」
    「みんながいてくれるからだよ、本当だよ」
     この時間になると少し寒いはずなのに、ちっともそう感じないのは、こころまであたたかい人達が側に居るからだ。
    「さなちゃんも、皆、あったかくて。ひよりん先輩が大好きなんだね」
    「うん! 本当に大好きだよ」
     大好きな人に大好きと言える幸福を抱きしめるように眺めていたら、イルミネーションの光が少し滲んだ気がした。
     星を繋いで星座を模って、夜空に引っかけたなら。今しあわせだなって、素直にそう思えるのが不思議だ。
     鴇永は皆からやや離れた後方で様子を眺めていたのだが、こっそり歩を寄せたひよりに気づいて笑みを刷く。
    「あの子達が幸せそうなら、今も昔も、ボクはそれで充分だ。そう、思えるんだ」
     双眸を細めて、鴇永は噛みしめるように囁いた。
    「……昔仲良かった子達がさ、今も仲良く、楽しそうにしてるのを間近に眺められるって、贅沢だよね」
    「そうだね。嬉しくて眩しくて……きれいだね」
     ひよりが思い出したのは、嘗て皆と駆け抜けた美しい思い出達。
     あの頃の日々は今日に繋がっていて、きっとこれからも続いていく。そう思ったら、心がじんわり温かい。目の前が潤んできたような気がして、こっそり眦を指先で拭った。
     静と仁恵の家族が天の川の向こうに見えたから、楽しいねって気持ちを籠めて手を振ろう。
     きっと紡いだ縁が、今日の全部が、明日を駆ける糧になる。

     終わってほしくない時間は、愛しくて消えない宝物。
     またいつかこの煌く記憶を分かち合う日を夢見ている。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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