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「はい、どうぞ。お砂糖は必要かしら?」
カフェ&グッズ【ホワイトキー】。三重県四日市市に拠点を置くこのカフェは2号店として桑名市にもひっそりと存在している。
そんな2号店店主の松原・愛莉(白き鍵と帰る場所の守り手・d37170)は現在、懐かしの地、武蔵坂学園の教室の一室で『出張カフェ【ホワイトキー】』を時折開いていた。
飲食物はホワイトキーが提供する以外にも持ち込み可。
好きなものを好きなだけ、と銘打って彼女が楽しんでいるのは学園での交流だ。
「ありがとうございます」
柔らかに告げた天野川・カノン(高校生エクスブレイン・dn0180)はホワイトキーで販売されている可愛らしいグッズを手にしながら幸福そうに頬を緩める。
「今日は、いろんな方をカフェにお招きしていると聞きました。……どんな方が来るのかな?」
何処かおっとりした口調で話すカノン。
カノンが学園OBやOGと話せる機会があれば、と愛莉は今日のこの出張カフェに彼女を招いていた。
「どうかしら? 誰かが遊びに来てくれると良いわね」
暖かな湯気。珈琲の香りが鼻孔を擽っている。
10年も月日が経てば懐かしくも感じる高等部の机を撫でながらカノンはくすくすと小さく笑った。
「10年経っても高校生みたいにこうして机に座るって不思議な感じ」
「そうね。ちょっとだけ、童心に戻ったみたい」
柔らかに笑った愛莉はがらり、と開かれる扉の音を聞く。
――いらっしゃいませ、カフェ【ホワイトキー】へようこそ!
●過ぎた時を思う
武蔵坂の教室は、かつての日々を思い出す懐かしい空気をまとわせている。
そんな教室内に、からり、と響く扉の音。
「こんにちはー。愛莉、久しぶり!」
「朱里さん、来てくれてありがとう。学生時代に戻った気分で、くつろいでくださいね」
明るい表情で駆け寄る市川・朱里(d38657)を、松原・愛莉(d37170)は温かく迎える。
朱里は今、数々の舞台で舞台俳優として活躍中だという。
「カノンとひなたは、たぶん初めまして、だよね。この店のコーヒーとロールケーキ、美味しいでしょ? あ、私もホットコーヒーとロールケーキちょうだい!」
屈託ない朱里に、笑顔でこたえる天野川・カノン(dn0180)と鈴森・ひなた(dn0181)。
和やかな空気の中、次々と集まる、かつての仲間達。
「愛莉さん10年ぶり! 俺だよ俺!」
「お邪魔します、松原先輩」
榎・未知(d37844)は歳月を経た分大人らしくなったようで、雰囲気は変わらず。一方の月影・木乃葉(d34599)は背も高くなり、落ち着きも増した様子。
「いらっしゃい、未知くん。木乃葉くん。ゆっくりしていってくださいね。ご注文は?」
「ボクはベイクドチーズケーキとカフェラテをお願いします」
「俺は学生時代から大の抹茶好きは変わってなくてな」
抹茶ロールケーキと抹茶ラテに目を輝かせる未知は、今でも抹茶メニューを頼まずにはいられないのだという。
教室でのカフェって学園祭っぽくて良いね、と未知はビハインドの大和と席につく。木乃葉は手の込んだ内装に目を細めた。
次に姿を見せたのは、シャオ・フィルナート(d36107)。
「こんにちは、なのです」
背は伸びたけど、童顔も、性別不詳ぶりも、昔のまま。シャオはアイスミルクティーとフルーツタルトを注文し、いい子に席についてキョロキョロと見回す。
話題は思い出話や、近況報告。未知は、この近所に住んでいるとのこと。
「旦那が学園勤務だから。1年位前に養子に迎えて、今は家族3人暮らし」
目に入れても痛くないという、未知の可愛い息子の話が聞けることも、愛莉には嬉しい。
ベイクドチーズケーキをゆっくり味わう木乃葉は、地元の花火会社に就職したそうで。
「もし花火が入用でしたら、いつでも声をおかけください」
いつか三重の店にも遊びに行かせて頂きますね、と語る木乃葉は、学生時代の柔和さはそのままに、社会人らしさも備えている。
今まであんまり皆とお話する機会無かったから、と話すシャオは、昔より言葉を覚えた分流暢に喋るし、色々吹っ切れた分よく笑う。
「僕は孤児院のお手伝いしてるよ。といっても基本甘やかし担当だけど。子供達にはシャオちゃん先生って呼ばれてまーす」
需要のある間に限り、裏で情報屋の仕事もしているというシャオ。
「朱里さんも、こっちにきてお話しよう。せっかくだからいっぱい話したいな」
「うん、シャオ、すぐ行くよ。待ってね、今、舞台上で身に着けるアクセサリーを探していて……」
近々公演があるという朱里を囲み 、皆であれこれとアクセサリーを選ぶのも楽しいひととき。
「……あ、いいのみっけ!」
最終的に朱里が選んだのは、小さな本の形をしたヘッドつきの革紐ペンダント。
藤崎・美雪(d38634)がひょっこり顔を出したのは、ちょうどそんな時だった。
「美雪さん、来てくれたのね。時間は大丈夫?」
「愛莉が出張カフェを開くと聞いたら、顔を出さないわけにはいかない」
大手商社勤めの美雪は、時々、ライブハウスやカフェで歌うこともあるという。
「きょうは少し顔を出す程度だが、久しぶりにホワイトキーのロールケーキも食べたくてな」
美雪はコーヒーとロールケーキを注文しようとして、テーブルの上に目を留め、自分の抹茶ロールも追加で注文。
久々に楽しむ絶妙な抹茶クリームに、未知は頬が緩みっ放し。大和も一緒に、はいあーん。
「愛莉さんとは知り合いの結婚式で何回か見たけど、面と向かうのはガチで久しぶりだね」
語る言葉は次々あふれ、思い出と共に場を満たしていく。
「紆余曲折あっても皆、それぞれの道を歩んでいるんだな」
皆の話に聞き入り、ロールケーキを味わいながら、しみじみと美雪が口にした。
●いままでも、これからも
家族全員で来店したのは、神凪家の面々。
「僕はサイドイッチとホットカフェラテで」
「私はフレンチトーストとホットカフェラテ」
神凪・陽和(d02848)と神凪・朔夜(d02935)が、早速メニューから注文をする。
「紅茶ロールケーキとホットコーヒーをお願いできますか?」
神凪・燐(d06868)が感じさせる包容力は年を経た今も変わらず健在で、むしろ増したかもしれない。
壱越・双調(d14063)が、愛莉に向かって苦笑した。
「家族揃って騒がしくてすみません」
「いいえ、来てくださってうれしいわ、双調くん。きょうは、お子さんたちは?」
「神凪のいとこ達とお留守番です。年長の子もいるので大丈夫かと」
愛莉に答えたのは、双調の妻である黎明寺・空凛(d12208)。
頑張ってるね、頑張ってますね、話は聞いてます。口々にかかる温かな言葉に愛莉は面映ゆさを感じながら、再会の話題に花を咲かせていく。
「本当に手慣れてるね、愛莉さん」
「名実共にカフェのマスターですね」
人数分の注文を手際よく用意する愛莉。双調には注文のアップルパイとミルクティー、空凛にはベイクドチーズケーキと紅茶を。
「僕は、内科で医者として働いてるよ」
「私は、今はリハビリテーション科で医者として働いていますよ」
朔夜と陽和は同じ病院勤務。死ににくくなったとはいえ、加齢による衰えや、身体機能の低下はなくならない。充実した日々だという。
燐は神凪家の当主として、小学校の教師日々として、多忙な日々を送っている。
「世界が変わった後に生まれた子が多いので、これからの未来のあり方を決めるのは大切なお仕事です」
双調は津軽三味線奏者として、空凛はピアニストとして、世界の各地で演奏を行っている。
「先月はフランスでした。今月は双調さんがアメリカ行きなので、私は子供達の世話ですね」
「同じ月に夫婦の演奏旅行がバッテングしないようにしてます」
双調と空凛の子供は3人。9歳の長男が津軽三味線を弾き始め、娘2人がピアノを弾き始めたという。
「皆さんの話をたくさん聞けて、嬉しいわ」
口元をほころばせる愛莉に、カフェラテを飲みながら陽和が微笑んだ。
「ここまで色んな事があって、愛莉さんの色んな表情を見てきました。穏やかな表情を見ると、ホッとします」
陽和の言葉に頷く燐は、雄哉さんはお元気のようですね、と言葉を継いだ。
「お話は聞いています。大変なお仕事をしているようなので、愛莉さん、しっかりサポートして上げてくださいね? 最後に帰るところは家族ですし」
「雄哉さんと愛莉さんが、共に健やかに幸せに暮らせることを願っています。それが、家族共通の願いです」
燐と陽和の心からの言葉は、愛莉の胸を温かなもので満たしていく。
「ありがとう、燐さん、陽和さん」
今までいろんなことがあったけれど、頑張ってるねと、頑張ろうねと言い合えるこの関係性は、とても大事な宝物。
「子供たちの演奏を、いずれ雄哉さんに聞いていただきたいですね。すぐにでなくてもいいですので。愛莉さん、雄哉さんに言っておいてくださいね」
未来の約束をいくつも交わしながら、楽しい時間は過ぎていく。
●こしかたゆくすえ
「やあやあ久しぶりだね諸君。今や売れっ子スク水デザイナーとしてパ○コレにも出てる私だ」
スク水デザイナー。
それが、獅子鳳・天摩(d25098)の今の肩書きだそうだ。
そして持参した手土産は、カップル用のペアスク水。
……一体どうしてそうなったのか。
「お邪魔するよ、愛莉。カノンにひなた、二人とも元気そうだね」
天摩と一緒に来店した師走崎・徒(d25006)は、三重のカフェにも時々訪れている。
「久しぶりね、天摩くん。徒くんも、よく来てくれたわ」
愛莉と挨拶を交わしつつ、徒は店内を見回すが、『彼』の姿は見あたらない。
「愛莉。雄哉は……」
言いかけた徒だが、愛莉の苦笑で答えはお察し。
「教室の風景、懐かしいなぁ。……こんにちは、愛莉。この間は結婚式に来てくれてありがとうね」
続いて入ってきた咬山・千尋(d07814)は、先に来ていた徒に気づき、軽く目をみひらく。
「や、徒くんも来ていたんだね」
チーズケーキとホットコーヒーを注文した千尋は、徒と同席する天摩にペコリと会釈。
「どうも、師走崎千尋です。主人がお世話になってます!」
一気に言ってから、照れくさそうに千尋は笑う。つられた徒も顔が赤い。
「……まだ慣れないね、このセリフ」
「僕まで照れ臭い……」
徒と千尋は、今は箱根に居を置いているという。千尋は温泉旅館で仲居を、徒はカメラマンとして世界じゅうを飛びまわる日々。愛莉へと渡されたのは、旅館の名刺と、箱根名物のお菓子。
「愛莉も夫婦で旅行に来たときは、ウチの旅館に泊りに来てよ。サービスするからさ」
ミカエラ・アプリコット(d03125)は久成・杏子(d17363)と一緒に、カノンの隣の椅子を引く。ウイングキャットのねこさんも一緒。
「久しぶり~♪ 紅茶のロールケーキと、レモンティーお願いしま~す♪」
「私は珈琲とフルーツタルト、お願いします!」
「はい、少々お待ちくださいね」
ミカエラ持参の手作りのショコラ・オランジュは、ホワイトキーの飲み物にもよく合う。
交わされる話の中、ミカエラがぽつりと、カノンに言った。
「知ってるかもだケド、この間、ブレイズゲート消滅したの。藤堂さん……やっと、逝けたよ」
藤堂さん。その名前に、カノンが持つカップが、小さく揺れた。
「……それだけ伝えときたくて!」
空気を変えるようににぱっとと笑うミカエラを、心配そうにカノンが見つめる。一時は見せたミカエラの笑顔が、ふっと揺らいだ。
「病院のみんなには、ずっと謝りたかったんだ~。もっと早く会えていたら、何かできたんじゃないかって。……ちょっとだけ負い目感じてた。へへへっ」
ミカエラの手に、杏子は自分の手を添える。『たくさんお話するよりも、ぎゅっとした方が気持ちが伝わる』と、昔、ミカエラが杏子に言ったから――ただ、隣にいてあげなきゃいけないと思ったから。
「だから。カノン、ひなた。みんな」
ミカエラは杏子の手をぎゅっと握り返す。
「ぜんぶ赦すって、言って欲しいの。それで、あたし救われる気がするから……」
「そんな、赦すとかそんな問題じゃ……」
言いかけたひなたを、カノンが制し、そして言った。
「――うん。わたし、赦すよ」
(「わたしが誰かを赦すなんて、できないけど……それで貴女が楽になるなら」)
こみ上げる思いは、胸の中に飲み込んで。
――新しいカフェラテが、心落ち着ける香りと共に、ミカエラ達の前に置かれ
た。
「あちらのお客様からよ」
愛莉が示す先には、ひらひらと手を振る徒と千尋。
ミカエラと杏子は顔を見合わせ、ふと笑う。
「ミカエラ先輩。後でもうひとつケーキ、一緒に食べようね?」
そんな彼らを眺めやり、天摩はカップを掲げて呟く。
「色々あった。ありすぎた。がゆえに私たちは前に進む事ができた」
――ありがとう。天摩の言葉が、賑やかさを増す教室にぽつりと落ちた。
●ふりかえる日々があるから
コーヒーとチーズケーキを頼んだ鈍・脇差(d17382)は、カノンとひなたのことはもちろん、仁左衛門のことも気になっていたとのこと。
「ネットも冷蔵庫もテレビもあるから、仁左衛門は今も大事だよっ」
明るく話すカノンは、記憶の中の彼女より血色もいい。その姿は、脇差の気持ちを軽くする。
(「文字通りの身を削っての戦いを終えられたのなら、天野川にも鈴森にも、超えてきた辛さの分も幸せであれば」)
狼川・貢(d23454)も、カノンの健やかな笑みがとても嬉しい。それは神無月・佐祐理(d23696)にとっても同じことで。
「カノン、元気か。君の……何というか、健康そうな姿はいつ見ても嬉しいな」
「カノンさんとはそこそこ顔をあわせてはいますが、キチンとお話しするのは久しぶりですね」
佐祐理は、今は写真家の助手。婚活のほうは、絶賛フェードアウト連発中とか。
「長らく生命維持薬でお世話になりました」
そう言って頭を下げる佐祐理。
ダークネスがいなくなったら生きていけないと勘違いしてた時はお騒がせをしてしまいました、と昔の思い出を話す彼女は、今ではすっかり落ち着いている。
貢は、現在は外科医として働いているという。
「また手紙を送るよ、何処からでも」
カノンに対してはどこかお兄さんぶりつつも、貢はそわそわと室内を見回している。心得顔のカノンが、椅子の後ろでしゃがみ込むひなたをつついた。
「ひなたちゃん、そろそろ出てこようよ」
「……貢さんが来るなんて聞いてません……」
こっちにも心の準備が、等とごにょごにょ言いつつ顔を覗かせるひなた。
「ひなた――」
「お久しぶりです、貢さん。いつも手紙や絵葉書、ありがとうございます」
学園は君も久しぶりか、椅子や机がすっかり小さくなって、もう学生でないなと……ぎこちなくもぽつぽつと、そんな会話を取り交わして。
「君も以前にまして、その、……美人に、なっ……」
途中で言葉を詰まらせた貢の耳は、今回も赤い。
しばらくその姿を見ていたひなたは、ふっと微笑んだ。
「……貢さんも、とても格好いいですよ」
●いまもなお
神鳳・勇弥(d02311)の目が、興味津々にコーヒーを注ぐ手元に向けられている。同業者の視線に、コーヒーを淹れる愛莉は、少し緊張気味。
「愛莉さんとは、結婚式以来だね」
「勇弥くん、さくらえくんも、元気そうでうれしいわ。結婚式は来てくれてありがとう」
コーヒーとアップルパイを味わいながら、話題は愛莉と雄哉の結婚式のこと。
「あ、アルバムあるなら見せて♪」
彩瑠・さくらえ(d02131)が、結婚式のアルバムを広げる。カメラ越しの2人は、また雰囲気が違っていて。旦那さんが式で照れたりしてる様子とかどこかにないかな、なんて。
「そういや松原、あいつちゃんと家に帰ってるか?」
後ろからアルバムを見ていた脇差が、愛莉へ声をかける。
「夜勤も多いから、よく家を空けるけど……」
家にいる日は家事もしてくれるし、食事もちゃんととっている、と語る愛莉の表情は、とても満たされたもので。
「そうか。……ごちそうさま」
「えっ、今のはどういう話の流れ?」
脇差と雄哉。選んだ道は違うけど、納得できる道を求める雄哉に親近感を感じる部分もあり。今も一人戦う雄哉は、心配でもあり。
だから、きょうここに来て、愛莉から話を聞けて、よかったと脇差と思う。
愛莉の話に、勇弥もほっと息を吐いた。
「良かった。彼はいつも必死だったからね……いや、今もかな。だから、報われてほしいんだ」
(「たとえ彼の信念が、自分の護るものと相反しようとも」)
「だいじょーぶでしょ」
あえて軽く言い、さくらえは、幸せの詰まったアルバムをぱらりとめくる。
「選び進む道がどんなものであっても、愛莉さんはじめ大切な人達がいるんだから」
愛莉が話す以上の事は、さくらえは知らないけれど。報われない事はないとだけは、確信を持って言えるから。
「あと、とりさんもね?」
人のことばかりじゃなく、とさくらえは暗に籠めてくすりと笑う。一瞬虚を突かれた表情の後、勇弥は微笑んだ。
「……大丈夫だよ。俺にも大切な仲間も護りたい人もいるから、さ」
そして、皆が帰り、教室に静けさが戻るころ。
「主任さん。鈴森先輩。ご無沙汰してます」
からからと扉が開き、姿を見せたのは、――有城・雄哉(d31751)だった。
●これからのこと
紅茶の香りがふんわりと広がる中、雄哉は、ぽつりぽつりと近況を話していた。
「今の職場で働くことになって、愛莉と結婚して、ようやく自分の居場所を見つけた気がします」
「うん。……よかった」
カノンとひなたは、雄哉の話を静かに耳を傾け、時折相づちを打つ。
「でも、ダークネスへの憎悪は……未だ消えません」
そんな雄哉の言葉に、ひなたは学生時代の彼を思い出していた。
あのころの彼も、こんなふうに――。
その時、ぱたぱたと廊下を走る音がして、慌ただしく教室の扉が開いた。駆け込んできたのは、徒。
「愛莉、あのさ! 忘れてたんだけど、愛莉と雄哉に見せたくてパネルにしてきた写真があっ…………雄哉?」
振り返った雄哉と、徒の目がぱちりと合った。
「……師走崎先輩」
「あはは、こいつはもー♪」
笑いながらパネルを押し付ける徒に、苦笑いの雄哉。
続いて戻ってきたのは朔夜。
「やっぱり、人がいなくなる頃に来ましたね、雄哉さん」
「朔夜先輩……読まれて、ましたか」
徒の撮ったユングフラウヨッホの写真は、雄哉と愛莉と徒と行った10年前と同じアングル。肩に力が入っているだろう雄哉への肩もみを始める朔夜の笑みも和やかで。
少しは緊張が和らいだ雄哉の様子に、愛莉はそっと微笑んだ。
彼のまわりには、今は、こんなに優しい場所がある。
……時代が変わって、情勢が変わっても、変わらないことはあるし、変えられない気持ちだってある。
それでも、懐かしい仲間が集う時間があり、温かな時を過ごすうち。
少しずつでも、やさしい方向へと、変化は起きているから。
ようこそ、カフェ「ホワイトキー」へ。
また、皆で会いましょう――。
作者:菖蒲 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年11月28日
難度:簡単
参加:22人
結果:成功!
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