クラブ同窓会~想い出のあの箱

    作者:雪神あゆた

     武蔵坂学園にある部室棟の一室。その本棚の裏には隠された階段。階段を降りた先に、スチームパンクな工房。
     その工房でエミリオ・カリベ(星空と本の魔法使い・d04722)は、集まった皆、『小人たちの工房 ~Dvergr~』の元部員達に語り掛ける。
    「みんな、今日は集まってくれてありがとう。
     同行を頼んでいた校長先生は、今は世界を巡ってサイキックアブソーバー延命の為の道具探しをしているから、今日は来れないという事だったんだ。でも、みんなが来てくれて嬉しいよ」
     エミリオは微笑を浮かべ、言葉を続けた。
    「さあ、さっそくタイムカプセルを開けに行こうか」
     今日は、元部員達で、工房内の倉庫で眠るタイムカプセルを開ける日なのだ。
     ワクワクしながら倉庫の扉を開ける一行。倉庫の中にあったのは――、
    「あれ? これカプセルっていうか……」
     歯車や配管、真空管などが複雑に絡み合う金属製の小箱。
    「「キリングボックス?!」」
     キリングボックス。それは、解錠に複数の手順が必要な箱。
     手順の一つでも失敗すると電流、蒸気、冷却ガス等、トラップが炸裂する。
     サイキックではないから命の危険などはないのだが……でもトラップはトラップ。
     当時の自分たちらしいタイプカプセルに、一同は思わず苦笑。
    「どうしようか」
     皆の顔を見回すエミリオ。このまま、当時の想い出話に花を咲かせるのもいいだろう。皆の近況を聞くのも面白そうだ。
     でも――あえてタイムカプセルことキリングボックスの解錠に、チャレンジするのもいいかもしれない。
     中には、自分たちが入れた想い出の品が、今の自分たちを待っているだろう。
     さあ、どうする?


    ■リプレイ

    ●昔の僕たち私たちと今と
     激戦の日々から十年。工房の倉庫に、
    「話したいことや聞きたいことは沢山あるけれど、まず皆に挨拶かな――お久しぶり」
     ピンクの髪の女性、遥の声が響く。遥は黒の瞳で仲間一人一人を見る。片手をあげ、屈託のない顔で挨拶。
    「部活に顔を出せない時期もあったから、今日は来られて、元気そうな皆の顔が見れて、本当によかった」
    「私も皆さんに会えて嬉しいです」
     紅緋が遥に同意。今回皆を招集したエミリオに向き直り、
    「リオさん、ご招待ありがとうございます」
     深くお辞宜。作法にのっとった動き。微かに揺れる紅緋の灰色髪。
     ついで紅緋は倉庫内の物品、一つ一つを赤い瞳で見つめる。
    「この部室も懐かしいですね。ここにいると、あの頃に戻ったかのようです」
     ふわっと微笑みつつ遠くを見るような目の紅緋。
    「あの頃、か。……あれから十年か。そんなになるんだ」
     流龍は紅緋の呟きを聞き、自身も追憶に浸る。改めて皆を見て、
    「十年間結構顔を合わせてた人もいるから、まぁ、なんていうか、十年経ったのが信じられないぐらいだよ」
     軽く肩を竦める流龍。
    「時が経つのは早いもんだね、本当に」
     感慨深げに言った。
     しみじみする空気の中、エミーリアは、わふーっ♪ わふわふ♪ と、皆の周りを走る。
     冰眞も愉快そうに、エミーリアの後をついて回った。
    「おひさしぶり~♪」
    (「みんなひさしぶりなのだ♪」)
     とびきり元気よい、エミーリアの声。冰眞は前と同じく、声は出さない。でも眼差しで想いを伝える。
     エミーリアと冰眞の挨拶で、場は明るくなる。他の者も笑顔で互いに挨拶。
     挨拶が一通りすんで。
    「皆さんは、いま、なにしてます?」
     こくんと首を傾け、興味しんしんに問うエミーリア。
     冰眞が、はい、と挙手。
    (「ひーはいまは大学生なのだ! Dvergrの部長もしてるのだ!」)
     と軽く胸を張り、誇らしげな表情。
     コルトは冰眞の言葉に、
    「えっ冰眞が部長!」
     ぴたっ、驚きのあまり固まる。そして、
    「……ああ、小人の人たちももう大人なのね……」
     としみじみと息を吐いた。時間の経過をかみしめてから、コルトはエミーリアの質問に回答。
    「ああ……今何をしているかだったわね。私は刑務所で看守してるわ。……エミリオは?」
     エミリオは目を細め微笑ましげな表情で、皆の言葉の一つ一つに頷いていた。コルトから話を振られ、
    「僕? 僕は新たな時代の根幹ともいえるPSYとESPの研究を行っているよ。少しでも世界の安定に貢献したいし……個人的には超空間を再現したくてね?」
     自分の仕事と目標を朗らかに語る。
    「道程は遠く果てしなく、かな?」
     遠いと言いつつも、エミリオの目や声から感じられるのは、目標に対する意志や想い。
     ノーチェもエミリオの話を興味深げに聞いていた。
    「PSYの研究なら私の仕事と少し似てるかも。分野は違うけど」
     と、会話に加わった。
    「私は今、ソウルボードに関わる仕事をやってるよー」
     ノーチェの口調は軽い。けれど、今の仕事を楽しんでいるようにも感じられる。
    「うん、シャドウハンターを活かしてね。それで色々調べてるんだー」
     互いに近況を話したり、質問しあったり。盛り上がる中、エミリオがふとコルトに尋ねた。
    「そういえば、コルト先輩のお子さんって幾つになるんだっけ? いや、その……僕も大学を卒業したから、ね? 孫の顔はまだ見られないのかって両親が……」
     頬を赤らめもじもじ聞きづらそうに聞くエミリオ。コルトはくすっと声を零し、
    「子供は今五歳。父親似よ。……でもエミリオもそんな年頃なのね……断さんと仲良く氷漬けにしていいかしら?」
     と、素敵な笑顔。『よくない!』と皆からツッコミ。
     わふ♪ と頬を緩ませたのはエミーリア。
    「わたしも子供いますよっ。子供はかわいいですし、それに十六歳の時に結婚した旦那さんとは、いまでも新婚気分でラヴラヴしていますっ☆」
     だから幸せな家庭なのだと、エミーリアは、はにかみつつ誇らしげに語る。
    「皆さん、こんど、家にあそびに来ませんか?」
     と皆に提案してみたり。
     冰眞はあそびにいくのだ! と頷いてから、満面の笑顔で皆に伝える。
    (「ひーはコルトとエミーリアのあかちゃんうむからへーきなのだ♪」)
    「「ええっ」」
     一同、驚愕。それは本当に平気なのか? 誰か正しい知識を伝授すべき? それとも子供を産めるようになる新薬でも開発する? 倉庫内は俄かに騒然。

     話が一段落したところで、
    「さてと……」
     流龍がキリングボックスに歩み寄る。
    「今回やるのはキリングボックスの解錠だって……? 私は一体何をいれたんだっけな?」
     光沢を放つ金属製の箱を見ながら、首を捻る流龍。
    「やー、懐かしいねホント」
     ノーチェは流龍の隣に立ちしげしげとその箱を観察。
    「学園祭は毎年コレ出してた……っても、私は少しいじっただけで、準備もなにもしてないけど……」
     ノーチェの緑の瞳には過去を懐かしむ色。
    「学園祭……」
     ノーチェの言葉に、紅緋は記憶を刺激されたようだった。
    「学園祭で挑戦した時は、全然歯が立たなかったんですよね。絡繰仕掛けは苦手です――とはいえ、開けないことには始まりませんか」
     自分の手を見つめる紅緋。指のコンディションを確かめるように、開いて閉じてを繰り返す。
    「学園祭すっごく楽しかったよね」
     遥の声は弾んでいた。遥もあの頃を思い出しているのだろう。
    「この部活に入って楽しいことがいっぱいだったし……最後もみんなで楽しく終わりたいよね。せっかくだし、挑戦してみようか」
     ぎゅっと拳を握り、皆に告げる。
     遥の言葉に、皆が頷いた。さあ、キリングボックスに挑もうと。

    ●爆発、ビリビリ……キリングボックス!
     一番に小箱に挑んだのは、紅緋。
    「野暮はしませんよ。きちんと作法通りに挑んでみせましょう」
     すぅぅぅ、深呼吸。そしてゼンマイを回し出す。些細な変化も見逃さないと神経を研ぎ澄ます紅緋。暫くして、
    「……ええと、ここを外して……!? きゃ!?」
     小箱から電撃が発生。紅緋はぺたんと座り込んでしまう。
    「開けられそうで開けられない、ひどく意地が悪い代物ですね、これ……。作った人の顔が見てみたいものです……ともあれ私はお手上げです」
    「お疲れさま」
     紅緋を労ったのは遥。
    「じゃあ、次は私だね」
     と小箱を手にした。
    「さっきのを見てて、思いついたことがあるんだ……ゼンマイの巻き方は少し早めに……」
     かちりと音。箱のなかの絡繰が動き出す。
     いいぞ、がんばれー、皆から声援。集中して手を動かし続ける遥。
    「やっぱり思ったとおり。次はこの角度でこうすれば……っ!!」
     噴き出てきた冷却ガスが遥を直撃。リタイアする遥。
     小箱に、ノーチェの細い腕が伸びた。
    「開封挑戦っと。最初はクリアしたことがあるけど、今回はどうなるだろうね」
     ノーチェは落ち着いた様子を崩さず、
    「っていうか、中に何入れたっけ?」
     と自問。その間も手を止めず、ノーチェは箱を操作し続ける。ゼンマイを巻き、バルブを手際よく調節。
    「ここをこうやって……お、なんか手ごたえが」
     やったか!? 固唾を飲む仲間達。
    「あっ」
     ノーチェが声をもらした次の瞬間――ぼふっ蒸気が噴き出した。
     熱さに顔を抑えるノーチェ。
    「っ……さすがに手ごわい相手だわ」
     ぜいぜい。ノーチェは荒く息をしつつ、仲間に箱を委ねた。
    「皆さんの奮闘は無駄にはしません♪ わたしも挑戦しますよー」
     びしっ、倒れた皆に敬礼するエミーリア。
    「たーーっ♪」
     自身の直感を活かし、ゼンマイをまわす。ぐるぐるぐるっ。
     続いてバルブを無心で調整。続く仕掛けに手を伸ばし――、
    「よしいまです……えっ」
     ガガガ……金属と金属がこすれる音。次の刹那――ぼふんと爆発!
    「きゃあああ」
     なんということか。爆風でエミーリアの金髪がアフロになってしまった! 崩れ落ちるアフロ・エミーリア。
    「紅緋先輩、遥先輩、ノーチェ先輩、エミーリア先輩……みんな、大丈夫?」
     トラップに引っかかった皆を心配そうに見るエミリオ。手を貸し彼女らを助け起こす。
    「大丈夫みたいだね。エミーリア先輩のアフロもすぐ戻せるから安心して」
     エミーリアへ優しく言葉をかけ、
    「それにしても……十年越しのサプライズ企画だったけど、みんなやる気満々だね? 企画した側としては嬉しい限りだよ」
     こぞって解錠に挑む仲間を見て、エミリオは昔を懐かしむように微笑んだ。
     エミリオに見守られ、流龍がキリングボックスに挑む。バルブを強くひねり……暫くして。
    「結構上手に……」
     これはいけると息を吐いた途端、爆発。流龍は黒焦げに。でも諦めない。
    「も、もう一回っ!」
     さらに箱に挑戦する流龍を、トラップが襲う。電撃! 冷却ガス! だが、流龍はさらに解錠を試み……数分後、
    「今度こそ……ぎゃーっ!」
     新たな爆発に倒れた。流龍の服は既にぼろぼろ。肌が露出しちょっとセクシー。でも黒焦げ。
    「ボロボロね……でも大丈夫よ、私に任せなさい!」
     流龍へ声をかけたのは、コルト。
    「ボロボロになっても火傷しても、私が魔法で冷やしてあげるから!」
     親指で自分を指さして自信たっぷりに宣言。
    「いっぱい冷やしてあげる! 氷像になるくらい。だから安心しなさい!」
    「安心できない!?」
     追い打ちをかけようとするコルトに、大慌ての流龍。
     残る挑戦者も少なくなってきた。冰眞は、皆に見せるように、ちいさな拳をぎゅっと握りしめる。
    (「ひーにまかせるのだ! 部長としてあけてみせるのだ♪」)
     冰眞は迷いない手つきで、かちかちっ。第一の鍵、第二の鍵を突破。数々の手順をクリアし、そして最後の試練に。
     現れた二つの鍵穴の、どちらかに鍵を差し込めば箱は開く。だが、もう片方の鍵穴はトラップ。
     動きが止まる。ごく、唾を飲み込む仲間。はたして冰眞の手が動いた。かち……音。
     そして――。
    (「やったのだ!」)
     キリングボックスが、開く!

    ●想い出の箱の中に
     キリングボックスを見事に開けた冰眞へ、
    「おおぉ……毎年ひとりふたりしか開けられなかった箱が」
     感嘆の声をあげるノーチェ。
    「すごいね、さすが現部長」
     とノーチェは冰眞の背中をぽんっと叩いた。
     紅緋も冰眞に惜しみない拍手を送る。
    「冰眞さん、解錠おめでとうございます。皆さんもお疲れさまでした。皆さんの奮戦見させてもらいました」
     冰眞や挑戦した皆を労う紅緋。
     遥も冰眞へ「おめでとう、無事に開いてよかった」と称賛の言葉を送ってから、
    「……でもタイムカプセルってこんなものだっけ?」
     はてな、と首をかしげる遥。数人が思わず噴き出す。
     やがて、皆でタイムカプセルの中を調べる。
     真っ先に中を覗いたのは、冰眞。中から瓶を取り出した。
     入っているのは梅酒。長い年月熟成され暗めのべっ甲色をしている。
    (「ばあちゃん直伝の梅酒! ひーはのめないから、みんなへプレゼントなのだ!」)
     どうぞ、と皆に手渡す冰眞。
     その隣で、
    「わふー♪ おひさしぶりなのです☆」
     元の髪に戻ったエミーリアが、ぬいぐるみの『こまふぇんりる』を掲げ上げていた。そのぬいぐるみをぎゅっと抱くエミーリア。
     コルトも想い出の品をそっと抱きしめていた。コルトのそれは、花に囲まれた雪結晶の首飾り。コルトはそれを抱きしめたまま、皆が入れたものを眺める。
     一枚の写真――紅緋が入れた写真に視線を止める。写っているのはありし日の部員一同。皆で撮った記念写真だ。
    「記念に姿が残っているのっていいわね……巨大な石材用意していたの! 今の皆の姿の彫像を、記念に彫ってあげる!」
     コルトは天草に手伝ってもらいながら、巨大な石材とナイフを取り出す。自分たちの姿を彫ろうというのだ。
     コルトが賑やかに音を立てる一方、流龍は箱の中に一本の短剣を見つけていた。その短剣の柄を、流龍は大切そうに握る。
    「これは私が昔使っていた短剣……そっか、ここに眠らせたままだったか。昔の冒険の記憶が蘇ってくるようだよ。リオ、今日はありがとうね」
    「どういたしまして。ふふ……想い出の品と皆を見てると、あの頃に戻ったように錯覚しそうだよ」
     顔をあげ礼を言う流龍。エミリオは笑みを濃くして返事。
     エミリオは改めて倉庫内を見回した。彫刻を彫る者、記念写真を見て語り合う者、自身の想い出の品を大事そうに抱く者……昔に戻ったかのような素敵な時間が、そこにあったのだった。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
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