クラブ同窓会~夢見の終わり、目覚めのあと~

    作者:西宮チヒロ

    『――冬舞? 今、エリオおじさまと合流できたから、これからそっちに向かうね』
    『解った。急がなくて良いから。慌てずにな? エマ』
    『ふふ、心配性なんだから。大丈夫大丈夫! じゃあ、また後でね』
     久方ぶりにエリオ――彼の言う『パピヨン』ちゃんがエマのことと知ったのは、この話を彼女に持ちかけたときだったが――に逢えて嬉しいのだろう。弾む声にひとつ笑みを零しながら、新沢・冬舞(夢綴・d12822)は通話を切った。
     自身が管理運営する研究支援系ファンドの所有する、巨大植物庭園。その一角にある広々とした温室が、此度の再会のために誂えた場だった。硝子越しに降り注ぐ柔らかな陽射しが、室内に溢れんばかりの緑に煌めき、白いガーデンテーブルやグランドピアノに優しい影を落としている。
     白いシャドウ、エト・ケテラ。
     彼女に魅入られた一般人たちを招いての茶会に応じたのは、管弦楽団の指揮者たるエリオと、重傷を負いながらも奇跡的に回復した陸。
     そしてその陸へと連絡を取ってくれたのは、他ならぬ最初の対象者である菜摘だった。
     ――菜摘さん、今はお金持ちになって、色んな人たちの経済援助をしてるんだって!
     そう興奮冷めやらぬ口調で、前のめりになりながら冬舞へと報告してきたエマの言葉を、今一度思い出す。

     一之瀬・菜摘。
     身寄りも頼れる者もなく、生活と命の危機にさらされていた彼女は、事件後、灼滅者の支援によって安定した生活を取り戻し、今はその後の資産運用によって得た富を、同じような境遇の人たちへの資金援助に充てている。
     二宮・鈴音。
     菜摘の資金援助により、児童養護施設を経営。自身へと愛情を注いでくれた義父のように、彼女もまた、尽きぬ愛を子供たちへと注いでいる。
     三浦・明里。
     当時1歳だった彼女も、今や15歳。一連の事件の記憶はないが、灼滅者たちの支援もあり健康を取り戻し、元気に中学校へと通っている。
     陸と美雨。
     一命を取り留めた陸は、回復後、灼滅者たちの言葉を受けて美雨が亡くなるまで傍に寄り添った。その後、菜摘からの学費支援を受けて医師の道へ。今は外科医として一線で働いている。
     四谷・颯太。
     やや病弱ではあるものの、無事成人。今は、亡き母の想い出を胸に、一児の父として優しく穏やかな日々を過ごしている。
     五十嵐・舞。
     損傷の激しい両足は切断し、義足に。リハビリ後、バレエ界に復帰。今は若手バレリーナの育成に励んでいる。
     そして、様々な事件の噂元となっていた翔と麻衣から届いたのは、1通の手紙。
     その後は事件に巻き込まれることもなく、数年後に結婚。二児に恵まれ、賑やかな生活を送っていると写真が添えられていた。

    『それにしても、死の淵にいた私が今や富豪と呼ばれるなんて、本当人生ってなにがあるか解らないわね』
     先日、欠席を詫びる電話をくれた菜摘の声が、脳裏を過ぎる。
    『でも、これだけははっきり言える。――今の私があるのは、あなたたちのお陰よ』

     あのときなにが正解だったのか、どんな未来の選択肢があったのかは誰にも解らない。
     それでも、電話越しに聞こえた「ありがとう」の言葉が、ほんのすこし背中を押してくれる気がする。

     陽だまりに、リリン、と軽やかに響くベル。
     来客を告げるその音に顔を上げると、冬舞は扉へと足を向けた。


    ■リプレイ

    ●なんでもない、特別な日
     白いテーブルに、写真を並べた。
     そして手紙も。
     懐かしい顔と名が、柔らかな陽に包まれほんのりと白む。飛ばぬようにと置いた蝶を模した硝子の置石が、反射した光で薄い影模様を描く。
     白いシャドウ、エト・ケテラ。
     彼女が『すくいたかった』もの。そして自分たちが『すくった』もの。
     屹度、彼女を介した出逢いと選択において、確かな解などなかったのだろう。何かに手を差し出せば、何かが指の隙間から零れ落ちてゆく。
     それでも、考え、悩み、手を伸ばした。その結果が、この縁。それだけは確かだ。
     銀の電子ケトルが軽く鳴り、あたたかな蒸気を帯びた。それを一瞥して、冬舞はふと温室の天井を仰ぐ。硝子の向こうには、澄んだ晩秋の青空が穏やかに広がっている。
     ちいさなベルの音が響き、扉が開いた。現れた長身の男と目が合い、互いに軽く会釈する。
    「久しぶりだな、御伽。今日は来てくれてありがとう」
    「こちらこそ。招待ありがとな、冬舞さん。関わった依頼の今を知る、貴重な時間を作ってくれたことに感謝するよ」
     その言葉に微笑を返しながら、奥へと先導する。緑に囲まれた一席へ御伽が腰を下すと、再びベルが鳴った。
    「よっ! 久しぶりだな!」
    「このたびはお招きありがとうございます」
     周の明るい声に続き、春が柔和に微笑んだ。身軽ながらも、周の手にする一際大きな荷物に視線が行く。形からして、ギターだろうか。
     来る途中で会ったと語るふたりの声に、来客を知らせる音が重なる。
    「こんにちは」
    「こちらで良かった……でしょか?」
    「大丈夫だ。都璃、サフィ」
     伺うように扉を開けたふたりへ、冬舞がひとつ笑んでみせた。ひんやりとした空気を纏いながら中へと入る娘たちに、ヨークシャー・テリアの霊犬・エルも小走りで続く。あたたかな室内が嬉しかったのか、見知らぬ場所に興味津々なのか。ぱたぱたと尻尾を揺らしてくるりと回る愛らしい様に、仲間たちの目許も緩む。
    「冬舞さん、主催お疲れ様です。皆さんも、お元気そうで良かった」
     今回の中継ぎ役として動いてくれた菜摘にも言伝しながら、旧知らとの再会を歓ぶ都璃の傍ら、
    「これ、差し入れに。スコーンにクリームとジャム、紅茶……グランマ直伝のお手製です」
    「これは……食べるのが愉しみだな」
     英国らしい柄の布包みを取り出したサフィが、テーブルの上でそれを広げた。ふわり、ほのかに焼き菓子のような香りがあたりに満ちて、鼻腔をくすぐる。
     お邪魔します、と姿を見せたのは采だった。「寒ぅなってきましたけど、佳い日和で何よりですわ」と上着を掛けながら微笑む采の足許で、魂の片割れたる真白なわんこも柔く鳴いて挨拶をする。
    「中国の方で貰ろた茶葉です。皆さんでどうぞ」
    「ありがとう。今日は特別豪華なお茶会になったな」
     受け取った袋をテーブルに置いた瞬間、一際大きなベルの音。
    「お待たせ冬舞! エリオさんと陸さん、連れてきたよ。――あれ? もしかして、もう始まっちゃってる!?」
    「まだ始まってないよ、エマ。……お二方も、どうぞ中へ」
     集った面々を見渡し慌てる娘には思わず笑みを零しながら、青年は最後の来客者たちをあたたかに出迎えた。

    ●想い出巡り
     布を敷いたバスケットの中には、たくさんのスコーン。瓶から取り出したクリームとジャムは、白磁のちいさな皿に移して皆の手元へ。
     中央に並ぶのは、これなら自分にも作れる、と不器用なエマが早起きして作ったオープンサンド。ノルウェーサーモンとサワークリーム、生ハムとアボガド、スクランブルエッグと、よりどりみどりだ。
     テーブルの両端には、口直しのフルーツの盛り合わせとお茶類。冬舞とサフィが用意した紅茶が複数種、采からの中国茶。いつでも淹れたてを飲めるよう、ネルドリップ珈琲の一式も準備がある。
     好きなように。作法は気にしないでくれ。そう仲間たちへとはじめに伝えた冬舞は、改めて陸とエリオへ握手を求めた。
    「貴方方の歩く行末に対して、俺達はある意味お節介に動いたから。だから、こうしてまた話が出来て、とても嬉しいんだ」
    「オレも、皆さんと一度話してみたいと思っていたから嬉しいよ」
     言いながら軽く自己紹介をする陸へ、春たちもまた手短に名乗った。見目だけではない。内面から滲むその成長した姿を、御伽は静かに目に留める。
    「ご招待に感謝するよ、冬舞。あれから、君たち灼滅者と出逢ったあの日のことを、ふと思い出すことが幾度かあってね。是非、君たちの話を聞かせて欲しい」
    「あれ? エリオさん……」
     淀みのない流暢な日本語に気づいたサフィに、エリオがその碧眼を細めて軽くウィンクをする。
    「もしかして、空港で出逢ったお嬢さんかな? どうやら、才色兼備にも更に磨きがかかったらしい。再会できて嬉しいよ」
     あの日以来、日本語に興味を持ってね。勉強を初めてみたんだ。そう笑うエリオに、都璃が緊張気味に声をかけた。
    「奥村都璃と申します。お会いできて光栄です。15年前、日本にいらした時に犬……」
     言いかけて、一旦口籠もる。その犬が自分だったとは言えないな、と心中で苦笑しながら思い出す。
     あの日の事件が、エトとの始まり。だからこそ、今でも鮮明に憶えている。
    「……を連れた友人がお会いしたと思うのですが、覚えてますか?」
    「勿論、憶えているとも。君と同じ名前の、可愛いポメラニアンもね」
    「あ、ありがとうございます……!」
     管弦楽のスコアを憶え、今や二国語を操るくらいだ。記憶力も良いのだろう。全力で犬を演じきった当時を思い返しながら、都璃も大仰にお辞儀を返した。
    「しかし、エマと知り合いだったんだなー」
     飲んでいたカップを下ろし、しみじみと言ったのは周だった。隣に座るエマと見比べ得心する。なるほど、確かにその波打つミルクティ色の髪は、パピヨンの毛並みを思わせる。
    「君とはフラメンコギターの話で盛り上がったね。また逢えて嬉しいよ、お嬢さん」
    「! 憶えててくれたのか!?」
     忘れられても気にはしまいと思ってはいたが、憶えていて貰えたのは矢張り嬉しい。思わず前のめりになった周と、そこからあの日のギター談義の続きがゆるり始まった。

    ●選んだ先、その答え
     手に取る、捨てる、向き合う、逃げる。
     岐路に立たされ、幾度となく突きつけられる透明な選択肢。
     選んだ何かが、見知らぬ誰かを左右する。自分の想いが、相手の意志を塗り替える。それは途方もなく恐ろしいことにも思えるけれど、人は皆、常に何かを選ばざるを得ない。生きるために呼吸をするのと同じように。
    「その後がえらい気になってたんです。知りたいなぁ、想えば調べられましたが、こうやってお手紙やお写真見れるのは、うれしいわぁ」
     事件を影ながら支えていた采が、そうして1枚の写真を手に取った。
     バレエのレッスンスタジオの一角だろうか。大人になった笑顔の舞が、同じく笑顔の少女たちに囲まれている。殺してと切望した娘が、いま懸命に生きている。
    「殆ど皆、絶望的な状態だったけど……それでも、生きて前を見て進めてきたならそれが一番だ。……陸は、どうだ?」
     穏やかな声音で尋ねる周の対面で、御伽も陸へと視線を向けた。
     10年以上経った今でも、よく覚えている。
     先天性の心疾患を患い、余命1ヶ月と宣告されていた美雨。
     事故で大怪我を負ったなかで、美雨への心臓移植を願った陸。
     ふたつの命が天秤に掛けられ、シャドウの考え方に心が揺れた。――そして御伽は、皆は、陸の手を取った。
    「病室で目が覚めたとき、ふと涙が零れました。死ねなかった悲しさと……『路』が決まった安堵とで」
     途切れた言葉の続きを、みな唯黙って待つ。
     カップを包む指先に、力が籠もる。すこし俯いたあと顔をあげ、青年は吹っ切れたような笑顔を見せた。
    「結局、オレは大事な場面で選べなかった」
     すべてを運に、流れに任せてしまった。
     美雨に心臓をあげられる状況が生まれたのも、偶然事故にあったから。生きて美雨を看取ることになったのも、みんなに助けてもらったから。
    「選ばずに済んだことに、ホッとしてしまったのも事実なんだ。でも、すぐに罪悪感と焦燥感に襲われた。情けなさ過ぎる、って」
    「……だから、医者の道を?」
    「はい」
     御伽の問いに、今度は力強い頷きが返る。
    「選ぶのはいつだって恐い。なら、せめて自分が望む方向へ行けるように、自分で選択肢を増やそうと思ったんです」
     美雨のように、ただ消えていく命をを見届けるしかないのはもう嫌だった。だから、我武者羅に学んだ。人を『生かす』方法を。
    「オレは、美雨という一人を救えなかった。死を前に、別の可能性を見せてやれなかった。だからこそ、今はひとりでも多くの人へ、死以外の選択肢をあげたい。……貴方たちが、オレにしてくれたように」
    「……俺も、随分悩んだな」
     ――夢の外に返して、あんたたちが幸せにできるの? 最期まで、その幸せを護れるの?
     エトから突きつけられた問いかけ。
     当時はまだ、年端のいかぬ学生。ダークネスと対峙するなかで、人命にも深く関わる場面は何度もあったけれど、最初からどちらか一方しか選べぬ状況は、実はそう多くはなかった。
    「だから、エトからの問いにも、命の選択にも……余計、迷ったんだ」
    「それは私もだ。だからこそ、その後をこうして知ることが出来て本当に良かった」
     微笑む都璃に、冬舞も頷く。同じ医師の資格を持つ者として助力は惜しまない。そう言を添えれば、青年は凛々しくもどこかあの頃の面影を残した笑顔を見せる。
    「ところで、あなたの気になる相手には、選択肢を増やしてあげたんですか?」
     それは耳の痛い質問だったのだろう。伺うような視線を向ける春に、陸は一転、俯きながら弱々しく返す。
    「そこまで話が伝わっていたんですか……。でも、まだ踏み出せないんです。自分だけが幸せになっても良いのか、って」
    「……あなたはまた手放すつもりですか?」
     春の、穏やかながらも芯のある声に、陸が弾けるように顔を上げた。
    「私は、私の守りたかった人にはひっぱたかれて今も頭が上がりませんが、今も一緒に生きてます。彼女の分も幸せになるのなら、踏みこむのを躊躇っててはダメですよ」
    「春さん……」
     ――『好きだから』なんて言って一方的に離れて、傍に居て欲しい人に逢えない苦しみを彼女に味あわせたいんですか!?
     夢の中での声が、脳裏に過る。
     同じ想いをした春の言葉だからこそ、それは痛く胸を突いた。
    「……そうですね。美雨は、誰かの不幸を願うような子じゃなかった。それは、オレが一番良く知ってます」
     ならば、屹度彼女が願ったように。――幸せに。
    「陸は今、幸せか?」
    「――はい」
     木漏れ日の下、穏やかな笑顔を湛えながら、御伽へと淀みない答えが返る。
     それは、10年前のあのとき、自分たちが成したことへの答えでもあるのだろう。

    ●夢見の終わり、目覚めのあとに
     木々と土と花香るなか、長閑な時間が過ぎてゆく。
     世界中飛び回る考古学者兼ヒーローも、裏社会及びアンダーグラウンド世界での相談役も、音楽家として世界を巡り人助けをする者も。今日ばかりは皆、旧友の顔を見せていた。エマが奏でるピアノにつられて軽やかにはしゃいでいた2匹の霊犬が、その勢いのままエリオの足許でじゃれる。
    「ふふ。本当に愛らしいね、この仔たちは。おお、良い仔だ」
    「何か粗相でもしましたら言うてくださいね。……せや。エリオさんの講演、是非、聞きに行きたいですわ。またお日にちと場所教えてください」
    「おお。それはいつでも歓迎するよ」
     金糸の奥の眸を緩め、人好きのする笑顔を見せるエリオに、采もまたゆるりと微笑しながら表の連絡先を手渡した。
     そうして、改めて陸へも感謝を告げる。新しい出逢いがあったとしても、昔のそれが無くなることはない。今までの積み重ねが意味を成し、今に至る。そう采には想えてならない。
    「エマ、1曲どうだ?」
    「良いですね。じゃあ、あの曲なんてどうですか?」
     それは、オーストリアのさる大家族の唄。京都への旅路を描いたCMにも起用された名曲を、フラメンコギターとピアノが軽やかに奏で始める。
    「ふふ、周さんのリード、やり易いです」
    「なら良かった。アタシも腕は結構磨いてるんだぞ?」
     音が、声が、自然と弾む。空気も、音も、味も、すべてが合わさった夢のような時間に、周も破顔しながら最後の一音を響かせた。
     話をしようと冬舞が手招き、隣に座ったエマへと都璃が労いながら紅茶を差し出した。アールグレイの良い香りに一心地ついたところで、話題も結婚式の話へと移る。
    「そういえば、もう都璃にはお相手がいるのかな?」
    「エ、エリオさん……っ! いや、まぁ、その……はい……」
    「時期が合わず参列出来なかったんですが、結婚式も見たかったです」
     幸せそうで良いなあ。そう憧れるサフィにはにかみながら、都璃がふとエマを見た。
    「考えてみると、私たちは皆、エマがいたから出会うことが出来たんだよな」
    「都璃……」
    「叶君も、エトも、今日来れなかった人たちも。全部、エマが結んでくれた縁だ。――ありがとう、凄いな。凄いことだよ、エマ」
    「そ、そんなことないよ……! 私はただ、待ってるしかできなくて……」
     わたわたと両手をちいさく振るエマの様子にくすりと笑むと、冬舞はその肩をそっと抱いた。
    「今日という日は、エマが教室で依頼を持ってきた、その先で得られた未来だ。だから、貴女にも一緒に見て欲しかったんだ」
     ――ありがとう。
     耳許に毀れる、感謝の言葉。あたたかな幾つもの微笑みに、眦に涙を滲ませながら、ありったけの、そしてどこか悪戯めいた笑顔で娘は言う。
    「それなら、私はもうひとり、感謝したい相手がいるんです」
     それは、この夢のはじまり。
     幾度となく対立した。ときに武器を、ときに言葉を交わした。
     雪の地で人知れず枯れた花の代わりに、誰に縛られることなく自由に舞う白い蝶。
    「そうです……エリオさんとリクくん、皆さん。この機会をくれたのはあの子も、呼びませんか」
    「あの子……?」
    「君が言うなら、是非。では、私たちはなんと呼べばいいかな?」
    「名前は――」
     声を重ねて、幾度となく紡いだその名を口にする。ふわりとあたたかな風が揺れて、枝葉の間から白が零れるように舞い降りた。
    「エト……!」
    『……サフィ?』
     久方ぶりの再会に、思わず白い娘を抱きしめる。
    「本当久しぶり。生きてたんだな」
    『何言ってるの。あんたたちが、選んだんでしょ』
    「……それもそうだな」
     そう言って、周もからりと笑う。そう、この未来を選んだのは、紛うことなく自分たちだ。
    「以前は核皇としても会えませんでしたが、今回は逢えて、うれしいです」
    『ダークネスになったあんたたちは好きじゃないって言ったでしょ?』
     フルートの音色で出迎えた春は、その言葉に苦笑する。
     そうだ。彼女はずっと真っ直ぐに『自分たち』を見てきた。今までも。そうして、これからも。
     ダークネスがほぼいなくなっても続く日々。
     寧ろ、それは新しいはじまり。
     たとえ望んできた共存が難しくとも、今は唯、友達が生きていてくれたことがなによりも嬉しい。
    「ありがとう」
     確かなぬくもりを感じながら、サフィが心からの感謝を紡ぐ。

     これからも屹度、何度でも夢を見る。
     けれどそれは決して夢物語じゃない。
     諦めさえしなければ叶うと、そう教えてくれた皆へ。届けたいのはちいさなおまじない。
     ――夢の先にも、あふれるほどの幸福がありますように。

    作者:西宮チヒロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:7人
    結果:成功!
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