クラブ同窓会~桜の下で、会いましょう

    作者:志稲愛海

     今年もまた廻ってきた、桜の季節。
     ほのかに染まった白薄紅の彩りは、古の昔から人々の心を魅了してきたが。
     それは、様々な事が目まぐるしく変化し続けている現代の世でも、変わらない。
     10年――各々が道を選び歩んできたその年月、色々なことがそれぞれあっただろうし。
     ずっと変わらないものも、きっとあるはず。
     今年も美しく花を咲かせた、この桜の木のように。

     春空をふと仰いだ黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)は、桜色の隙間から零れる柔らかな陽射しに目を細めながら、【liberal】の皆の到着を待っていた。
     今日は、懐かしい仲間たちとのクラブ同窓会の日。
     場所は、草原にたった1本だけある大きな桜の木の下。
     美しく満開に咲き誇って見頃であるにもかかわらず、周囲に人影はない。
     そんな隠れ家的な自分たちだけの場所で、懐かしい仲間たちと過ごす、特別な時間。
     10年経っても、きっと変わらないだろう仲間と。
     10年経った今、どのような変化があったのか。
     持ち寄った料理を摘みつつ、再び廻ってきた春の風景を楽しみながら、語り合いたい。
     今年も満開に咲いた、この桜の木の下で。

     優しい風に吹かれ花弁舞い踊る、桜色の景色の中。
     まったりと、賑やかに、そしてクラブの名を体現するように自由に。
     どうぞ心赴くまま、懐かしくて楽しいひとときを。


    ■リプレイ

    ●桜の下の再会
     晴れた空に良く映える、満開の桜色。
     だが、こんなにも美しく花を咲かせた桜の木の周辺に、人影はない。
     そんな隠れ家的なとっておきの場所で今日開かれるのは――【liberal】のクラブ同窓会!
     懐かしい仲間に久しぶりに声を掛けたのは勿論、部長の黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)である。
     智慧は皆が到着するまで暫く、春の彩りを一人眺め、楽しんでいたが。
     春の景色の中に見つけた懐かしい姿に、金色の瞳を柔らかく細める。
    「10年ぶりじゃな、ここは変わっておらぬのぅ」
     春色の空からふわり、桜の花弁とともに地に降り立ったのは、箒に乗ってやって来たアリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)。10年経っても変わらない彼女の抜群のスタイルと美しさは、春の景色と相まって、流石絵になっている。
     そして、さらに桜色に加わる彩りは、さらりと春風に流れる銀色。川代・山女(渓流を滑る銀・d03521)の中性的な雰囲気は、10年経った今でも変わらない。
     山女は、声を掛けられるならもう少し早くしてほしかったと、そう言いながらも。そんなところが昔から、行動的で且つ自由人な智慧らしくもあり。また、そんな彼のお誘いにしっかりと応えるところが、やはり山女らしい。
    「久しぶりじゃな、変わっておらぬのぅ」
    「お久しぶりですね、お元気そうで何よりです」
     久しぶりの再会。でも、久しぶりなのに、久しぶりな気がしない不思議。
     智慧は、そう再会を喜び合う仲間達を交互に見つめ、ふふふ、と楽しそうに笑んでから。
     ふと、新たな人影を見つけて。偶然通りかかった綺月・紗矢(中学生シャドウハンター・dn0017)にも、ご一緒にどうですかと、声を掛けた後。
    「立ち話もなんですし。では、始めましょうか」
     ばさりと、桜色の絨毯の上に、大きなレジャーシートを敷いた。

    ●桜の下、咲き誇る思い出
     楽しいひとときをより彩るのは、尽きない会話と持ち寄りの美味しい食べ物。
    「これも久しぶりじゃのぅ」
     そうアリシアが持参したのは、英国風の食事。ローストビーフとフィッシュアンドチップスをメインに、食後のティータイムも楽しめるような紅茶やスコーン。アリシアの地元・英国風で且つ、日本人の舌にも合うものをチョイス。
     智慧は、美味しいソーセージやローストビーフなどの肉担当。アリシアがいるからと多めの量を用意したけれど、飛び入りで同じく大食いである紗矢も加わったことを思えば、ナイス判断だ。紗矢もおやつとしてたまたま買っていたホールケーキ2つを提供。
     山女は栄養バランスもちゃんと考えて、主に野菜を持参。ジャガイモのサラダやトマトなどの生でも食べられる野菜、そしてバーベキュー用の野菜も用意して。智慧の持ってきた肉と合わせて、いざバーベキュー!

     桜の景色を眺め、食材が焼ける良い香りが漂う中で。
     まず話題にのぼるのはやはり、この10年間のこと。
    「……というわけでのぅ、魔法少女として第一線を退いてからは、未来の魔法少女を育成しているのじゃ」
     アリシアは、きちんとひとつひとつ味わいながらも、カリッと揚がったフィッシュアンドチップスを口に運び、大量にあったはずのソーセージやサラダを何事もないかのように次々と平らげながらも、そうこれまでの10年や現状を語って。
    「では今は、魔法少女の教官をされているんですね」
     野菜や肉を網に並べ焼きながら、アリシアの話に耳を傾ける山女に。鬼教官……? と呟く智慧。アリシアに指導される子たちは逞しいだけでなく美しそうだな、と紗矢も微笑む。
     そして元々、感性や目的を大事にする自由人な智慧ではあったが。
    「私も、割と楽しくやっていますよ」
     現在意識するようになった、できなかったことをできるようにする日々も、彼にとって退屈しない良い趣味となっているようだ。
     それから智慧は、アリシア同様もくもくと食べ物を口に運ぶ紗矢に笑んで。
    「数回お会いした気がしましたが、更に美人になられましたね! 綺月さん」
     現在ブライダルコーディネーターをしているという紗矢は、ありがとう、と少し照れたように返した。
     そんな皆が現状を語り合う中、山女はベストな焼き具合の肉や野菜を、それぞれの皿に振り分けて。
    「焼けましたよ、野菜も食べましょうね」
    「手際が良いね! いつもいてくれてありがとう。山女」
     智慧の皿にも、肉だけでなく玉ねぎやニンジンやキャベツを乗せながら。
    「その言葉は何度聞いても嬉しいですね、これからも聞くことになりそうです」
     彼の姿を映した灰色の瞳を、ふっと細める。
     今までも、そしてこれからも。
     この10年でそれぞれ確かに変わったけれど……でも、ずっと変わらないものがある。
     それは【liberal】で過ごした、大切な時間の賜物に違いない。

    「昔を思い返してみると、色々なことがありましたね」
     これまでの10年間や現状の話もそこそこに。尽きない話題の中心はやはり、昔の思い出。
     今でこそ平和になっているが、思い返せば、たくさんの修羅場を潜り抜けてきた仲。
     大きな戦争の度にともに出撃し、状況や戦績をクラブで報告し合ったりもしたし、皆の武運や無事を祈って、乗り越えてきた日々。
     それに、そんな灼滅者としての活動だけでなく、学生として学校生活においても、本当に色々なことがあった。
     その中でまず話題にのぼったのは、2015年の運動会である。
     アリシアはこの年の運動会で、なんとあの『二天一流ハイパーMUSASHI』を完全制覇し、組連合を見事優勝へと導いた、勝利の立役者なのである!
    「MUSASHIの頂上から聞いた、あの歓喜の声や狂喜乱舞な感じは今でも覚えてるのぅ」
    「うちのクラブからは活躍されてる方が多く居たので鼻が高かったです」
     猛者揃いの武蔵坂学園の生徒たちの中でも、たった数人しか成し遂げることができなかった、あのMUSASHIの制覇ともなると。
     完全制覇を成した本人は勿論、同じクラブの仲間の偉業は嬉しくて興奮したし。
    「その後、クラブで智慧に焼いてもらったA5級の宮崎牛サーロインとヒレも、魂抜かれるほど忘れられない味だったのじゃ!」
    「丁寧に焼きましたからね」
     勝利の美酒ならぬ、テッペンを極めた後のA5級宮崎牛にも酔いしれました!
    「そういう事もありましたね」
     どうぞ、と美味しそうに焼けた肉をアリシアの皿へと多めに追加で乗せつつも。
     山女もそう、昔のことを懐かしむように微笑んだ。

     運動会で一躍主役となったアリシアの勇姿を改めて称え、盛り上がった後は。
     クラブで参加した数々の出来事を思い出す。
    「学園祭では、サイコロ喫茶とかやりましたね」
     ただ料理を出すだけでなく、もしかしたらカオスになってしまう危険性もあるメニューの喫茶店や趣向の凝ったダイスゲームなど。学園祭のクラブ企画も、無理なく楽しく、何よりも【liberal】らしく、わいわいとやれたし。
    「教室で案内されていたお出かけにも、誘い合わせて行ったりしたのぅ」
    「そういえば、クラブの皆さんと一緒に、桜を観に行ったこともありましたね」
     智慧は山女に再び取り分けて貰った肉や野菜を食べながらも、ふと満開の桜を仰いだ。
     10年以上前と同じように……美しい桜を、こうやって今一緒に、愛でられる仲間。
     いつもはクラブの名の通り、それぞれ自由に過ごしていても。声を掛ければ、昔から変わらず集まってくれるクラブの面々。
     そんなクラブの皆は今も昔も、智慧にとってきっと、特別な存在であるだろう。
    「あの時は、夜櫻じゃったがのぅ」
     アリシアが日本の素晴らしさを感じたものは、大好きなマンガやアニメだけではなかった。食べ物も美味しいし、春夏秋冬、移りゆく四季の景色も美しい。
     そしてそれをたくさん、クラブの仲間たちとも共有できて。
     10年後の今も彼女は、この日本に残っている。
    「智慧さんが耳にした都市伝説の噂に関する依頼も、皆で解決したりしましたね」
     思い出すように山女が口にしたように、誘われ赴いたのは楽しいお出かけだけではなかった。
     好奇心旺盛で実行力と継続力のある智慧は、よく都市伝説の噂を聞きつけることもあって。彼が教室で一緒に解決するべく募集の声を掛ければ、クラブの皆が来てくれたことも多かったし、同席している紗矢が一緒の時もあった。
     皆で着ぐるみを着て依頼を完遂したことや、都市伝説退治なんだけどスイーツを堪能したこと等々も、今となってはいい思い出かもしれない。
     ほかにも大きなイベントや依頼だけでなく、雪像を作ったり、もみの木を倒したりとか……日々他愛もない『日常』をともにし、一緒に楽しんできた学生時代。
     普段は忘れていたことでも、ひとつ思い出せば、次々と蘇ってくる記憶。いくら話しても尽きないほど、不思議と思い出が溢れ出てくる。
     ……それにしても。
    「アリシアはいつもと変わらずよく食べますね! ……おかわり? どうぞ」
    「すまんのぅ、まだバーベキューの材料はあるかぇ?」
    「焼きそばも用意してありますよ。身体の為にバランスよく食べましょう」
     こういう会話も、ごく自然に。昔と、何ら変わらない。

    ●桜の下の約束、また会う日まで
     たくさん用意したバーベキューの材料やソーセージなどの肉類、フィッシュアンドチップスも、綺麗に完食し終えて。食後の紅茶やスコーン、ケーキを食べながら、まだまだ話に花が咲く【liberal】の同窓会。
     でも――楽しい時間は、あっという間。
    「話は尽きませんが、そろそろお開きにしましょうか」
     名残惜しさを感じつつも、立つ鳥跡を濁さず。
     協力し合って、きっちりと後片付けをしながらも。
    「美味しいものもたくさん食べたことじゃし、今日は懐かしい話ができて楽しかったのぅ。同窓会を催してくれた智慧に感謝じゃ」
    「通りかかった私にも声を掛けてくれてありがとう。楽しかった」
    「次はもう少し前もって知らせてくださいね」
     皆のそんな言葉に、智慧は金を帯びた瞳を、優しく細める。
     クラブ名【liberal】の通り、『自由』な智慧。
     そんな彼を見つめた後、山女はアリシアへと視線を移して。
    「きっと私たちは似た者同士ですね、智慧さんと長い付き合いをしていると、そう感じます」
     彼女の長い黒髪に舞い降りた桜の花弁をそっと摘みつつ、そう笑むのだった。
     おそらく、次の同窓会の連絡がまた急に来たとしても。その時もこうやって同じように集まるに違いない。
     そして、いつになるのかはわからないけれど。
    「今日はありがとうございました。またやりましょうね、同窓会」
     またいつか――桜の下で、会いましょう。
     次の同窓会もきっと楽しくて、いつまでも色褪せない思い出話に花が咲くだろう。
     綺麗に咲き誇る美しい桜にも負けないくらい、満開に。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:3人
    結果:成功!
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