クラブ同窓会~【河川敷野外生活部】変わらぬ日々~

    作者:相原あきと

     時は無常なるもの。
     10年という月日はありとあらゆるものを変えていった。
     だからこそなのだろうか、今になって色褪せたはずの思い出が鮮明に浮かび上がる。

     あのとき、あの場所、あの仲間たち。

     うつろいゆく季節……それでも、不変のものもあるのではないだろうか。
     それは、そうあって欲しいと思う、ほんの僅かな希望。
     きっと彼女は。
     彼女なら今も変わらず……。

     あなたの足は自然と進み始めていた。
     あの、河川敷に。


    ■リプレイ


     うつろいゆく季節。
     そんな中でも不変のものがあっても良いだろう。
     あの河川敷に行けば、きっと彼女は……彼女なら今も変わらず……。
     それは、そうあって欲しいと思う、ほんの僅かな希望。

     だが、そんな某彼女が考えたであろうモノローグ風の希望はひとまず置いておいて、藤森・柳(アステリズムフォーチュン・d03435)はその河川敷で自らの独白モノローグを上書きする。
    「あれから随分経った……」
     うつろいゆく季節。
    「僕ももう30だ。そろそろ決心するべきだろう」
     どんなに月日が流れようと、柳の中では不変のものがある。
     だから、柳は彼女を呼んだ。
     この、思い出の場所に。
    「話って、何かしら……?」
     メリーベル・ケルン(ヘクセデアエクリプス・d01925)が可愛らしく小首を傾げる。
     柳はそんなメリーの瞳をまっすぐに見据え。
    「愛しています。どうかこれからもずっと僕のそばに……結婚して下さい」
     柳は言葉と共に花束を差し出す。
    「はい……喜んで……!」
     メリーの瞳から嬉しさのあまり思わず涙が溢れ、柳はメリーの手を取り指輪を渡す。
     そして……。
    「えへへ、プロポーズ記念日おめでとう!」
     メリーの言葉に、数回目のプロポーズを成功させた柳がえへへと照れる。
     その瞬間、近場の草場の影から何かがーー。
    「なんでだよっ!」
     大声でツッコミを入れ飛び出して来たのは緑色の香辛料ーーもとい本山・葵(緑色の香辛料・d02310)だった。
    「ちょっと声かけずに待っちゃったじゃねぇか!」
    「違うわよ? 今日はこの河川敷で愛しの旦那様からプロポーズされた日で、彼ったらそれ以来毎年ここでプロポーズしてくれるの♪」
    「いや、何年たってもメリーさん可愛くて、思わずプロポーズしちゃうんだよね」
    「もぅ、そういうロマンチストな所も素敵……ああ、柳さん大好き!」
     ツッコミが現れたにも関わらずイチャラブする2人。
     柳の霊犬プチミントも呆れて釣りに行く始末。
     葵も無表情のままメリーの置いてあった荷物からプリンを発掘し。
    「幸せを見せつけやがって、こうしてやるっ!」
     と食らおうとした所「ダメー!」と病的な早さでメリーに邪魔されてしまう。
    「(相変わらずプリンへの執着が半端ねぇな……)」
     と内心で感心半分に軽く引いていると、近くから1人覚悟を決めるような独白が聞こえてくる……。
    「あれから10年、河川敷魚類連合がついに河川敷の覇権を握るときが来たようだ……」
    「ん?」
    「あっ!」
     柳とメリーが気がつく。
     それはアンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153)だった。
     澄み渡る空を写した川面を見つめつつ、片足を適当な岩に乗っけてポーズを取り、そして……まぐろの着ぐるみを着ていた。
    「なんでだよっ! って、昔ならわざわざツッコまなかったような……!?」
     思わずツッコんでしまったが、あいつは昔からあれが平常運転だったような気もするし、いちいちツッコミを入れていたかかな? と考え込む葵。
     アンカーは葵が目に入らないのか、そのまま川面を見つめたまま。
    「今こそ! 今こそわんこ派を一掃しーー」
    「気付よ! いや、気付いてるだろう!? こっち向け!」
    「やあ葵君、それに幸せそうなお二人も」
     軽く手を上げ挨拶してくるアンカーに、3人も久しぶりだと挨拶をかわすも、彼はそのままーー「とりあえず、わんこ派を一掃し、我ら河川敷魚類連合がーー」
     そこまで言うと少しの間を空け……。
    「……と言いたいところだが、もう所帯持ちの身、妻の為にも危険な事は出来ない、か」
     と両手をそれぞれグーにし勝手に悔しがる。ちなみに左の薬指に結婚指輪を光らせ、所帯持ち発言が嘘では無いとアピール。
    「しかし……さすがに10年も放置したらわさび畑は全滅かぁ」
     アンカーがかつてあったわさび畑の場所を眺めつつ寂しそうに呟く。
    「いや、寂しがる意味がわからん」
     葵がツッコミを入れるも、そうだ、とアンカーは葵の方を向き。
    「あ、こんなところに立派なわさびがある!」
    「ほぅ……?」
    「そうさ! 葵君がいる限りわさびは決して滅びない! 何度でも蘇るのさ!」
     葵の両肩に手を置き、名言とばかりに語るアンカー。
     葵は自身の両肩に置かれた手をギギギッと引きはがしながら……。
    「言いたいことは……そ・れ・だ・け・か?」
     ドスの効いた声で、額に青筋を浮き上がらせながら。
    「ま、待て、話せばわかる」
     ピクリ、10年ぶりのやり取りだ、葵が謝罪かと思い動きを止めるも。
    「お互い、刺身御膳で同じ皿にのる者同士じゃないか?」
    「それはワサビだ! あたしを……そう呼ぶんじゃねえ!!!」

     幕間。

    「私を倒しても必ずや第二第三のまぐろが……!」

     追・幕間。

     アンカー編が終わった所で、4人はどうしても気になっていた場所へとやって来ていた。遠目から見た時、その一帯の草だけが変な生え方をしており……具体的には『ワサビ』という人文字(草文字?)になって生えていたのだ。
    「この匂い、ミント、ですね」
     柳が葉を1枚ちぎって匂いを嗅ぎ、そう判断する。
     完全に狙って植えた(?)んだろうなぁ、と皆が思う中、一人怒りを溜める葵の背後から「大自然の神秘だな」と誰かが現れる。
    「命君」
     アンカーの言う通り、それは大和・命(は遊んで欲しい・d05640)だった。久しぶりだ、と皆に声をかけるも、葵だけは「これはお前の仕業だよな」と。
    「さて、なにぶん10年前の事だ……さすがの私も記憶がな」
     と額に手を当てる命。
     だが、メリーがどうしてここに? と聞けば……。
    「あの時河川敷にミントの種をばらまいたのがふと気になったので見に来たんだ」
    「やっぱテメェじゃねーか!」
    「不思議不思議」
    「なんでだよっ!」
     そんなツッコミが響き渡る河川敷に、惹かれるように、1人少女が足を踏み出す。
     草を踏むその足音に、最初に気付いたメリーが声を上げる。
    「コルト!」
     そこに居たのはコルト・トルターニャ(魔女・d09182)だった。10年経ったが解るものだ、と感心しながらメリーがコツトの手を握って挨拶し、次々に集まっていたメンバーが手を伸ばす。
     どうして今日この場所に吸い寄せられるように来てしまったのか、コルトはその意味に納得する。きっと、この面子が集まっていたからだ。
    「来ちゃった……」
     だから、最初から集まる予定だったかのようにコルトは呟く。
     だが、その言葉に誰も違和感を感じない。
     かつてのように人が集まり、遊び、騒いでいれば、人知れず誰も彼も集まってきた。
     それが、この河川敷だったから……。
    「あ……」
     だが、ソレに気付いたのは誰が最初だったか。
     懐かしい河川敷に、昔と変わらぬ声が響けば響くほど、ここにいた彼女を思い出す。
    「今でもここに住んでる人、いるの……かしら?」
     皆、思わず黙ってしまう。
     きっと皆が同じ事を考えているのだろう。
     同じ人物を想像しているのだろう。
     そう、彼女を……。

     ザバアァッ!

     その時だった。
     水面から誰かが立ち上がり、それはザブザブと川から河川敷へと上がってくる。
     長く輝く金髪と、鋭く赤い瞳の、そして少し小さな少女。
     彼女は河川敷に集まっていた面々を一通り見回し、担いでいたキハダマグロをヨイショと河原に置くと。
    「ちょっとポメラニアンとギリギリ全開バトルフリスビーしてたら川に落ちちゃって……ついでにご飯を採ってきた所なの」
     それは、10年前と見た目の全く変わっていないリズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)であった。

     久しぶりの邂逅はリズの獲ったマグロを焼きながら(&刺身を造りながら)となった。
    「それにしても、久しぶり……かしら? 今日はなに? プリン祭? それともわさび記念日?」
     皆が偶然集まっていた事にリズが聞くも葵にツッコまれつつ、最終的に「プロポーズ記念日」だと言う事に(別にそれで皆が集まったわけでは無いが……)。
    「30リットルほどメリーさ……じゃなくてプリン作ってきたからみんなで食べようか」
     速攻で食い付いてるメリーは別格として、リズやコルト達他のメンバーもプリンを頬張る。
     近況報告をお互い行えば、アンカーの結婚などで驚く者もいつつ、そうやって結婚話になると皆に見せつけるように柳に抱きつきドヤ顔するメリーと、そのドヤ顔を愛おしそうに見つめる柳がいたり、異様にでかくなったアライグマを確認し満足げな命や、「私も色んな人を悪ふざけで彫刻にします? ってやってる悪の魔女だけど、濃いのよ! ここの人達!」と懐かしみつつコルトがツッコミに回っていたりとカオスが続く。
    「そういえばリズさんの家はどこにあるの?」
    「家? そんなものは最初から無いわ。いつも通りよ?」
    「ああ」
     10年前のままなんだ……と皆が思う。その胸に郷愁するは、安堵か安心感か。
    「空き部屋で良いなら貸せるわよ?」
    「そうなの?」
    「中には彫像いっぱいあるのだけど……仲間入り、します? 今ここで」
    「それはノーサンキューよ! だいたい、お金があれば建てられるのよね……だから、この際誰でもいいわ! わさび! ちょっとお金ちょうだい!」
    「誰でもいいんじゃねーのかよ!? あと! わさびって呼ぶんじゃねえ! って10年も経ったのに文無しなのかよ!?」
    「いくら時代が移ろうとも、私の借金だけは不変よ」
    「そんなドヤられても……」
    「大丈夫! 余ったらちゃんと返すから! 裏社会のデュエルで一発稼いでくるだけだから!」
    「裏社会って、あのな……」
    「心配しないで! 買ったら夢のダンボールハウスが建てられる予定なのよ!」
    「それ、別に金必要かぁ? とりあえずコレでも食っとけ!」
     リズリットの口にバランス栄養食を詰め込む葵。
     一瞬、大人しくなるリズ。
    「そういえば、昔川に沈めた石像達は元気かしら?」
     ふと思い出したようにコルトが言えば、「確認しに行くか?」と命が言い、持ってる荷物をごそごそし何かを取り出す。それは……水着。
    「私達、もう30歳を超えたけど昔一緒に着た水着を着てみよう」
     そう言って水着をコルトではなく、葵に差し出す命。
    「何でその水着まだ持ってんだよ!? しかもノリノリで着るし」
     ノリノリで着る命は、葵が拒否すると別のものを荷物から取り出し。
    「嫌か? ならこちらはどうだ。ねりワサビの着ぐるみ! 着たら写メを撮らせてくれ」
    「誰がそんなもん着るか!」
    「では……やはりこっちか」
     命は再び水着(葵用)を手にーー。
    「あ、こらっ、放せっ!?」
     ジタバタする葵。
     ………………。
     その後、川底の状況を確認した命らは、コルトにその報告を行うも、命自身は昔放したブルーギルが巨大化していた事に満足し、持ってきた肉まんとジュースを手に川辺の岩の上で休憩に入る。
     ぜっそりしているのは葵だが、とりあえず命からのいじりは終了したようだ。
     コルトはそんな疲れてる葵の肩をポン、とし。
    「私、刑務官やってるから、なんかどうしてもって事があったら言ってね? 今ここでしょっ引く事もできるから……」
    「じゃあ、10年前に戻って皆をしょっ引いてくれ。そしてこの未来を変えてくれ」
    「それは……無理かなぁー」
     苦笑い。
     マグロやプリンを囲んだ皆の中心では、リズが再び何か食べたくなったのか「なんでもいいわ! 誰か食べ物恵んで! さもないと辻斬る!」と騒ぎだし。柳がプリンなら……と更に盛り、それがリズの前にまわる前にメリーベルが消失させ、更に騒ぐリズに葵が標的と化し、なぜか充満するわさびの香り。そんな喧噪から離れた川縁にはちょっと自分のターンは終わったとばかりに佇む命と、並んで平和に釣りをするアンカーとプチミント。
     うるさくてはちゃめちゃで好き勝手で……そして自由な風景。
     それは確かに10年前と何一つ変わらない、この、河川敷の風景だった。

     時は無常なるもの。
     10年という月日はありとあらゆるものを変えていった。
     それでも、変わらないものもある。
     この、河川敷の風景のように……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:7人
    結果:成功!
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