クラブ同窓会~かつて戦略戦術研究部だった猟犬達へ

    作者:相原あきと

     2028年某月某日。
     あのダークネス達との大規模戦争から10年が経ち、世界は大きく変わった。
     当たり前だった常識も、人々の生活も、そして……戦争のあり方ですら。
     今から10年前、灼滅者の拠点たる武蔵坂学園にはとあるクラブがあった。
     戦略戦術研究部。
     そこは戦闘に勝つ為のあらゆる手法を研究する場であり、戦略や戦術、個人の戦闘技能の研鑽、勝利を得る為に寄与できる大小あらゆる事柄を研究するクラブだった。
     そこに所属していた灼滅者達は、その他の学園の生徒と同じく、時代の流れと共に卒業し、新しい道を見つけ、それぞれがそれぞれの未来へと巣立っていった。

     きみも、そんな巣立ったメンバーの1人だ。
     某国某都市、裏路地に面した少し薄暗いバーにきみはいる。
     落ち着いた雰囲気だが、ボリュームを絞ったジャズが流れ、その音が客同士の内密話を当人以外に聞こえないようにしている。
     ここは『ライブ・ドロップ』というある職種に限って有名なバーだった。
     その職種とは……スパイ。
     そう、ここに来る客の9割が各国の諜報機関や密偵であり、ここは密談や極秘の交渉に使われるバーなのだ。
     さて、どうしてきみがこんな場所にいるかと言うと、
     なぜか招待状に書かれた場所がここだったからだ。
     その招待状はこんな見出しで始まっていたーー。

     かつて戦略戦術研究部だった猟犬達へ……と。


    ■リプレイ


    「ここか……」
     某国某都市の裏路地に面した薄暗いBARの扉の前で、柳瀬・高明(d04232)は足を止める。
     あからさまに治安の悪い場所では無いが、だからといって一般人がやってくるには不都合な場所だった。
     そんな場所に堅気の高明がやってきたのには理由がある。
    『かつて戦略戦術研究部だった猟犬達へ……』
     そんな出だしで書かれた招待状は、10年前にその組織に所属していた自分宛てで間違いなかった。
     集合時間は日が沈んでからだったが、今はまだ日が夕日になる直前ぐらいだった。
     早く着いたが仕方が無い。飛行機の時間の都合というものだ。
     高明が意を決して扉を開けると軽やかに鈴が鳴り店内に来客を告げる、ボリュームを絞って流れるJAZZ、薄暗い照明、店内にはすでに数人の客がいるようだった。チラリ、先客が高明の方を見た気がした。
    「(右はめっちゃ物々しい雰囲気の人達……左は如何にもエージェント的な人達……誰でも良い、みんな居てくれ!)」
     場違い感を出来るだけ出さないよう冷静に歩けば、正面はカウンター席だった。ここならとりあえず1人で居ても違和感は無い、と座ろうとした時だ。
    「私、ハイボールで! 部長は?」
    「じゃあ私は……」
     聞き慣れた声に顔を向ければ、そこには10年ぶりだが間違えようの無い懐かしき仲間2人。そのうちの1人が「あら」と高明に気がつき。
    「久しぶり、まだ約束の時間には早いわよ?」
     そこに居たのは鹿島・狭霧(d01181)と矢崎・愛梨(d34160)だった。
    「ふぅ……俺が1番かと思って緊張したぜ。2人も先に来てたのか」
     緊張感が解けぐったりとカウンターに突っ伏す高明に。
    「2人でなく5人ですよ?」
     瓶入りスパークリングウォーターを手に近くのテーブルから寺内・美月(d38710)がやってくる。さらに美月の居たテーブルを見ればベレー帽とコートをイスにかけた灯屋・フォルケ(d02085)と、パンキッシュな格好な上にギターケースを2つ立てかけているフォルケの夫、鏡・瑠璃(d02951)が手を振ってくる。
     職業柄時間より早く来ていろいろチェックしておきたくなる、とはほぼ皆の談だった。
     カランコロン。
    「ハァイ、お久しぶり~。みんな元気にしてた~?」
     店の雰囲気などお構いなしに、マイペースに手をヒラヒラさせながら入ってくるのは明石・瑞穂(d02578)だ。狭霧達を見つけ明るく挨拶して回る姿に、BARの他の客が場違い感をイラ立たせて視線を送るが瑞穂はお構いなし、だ。
     やがて時間ピッタリに新城・七葉(d01835)と風間・紅詩(d26231)の夫妻が到着し、かつて戦略戦術研究部だった猟犬達の……10年振りの宴が始まる。


    「再会と、猟犬達の未来を祈って」
    『カンパーイ!』
     狭霧のかけ声と共に、静かなBARに似つかわしくないグラスを打ち鳴らす音が響く。
     カウンターとその近くの数テーブルを占拠する形で戦戦研のメンバーが集まる。スタートからある程度の雑談を挟みつつ、ふと思った事を口にしたのは愛梨だ。
    「戦戦研内で結婚したのって七葉さん達とフォルケさん達の2組なんだねー。10年間ずっと一緒?」
    「もちろん、ずっと旦那様と一緒だよ。今は子供達もいるし……とっても幸せだね」
     愛梨の言葉に笑顔で即答する七葉、紅詩が言うには「音楽関係の仕事」をしているらしく、将来は七葉の実家のそばに引っ越す予定との事だ。
    「引っ越す時にはまたご連絡をさせて貰いますね。鏡さん達はどうです?」
    「うーん、ぼく達の所も子供がいるけど……」
     なぜか苦笑いの瑠璃。
    「ええ、時々むずかしい質問して来るんですよね。家族一緒に楽しく成長してる実感もあるんですが、そんな時は……少々困ってしまって」
     親らしい悩みにフォルケが苦笑し瑠璃と顔を見合わせる。もちろん、それがのろけっぽく聞こえるのは独り身のメンバーが主で、七葉と紅詩はそれがあんがい本気で困る事だと理解が出来て同じく苦笑しか無い。
    「大人になったら、がいつまで通用するかなって。まぁ、その時が来たら色んな話をしてあげたいとは思うんですが」
     しばし、テーブル席に移った4人が子供話に花を咲かせ、それをつまみに酒を飲む。いつの次代も子供の話題はどの話題より当事者達にとっては盛り上がるネタなのだ。
     一方、L字カウンターの角を占拠するよう話すメンバー達は、唐突に背後に生じた気配に飛び退る。ただ1人、狭霧だけは角を動かず座ったまま、背後からその気配の主に肩を抱かれる。
    「うーっす、懐かしい顔がそろってんな。元気そうで何よりだぜ」
     いつの間にか鈴を鳴らさず扉を開けて入ってきたのか、それは鏡・剣(d00006)だった。
    「やはり来たわね、剣先輩」
    「来たぜ? でも、できれば抓った手を放してくれると嬉しいかな」
     肩に触れるギリギリで剣の手を2本の指で抓るよう持ち上げていた狭霧が、肩から移動させてから手を放す。
     その後、剣は義兄弟がいる子供話に花が咲くテーブルへと遠慮無く乱入しに行き(そこに愛梨が「私も子供の話聞きたいー」と一緒に乱入)。
     カウンターが再び落ち着いたのを見定め、高明が瑞穂や美月に近況を聞くと……。
    「アタシ? アタシは裏社会の医療職、即ち闇医者やってるわよ~。金さえ払えば、どこの誰でも治療するから。まぁお陰様で繁盛してるわよ~」
    「確かに、そりゃアコギだな……」
    「まあねー、相手が金持ちとかだったら容赦なく治療費ふんだくるし。治せるか治せないかはお前さんが幾ら出せるか、それ次第だぜ? みたいな~?」
     楽しそうに放す瑞穂に高明は社会の闇を見たような気もしたが、それが普通なのか気にせず狭霧が「妹は?」と聞くと。
    「あ、ちーちゃんはアタシの助手兼マネージャーやってるわよ~? 今日は来てないけどみんなによろしく、って」
    「姉妹揃ってか……ったく、こちとら荒事から退きアクション俳優業に専念しているっていうのに、アクション俳優の給料って知ってるか? 命張る割りに意外とーー」
    「でも灼滅者なんだし死ぬ事は無いでしょう?」
     狭霧がさくっと正論を。
    「そりゃそうだけどよ!?」
    「死にそうになったら言ってねー? お金次第でいくらでも治療してあげるわよ~?」
    「いやいや、勘弁してくれ」
     うなだれる高明の横に割り込むように、フォルケ達をからかい終わった剣が戻って来て狭霧に行く。
    「で、狭霧は今何やってるんだ? 花嫁修業とか?」
    「冗談! 至って普通の工作員よ、フリーランスのね。内容如何によっては儲け抜きで仕事する事もあるから懐が暖かいかと言われれば、答えに困るけど」
    「なら俺を相棒に雇うのはどうだ? 給料は喧嘩の場の提供でいいぜ? もちろん雇ってくれりゃあ十分女性扱いさせてもらうしな」
    「それこそ冗談、前半の弾避けは今じゃ必要無いし、後半は悪趣味だわ」
    「ちぇっ」
    「羨ましいです」
     と、美月が炭酸を飲みつつ皆の会話に独りごちる。
    「どうしたの? 早く大人になりたくなった?」
    「はい。皆さんの話を聞いていると早く社会人になりたいと思ってしまいます」
     美月は今年名門進学校の二年になった。成績上位をキープし、一部の人間しか灼滅者とは知ら無い中、自らの実力と能力で上まで上り詰める為、日々努力している。将来は国を守る者を育てる大学への進学を希望している。今、目の前にいる皆は決して自分の目指す像と同じというわけでは無いが、それでもそれぞれが自分の道を自ら選び取り、しっかりと歩んでいる事は解る。その点でも、やはり美月は皆のようになりたいと思うのだ。


     猟犬達の宴は楽しく続き、ついに深夜に入ろうかという時だった。
    「……何か、視線を感じるわね。おまけに普段より人数も多い気がするし」
     そう、狭霧が呟く。
    「このバーに入ってから緊張が解けないからおかしいと思ってたけど……どおりで」
    「……任せてください、七葉」
     狭霧に続いて七葉が納得し、持ってきていた大きめのスポーツバックをそれとなく傍に引き寄せ、同時、自然な動きで七葉達を後ろに庇うよう紅詩が立ち上がる。
     紅詩が立った瞬間、ちらりとそれを確認する客達をその一瞬で逆にチェックするはフォルケと瑠璃。
    「結構、監視リストに載ってる顔もありますが・・…危険度は私たちの方が上ですかね?」
     ボソリと瑠璃に呟けば。瑠璃はブランデーのお湯割りを一気に飲み干し。
    「……むしろ、こちらの関係で釣れた可能性もなきにしもあらず?」
     ニヤリと笑う2人に、飲み干したショットグラスをカンッと乱暴に起きつつ狭霧が。
    「まぁ、あながちソレ、当たってると思うわよ? だって考えてみなさい。戦戦研の主要面子が一同に会してるのよ? 各国諜報機関もマークして当然よね。私の仕事の都合上ココを指定しちゃったけど……失敗したかな?」
     狭霧の言葉に美月が淡々とゴム弾が装填されたAPS拳銃に手を伸ばす中、「いや、逆だろう?」と笑みを浮かべるは剣。
     ドカッとテーブルに足をかけ、店内のJAZZを打ち消す大声で叫ぶ。
    「よっしゃあ、久し振りのこの面子で! 楽しい喧嘩、させてもらうぜえ!!!」
     ダララララララララッ!!!
     剣の叫びと同時、店内に残っていた客という客全てが銃火器を手にし、一斉掃射を開始したのだった。

    「どぅおああぁぁッ!?」
     さながら映画でよく見る乱闘劇に、高明んはカウンターを飛び越えその裏へと退避する。
    「くそっ、やっぱこうなるか。俺の読みが甘かった!」
     自分の甘さを痛感していると、ポンと誰かに肩を叩かれる。見れば店のマスターだった。高明と同じくカウンター裏に退避しつつその表情からは「狭霧がここを使うと言った時点で……」「ああ、やっぱり」と言葉にせずとも以心伝心な2人。
     と、そんな2人をのぞき込むように、カウンターに座ったまま空のグラスを伸ばして来るは愛梨。
    「このハイボール悪くないわね。ねぇマスター、もう1杯頼むわ」
    「こっちのスコッチも悪くないわよ~?」
     同じくカウンターに座ったままの瑞穂が愛梨に勧める。
    「おいっ! 銃撃戦だぞ!? 何のんきに飲み続けてるんだ!」
    「でも、灼滅者に一般兵器は効かないから」
    「それに~一応痛そうなのは避けてるしねえ~」
    「そういう問題か!?」
    「ハイボールお待たせしましーーゴフッ!?」
     愛梨の注文したハイボールを受け渡し、こめかみに銃弾が直撃しカウンター裏で痛みに転げ回るマスター。
    「ほら! 余計な被害が出たじゃないか!」
     高明の非難に2人は自分たちのせいじゃないと言いつつ、ゆらゆらと銃弾の雨の中酒を飲み続ける。
     一方、乱闘のど真ん中に飛び込んで暴れるは剣1人、襲撃者を掴んでは盾にし、何発も銃弾を食らいつつも楽しげに笑いながら拳を振りかぶる。
    「狭霧、指示はねーのか!? 今日のお前は『部長』だろう?」
     剣の声に狭霧がニヤリと笑みを浮かべると、持ってない無線を持っている『てい』で口元に手をやると。
    「ネーベル・コマンドより全ユニットへ伝達。状況開始、状況開始。目標を視認次第各個撃破。尚、武器の使用は任意。幸運を祈る。終ワリ!」
     久しぶりにメンバー達に指示を出し、狭霧の胸に何かがこみ上げる。だが、それは他のメンバーも同じだった。長からの指示を受け一斉に動き出す戦戦研のメンバー達。10年の月日が流れても昨日のことのように即座に10年前の気持ちにメンバー達が立ち戻る。
     懐かしく、そして二度と戻らない、戦戦研としての青春の日々……。
     剣が前線で敵を引きつけ、掃射される弾丸をメンバーの前に立つ紅詩が鋼糸で斬り落とし影技で庇う。その後ろから倒したテーブルに身を隠しつつ、七葉、フォルケ、瑠璃、美月が射撃を行う。もちろん後ろから回ってきて奇襲を狙う輩もいたが、それらはカウンターの愛梨と瑞穂が飲みながら適当にあしらってしまう。
    「旦那様、照準フォローしてね」
     七葉がランシャーを引っ張りだし遠慮無く射撃。
    「直接殴られるよりは有情と思ってくださいな? それに、赤い悪魔とか果物の詰め合わせは持ってきていませんのでご安心を」
     瑠璃がギターケースからリボルビング・ランチャーを引っ張りだしぶっ放す。
    「あの悪魔だと店が崩壊しますしね」
     フォルケがアタッシュケースに偽装したゴム弾装填済みの短機関拳銃を一斉掃射。
     やがて、最後の1人となった敵が突貫して来た所を美月が零距離格闘で投げ飛ばし、グエッとひっくり返った所で狭霧が銃口を突きつけ。
    「See you next world」
     バンッ!

     一般人がエスパーとなった今の時代、銃撃戦程度で命が失われる事は無い。最も、撃たれれば痛いし致命傷なら死ぬほど痛い、銃火器は制圧目的で使用し敵対者は捕縛するのが今のセオリーだ。
     紅詩と七葉が捕縛を担当し、どうしても怪我した相手は瑞穂が費用をチラつかせつつ最低限の治療を行っていた。
    「……そういえば清めの風なんて持ってましたね」
     ふと瑠璃は思い出すも、楽しそうな瑞穂を見て言い出すのを止めようと納得する。
     人の被害は上記の通りだが、店内の被害は相当なものだった。美月とフォルケが店の復旧と片付けに尽力するも、どうやっても元通りにはなりそうにない。
    「修理費は狭霧のツケだろ?」
     と剣が笑えば、大まじめに店のマスターがザッとの見積もりを狭霧へ渡し、狭霧が嫌そうな顔をする。正直、そんなに儲かっているわけでは無いのだ。
    「それにしても……いろいろあったよね。このクラブ、思い出しちゃったよ」
     店の惨状を見回しつつ愛梨が思い出すように呟く。皆も一瞬作業の手を止め、ふと思い思いに懐かしみ……。
    「その結果、10年経ってもコレってわけだ……ま、これでこそ戦略戦術研究部だなあ、ははは」
    「……そうね。ウチらしいっちゃらしい、かも?」
     高明の言葉に狭霧が同意し、ふふふと同じく笑い出す。
     やがてその笑い声は皆に広がり、店の惨状とは不釣り合いな程、楽しげに響き渡った。

     今から10年前、灼滅者の拠点たる武蔵坂学園にはとあるクラブがあった。
     戦略戦術研究部。
     そこは戦闘に勝つ為のあらゆる手法を研究する場であり、戦略や戦術、個人の戦闘技能の研鑽、勝利を得る為に寄与できる大小あらゆる事柄を研究するクラブだった。
     そこに所属していた灼滅者達は……今も、そしてこれからも、10年前と変わらず笑い合うのだ。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:10人
    結果:成功!
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