伝統の灯、タイムトラベルマーケット

    作者:ねこあじ

    ●2028・12月
    『ちょっとした時間旅行をしてみない?』
     と、学園のかつての仲間たちに日向・草太(神薙使い・dn0158)はメールを送った。

     誕生日だから――というわけではないが、折角だからと休みをとって遊びに行くことにした。
     というわけで、ドイツ。
     狙いは有名なクリスマスマーケット……の、中世マーケットである。
    「古き良き中世、一度この目で見てみたかったんだよね」
     折角なので体感してみよう。
     結構な頻度で行われているドイツの中世祭り――クリスマスの時期もまた世界各地からやってくる観光客は多い。
    「こうも人が多いと、誰かとばったり会ったりしてね」
     世界を渡る灼滅者は多い。偶然の再会も旅の醍醐味だろう、と草太は頷く。
     中世祭り。内容は、その名の通り、中世を体験できるお祭りである。
     門構えは櫓。木組みの家が並び、沢山のモミの木とクリスマスの装飾。
     広場や道には、個性ある屋台が建ち並び、中世の服を着た店員が愛想よく物を売っている。
     王道ファンタジーのような道具屋、武器防具屋に目を惹かれ、店内に足を踏み入れてよく見てみれば、羽ペンや羊皮紙、角笛、普段使いにも出来そうな革の小物が売られている。
     木製のおもちゃや食器、陶器といったお店は勿論、服屋、そして古風なデザインのアロマランプや蝋燭立てのある香料屋には様々なお香やアロマオイル。ファンタジーっぽい可愛い容器もあった。
     グルメでインパクトが強いのは豚などの丸焼きだ。直火で炙られたそれを新鮮な野菜と一緒に、焼きたてのパンに挟んで食べる。
     他にも窯焼きピザ、香辛料の効いた焼き物、ごった煮のスープ、ドイツ伝統のお菓子。
     酒場オリジナルの杯で提供されるこだわりのホットワインを飲みながら、市場の雰囲気を楽しむ食事。
     買い物と食事、これだけで既に目まぐるしい。
    「ああ、演奏会もあるんだ」
     中世風の楽士の演奏と詩人の歌はどこか懐かしく温もりがあって、酒場の客が共に歌ったり音を鳴らしたりと、雰囲気を謳歌していた。
     古楽器の音色が人の熱を抜け、寒空に響き渡る。
     人によって伝えられてきて、さらに繋げていかれるであろう、伝統。
    「なんか、不思議だよね――」
     戦い続け、戦いが終わっての十年。目まぐるしく世界は変化したけれど。
     どんなに年月が経っても、変わらないものがここにあった。


    ■リプレイ


     メインのクリスマスマーケットから、木の看板に案内され歩く。
     木組みの家々と石畳。
     当時の言葉で書かれた大きな看板と櫓をくぐれば、守備任のサージェントが「ようこそ!」と迎えてくれた。
     紋章の入った布が飾られる中世市場へと、足を踏み入れる。

     紗奈が村娘の衣装でスカートをつまめば、裾から革靴に施された花の刺繍が見えた。
     待つ姿。次の瞬間、ぱっと顔を上げて目を輝かせた。
    「騎士様だ!
     春、格好いいね」
    「……うるせ」
     と呟く春であるが、恥ずかしいのかやや染まった頬とやや逸らした目。
     そんな幼馴染に紗奈はにっこり。
    「中世ではきっと、ピンチに騎士様が颯爽と駆けつけて手を取って助けてくれるんだよ」
     ね、ほら。
     差し出された彼女の手。期待のこもった声と表情に、
    「いや、今ピンチじゃないし」
     と、春は謹んでお断りの旨を伝える。
    「小さい頃は手をつないで冒険もしたのにな」
     頬をぷくっとさせて、紗奈は言う。

    「瑞音」
    「仙先輩、剣士の格好似合う!」
     呼ばれて振り向いた瑞音は、剣士風にマントという仙の姿に歓声を上げた。
    「茜さんも」
     と手を挙げた仙に気付く悠歩。
     ローブとアームカバーで町娘風の瑞音、布の服に帽子と矢筒を装備した狩人風の悠歩、二人の空気は独特で、仙はすぐに見つける事ができた。
    「やぁ二人とも。どこの女優さんかと思った。
     対照的だけど二人らしいね」
    「茜先輩も良いな、様になってるの」
     と瑞音は微笑み、
    「前衛後衛でバランスのいいパーティね」
     剣士と狩人、頼りになる冒険者二人がいれば旅も安心だ。
     【PR】の三人で並ぶとRPGの冒険者気分。
    「十年前もこんな風に旅をしたっけ。
     じゃあこれは続編か」
     ゆるりと悠歩が言った。

    「こ、これっ……余計に目立たない……?」
     と『金髪美少女』が戸惑っている。
    「別に大丈夫だろ。周りも似たようなもんだし」
     宗田が意地悪そうに笑い、『金髪美少女』に言った。
    「女装って事もひっっじょーに! 不服なんですけどねっ」
     頬膨らませた澪は淡い桜色のドレスと帽子、そして宗田から渡されたベネチアンマスクをつけている。アイドルやってる以上お忍びで来るしかねぇからな、という宗田の提案であった。
     宗田は正装で、二人が並べば夜会へ赴く貴人風。

    「やー、お母さん抱っこー」
    「今日はお父さんね」
     あさひの声に、美夜は甘やかさない姿勢で応じる。
    「今日はお父さんだぞー」
     とあさひを抱っこした優志が宥めるように少し揺らした。
     変わらず駄々をこねるあさひが手を伸ばしてくるので、美夜は指先でちょいと突いてやった。
    (「容姿は、日に日に優志に似てきてるなと思ってはいたけど、中身まで似てきてる……?」)
    「こういう趣向は初めてだな……空気も建物の感じも違うから、趣きがあるな」
     色々なクリスマスマーケットを目にしてきての感想を呟いた優志は、あさひの好きそうな屋台を見つける。
    「あ、優志たち。久しぶり、闇堕ちデート以来かな? 幸せそうだね~♪」
     あさひに、可愛いね~とサンプルのおもちゃを振ってみせるミカエラ。その笑顔に、
    「久し振り、変わらないな」
     と、優志。
    「あさひ、ほら、こっちも面白そう」
     美夜が可愛く塗装された木馬達を指差せば、あさひの目が輝く。
    「手動の回転木馬だよ~」
     とミカエラが紹介し、手順を説明する草太。
    「そうだ。ヴラドのとき、すっごく頼もしかった! ホント、ありがとね!」
     優志に向かってミカエラは言うのだった。

     鍔広のトンガリ帽子に紺色ローブで魔法使いな紗里亜。
     紺の詰襟上着は近衛風。猫耳付の帽子に長ブーツの明莉は、長靴猫の物語。
    「ミカエラ先輩は何処にいるのかな?」
     と、杏子は薄いパープルの貴族風ドレス。何やら草太と運営側にいるらしいが、何処にいるのやら。
     カソックにフード付きのマント姿の銘子と、先程購入し同じ様なフード付マント姿となった杣がついていく。
    「姫様に剣士に僧侶に魔法使い……RPGっぽいな」
     と脇差はマントを羽織った狩人衣装だ。
     あっちの屋台、こっちの店とそぞろ歩く【縁】一行。
     古物の意匠に職人の気質や文化が読み取れ、銘子はゆっくりと見て回る。
     革紐綴じのカバーを見ていると、触れてご覧と店主に渡され、手に馴染む質を味わう。
    「アクセサリーっ、銘子先輩、紗里亜先輩っ! 見て見てーっ!」
     クラシックの装飾品を指し、声掛ける杏子の楽し気な様子は少女時代のもの。
    「キョンちゃん、こっちも素敵ですよ」
     色々と見て回るも、日常のあれこれも視野に入っている二人に、銘子はこっちはどうかしらとすすめてみた。
    「ヴィンテージ風の小さいガラスなら普段使い出来そうよ?」
    「銘子さんはやっぱり良い物を見つけますね……」
     購入を決めた二人が戻ってきて、ふと銘子が見回せば紗里亜も気付く。
    「脇差さんと明莉さんはどこへ……?」
     あの二人がやりそうなこと――。
    「羽ペンで戦ってないわよね?」

     角笛を発見した脇差は、店主の「試してみて」という声に手に取ってみる。
    「……角笛買うの?」
     明莉がそっと問う。
     脇差は角笛をじーっと見る。
    「どうやって吹くんだこれ」
     曰く、唇を振動させて――と店主の教え。それが難しく脇差は悪戦苦闘だ。
    「……て、そこ、笑うな!」
     目を逸らし続けていた明莉を見れば、体が震えている。
    「店主、これをくれ!」
     と脇差が速攻で買った諸々の中。羽ペンで『脳筋』と書いた紙を明莉の額にバシッと貼りつけた。
    「て、こら、何貼んだよっ――店主これをくれ!」
     明莉もまた諸々を買う。
    (「脇差とあかりん、あんなに筆記具買って何やってんだろ~」)
     と、接客を終えた白タイツで王子姿のミカエラが通りすがる。
    (「あ、こっちは紗里亜。また渋いモノ見てるなぁ」)

     細かい意匠の物を見ていた澪は、指輪以外に揃いの物を買っていないなぁと気付く。
    「どうせならお揃いの食器とか買おうよ」
     そう言ってどれにしようかと悩み始める。カトラリーひとつにも職人のこだわりが見え、それが物語として連なっているのだと気付くと更に悩む。
    「ほれ、お前こういうの好きだろ」
     いつの間にか会計に行っていた宗田が、澪に渡した物。
    「えっ、いやだってこれ結構高……」
    「気にすんな。たまに俺だけの為に吹いてくれりゃそれでいい」
     ちゃっかりと『請求』してくる宗田。澪が贈られた笛を抱きしめれば、己の心拍数が上がっているのが分かった。
    「……あ、ありがと……」

     豚の丸焼き、焼きたてパン齧りながら明莉は目を瞠った。
    「めーこさん、椎那、空飛ぶ唐揚げ!」
    「唐揚げ……唐揚げ?」
     脇差が二度見した。


     何食べようかなぁという呟きを耳にした残暑は、豪奢なドレスの少しだけつまみ、てってってーとお嬢様走りを披露した。
     そして優しくきゅっと手を握れば、その人はお客様となる。
    「お客様、あすこに最高のブツがありますわ、さぁわたくしを連れて最高の揚げ物体験ですわよ!」
     その名は【FlyHigh】。中世コスプレ揚げ物屋台である。たまに揚げ物が空を飛ぶ。
    「皆様、いつもどおりの最高の揚げ物をお願いいたしますわね!」
     残暑達が近付くと、お姫様がくるりと振り向いた。
    「あら、お客様? いらっしゃい。ここでは最高の揚げ物をご用意しているわよ。
     ――何を揚げてるのかって? ……うふふ」
     そう言って意味深な笑みを浮かべるアメリア。
     ええと、とりあえず頼んでみようか?
    「爺や! メイド! オーダーよ! このお方に最高の揚げ物を用意しなさい!」
     お姫様が命ずると執事服でだんでぃーな付け髭をした静が応じる。
    「あーはいはい、かしこまりましたお姫様。
     お客様に、時代を席巻したというハイなフライをご提供しましょう」
     一礼する静は九十度の姿勢を保ったまま掌を上に、示した。メイドを。
    「では先生お願いします」
    「オーダーですね。かしこまりました」
    「耀様、このおまんじゅうも揚げてくださいませ! きっと美味しいですわ!」
     メイド姿の耀はオーダーと共に残暑の最高のおまんじゅうを揚げていく。
     じゅわっと音がたち、香ばしくも仄かに甘い匂い。
    「さあ、熱いうちにどうぞ。味には自信がありますよ」
     耀に渡され、さくりとするそれを食べてみれば、肉の旨みと噛めば噛むほど出てくる甘味。
     フルーツ――林檎かな? と思って執事に訊いてみれば、
    「中身? さぁ……?
     美味しければいいと思うんですよ僕は」
     と、自身の分も購入した静が応じ、もぐもぐと食べている。
     ねぇ? と言われ、次にメイドを見る客。耀はクールに応じる。
    「申し訳ございませんが、原材料に関しては企業秘密、とさせていただいております」
     謎ではあったが、最高の揚げ物であることには違いない。
    『Super(ズーパー)!』
     と笑顔で客は去っていく。
    「「ありがとうございましたー」」
     アメリアはくるりと騎士の方へと振り向いた。
    「さー私の騎士達。もっとお客さん呼んできて! じゃないとお給料抜きよ! ほらほら、あっちのお嬢様みたいに物理的に引っ張ってもいいから!」
    「クッ! お給料を盾に取るとはなんたるってうわぁいお嬢様がアクティブッ!?」
     両手に花(客)の残暑が再びやってくるのを目に、綴はやや仰け反った。
    「よしッ、了解したッ!」
     マシンコスリーを姫抱っこした綴は中世の全身鎧で歩く。板金に意匠されたレリーフは騎兵そのものだ。道行く者の人気者である。
     いつものヘルメット? 勿論中で被っているよ?
    「貴方の最高の揚げ物ッ! 中身は何か確かめてみたくはないかそこを行く貴公ッ!」
    『Hey!』
    「むッ!? あ、写真ッ! どうぞッ!」
     マシンコスリーを持ち上げ、お客さんと一緒に写真撮影。
    「姫に爺や、騎士にお嬢ね……詩が無ェな?」
     とキツネユリに騎乗する陽司は未成年の主張を手に、
    「祭りに音楽は必要でしょうよ、韻は日本風だがそこは勘弁!」

    『そこのお人よ 町吹く風よ 伝えておくれよ この味を』
    『今は祭よ 屋台は味よ いざ見てお食べよ Fry High』

     中世の吟遊詩人に扮し、メロディラインにのせる陽司の詩。
    「あっれ~、陽司もいる~」
     陽司が振り向けば、綴と客――ミカエラだ。

     ――あれは、まだ皆が学生で若かった頃。忘れはしない、学祭でのあの惨状――。

     渋いボイスナレーションが頭に流れた面々。
    「あ、貴女は番頭さん!? ふっ……いいわ。ダイスで勝負よ!
     貴女が勝ったら、タダであげましょう! いざ!」
    「サイコロ勝負とは時代劇だね、そンじゃあ番頭、俺も一枚噛ませてもらおうか」
     貴みアメリアと渋み陽司の前に用意されるサイコロと台、すすっとメイドと執事も出てくる。
    「屋台の本丸は接客担当のお嬢様でも執事でも無く、調理場を預かるこの私」
    「ははあ、ダイス勝負。
     お姫様など所詮は神輿、真打はこの僕だという事を教えてあげよう――ふふふ、かかってくるが良い!」
    「……ちょっと?」
     ちょっとジト目で二人を見るアメリア。ミカエラはサイコロを手にした。
    「では、第一投~」

     結果?
    (以下、渋みボイナレ)
     このカタキは取ってやる、と投げれば、討ち死にが乱発。
     背負ったはずの熱かったはずの意思はペラペラであったのか……。
     最高の惨状ののち、FlyHigh、仲良く皆で敗退。
    「まあ、あれだッ! 仲良きことは美しきかなッ!」
     と、綴。
     ダイスの神様は確かにいる――そう思う面々であった。


     冒険に欠かせないランタンとコンパス、水筒用の革袋。
    「香水瓶は聖水入れに良さそうだ。ああ、瑞音、これも」
     と、羊皮紙を持つ瑞音に、ペンとインクを渡す仙。
    「これで迷子の心配はなしだね――そうそう、回復アイテムも欠かせない」
     悠歩の言葉に、次は食料。三人は店を巡っていく。
     ソーセージを炙る香りは何とも食欲をそそられる。
     様々な種類のそれに目移りしていた仙は、瑞音を呼んだ。
    「ラム酒入りのホットチョコがあるよ」
    「美味しそう! あ、ワインのお供ならチーズも売ってたの」
     グリューワインを購入した仙に、瑞音。悠歩も同じワインを買ったようで、掲げる。
    「オレもこれ。仙はお酒強そうだけど……瑞音は?」
    「瑞音はそこそこ飲めるかも?」
    「自分は強いって程じゃないけど茜さんはどう?」
     答えと問いに悠歩は微笑んだ。
    「耐性は低めなので程々にシマス」

     抱く息子が温かくなって、ついにはことりと眠ってしまった。
    「まぁ、あれだけはしゃげば体力使うし、眠くもなるわよね」
     妻の言葉に、前髪を払ってやりながら優志は微笑む。
     見た目だけでなく、表情まで似ている父子に思わず笑う美夜。
    「……似てるって言いたい?」
     そう言って優志は、片腕にあさひを、そして、
    「お姫さん、お手をどうぞ?」
     何度そうしたか分からない、いつもの声色と共に片手を差し出す。
     美夜もまたいつも通りに。はいはいと肩を竦めて、手を取る。
    「じゃあもう少し、見て回りましょうか」

     焚かれる松明の匂い、凝った意匠のランプがあちこちに置かれ、煌々とした灯はとっておきの一夜のために。

    「わぁ、演奏会やってる! 楽しそうー」
     目を輝かせた澪に宗田が笑む。
    「ほら、どうせなら歌って来いよ、歌姫様?」
    「はぇ!? ちょ、流石に目立つのは……って誰が姫だ!」
     そう言う澪だが、気付いたクリストキント扮する歌姫に手招かれて、天使の歌声を披露する事に。
    「後で喉を潤してあげてね♪」
     と屋台からミカエラが飲み物を宗田に渡す。

    (「昔から、武器がなくたっていつもの服だって、ずっと春に守られてきたんだよね」)
     そう思ったらなんだか不満で、
    「わたしが春の騎士様になりたいな」
     騎士の装いを見つめて紗奈が呟けば、春が僅かに目を瞠った。
     紗奈の存在に、くれる言葉に春がどれだけ護られてきたか――と春。
    「わ、すみません」
     その時、ハッと気付き人を避けた紗奈がよろけた。その姿に少し意地悪な笑みを向け、春は手を差し伸べた。
    「でも今日は、俺がお前の騎士なんだろ」
     エスコートのやり方なんて知らないけれど、偶には春だって格好付けたいのだ。
     紗奈は差し出された手に目を瞬かせた後、顔を綻ばせて。
     わっと背後で歓声があがる。楽団と楽しく踊る人達。
     春は繋ぐ手を持ち上げて、混ざる? と目で問えば、紗奈は大きく頷いた。
     繋いだままの手は、あったかくて。
     ――いつだって、この温度があるから頑張れるんだ。

    「ありがとう~!」
     オープンテラスのような酒場でプレゼントを受け取った草太は、笑顔で礼を述べた。
     ソーセージとホットワインの乾杯。
     人参型の木製オブジェは天然素材で、兎が齧っても大丈夫な物。
     幸運の豚のお菓子。
     古典な羊皮紙の日記帳は、これから出会う「縁」を綴る為に、と。
    「――うん、ありがとう」
     何かを振り返っていたのか、しみじみとした声色で草太は微笑み言った。そして、
    「兎の名前? いや、なんか、名前考えてたらいつの間にか『うささん』で呼び慣れちゃって……でも、うん、縁って名前にするのも、いいね。
     じゃ、楽しんでってね~」
     【縁】の面々に手を振る草太は、中世風料理人の姿でバイトしていた。
     というか赤茶髪の片割れがココにいるのだから、ミカエラは、と探すが見当たらない。
     その時、
    「演奏会! 聴きに行こう?」
     銘子の手を取る杏子。銘子は繋がった手を見つめた。
    (「昔に繋いだ手は小さかったのに、今では私と変わらないのね」)
     会場の用意された席に座って、古風な音や詩を楽しむ。
    「変わっても変わらない縁は詩になり、伝えられていくんだろうな」
     と明莉。
     目を閉じて静かに鑑賞する紗里亜は、伝統的な音楽に過去から未来への想いを馳せ。
     学園に来てからのこと。そしてこれからのこと。
     そんな彼らの様子に目を細め、脇差は同じく時の流れを想う。
    「変わらないもの、腐れ縁も立派な縁か?」
     なんて言いつつも、飾らない関係を大切に思っていた。
     未来に繋がる詩と音楽。変わらないものを一緒に聴く杏子。
    (「私が学園に来た最初に知り合って、凛とした姿が頼もしい先輩へ――今迄もこれからも」)
     ありがとう、と。
     繋がる手に、想いをこめて。
    「銘子さん、これ」
     と紗里亜が差し出したのは未来の扉を開き、大切なものをしまう錫製の鍵のお守り。
     いっぱいの感謝をこめた、少し早めな誕生日の贈物――目を向けたら、ほわりと紗里亜が微笑む。
     と、ふいに曲の流れが変わる。
    「「あ」」
     紗里亜と明莉が同時に声。
     杏子と繋がる手から伝わる心に、銘子は微笑む。
    (「独逸語は分からないけれど、響く音の力は分かるわ。
     隣に座る子の信じる力が変わらない事も」)
     そして舞台に居るミカエラも――ね。
     横ロールの音楽家の衣装でこっそり混ざり、ハープをつま弾くミカエラはウインクを送る。
     演奏が終わって、夫にハグを返し、いつもの笑顔。

     活気溢れる中、生演奏を耳に木の机には御馳走。
    「これまでの旅に乾杯!」
     瑞音、悠歩、仙がグラスを交わす。
     前の旅では飲酒できない年だったからと、感慨深く仙は味わう。
     羊皮紙には瑞音が冒険の記録として街の事を書き留めている。
     終着点は何処になるのか――、悠歩はコツリと机を突いた。
     のびやかな曲が流れている。
    「ゲームならエンドロールも似合いそう。勿論、続編はあるけどね」

     これからの旅路にも、乾杯を。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年12月20日
    難度:簡単
    参加:21人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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