ヤドリギのしたで、きみにあおう

    作者:朝比奈万理

     寒さを増した12月のある日、あなたの元に宅配便が届いた。
     なんの変哲もない段ボール箱のサイズは、大きくも小さくもなく。
     伝票に記された差出人は『武蔵坂学園』。それ以上のことは記されていない。
     あなたは小首をかしげながらその箱を開ける。
     カッターナイフで丁寧に。または豪快にガムテープを素手でビリリと。
     あなたらしいやり方で開けた箱の中には、赤と金のリボンで束ねられた青々と緑を湛えた木の枝が優しく横たえられていた。
     ある人は、初めて目にするその枝にさらに首をかしげる。
     またある人は、あっと小さく声を上げて、懐かしさに目を細めるだろう。

     それはヤドリギの枝。
     クリスマスイブにヤドリギの下で恋人たちがキスをすると、祝福が与えられる。
     友が出会うと幸せになり、敵が出会うと戦いをやめる。

     そんな逸話を持つヤドリギの枝があなたの元の届いたのだ。
     枝の上にはクリスマスカードが添えられている。
     手に取って開くと、丁寧な書き文字でこう記されていた。

    『あなたとあなたの大切な人に、このヤドリギの祝福がありますように』

     クリスマスカードにヤドリギの枝。
     あなたはふと思いつく。
     クリスマスイブに大切なあの人を、この枝の下で待ってみようか――。

     あなたは特別な日に、だれと逢う?


    ■リプレイ

    ●2018
     世界に平和が訪れて初めてのクリスマスイブがやってきた。
     赤や緑、白のクリスマスカラーで彩られた街を、イルミネーションがさらにキラキラと華やかさをプラスしている。
     それは学園内も例外ではない。
     中庭に佇む伝説の木もクリスマスの装いに着飾って、この冬を楽しもうとしているかのよう。

     学園のクリスマスツリーの枝にヤドリギを飾って、しばらく経つ。
     待ち人まだ来たらず。悟は時計を気にしたり木の周りをぐるぐると回ったり。
     そんな悟を見つけて想希の足が逸れば、コートのポケットでは小箱が跳ねた。
    「悟、ごめん」
    「あ、想希や!」
     待ち人を見つけ、不安げな気持ちは一気に消えた。
     そんな笑顔の悟の手を取って、
    「寒かったでしょう?」
     手のひらにジンと伝わる冷たさに、想希は彼の手の甲を擦る。
    「全然や。俺はホットホットやで! 想希こそ冷えてへんか?」
     と、両手をそもまま預けていた悟も、想希の手を包み返して擦りだした。
    「俺は駆けてきたから平気」
     想希はそう言ってはにかみつつも両手を彼に預けたまま、彼の名を呼んだ。
    「今年の悟の誕生日に籍は入れましたけど、指輪、まだだったでしょう?」
     と、悟の緩んだ両手から手を抜いて、想希がポケットから取り出したのは、小さな箱。
     差し出された小箱に目をぱちくりさせている悟の目の前で、想希は箱を開けた。
    「……受け取ってもらえますか?」
     そう尋ねて指輪を手に取り、そっと彼の左手の薬指に。
    「どう、でしょうか?」
    「……ほんまにえぇんか!?」
     と悟は目をキラキラさせながら手を天に掲げれば、イルミネーションにきらりと輝く指輪。
    「じつはな、俺からもあるねん。給料の三ヶ月分言うやろ」
     と悟が取り出したのは、給料三か月分のリングキャンディ。彼の左手薬指にはめようと奮闘するが。
    「やっぱ、はまらんな」
     そう呟いて悟が想希の指に贈ったのは、銀の指輪。
    「これな、手作りやねん。受け取ってくれるか?」
    「勿論」
     想希は自分の指に留まるたった一つの輝きをいとおしそうに撫でながら、微笑んだ。

     払い下げの列車を流用した剣と魔法部の部室は、部室棟の一角にあった。
     食堂車をクリスマスカラーに飾りながら、みやびはふと顔を上げてあたりを見回し始めた。
     目の浮かぶのは、ここで兄と過ごした日々。
     ここを活動拠点にしていたことが随分と昔のことのように思えて。みやびは思わず目を細めた。
     兄とこの部室で会うこともめっきり減ってしまった。
     だけど、特別な年のクリスマス。だからみやびは彼とここで過ごしたかった。
    「二人だけのパーティをするなら、きっとここが一番ぴったりの場所ですから」
     呟いて準備を再開したみやびの頬が微かに染まる。
     ――妹とは毎日自宅で顔を合わせているけど。
    「この部室で会うのは久しぶりだ」
     と、列車の周りをぐるりと回った竜雅の目に飛び込んできたのは、扉にヤドリギを吊り下げたみやびの姿。
     みやびは竜雅に気が付くと、ぱっと花のような笑顔を見せた。
    「お兄さま……!」
     竜雅は速足で彼女に元へ辿り着くと、頬に柔らかなキスの祝福を受ける。
    「さぁ、お入りになって」
     扉を開けたみやびの頭上のヤドリギに懐かしさのあまり目を細め、食堂車までの道のりにまた、ここで過ごした日々を思い出す竜雅。
     そんな彼を迎えたのは、華やかに飾られた食堂車とたくさんのご馳走。
    「これ、全部一人で用意したのか?」
     問いにはにかんだみやびを抱きしめた。
    「お嬢様育ちだったお前も、随分成長したんだな」
     それは、嬉しいような、少し寂しいような――。
    「言ってたよな。この列車は俺達と一緒に未来を目指して走るって」
     みやびは竜雅の腕の中、もう一つ頷いた。
     そう遠くない未来。自分の代わりに妹を守ってくれる男が現れるんだろうか。
     それまではそばにいて、兄貴として――。

     クリスマスツリーのあかりを下に見て。
     ヤドリギの枝を手に柚羽は、うんうんと自分を納得させていた。
     そう、何となくそんな予感はしていたのだ。
     彼に、ここで待っていてくれないかと言われたのは昨日のことで。
     そう言われては仕方ない。素直に待つとする。
     屋上の扉を開けた紫月の目に飛び込んできたのは、凛とした彼女の横顔。
     紫月が彼女に声を掛けると、くるり振り返った柚羽の心は小さく跳ねた。
    「待ったか?」
     本当は素直に答えたい。
     だけどいつも通り、少しむすっととしながら、ため息ついでに。
    「寒かったんですけれど」
     そんな彼女に紫月は苦笑い。手招きに応じた柚羽を強く抱きしめた。
    「え、な、何ですか急に……?」
     急に抱きしめられて戸惑う柚羽。紫月はそのまま抱きしめたまま。
    「……借りとかそういうのをゆーさんは結構気にするだろ?」
    「……えぇ、確かに気にしますけれど……」
    「だから、行動でプレゼントしているんだよ。
     ゆーさんからも抱きしめてくれたなら、プラマイ0に――。
     紫月がそれを言葉にしようとしたその時、柚羽は彼の首に手をまわして唇にキスを落とす。
     私が抱きしめてプラマイ0にと思ったのかもしれませんけど、キミはいつも私に沢山の愛情をくれるので。
     抱きしめ返すだけと返しきれないから。
     好き。愛してますの気持ちを込めて――。
     予想外の彼女の行動に不意を打たれた紫月だったが。
     やっぱ愛しいな。可愛い。
     彼女に回した腕にもっともっと、力を込めた。

     スタイリッシュなクリスマスツリーを遠巻きに。
     あなたは誰を待ちますか?

    「つくづくヤドリギの祝福が好きなんだな」
     贈られたヤドリギを差しさわりの無い場所に吊り下げて、アンカーは待ち人を待ちながら、目の前の大きなクリスマスツリーに目をやった。
     都内某所の大きなツリーは、学園のツリーとは違うきらびやかさ。
     ……まぁ、もっとも去年のことを思えば、責任の一端はある。それを甘んじて受けるのは彼氏の役目。
    「アンカーごめん、待った、よね?」
     ネックレスから下がった星を揺らしながらやってきたのは千星。右手のうさぎのパペットのインパクトに隠れはしているが、左手の薬指にはキラリと光るものが。
    「大丈夫。そんなに待ってないよ」
     自然と溢れる笑みを抑えることもなく、アンカーは彼女を迎え入れた。
     千星もつられて笑むと、ふと彼の頭上に目をやった。
     ヤドリギだ。
     この下で出会う。ということは――。
     千星はコートのポケットから小箱を取り出すと、そっとアンカーに差し出した。
    「ありがとう。開けてみてもいい?」
     彼女が頷いたのを確認して箱を開けたアンカーの目に飛び込んできたのは、ムーンフェイズの懐中時計。よく見ると文字盤に星空のように見える光がほんのりと灯る。
    「文字盤のその星、蓄光なんだ」
     で。とつづけた千星。
    「こっちはわたしが作ったんだけど」
     と指差したのはチェーンのフック部分。
     錨の形をした銀製のチャームが、イルミネーションの光を受けてキラリと輝いていた。
    「時計が星空だから、鎖の先はキミがいいかなって……」
     呟いて目線を逸らした彼女の横顔は、耳まで真っ赤。
     そんないじらしい彼女を心底可愛いと思う。
    「ありがとう千星。とても嬉しいよ」
     そう告げて小さな体を包み込むように抱きしめたアンカー。
    「これからもずっと僕と千星にヤドリギの祝福がありますように」
     やっとこちらを向いた彼女と唇を重ね合わせた。

     お屋敷内のアトリエ部屋。
     キャンバスを後ろ手にしたアレクシスは、ヤドリギの枝を壁に飾って彼女を待っていた。
     ヤドリギの下ではキスをしていい――それは学園の伝説だから……。
     屋敷の中ではいつも一緒なのに――。
     互いの初々しい不器用さを少々おかしく感じながらも、ソラはアトリエの扉を開く。
    「ユール……クリスマス、だから」
     時間通りにやってきたソラにアレクシスは、今日、こんな風に待ち合わせをした言い訳をして、ヤドリギを指差した。
     ソラはにっこり微笑むと、彼の元まで足を進め。
    「ええ、聖なる夜ですわ。今年のケーキは――」
     ひゃっ。とソラが声を上げたのは、アレクシスの不意打ちのキスに驚いたから。そして壁に掛けられてヤドリギい目をやって、このキスの意図を知る。
     アレクシスは彼女から少し離れると、
    「コレ、使用人としてのお前じゃなくて、ソラに……プレゼント」
     ぶっきらぼうながら差し出したのは、柔らかに微笑む黒髪の女性の肖像画。
     モデルは、ソラ。
    「あ、ぁ……アレクシス、これ……」
    「約束してたの、間に合った、から」
     世界にたった一枚だけのプレゼントに微笑んだソラ。
    「ええ。宝物、ありがとう……」
     と同時に、彼柄補溢れんばかりの愛情に涙を零し。
     この気持ちに任せてアレクシスを抱き寄せると、彼の唇にそっと熱い口づけを落とした。
     嬉しそうな彼女を見られただけでも良かったのに。
     さらにキスをされて慌てるアレクシスだったが、彼女の嬉しそうな様子にそっと微笑んだ。
     お前が嬉しいなら、よかった。

    ●2028
     ヤドリギの伝説は10年後も変わる事は無い。
     伝説の木のクリスマスツリーもあの日と変わらず、賑わいの中心にあった。

    「……初めてここで待ち合わせをした時は、お互いまだ学生だったな」
     クリスマスツリーの枝にヤドリギを下げて、ましろが待つのは大好きな彼。
     通りを見れば、あの頃の自分たちが見えてくるようで。そっと目を細める。
     と、ましろの目に飛び込んだのは、今の彼。
     ましろは倭の姿を見つけ、大きく手を振った。
    「お仕事お疲れ様、倭くん」
    「仕事は早めに切り上げたんだが……学園までは微妙に距離が有るから遅くなったな」
     学園の敷地に足を踏み入れるのは何年振りか。懐かしさと若干の気恥ずかしさを感じながらも、倭は見慣れた桜色は違わなかった。
    「毎度お馴染み、羆印のお届け物だ」
    「お届け物?」
     小首をかしげたましろの目の前に倭が差し出したのは、自分の左手に輝く指輪の片割れ。
    「長い事待たせる格好になっちまったが……改めて、受け取ってくれるか?」
    「勿論。倭くんの隣は、今までもこれからもわたしの指定席なんだから」
     ましろが差し出された指輪を左手薬指に受け取り、ふふっと笑むと、
    「受け取りの判子は……な?」
     自分の唇に指を当てた倭。
     それは12年前。まさにこの場所で仕掛けられた悪戯の仕返し。
    「む、12年前のお返しは受けて立つよ!」
     待っている間に冷えた判子は、ましろの唇。
     指定の場所にしっかり、たっぷり、時間をかけて。
     言葉に出来ないくらいの今の気持ちを直接伝えるように。
     倭くん、すっごくすっごく嬉しいよ――。
     初めてヤドリギの話を聞いたあの日に比べれば格段にスムーズな捺印。
     だけど、お互いの頬が染まるのは、あの日と変わらず。
     ましろの唇はすっかり暖かさを取り戻す。そんな愛しい熱を感じながら、倭は誓う。
     いつでもいつまでも、君の隣に居よう。
     一緒に歩いて行こう。

     このツリーの下での待ち合わせは、桜からの希望だった。
     一緒に暮らしているのにクリスマスイブのデートの為にばらばらに家を出て、待ち合わせをして。
    (「なんだか不思議な感じです」)
     ふふっと笑んだ桜が思い出すのは、今から12年前の今日。
     この木の下で、二人は恋人同士になった。
     あの頃はいろいろなことが初めてですごくどきどきしていた記憶が、ほんのりと蘇る。
    「今でも、かっこいい旦那様にどきどきしますけど。なーんて!」
     独り言ちて頬を染めた桜。
     そんな彼女を後ろから抱きしめる影――花近だ。
    「俺も可愛い奥様に毎日むねキュンですけどっ」
     言ってみてなんだかちょっとくすぐったくて。
     二人は笑んで誤魔化してみたり。
    「待たせちゃってごめんね」
     と、花近が桜に手渡したのは、つまみ細工の桜が満開の大きめバレッタ。
    「お教室の時に髪をまとめるのに使ってほしくて。頑張って作ってみた」
    「わ、手作りなのですね。嬉しいです」
     バレッタを手ににっこりと笑んだ桜も、花近の首に白いマフラーを掛けて。
    「ふふっ、これも初めて贈ったのと似てるのを選んじゃいました」
     この気持ちはあの頃からずっと色褪せない。
     だからあえて、同じものを――。
    「学生時代にもらったの、たくさん使ってたから。またもらえるなんて嬉しい」
     そう笑う花近に、桜もつられて微笑んだ。
     あの頃と変わらぬ二人。
     だけど変わったこともある。
     桜が小さく背伸びをすれば、花近も彼女に届くように身を屈めて。
     重ねる口づけに、もう戸惑いも恥ずかしさもない。
    「えへへ、大好きです、花近さん!」
    「俺もだよ、桜」

     学園のクリスマスツリーを背に。
     校門前ではヤドリギを手にした清美が、見知った顔を見つけて驚いた。
    「梨乃、どうしたのですか? 呼び出す相手が違いませんか? それとも、行き遅れの私に対する当てつけですか?」
     言葉を重ねるたびにむっとして、腰にまで手が行ってしまう清美。
     そんな不機嫌な姉に、梨乃は頭をぶんぶん振って否定する。
    「いや、違うのだ! 結婚する前にお姉ちゃんとゆっくり話したくてな。姉妹の絆を深めるのもありだと思ったのだ」
     妹の弁解に表情を軟化させた清美は、
    「そういう事ですか……。嬉しい反面、何か違う気も致しますが……」
     まぁいいでしょう。と梨乃を自分の隣に手招いた。
     その行為に甘えて、梨乃はぴったりと清美の隣に寄り添って。
     思い起こすのは、ずっと遠い昔のこと。
    「思えばお姉ちゃんが有名私立中学に受かったのを蹴って、この学園に入学した時は驚いたぞ。勉強のし過ぎで頭がおかしくなったのかと思ったのだ」
     妹の言葉に、あぁ。と声を上げた清美。
    「それに関しては悩みました。ですが、あの時点では選択肢はありませんでしたから……」
     突然目覚めて、この学園関係者に誘われた清美。勿論、ここがどんな機関かは自分で調べた。
    「……危ない事を、と言いたいところですが無理もありませんね。一般の方はダークネスの存在すら知らなかったのですから」
    「それから武蔵坂学園の事を調べてる内に私も灼滅者に目覚めて、ここに来る事になったのだ」
    「いいえ。それは梨乃自身が努力したからですよ」
    「最初は学園に溶け込めなかったが、お姉ちゃんの紹介でクラブに入って素敵な仲間に出会い、その中にはジェフ君も居て……本当に感謝してるのだ」
     梨乃がにっこり笑うと清美も同じように微笑んで。
    「梨乃が来たおかげで、私もより楽しい学園生活が送れました。ありがとう、梨乃」
     姉妹一緒に過ごせたかけがえのない学園生活を思いながら、何より梨乃を誇りながら。
     清美は妹をそっと抱き寄せた。

     街も鮮やかなクリスマスカラー。
     大きな街も 小さな街も、商店街も。
     クリスマスツリーは聳え立ち、イルミネーションはキラキラとひかりを放つ。

     十数年の月日は漣たちを変えた。
     だけど、このツリーから見える景色は今も変わらずそのままで。
     あの日も、こんな小雪が舞っていた。
     早く着きすぎた漣が、走ってくる彼を手招いた。
     そう、丁度こんな風に。
    「民乃ー、こっちだよ~!」
     漣の声に誘われて、にっこりと笑んで駆けてきた民乃はふと、彼女の頭の上を見上げる。
     あの日と変わらない、クリスマスツリーのひかり。
    「……懐かしいなぁ。おれたちクリスマスに付き合い始めたんだよね」
    「……本当に懐かしいよね」
     無意識に手を繋いで、蓮も頭上を仰ぎ見る。
     キラキラキラキラ。
     イルミネーションはあの日を鮮明に映すようで。
    「一世一代の告白大作戦だったなぁ。あの頃は大事なものほど遠く感じてて、告白して失敗するのが怖くてさ」
     苦笑いする民乃。
     漣はふふっと微笑んで。
    「あの時、夢みたいに嬉しかったんだよ? その……私から告白するつもりでいた、し。私も失敗は怖かったけど、それ以上に民乃の事が好きだったから」
     同じ想いを抱いていたからこそ、お互いの気持ちがすごくすごくうれしかった。
     民乃は目線を漣に移すと、名を呼んだ。
     名を呼ばれて漣も彼を見て。
    「……あれからずっと一緒にいてくれて、ありがと。おれ情けないとこいっぱいあるし毎日大変だろうけど、その分いーっぱい幸せにするから! だから……これからも宜しくお願いします。……ちょっとくらい、格好つけさせて」
     そう告げて頬を染めた民乃に、蓮は笑顔で答えた。
    「――ねぇ、大好きよ、民乃。愛してる! 私もい~っぱい幸せにするからね!」
     溢れる想いを込めて、漣は目を閉じた民乃にキスをする。
     ヤドリギの祝福が来年もその次も、ずっとずっと続きますように。
     そう願いを込めて――。

     あたりもすっかり暗くなって、イルミネーションがクリスマスツリーに下がったサンタをほんのりと照らした。
    「あ! サンタさん!」
     茅花の隣で娘の蛍が嬉しそうにそれを指差すと、
    「今日サンタさんくるかな?」
     反対側で息子の燈が袖を引いて尋ねてきた。
    「えぇ、きっと来てくれるわ」
     にっこりと答えると、二人はわっと大喜び。
     茅花と二人の子供たちは大切な人と待ち合わせ。
     その大切な人――御伽は、勤務先である学園を出てクリスマスに華やぎ浮かれる街を足早に歩いていた。
     自分もご多分にもれず浮かれているなと笑んだ彼を迎えるのは、待ち合わせ場所のクリスマスツリー。
     そして雑踏の中にあっても耳に届く、聞きなれた愛しい声。
    「ね? ままは、なにお願いしたの?」
    「きっと、もうすぐ叶う――」
    「あ、ぱぱー!」
     自分を見つけて満面の笑みで駆け出してきた我が子を両手を広げて受け止めて。
    「遅くなってごめんな」
     ぎゅっと抱きしめれば、仕事の疲れも吹き飛んでゆく。
     二人を受け止めてもびくともしなかった彼の様子に、茅花も思わず駆け出した。
     もうすぐ叶うお願い。それは、早くあなたが来ますように――。
     御伽はさらに茅花も抱き留めて、三人纏めてぎゅっと抱きしめる。
     この幸せなぬくもりに思わず目を細めた。
     今年もこの四人で、暖かで幸せなクリスマスを過ごそう。

     街角のツリーの下。
     黒革のジャケットの襟をピッと正した明莉は辺りをソワソワを見回しながらも、手の中の小箱を大切そうに包む。
     それは『奥さま』に贈る初めてのクリスマスプレゼント。その片手に握られているのはヤドリギの枝。
     ふと、明莉の目の前を横切るのは、幸せそうな親子連れ。
     楽し気な雰囲気に思わず目を細める。
     そんな彼の様子を遠巻きに眺めるミカエラは、
    「今は一緒に住んでるのに、呼び出し掛けるって。どんだけロマンチストなの?」
     ほっぺたが熱いのを口とがらせて誤魔化して、その背中目掛けてリズミカルに駆け出そうとして、ダメだ! とブレーキをかけた。
     無意識にお腹に触れた両手は、ぽんぽんとお腹をさすって後ろ手に。
     何事もなかったかのように後ろからひょっこり現れれば、柔く微笑む旦那さん。
    「ミカエラ」
     明莉は踵を返してミカエラを抱きしめた。
     ミカエラの襟元にプレゼントであるタンザナイトの狼モチーフのブローチを飾ってやれば、代わりに首に掛けられたのはふわり柔らかなショール。
    「……て、どした?」
    「な、なにが?」
    「何で目、逸らすの??」
     相変わらず愛くるしい仕草に吹き出しつつ、明莉はヤドリギの枝をミカエラの頭にぽすん。
    「キスは? しますか?」
     明莉は目を細めニヤニヤと、いたずらっぽくわざと聞いてみると、ミカエラは目を丸くして。
    「キス!? 人前ではやめてよ、ほら、子供たちも見てるでしょ!?」
     わたわたと辺りを見渡し人目を気にして、ちらと見上げれば余裕の笑み。
    「……そんな目で見ないでってば……もう」
     一瞬躊躇ったミカエラだったが、ここは意を決したミカエラは身を屈めた明莉の唇にキスを落とす。
     未来のお父さんへ。
     お腹に宿った双子と合わせて三人分の愛を込めて――。
     帰りはなじみの店で一休み。
     木元家に吉報がもたらされるのは、そう遠くない未来。

     賑やかなクリスマスマーケット。
     『このヤドリギの枝を持って、会場内のツリーの前に来てください』
     手紙に指定された通り、ヤドリギの枝を手に凜は誰かを待っていた。
    「……いったい誰からだろう……」
     ヤドリギに目を落とせば、揺れる結髪。
     結った髪をまとめている紫のシュシュが彼女のトレードマーク。
     その人は凜を見つけるなり、足早に彼女の前まで進み出て。
     彼女が自分を捉えたその時に被っていたフードを外した。
     目の前のあらわれた人物を見た瞬間、凜の周囲の音が消える。
    「え、鈴音……さん……? どうしてここに?」
     戸惑うと人は、饒舌になる。
     それは凜もご多分に漏れない。
    「……だって、ライブのお知らせの手紙を出しても、返事も会場に来ることもほとんどなかったし、実家のお社のお務めが忙しくて時間とれなかったんだろうなって……」
     まず言葉があふれた。
     言葉の後には涙があふれて――。
     そんな凜を抱き寄せて、
    「長い間連絡出来なくてごめんね」
     ぎゅっと抱きしめた鈴音。
    「10年がかりの大きな仕事がやっと一区切り迎えて、社にいる皆と『彼ら』が言ってくれたの」
     ――会いに行きな、最高の相棒の所へって――。
    「私が不在の時に名代を務める人も決まったし、これからは少し自由な時間が増えるわ」
     そう告げると彼女の身体を離して、ポケットから取り出したのは水晶とアメトリンをあしらった腕輪。
    「大事な時に身に付ける御守りに」
     凜はそれを両手で大切に受け取ると、愛おしそうにぎゅっと胸元に。
    「ずっと会いたかった、わたしも……またこうして顔を合わせることができてよかった」
     まだ涙が止まらない凜の頭を優しく撫でた鈴音は、優しく微笑む。
    「明日の夕方迄時間はあるわ。今までの思い出話聞かせてね」
     うんと頷いた凛には、鈴音にだけ話したいことがたくさんあるのだ。

     お互い芸能人だから、待ち合わせ場所は人目に付かないところで。
     寒さに悴んできた手にはーっと息を吐いてこすり合わせて、澪はその人の到着を今か今かと待っていた。
     そんな澪を見つけた宗田は、足早にその人の元へと駆け寄る。
    「悪ィな、遅くなった」
    「撮影、お疲れ様」
    「ったく、お前体弱いんだから室内に居りゃよかったのによ」
    「大丈夫だよ。それより……ね、ちょっと屈んで」
     いつものように他愛ない会話をして、屈んでみて改めて思うのは、広がった身長差。
     屈んだ宗田の首に澪が巻いたのは、手編みのマフラー。
     宗田の首に柔らかなぬくもりが宿る。
    「お前……オフ日にやけに部屋籠ってると思ったら、これ作ってたのか?」
     澪からの返事はない。
     ただ、逸らされた視線と拗ねたような唇は肯定の証だと宗田には解る。
     だけどこのままでは想いは伝えられないから。
     心のブレーキを、今日は外してみようと澪は思った。
    「……虐められてた時、助けてくれてありがとう。いつも護ってくれてありがとう」
     他にもたくさん『ありがとう』は澪の心にふってくるけど、一番は――。
    「これからも……傍に、居てください」
     手兄のマフラーの色は黒地にほんのり橙――僕の色。
     お互い多忙だけど……少しでも傍に居たいじゃない。
     けれど素直なのもここまで。
     澪はすっかり冷たくなった手を自分の胸まで掲げた。
    「あーあ、手冷えちゃった。責任取って」
    「はいはい、いつものな」
     宗田は澪を抱き寄せて、恋人繋ぎで手を繋ぐと無造作にコートのポケットに入れる。
     澪が手袋をわざとおいてきて、こうやって手を繋ぐのは、昔からの習慣。
    「あぁ……俺からの返事だが……」
     すっかり冷え切った澪の手をぎゅっと握って。
     宗田は澪の顎をグイっと持ち上げた。
    「言われなくても、逃す気無ェよ」
     強引な口づけ。
     だけど澪は、その愛情を素直に受け入れた。

    ●2029
    「お疲れ様」
     クリスマスイヴの賑やかさにひと段落ついたカフェのテーブル席について、業務を終えた時兎を労ったのは聡士だった。
    「今日もお疲れ様、聡士」
     そう答えた時兎はもう一仕事。
     ガラス製の大きな器に氷と少しの水を入れて、さらにワインボトルをそっと沈める。
     その間、聡士はぐるりと店内を見渡して。
    「まさかまたクラブでやってたカフェを始めるだなんて思わなかったよ」
    「あそこは初めて聡士と出会った場所だったからね。思い出に拘った事なんてなかったのに」
     ふふっと笑んでワイングラスを二つ、テーブルに並べた時兎はさらに続ける。
    「貴方との時間を重ねた場所だと思うと、愛しいほど特別になるなんて不思議」
    「思い出の場所……そう思ってくれてることが嬉しいな」
     と、聡士は感慨深く目を細めた。
     やがてカランと水と氷の音がして、テーブル席にやってきた時兎の手には一本のワインボトル。
    「明日は休みにしたから、今日はゆっくり飲もう」
     時兎がテーブルにそっと置けば、ラベルが聡士の目に飛び込んだ。
     ――Ti voglio bene Satoshi――。
     そのラベルの意味に聡士はさらに笑みを深くして。
    「いいね、今日はゆっくり飲もう」
     誘いに頷いた時兎は対面に座るも、こっちに来なよと聡士に手招きされて、素直にそれに応じる。
     グラスにワインを注ぐ時には、もう日付が変わる頃。
     グラス同士を軽く触れさせて。
    「Merry Christmas!」
     交わす笑みもグラスの音も幸せで。
     時兎が瞳を緩めていると、グラスを傾けワインを一口飲み込んだ聡士がそっと頬に口付けを落とした。
     頬だけじゃなく耳まで熱くなる時兎は、そっと彼の両手を取った。
     それを自分の頬へ密着させると、ふふっとはにかんだ。
    「聡士の熱、貰っちゃった」

    ●2030
     世界の命運を掛けた戦いから12年後。
     学園内は、今年も賑やかにクリスマスパーティーが催されている。

     伝説の木のクリスマスツリーに飾ったヤドリギの下が今日の待ち合わせ場所。
     待ち人を待つ時間はいつも長く感じるものだけど、今日のアリスにとっては一分一秒も永遠のよう。
    「……沙雪、遅い」
     眉根に小さく皺を寄せたアリスはソワソワと落ち着かないでいた。
     お互いの仕事帰りだし、慌ただしいのはわかってはいるけど……。アリスには彼に一刻も早く会いたい訳があった。
     この後のクリスマスディナーも楽しみ。だけど――。
    「アリス!」
     たおやかな金髪をイルミネーションに輝かせた彼女を見つけた沙雪は、彼女が少し怒っているように見えて、待たせ過ぎたと察した。
    「……ごめん」
     彼女の前までたどり着いて小さく頭を下げた沙雪。
     ぷいっとそっぽを向いて頬を膨らませたアリスだったが、差し出されたバラの花束と、申し訳なさそうにしている沙雪を見て、ふふっと笑んだ。
    「……これからは先に待ってる位にしてね……パパが遅刻とか、カッコ悪いでしょ」
    「……え」
     アリスの言葉を頭の中でリフレインさせて。
    「……本当?」
     慎重に尋ねた沙雪にアリスは微笑んで一つ、しっかりと頷いた。
     喜びに顔を綻ばせた彼に抱きしめられてキスを交わすのは、ごく自然な流れ。
    「……病院で診察してきたら3ヶ月だって、来年は3人でクリスマス迎えてるね」
    「そっか。賑やかなクリスマスになるね」
     微笑み合って、沙雪はアリスに手を差し伸べた。
     アリスもその手を取って、ゆっくりと歩を進めだす。
     思いがけず頂いた奇跡のクリスマスプレゼントを慈しむように――。

    ●2038
     時はさらに流れ。
     クリスマスはいつの時も、皆の心にやさしさと温かさをもたらす。

     夜の準備で忙しなくなり始めた昼下がり。
    「姫桜(きさ)さん。今日は一人?」
     ヤドリギの枝を下げたカフェ・フィニクスのドアベルを鳴らしたのは、幼馴染の娘。
     勇弥はカウンターの向こうから微笑んで彼女を出迎えた。
     彼女は軽く会釈をし、カウンター席まで近づくやおずおずと話し始めた。
    「今日は、勇弥おじさまに、お願いがあって……パパの好きな珈琲のメニュー、私に一つ教えてもらえませんか?」
    「さくらはどの創作珈琲も美味しそうに飲んでくれるけれど……思い入れがあるのは『マリアテレジア』かな。……でも、どうしてレシピを?」
     笑顔で首をかしげ問いかけた勇弥。
     一方の姫桜はぴくっと肩を揺らし、
    「……べつに、パパを喜ばせたいとかそういうのじゃないけど……」
     もごもごと口ごもりながらそっぽを向いた。
     そして今度はほんのり頬を染め。
    「せっ、折角のクリスマスだし、今年は私が何かしたくて。ママに相談したら、この店の珈琲がいいんじゃないって聞いたから……勇弥おじさまの作るの、すごく美味しいの知ってるから」
     実にいじらしい、そして可愛らしい理由。
    「ああ、そういうことなら手伝わせてもらうよ」
     勇弥は微笑みながら頷いた。
    「豆の種類や焙煎具合からしっかり教授させてもらうから、そのつもりでね?」
     了承を得られ、姫桜は小さく安堵の笑み。
    「……ふふ、家庭でも再現しやすいレシピだからきっと大丈夫だよ」
     そう言いながら思い浮かべるのは……。
    (「さくら、娘馬鹿だから思いっきり喜ぶだろうなぁ」)
     と、その時の光景を想像して、勇弥はふふっと笑う。
    「それでは、おじさ……いえ、先生、よろしくお願いします」
    「はい、姫桜さん、よろしくね」
     勇弥は差し出された手をそっと握って握手。
    「じゃぁ、こっちにおいで」
     と姫桜をカウンターの中に招いた。

     いつの時もクリスマスイヴの奇跡は、ヤドリギの奇跡は誰の元にも平等に降り積もる。
     それは紛れもなくキミたちが駆け抜けた戦いの軌跡と、君たちが起こした奇跡の賜物。
     さぁ、今年も来年も十年後もその先も。
     ヤドリギの元で、キミの大切な誰かと出逢おう――。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年12月24日
    難度:簡単
    参加:30人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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