「プレゼントを届けて回るかぁ……それはいいんだけどさ」
鳥井・和馬はジト目で発案者を見た。得意げな様子でミニスカサンタ服を自分に差し出しているはるひを。
「オイラ、この間36歳になったんだけど?」
仮に性別が差し出された服に沿う方であったとしよう、それでも年齢的に大丈夫かと問われそうな気がする。まして、和馬は既婚者で男なのだ。
「そうか、私なら躊躇わず着るところだが……まぁ、それはそれとしてだ。あれから二十年。家庭を持ち、子供さんの居るご家庭も多いと見た。子供好きの私としては、大義名分を得て家庭を訪問して回れるこの機会を逃す訳にはいかないのだよ!」
「えーと」
らしさを欠片も失わない主張に和馬が微妙な表情をしたのは言うまでもない。
「幸いにも少年はケーキ屋さんに勤めている。なら、ケーキの確保は問題ない。他のプレゼントについては私が自分の子供にプレゼントしようと妄想してちょっと買いすぎたモノがあるのでね」
「オイラ、どこからツッコめば良いのかな」
ともあれ、はるひは買いすぎたプレゼントの有効活用がてら、久しぶりに君達の顔を見て回ろうと思い立ち、和馬に声をかけたらしい。
「故に私は切実に訪問させて貰えるお宅を求めている」
ただし、君達が望むならはるひ達と一緒にプレゼントを配るお宅訪問として行動することも可能だ。
「まぁ、みんながどんな風に過ごしてるかはオイラも気にならない訳じゃないし……」
ただと続けた和馬は、まるで自身をそっくりそのまま幼くしたような少女を連れた緋那いおそるおそる問う。
「その子って」
「ええ、私の娘です」
以前どこかのエクスブレインが世話を焼いていたりしたので、その結果という事なのだろう。
「えっと、となると緋那姉ちゃんは行かないの?」
「それはまだ未定だ。緋那が娘を連れてきているのは私の要望なのでね」
「ちょ」
本人が答える前に聞いてもいないことまで話したはるひ曰く、プレゼント配りに同行するなら娘さんを預かる準備は出来ているのだとか。よって、緋那が着いてくるかは訪問希望者や同行希望者の意向によるのではないかとのこと。
「さて、だいたい説明し終えたところで我々にも準備があるのでね、お宅に訪問して欲しいもしくは一緒に配りたいという場合は、決行の一時間前までに連絡をしてくれると助かる」
君達にそう伝え終えると、一礼し立ち去り。
「……はるひ姉ちゃん一人にしておくと何するかわからない所あるからね。子供達にプレゼントを配るのはオイラ嫌じゃないし」
そんな理由で同行するつもりらしい和馬はほうと白い吐息を漏らす。
「ただ、同行するなら暖かい恰好でね? 十二月だし」
一つ注意を付け加えた和馬は着せられそうになったミニスカサンタ服を思い出したのか、真顔で付け加えたのだった。
●冬の街の片隅で
「や、それは旦那さんが正解なんじゃないかなぁ」
引きつった顔で鳥井・和馬(高校生ファイアブラッド・dn0046)がコメントしたのは、膝丈くらいのスカートのサンタ服を着て現れた姫乃の出発前のいきさつを聞いてのことだった。
「夫に用意したサンタ服を見せたところ、何故か泣いて止められました」
と言う話だったのだが、夫に見せたのはハイレグレオタード型のサンタ服とのこと。容姿こそ殆ど変わっていないとしても40歳近い年齢でハイレグレオタードはきっと止められても仕方ない。10歳になる娘さんが居るなら尚のこと。
「まぁ、はるひ姉ちゃんははるひ姉ちゃんだし」
感性が若い頃のままの人というのは、意外と少なくはないのか。
「はるひさんも面白い事を考えますね、楽しそうです♪」
笑顔の蒼香が着ている自前のサンタ服は毎年作成しているものらしいが、此方も容姿は殆ど変わっていない様であり。
「プレゼント配りか、面白い企画だし乗るんだぜ!」
と参加を決めた葵も30代の筈だが見た目は20代の女性に近い。まぁ、性別が行方不明なのは和馬も大差ないので敢えて触れないとして。
「雪夜からお母さんよりもお父さんなら同じ服装が着れるよって言われた事もあったしな」
触れたなら、遠い目をしてそんなことを口にしたと思うが。
「ふむ、灼滅者恐るべしと言ったところか」
プレゼント配りに参加すべく集まってくれた面々の変わらなさにコメントしたのは、子供達を除けば、唯一灼滅者でないエクスブレインのはるひ。
「はるひさん、子供は任せて、頑張ってきてくださいねぇ……」
とサンタ帽を被った夫である流希と12人の子供達に見送られての参戦である。
「お久しぶりですね」
そんなはるひを含むプレゼント配達組がみんととバッタリ出くわしたのは、本当に偶然だった。
「……あ、今日は。そういう事ですか」
半数以上がサンタ服と言う状況下、動じることなく挨拶したみんとはもう一度参加者達の服装を見てだいたい察し。
「ずるいじゃないですか私も同行しますよ。心配ですし」
「心配って……いや、まぁ、確かに心配されるだけのことはあるかも知れないけど……」
ノリもよく飛び入り参加を決めたみんとの言葉に顔を引きつらせつつも最終的に納得してしまった誰かの視線はとあるエクスブレインに向いており。
「ちなみにはるひさん、どんなプレゼントを渡す予定なんですか?」
そのエクスブレインは蒼香に質問されているところであった。
「基本は流行を抑えて、売れ行きの良い玩具や学校で流行っているアニメ関連の商品を中心にしてみたが」
産休が多くて非常勤教師ではあるものの、はるひは小学校の教師だ。リサーチするにはもってこいのポジションに居る訳であり。
「はるひ姉ちゃんが無難な選択しかしていないのって凄い違和感なんだぜ」
葵には新鮮に見えたようだが、このチョイスをミスすると言うことは子供に嫌われかねないという子供好きのはるひにとっては外せない点なのだ。
「それなら安心ですね」
ブレないはるひだからこそ、20年以上前にあったちくわの惨劇は再び起こらないと見て、蒼香は胸をなで下ろす。
「……今年はこんな感じでプレゼントを渡すのもいいですね、あの子達は何を喜ぶでしょうか?」
「えーっと」
その一方で、妻であるアルゲーに尋ねられた和馬は何とも言えない顔で視線を逸らした。
「……和馬くんは聞いているのですか?」
「タブン、キイテ イナイ デスヨ?」
訝しんで追求するとアルゲーの夫は何故か急に片言になり。
「……話して下さい」
和馬がこういう態度を取る時は決まって理由があることを知っていたが、敢えて近寄って尋ねたアルゲーは夫からの答えに赤面して硬直した。
「弟と妹が欲しいんだって」
観念して耳を寄せた和馬が囁いた答えが、それ。アルゲーと和馬の間には既に三つ子が居るのだが、お友達の家に遊びに行った時お友達が兄弟仲良くしているのを見て、年の離れた兄弟や姉妹が欲しくなったのだとか。
「さて配りに行くか、和馬もアルゲーも寒さは大丈夫か?」
二人揃って真っ赤になってる友人夫妻の様子を寒さによるモノと勘違いした葵が気遣うが、内情は知らぬが仏か。葵には一人娘がおり、和馬達の子供と同級生なのだ。娘が同じ事を言い出す可能性は充分にあり得たのだから。
「あ、娘預かって頂いて宜しいでしょうか」
「承知した」
思い出したように依頼したみんとは快諾したはるひに何となくロボっぽい本とかで気は惹けますからと耳打ちし。ならばとはるひはロボットアニメのモノらしきプラモデルをプレゼントする。
「ケーキとかもいいが俺は雪夜へのプレゼントも別に用意したし準備OKだ」
「そうか。では、改めて出発するものとする」
「ちょ」
葵の言葉を聞き、はるひを先頭に移動手段の元へ向かったところで、ソリではなく何処かのケーキ屋さんの車を見た誰かが思わず顔を引きつらせたりしたが、ケーキを提供するお店に話が言っているというのは当然の事だった。
●お家を回って
「メリークリスマスっ。鳥居はいつもケーキありがとなぁ」
最初に訪問したのは、雪華の家だった。
「あ、うん」
「よかったらまたうちん所のちび達の相手してやってぇな」
毎度お買いあげありがとうございますと和馬が頭を下げると雪華は妻の側にいた子供達を示して笑みを浮かべ。
「倉槌はんとこの子も、よかったら遊んでやってぇな」
緋那のスカートを掴んで半分隠れている少女の側に歩み寄るとしゃがみ込んで微笑みかける。
「何というか、事案だな」
「ちょ、事案言うなや?!」
微笑ましい光景も余計な一言が加わると意味合いは一瞬で変わってしまう。
「と言うか、はるひさんが言うと完全に『おまいう』ですよね」
いきなり訪問先の旦那様を弄り始めたエクスブレインへ誰かのかわりにツッコんだみんとは、この空気も久しぶりでいいと密かに顔をほころばせた。
「……でも近所迷惑にはならないように程々に」
注意すべき所は注意した上で。
「弄るにしても、嫁の顔がうずめ様似やとかなぁ」
「いや、流石にそれは細君に悪いと思うのでね」
掛け合い漫才もとい、雪華はまだ抗議していたのだ。
「それじゃ、プレゼントを――」
だが、それ以上に忘れてはいけないのが本来の目的であり。
「「ありがとう」」
雪華の子供達が声をハモらせ、側にいた雪華の妻が頭を下げる。一部の大人達は大人達で色々あったように思えるが、子供達には何の関係もないのだろう。
「じゃあね」
「ばいばい」
「はい」
三十分後、もうすぐ幼稚園に入るかぐらいと思われる双子の兄妹に手を振られた緋那の娘は小さく頷く。
「仲良くなれたみたいですね♪」
「ふむ、もう少し長居させてやりたいところだが」
時間は有限。
「だったら俺の車で何人か先行するか?」
そう葵も申し出たが、既に積み込んでる荷物の関係でそう言うわけにも行かず。
「ケーキはみんなお店の車の方だもんね。お店の車保冷機能有るし」
「そうか、なら仕方ないな」
葵も納得したところで、次に向かったのは真琴の家、ではなく何故か公営のグラウンドだった。
「え?」
到着すると39歳歳になった真琴と一緒にいたのは、中学生ぐらいの子供が11人。
「あ、……勿論実子じゃないですよ。サッカークラブのクラブ員です」
真琴曰く、8年前に結婚していて、息子2人には恵まれてはいるけど、旦那様の用事でそちらについて行ってしまっているのだとか。それで、息子のかわりに面倒を見ているサッカークラブの子供達を連れてきたのだろう。
「子だくさんは側に実例があるけど、まぁ、年齢を考えればそうだよね」
敢えて誰のことかははぐらかしつつ呟いた和馬は胸をなで下ろし。
「はい、まず挨拶。……それで、この子がキーパーでキャプテンです。ガッツが足りなくて時々吹っ飛ばされるのが玉に瑕ですが、チームメンバー思いの良い子ですよ」
そんな和馬を含む面々に挨拶するよう少年達を促すと、真琴は一人一人子供達を紹介して行く。
「なるほど、サッカークラブのメンバーなら――」
話を聞いてはるひが取り出したのは、サッカーボールやサポーター、スポーツタオルと言った品々。
「ふぅ、えっと次は――」
「姫乃さんのお宅ですね♪」
訪問リストに目をやっていた蒼香はそう答え。
「その次が佐祐理さん、わたし、葵くん、アルゲーさんの順番で」
「最後がはるひ姉ちゃんだな」
再び車に乗り込んだ面々は聖夜を行く。
「うわぁ」
やがて到着したのは、立派な邸宅だった。そして、何故か玄関の前にこれ見よがしな罠。
「行動力があると言ったらいいのか、サンタ捕縛作戦を練って居たようで――」
「そう言う理由ですか。どこからツッコミを入れるべきか迷いましたが」
姫乃の補足に何とも言えない表情でみんとが呟き。
「メリークリスマス! サンタのお兄さん達がプレゼントをお届けだぜ!」
それでも果敢に先陣を切ってお宅訪問を敢行したのは、葵。
「メンツ的に俺や和馬が未だにお姉さん枠になりそうだけどなー」
なんて零していた面を払拭しようと思ったのかは定かではないが。
「お姉さんでしたら、わたしはどうでしょう? この間、子供達の姉と間違われましたし」
そう葵の言に反応していた蒼香は何処か嬉しそうだったが、まぁそれはそれ。
「まぁ、灼滅者の身体能力なら、罠を避けるのは、造作もない、んだぜ、っと」
「はい、メリークリスマス」
降ってきた罠を避けた葵がどこか残念そうな姫乃を幼くしたような少女に見られつつ肩をすくめ、姫乃が少女向け魔法少女アニメの変身グッズを渡す。
「葵くんはモッチア体質ですからね」
ラッキー何とかを警戒した結果がそれなのだろう。
「次は私の家ですね」
そんなやりとりをカメラ片手に見ていた佐祐理は案内の為車に戻ると助手席に座り。
「あー、結婚してたんだ。いや、だから訪問先リストに有るんだろうけど」
「はい、数年間、人からの紹介がありまして」
十年前の誕生日のことを思い出しつつ運転席の和馬話を振ると、佐祐理は苦笑しつつ頷く。
「成る程、それでお子さんが一緒だったという訳か」
佐祐理の夫の連れ子だという少年をちらりと見てからはるひは助手席の方に視線を戻し。
「と言うか、お子さんはるひ姉ちゃんの所に預けて来なくて良かったの?」
「こう言うのも良いかと思いまして」
曖昧な笑みで答えた佐祐理はまだ懐いてくれない息子を出来たら側に置いておきたかったのかも知れない。
「あ、あそこです」
「あの家? じゃ、そこの駐車場に止めればいいかな」
直進したケーキ店の車は直進した後、右折、駐車場へと入り。
「私が一応写真家ですし、ここはカメラ……というのは冗談だったのですけど」
自分のカメラ指し示した後、戯けてみせるつもりだった佐祐理にはるひは気にすることはないと言ってのけた。
「私も撮影の趣味があったのでね。我が子が同じ趣味を持ってくれないかと用意していたモノがあったのだよ」
「はるひさんの場合は、被写体がごく一部に限られていますからね」
親子揃って幼い子供にレンズを向けてシャッターを切るようなことにならなかったのは、むしろ僥倖だろうとみんとは思う。
「佐祐理ママのマネ~」
カメラ片手にはしゃぐ少年を眺めるはるひの表情が満更でもなさそうなので、きっと問題ないのだろう。そう思いたい。
●蒼香と葵とアルゲーと
「わたしも子供達にはプレゼントをあげますし夫にも上げますね。今年もこの服装で何か渡すと思いますし」
車の中、前もって蒼香が告げたのは、はるひがごそごそと何やらプレゼントの入った袋を漁り始めたからだろうか。
「まぁ、子供には自分から渡したいってのはわかるよ。オイラもそうだし」
前を向いたまま運転席でコメントした誰かは脳裏に自分の子供達の事でも思い浮かべた様で口元を綻ばせ。
「それはそれとして、同行はオイラの方が良いかな?」
表情を微妙なモノに変えて尋ねたのは、女性陣が同行するとハプニングに巻き込まれる過去があったことを覚えているからか。
「少年、流石にこの年になってラッキー何とかは無いと思うのだがね」
「そう言やちょっと前から思ってたけど、36歳でも少年なの?」
「では、青年」
明らかにフラグっぽい事を口にしたエクスブレインに呼び方でツッコミを入れるとはるひは言い直し。
「では皆さんで行きましょうか」
はるひの見解に同意見なのか緋那も同行を決める。
「いいのかなぁ……あ」
どことなく不安げな様子を隠せない運転手は車を止めるとドアを開けてもう外に出ている同乗者達の背を眺め、我に返って慌ててシートベルトを外す。
「その後、まさかあんな事になるとはな」
「あんな事にって……何故その後のことは省略しましたみたいな事を言い出してるですか」
そして、ようやく追いつくとみんとが和馬の代役を見事に務めており。
「何かあったかは皆の想像に任せるのが平和だと思うのだよ」
「その言い方だと、何かあったけど何もなかったようなことにしたようにも聞こえるのだけど?」
「青年、日本語というのは難しいな。まぁ、私も既婚者だ。夫に申し訳なくなるような事態は起こさんよ」
何というか、まだ武蔵坂に通っていた頃を彷彿とさせるようなやりとりを繰り広げる二人を近くで見ていたみんとはその片割れに視線をやる。
「しかし鳥井さん相変わらずその……頑張って下さい?」
「あ、うん」
一呼吸置いてから投げたエールに帰ってきたのは、微妙な表情とセットになった頷き。
「まぁ、いっか」
それもすぐ消えたのは、プレゼントを抱えて母に抱きつく少女を中心とした仲睦まじげな蒼香とその家族の光景が見られたからだろう。
「では、次は葵くんのお宅ですね♪」
「そうだな……って、蒼香姉ちゃんはもう家族とゆっくりクリスマスでもいいんだぜ?」
肯定しつつも葵は蒼香を気遣うが、大丈夫ですよと言って蒼香は車に乗り込む。
「そう言えば、アルゲー達が仲良くしてるのを楽しそうに眺めていたりしたもんな」
セプテントリオンのメンバーが幸せそうに暮らしている様子を確認したいとかそんな面も有るのかも知れない。
「着いたぜ、ここが俺」
案内の為にケーキ屋さんの車より車で先行し案内をしていた葵が、車を降りるなり告げられたのはそこまでだった。
「うわぁ」
何処かから高笑いがしたと思ったらもう姿がない。
「葵くんのお宅は相変わらずですね♪」
「お宅はと言うか、お宅もと言うか」
視線を逸らし、和馬はそれ以上の言及を避けた。
「ま、待たせたんだぜ」
着衣を乱れさせ、ちょっとよろよろしながら葵が再登場下のは、それから少し後のこと。
「次は和馬とアルゲーの所だな」
「あ、うん。ええとよろしくね」
「では、出発しましょうか」
聖夜の町を再び車は走る。
「えっと、ただいまって言うのはこの場合おかしいよね?」
「……そうですね」
目的地に着き、車から降りた夫の言葉にアルゲーは頷くと、傍らに寄って腕を絡める。
「……玄関はすぐそこですが、外は寒いですから」
「あ、うん」
むにゅんと子供を産んだことで130cmまで育った胸が変形するも流石に妻の胸の感触に和馬があたふたすることはもうなく。
「……和馬くんへのプレゼントは後でお渡ししますね」
「それじゃ、オイラもその時で――」
ただ、仲の睦まじさはきっと変わらない。
「「メリークリスマス」」
やがて玄関に辿り着けば、待っていたらしい三人の子供が両親とその友人達を出迎え。
「三姉妹でしたか?」
「ううん、一人は男の子だよ」
そっと耳打ちして尋ねたみんとに和馬は頭を振る。じゃあ、あの子が男の子ですかと示した先に居た少女を見てもう一度首を振ることにもなるのだが。
「その子は和美」
男勝りな性格の長女だそうで、みんとが間違えたのもそれが理由だろう。
「では、ひょっとして」
「あー、うん。あっちの子で間違いはないよ」
或馬と言う名前らしいみんとの視線の先に居る子供は髪や瞳の色こそアルゲー譲りの色合いではあったが、複雑そうな表情の父親との血のつながりを一目で納得させる男の娘だった。
「……メリークリスマス♪今年も良い子に過ごせましたね」
「……メリークリスマス」
工作キットを手にしたまま頭母親に頭を撫でられているのが次女の或美と和馬は説明し。
「はい、お姉さん達からプレゼントですよ♪」
母親の側にいない子から順に蒼香がプレゼントを渡し始める。
「これで後は、はるひ姉ちゃんのとこだけだな」
「そうですね」
プレゼントを渡し終えた蒼香は葵の言葉を肯定し。
「えっと……そのもし、子供が出来たらだけど」
プレゼントに夢中な子供達の様子を眺めつつ、顔を赤くした和馬は囁く。
「男の子ならアルベルト、女の子ならマルティナはどうかな?」
アルゲーの気づかないところで弟妹が欲しい攻撃でも受けていたのか。出発するぞと葵達が呼びに来て我に返るまで、何かを思い出して真っ赤になったアルゲーは夫の隣で固まったまま密かにパニックへ陥っていたのだった。
●流希とはるひとTG研
「久しぶりにこっちに来るよ。皆元気にしてた?」
流希の自宅を訪れ集まった面々を見回した鎗輔が動きを止めたのは、感情の起伏があまり無い筈の鎗輔からすると珍しい反応だったかも知れない。
「……って、なんか流さんは、知ってたけど、梨乃さんまで、子沢山になってる!」
驚きの理由を口から漏らしたのは、梨乃の周囲を十人程の子供が取り囲んでいたからだろう。
「3つ子と4つ子が出来た時は驚きました。子供達には『パパがママの体を改造したのでは』と疑われてますが」
とは、父親のであるジェフの弁。
「って、梨乃さん……? こ、子沢山になって……人の事はいえませんが……」
と梨乃達が現れた際、流希も一瞬動きを止めたので驚いたのは鎗輔だけではなかったようだが、鎗輔が驚き立ちつくしていると、背後で呼び鈴が鳴り。
「メリークリスマス!」
家主が返事を待たずして扉を開け姿を見せたのは、家主の妻だった。
「メリークリスマス。皆さんお久しぶりです」
「メリークリスマス! そして、サンタ役お疲れ様でした」
ジェフに続く形で清美も挨拶を返し、そのまま労いの言葉をかけた先には、ここまで複数のお宅を回ってケーキとプレゼントを配ってきた面々がおり。
「お疲れさまでした。秋山さんの助手その1です」
「秋山さんの下僕1ごっ」
続く良太の後、名乗りを上げようとした登の言葉が途中で途切れた気もしたが、ツッコミが入るのはいつもの事なので割愛する。
「皆さん、お久しぶりですねぇ……。すみません、こんな大所帯で……」
そのまま床に倒れ伏した登は見なかったことにして、サンタ帽を被った流希は12人の子供と共に訪問者達を出迎え。
「紅羽先輩夫妻は相変わらず仲が良いようだな。はるひ先輩の顔を見てれば分かるぞ」
無言で流希の隣へその妻が何事もなく移動した様を見て梨乃が口元を綻ばせた。
「子は鎹というのでね」
子供が12人も居たなら当然のことだと言った態ではるひは胸を反らし。
「メリークリスマス鳥井君、お久しぶりです」
「えーと」
挨拶するなりごく自然にセクシーミニスカサンタ服を差し出してきた良太を前にツッコミの言葉を和馬が探せば。
「はるひさんも倉槌さんも鳥井君もお疲れさま! それじゃあ、鳥井君は別室に行こうか」
いつの間にか復活していた登が、後ろに回り込んで肩を叩く。
「え、ちょっ」
犠牲者が約一名連行されていったのはきっと仕方がないことだと思う。
「倉槌先輩も幸せそうで何よりだ。……鳥井君も相変わらずだな」
ありがとうございますと応じる緋那からドアの向こうに消える苦労人へと視線を移動させた梨乃は微苦笑を浮かべ。
「倉槌先輩もリア充堕ちですか……おめでとうございます」
「ありがとうございます」
着替えの監督は登に任せたのか、和馬の消えたドアから戻ってきた良太は娘に服の端を握られた緋那に祝辞を述べると礼の言葉を返される。
「倉槌さんにも、娘さんが居るんだ……」
「ええ」
頷く緋那の影からちょこんと顔を出した幼くした緋那そっくりの少女は初めましてと自身を見る鎗輔に挨拶し。
「ただいま」
微妙な表情の和馬を伴って登が再登場したのは、丁度その時だった。
「鳥井さん……、36歳でミニスカサンタ……流石は美魔少年……!」
「や、そんな所で感心されてもリアクションに困るんだけど」
流希の視線を受けて何とも言い難い表情をした和馬だが。
「それにしても……鳥井君、それは、新たな趣味の開発途中?」
「えっ」
問いかけられて心からの驚きの声を発したミニスカサンタは質問者である鎗輔へ逆に問う。連行されたと子見てたよね、と。
「いいよ~! 今度、そっちの趣味の本の編集、紹介しようか? 大丈夫、ちょっと全国区でそっち系の趣味の人達から絶大な人気になるだけさ!」
だが、鎗輔は聞いちゃ居なかった。
「ちょっ、オイラの質問スルー?!」
わざとなのは疑いようもないが、指摘する者は居らず。
「おお、そうだ。今年生まれた双子は初お披露目だったな。男の子はロイド。女の子は夏というのだ。……ん。何故皆さんそんな目で見るのだ? 女の子は夏に産まれたから、男の子はジェフ君の先輩から名前をもらったのだが」
ふいに口を開いた梨乃は子供達を紹介し始めた自分に集まる視線にきょとんとする。
「……紅羽家と安藤家はそちら系の世界記録でも狙ってるんですか?」
視線の意味は各々で違った。良太は流希の方も見てから問いを発し。
「元気だなぁ……」
鎗輔はボソッと零し。
「その名前……何処かで聞いた気がするんだけど」
と、登は口にして。
「……気付いてないんですか」
「…………自分の苗字をすっかり忘れてました」
良太も尋ねてから登の言いたいことにジェフは漸く気が付いたらしいが、それはそれ。
「紅羽先輩の所が12人、梨乃の所が10人。倉槌先輩や鳥井君の所にも子供は居ますし……これだけ居れば私が産まなくても大丈夫ですよね……」
清美は何処か遠くを見る。
「私ですか? 『行かず後家』『お局様』の名を欲しいままにしておりますよ」
「秋山さん、あんまりお気になさらずに」
更に聞かれる前に自身の近況を語る清美を気遣う様に声をかけた流希はそこから声を潜め。
「で、あの二人の内、どっちが本命ですか……?」
囁かれた問いに答える気がないのか、答えられなかったのか。
「ですが、人生は楽しんでおります。竹尾君と富山君とはしょっ中遊んでおりますし」
微笑むと周囲に語る。
「遊ぶ……いえ、TRPGをするのは良いんですが、その後の飲み会はただの愚痴大会……」
「TRPG……たまには秋山さんか良太もGMやってよ。いつもオレがGMやってるんだけど。プレイヤーもやりたい」
話題にあがった二人は二人で異論やら要望が有るようにも見えるが。
「3人でそんな事を……子供達がもう少し大きくなったら、11人パーティー用のシナリオを作りたいですね」
別の意味合いにとったらしいジェフはそんな希望を口にし。
「流希、あの一件で気になるのは分かるのだがね」
そちらをちらりとみてからはるひは夫に言う。
「あの一件?」
「ええ、次男が秋山さんに告白したことがあったのですよ」
「うわぁ」
こう、あまり年齢が離れていないと勘違いしたのか、子供特有のお母さんと結婚するの亜種だったのかは不明だが、流希が土下座することになったのはおおよそ言うまでもない。
「こうやって考えると、僕も一人身ってのは、寂しいもんだ」
「私は知人友人の子供も好きなのでね。その気があるなら仲人の真似など幾らでもするつもりはあるのだがね」
ポツリと零すに鎗輔も聞こえるように独言したどこかのエクスブレインは、そのまま周囲を見回し。
「お気持ちだけ頂いておきます。いえ、少子化の日本の為には良いと思いますが」
「そうか。その気があったらいつでも連絡するといい」
無理強いをしても意味はないとみたのか、はるひはすんなり引き下がり。
「はい、みんな並んで。これからプレゼントを渡すよ」
微妙な空気を吹き飛ばすよう明るい声で紅羽家の子供達へ登が呼びかける。
「そう言えば、本来の目的はそちらでしたねぇ」
そう、イベントの主旨は子供達にプレゼントを配ることなのだ。
「じゃあ、このままクリスマスパーティにしようよ」
「そうですね。あ、ご馳走は、竹尾君、富山君、妹夫妻で用意致しました。勝手にキッチンをお借りして申し訳ありません」
提案に同意した清美が頭を下げるも、流希達が気にするはずもなく。
「僕は、今でも一人身で気楽にやってるよ。実家の本屋家業を引き継いで、ね。仕事がきつくってね、体重が半分になったよ」
「備傘先輩にはお世話になっているぞ。子供達に読ませる本を色々取り寄せてもらっているのだ」
始まる宴の中、近況を語る鎗輔の言葉に梨乃が補足をくわえ。
「ところで、倉槌先輩の所のお子さんはここにいらっしゃいますけど、鳥井君の所のお子さんはお元気ですか?」
「え? うん。ここに来る前に会ってきたけどいつも通り元気だったよ」
緋那の娘を示したジェフに尋ねられ、和馬が応じ。
「香織……長女がしっかりしてて、下の子の面倒や梨乃さんの手伝いを良くしてくれるんですが……最近、お義姉さんに似て来」
続いて自身の家族に言及したジェフはほぼ同時に娘と清美からのツッコミを喰らって最後まで言い切ることなく床に突っ伏す。
「それにしても、TG研の皆に会うと、あの頃に戻っちゃうなぁ。ずっと、こうしていたい」
「ふふ、いくつ年を取ろうが、どんな風になろうがTG研面子はTG研面子ですよ……。何も、変わりませんよ……」
一部ゲストがいるものの昔の通りの空気に鎗輔が零せば流希も笑み、夜は更けて行く。
「ありがとう」
感謝の言葉を口にしたのは、誰だったか。
「次は忘年会でしょうかねぇ」
「TRPGしながら忘年会?」
賑やかな声は絶えることなく。
「えーっと、そろそろ着替えても良い?」
周囲を見回してからおずおずと和馬は尋ねた。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2018年12月24日
難度:簡単
参加:15人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|