聖夜のおもてなし

    作者:湊ゆうき

     12月になれば、街全体がクリスマスの雰囲気に包まれる。通りにはイルミネーションが施され、見ているだけでも心浮かれてしまう。
    「創良先輩、この前みんなに会ってきたんですよね?」
     イルミネーションで賑わう通りが見渡せるカフェで待ち合わせし、榛名・真秀は久しぶりに会う橘・創良にそう問いかける。
    「うん、みんなの近況が聞けてとても楽しかったよ」
    「あー、わたしも行きたかった!!」
     先日の創良の誕生日の催しに参加できなかった真秀は机に突っ伏し、悔しさを露わにする。しかしすぐさま立ち直り、ふふふと意味深な笑みを浮かべる。
    「わたしもみんなに会いたいので、今度はわたしが企画を考えちゃいました!」
     満面の笑みで真秀が語ったのは、クリスマスパーティーの計画。
    「わたし今、太りにくいスイーツとか、女の子に嬉しいビタミンや鉄分が豊富なスイーツとか考えてるんです。ようやく人並みにケーキも作れるようになったし、できればみんなにふるまいたいなーって」
     栄養士として働く真秀は、スイーツ好きを活かした仕事もしているらしい。人一倍不器用だった彼女だが、ケーキを人並みに作れるようになったのはスイーツ愛ゆえの大きな成長と言えるだろう。
    「それはいいね。みんなも喜ぶんじゃないかな」
    「だといいんですけど!」
     どきどきわくわくしながら、クリスマスパーティーに思いを馳せる真秀。
     一人一人の顔を思い出し、学生時代を懐かしく思いながら、招待状をしたためるのだった。


    ■リプレイ

    ●聖夜のおもてなし
    「……よーし、がんばるぞー!」
     みんなを誘ったクリスマスパーティ当日。榛名・真秀は準備のため、早めに会場にやってきた。
     久々に会うみんなのことを思うと楽しみでわくわくがとまらない。そして足を運んでくれたみんなのためにも美味しいスイーツをふるまいたい。
    「真秀さんのケーキ作りのお手伝い、立候補させてください♪」
     準備を始めていた真秀に背後から優しい声がかかる。声を聞いただけで真秀にはすぐ誰だかわかった。
    「陽桜ちゃん! 久しぶり~!」
     スイーツ好き同志として、数々の思い出を共有する羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)がそこに立っていた。
    「お会いしたかったのです!」
    「わたしもわたしも!」
     二人は学生のようにきゃっきゃと飛び跳ねながら再会を喜ぶ。
     そして心強い協力者は次々と現れる。
    「クリスマススイーツの準備、私にもお手伝いさせてください」
     武蔵坂の製菓学部を卒業した長月・紗綾(紫菫月光・d14517)がエプロンにコック帽の装いのナノナノのタルトと共にそう申し出てくれる。
    「真秀ちゃん何か手伝いあったら言ってよね」
     学生時代と変わらない明るい笑顔で高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)もそう声をかけてくれた。
    「紗綾先輩に麦先輩まで……ありがとうございます!」
    「おっと、もう準備は始まってるのかな?」
     自らの経営するカフェの運営があるため、夜の仕込みを終えてから手伝いに来てくれた神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)が顔を見せてくれる。
    「勇弥先輩、お店があるのに忙しいところありがとうございます!」
    「折角素敵なパーティのお話しを聞いたんだ。夕方までになるけど、手伝わせてもらうよ」

    「真秀さんてば、女の子の夢を叶えるスイーツ考えるお仕事についたのですね!」
     小麦粉をふるう手伝いをしてくれる陽桜にそう言われ、真秀はえへへと笑う。
    「将来のこととかあんまり考えられなかったんだけどね。やっぱり好きなことをしたいから、何か活かせることはないかなあって考えてたんだ」
    「栄養士さんかぁ頑張ったな!」
     フルーツを切りながら、麦もそう言って褒めてくれる。
    「紗綾先輩みたいなプロのパティシエールにはなれないのは最初からわかってたから、メニューを考えたり、そういうのができる栄養士を目指したんだ」
    「私もまだ修行中ですが……」
     そう謙虚な姿勢で紗綾は言うが、ヨーロッパで働きながら日々腕を磨いているのだ。今回もブッシュドノエルやシュトーレンを手際よく作ってくれている。コック帽のタルトも紗綾と真秀の手伝いをと甲斐甲斐しく働いている。
    「長月さんも海外で活躍するパティシエールか……いや、同じように頑張っている知り合いがいてね。他人事に思えなくて」
     仕込んできたオニオンスープやビーフシチューをカップに入れ、それをパイ生地で閉じながら勇弥が優しく微笑む。
    「えと、同業者さんな方々もかなりいらっしゃるのでドキドキですけど、あたしも、今、喫茶店経営のお手伝いしてるのです」
     旦那さんがマスターです、と幸せいっぱいの満面の笑みで付け加える陽桜。
    「陽桜ちゃん結婚おめでとう! あとで写真見せてね~。旦那さんはあのときの恋バナの人だよね? いいなあ、うらやましいなあ!」
     学生時代、スイーツを食べながら恋バナで盛り上がったことを思い出し、甘酸っぱい気持ちになる真秀だった。
    「喫茶店の方もうまくいってる?」
     経営しているのは和風喫茶なのだという。
    「真秀さんと食べ歩いたスイーツあれこれだって、しっかり活かされてるのです!」
    「わーい、良かった♪ わたしもあのときの経験が活きてるって思うときいっぱいあるよ」
    「でも、こういうの日々精進ですから、また、時間見てまた食べ歩き行きましょうね♪」
    「うん、また行こうね! 旦那さんとの話もいっぱい聞かせてね!」
    「はい、もしよければ……」
     幸せいっぱいの陽桜を見て、素敵な人の存在は女の子をよりいっそう綺麗にするのだと思うのだった。
    「真秀ちゃん、メニュー考えたりするんでしょ? 良かったら栃木の野菜を紹介させてほしいー」
    「ぜひぜひお願いします!」
     昔と変わらない、いや昔以上かもしれない麦のご当地愛に、真秀もなんだか嬉しくなる。栃木の旬の野菜を丁寧に紹介する麦に、気がつけば全員が聞き入っていた。
    「これは俺からの差し入れね。12月は旬、栃木のイチゴをよろしくっ!」
     山盛りのいちごを振る舞ってくれた麦に、真秀もPRしますね、と笑顔で応えるのだった。
     真秀が作ったのはシンプルないちごのショートケーキ。それから、おからパウダーを使ったツリー型のクッキー。高カカオチョコレートでコーティングしてあり、女性に嬉しい一品だ。
     続々と完成し、パーティーの時間も近づいてくる。
    「古い友人に教えてもらったクリスマスティなんだ。葡萄の薫りとスパイスで特別な気分になるはずだよ」
     勇弥が用意してくれた特別なクリスマスティの良い香りが辺りに広がる。
    「……っと、この辺りかな」
     洗い物をしていた勇弥が時計を見やる。カフェの夜の開店に間に合うためにはそろそろ出発しないといけない。
    「こうして一緒に料理できて楽しかったよ。メリークリスマス、 本番もいっぱい楽しんでね」
    「勇弥先輩、ありがとうございました! よいクリスマスを」
     真秀は作ったクッキーを手渡し、見えなくなるまで手を振って見送った。

     パーティーの準備が整ったところで、みんなで乾杯。紗綾が持ってきてくれたシャンパンと、飲めない人にはジュースが配られる。
     今度はサンタ帽をかぶったタルトが飲み物を配ったりと、可愛らしい給仕をしてくれている。
    「真秀さん、立派なパーティーになったね」
     料理の差し入れとともにやってきた橘・創良が会場を見渡してにっこり。
    「あ、創良先輩。そうなんです。みんなが手伝ってくれたおかげです。もちろんこうして来てくれたみんなも!」
    「お久しぶりです。リタです。高校以来ですね☆」
     高校のクラスメイトの中板・陸朶(高校生神薙使い・d37513)の登場に真秀は喜ぶ。
    「わあ、陸朶ちゃん久しぶり! 来てくれてありがとう~!!」
     嬉しくて思わずひしと抱きつく。大きな胸と柔らかい雰囲気はあの頃のままだ。真秀の変わらない様子に陸朶も思わず微笑みながら呟いた。
    「はるなさんは……元気そうですね」
     会場では麦がパーティー演出として、部屋の壁を赤い布で覆い、それをゴーストスケッチを使って、金ペンで星柄をいくつか描いていく。そうすると、勝手に星がどんどんと増えていく。
    「魔法みたいで面白くない?」
     クリスマスらしい演出に、会場にいた皆から歓喜の拍手がわき起こる。ESPの楽しい使い方を考えているという麦は、想像以上の反応に親指を立ててにかっと笑う。
    「陸朶ちゃん、紗綾先輩のブッシュドノエル、すごく美味しいよ~」
     早速スイーツを食べて幸せ顔の真秀を見て、学生時代と変わらないと苦笑する。
    「相変わらずグルメさんで安心しましたのです」
    「わたしのケーキとクッキーも良かったら食べてね」
    「ありがとうございます。楽しみにしてきたのですよ。今は栄養士さんですか! 凄いです」
     陸朶の言葉になんとか頑張ってる途中だよ、と真秀も笑顔で答える。
    「陸朶ちゃんは?」
    「私は知り合いの先輩のところで、酪農を手伝いながら獣医師をしてまする♪」
    「ええー獣医さん!? すごい!」
     学生時代からは想像できず、すごーいを繰り返す真秀。
    「意外だった? また美味しい牛乳やら素材あれば紹介しますよ」
    「わー、ぜひ教えて。麦先輩の栃木の食材と、陸朶ちゃんの乳製品……これは、素晴らしいメニューが完成しそうな予感がする!」
     久しぶりの再会はとても幸せに溢れていて、過去が今に繋がり、未来に続いていくのだと、そう聖なる夜に思わずにはいられないのだった。

    ●聖夜の再会
     武蔵境キャンパス1年3組でクラスメイトだったみんなが10年後のクリスマスイヴに再び集う。
    「みんな、元気にしてた?」
     容姿も話し方も高校生だった当時より大人びた吉武・智秋(秋霖の先へ貴方と共に・d32156)が集まった友人達に微笑みかける。
    「皆変わら……結構変わってるねー。私はこの通り……あ、いや、ぷぇーとかもう言わないってば」
     集まった面々を見て、シャーリィ・グレイス(五行の金・d30710)が呟く。ふわふわとしてあどけなかった彼女もすっかり大人び、今は子育てが忙しいママ。久しぶりに会うクラスメイトの変化に時の流れを感じる。
    「よう、相変わらずだな。すぐわかったぞ」
     外見が大人っぽくなっていたり、あまり変化のない者と様々だが、望月・一夜(漆黒戦記ナイトソウル・d25084)は、皆の姿にすぐ気づいた。なによりもあの賑やかしくも騒がしい雰囲気が全く変わっていないからだ。
    「いやしっかし久しぶりだな。キミら最近調子どうなの」
     抑揚のない平坦な声とじと目は変わらない芳森・小晴(皐月晴・d31238)が懐かしそうに皆を見やる。当時より伸びた髪は肩につくほどの長さだ。
    「もっちーはウワサでレスキュー隊とか聞いたが」
     小晴が視線を投げかけると、一夜は大きく頷く。
    「おうよ、こっちはバリバリに活躍しているぜ」
    「私も聞いてたけど、レスキュー、頑張ってるのね」
     智秋も耳にしていた一夜の活躍を本人から聞け嬉しそうに微笑む。
    「小晴、お前は今なにやってんだ?」
    「あたしか。探偵やってる」
     結婚し、探偵として働く小晴の姿が学生時代から想像できなかったのか、一夜は少し面食らう。
    「へぇ、なんていうか、意外というかなんというか」
     学生時代にも、とある人物を追っていた小晴なので情報収集能力は高いのだろう。
    「探偵さんも、似合ってると思うの」
     小晴の探偵姿を想像し、智秋は頷く。
    「っても、人とか物とかそういうの探す専門。調子はそれなり」
    「人探せるなら十分すげーでしょーに」
     うんうんとみんな大いに同意する。
    「そんで、他の奴らはどうよ、なーにやってんだ?」
     水を向けられた明海・師宣(玻璃の海を漂う蛇・d29461)は、促され話し始める。
    「僕? 僕はまぁなんか知り合いの古本屋引き継いでそこで働いているよ」
     昔から大人びた雰囲気の師宣だったが、髪型などは変わりなく年齢を重ねている。変化に乏しい表情は昔のままだが、少し柔らかくなったように感じられる。
    「まぁ気ままにやらせてもらっているさ」
    「古本屋さん、また行ってみたいな」
    「うん、いつでも歓迎するよ」
     智秋の言葉に師宣は大きく頷く。
    「私は、そうですね。実の所未だ彼方此方彷徨っています」
     そう切り出したのは昇・冷都(主を探す放浪者・d26481)。腰まであった長い銀の髪は最近肩口ほどまでばっさりと切った。今は学生時代から変わらない愛用の青いリボンでハーフアップにしている。
     学生時代から人探しをしていた冷都にとっては、当然の流れだったのだろう。
    「協力できることがあるなら、手伝うからな」
     探偵として小晴が心強い言葉をくれる。
    「ありがとうございます。ただ、今は少し頼まれ事も頂きまして、旅行記のようなものも作っていますね」
     冷都の言葉に智秋が興味深そうに瞳を輝かせる。
    「放浪のお話もまたゆっくり聞かせてね」
    「そんで綿雪は?」
     10年前は短かった髪は腰まで伸び、すっかり大人びた鷹見塚・綿雪(五行の水・d30709)は一夜の呼びかけに答える。
    「わたしは武蔵坂学園の教師をしてるわ」
    「おー、勉強頑張ってたもんな!」
     綿雪の頑張りはクラスメイトなら誰もが知っている。
    「やりがいはあるけど、慣れない事ばかりで大変よ……あ、これ美味し」
     毎日長い髪を揺らしながら走り回っていることを思い出しながら、口にしたスイーツの美味しさに思わず声がもれる。
    「わ、ほんとこのお菓子美味し……!」
     シャーリィも思わず声に出して言ったのは、小晴が作ってくれたオレンジマフィン。
    「昔ならまだしも、今はコレでも家事やるからな。我が菓子に魅了されるがよい」
     学生時代と変わらないオレンジ愛好家である小晴は、会場にあるオレンジ系スイーツをしっかり確保。好きが高じてオレンジスイーツは自分でも作るのだ。
    「今度レシピ教えてー、ねえねえ」
     子供にも作ってあげたいから、と母親らしい顔をのぞかせるシャーリィ。
    「皆様、お茶を入れましたので、どうぞ」
     無駄のない手つきで皆のお茶を用意し、ふるまう冷都。お茶を入れている間も皆の話を興味深く聞き入っていた。
    「こちらもよろしければどうぞ」
     お土産ついでに持ち込んだ異国のチョコレートを皆に勧める。
    「智秋様はいかがお過ごしでしょうか?」
    「私? 私も司書さんとして働きながら、子どもたちを育ててるよ」
     智秋も現状を報告すると、シャーリィに視線を送る。
    「リィちゃんとはママ友なの」
    「子供がわんぱく盛りで、もー大変。ねー、ちーちゃん」
     ふふふ、と顔を見合わせながら二人は笑う。
     旦那さんとは、まだまだラブラブで、先日も家族旅行に行ったのだと、智秋は幸せそうに語る。
     久方ぶりの再会に話題は尽きない。けれど、きりのいいところで、綿雪がすっと動く。
    「さて、と。それじゃそろそろやりましょうか、小晴?」
     綿雪が持参した琴を準備する。
    「あいよ、趣味レベルだがつまみに一曲」
     小晴はギターを用意し、二人で合奏を行う。
    「ふふ、下手っぴでも笑ったら承知しないわよっ」
     みんなの余興にでもなればと、今でもたまに集まって一緒に弾いている腕を披露。
    「二人ともすげーな!」
     一夜をはじめ、皆が賞賛の言葉を二人に送る。
    「昔はやってなかったよね?」
    「ここ10年で始めた趣味レベルだが」
     師宣の問いに小晴が答える。
    「へぇ、あれから始めたんだ」
     10年の月日の間にそれぞれの人生で大きな変化も小さな変化もあっただろう。けれどこうしてまたみんなで集まると、そんな時間の隔たりを感じさせないほど近く感じる。
    「懐かしいなー、こうやって、毎日わいわい騒いで」
     シャーリィのしみじみとしたつぶやきは皆の言葉を代弁したもので。気心の知れた友人たちとの時間が何よりもかけがえなく感じられる。
     クリスマスイヴにこうして大切な仲間と過ごす時間は、いつまでも色あせない思い出となって全員の記憶に残るだろう。

     ――I wish you a merry Christmas!

    作者:湊ゆうき 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年12月24日
    難度:簡単
    参加:12人
    結果:成功!
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