遅れてきたジャック・オー・ランタン

    作者:宮橋輝


     通りがかかった若い男女の二人連れが、眼前にそびえる廃ビルを同時に見上げた。
    「ここのビル、ずっと前から放置されてるよなあ」
    「不気味だよね。お化けとか出そう」
    「実際出るって聞いたけど」
    「やめてよ」
     思わず身を震わせた女に、男は大丈夫だって、と笑ってみせる。
    「出るって言っても、アレだぜ? なんて言ったっけ、あのカボチャのお面みたいなやつ」
    「ジャック・オー・ランタン?」
    「それそれ。そいつが、箒に乗って空飛んでるんだってよ、屋上で」
    「えー、ちょっと可愛いかも」
    「だろ?」
     表情を和ませた女は、その直後、僅かに首を傾げた。
    「でもさ、ハロウィンってもう終わったよね。今もまだ出るの?」
    「さあ、そこまでは聞いてないけど。なんなら行ってみる? 屋上」
    「やだあ」
     くすくすと笑い声を響かせながら、男女はその場を去っていった。
     

    「全員、揃ってるよね。――事件の説明、始めてもいい?」
     教室の席についた灼滅者たちを数えた後、伊縫・功紀(小学生エクスブレイン・dn0051)は改まった顔つきで口を開いた。
     僅かに背伸びしながら黒板に地図を貼り、一点を指してくるりと振り向く。
    「今回の現場はここ。廃ビルの屋上に、都市伝説が現れたんだ」
     人があまり立ち入らない場所なのが幸いして犠牲者はまだ出ていないものの、それが一般人に与える危険を考えると放っておくわけにはいかない。今のうちに都市伝説を倒してほしいと、功紀は言う。
    「都市伝説は……『南瓜魔人』とでも言えばいいのかな。ハロウィンのカボチャのお面をかぶって、魔法使いみたいな黒いマントを羽織ってる」
     ハロウィンが過ぎたばかりだというのに、随分と間の悪い都市伝説もあったものだ。もっとも、都市伝説とは噂話を信じる人の心にサイキックエナジーが融合して生まれるものだから、実体化する時期は自分で選べないのかもしれないが。
    「それで、この『南瓜魔人』だけど。こないだのハロウィンみたいに仮装をして、廃ビルの屋上に行けば出てくるんだ」
     一人でも大丈夫だが、後のことを考えたら皆で仮装する方が良いかもしれないと付け加えて、功紀は言葉を続ける。
    「出てきた直後は、『南瓜魔人』は箒に乗って空を飛んでる。この状態だと近距離からの攻撃は届かないから、ちょっと考えて戦わないといけないんだけど……」
     功紀が言うには、敵が自分から降りてくるように仕向ける方法があるらしい。
    「仮装をしてる人が『その仮装に合わせた演技』をしながら戦えば、『南瓜魔人』は気分が良くなって空から屋上に降りてくるよ。たとえば、狼男の仮装なら狼らしく遠吠えしてみるとか、そういう感じで」
     これは人数が多ければ多いほど効果があるので、全員で協力すれば早い段階で着陸させることも可能だろう。
    「都市伝説は一体だけど、攻撃力はそれなりにあるから気をつけて。魔法の矢で狙えるのは一人だけだけど、竜巻や飴玉の弾丸で何人かを一度に巻き込むこともできるから」
     攻撃方法の詳細を黒板に書き出した後、功紀はチョークの粉を払って灼滅者たちを見た。
    「僕からは、こんな感じかな。――お願いしても、いい?」


    参加者
    霜夜・聖(褐色娘・d00347)
    古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    四谷・黒咲(クロウサギ・d07330)
    衣川・正海(ジャージ系騎士志望・d07393)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)

    ■リプレイ


     廃ビルの屋上を目指して、八人の灼滅者が階段を上る。
    「都市伝説にしちゃ、随分ねぼすけよね」
     黒いドレスに蝙蝠の翼――女ヴァンパイアの装いに身を包んだ虹真・美夜(紅蝕・d10062)が、ふと呟きを漏らした。
     ハロウィンを過ぎてから現れたジャック・オー・ランタンの都市伝説、『南瓜魔人』。いささか間の悪い彼(?)を呼び寄せるべく、灼滅者の全員が仮装行列さながらの衣装を纏っていた。
     たとえば、アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)。空色を基調にしたエプロンドレス姿の彼女は、どこから見ても名前の通り『不思議の国の少女』そのもので。時計兎に扮する四谷・黒咲(クロウサギ・d07330)が傍らを駆けている様は、まるで童話の一場面のようにも見える。
     黒咲はいつもの兎耳フードの代わりに余所行きの服を着て、片手には懐中時計。頭には、もちろん兎耳。白ではなく黒を選んだのは彼のちょっとした拘りだろうか。
    「ネオン、こういうお芝居大好き~♪」
     弾んだ足取りで歩を進める殺雨・音音(Love Beat!・d02611)が、招き猫のポーズで振り向いてみせる。彼女の仮装はチェシャ猫、猫耳に縞々模様の短めバルーンパンピース、お揃いのソックスで完璧。
    「仲間と仮装……ふへへ」
     コミカルな竜の着ぐるみにすっぽり収まった千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)が、思わず表情を緩ませた。少しばかり時期外れでも、戦いに必要だからやっていることでも、やはり皆で仮装するのは楽しい。その時、古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)がきりっとした面持ちで口を開いた。
    「――これは依頼だ。真剣に、全力で取り組まなければならない」
    「ちゃ~んと敵も倒すも~ん。忘れてないよぉ」
     音音が、明るく笑って言葉を返す。改めて見ると、けいは頭のてっぺんから指の先に至るまで『王子様』になりきっていた。羽飾りのついた帽子に豪奢な刺繍の上衣、優雅なシルエットのズボン。動きを妨げぬように右肩を露出したマント姿がまた決まっている。
     それもこれも、全ては依頼を完遂するため。決して役得などと思ってはいないし、ましてや衣装選びが楽しかったとか、そんなことはまったく考えていないのである。いや本当に。
     そして、誤解を招かないうちにはっきり言っておこう。
     古城・けい――彼女、そう『彼女』はれっきとした女性である。いかに王子の衣装を完璧に着こなし、同性すら魅了しかねないオーラを放っていたとしても、間違えてはいけない。
     その王子に付き従うのは、衣川・正海(ジャージ系騎士志望・d07393)だ。裾が破れたローブにとんがり帽子という出で立ち、髑髏に見立ててくりぬいた南瓜と杖を携えたその姿は、まさに魔法使いである。
     王子・魔法使いとくれば、姫もいなくてはおかしい。上等なドレスと光り輝くアクセサリーで美しく着飾った霜夜・聖(褐色娘・d00347)が、ドレスの裾を持ち上げつつ階段を上っていた。
     なにしろ、借り物なのでどこかに引っかけて破けたりしたら困る。殲術道具である以上、傷がついても元通りになることはなるのだが、まあ気分の問題だ。
     仲間達の仮装を一通り眺めていた美夜が、視線を前方に戻す。
    「まぁ……ハロウィン当日なんて、バイトで何も出来なかったし。少しくらい、お祭り気分味あわせてもらおうかな」
     彼女はそう言うと、屋上へと急いだ。


     灼滅者たちが屋上に辿り着いた瞬間、頭上で声が響いた。
    「HAHAHA、とりっく・おあ・とりーと!」
     妙に陽気な口調で笑っているのは、言うまでもなく南瓜魔人である。箒にまたがった彼(?)は空中でマントをはためかせると、魔法の竜巻を呼び起こして灼滅者たちを包んだ。
     まずは、敵を地上に誘うのが先決――素早く隊列を整えた八人の灼滅者は、互いに目配せをして作戦を開始する。
     不思議の国に到着した少女が、前に進み出て口火を切った。
    「兎さんに、縞々模様の猫さん……? アリスもお茶会に混ぜて頂けませんかしら……?」
     アリスの声を聞き、時計兎・黒咲が首を横に振る。
    「あかんあかん! もうテーブルは空いてへんで。定員やで」
    「うそ、こんなに席が空いているのに……!」
     同意を求めるように、音音に視線を向けるアリス。にこにこと笑みを湛えたチェシャ猫は、実に曖昧な頷きを返した。
    「空いてるかもしれないし、空いてないかもしれないニャ」
    「そんな……」
     気紛れな傍観者は、否定も肯定もせずにするりとかわしてしまう。アリスが思わず絶句した時、南瓜魔人が少女をちらりと見た。どうやら興味を惹かれたらしい。
     それを視界の端で認めた黒咲が、さらに口を開こうとしたその時。南瓜魔人を見上げた姫が、彼(?)に語りかけた。
    「貴方は約束して下さいました。次にお会いした時、私を外の世界へいざなうと……」
     うっとりと瞳を輝かせ、竜の宝珠を内蔵した斧を構える。宝珠から解放された力が、聖の全身を覆った。
     姫は外の世界に憧れるあまり、南瓜魔人に心を惑わされている。けいは小剣(に偽装した解体ナイフ)の柄に手をかけ、敵を睨んだ。
    「よくも姫を誑かしたな、南瓜魔人。だがここまでだ」
     王子の隣で、魔法使い・正海が低く笑う。
    「かの南瓜魔人と相対することになろうとは……愉快、愉快」
     彼は口の端を歪めて笑うと、手にした杖を掲げた。
    「王子よ、助力いたしましょう。さあ、存分に力を振るわれますよう!」
     戦いが幕を開けようとした瞬間、竜の咆哮が響く!
    「ぎゃおー!」
     破壊と灼熱の化身――伝説の邪竜を従えた女吸血鬼が、蝙蝠の翼を揺らしながら歩み出た。
    「そうはいかないわ。姫はあたしがいただいていくわよ」
    「悪いがお嬢さん、後回しにしておくれ」
    「あら……世界中の美女の血は、みーんなあたしの物なのよ? 知らなかった?」
     眉を顰めるけいに、美夜は嫣然と笑みを浮かべてみせる。血の色をした眼光は、どこまでも鋭い。
    「そうだそうだー。がおー」
     同調する七緒の体からは、禍々しいオーラが上がっている。立て続けの闖入者にすっかり話の腰を折られた黒咲が、兎の耳をぴんと立てて激昂した。
    「お茶会邪魔すんなー!」
     手の指輪を煌かせ、怒りに任せて石化の呪力を解き放つ。呪いは王子や女吸血鬼たちの頭上を越え、空を飛んでいた南瓜魔人を捉えた。
     言うまでもなく、ワザとである。これを皮切りに、灼滅者たちは演技を続けながら南瓜魔人に攻撃を仕掛けていった。

    「あたしの邪魔をする奴は、皆痛い目にあってもらうよ」
    「王子もお茶会も蹴散らすよ! がおー!」
     主たる美夜の言葉に、破壊と灼熱の邪竜・七緒が威勢良く答える。黒いドレスの女吸血鬼は、忠実なるしもべに命じた。
    「なぎはらえ!」
    「なぎはらうニャ~」
     相変わらずにこにこ笑顔の音音が、こっそり声を重ねる。楽しいことは逃さず便乗、それが彼女――チェシャ猫のモットー。
     直後、大きく息を吸い込んだ七緒が口の前で両手を構えた。あたかも竜の息(ドラゴンブレス)の如く放出されたオーラが、『なんか邪魔なところに居た』南瓜魔人を貫く。続いて、美夜がガンナイフの引き金を絞った。赤きオーラの逆十字が南瓜魔人に刻まれ、哀れな標的を切り裂いていく。
     立て続けに攻撃を浴びた南瓜魔人の体が、僅かに揺らいだ。どこかそわそわした様子で、眼下の灼滅者たちをじっと見ている。撃ち出された魔法の矢が、けいの肩を貫いた。

     あと少し。もう一押し加えれば、南瓜魔人はきっと我慢できなくなるだろう。
     駄目押しするべく、聖が南瓜魔人に声を投げかける。
    「早くこちらにっ!!」
     沈黙する魔人を見て、彼女は思い詰めたように眉を寄せた。
    「酷い……あの約束は嘘でしたの……?」
     今、姫の心は揺らいでいる。彼女を取り戻す好機と判断した王子が、魔法使いに言った。
    「我が配下よ、とくと力を示すがいい」
     お任せあれと、正海が杖を掲げる。
    「我が魔法の神髄、とくとその目に焼き付けよ!」
     激しく渦巻く風の刃が、空を飛ぶ南瓜魔人へと襲いかかった。
    「ははは、愉快なものではないか。蛾のように宙をさまようあの姿!」
     魔法使いが呵々と笑う中、王子は姫に手を差し伸べる。
    「愛しい人、お手をどうぞ」
     けいの手を取った聖は、申し訳なさそうに視線を伏せた。その肩が、僅かに震える。
     姫が顔を上げた時、子供のように表情を輝かせた南瓜魔人が目の前に立っていた。灼滅者の演技に対するワクワク感が、空中に留まろうとする理性をとうとう上回ったらしい。
    「信じて……いたの、に……っ!!!!!」
     外の世界に対する憧れを砕かれた姫の怒りが、オーラの一撃となって南瓜魔人を抉った。
     その時、アリスは悟る。こんな風に悪い竜と南瓜魔人が来て、お茶会を台無しにしてしまうから――だから、時計兎は『席は空いていない』と自分に告げたのだと。
    「兎さん、チェシャ猫さん、楽しいお茶会を守るために、アリスと一緒に戦いましょう……!」
     意を決して、時計兎とチェシャ猫に声をかける。勇気の刃を武器に、彼女は南瓜魔人へと駆けた。
    「このヴォーパルの剣なら……!」
     夢見る少女の鋭き剣が、南瓜の面を切り裂いた。


     敵が屋上に降り立った以上、もはや遠慮はいらない。ここまで近接攻撃を封印してきた灼滅者たちは、こぞって猛攻を仕掛けた。
    「都市伝説なら気兼ねなく燃やせるね……ふふっ」
     南瓜魔人に肉迫した七緒が、幼さが残る面に黒い微笑みを浮かべる。
    「頭の南瓜は飾りかい? 僕が炎を灯してあげる」
     体内から生じた灼熱の炎が、がらんどうのジャック・オー・ランタンに点火した。
    「さあ、あんたの血をもらうよ。その体に流れていればだけどね」
     ガンナイフの刃に緋色のオーラを宿した美夜が、南瓜魔人に斬りかかって活力を奪う。
    「よしよし、やったるでー!」
     間髪をいれず、黒咲が紅蓮の追撃を加えた。
    「とりっく・あーんど・とりーと!」
     南瓜魔人が、無数の飴玉を嵐の如く撃ち出す。雨あられと降り注ぐ飴玉の弾丸が、前列に立つ灼滅者を穿った。
    「チェシャ猫もこれくらいならお手伝いしてあげても良いかなぁ~、なんてねっ」
     すかさず、音音が夜霧を展開して傷を塞ぐ。仲間の守護を第一とするけいは自らの負傷をまったく意に介することなく、構えた刃を敵の側面で一閃させた。
    「この一撃、見切れるか!」
     死角からの斬撃が、南瓜魔人の動きを鈍らせる。王子とぴったり息を合わせた姫――聖が、翼を広げた竜の動きで間合いを詰めた。龍砕斧に顔面を傷つけられ、南瓜魔人の表情が怒りに染まる。
    「正くん、美夜ちゃんの回復よろしゅにー」
     美夜がプレッシャーに苛まれているのを見た黒咲が、メディックを担当するクラスメイトに声をかけた。それに応えた正海は口の端を持ち上げ、南瓜魔人を不敵に見やる。
    「飴玉の弾丸とは奇怪な……それ、我が癒しの魔法と力比べといこうではないか」
     優しき浄化の風が、仲間を縛る状態異常を瞬く間に消し去った。視界に、ふと邪竜の背中が映る。
    「ははっ、まさか貴殿と共闘することになろうとは」
    「なあに? ぎゃおー?」
     いつもの表情で小さく首を傾げる七緒に、正海は魔法使いらしく威厳のある口調で言った。
    「悪しき竜の力、見せてもらおうではないか!」
     頷いて敵に向き直った七緒の唇が、炎に魅せられたかのようにうっすらと笑みを湛える。
    「飴玉のお礼。遠慮しないで?」
     巻き起こる激しい炎が、彼の敵に破壊と灼熱をもたらした。

     灼滅者の集中攻撃に晒され、南瓜魔人は次第に追い詰められていく。宝珠(ドラゴンジェム)に宿る『龍因子』で守りを固めた聖が、龍砕斧を大きく振りかぶった。
    「私との約束を破るなんて……絶対に、許しませんわ……っ!」
     姫口調にそぐわぬ強烈な一撃が、南瓜の面と黒いマントを豪快に叩き斬る。明らかに狼狽した南瓜魔人は魔法の矢で聖を射抜いたが、ディフェンダーとして攻撃を引き受ける彼女はまるで動じなかった。
     まだ大丈夫と判断した音音が、心の深淵に潜む想念を集束させる。
    「カボチャちゃんもボク達も、おとぎの国へ帰る時間だよ~」
     形作られた漆黒の弾丸が、南瓜魔人の頭部を射抜いた。ハートの意匠を施した金の鍵『クイーンオブハートキー』を携え、アリスが敵の懐に飛び込む。
    「この鍵で、不思議の国の扉を……!」
     長大な鍵が南瓜魔人の胸に差し込まれ、くるりと回転した。流し込まれた魔力が、敵の体内で炸裂する。手にした刃に紅のオーラを纏ったけいが、そこに鋭い斬撃を浴びせた。
    「民の為、愛の為、大人しく引導を受け取れ」
     堪らず身を捩る南瓜魔人に、美夜がガンナイフの銃口を向ける。
    「あたしの弾丸を避けられると思うの?」
     どこまでも標的を追い続ける女吸血鬼の銃撃が南瓜魔人を捉えた瞬間、時計兎が背後に回り込んだ。
    「これで終いやで」
     懐中時計の鎖が、じゃらりと音を立てた時。
     黒き斬撃に急所を切り裂かれた南瓜魔人が、ゆっくりと倒れていった。


     地に伏した南瓜魔人の姿が、次第に薄くなっていく。
     それを見た七緒が、幼げな表情に戻って自分の胸を抑えた。
    「ぐわー。だが僕を倒しても第二第三の……」
     じたばたともがきつつ、邪竜の最期を演出する。武器を収めたけいが、高貴に笑って口を開いた。
    「悪に屈する正義はないのだよ」
     どこまでもノリの良い灼滅者に見送られ、南瓜魔人が消滅する。 
     ふうと息をついた正海が、やりきった男の表情で額の汗を拭った。

     俺、頑張った――!

     清々しい空気の中、音音が元気に伸びをしながら満面の笑顔を向ける。
    「仮装は何度やっても楽しいよね♪」
     美夜も、遅れてきたハロウィンを少なからず満喫したようだ。普段の彼女からすると珍しいくらいのテンションだったが、皆のノリに引っ張られたのかもしれない。
    「お茶会を守れて良かったわ……♪」
     にこりと微笑むアリスの視線の先には、持参したケーキや菓子を荷物から取り出す黒咲の姿。せっかくなので、ここで本当にお茶会を開いてしまおうという心算だった。まあ、本音を言えば自分が食べたいだけなのだが。
    「このケーキ、わいのダチが作ったんやで♪」
     疲れた表情ひとつ見せずに立っていた聖が、並べられたケーキを眺める。体力には自信があるのでまだまだ余裕があるが、そういえば少しお腹が空いたかもしれない。
    「悪い竜さんも……お姫様も、皆さん達も……アリス達と一緒にお茶会を楽しみましょうよ……♪」
     くるりと振り返ったアリスが、仲間達に向かって無邪気に笑いかけた。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 11
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