武蔵坂コレクション2012~TSUNAGU

    作者:海あゆめ

     芸術の秋。
     武蔵坂学園の秋を彩る芸術発表会に向けた準備が始まろうとしてた。
     全8部門で芸術のなんたるかを競う芸術発表会は、対外的にも高い評価を得ており、武蔵坂学園のPTA向けパンフレットにも大きく紹介された一大イベントである。

     この一大イベントのために、11月の学園の時間割は大きく変化している。
     11月初頭から芸術発表会までの間、芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くが芸術発表会の準備にあてられ、ホームルームや部活動でも芸術発表会向けの特別活動に変更されているのだ。

     ……自習の授業が増えて教師が楽だとか、出席を取らない授業が多くて、いろいろ誤魔化せて便利とか、そう考える不届き者もいないでは無いが、多くの学生は、芸術の秋に青春の全てを捧げることだろう。
     少なくとも、表向きは、そういうことになっている。

     芸術発表会の種目は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作ダンス』『人物画』『書道』『器楽』『服飾』『総合芸術』の8種目。
     芸術発表会に参加する学生は、それぞれ、自分の得意とする種目を選び、その芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。

     芸術発表会の優秀者を決定する、11月22日に向け、学生達は、それぞれの種目毎に、それぞれの方法で、芸術の火花を散らす。

     それは、武蔵坂学園の秋の風物詩であった。
     

    「おう、聞いたか? 今年の芸術発表会の服飾種目のテーマ、『TSUNAGU』だとよ」
     芸術発表会の準備期間が始まり、さてどの種目に挑戦しようかと、配られたプリントと睨めっこをしていた君に、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)が話しかけてくる。
    「これ、ちっと見てみてくんねーか? なんでもな、つなぐ、って言葉をイメージした服を自分で着て、ファッションショー形式で発表するんだと。俺、ファッションショーとかっつーもんはあんま詳しくねーけど、なんか面白そうだよな!」
     香蕗が差し出してきたプリントの説明文によれば、今回の芸術発表会の服飾種目には、『TSUNAGU』というテーマが設けられているそうだ。

     つなぐ。手をつなぐ。紐をつなぐ。電話をつなぐ……いろいろな場面で使うことのある言葉であるし、人によって抱くイメージもいろいろだろう。
     そんな、つなぐ、という言葉をイメージした服装で自らを着飾り、ファッションショーで発表するというのが、今年の芸術発表会の服飾種目の内容らしい。

    「着る服は、買ったやつを自分で改造した服とかでもいいみたいだな。ああ、腕に自信のある奴は一から作ってもいいらしいぜ。やっぱ、グランプリ狙う奴は気合入ったの作るんだべなぁ……」
     スゲーよなー、と香蕗は朗らかに笑う。
     このファッションショーでは、優秀者としてグランプリが1名選抜される。見た目のインパクト、芸の細かさ、テーマの捉え方のセンス……選考基準は様々だが、世界にひとつしかない、自分なりの『つなぐ』を服装で表現し、競い合うのだ。

    「でな、表彰が終わったら、最後に皆で手つなぎながら舞台歩くんだってよ。これ楽しそうだよな! なあ、まだどれに参加するか決めてねーんだったら、これ一緒に参加してみんべ、な! こういうのは人数多い方が楽しいしな!」
     考えてみてくれよ、と香蕗はそのままプリントを君に託した。

     つなぐファッション。さて、どんなふうに表現してみよう……。


    ■リプレイ

    ●舞台裏にて
     もうすぐ本番のショーが始まる。否が応でもテンションの上がる、ドキドキ、わくわくな舞台裏。
    「うーん……できる男! って感じがするオトコマエなのが着たいっス……」
    「なに言ってるのー! 和ちゃんはこっちのほうが似合うよー?」
     かっちりした執事服に憧れを抱く和巳に、彩澄は有無も言わさず沢山の可愛い衣装をあてがった。
     白いレースのドレスに、紅葉の振袖、それからフリフリのエプロンドレスまで!
    「ちょっと待って! 俺は男なの!!」
    「まあまあ、いいじゃない! 私もひらひらのふりふり、たまには着てみたいよ!」
    「あ、そういえば、昔の人は、子どもに女装させると健康な男の子になるって信じてたそうですよー」
     聡魅と悠花も一緒になって寄ってたかって。
     本番を直前にして、桜の振袖の彩澄と、古着をつなぎ合わせたワンピースドレスの悠花、ふんだんフリルのレオタードの聡魅に並んで、魔法少女的な和巳が完成してしまった。

     少し薄暗い舞台裏で、携帯電話のカメラがパシャリと光る。
    「おっし、撮れたぞ」
    「ふふ、ありがと!」
     香蕗から受け取った自分の携帯電話の画面を確認して、香は小さく笑ってみせた。
     振り返るような構図で写っている香のファッションの一番のポイントは何といってもバックスタイル。
     段のついたドレスのフリルは虹色のグラデーション。髪に飾った薔薇も、色とりどりでとっても鮮やか。
     ところどころで、こういった撮影会が行われる中、月子は慌てて走り回る。
    「大変、大変! まだちょっと完成してないんだよね! って事で、かおちゃんも手伝ってー!」
    「マジか! どれ、貸してみろ!」
    「ありがとー! ここのポケット縫ってー……」
     月子が仕上げているのは、色々な古着のポケットやビーズがついた、ストライプのシャツとデニムのショートパンツ。
     一人ではできない。色んな人に縫ってもらって、ここまで完成した作品。まさに、繋いでできたファッションだった。
    「……あとこっち向いてー」
    「んあ?」
     針と糸を手に、思いっきり油断した顔の香蕗を、月子は構えた携帯電話のカメラですっぱ抜く。これでポケットを縫ってくれた人の写真も無事集まったようだった。

    「な……なぜだ……!?」
     一方こちらでは、何やら熾が絶望して膝から崩れ落ちていた。
    「どうですか、お兄様? もちろん、褒めてくれるわよね?」
     それを見下ろすようにして、舞依はちょっぴり得意顔。
     と、いうのも、芸術発表会に向け、妹プロデュースはオレに任せろ! と勇んだ熾は、オレの夢が詰まった完璧すぎるフリフリゴシック巫女服を作り上げていたのだが、その完璧すぎる巫女服は、一夜にして巫女感が見事に抜けたゴシック着物に変わり果てていたのだ。
    「に、似合ってるよ……」
     男涙を堪えつつ、熾は愛する妹を称えたのだった。

     それぞれ自由に過ごしている舞台裏の生徒達。だが、次の瞬間、表のステージで一際大きな音楽が鳴り始め、この場の空気に緊張の糸がピンと張った。
    「緑山兄ちゃん! お互いヒーローへの道の更なる前進の為にも頑張って行くぞ!」
    「ああ、行こうぜ!」
     気合十分に意気込んだ健の頭を、香蕗は嬉しそうにくしゃりと撫でる。
    「よし、行くぞ! 今の僕は、パッチワークヒーローだ!」
     古着のオーバーオールに星の形のワッペン。腰にさげたポーチはチェーンベルトでちゃんとつないで。
     ハギレを縫い合わせた長いマフラーをなびかせながら、健は元気に飛び出していく。
    「どっかおかしいとこあらへん?」
    「珍しいですね。クロさんが緊張するなんて」
     バタバタと慌て始める黒咲を、一樹は少し心配そうに見やった。そっと窺いつつ、一樹は黒咲の背中を、ぽん、と軽く押してやる。
    「……いつも通りでだいじょぶですよ」
    「ん、おおきに。ほな、頑張ってくるな!」
     長く垂れたウサギの耳がついた黒のパーカーをひらりと翻して、黒咲は小さく駆け出していく。
     ステージへの入り口に、スポットライトが集まった。
     いよいよ本番。芸術発表会服飾部門。『TSUNAGU』ファッションショーの開幕である……!

    ●ショータイム!
    「皆で楽しくやって、いい思い出に出来たらええねえ」
    「うん! そうだねっ」
     笑い合う、つばきと結月。
    「それじゃ、行こうか」
     促して、へるが最初の一歩を踏み出した。
     いよいよ本番のファッションショー。まずは、グループ制作の作品から。
     ファッション研究会の仲間達がつないだテーマは、『人々の心を繋ぐおとぎ話に込められた祈り』。
     アラジンと魔法のランプをイメージしたアラビア風のスリットスカートドレスのへる。ライトを浴びた星のジュエルビーズとランプのシルバーネックレスはキラキラ輝き、ピンクの衣装とベールがふわりと舞う。
     結月は白のマーメイドドレス。頭の上には星のティアラ。ラメ入りの袖は透け感のあるオーガンジー。淡い青のシフォンフリルの裾には透明のカプセルが見え隠れ。それは、海の泡となった、愛する人の幸せを祈る人魚姫を思わせる。
     振袖姿のつばき。袖口と裾に向かって桃色から青色のグラデーション。白い花模様の上に淡い黄色の帯が映え、花と星を飾ったかんざしとぽっくりが可愛らしい。手にした赤い紐の小槌で、それが一寸法師にでてくるお姫様だとわかる。
     ステージを笑顔で歩く皆に、恋も嬉しそうに破顔する。
    「皆、素敵……私も、せめてこけないように……わわっ!」
    「っと、大丈夫?」
     転びかけた恋を、朔夜が支えた。
     星を散りばめた藍の直衣。揃い模様の扇で口元を隠す平安貴族の雅な仕草。差し伸べられた光源氏の手をそっと取るのは西洋の魔女。お礼のように振るわれた星の杖のおまじない。星がくるりと回れば、青いパッチワークのロングドレスが、飾った星と一緒にふわりと広がった。

     彼らが身にまとうのは、四季折々の着物と給仕服。
     春は華鏡。少し派手めの桜模様の単衣と羽織。ぱっと人目を引く華やかさとは裏腹に、落ち着いた物腰で、春は次の夏を呼ぶ。
    「次は君だな」
    「ふ、ふむ……こんな感じだろうか」
     促され、背筋を伸ばして歩き出した一史は夏。青海波模様の着物にたすきをかけて、石細工の巻貝の根付を引っ掛ける。上にはギャルソンエプロンをプラスして。
     堂々とステージを歩く仲間達。
    「うむ。いつもの皆じゃな」
     そう、安心したように呟いた黒鵐は秋。黒地に透かし模様の萩をあしらった着物の上に、緋のグラデーションに金の銀杏の葉を刺繍したギャルソンエプロン。帯飾りには、秋を司る四神、白虎の珠飾り。
    「皆さん、とっても素敵です」
     最後に続いた遥は冬。深い緑の着物ドレスの上に、柊の刺繡を刺した白いエプロンを合わせて。小さく一歩を踏み出せば、帯根付の柊のモチーフと、大正メイドを思わせるカチューシャのフリルが揺れる。
     喫茶店、風月茶房。テーマは『お客様と従業員、そして本との縁と出会いを、四季を通じて繋ぐ』。

     ひらひらと踊る赤のフリル。赤いミニ丈のチャイナドレスに、真っ赤な花のコサージュ。ステージの上でくるりと踵を返して、ひかるは手にしていた空模様の番傘をすっと差し出す。
    「さぶさぶ、頑張ってねっ♪」
    「へ~い! 魅せてくるぜ、ヒカヒカ☆」
     笑顔を交わしてハイタッチ。受け取った番傘を担ぐようにして、三朗は観客席の女の子達に愛想を振りまきながらステージを闊歩する。
     軽い足取りに、オレンジのカンフー服の中の龍もまるで踊っているよう。
    「さぶさぶ、カッコいい!」
     すれ違いざまに渡された空の番傘をしっかりと受け取って、今度は灯倭がステージへと躍り出た。
     黄色いミディのチャイナドレスの裾と、サイドテールに飾った羽がふわふわ弾む。
     空色の番傘は、黄から緑へ。
    「うー、人いっぱい……」
     ちらりと目線を上げれば、大丈夫、と勇気づけてくれる視線がそこに。意を決して、鋼は空の番傘を受け取った。
     緑のアオザイ。両サイドに纏め上げた髪を飾る黄緑の花。大好きなカエルのぬいぐるみ、ジョニーももちろん一緒に。
     緊張で震える手から時継へ、空の番傘が渡される。
    「大丈夫、きっと皆、同じ気持ちさ」
     にこりと笑いかけて、歩き出す。
     龍模様の青いパオと、肩にのった青い龍のぐいぐるみが、一歩を踏み出すたびに小気味よく揺れた。
     空模様の番傘。つなげていくのは虹の色。
    「折角参加するのだし、楽しまないとね?」
     最後に空の番傘を受け取った櫂は藍色のロングチャイナドレス。結い上げた黒髪には小花のかんざし。ドレスと同じ藍の扇子をふわりとあおいで微笑をひとつ。足りない一色は腕の中の紫色のパンダ補って。
     今ここに、虹の七色が、空を繋いだ。

     白黒ころころ、茶いろいころん。短いお耳と長いお耳がぴこぴこぴょん。
     パンダな歩に、タヌキの崇。キツネの優姫に、ウサギのまひる。もりのおともだちはみんなで手をつないで仲良く大行進。
    「ぽんぽこ~っ」
    「パホ~っ」
     ころんと転がったタヌキさんにつられて、パンダさんもころりんこ。
    「あはは、もう~、なにやってるコン♪」
    「だいじょう、ぶ、うさ?」
     やさしいキツネさんとウサギさん。転んじゃったタヌキさんとパンダさんの頭をなでなで。
    「てへへ、こけちゃった、たぬよ♪」
    「えへへ、危なかったクマねー♪」
     笑いながらちゃっかりポーズ。もう一度、きちんと手をつないで。
    「みんな、かわいい、ね、うさ」
    「かわいいはせかいをすくう、コン♪」
     ついでに笑顔も一緒につないで。
     もりのおともだちは、今日も仲良しこよし、なのでした!

     一枚の大きな布に描かれた空の絵を、分け合った。
     大輪の花のコサージュを頭に飾って。首元のマフラーは空の布。分けた空は、黒のロングスカートにも縫い止められた。
     ヒールの音をカツンと鳴らして立ち止まった七。その横に、追いついてきた慧杜がつく。
     Tシャツにショートパンツ。太腿からのレッグカバーとロングマフラーには、分け合った空の絵が使われている。
     反対側の隣に追いついた怜示はシンプルな黒いTシャツにジーンズ。シャツの中に虹を思わせる色糸で縫いつけた空の絵。口元はいつものようにマスクで隠しつつ、頭にも空の絵を巻いて。
    「同じ、空の下……」
    「……! うん!」
     ふと視線を上げて微笑む七に慧杜も緊張の解けた表情で笑って頷き、そして強く怜示の手を取った。
    「……と」
     一瞬驚いたように目を丸くした怜示も、つられるようにして笑みを返す。
    「そうだね。歩みを止めるのは、お互いまだ早すぎる……」
     笑みを残したまま、三人はそれぞれの方向に向かって退場する。
     進む道は違っても、同じ空の下、きっとどこかで繋がっている……。

     グループでの参加もあれば、気の合ったコンビやカップルでの参加もわりと多い。
     繊細なフリルをふんだんにあしらった、白いミニ丈のワンピース。瞳と同じ、青色のリボンをふわりと揺らしたティアリス。
     対照的に、漆黒のレオタードにミニスカートを合わせた、ちょっぴりスパイシーでセクシーなコスチュームに身を包んだ愛菜。
     イメージするのは、純白の天使と誘惑の小悪魔。すれ違いざまに、二人は背中合わせに立ち止まって手をつないでみせる。
    「天使と悪魔、光と闇、白と黒……」
    「みんな仲良く手が繋げる世界っていいよね!」
     ばっちりとポーズを決めて、二人は仲良く並んで歩き出した。

    「さぁ、参りましょう暦様。セレナの準備は完了ですわ」
    「こちらも準備完了。楽しんで行こう。セレナ」
     セレナは白いブラウスに赤いチェックのスカート。
     暦は黒いブラウスにオレンジのチェックのスカート。
     色違いのペアルック。左右非対称のリボンやレースで着飾った二人が横に並ぶと、ちょうど左右対称に見えるよう、うまく計算されたファッションだ。
     笑顔を浮かべ、観客に手を振ったり投げキッスを飛ばしてみせた後、二人はハイタッチを交わす。
     パチン、と小気味のいい音と一緒に、お互い、笑顔が零れる。

     緊張しているのか、震えて冷たくなっている環の手を、灯夜は強く握りしめながら、ふわりと笑った。
    「大丈夫、二人ならきっとうまくいくよ」
    「うん……!」
     チェックのシャツとショートパンツの環。一方、灯夜は茶色のシャツにチェックのオーバーオール。
     ちょうど、二人がぴったりと寄り添って歩くと、お互いの袖に描かれたハートの欠片がくっついて、ひとつの大きなハートが浮かぶ。
    「やったね、大成功!」
    「ああ、良かった……!」
     にっこりと笑い合った、環と灯夜。つながったハートのように、二人の心もきっとずっとつながっていけますようにと願いを込めて……。

     二人のモチーフは囚人服。
     八重華は黒地に白ボーダーの細身の三つ揃えのスーツ。
     切りっぱなしのジャケットの身頃と袖は、安全ピンでざっくり繋げて。手首には赤い手錠。長く伸びた鎖の先は、仁恵の左手首に繋がっている。
    「切ってもきれない囚われた腐れ縁でやがります……いい加減切りてーんですけどね……?」
     アシンメトリーの効いた縞模様のツナギに、ボーラーハットを斜めに被り、黒いデッキシューズを鳴らして歩く仁恵は小首をかしげながらそんな悪態をつく。
    「全くだ」
     悪態には悪態を。そんな、切れそうでなかなか切れない不思議な縁で、二人は繋がっている。

     ステージの上で、威勢の良い声が響いた。
     黒地に大きめの梅の花模様をあしらった着物。片方の肩を肌蹴て、胸にはきつく晒を巻いて。
     匡子がイメージしているのは、丁半博打の壺振り姉御。その後ろで、妖しげな霧模様の着流し姿の鎮が、観客に睨みをきかせる。さしずめ、姉御を守る用心棒というところだろうか。
    「今日は楽しもうぜ、姉御!」
    「ああ、楽しんでいこうじゃねーの! 結果何ざは後から付いてくるもんだ!」
     どこを取って、つなぐをイメージしているのかはよく分からないが、これはこれで二人とも楽しんでいるようである。

     ステージの中央辺りで立ち止まった楼炎は、ふと後ろを振り返った。
     胸元には銀の十字架のネックレス。スカートの下からパニエがちらりと覗くゴシックロリータファッション。
     すっと伸ばした腕から手品のように赤いリボンを取り出して、それを引く仕草をする楼炎。すると、舞台の裏からリボンに引かれるようにして楼牙が現れた。
     テーマはつなぐ絆。
    「お姉ちゃん、だーい好き♪」
    「こ、こら! 牙! どこを触っているんだ!」
     シルクハットにタキシード、マントをなびかせた楼牙が、鮮やかな怪盗のように楼炎を抱き上げ、ステージの出口へと連れ去っていく。

     グループやペアの合作の発表の後、個人制作のショーが始まる。
    「ありきたりですがストレートに~……この虹の通りに世界が繋がる事を祈ってます~」
     地球に見立てた水色のワンピース。その周りを、人の形になった虹色の布がくるりと囲む衣装に身を包んだ紬が、そっと手を組み、ステージの上で祈りを捧げた。
     一方、紬の姉である夜宵は、束ねた毛糸でざっくりと編んだセーターに、輪切りの要領で切り離し、チェーンで繋げたジーンズという斬新なファッションで登場。
    「いかが♪」
     ウインクで決めポーズ。妹とは対照的になかなか挑発的である。

     テーマは考えたけれど、どうにも自分の性には合わなくて。いっそのこと自分らしさを全開に、そして精一杯次に繋ぐ! と、明日等が身にまとっているのは、ライダースーツのようにぴったりとしたラインの、赤と黒の薄手のドレス。
    「これぐらいレディーを目指すものとしては何てことないわ」
     ちょぴり緊張。悟られないように意地を張って、明日等はステージを颯爽と歩いていく。

     四季の色使いを意識したという、まりのワンピースは、まさにこだわりの作品。
     優しいマロンブラウンの身頃は前中央で雪色の生地に変え、その間をケミカルレースで縫い繋いでいる。
     レースの下からうっすらと浮かぶ、絹裏地の葡萄酒色。
     上品な広がりの裾には、緑の花言葉を持つコンボルブルスの刺繡を。
     頑張ってレース編みした、桜色のショールをふわりと羽織って。
    「私がこの学園で手に入れた大切な日常に想いを込めました」
     控えめにそう言って、まりはステージの上で丁寧にお辞儀をする。

     古着の着物から、ウサギの耳つきケープを作って。
    「そもそも、被服は色々なパーツを繋げて完成させる事がほとんどだから……って事でいいよね?」
     その時点でテーマはクリア! と、単純明快に解釈した蝸牛。歩く度に、着物生地のウサギの耳が弾む。

     精一杯頑張った、というくるみ渾身の力作。テーマは『過去、歴史を、未来にTSUNAGU』。
     鶏の尾のようなバッスルスタイルのドレス。それをベースに、未来をイメージした装飾を施して。
     未来の象徴として、ゴーグルつきのボンネット。ウエストを締めるコルセットの編み上げ部分には美しい金の歯車を。
     過去の象徴は、アンモナイトを模したコイルと本物の化石を組み合わせた大作だ。
    「えへへ、大好きな化石の魅力を皆様に知って貰いたかったのっ」
     ドレスの裾を軽く摘んでみせて、くるみは嬉しそうに微笑んだ。

     たくさんの古着のコート。それぞれのいいところを切り出して、ジッパーや安全ピンでざっくり留める。
    「つぎはぎみたい? ノンノン、これがマリーの提唱する最先端だよ!」
     着ていた人も時代も違うコートをひとつにつなげて。少し悪戯っぽく笑ってみせた茉莉花は、制服の上から羽織ったコートを揺らして、上機嫌にくるりと回る。

    「みなさーん、相良太子です! ヨロシクゥ☆」
     大胆不敵。完璧な女装で挑んだ太一が着ているのは、色とりどりの太めの毛糸で編まれた、セータードレスにニット帽に手袋。
     なんとこれらは全て一本の毛糸で繋がっているのだというから驚きである。しかも、全て太一のお手製だというから更に驚きだ!

     つなぐというテーマから、絆という言葉を連想した、なを。
     絆で思いついたのは家族。家族といえば……と、連想して、なをが今日発表するのは、家をモチーフにした衣装。
     小さな鍵をたくさん集めて繋げたチュニック。ベルト代わりの延長コード。帽子は屋根の瓦の形。足元には愛犬を模した白い犬の靴カバー。
     まさに、家そのものになった、なをは、満足したのか、随分としたり顔。

     近所の商店街の人との繋がりを意識した在処は、ワークギア姿で登場。
     きちんとお店の人に許可をもらって、着ているツナギに在処は商店名をひとつひとつ、丁寧に刺繡した。
    「武蔵坂商店街の提供でお送りしました、っつー感じかね」
     ひとつひとつがちゃんと見えるようにゆっくり回って、在処は冗談っぽく笑ってみせた。

     曲のリズムに乗って歩く真一。ところどころで身軽にくるりと回ってみせれば、虹の掛かった空模様のシャツとデニムのジーンズが鮮やかに映える。
    「これで、良かったのかな?」
     直前までの緊張はどこへやら。にこやかに笑って、真一はステージの上を軽快に歩いていく。

     寝不足気味の体に気合を入れて。煉火はステージに足を踏み入れる。
     大きく広がったプリンセスラインの真紅のドレスが、ふわりと美しく。左胸には、ブーケを模ったコサージュ。縫い付けた何本もの細いリボンを、指や髪に絡めてつながりを表現する。
    「ボクが学園に来て感じているのは「皆との縁の繋がり」の有り難さだ」
     誇らしげに呟いて、煉火は肩に掛けたショールを翻して回ってみせた。

     武蔵坂学園の制服を改造した衣装で挑戦するのは織緒。
     制服のジャケットには世界中の国旗を刺繡して。パンツには電話や糸、人と人を繋げる物のプリントを施して。
    「この機会に巡り合わせてくれた学園と、全ての人に感謝を……」
     この学園には、世界中から人が集まっている。それぞれ違うものはあるけれど、この学園で、絆を得る事が出来た。
     だからこそ、制服を選ばせてもらったのだと、織緒は迷いの無い眼差しでステージの一歩一歩をしっかりと踏み締めた。

     母から譲り受けたという白いサテンのワンピース。虫食いになってしまったところに、薔薇のコサージュを縫い付けて。バランスが取れるように、と同じ色のリボンとビーズでアレンジメント。
    「母が思い出の服を自分に託してくれたように、自分も、その……」
     ぽっと顔を赤らめて、マリアは、気持ち早足でステージを歩いてしまう。
     いつか、自分に女の子が生まれたら、その子にこの服を贈ってあげよう。そうして、繋いでいけたらいいな、とマリアはいつか来るかもしれない未来を描く。

    「ファッションと言ったら俺しか居ないでしょうが!」
     嬉々としてステージに飛び出してきたエトロが着るのは、様々な色や柄を、まるでキュビズムの絵画のように繋ぎ合わせて作った生地から裁断した、お手製カジュアルスーツ。
     色の多さも相まってサイケデリックな印象ではあるものの、細かいディティール部分までこだわって作った甲斐あって、細身にまとまったスーツは上品にさえ見える。
     それを素肌に直接着込んで、エトロはステージを楽しみながら歩いた。

     秋紡ぐ糸、がテーマのそれは、キルト生地で作った、柔らかい印象のジャケットだった。
     ベルのような形に、肩口から裾に掛けての秋色グラデーション。
     制服の上からでも着られるように、と色合いは少しだけ控えめに。かと思えば、弾む足取りにちらりと捲れて見える裏地はとても鮮やかなオレンジ色。
    「ぼ、ボクのデザインセンスがどれくらいなのか見せる時……!」
     睦月は自分を鼓舞するように頷いた。
     この日の為に、連日夜なべまでして頑張ったのだ。今日、この時、この瞬間。睦月にとっては、満を持して、といっても過言ではないだろう。

     ちょっぴりしり込みしつつ、みやびは、おっかなびっくりステージの上を歩いた。
     シルクサテンの裏地がついた、白い総レースのドレス。たくさんの花のモチーフを編み、繋げた、美しいドレス。
    「糸は、白一色ですけれど……」
     このドレスを見てくれた人が、それぞれの色を思い起こしてくれたら、と、みやびはそっと祈りを込める。

    「ふふふっ、きらいじゃないなー、この雰囲気」
     大勢の観客が見守るステージへ、七都は楽しむように飛び込んでいく。
     彼女の作品はAラインのワンピース。おばあちゃんが昔着ていたものに手を加えたものだった。
     派手すぎず地味すぎず、かつ、着れば体のラインを綺麗にみせてくれるそんな自慢の作品に、七都も自然と表情に自信がみなぎる。

     靴下で作った足袋。ゆとりのあるパンツ。スパンコールで飾り付けした陣羽織。そして、桃の刺繡をした白い鉢巻!
     あえて現代の洋服から昔の和服を仕立て直して古着を活用して殊亜が作ったのは、誰もが知る、桃太郎の衣装。犬と猿のぬいぐるみは、はしっかりとリストバンドに、キジは被った帽子の上に縫い付けて。
     ステージの上でポーズを決める殊亜は、さながら現代の桃太郎のようだった。

    「繋ぐがテーマならウチのクラブ! みんなで絆を結ぶ『イトツムギ』、団員募集中じゃよー!」
     鞠の柄をあしらった着物を、ちょっとだけ着崩して、ちゃっかりクラブの宣伝をしながら歩く珠音。

     バベルの鎖をイメージした鎖と、駒繋の花の刺繡をあしらった繊細な着物を着るのは、京香。
    「バベルの鎖は、私達をつなぐ希望で、絆なのかな……」
     そうだといいな、と想いを馳せて。
     自らが反物から丹精込めて縫い上げた逸品。刺繡がよく映えるように、京香は両腕を軽く広げてゆっくりと回ってみせる。

     桜と向日葵。金木犀に寒椿。
     四季をイメージした花の柄の布をプリーツ状に縫い合わせたワンピース。
    「我ながら安直だと思うけど……」
     少しだけ苦笑しながら、暦もステージをゆっくり歩いた。

     藍の着る白いワンピースには、赤いクロスステッチで刺繡された大きなハート。
     その中には白い『LOVE』の文字。それから、他にもいっぱいいっぱい飾りをつけて。
     針で刺してしまった傷だらけの指を隠しながら歩く藍が、皆に伝えたかったのは『命をつなぐ愛』。

     道実は、『愛』とでっかく書かれた夏服に、繋や絆、結といった漢字のラミネートアクセサリーを沢山つけて。
     毬衣は、人と動物つなぐ代表。ペットとしても人気の高いプードルの着ぐるみでステージを楽しく歩く。

    「ん~~っ、ファッションショーって楽しいんだよう!」
     とっておきのピンクのエプロンドレス。頭には大きなリボンもきちんと飾って。
     手首に垂らした長いリボンは、お友達と繋いで結べば、みんな仲良し!
    「これがみあの『TSUNAGU』のかたち!」
     元気いっぱい。深愛は可愛らしくステージを飛び回った。

     子供用の小さな帽子にフリルをあしらい、紳士用のジャケットの袖に振袖をつけて、年配好みの落ち着いたシャツに可愛らしい缶バッジをつける。
     和洋折衷、春夏秋冬、老若男女。
     本当に様々な服をつなぎ合わせたメアリ。
    「あぅ、ちょっとごちゃごちゃし過ぎたかも……」
     完全に繋ぐを意識しすぎてしまった。けどまあ、皆と楽しめればいいや、と笑みを零す。

     檀が着るのは、祖母から譲り受けた着物をアレンジした作品。
     ファーで縁取りをした花車模様の艶やかな訪問着。帯の代わりに、しっかりと骨の入ったビスチェを重ねて。
     高い位置でまとめた長い髪には、かんざしをさして、メイクもちょっぴり女性らしく。
     人から人へ、たすきを「つなぐ」ように、子供へ、孫へ……。そんな感じに、繋がっていければいいな、と、捨てられそうになっていたこの着物を想いながら、檀は薄く微笑を漏らす。

     個性豊かなファッションショーも、そろそろ終盤を迎える頃。白い仮面をつけて、ゆっくりとステージに上がってきた民子の姿に、皆はあっと驚いた。
     白い仮面は、スクリーン代わり。照明と一緒に当てられた、大自然や摩天楼の映像が、かわるがわるに仮面に浮かぶ。
     T字のステージの端まで来た。民子が羽織っていたローブと仮面を脱ぎ捨てた。
     そこに現れたのは、なんと、一本のチューブで形作られたドレスだった。
     頭の上にも、チューブで繋いで作った帽子。おもむろに、民子はその帽子とドレスのチューブを繋いでみせた。
     すると、中を満たしていた透明の液体が、化学反応を起こして真っ赤な色に変わっていく……!
    「あたしが『つなぐ』のは『命』!」
     今この瞬間も、自分の一部! 創作が自分を構成する血肉になるのだ、と叫ぶ民子。
     観客席から、盛大な拍手と歓声が沸き上がった瞬間だった。

    ●グランプリは……?
     ショーの本番も終りを迎えて、いよいよグランプリの発表の時がやってきた。
     『TSUNAGU』というわりと抽象的なものがテーマということもあって、頭を悩ませる生徒も多かったはずだ。
     ストレートにパッチワークのように服をつなげて作る者。つなぐという言葉から連想したものをモチーフにする者。グループで参加して、つながりを感じさせるパフォーマンスで会場を沸かせた者達……個性豊かな繋ぐファッションが発表された本日だが、その中で、一際群を抜く衝撃を走らせたファッションが、確かにあった。
     マイクから流れる司会者の声が、グランプリ受賞者の名を告げる!
    『武蔵坂学園芸術発表会。服飾部門グランプリは……澤村・民子さんです!!!』
     歓喜と拍手が、交じり合った。
     グランプリに選ばれた民子を囲む仲間達。皆、おめでとう! と言葉を交わし、笑顔と拍手で表彰台に上る彼女を送った。

    ●ラストウォーキング!
     ファッションショーが終わった後のお楽しみといえばこれ! みんなで手をつないでステージを歩くラストウォーキング!
    「あーっ、ねみぃな畜生! 皆、お疲れ!!」
     今日のために徹夜続きだった供助が笑顔で叫ぶ。
     ジョウビタキの刺繡を刺したグレーのキャスケット。深い橙のコーデュロイシャツと、黒いチェック柄のシャツをつないだ、供助自作のリメイク作品。グランプリこそ逃したものの、知り合いの先輩である民子がグランプリに選ばれて、供助も何となく鼻が高かった。
     みんなで手をつないで歩くラストウォーキングは、笑いと歓喜に満ちている。
    「先輩! 自分たちも繋がるッスよ!!」
    「おー、あんま物騒なもん出すなよ、お前。普通に手ぇつなげばいいべや、な!」
     香蕗は、いい笑顔で走ってくる太一の手の中にあったレプリカの手錠をチョップで叩き落として、にっと笑ってみせた。
    「えへへっ、いっぱい楽しめたねっ」
     つないだ手をぶんぶんと振り回して、舞夢は、可愛らしいリボンジャケットの上に羽織った白いファーを、ふわっと揺らして笑顔を咲かせた。
     結い上げた黒髪に編みこんだ、細い銀の鎖が、チャリ、チャリ、と心地よく響く。
    「円が色々教えてくれたおかげで無事参加できたよ、ありがとう」
    「お手伝いはさせて貰いましたが、それもここまで作り上げたのは向日さんの頑張りですよ」
    「ううん、それでも、ありがとう。これ、私からの感謝の気持ちだ。受け取ってくれる?」
     郵便屋さんと四季をイメージした衣装の葵咲。桜の帽子に向日葵色の上着。紅葉のフリルのロングスカートに、ブーツは雪の白。そして、真っ赤な郵便カバンから、一通の手紙を出して、影華に手渡す。
    「ふふっ、ありがとうございます」
     にこやかな笑顔を返して、影華はパッチワークでつなげたワンピースを翻した。
     真夜中から夜明け。真昼から黄昏。何気ない毎日の空の色が、ふわりと舞踊る。

     芸術発表会、服飾部門。『TSUNAGU』ファッションショーは、拍手と歓声の中、無事終りを迎えようとしていた……。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月22日
    難度:簡単
    参加:79人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 21/キャラが大事にされていた 6
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