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教室の中から、ズンズンと大音量の重低音が響いてくる。
芸術発表会のしおりを手に、おそるおそる教室の扉を開けた灼滅者達。
「よく来たな……お前達の魂(ソウル)は熱く燃えたぎっているかッ!! その情熱(パッション)を俺に魅せてくれ……ッ!!」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が大音量の音楽の中で1人、物凄い動きで踊り狂っていた。
……ぱたん、と扉を閉める灼滅者たち。
「待て待て待て! ダンスだよな、お前達?!」
教室から飛び出るヤマト。
集まった灼滅者たちを音楽の鳴り響く教室へ、人が良さそうに導いた。
ーー芸術のなんたるかを競う、武蔵坂学園『芸術発表会』。
PTA向けのパンフレットにも大きく紹介され、対外的にも高い評価を得ている、武蔵坂学園の秋を彩る一大イベントだ。
すでに11月初頭から芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くがその準備にあてられ、ホームルームや部活動も芸術発表会向けの特別活動に変更されている。
『芸術発表会』は全8部門。
『創作ダンス』『創作料理』『詩(ポエム)』『人物画』『書道』『器楽』『服飾』『総合芸術』だ。
そして多くの学生は、芸術の秋に青春のすべてを捧げている。
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「お前達……決勝はダンスバトルだぜ! 1人、持ち時間1分だ!」
開口一番、嬉しそうにヤマトが言う。
これだけ聞くと、よくあるストリート系のダンスバトルを思い浮かべるだろう。
だが、ここは武蔵坂学園。
「ダンスのジャンルか? ストリートダンスはもちろん、バレエ、神舞、古典芸能、民族舞踊、ポイ、ファイアーダンス、武術、演舞、殺陣、おもしろ系、衣装&小道具命……その他、なんでもござれだ!」
もちろん学園行事のため、サイキックやESPは禁止されているが。
「優勝条件はただ一つ。いかにお前のダンスに感動するか、だ!」
ジャンルは自由。音は多彩に用意してある。
決勝のダンスバトルに関しては、音楽の持ち込みも自由だ。
個性を惹き立たせる為に、無音、即興音その他を選択するのも一興だろう。
――だが、決勝戦があるということは、予選もあるはず。
集まった灼滅者達がヤマトを見る。
「ああ、予選だが。参加者皆で一斉に踊るぜ。踊っているお前達の間を、審査員が通る。審査員が花を渡したら、別室行きだ」
そこが天国か地獄かは知らないが。
つまり『別室に通された人が合格』なのか『その場に残されたメンバーが合格』なのかは、その瞬間まで分からないらしい。
発表の瞬間まで、極限の緊張感が皆を襲うことだろう。
「芸術発表会は『個人参加』だぜ。だが去年も舞踏会な奴らや、揃いの衣装の奴らを見かけた気もするが……ま、気のせいだな!」
ヤマトがニヤリと笑う。
「優勝狙う奴は、魂(ソウル)&情熱(パッション)魅せてくれ……! 芸術発表会には魔物がいるからな……!」
「ダンス……それは音の解釈身体感情表現……そう、まさにダンスは芸術っ! 美しく格好良く……時に道化に! 自らの思うがままに踊る為、お前達のすべての時間は存在するッ! 日々の鍛錬身体中の全神経全筋肉を操る磨き抜かれた肉体研ぎすまされた感覚……感じた世界観を表現するためのすべて……ッ自分のダンスをより魅力的に演出するための、髪型、衣装、小道具……! 多彩なステップ曲の変調への反応、技術に裏付けられた表現力……ッ」
そして、叫んだ。
「観客席から観てるより、ぜったい踊った方が楽しいぜッッ!!」
あとは好きに踊ってくれ、とヤマト。
「優勝狙いの奴ら!! 審査員も観客もPTAのお偉いさんも、お前達のダンスに感動したい……! 時と場合によっては、ネタにすら感動の涙を流すかもしれない……!」
思う存分、日頃の鍛錬の成果を魅せてくれ……!
ヤマトが力強く拳を握る。
「ダンスは楽しんだ者勝ちだ! 芸術発表会という名の、祭りが始まる……時がきたようだな! お前達の魂(ソウル)を魅せてやれ……ッ!!」
ヤマトはそう言い終わるや、爆音再開。
「お前達……さあ、踊ろうぜ!」
重低音の嵐の中、凄まじいダンスを繰り広げ始めた。
●静かなる炎
ピエロ・道家の眼前には、沢山の種類の白粉と付け鼻が並べられていた。
「大事なのはいかに『ボク』を魅せつけられるか……!」
白粉を塗り直し、付け鼻を付け替える毎に滑稽且つおかしな動きのダンスを繰り返す。
そして……突然ビクンと道家の身体が跳ね上がった。
(「!! これさこの感覚……キた」)
「おお、神よ、ボクは今最高にときめいてるYO♪」
「人に見て楽しんで頂くなんて、初めてですわ……」
メノウの舞は、基本的に祈りを捧げるためのもの。
(「いつもより華やかな音楽が良いかしら。衣装はどうしましょう」)
変わらないのは、素足で踊ることと、薄いストールを自在に使うこと。
(「サイド、ボックス、ピボットターンは、できて当然ね。でも、シンメトリ(左右対称)の動きだけじゃ物足りないわ。リズムも8拍とその間(アンドカウント)だけじゃ単調ね。アームス(腕の動き)含めて、上半身と下半身で別々の動きができるように練習しないと。セクシーさを出すために、HIPHOPの動きも組み込むわよ」)
夢乃の心が熱を帯び始めた頃、阿剛重工製ミサイルハンマーWLV12を手に、唸るお嬢様がいた。
桜花は今まで社交ダンスは習った事があるが、今回のダンスバトルでは相手がいない……。桜花は思った……。
「相手がいなくとも、空手の型のように見えない相手と踊ればよろしくてよ!?」
「殺陣ならできるかなって勢いで参加してみたけど。良く考えたら私刀使うのは得意だけど、殺陣みたいに形式ばったのは苦手なのよね。……どうしようかしら。シャドウボクシングみたいに相手をイメージして戦ってみればいいのかしら、剣の舞ってことで」
1人うなずく翔子。
(「この刃は神を守るべく振るわれる刃。そして神の民たる人を守るべく振るう刃」)
碧は宣言通り殺陣をする。やると言った以上は本気だ。
「うぅぅ~、あぁぁ~、わぁおぉぉ~ん♪」
どこからか、狼の遠吠えのような唸り声が響く。
ミカエラの自作テーマソングだ。せっかくだから、歌も歌うのだ。
「あたい、身体柔らかいんだよー。くねくね、できるよ。あと、ジャンプも得意だよ! ぴょんぴょーん」
ジャズダンスに少しアクロバティックな動きを入れよう、と練習中の未来へ『光画部』の腕章をつけ、記録撮影とツイート中の蝸牛がマイクを向ける。
「テーマは『猫』との事ですが?」
「……好きなんだよ、猫。悪いか……?」
少し赤面する未来。イメージは『月光と猫』。猫の持つ神秘性、しなやか且つ鋭い動き……そんなものを表現したい。
「徳島県民が踊りゆーたら……そななん阿波踊り一択に決まってますっ」
徳島弁混ざりで張り切る阿州佳。
朝乃も胸を躍らせる。
(「多くの人に見える様に動きが広くて、小さな子でも見える様に高く飛んで、遠くからでも見えるように見栄えよく。……よし、決めた!」)
目指す想いは、皆に見て楽しんでもらうこと。
●あふれだす音楽
放課後の空き教室から、JPOPに乗せたステップと花之介の口ずさむ歌が聞こえてくる。
流れる様にできるまで、何百回となく繰り返される花之介の練習。
『誰かを支える、応援する』感情を、音に乗って笑顔で表現する為に。
別教室では千尋がアップテンポのドラムンベースをループさせつつ、振付をメモする。
ダンス系アーティスト動画で研究しつつ、朝は早起きして屋上で練習を繰り返す千尋。
「ゲーム音楽を選ぶ辺り、私らしいと思いますわ」
その律動する熱情をフラメンコとタップに乗せる九十九。
「1分はちょっと短いけど……考えてみよう」
何度も何度も音楽の構成確認をする瑠璃。長い舞を圧縮した挙句、ロックにしてしまったから。
柔軟筋トレ中の香の所へ、記録撮影ツイート中の蝸牛がふらりと現れマイクを向ける。
「ダンスの準備はされない、との事ですが?」
イヤホンを外し、笑う香。
「勿論準備も大事だけど、私はあまり技術重視しないの。踊ってて楽しいのが一番! 柔軟筋トレ体力作りはきちんと。あとは踊ってみて、良さげなステップを組み合わせる感じ。曲も本番のノリで決めるわ」
それは、技術と感性と経験があればこそ言える言葉。
同じ舞踊の才でも、大輔は別方向からアプローチする。
準備は決勝用のみ。ブレイクからバレエまで、様々な要素を織り交ぜ構成した振付。
ひたすら振付と曲の理解、そして練習を納得いくまで繰り返す。
踊りに対して、妥協はしない。
●ひそやかな楽しみ
「ふふ、タネも仕掛けもなんとやらやな」
ほんわか糸目をさらに細めて、シジマが鋼糸と鈴をもつ。
「ここをこうしてこうのこうの……」
「それにしてもどうやったら、もっと楽しくなるかな?」
柚理も一日中考え込んでいた。
「あ、小さめの鈴を数珠みたいにして、腕輪を作ってみようっと! 動くたびに音がするからきっといいよね!」
ダンスにこだわれなかった白兎は衣装にこだわり、ポンチョ製作中。
ダンスのテーマは『楽』。今までと、これからの楽しい事をイメージして踊るつもり。
蝸牛も、チクチクと縫い物に励む。
「和裁って興味あったんですよね~大人っぽい感じのが良いですよね。笠をかぶるのもミステリアスでいいけど、灯篭の方が可愛いから灯篭にしたんです。和紙と竹ひごとLEDと……浴衣と灯篭づくりがんばりますね」
練習と言うより用意ですね、と笑う蝸牛。
「山鹿灯籠まつりとおわら風の盆(女性の方)をたして割ったような感じにしたいですね。え? ダンスと違う? いいえこれは歴史ある盆ダンスをアレンジしたものです。ダンスです。人前に出るのは苦手ですが、自作の浴衣と灯篭は日の目をみさせたいので、頑張ります」
●霜月刻むリズム
放課後の体育館から、ガムの声が聞こえる。
「つま先とかかとをうまく使うんだ! ほら次だ!」
フラメンコの基礎のタップが上手く出来ない迷子に、ガムは一生懸命教えていた。
「足の運び、型の取り方、間合い等……武と舞は通じる点がある」
刃兵衛もクラブの道場で、日頃勤しむ剣術と重ね合わせて剣舞の練習に励む。
「頭に血が上らない、目が回らない訓練が必要かな……」
アシュはブリッジしつつ、逆立ち状態を貫く修行中。
「ふっふっふ、ダンスは私の十八番よ。長年某ダンスなゲームで体を鍛えてきたのは伊達じゃないわ」
「体を思い切り動かせる折角の機会……頑張りましょう」
階段の踊り場で闘志を燃やす、ハンナと湯里。
その階段の手すり下から、突如飛び現れた赤茶のツイン三つ編み。ロコだ。
ロコの長袖シャツには『パルクール愛好会』。
ロコは階段の手すりから体操選手の如く宙に舞うや三回転半、そのまま階段横の壁を蹴って伸身ひねりしつつ忍者の如く、どこかへ疾走していった。
「よーし陽菜ちゃん、一緒に踊ろうーv」
「参加はいいけど……ダンスどうするかだよね。社交ダンスとか踊りたくないしー、あんな堅苦しいの、嫌」
「ヒップホップとかどうかな、思いっきり身体動かしてさ」
「あ、それ面白そうかも……よし、それにしよっか! ボクもおにーちゃんも、体動かすのは大の得意だもんね!」
陽菜が忍にハイテンションな笑顔を向ける。
「目一杯楽しめるように練習練習ー♪」
布都乃はひたすら日頃の素振りを繰り返していた。
「マラソンは準備が足らなかったしな。歌ったり作ったりする部類じゃねぇし、オレ。まあ、唯の剣舞じゃ面白くねぇし、仕込みはするが」
全力で動けりゃ、それでいい。
緋織はひとけの無い場所で練習をしていた。
(「風を感じて自然に身体を動かして……神様に奉納じゃなくて風と同調する感じ」)
速めのテンポで軽やかに、緩急をつけて流れる様に動こう。
紗耶菜も、屋上や校舎裏でこっそりとベリーダンスの練習をしている。
パッと見やる気無さそうで実は張り切ってる潤も、練習は秘密特訓だ。三半規管と1分の時間感覚の鍛錬を繰り返す。
モーリスは自分の服装……シルクハット、立襟ロングマント、燕尾服、白手袋、モノクル、顔半面を覆う仮面、大曲ステッキ……を最大限活かせるであろう、ミュージカルを調べ学びこむ。練習はもちろん誰にも見られない場所でこっそりと。
真琴はサッカー部とは離れた芝生で音楽をかけつつ、フリースタイルフットボールの練習中。左脚をケガしている時に暇つぶしにしていた、リフティングパフォーマンスだ。
悟がなんとなくドリブルを見ていた。
(「ドリブルの足運びってどっかで見た……これや! ドリブル阿波踊りや!」)
愛菜は同じ『舞闘部』の部長で姉の、魅姫と汗を流していた。
「『舞うように闘う』がモットーの舞闘部部長として負けられないわ!」
格闘技と新体操を合わせた戦闘が得意な2人。
愛菜はこん棒(クラブ)の、魅姫はリボンの動きを何度も確認する。
「ダンスバトルといったらブレイクダンスだよね」
月夜はピンクの髪をブンブン振り回して、トーマスフレアをひたすら繰り返す。
(「パッショネイトダンスの、決め技にするんだ!」)
月夜の練習に、ひときわ熱がこもった。
●ふたり
「ねえねえ折角だもの、忍尽さんも参加しよう? ダンスって意外と楽しいよ!」
「主殿……何を隠そう拙者、ダンスは盆踊りしか経験が無いのでござる」
これでは本番にて恥をかく事必死。すでに冷や汗でだらだらの忍尽。
「やったことないの? 僕お家にいた頃ダンス習ってたから少しなら教えてあげられるよ。ほら、こうやって手を取って背に手を回して」
(「……て、手を繋ぐのでござるか? しかも体が近いでござる……!」)
ゆったりした動きは、聞こえてくる音楽に合わない気がするものの余りに楽しげな柚里に言い出す事は出来ず、ただ柚里に合わせて足を動かす忍尽。
バトンダンス練習中の陽向の所に、白兎がぴょこりと顔を出す。
「ひなさん、少し休憩でもどうですか?」
「クッキー? 貰ってもいいのか? ありがとう」
ポンチョは完成が近いです、と白兎。
一緒にクッキーを美味しく食べたら、2人でダンスの見合いっこ。
奏音と武流が、練習場所に集まった。
(「ダンスは誰かに見せるものだしな。俺の動きが誰かの心にどれだけの『波』を起こせるか。その技術を磨くためにも、誰かの意見は参考になるぜ」)
まずは武流が元気でキレのいい、カポエイラ混じりのブレイキングを披露する。本番衣装はパンク混じりのストリート系。
「奏音のダンスは、どんなのだ?」
スタイルの良い躯にアイドルっぽい可愛い衣装をまとう奏音。躍動感溢れるセクシーなチアダンスを踊り始めた。
「あっ」
と転ぶくるみ。
「大丈夫かい、くるみ」
「もう、踊れないよ、マハルさん」
「そんなに言わないで、くるみ。あの昼なお輝く星を見てごらん。あれがアイドルの星だよ。アイドルになるって誓ったろう」
「うん、ボクがんばるよ。このダンス大会で優勝して、アイドルになるんだ」
「その意気だよ、くるみ」
「うん、マハルさん。いや、コーチ!」
「くるみ……」
「コーチ……」
「くるみ……」
柚里は忍尽と組んだまま、ゆったりと音に身を任せていた。
「僕が習っていたのは、所謂社交ダンス。友達でもない人と息が触れあうほど近づいて踊ることは別に嫌いとは言わなかったけど……なんだろう、大好きなお友達と踏むステップは全然違う。慣れと不慣れでズレるはずのステップが少しずつ近づく。リズムが重なる。……まるでふたりの鼓動が重なるみたいで。自然と、自然と笑みが零れて」
「判ったでござる。ダンスとはこの音に合わせるのでござるな」
(「不思議と高鳴る、この鼓動の音にこの後一人で上手く踊れるかは判らないでござるが間違いなく、今拙者はダンスを楽しんでいる……そう言えるでござるよ、主殿」)
「創作ダンスだもの、何かもっと手を加えようか? 僕がミルク色のドレスを着てみるとかね。あはは、冗談だよぅ」
●賑やかな放課後
放課後の学園内に、人だかりが出来ていた。
「ダンスするから見に来てね♪」
明るくアップテンポな曲でヒップホップを踊る璃沙。
そんな璃沙を見つめる羽衣、に気づく璃沙。
「一緒に踊ろうっ、楽しいね♪」
羽衣の手をとる璃沙。みるみる喜びであふれる羽衣。
(「初めての学校、初めての芸術祭……踊りの練習なんてしたことないけど、いろんな人の踊りを見て、それをいっぱいいっぱい取り込むの! 水をがぶがぶ飲むみたいに! そして本番への『楽しい』をいっぱいためるの!」)
「お、嬢ちゃんたち。楽しそうだな?」
俺もまぜて、と高明がノリとパンチのきいたロックをかける。
跳んだり回ったり、力強くアクロバティックなブレイクダンス。
「ソイヤッ! ソイヤッ!」
ドゥエリスト・彩香の声がする。たまに武器を振る動作をしながら小ジャンプ、急降下キックをひたすら繰り返す。
気がつけば守が、近くでボールジャグリングをしている。
ダンスというものをほとんど知らない哮が、じぃ~っと食入るようにダンサー達を眺めていた。
「なあ、ダンスって、どんなのだ?」
思い切って、声をかけた。
●高まる熱情
ーー予選まで、あと数日。
「どうせやるならいけるトコまで、だ」
20インチ自転車を駆る風。走り込みや筋トレは十分してきた。
(「元々バランス感覚には自信あんだ、それを更に磨きあげりゃイイ。後はロック系の音楽に合わせて技を組んで練習あるのみ!」)
翔子は1人、シャドウ殺陣を繰り広げていた。
(「眼前に自分と同じぐらいの強さをイメージして……。切りかかってきたら受けずに最小限の動きで回避……そして反撃。何も考えず。ただ眼前の敵との戦いに興じるのみ。誰も私達を止める事はできない。私達を止められるのは審査員だけ!」)
アインスも1人、円環法と古式覇技という2種の武術の型を、おさらいする様にこなしていた。円環法の自然体の型、古式覇技の力強さの中にある優美さを再確認する。
体育館では、相変わらずガムの叱咤激励の声が響く。
フラメンコ初心者だった迷子も、最近では少しずつ踊れるようになってきた。
「えっと……こうでしょうか……」
「そうだ、いいぞ迷子!」
このところは、リズムを合わせ一緒にタップの練習が出来るまでになった。
(「普段は何十人も入り乱れては踊らない。一斉に踊って合否が決まるって聞いた時足が竦んだ……でも、クラブの皆と話して吹っ切れたわ。ワタシはワタシらしく、ね」)
歌舞伎の女形として修行中の叡。
「いつも練習してる『京鹿子娘道成寺』、ワタシの原点」
ライラもアラビアンダンスの総仕上げに入っていた。
腰や腕の振り、ヴェールの振り方、頭のヴェールの魅せ方など綿密に確認する。
(「……わたしは表情は少ない。けど踊りは内の情熱を表現できる」)
予選会が、いよいよ始まる。
●ダンスバトル・ブレイキング!
ノリのいい重低音が、爆音で流れ始めた。
満場の観客の大歓声の中、選手達がステップを踏み、手を振りながら入場してくる。
そう、予選はすでに始まった。
「さぁ! 楽しい楽しい、Dancing Timeだよっ☆」
観客に向かって、手拍子を求める空。
地響きのような歓声と手拍子の中、空の大胆かつ可憐なブレイクダンスが始まった。
「やっぱ踊るなら、ド真ん中でしょ!」
月夜が会場中央でトーマスフレアをし始める。
触発されるようにブレイクダンサー達が竜巻の如くパワームーブを繰り出し始めた。
高明の、周囲を巻き込む様なブレイクダンス。アクション映画の如き格闘技じみた動きから飛んだり跳ねたり、アクロバティックで力強い。
高明の体が温まれば、周りのダンサーをノリ良くおどけて挑発し始める。相手に合わし合わされて、その流れの中新しいムーブが、ダンスが出来ていく。
潤やロコがブレイク混じりのカポエイラでバトルし始めれば、アシュが逆立ちキープでそれに加わる。
可愛い奏音のチアダンスに応援された、武流がワイルドにアクティブにバトルに加わり、剣舞をしていた布都乃も気がつけばブレイクバトルに混じっている。
ダンサブルに斬り上げ、踏み込み、回転抜刀からの布都乃ブレイキング!
「楽しんだモン勝ちってな!」
布都乃の木刀と笑顔が眩しい。
●武踊民族
織緒の予選は一刀流。
上段、中段、下段。戦場にいるが如く、力強く無駄のない織緒。
「生き残るには理性で、されどそこに渾身の覇気を乗せて刃を振るうべし!」
刃兵衛は袴に模造刀のみで予選に臨む。
(「精神を統一し、自分の世界に入り込み、如何に己の間合いで踊れるかーー」)
時には静かに、時には激しく、技の切れを活かすように舞う刃兵衛。
アインスは円環法で自然体から入る。徐々に古式覇技で激しさを増して行く。
翔子も爆音にのせたシャドウ殺陣に夢中。
その近くでは櫂が、ウサギの着ぐるみで居合い殺陣アクション。
「殺戮経路を見る事が出来る私たちに、本当は剣術なんて不要かもしれない。でも、私はそうは思わない」
舞うように美しい殺陣をする碧。
「ヤットサー、ヤットヤット」
爆音の中、阿波踊りの元気な声が聞こえる。
晒に股引、法被に手拭鉢巻、足袋……『男踊り』の格好をした少女、阿州佳が元気よく頑張っている。
(「『女踊り』の売りは艶っぽく、優雅にしなやかに……ウチみたいなちんちくりんやと中々……」)
「でも女の子の男踊りは可愛く健康的な色気が勝負!」
そんな阿州佳の目に飛び込んできたのは……手作り灯籠を頭上に乗せ、歴史ある盆ダンスをアレンジして踊っている蝸牛の姿!
おまけに法被姿に提灯を持った、阿波踊り姿の悟!
ご当地ヒーローだけに、ご当地系ダンスに大興奮の阿州佳。
「踊る阿呆に見る阿呆……同じ阿呆なら踊って楽しみましょうっ」
同じくテンション青天井なのは、ヒョウ柄パーカーに黒いミニスカートの千尋。
動きのキレとダイナミックさを両立させる。
「あー、ヤベ、なんかすごい。どんどん気分がハイになってくんだけど!」
普段アンニュイでローテンションな千尋に自然な笑顔が浮かぶ。
「ん? 今横を審査員が通ったような……。まあ、楽しいからどうでもいいや!」
その近くで紗耶菜がベリーダンスを踊っていた。あまり人前で踊った事がないのでドキドキ緊張しながら踊っている。
ライラは蟲惑的で美しいアラビアンダンス。動きを派手めに、人を魅了するように。
マハルが袖口から花びらを撒き散らしながら踊る。
「くるみも、がんばってるね。うん、僕も……」
目の端でくるみを見守るマハル。くるみは練習したダンスを出し惜しみせず全力で披露していた。
●クラウン・タップ
「さぁ、今最高のボクを見て! 焼き付けて!」
ストリートダンスを全力で踊るピエロ・道家。薔薇をバラ撒きながら満面の笑みとすんごいスピードでヘッドスピン!!
近くには髪型がドリルで貴族っぽい桜花。社交用ドレスでハンマーを振り回しながら1人ワルツを踊っている。周囲が危険きわまりない。
ハンマーに混じり、守のジャグリングボールが次々と宙に舞う。
6個のボールをリフティングさながら手足を使って宙に飛ばしては投げ、左右にスピンするように動く守。日銭を稼いできたボールジャグリングだ。
真琴はボールを地面に触れさせない。フリースタイルフットボール。ノリの良い音楽に合わせて頭、肩、首の後ろ、たまに右脚ちょっとだけ。
ハンマー、ボールに混じって新体操のこん棒とリボンも飛び交っている。
姉妹でお揃いのハイレグレオタード。姉・魅姫が清純な白系、妹・愛菜がセクシーな黒系で対比を描く。華麗に、荒々しく。しなやかに、苛烈に。舞闘に手具のパスワークが混ざる。
ガムと迷子が視線を合わせる。
緊張するけど、あの練習の日々を無駄にしない為に頑張る迷子。体全体でリズムに乗りながらタップを踏む迷子の耳に、ガムのフィンガースナップの合図が飛び込んで来た。
3、2、1! 瞬間、迷子とガムはリズムを合わせてつま先やかかとで床を踏み鳴らし揃ってフラメンコタップ。
「ここまで来たら後は精一杯練習した自分を信じるのみですわ」
九十九の衣装はタップが良く見える膝丈のワンピースドレス。タップダンス用に改造したヒールの無いパンプス。衣装はすべてワインレッドで色統一。他の参加者は気にせず、楽しく自分のダンスに集中する。
●jazzy
花之介は黄橙色の服で臨む。花の事はわざと考えない。
(「誰かの心に届くように。オレのダンスで、励ませるように」)
勢いをつけて、笑顔で楽しく踊る花之介。
未来のテーマは『月光と猫』。スリットの入ったタイトな青いドレスに猫耳猫尻尾。
(「まさかまたこれをつけることになるとは、な……」)
しなやかでアクロバティックなジャズダンス。
ファントム・モーリスは、衣装と小道具で魅せるミュージカル・ジャズ。
樹皮模様が特徴的なステッキを使ったダンスと、金色の縁取りと裏地の暗赤色が映える黒マントをはためかせての、迫力のモーリス連続回転。
小悪魔チックなシスター・エミーリエ。そのダンスは妖艶で激しく、格好良い。
シスターらしさは一切捨てた。胸元を強調する大胆なドレス、審査員へ誘うようなウインクでアピール。
「リズムに合わせて踊るのってこんなに楽しいのね。まるで音の世界に溺れるみたい。……今の私、魅力的かしら?」
湯里の神楽舞ベースの踊りはゆったりとした動きの中にも力強く瞬間的な速い動きで日舞を彷彿とさせる。
ハンナを見れば、某音楽ゲーム動画を参考に鍛錬したストリートダンスを全身使ってアピール中。
そんなハンナと湯里の近くをドゥエリスト彩香が、小ジャンプ急降下キックのみで賑やかに通り過ぎた。
●祈りと平和
「この芸術発表会の成功を祈る神楽舞を舞いましょう。共に踊る方達に神の祝福と加護を」
陽和は着慣れている巫女服に千早に紅の袴、神楽鈴、榊を持つ。
陽和の舞は、皆の力になるように神に祈り、捧げる舞。
シジマも自作の鈴の腕輪が、神楽ベースのダンスに合わせて両手でシャンシャン鳴る。
いかにして無駄な動きを省き、綺麗に動けるか。
柚理も自作の鈴の腕輪で、新たなリズムを作りだす。ストリートダンスに武術の動きと手拍子。なにより自分が楽しむことが大切!
ヒップホップの動きに乗せ、大きく身体を使って踊る忍。
「えへへ、やっぱりこういうのは楽しいよね!」
隣を見れば思いっきり身体を使った、陽菜の躍動感あふれるハイテンション・ダンス。
白兎は陽向に贈られた髪飾りをつけ、飛んだり跳ねたり回ったり。
白兎の手作りポンチョに似合う、ふわふわのボンボン髪飾り。
音に合わせポンチョをひらりひらり靡かせる白兎、バトンダンスで楽しむ陽向。
その横を通り過ぎるミカエラ。頭を振りながら、会場いっぱい跳ね回る。
パッショネイトダンス・アレンジのひまわりの踊り。
ダンスミュージックに乗せて、ミカエラ作『おおかみのうた』が遠吠えの如く響き渡る。
●高ぶる鼓動
朝乃はドレスもリボンも真っ赤。腰には炎のように靡く赤く長い帯。
ローラースケートでフィギュアスケートのように踊る。
楽しく笑顔でジャンプ、元気よく両手を広げてスピン。炎の様に舞う朝乃。
羽衣も笑顔が止まらない。羽衣の踊りは理屈じゃない。
心の中のひらひらや大好きや楽しいが、花びらを撒くみたいな踊りとなる。
「ああ、ここにいる人たちみんなと、手をとって躍れたらいいのにね!」
思わず叫ぶ羽衣の言葉に、朋佳の心も燃え上がる。
「ボクも感じる! 会場中のビート!」
徐々に激しくなる朋佳の神楽舞。自由に、でも真剣に。
(「今までずっと、試してみたかったんだ! 1人でなく皆と共に舞うんだよっ!」)
幼い頃からずっと練習してきた朋佳の神楽舞。
神楽舞は神との対話だから、型通りにきちっと踊ることを大事にしてきた朋佳。だけど、今日だけは周りの皆の舞も感じながら、自由に踊りたい。
「ダンスはみんな笑顔になるね! リサも笑顔っ♪」
会場を満たす四つ打ちに乗って、軽く明るく跳ねるように踊る璃沙のハウスダンス。
いつもの制服に璃沙のポニーテールと笑顔が弾ける。
「みんなで楽しく踊れるのがいいよね♪ 近くの人も遠くの人も、みんなで一緒に笑顔で踊るの!」
「ほんとだ! 観客席から観てるより、ぜったい踊った方が楽しい、な!」
体を使って、犬っぽい頭と尻尾を振って、元気いっぱい踊る哮。
超ド田舎育ちで音楽もダンスも知らなかった哮。でも今はとにかく楽しい!
「ああ、ダンスは楽しいよなっ♪」
ヒップホップからブレイクダンスに雪崩れ込む、小動物系ストリートダンサー・柚來。
ここまできたら、もはや審査は関係ない。伸び伸び楽しく踊る柚來。
ブレイクダンスの激しい回旋からフリーズ、バック宙してポーズを決めた。
ーー音楽が止まる。
場内に、アナウンスが響く。
素晴らしいダンスをありがとうございます!
花をもらった選手の皆様は、別室へどうぞ!
さあ、いよいよ決勝戦です!
決勝戦は1人1分、特設ステージでのパフォーマンスとなります。
別室に通された選手が決勝進出か……それとも、その場に残された選手が決勝進出か……!
いよいよ運命の扉が開かれます!
●決勝、開幕!
「今まさに会場では、ここまで勝ち上がった精鋭たちの熱いダンスが始まろうとしております。解説は田中先生、実況は中学3年来栖がお送りいたします!」
実況席を勝手に設け、解説席には通りすがりの先生を座らせた武蔵野ご当地ヒーロー・清和。
地響きの如き拍手の後、場内が一瞬、静まり返る。
「っしゃ! テンションあげていくで!」
舞台袖の、東当悟。
鉢巻を鼻前で結い、法被姿で片手に提灯。
阿波踊りのステップで『必勝』と描かれた蹴鞠をドリブルしつつ華麗に登場。
威勢の良い男踊り、時折色っぽい女踊りで波をつける。
『必勝』蹴鞠を膝、肩、からのヘディングで高く打ち上げ高速回転のち足で止め……輝く汗を飛び散らせ、天高く蹴鞠を蹴り上げる悟。
「いっけぇ! ハートを打ちぬけマイボール! や」
審査員席へと思いっきりシュートをぶち込んだ。
白いウェディングドレス風ミニドレスに、乙女心をのせる高坂由良。
「素敵な夢、魅せてさしあげますわっ」
テンポ早めのボサノバ。
バレエで鍛えた柔軟性と天性の妄想力。
燃えるような恋はまだしたことがないけれど。
恋への憧れ、いつか出逢う王子様への想いを乗せて。
純粋さ故の一途な熱情を表現する。
(「……見に来てくれていますかしら……?」)
思わず頭に浮かんだ人を、視線で探してしまう由良。
ヒップホップまじりのクラブハウスジャズ。
ラインの出る黒の衣装に傘とシルクハット。
ナイトクラブ風スタイルの葵璃夢乃。
本能のまま官能的に全身全霊で踊る夢乃。
審査員にウインクひとつ。
「これが……本場のクラブジャズよ!!」
●静かなる情熱
御幸大輔。
呼吸を整えポーズを取り、舞台中央で『時』を待つ。
ーーバイオリンの旋律。
顔を上げる大輔。
続く打楽器。アコーディオンの切なくも情熱的なメロディ。
類稀なる感性と天性の表現力を……己のすべてをこめて踊る。
細かいリズムの一つ一つで動く。
力強く複雑なステップを踏む。
(「ああ、そうだ……俺にはこれしかない。捨てることなんてできやしない。俺はこんなにも音楽を愛してる……!」)
言葉はいらない。魂が叫ぶ。心が歌う。
ーーさあその眼に刻め。
「これが、俺の音楽だ!」
ヴェールを明かりで映えさせるように舞う、ライラ・ドットハック。
アラビアンナイトにのせて踊る、アラビアンダンス。
内に宿る熱い想いを、舞にこめて。
褐色の肌に映えるアラビアンダンサーの衣装。
情熱的に華麗に美しく。そして中東の熱さを魅せるよう。
楽しさから滅多に見せない微笑みが、ライラに浮かぶ。
和太鼓の音。盾神織緒の振るうは二刀流の剣舞。
力強さではなく、流れる様な連撃、技と技の素早い繋ぎ、流麗さ。
我流ならではの美しさが目を奪う。
(「何も考えるな、ここが最後の戦場――全てを唯この舞に……」)
雅楽が流れる。すり足で入ってくる袴姿の刀狩刃兵衛。
大舞台での高揚感に胸が躍る。だが静かに、冷静に。
最初は刀のみの剣舞。
対するのは参加者の誰でも無く、自分自身そのものだ。
やがてもう片手に扇を開く。
感覚を研ぎ澄ませ、曲に合わせて流れるように舞いながら己の道を斬り拓く。
ふわり、白のロマンチックチュチュが舞う。
メノウ・エフェメローズ。
素足で踊るバレエにも似た。
踊りながら唄を歌う。詞のない祈りの唄。
手や足には、丸い金属片が沢山付いた輪。
手を振り上げ、トンと足を広げ飛べば、シャラン、と音を立てる。
薄いストールを自在に使えば、夢幻の高貴へと誘われる。
●回旋回旋回旋!
赤髪モヒカンの赤舌潤。
カポエイラのジンガステップからのエントリー。
まずは素早いフットワークとリズムで演じ、両手をポケットに入れた。
そこから勢いをつけてブレイクダンス。
背中と脚だけで地面を回転するパワームーブ。
そこから頭を支点に回転する大技に雪崩れ込む。
そして片手倒立のフリーズでフィニッシュ!
ご当地ゆるキャラ、小さなきぐるみ。
「いちげき! ひっさーつ!」
舞台に上がるやいなや、きぐるみをキャストオフする赤星緋色。
おもむろに始まるブレイクダンス。
『ご当地ヒーローがご当地のために戦う』ストーリー。
小1女子の体重の軽さを活かした、連続パワームーブ・コンビネーション!
ご当地技的な動きを入れつつ、ご当地愛を余す所なく見せつけた。
黒パーカーのフードを被り、黒ブーツ着用アシュ・ウィズダムボール。
クラシック音楽と共に逆立ち入場。
まずは舞台を広く使い、逆立ちしたまま遠心力でカポエイラの大きな蹴り技。
カポエイラからフードを外してブレイキングへ。
縦横無尽に動き回る、影の様なアクロバティック。
ウインドミル、金の三つ編みと脚は地面にふれさせない。
徐々にアップテンポになるクラシック。
徐々に速度を上げ激しく高速回転するウインドミル。
ラストでフリーズ。
アシュは逆立ちしたまま、胴の代わりに脚を曲げて『礼』。
「ま、楽しめりゃそれが一番最高だぜ」
九条風が20インチ自転車に乗って現れる。
(「誰よりも熱く激しく派手に!」)
ダンスはロックにのせた曲芸、フラットランドだ。
まずは自転車の前輪を持ち上げ、後輪のみで回るダイナミックなメガスピン。
そこから自転車をバウンドさせジャンプ、前輪のみで回転するマックサークル。
技の合間に自転車上での逆立ちとか織り込んで。
ラストまで足を付けずに踊り切る。
●空
「踊りは今の俺の青春、俺の生き甲斐、俺の宿命!」
民族音楽とプログレの融合した、心躍る歌が響く。
異国の鳥神の衣装をまとった、火鶴朧。
勇猛華美にして軽やかに心も舞う。
(「これを纏った瞬間から、ここは狭苦しい校舎じゃない。彼方まで風吹き抜ける神話の荒野!」)
会場の空気が、一瞬で塗り替えられた。
ケチャの如き熱気で包まれる。
雄々しく翼広げ、荒々しく大地を踏み鳴らすステップ。
時折神楽の如く鈴を鳴らし火を煌めかす。
それは神語りにしてエンターテイメント。
高らかなコーラス部分は朧自身の声で奏でる。
今俺の上に広がる空、宇宙までも心奮わせ届けよと。
聴け! このリズムは鼓動。
聴け! 神に親しんだ音はこんなにも綺麗。
俺の踊りが誰かに通じて、楽しんでくれたら嬉しいのよ。
無音、そして笛の音。
扇を手に静かに柔らかく現れた、巫女装束に領巾をまとう夕永緋織。
笛の音はやみ、聞こえるのはただ鈴の音。
腕と足に鈴を括り付け、その動きで音を出す。
大きく小さく舞う緋織の巫女舞。
鈴音に耳を澄ませ、風と同調する緋織。
天女の羽衣の如き領巾は風の流れを感じ表し、扇は回しまた上に投げる。
髪に桜飾りをつけた鏡瑠璃。
薄桜色の千早と神楽舞用の巫子服。ただ違うのはその音楽。
「精一杯、やらせて頂きます!」
瑠璃好みのロックアレンジ。
太鼓がドラムになった挙句、笛の裏でギター音の流れるハイスピードな神楽曲。
最初は静かにやがてシャープに、クライマックスに向けて徐々に激しく。
瑠璃の両手には花びらに見立てた金地の桜扇。
空に桜吹雪が踊るよう。優美に、しかし激しく舞う。
そして最後は散る花の如く、静かに、しずかに。
歌舞伎の、拍子木の音。
「聞いたか聞いたか。聞いたぞ聞いたぞ」
聞いたか坊主の声の後、だらりの帯におひきずりの振袖。
するすると入って来たのは西明叡、白拍子花子。
短くまとめた『京鹿子娘道成寺』。
引き抜きが出来ないのは残念だけど、やっぱり楽しい。
ずっと踊っていたいから、今の道を選んだ。
(「ああ、ワタシは本当に女形として大成したいのだわ」)
緩急をつけながら、徐々に、焦がれる様に激しく。
花子の抑えていた恋情を、段々と解き放つ様。
ワタシの――俺の歌舞伎への情熱に似ている。
(「俺はずっと焦がれていたんだ。皆を魅了する程の情熱を解き放てる、この世界に!」)
●フィナーレ
バトンを持ち、武蔵坂学園制服で現れた双麻陽向。
バトンに仕掛けのあるバトンダンス。
ーーテーマは『輝』。目を閉じて振り返る武蔵坂学園の思い出ですーー
ナレーションの後、柔和に笑う陽向。
音楽にのって、くるりと回す大きめのバトン。
マジックでバトンから出る入学の日の赤い花。
夏の日の線香花火のような弾ける七色の光。
初めてダークネスと対決した熱闘。
白熱したマラソン大会。
バトンを回せば、ダイナミックに多種多様に光輝く思い出の数々。
最後の曲は『武蔵坂学園校歌』スカアレンジ。
骸骨の仮面を被った天方矜人。
衣装はいつものヒーロースーツ、手には棍。
「さあ皆、一緒にノっていこうぜ!」
軽くタップダンスにボイパを乗せる。
体全体を使って円の動きで棍を回す。
音楽の合間にビシッとキメポーズ!
「燃えるぜ!」
最後は棍を高く投げ上げ、体を何回転も踊らせた後、棍をキャッチして拳を突き上げフィニッシュ!
「ふぃー、やりきったぜ……!」
そして、ついに『創作ダンス部門』優秀者の発表の瞬間がきた。
「まずは、参加して下さった選手の皆様に、心からの感謝と敬愛を捧げたいと思います!」
「では、優秀者の発表です」
優勝は、火鶴朧さんです!
特別賞は、西明叡さんです!
鳴り響くファンファーレ、舞い踊るフラワーシャワー。
そして様々なアレンジでループし始める、武蔵坂学園校歌。
最後は決勝戦進出者全員で、満場の観客のカーテンコールに応える。
そして観客審査員まきこんでの、華やかなダンスパーティが始まった。
作者:atis |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年11月22日
難度:簡単
参加:68人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 19/キャラが大事にされていた 3
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