ファイト・クラブ

    作者:天木一

     何年も前から使われなくなった、人気の無い夜の廃工場。だが今日はそこに大勢の若者が集まっていた。
     ライトの照らされた広場に人だかりが出来ている。その中央は開け、殴りあう二人の若者を皆が歓声を上げながら観戦していた。
    「ぶちのめせ!」
    「やっちまえー!」
     周りの囃し立てる声に押されるように、殴り合いは激しくなる。
     少年の一人は空手の動き。ぐっと体重を落とし、一歩踏み出すように突きを放つ。もう一人はボクシング。フットワークも軽く、移動をして回避からの手数で戦っていた。
     空手使いの重い一撃が顔面に放たれる。ボクシング使いはそれを紙一重で避けるとカウンターの一撃。その拳は顎を捉え、空手使いはそのまま前のめりに倒れた。
    「うおおおおおお! やった!」
    「チャンピオンの防衛だー!」
     興奮した観客達が叫ぶ。勝利した少年が周りの声に応えるように腕を上げた。
    「他に挑戦者はいるか!」
     その声に俺が俺がと応える声。だが少年が指名するより先に一人の男がその前に立った。
    「俺がやろう」
     その男は三十代前半だろうか、身長は少年より少し高い。かなり鍛えてあるのだろう、服の上からも盛り上がる筋肉が分かった。
    「いいぜ、おっさん。来いよ!」
     中央に立った男が構えたのは、奇しくも先の空手使いの少年と同じだった。それを見て自信満々に応える少年。その不敵な笑みが一瞬にして潰れた。そう、潰れていたのだ。顔面に食い込んだのは拳。大きく硬く、岩のような拳だった。拉げた顔は見るも無残に原型を留めず。少年は痛みを感じる間もなく絶命した。
    「てめぇなにしやがる!」
     逆上した少年の一人が男に食って掛かる。男が軽く拳を放つ。だが少年達から見ればそれは弾丸だった。近づいた少年は顔を180度回転させて死んだ。
    「……ひ、ひとごろしーーー!」
     一瞬の静寂の後、観客から悲鳴。
    「弱いな、そら次は誰だ……ここはファイトクラブなのだろう。掛かって来い」
     動けぬ少年達に向かい男は歩み寄り、一撃を放つ。すぐさま先の少年と同じ運命を辿る。
     阿鼻叫喚、少年達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。だが出入り口の金属の扉が歪み塞がれていた。そして、もう一つの扉は男の後ろにあった。
    「次は誰だ……来ないならこちらから行くぞ」
    「く、くそがっ!」
     数人の少年が男を回り込んで後ろの扉へ駆ける。
    「どこに行く気だ?」
     男が一瞬にしてその少年達に迫る。一人は頭を潰され、一人は首を折られ、一人は内臓を破裂させて死んだ。
    「さあ、本当の戦いを教えてやろう」
     歩いてくる男を少年達は絶望の眼差しで見る。――地獄が始った。
     
    「ファイト・クラブと呼ばれる少年達が喧嘩をする集まりがあるそうです」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が灼滅者達を前に説明する。
    「素手の殴り合いで、誰が強いかを競うんだそうです」
     姫子は何故そんな事をするのか理解できないというように、首を傾げながらも説明を続ける。
    「どこかで噂を聞きつけたのでしょう。一人のアンブレイカブルが興味を持ってしまいます」
     結果、集まった若者は殆どが殺されてしまう。
    「このままでは大惨事になってしまいます。皆さんの力を貸してください」
     場所は廃工場。夜になれば十代から二十代くらいの若者が集まってくる。そこに紛れ込むのは簡単だろう。
    「敵の名前は『加治・寛』。空手の達人で近接戦闘に優れているようです」
     接近する者は、その強力な攻撃に気をつける必要があるだろう。戦い慣れている敵だ、灼滅するには相応の戦術も必要かもしれない。
    「工場の出入り口は二つ、片方は皆が試合に夢中になっている間に加治が壊してしまうようです」
     何とか若者達が逃げる道を確保しなければ、戦いの巻き添えで犠牲者が出るかもしれない。
    「ケンカするのは良くない事だと思います。どうかこれを機に、危ない事なのだと教えてあげてください」
     その為にはまず若者達を助けねばならない。姫子は一礼して灼滅者にお願いした。


    参加者
    雲母・夢美(夢幻の錬金術師・d00062)
    稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)
    シャルロット・メディナ(Mort d Silence・d00758)
    八月一日・理緒(ご町内最強の白猫王・d01944)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    アリエス・アッティンガー(孤軍奮闘娘・d03398)
    桃地・羅生丸(暴獣・d05045)
    八王子・魅那斗(グラディエーター・d08207)

    ■リプレイ

    ●クラブ
     冬も間近の肌寒い夜だというのに、その廃工場内は熱い活気に満ちていた。
     若者達が集まり歓声を上げる。その輪の中央には二人の少年が対峙していた。持ち込んだ照明の明かりがスポットライトのように照らす。
     殴り殴られ、倒れては起き上がり、血と暴力に酔いしれる。ただ強い奴が偉いというシンプルな世界で、無骨な喧嘩が繰り広げられている。
    「へえ、こいつは面白れえ。俺も参加したくなるな」
    「ゆめみーも参加してみたいです! 」
     観客に混じり、少年達の戦いを眺める桃地・羅生丸(暴獣・d05045)が、愉快そうにサングラスの下の目を細める。
     その隣に立つ雲母・夢美(夢幻の錬金術師・d00062)も同意して、腕を上げて戦う少年達に声援を送る。白衣から覗く露出の多い服装が周りの硬派な少年達には目の毒だった。
    「楽しそうですねー、わくわくしますー」
     観客の隙間からときおり白猫の耳が覗く、それは耳のついた帽子。八月一日・理緒(ご町内最強の白猫王・d01944)が小さな身体をぴょこんぴょこんと、ジャンプしながら試合を見ていた。
    「まるで格ゲーみたいだね! あっそこで強パンチだよ!」
     観戦に夢中になっているアリエス・アッティンガー(孤軍奮闘娘・d03398)は、声援を送りながら自分も拳を振り回している。
    「ほら、二人とも危ないよ、こっちに来なさい」
     周りの観客が殴り倒されるのを心配した明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)が、理緒とアリエスを自分の近くへ移動させる。白衣姿の大人っぽい姿は、周りから好奇の目で見られていたが、本人は気にする事無く試合を見ていた。
    「まあ、はしゃぎたくなる気持ちも分かるかな」
     八王子・魅那斗(グラディエーター・d08207)はそう言いながら周囲に視線をやる。誰も彼もが子供のように歓声を上げて、まるでお祭りのようだ。
    『本日のメインイベントォ! チャンピオーーーン! アキラの登場だぁ!』
     前座の試合が終わり、進行役の男が咆える。細身の少年が中央に立つ、痩せているのではなく、身体を良く絞り込んだボクサータイプの体型だった。
     一斉に観客のボリュームが振り切れる。少年は腕を挙げ、皆の歓声に応える。チャンピオンらしい貫禄のある立ち姿だった。
    「……動き始めた、そろそろね」
     シャルロット・メディナ(Mort d Silence・d00758)は最も歓声の上がった瞬間、観客の中からオーラが放たれたのを見た。それは出入り口の一つを打ち抜き、金属の扉は歪み、開かなくなった。
     敵の場所を確認しようとオーラの発生位置を探るが、既に観客に紛れて分からなくなっていた。
     盛大な歓声が上がる。視線を中央に戻すと、チャンピオンのカウンターの一撃が挑戦者をノックアウトしていた。司会者がチャンピオンの腕を上げ、勝利のコールが鳴り響く。
     
    ●チャンピオン
    「次は私が挑戦するわ!」
     ピンクのスウェットを着た稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)が中央に進み出る。
    「女か、戦えるのか?」
     チャンピオンの問いに、晴香はスウェットを脱ぎ捨てる。中からリングコスチュームが現われた。
    「おおおおお! 女子プロだ!」
    「スゲー! 気合入った女だぜ!」
    「ボコボコにやっちゃえー!」
     その派手な衣装に観客が沸き、便乗して夢美も声を上げて煽る。チャンピオンも目を見開き、盛り上がった舞台にやる気をみせた。
    「そこまで準備されたんじゃな、いいぜ、やってやるぜ」
    「ありがとう、いつでも良いわよ」
     両者は中央で構える。先に動いたのはチャンピオン、晴香の構えの隙間に正確にジャプを叩き込む。
     晴香はあえてその攻撃を受ける。次々とチャンピオンの攻撃が当たる。だが、晴香は平然と立っていた。
    「ちっ」
     チャンピオンが大振りのアッパーを放つ。その隙を晴香は見逃さなかった。素早く後ろを取り、腰に手を回した。そのまま持ち上げると後方へ投げる。受身の出来なかったチャンピオンは地に叩きつけられ、気を失った。
    「お……おおおおおおお!」
    「ジャーマンスープレックスだ! 何者だあの女!」
     まさかの結果に観客は一瞬静まり、そして爆発した。
    「誰か、挑戦者はいるかしら!」
     観客を見渡して晴香は自信に満ちた声を出し、目標に誘いを掛けた。
    「俺がやろう」
     三十代ほどの男が晴香の前に立った。男のシャツから伸びる腕は太く力強い、首もがっしりと厚みがある、鍛え上げられた身体だった。
    「いいわ、かかってきなさい」
     上手く掛かったと思いながらも、緊張に汗が流れる。普通の人には分からないだろう。まるで猛獣と対峙した気分だった。
     男は左手を開いたまま前に伸ばし、右は拳を固めて腰溜めに構えた。
     晴香も腕を上げ構える。その瞬間、男は動いた。一歩で間合いを詰め、拳が顔面を打ち抜く。弾丸のような動き。晴香は吹き飛ばされ観客にぶつかり止まった。
    「っ……」
     顔に傷はない、拳を受けたのは腕だった。骨にひびが入ったのか鈍く痛む。速い、目で追う事が出来なかった。どこを狙われるか知っていたから防げた一撃だった。
    「ほう、どうやら羊の群れに狼が混じっていたようだな」
     口を歪ませ、好戦的な笑みをアンブレイカブルは浮べた。
    「さぁ、戦争を始めるの」
     突然の発砲音。シャルロットはゴーグルを装備して、巨大なライフル銃を構えて発砲した。瑞穂も同時にライフルを撃つ。二筋の光が扉を吹き飛ばす。
     それを確認した羅生丸が中央に踏み出す。
    「ここからは殺しあいだ。ガキの喧嘩じゃねえ、死にたくなけりゃとっとと逃げな」
     圧力を持った殺気を放つと、観客達は震えて逃げ出す。
    「はーい、悪いけどお遊びはここまでよ。潰れたカエルみたいな無残な姿で死にたくなかったら、とっととここから離れるよーに」
     瑞穂は追い討ちとばかりに天井に発砲し、脅して観客を誘導する。
    『うわぁああああああ!』
     観客達は我先にと走り出す、ぶつかり合い、倒れ踏まれながらも、這うように出口を目指す。
    「みなさん落ち着いて避難してくださーい!」
     夢美は壊れていない方の扉を開いて、観客達を誘導する。
    「おっと、あんたには俺たちの相手をしてもらわないとな。俺は八王子魅那斗、自分を倒す相手の名前くらいしっかり覚えておけよな」
    「そうですー、ここからはわたし達が戦う番ですよー」
    「あたしも! 正義のヒーローの力、みせてあげるね!」
     那斗に続き、理緒とアリエスの二人も、えいえいおーと気合を入れてアンブレイカブルの前に立つ。
    「威勢がいい小僧どもだ、いいだろう相手をしてやる。俺の名は加治寛。倒せるものなら倒してみろ!」
     加治は先と同じ構えで灼滅者達と対峙した。
     
    ●喧嘩
    「俺もさっきから強え奴と戦いたくてうずうずしてたんだ。殺し合い、始めようじゃねえか」
     羅生丸はそう言いながら、自らに暗示をかけ、肉体を、魂を活性化する。放たれる鋼の拳。
     一歩。加治は一歩を踏み込むことで身を低く屈め、その唸りを上げる拳を逃れる。そしてそれは回避と同時に攻撃へと転じる動きだった。追い突き、踏み込むと同時に拳が放たれる。鍛え抜かれた巌の拳が、無防備となった羅生丸の腹部へと襲い掛かる。
    「させないのですよー」
     その一撃を受けたのは小さな身体、理緒が間に割り込み縛霊手で受けていた。普通ならばその身体ごと吹き飛ばされるだろう。だが、その身体からは想像もできぬ力を発揮して受け止める。
    「チャンスだよ! とぁー!」
     アリエスは飛び上がり、攻撃で硬直した加治の頭部を狙いキックを放つ。だが加治は左腕を上げ、右腕を添えるようにしてブロックする。
    「このタイミングでガードが間に合うのはズルイ!」
     不満を垂らすアリエスがまだ空中に居るところを狙い、加治は突きを放とうとする。だが、突きが放たれる直前に死角に入り込んだ影。
    「可愛い女の子を傷つけようとするのは、見逃せないぜ」
     魅那斗の斧が加治の脇腹を切り裂く。軽口を叩きながらもその目は真剣だった。
     雷を纏った拳が加治に襲い掛かる。羅生丸の拳を加治は避けようとした。だが、まるでその動きを予測したように、逃げ道を塞ぐ炎の弾丸が無数に放たれた。
    「これは喧嘩じゃないの、本物の戦争を教えてやるの」
     それはシャルロットが狙い撃った一撃。ガトリングから吐き出された弾丸に動きを封じられ、加治の顔に雷の拳が迫る。
     5メートルほど吹き飛ばされ、宙返りをして着地をする。その顔には傷がない、拳を咄嗟に受けた腕が傷を負っていた。
    「やるな、期待以上だぞ。もっとその力を見せてみろ!」
    「それじゃあ、たっぷり見せてあげますっ」
     避難誘導を終えた夢美が、靴底のローラーを駆動させ、ダッシュで移動しながら左腕に装着したガトリングから避けられぬように弾をばら撒く。
     加治は頭部だけをガードして避けようとせずに前に突っ込んだ。そのまま夢美に迫り、勢いのまま拳を放つ。
    「私のことを忘れてもらっちゃ困るわ」
     走り込む赤いリングコスチューム。横から伸ばされた腕は、加治の首を捉えると振り抜かれる。晴香のラリアットがカウンターで決まり、加治は地に叩きつけられた。
     やったと思った晴香の腕が引かれ体勢か崩れる。見れば倒れた加治がいつの間にかその手を掴んでいた。仰向けの状態からの前蹴りが晴香の腹に突き刺さる。息が詰まる衝撃。掴まれた手を振り解こうと、手を引く。加治はその力を利用して、手を引かれるように起き上がった。そのまま空いた手の拳を固める。
    「セクハラよ。さっさと、その手を離しなさい」
     弾が掴んだ腕を撃ち抜く。加治が手を離し間合いを開けると、瑞穂は癒しの光で、晴香の傷を癒す。
    「アタシは医者だから壊すのじゃなく、治すの専門なのよ」
    「女の子の腹を蹴るってのは、男としてどうなんだ」
     魅那斗が背後から斧を振り下ろす。加治はその斧を持った手に、後ろ蹴りを当ててその勢いを止める。
    「戦いに老若男女など何の意味もない。戦いに血が騒ぐ者は全て戦士だ」
     加治は後ろも見ぬまま、肘打ちで背後の魅那斗の腹を抉った。
    「かはっ……確かに、そうかもな。あんたみたいな強い奴とやりあえて、楽しくてしょうがねえぜ!」
     魅那斗は腹を打たれ、そのまま倒れるように前のめりになると、地面すれすれに斧を振り抜く。その一撃は加治の足を抉る。魅那斗はそのまま転げるように離れた。
     その開いた空間に夢美がガトリングで弾幕を張る。その弾に混じって一筋の光線が奔った。
    「ジャックポットビームですよー」
     元気一杯に理緒の縛霊手からビームが放たれた。それは加治の身を焼く。
     夢美は雨あられと弾幕を張りながらローラーダッシュで近づくと、雷を宿した右拳で殴りつける。加治はその連続攻撃に僅かに動きを止められる。
     その隙にシャルロットのライフルから放たれた光線は狙い違わず頭部へ直撃した。
     初めて加治が苦悶の表情を浮かべ、体勢を崩す。
    「てやー!」
     アリエスがよろめいた加治に近づき、身長が50センチは差がある相手を持ち上げ、そのままジャンプすると地面に叩きつけた。
     地を揺らす大きな振動。加治はそれでも起きあがる。そこに羅生丸が武器を手に突っ込んだ。
    「楽しみたいんだろう? だったらこいつの味をたっぷり楽しませてやるよ!」
     手にする武器は巨大な鉄塊。漆黒の刀身はこれまで潜り抜けた戦いを物語るように傷だらけだった。それを全力で振り下ろした。
     吹き飛ぶ。両者は反対側の壁まで吹き飛び叩きつけられる、壁がビスケットのように脆く崩れ落ちた。
     相打ち、羅生丸の剣と同時に加治は正拳突きを放っていたのだ。剣は加治の鎖骨を折り、正拳は羅生丸の胸骨を砕いていた。
    「今治療するわ」
     膝をつき血を流す羅生丸に瑞穂が急いで癒しの光を宿す。反対側では加治もまた起き上がり、ゆっくりと歩いて近づいてきていた。
     
    ●祭りのあと
    「く、はっはっはっ、心地よい攻撃だ! まさがこれ程とはな。気に入ったぞ」
     加治が気を漲らせ、筋肉を膨張させると、傷口が塞がっていく。
    「今日は存分に戦いを楽しませてもらった。これ以上はやり過ぎる。折角の楽しみを早々と終わらせるのは勿体無いのでな、引かせてもらおう」
     加治は灼滅者達の顔を一人一人覚えるように見渡すと、満足そうに笑う。そして堂々と背を向けて出口へと歩き出した。
    「次に会うときまでにはもっと強くなって、逃げ出す余裕もないくらい完璧にぶっ倒してやるからな、覚えとけよ!」
    「こんな所じゃなく、真っ当な舞台で再会しましょ! 挑戦待ってるわ!」
     魅那斗と晴香がその背に、再び合間見える時の覚悟を告げる。
    「そうだよ、次に戦う時はもっとすごい技で倒しちゃうんだから!」
     アリエスも指差してウィンク一つ、再戦での勝利を宣言した。
    「次に会った時だ、俺はてめえを超えてみせる!」
     まだ癒しきれぬ傷を負ったまま、気力で羅生丸は起き上がり咆える。
    「いいだろう、楽しみにしているぞ!」
     加治は羅生丸に一瞥をくれ、扉を潜り外へと出て行った……。
    「ふぅ……ほら、怪我人があんまり無茶しないの」
     一つ息を吐き、瑞穂は羅生丸の治療を続ける。
    「何とか追い返せましたね。きっちり守り通しましたから、ゆめみー達の勝利ですね!」
    「はいー、一般の皆さんを無事に守れてなによりですー」
     夢美と理緒に笑みが安堵の笑みがこぼれた。
     シャルロットは完全に敵が去るのを確認すると、ライフルを肩に担ぎ、ガトリングを地面に突き立てると、ゆっくりとゴーグルを外して髪をかきあげた。
    「missioncomplete」
     騒々しいほど賑やかだったのが嘘のように、廃工場は静まりかえっている。
     熱気に満ちた祭りは終わり、隙間からは冷たい風が吹き抜けていた。
     だが、きっと若者たちは懲りもせず、またどこかで喧嘩をするのだろう。一度その熱に魅せられたなら、拳を握らずにはいられないのだから。
     ファイト・クラブ。それはきっと狂おしく熱い夏の名残だった。外ではもう冬の足音が聞こえている。
     祭りのあと、灼滅者達は冷たい夜の街へと消えていった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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