芸術の秋。
武蔵坂学園の秋を彩る芸術発表会に向けた準備が始まろうとしてた。
全8部門で芸術のなんたるかを競う芸術発表会は、対外的にも高い評価を得ており、武蔵坂学園のPTA向けパンフレットにも大きく紹介された一大イベントである。
この一大イベントのために、11月の学園の時間割は大きく変化している。
11月初頭から芸術発表会までの間、芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くが芸術発表会の準備にあてられ、ホームルームや部活動でも芸術発表会向けの特別活動に変更されているのだ。
……自習の授業が増えて教師が楽だとか、出席を取らない授業が多くて、いろいろごまかせて便利とか、そう考える不届き者もいないでは無いが、多くの学生は、芸術の秋に青春の全てを捧げることだろう。
少なくとも、表向きは、そういうことになっている。
芸術発表会の種目は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作ダンス』『人物画』『書道』『器楽』『服飾』『総合芸術』の8種目。
芸術発表会に参加する学生は、それぞれ、自分の得意とする種目を選び、その芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。
芸術発表会の優秀者を決定する、11月22日に向け、学生達は、それぞれの種目毎に、それぞれの方法で、芸術の火花を散らす。
それは、武蔵坂学園の秋の風物詩であった。
ちゅどぉおぉおおぉーん!
大爆発!
とげのように咲いた煙の中から、男が悠然と歩み出てきた。
爆発の勢いにも、その心は少しの揺らぎも見えない。
メタリックな装甲を燦然と輝かせ、彼は決めポーズ。
「芸術は爆発だ!」
ちゅどどおおおおおおんんんん!
更なる大爆発が彼の背後で炸裂した!
わああああ!
鳴りやまない拍手。
波のように押し寄せる、賞賛のコール。
「マジカッケェエッス! ぱねぇっす!」
「先輩、やばいっす! やばかっこいいっす!」
後輩の男連中を手で制し、しかし、男は首を振る。
「いや、まだだ。この程度の完成度では……俺はもっとかっこよく登場できる!」
「これはどゆこと?」
久米・夏虎はおそるおそる尋ねる。
「うむ、君はどうやら最近編入してきたようだね」
その問いを聞きつけた先輩が、恐れ多くも自ら答えようとしてくださる。
「はぁ、二人のイケメンと六人の美少女が迎えに来てくれました」
「八人派だね、うむ。実は武蔵坂学園はまもなく一大イベント芸術発表会をひかえている。私は発表会当日に向けて爆発シーンの調整と練習を繰り返している日々なのだ!」
「え、なんか編入早々自習だとか言われましたけど、爆発シーンとかも芸術なんすか?」
編入生の質問に、先輩は熱い血潮をたぎらせた。
芸術は爆発だ!
これは今は亡き、偉大なる芸術家先生の言葉である!
芸術とはなんだ? 作品とはなんだ?
それはなによりお前自身! お前の生き様! お前の在り方!
本来芸術に垣根などない!
自由に、自らが信ずるもの、個性。
それらを表現するんだ!
芸術発表会には『総合芸術』という部門で用意されている。
「なるほど! では、あれも芸術なんですね!」
夏虎の指さす先には、体脂肪率がゼロに限りなく等しいと思われる驚異的なマッチョがトレーニングをしている。
「筋肉は芸術だ!」
「あれも芸術なんですね!
指さす先には、プラスチック消しゴムにものすごく精緻な大仏を彫刻している小学生がいる。
「芸術だ!」
次々とがらりと声を変えながら落語をしている女子中学生。
「芸術だ!」
試行錯誤してものすごくきれいな七色の泥団子を作り続ける少年。
「芸術だ!」
誰が書いたかもわからない、壁の落書きばかり写真に撮っているメガネ君。
「芸術だ!」
居合い切りかと思ったら真剣で野菜を動物の形に切っている剣道少女と、それを瓦を割りながら応援する空手少年。
「芸術だ! そして、俺の爆発も芸術だ!」
「わっかりました! 私も自分の芸術を探してきます!」
「ああ! とびっきりのを待っているぞ!」
先輩は仮面を外して、真っ白な歯を輝かせた。
人に理解など求めるな!
なんでもいい! なんでもいいんだ!
リアルを充実させ、個性を爆発させろ!
すなわち、リア充爆発せよ!
●
「見つけたよ! 私イケメンに納」
ちゅどおおぉおんん!
夏虎は爆発に巻き込まれユーキの前に落ちた。
「あ、大、丈夫?」
「い、生きててラッキーイバラッキーあははは」
ガクッ。
彼女の最期の言葉だった。
とはならず、鎖夜は冷静に隅に片づけた。
武蔵坂学園は、生徒のほぼ全員が灼滅者だから、多少のことなら日常茶飯事。
特に今の時期は、芸術に傾ける生徒達の情熱がいたるところで見られ、雑然とした活気にあふれている。
準備期間中から花火や大爆発。
「マジカル☆クルエル・ロックオン、逝くよ必殺バスタァァァビィィィッム!」
校舎解体騒ぎまで。
毎日がお祭り騒ぎ。から騒ぎ。なのだ。
「し、死んでる!?」
政義は夏虎の下敷きになっていた空を助け起こそうとして、その瞳孔が開いているのに気づいた。
ついに初の犠牲者が!
こんなところで!?
「いや、生きてるけど」
倒れたままピクリとも動かず、ぼんやりと空は答えた。
彼の芸術はパントマイム。飛んできた女子に押し倒されてなお、人形のふりを続けていたのだ。見上げた精神である。
「いや、さすがに立とうよ」
「……こんなものか」
仙花が自分なりの芸術を考えながら、そばを打っていると、
「そのそばは私がいただく!」
窓の外から高らかな宣言と共に、純が出現。
ゴテゴテした軍服に悪そうな仮面。軍人系女幹部の登場だ。
「この学園のそばはすべて次元斬刀流の物だ!」
「そうはさせないよ!」
「む、誰だ!」
見れば朝礼台の上に立つ細身の少女、小鳩の姿があった!
しゅば!
ポーズを決めると大爆発!
ちゅどーん!
粉塵の中から現れたのは、鋳物を身にまとった戦士だった。
「鋳物のことではなかろうと、はびこる悪は見逃せない。鋳物戦士タタライガー、ただいま参上!」
「ふん、蹴散らして……」
「ちょっと待ったー!」
見れば、そこには戦隊ヒーローが!
「トルコの龍騎妃、フォトホワイト、イルル!」
「押しの弱い委員長系、フォトイエロー、由希奈!」
「年上に見られる伊達眼鏡、フォトブラック、ウィクター!」
「部長だから当然リーダー、フォトレッド、まぐろ!」
「両手に構えた一眼レフ!」
『光画戦隊! フォトレンジャー!』
ちゅどぉおおん!
煙に飲まれるまぐろ達。
「ちょっと多かったかしらね」
「これがちょっとですみますか!」
崩れてきたガレキはすべてウィクターが刀で斬り裂いた。
「けほっけほっ……さすがに量多すぎだよ、部長」
「げほげほっ……ま、迫力は十分じゃて」
煙が落ち着くのを待って、純が言う。
「ふん、何人増えようがそばは私の……」
「ちょっと待ったぁ!」
見ればグラウンドの向こう側にピンク髪の少女、旭。
次々と巻き起こる爆発の中を自転車で駆け抜ける。
ちゅど! ちゅど! ちゅど! ちゅどおおおぅん!
爆発をバックに大ジャンプ。着地。
「先輩方……爆発はちょっとしたもの。でも……学園じゃぁ、同率二番目! 一番目は誰かって?」
旭はクールに決めた。
「フュー! ちっちっち、ボ、ク、さ!」
「お前、それズ○ットだろ!」
「横浜駅から約十分、駅前にモールもできたよ、戸塚のヒーロー、桜火転身トツカナー零五、転身完了!」
「悪役一人に対して多すぎるだろ!」
置いてきぼりの仙花の目前で繰り広げられるヒーローショー。
「素晴らしい。その爆発、賞賛に値する! ハハハハハ!」
緋桐は高所から大量の花びらを散布。
ルチャカは曇り一つもないキラキラとした瞳いっぱいにその光景を焼きつけ、
「これがニポンのお家芸なのですね! テンシーン、サンジョ~!」
「違いますよ」
宗一郎が笑顔で訂正。
「わぁい! ススメ爆発だいすき!」
空手の練習をしていたススメ、見た目は綺麗なのに見れば見るほど悪寒が湧き上がる巨大パフェを持った鎮、ルミネセンス用の石採取から帰ってきたハイプもギャラリーに加わり、蝸牛が撮影していると、信蔵が見事な爆発だとうんうん頷く。
「ところで助けてはくださらんか?」
自分そっくりのシンちゃん人形に反逆されてす巻き状態で爆発五秒前。
「わぁああぁ、逃げてぇえ!?」
ちゅどおぉおおおん!
「美しいで。深那の美しさはほんまあれや、うん、美しいで」
「ベル太もそのエセ関西弁かわいいなぁ?」
ヅカ風に男装したベルタとピンクのフリフリドレスを着た深那。
人目もはばからずいちゃつく二人を目撃して、六玖は衝撃を受けた。
そんなに堂々と!
RB団の一員として見過ごすわけにはいかない。爆裂手裏剣を構えて、
「リア充爆発しろ!」
といった瞬間、ベルタ達は。
ちゅどどおん!
深那達は学校のいたるところにキーワードで発動するネタ爆弾をしかけていたのだ。
そのワードとは『リア充爆発』
させる前に爆発されて六玖の目がきょとん。あらかわいい。
「俺はここに今一度RB団の結成を宣言する!」
ナイトの宣言が聞こえて来た。
ガラクタで巨大ロボ的なオブジェを制作中の灯は屋上を見上げる。
ナイトは力強く拳を掲げ、
「己の心にリア充爆発せよのたま」
ちゅどぉん!
言い終える前にネタ爆弾で散華。
「ど、同志ぃぃいいい!」
六玖の悲痛な叫びがこだました。
ちなみに、屋上にはなぜかアルもいて、きき石油をしていた。
触れるだけでそこの油田産か当てるという芸術だ。
よって。
ちゅどぉおおおおん!
「引火したぁ!?」
その衝撃で雪花が猫のぬいぐるみで作った猫玉パズルがバラバラに。
「こ、こーらー!」
「ドミノ倒しこそ芸術だよ! 計算された動き! 規則正しい倒壊音! 滅びの美学ってやつだよね!」
と言っていた幸のドミノがカラカラカラー……!
「わー! もう誰さ! 芸術は爆発だなんて言ったのは!」
「フッ……下賤の民が芸術を語るとは愚かしい。芸術とは即ち、王! つまり王たる余そのものが芸術なのだ!」
「おのれ生徒会……しかしリア充いる限りRB団は……」
「はいはい、御託は結構」
屋上の二人は総一が回収していった。
●
グラウンドでは十人がかりの和志危機一髪計画が着々と進行していた。
いわゆる黒ひげ危機一髪ゲームを人間でやる、芸術である。
和志は摘佳たちによってたかってす巻き状態。
「なんで俺が打ち上げられなきゃならんのだ!?」
しいて言えば、運命とか魂の叫びとか、前世の因果とか、なにかそう、うまく言い表せない何かだとセリルは思う。
実際のところは、発案者である梓にもわかってない。
セリルが『KEEP OUT』のテープをはりめぐらせた内で、
「これはどこのパーツなんだ?」
「えーと、それは」
梓のひいた設計図通りに列也たちが材料を組み立てていく。
「ここ、誰かおさえてー」
「うむ、任せておけ」
はがねが力いっぱい板をおさえているうちに、金具でタルを固定。
「ちゃんと設計図通りよね。よし!」
摘佳の用意したリストを参照しつつ、御凛は細部をチェックしていく。
協力し、一丸となって和志を打ち上げようとしているのだ。なんと美しい光景だろうか。
「どんだけ本気で俺を打ち上げたいんだよ! お前ら、とにかく落ち着こうか」
「ふむ……芸術性を高めるために火薬を仕込むべきじゃろうか」
「それだ!」
「それだ、じゃねえ!?」
主にペットボトルロケットの研究改良を担当していた剏弥の提案によって花火に使われる星が用意され、何日にも渡った準備も調整段階に入る。
「なんで準備期間中から拘束されてんの、俺」
「和志さん、魂の飛翔が芸術を作るのです。本当に人を飛ばしてどうするの、なんて常識的な意見は聞いてませんし、聞く耳持ちません」
「非常識ってわかってるじゃないか!?」
「はい、今日のおやつです。あーん」
梓はロケットの角度調整。
静香達は和志にレオタードと宝塚風海賊服を着せ薔薇を添える。
「芸術の赤き花として空に舞い、散って下さい!」
「嫌だよ!?」
「御主程の者なら潔く消し飛……コホンッ! 飛翔してくれるじゃろう。がんばっての」
「消し飛んでたまるか」
どれだけ優しく肩を叩かれても許容できない。
いよいよ試し打ちの時。
摘佳が剣を刺す役。
「わかった。これドッキリなんだろ? 俺を飛ばしたって良いことなんてない」
「そうね。双子である和志を飛ばすことは……正直やぶさかではないわ!」
グサリ。
「わー!?」
なにも、起きない。
「外れか……ちっ」
「今誰か舌打ちしたよな? な!?」
「そおれ!」
間をおかず海賊映画のように軽やかに投げた剣は、見事に突き刺さり……カチャリ。
確信した梓は和志に敬礼。
「グッドラック親友。親父を超えて伝説となれ」
「ちくしょぉおお!?」
発射する寸前和志はメモに気づいた。
『花火を手動で爆発させないとす巻きから解放されないから気をつけてね! エアライド使えなくてレオタード着た意味なくなるよ!(笑) by有栖』
「くっそ、てめぇら覚えてろぉおお!?」
びょおん!
しゅぱっ!
ところで、和志危機一髪の途中だがこんなことがあった。
紫桜は遙に理由も言われず呼び出され、会って早々大砲に詰められた。
「俺はお前を信じてるぜ……だから、がんばってこい」
着火。
「ちょま、意味がわからぁん! 後で覚えてろおおおお!?」
どぉおおおん!
「ははは、なんてな。着弾地点にはちゃんとマットを……あ、軌道ずれた」
そして、空で出会った和志と紫桜。
飛ばされた者同士、通じ合うものもあるのだろう。
生きて戻れよ?
お前もな。
いやにいい笑顔をして一瞬の邂逅を終えた。
しゅごおおおぉお……。
ぱぁああんっ!
はがね達は和志の笑顔を空に思い浮かべた。
「素晴らしいものだな」
「ほら、あんなに輝いて、きれい」
「和志の伝説にまた1ページ追加されたな」
あとは最終調整すれば本番もばっちりだろう。
「誰が2回もやるかぁあ!」
「あ、データ欲しい人は言ってね。すぐ送るから」
記録係の御凛の言葉にすかさず手が上がった。
「ジュンペイくんこんな感じでどうかな?」
ヒヨコ愛を具現化させた衣装のひより。ぴよぴよ。
「ああ。ひよこな鷲宮さん可愛ええなあ」
卵をイメージした全身タイツ姿のジュンペイが癒しの時間を堪能していると、窓がガッシャーン!
飛び込んできた紫桜は何でもないかのようにすくっと立ち上がると、
「空さえ、つかめる気がした……」
パタリ。
「誰かー!? メディーック!」
「呼んだか! 筋肉だ!」
ガラッと扉を開けて現れたのは、芸術は筋肉だ、晶。
「詳細を語るを許されるならば、筋肉の中でも腹筋が最たる芸術だ! 光すら照り返す凹凸こそ人が持ち得る最も原始的かつ、根本的かつ、持続的永続的な芸術性の表れなのだよ!」
「聞いてないぴよー!?」
●
壁に鏡の貼られた部屋で、季桜はポージングの練習をしている。
隣には人型サイズのロボット。桜の木デザインの、桜1号。
プログラム制御された桜1号とポーズを決めるのが彼の芸術。
部屋には他にも揃いの赤い衣装に身を包んだチームがいる。
「ちょ、今ずれたでしょ? もう一回!」
犬耳リボンのクラレットが叫ぶ。
「ああ……これで練習なんてめっちゃハードやん!」
猫耳フードの奈穂はもう汗びっしょり。
ウサギ帽子の楼沙だけ時折全然違う謎の踊りを踊っている。MPが減ってしまう。
「お、踊りが違う? も、申し訳ないのだ……」
「何事も……失敗を繰り返して上達するもの御気になさらず……ゆっくりと歩みましょう」
赤いマフラーのアリスティア。
そうだ、もう一度やろう的なジェスチャーをするピンク赤の狐ぐるみが不意にバク転。ラムザは着ぐるみとは思えない動き。
何度も繰り返して動きも揃ってきた。
今までの中で一番いい調子。ここまでほぼノーミス。
後はラストのポーズを決めるだけ……!
ジャン♪
決まった!
と思ったら中央にいたのは桜1号。
「ああ! 桜1号ぉ! そっちは俺じゃねぇ!」
へなへなと脱力するチーム、ヴィガーハーツ。
けれど一体となった確かな感触があった。
「この踊りなら優勝も夢じゃないのだ」
「エエかも、エエかも~!」
「ああ、最高だな! ……あ、しゃべっちゃった」
「もう一回いこう!」
目指すは世界。くたくたになるまで、アリスティアは青春をかみしめた。
「なんで俺がアイドルデビューのための練習なんか……」
昴修のぼやきを聞きつけた飛鳥。
「あれ? 昴修乗り気じゃないの?」
「当たり前だ。お前だけやりゃあいいだろうが……」
女の子みたいな飛鳥と違い昴修は割と頑丈な体つきの高校一年生。
しかし、
「着替えるの早いね?」
そろいの衣装で二人組アイドル『ハミングバード』!
「ち、違うぞ。違うからな? 全然乗り気なんかじゃないからな?」
「とにかく踊ろー。ずばばばーんきゅっ! って、感じでー」
「アバウトすぎてまるでわからん」
手取り足取り振付稽古。がんばれ、メジャーデビューのその日まで!
●
井の頭を始めいくつかのキャンパスには、この時期写真回廊と呼ばれる場所ができる。
写真系の生徒が自分の作品を自由に貼り付けているのだ。
空飛ぶ和志。
花火を準備する人々。
作品制作する人、爆発する集団。
踊り系、演劇系の練習風景。
落ちた和志。
蝸牛の展示には『お気に入りの一枚をお持ち帰りください。お代はあなたが撮った一枚です』との一文。
あとやたらと晶の筋肉写真。
メアリはタイヤの減り具合を収めた写真の前で、等身大フィギュアを持ったニアにライドキャリバー愛を語っていた。
「凄いでしょ……この減り方。きわどい角度まで車体を倒してる様が目に浮かぶようだよね♪ タイヤは乗り手しだいからね個性が出るし、街か峠か比べるまでもなく違うよ」
同時に勧誘も兼ねているわけだが、
「はっ! ちょっと待って! この音は!」
メアリは勘に従い、走り出した。
この音は! この音は!
ガラッ!
教室で、六尺褌と鉢巻をしただけの男臭い格好の京一と隆漸が和太鼓を前にしていた。
「この格好でなければ締まらんでござろう。練習とはいえ真面目にやらねばな」
「うーむ……まぁ、寒さにも慣れないといけないしな」
「きゅわー! 失礼しましたぁー」
隆漸を見つめる京一の意味深な目つきが脳裏に焼き付いた。
次の教室では、テレビでパズルゲームをしてる伝斗と鍋をしている子羊の姿。
「キミ、なんでジンギスカン食べてるの?」
画面を注視したまま、器用にコントローラを二つ操って、伝斗が尋ねる。
「だって愛を語ってたらお腹すいちゃって」
子羊の芸術はジンギスカン鍋。
「……何が美しいって! 新品よりもこの何年もジンギスカンを提供し、程よく脂がしみ込んで光沢を生んだ曲線! サラダ油じゃないよ! 羊脂が、何度も使われることによって染みこんだからこそこの輝きが……」
以下略。
メアリは遂にその扉を開いた。
全身を震わす爆音が迎えてくれた。
「うんうん、今日は絶好調みたいだねぇ」
兎はぽんぽんと愛機因幡に触れた。バイオレンスギターとエンジン音で演奏。
メアリのキャリバー勘は間違っていなかったのだ。
睦月は重りをつけたラケットを振って10m離れたロウソクの火を消す練習。
真空殲風球。
庭球部代々の秘伝書に記された必殺技で、俗にカマイタチと呼ばれる現象を応用し、完全な習得者の技は触れるものすべてを粉砕したという。
富士見書房刊、魁☆灼滅塾より。
「まだまだですよ~。もっと踏み込み鋭く、スイングを力強く~」
睦月、それ漫画やで。
と、注意する者がいない中でひたすら会得に向けて邁進する。
その横で、銀都はポールを踏み台に高くジャンプし、
「俺の正義が真っ赤に燃える! 勝負を決めるた……ああ!」
かんだ。
膝をついた銀都は不甲斐なさにコートを叩いた。
「……俺の力が足りないということか!」
お帰り、はやぶさスマッシュは完成しつつあった。ただ一点、セリフだけが言えない。
かんだり、とちったり、言い切れなかったり。
だが、諦めたりしない。空を見れば、そこに超次元テニスの星がキラリ。
あの星をつかむまで、庭球部の戦いは続くのだ……完。
エデの芸術は洗濯だ。
空き教室にはエデの洗濯物がずらり。
今の段階ではセーターの洗濯物が自信作か、作品名は『ぬくもり』で。
屋外にはYシャツが風にはためいている。
(「まるで社会の荒波にもまれているみたいだわ……」)
と、感慨深く思っていると、突風がボォオオ!
「って、あー! 風で飛ばされちゃった! 待ってー!」
すると、廊下の腹筋の石膏像の前にぽつんと置かれた箱が一つ。
なんだろう、と思ったら……。
ぼよよよ~ん!
かわいいうさぎが飛び出した。
「きゃあ!?」
「やったー、大成功~!」
デイジーの芸術はびっくり箱。
喜怒哀楽。人の感情が表に出た瞬間が綺麗だと思うから、それをこれで生み出すのだ。
「もっとよくするよ~。みんなのお顔が楽しみだなぁ~」
Yシャツを求めて外へ出ると、ガンキャ○ンぽい甲冑娘亜樹と魔砲少女璃理が連行されていくところだった。
「なにをするやめろくださいー!」
「発破解体こそ芸術の真髄なのです! 校舎解体なのです!」
すた!
アリスは地面に降り立つと、螺旋の塔を見上げた。
その壁面には四季の花々が敷き詰められ、天高い秋の空へとそびえたつ。
「これが私のありのままの心。鮮やかに咲き誇らんとする生命の息吹ですわ! さあ、天にまで至らんが如く咲き誇りなさい! 花天楼! ……あら? てっぺんになにか」
「あ、Yシャツ!」
突風ゴォォ。
飛んじゃう、と思った瞬間、爆音が轟く。
フィギュアスケートのごとくスピンしながら焔迅が空を飛び、最高地点に達した瞬間ピタッと制止!
Yシャツをつかんで、かっこいいポーズ!
「おおおおぉ!」
歓声が上がる!
だが、焔迅自身はまだ納得できていなかった。
「まだだ……俺はもっと高く飛べる!」
エデにYシャツを渡しながら、その瞳には静かな炎を灯していた。
練習用に特設された野外ステージにくるみは立っていた。
羞恥心からピンク髪のフリフリアイドルに変装して。
「……よろしくお願」
ちゅどぞおおうぅん!
くるみの声は爆音にかき消された。心の底から驚き、昂揚させる音の芸術。
「もう少し派手な音をさせたいんだけど……」
蓮はまだ納得いかない様子で思案顔。
爆音に負けてちゃ、武蔵坂のアイドルなんてやってられない。
くるみは、ナノナノのクルルンに頷いて、声を張り上げた。
「みなさん、よろしくお願いしまーす!」
「う~ん!」
文は大きく伸びをして作業中断。
寝る暇も勉強する暇も惜しんでパラパラ漫画を描き続けているが、さすがに疲れがたまる。
気分転換に校内を散歩。お祭りの中にいるようで、足取りが弾む。
人だかりを見つけて、中をのぞいてみると、天狗の面をつけた着物姿の闇沙耶が激しく踊り狂っていた。
ダンス、ダンス、歌舞伎ダンス!
鬼、翁、狐と面を変え。
「……うん。私、ちょっと寝よう!」
文は仮眠をとることにした。
●
ゆるコミュ同好会は部室で演劇の練習中。
『3人はゆるキュア!』
「たとえぺたんこ胸でも夢と希望は詰まってる! ゆるパープル!」
「ふぁ……パープルまじどんまい」
セリフ暗唱中に雲英から茶々を入れられ怒る陽花。
「……って! ドンマイってどういうことよー! そんなセリフないでしょー!」
「そもそもゆるさとだるさってどう違うんです?」
ゆるブラック、黒々が話題をずらす。
「どっちでもいい……そろそろ本気で眠……」
ごろん。
「寝るなー!」
「あ『牛乳に相談だ! ゆるパープル!』ってセリフとかよくない?」
「もう練習が進まないよ! 由乃ちゃんもなんか言ってやって!」
「あはは……」
ゆるホワイト由乃は衣装を作りながら苦笑する。
確かに劇の稽古は進まないけれど、こうして一緒に一つのことに参加できることがとても嬉しくて楽しいのだった。
『爆剣エクスカリバー』
「部長、脚本できましたよ」
「わ、すごい立派なシナリオじゃない! さすが部で一番できる子! まことん、なでなでしてあげるわ!」
麻美は脚本を手にくるくる回り、瞳を熱く燃え上がらせる。
「さぁ! エクスカリバー部の初舞台! 気合入れていくわよ!」
「おー! 僕裏切る役! 『でも僕負けない。冷蔵庫に隠しておいたプリンを弁償してもらうまでは!』」
真は早速自分のセリフをチェック。
むやみにパンチのポーズを決めたりして。
「えーと、勝利への一本道が見えた! シャイニング……」
眞はさてと、と腰を上げて火薬の調達に向かうことにする。
三人だけなのに初っ端一人が裏切るという、要望通りのカオスな脚本を書き上げて、休む暇もない眞なのだった。
仮眠部の、巨大こたつ制作プロジェクト。
設計と制作は彼方の担当。なるべく大きくしたいが、予算と制作期間を考えるとどれくらいが妥当だろうか。
凛月はチクチク布団を縫う。既存の布団を継ぎはぎして長くするわけだが。
「やっぱ貧乏臭さが勝っちゃうかねえ……」
「展示スペース的にも13kmは無謀でしたかね」
彼方は漆黒の手刀で材木を切った。
「黒死斬材木カット!? それもあるけどうちの部員がちゃんと作業してくれるかどうかがね……」
歩夏は作業しつつため息。
「でも、そうだよな。きっとみんななら手伝ってくれると信じて……!」
ミキは断熱材を敷いてその上に畳を置く。
巨大こたつに必要な物を色々考えたが、口に出すのも面倒なので、布団にくるまりゴロン。
「では皆さんがんばって」
「堂々と寝るなー!」
投げた枕がぽふんとヒット。
熱源担当、淼は用意した石油ストーブに仮組みの木材をくっつけて、完成予想をたてる。
アルミ板をはった煙突はこたつの上の鍋に見えるはずだ。
「うし、結構なんとかなるんじゃねぇの?」
「ねぇ、なにか大事なものを忘れてないかしら?」
「は、忘れて?」
「こたつといえば外せない物……そう、みかんよ!」
カッ!
ミレーヌはみかんに関するうんちくを三分間に渡ってとうとうと説明した後、自らみかんを食べ始めた。
部室を占拠する山のようなみかん。
淼も彼方も頑張ってくれているが、果たして、完成するのか。
あとあの隅にある凛月印の大量のポリタンクは燃料だよね?
歩夏の不安は尽きない。
武蔵坂HC、つまりは馬術部である織姫達は今日の練習を終え、愛馬達にブラッシングをしていた。
乗馬は馬との共同作業。信頼関係で成り立つもの。
独りよがりに練習などできない。皆都はアリエス達に比べると経験不足はいなめないが、二人のおかげで大分上達した。
「一緒にがんばろうな」
白っぽい毛色の、自分の馬をなでる。
「ふふ、素敵な毛並みです。お馬さんLoveLove」
アリエスは鬣を三つ編みにしたりして目一杯おめかし。
「うん、これでばっちり可愛いよ♪ 最高だよ、マック君!」
織姫は芦毛の愛馬マック君にクラブエンブレムのマーカーを入れたりして、猫っ可愛がりならぬ馬っ可愛がり。
さすが、技術だけでなく可愛がり方も一段上である。
タタン! タン! タン!
「ボディが甘ぇぜ! ヒット確認から……コークスルクリューブロー!」
バケツいっぱいの墨汁につけたグローブでキャンパスを殴打。
三分の後、龍人は拳を高々と上げた。
拳の跡がなんとなくアート。
「ふむ。たゆたう永久の闇の深さをよく表しているな」
いつのまにか芳江が背後にいて、龍人は驚いた。
浪漫探究部仲間の爆発を見届けにきたのだという。
「今奴が爆発させるのは己の浪漫だ。芸術は爆発、ではなく爆発こそ芸術。すなわち浪漫なのだ!」
「そ、そうか」
奴こそ武は大人の絵本を前に佇んでいた。
「今までありがとう……俺はお前の屍を乗り越えて、もう一皮むける!」
えろえろおねえさん。巨乳でグラマー。
「あ、でももったいない。いやいや、だからこそ! これを爆発する意味があるのだ! あ、でもこれじゃなくても……くぅ」
「はよせい」
ちゅどぉおおん!
「ぎゃー!? マチルダさぁーん!?」
●
誰もいない教室で、漫才ネタを練る二人。
否、それは口実で内蔵助の目的はリタを口説くことにあった。
「はい、どーもリタです」
「クラです」
『リタtoクラでーす。よろしくお願いしまーす』
「いきなりやけど、正味漫才なんて、どーでもええんよ」
「本当にいきなりだな! なにしにきたんだ」
「それはもう君と深ーいお付き合いをしに」
「僕は漫才以外する気はないぞ」
「きれいなのに恋もせえへんなんて、もったいないわあ」
「興味ないね。加えて言うなら君の名前も知らないよ?」
「なんでやねん。コンビやんか」
「いえ、ポテトはいりません。単品で」
「マクドのコンビちゃうわ!」
……なんとなく形になってきた?
「……よしっ!」
葵は机いっぱいに生卵を立て終え、一息ついた。卵には人の顔。
「ちょ……なんだよそれっ……あはははは!」
隣にいた朔之助に大爆笑されて、葵はむっとした。
平常心を保とうとしてマッチョマンの粘土人形が目に入る。
「ブッ……!」
「題名は、あおちゃんの恋人で」
「僕の恋人? このムキムキが!? なんで!?」
瞬間、落下する生卵の群れ。
……あー。
黄身白身の沼に卵の残骸が散らばって……。
「まぁまぁ許せよ!」
人形に隠れて朔之助が言った。
壱伊は手元の風船プードルを見つめ、
「……ま、こんなもんっしょ」
「一緒に林檎ベッドを作りませんか?」
壱伊いわく金髪馬鹿ことレオノールが顔を作った林檎を差し出す。
「は? 誰がアンタと同じ物作るかよ、爆発しちまえバーカ」
つれない返事。少しは距離が縮められたかと思ったけど、まだまだのようだ。
チラと送られる視線に気づかずにいると、突然ウルルがやってきて、
「わたしにぃ、付き合ってくださいですよぉ~」
「へ?」
実はウルルは人を壁に投げつけて絵を描くつもり。
その筆にあたる相棒を探しているのだが。
前面のウルル、側面の冷たい目の壱伊。
レオノール大ピンチ。
離れの空き教室で、遠くに爆発音を聞きながら、イチとシグは手作りおやつを食べながら作業中。
「……シグさん、大丈夫? 服、凄いよ……?」
クッキーをかじっていたイチは、シグの有様に気づいた。
ドミノの色塗りで手も制服も塗料まみれ。
「ふいてあげる」
少しはマシになるかと濡れタオルで体をふかれながら、
「芸術は爆発だー! とか言うて、この絵面がめっちゃ地味やねんけど!」
シグ達は笑って、楽しく地道なドミノ作業を続けた。
「なーに、お前標本作んのー?」
と、蝶の標本造りをしていた恭司の足は倭文にがっちり踏まれていた。
「……お前なに邪魔してくれちゃってんの、うるさいし邪魔だよ」
「は? お前のがうるせーしぃ」
邪魔邪魔、邪魔の嵐。オレサマちゃんは退屈なのよ。
ところがちょっと折り鶴に気をそらしたすきに標本完成。
「ちょームカツクー……帰ったらオシオキな?」
「なぜお仕置きなのさ。ふざけんな」
わくわく人体実験!
織久は誠司の魔法薬を飲みほした。
けれど何も起こらない。
「あれ? 失敗かな? 増えない」
「……! なんだか気分が……」
「大丈夫? 効いてきた?」
「……気分が、最高にハイってやつだ、ヒハハハハハ!」
狂気モード。誠司は全力で逃げ出した。
「完成したねー伊月~♪」
「完成嬉しいね陽規」
陽規と伊月はハイタッチ。
ようやく完成した巨大ロボ型募金箱。セリフもしゃべるし、目も光る。
「さすが伊月の案だね。すっごーい♪」
「作るのが上手な陽規のおかげさ」
と、そこへ。
「ヒハハハハハハハ!」
暴走した織久を、誤作動したロボがロケットパンチでノックアウト!
「大丈夫?」
口をそろえて尋ねる双子に織久は目を回して答えた。
「ヒー、ハー!」
●
編み物研究部。
「八月から始めたけどまだ慣れないなー。みんな頼りになるから助かるー」
那由他達に手伝ってもらって織兎は編み編み。
「ホワイトタイガーと虎あるけど、着る? ところどころほつれてたから、補修してみた」
器用に裁縫をこなす朔夜はやっぱりうまい。テディベアの小道具もみるみる作ってしまう。
(「……神凪君や神井君はさすがだな。すごくよくできてる」)
都璃は尊敬の眼差しを向ける。
都璃はまだ初級者。せめて劇でがんばろうと思うけれど、棒読みは必至。
「……お、おまえのわるだくみもそこまでだーたー……なんちゃって」
「都璃先輩、どうしたんですか?」
「ひゃぅ!?」
木のぬいぐるみ着用の那由他に訊かれて激しく動揺。
編み物には時間がかかる。終盤近くは宿泊申請を出したりして、みんなで合宿。
今日も元気に和志が飛んだ。ご飯の時間だ。
「ご飯できましたよー」
割烹着姿の柊慈が持ってきたご飯を食べながら、織兎は劇の内容を適当に考える。
「この世界はくまぐるみのものだくま! ふははは! みたいな?」
紘一は集中してクマの着ぐるみを編みに編み続けている。
「編むべし、編むべし、かわいくなあれと想いを編みこむように、編むべし!」
「先輩食べないんですか?」
「区切りいいとこまでやっちゃう」
準備期間もラストスパート。
でも終わるのもどこか惜しい気がした。
西久保キャンパスの校舎の壁に彫刻をする一団があった。
「なんでぇ! なんで7部門に彫刻がないんだよぉぉぉ! どんなもん作ろうかと楽しみにぃ、してたのによぉぉぉ!」
良介は一心不乱にサメと道化師を掘り続ける。
「俺はぁ! 彫刻をぉ! 作りぃ! 愛するぞぉぉ!」
「すげぇ勢いだな」
ギィイイイ!
シーゼルのチェーンソー剣が唸りを上げる。大胆にカットして細部は任せる分担だ。
千尋は龍虎相搏つ構図を掘り、紫苑はベースを持つ女神像を前に思案顔。
自分がモデルなのだが、
「うーん、やっぱり実物の方が美人よね」
「こらぁ! あんた達なにやってんの!」
「やば! 奥ちゃん先生だ!」
担任に見つかり大目玉。校舎を作品にするんじゃありません!
「それじゃ、これ壊さないとだめなの?」
「先生! せめて一つだけ……良介のだけは残すわけにはいきませんか?」
「お前ら……」
生徒達の必死な顔を見て、奥井先生はため息ついて、
「あんた達がこんだけ努力した物を、爆発を、担任の私が壊せとか言えるわけないでしょ? 私がかけあってあげるわよ!」
「先生!」
「ただし! 絶対に最後まで立派に仕上げなさいよ?」
「はい!」
後日こってり絞られて課題と反省文を出されたけれど、作品は無事完成することになる。
●
明日はいよいよ発表会当日。
作品の仕上げや芸の最終調整に居残っている者も多い。
「う、動け、私の右手……爆発させるんだ、私の芸術を、パラパラ漫画を……!」
精根尽き果てながら、文は遂に作品を完成させた。
同時刻。
「やった……これこそ、僕の芸……術……」
伝斗はパズルゲームをプレイしてブロックでドット絵を描く偉業を成し遂げ果てた。
その満ち足りた顔を、外からの光が照らす。
「あはは、全然予定にないけど、委員長が前夜祭ならぬ前夜会の開催をお知らせしまーす!」
ちゅっどーん!
亜樹キャノンが景気よく一発。
明日の本番に向けて、皆にエールを!
「さあ赤染、気兼ねなく打ち上げろ! いざというときは俺に任せておけ!」
全力で手伝ってくれた司馬。その想いに応えるように、達紀はリハ用の速射式連発花火スターマインに点火する。
ヒュッ!
ドドンドンドン! パーン!
夜空に咲く、色とりどりの華。
ユーキの花火も打ちあがり、校舎壁に『武蔵坂学園芸術発表会記念作品』と花火文字が浮かび上がる。
「……うん。良い、出来……」
奏のジャッジメントレイの光条が彩りを添える。
「リア充爆発しろ! 八十年後くらいに家族に囲まれながら爆発しろォォおお!」
ちゅどーん!
ネタ爆弾によって奏はふっとんだ。
夜空の芸術。
学園は昼間のような明るさと活気を取り戻す。
「粉砕! 玉砕! 大喝采! フハハハハハハハ~」
ネメシスが高笑いを上げると、空の彼方で閃光が煌めいた。
祭りでもないのに大騒ぎな喧騒を、達紀は楽しむ。
「なんつうかさ、皆違う個性がある中でさ、皆一緒に同じものを見てさ、皆がそれを楽しめるんだ。それって皆がつながってる感じがしてさ、なんかすごくないか?」
孤高さが芸術なのではなく、誰もが楽しめる大衆的な娯楽も芸術足りえるのではないか。
司馬は達紀と拳を突き合わせた。
「やったな」
「ああ! ……たーまやー!」
花火に照らされながら、内蔵助は告白した。
「ワイ、リタのことほんまに好きやねん。真剣にお付き合いせぇへんか?」
リタは嬉しげに答えた。
「今のところ、僕の恋人はお笑いなんだ」
パッ……パラパラパラ……。
花火が弾けた。
気分の昂揚した生徒達は次々と、ステージに上る。
「一番、句上重蔵、人間爆弾やります!」
全身にダイナマイトを巻きつけた重蔵がちゅっどーん!
木端微塵と思ったら舞台下から登場。実は生きていたー!
わぁあああ!
「二番、ススメ、瓦割ります」
えいや!
わぁあああ!
「素晴らしい! ハハハハハ!」
緋桐は高所から花びらを撒布する。
「三番、神坂鈴音! この写真を見てー!」
大型モニターに映し出されたのは、仲睦まじい大型犬にじゃれつく仔猫の写真。
きょとんとする観衆を前に、鈴音は叫んだ。
「先日センパイは教えてくれました、リアルを充実させて爆発しろと! リア充爆発しろ、つまり、リア獣爆発しろぉ!」
「ダジャレかあああ!」
ちゅっどーん!
「おあとがよろしいようでー!」
アフロをかぶってさっさと退散。
続いて登場、音緒と大和。
「『World of Blood』っていいます! ボクらの曲を聴いて、ボクらのこと覚えてください! 曲は『ギャラクシークラッシャー』!」
大和のエレキギターに乗せて音緒が歌う。
パッション全開。ノリノリ高速弾き。
「地球規模の、ちっぽけな鳥かご、抜っけ出して、翔け回れ~、ギャラクシィクラッシャー♪」
締めはジャンプして、同時に花火と紙吹雪。
うぉおおおおお!
勇壮な出で立ちの京一と隆漸が、漢達の嬌声を浴びながら和太鼓を叩き、兎がライドキャリバーと魂を震わせるようなサウンドを響かせる。
等身大幼女フィギュアを持ったニアは、熱く主張する。
「かわいいは正義! 幼女はかわいい! つまり幼女は正義ぃ!」
うぉおおおお!
「細かいことは良いんです。みんな幼女を愛でろってことですよ!」
よ、う、じょ! よ、う、じょ!
たちまち湧き起こる幼女コール。
お祭りテンションなので、お嬢さん達はひかないであげてください。
「あ、おさわりはなしですよ。イエスロリータノータッチ、紳士たれです!」
そこへなぜかの馬マスク、ハリボテエレジー。
「中の人などいない!」
芸術に爆発する者達の宴はいつまでも続いた。
作者:池田コント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年11月22日
難度:簡単
参加:123人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 25/キャラが大事にされていた 12
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