横浜シューマイ怪人、あらわる!

    作者:君島世界

    「貴様ッ! 横浜の名物は何か、カタカナ五文字で答えろッ!」
     え、と、いきなり現れたそのシューマイコスプレの変人に怒鳴りつけられた横浜在住の小太り男性三十代は思った。……なんだろうこの、シューマイヘッドのマント怪人は。
    「ヒントその1! 横浜市内全土全域は言うに及ばず、最近は東京千葉埼玉でもお買い上げ頂くことが可能だッ! 名物の販路拡大、これこそ世界征服への近道なりイイィィッ!」
     えー、と、小太り男性三十代はそのシューマイコスプレの言葉に呆気に取られた。……確か俺の地元には、売ってるトコないよなあ。
    「ヒントその2! その名はシで始まってイで終わる、白くて小さな味の小宇宙だッ! この横浜の地に足を踏み入れた者すべからく最低十五個はお召し上がりになり、お土産に箱一ダースをお求めになられるべきであると、歌にも歌われておろうがッ!」
     ええと、と、小太り男性三十代はそれでも空気を読んで、一言シューマイとだけ答えた。……本当は相手にしたくは無かったが。そもそも歌って何の歌だよ。
    「素晴らしい! 君は真理に正解したッ! 横浜の名物はシューマイであるとッ! あ、お聞きの皆さんもどうぞメモなどお取りいただいて、ええ……、だがしかしながらッ!」
     話の最中にテンションを乱高下させながら、最後の『らッ!』でシューマイコスプレは両手の人差し指をポージングしつつ小太り男性三十代に突きつけた。
    「何故貴様、その手提げ袋に横浜の至宝シューマイをお持ちになっておらぬのかッ! 見たところ貴様、横浜市民である事は明々白々……ならばッ!」
     そしてシューマイコスプレは、小太り男性三十代の両肩を、シャレにならない握力でしっかと抑え付けた。……あ、なんか詰んだっぽい。
    「朝はシューマイトースト昼はシューマイメンおやつにシューマイ夜はシューマイフルコースの全食シューマイ生活にッ、何故ならぬのかアッ! 我輩の決定事項である以前に、横浜市民の義務であろうがッ! 猛省せよッ!」
     
    「さて、『横浜シューマイ怪人』がとある駅構内に現れ、そこで大暴れする未来を察知しました。その名の通り、ご当地怪人――ダークネスの仕業ですので、バベルの鎖の力による予知をかいくぐり、ダークネスに迫ることができる、灼滅者である皆さんの出番ですね」
     教室に集った灼滅者たちを前に、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は説明を開始した。
     横浜シューマイ怪人は、とある駅構内で、荷物にシューマイが含まれてない人を手当たり次第に襲う、という凶行に及ぶ。かと言ってシューマイを持っていれば安全というわけでもなく、数が少ないことに逆上し、やっぱり襲いかかってきたりもするので、迷惑であることこの上ない。
     気づかれずに戦闘可能範囲まで接近するには、構内からではなく、電車を降りて直接攻撃を開始する他に手段は無い。『進行方向前から四番目の車両、その一番後ろの乗降扉』が最近の位置となるので、狙ってその場所に乗り込んでほしい。
     そして横浜シューマイ怪人は、四種類のサイキックを使ってくる。ご当地ヒーローが操るものと同様のサイキックに加え、シャウト相当の自己回復を持ち、単体での戦闘能力もかなりの物となっている。決して一対一での戦闘を挑まないように、各員肝に銘じてほしい。
    「シューマイの妄執にとらわれたこの怪人には、もはやいかなる説得も通じないでしょう。灼滅し、被害の拡大を食い止めることが、皆さんの使命です。必ず倒していただけますよう、お願いしますね」
     と、姫子は、徹頭徹尾真面目な表情で、一同に礼をし、説明を終えた。

     姫子が教室を出る前に、一人の灼滅者が手を挙げ、彼女を呼び止める。
    「横浜シューマイ怪人が使うサイキックですか?
     ええと、『シューマイキック』、『シューマイビーム』、『シューマイダイナミック』、それと『ハマの栄光、シューマイの威容を称える我輩のシャウト』の四種類、ですよ?」
     姫子は一息にそう言い切った。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    六六・六(不思議の国のアリス症候群・d01883)
    神無月・晶(3015個の飴玉・d03015)
    野々上・アキラ(レッサーイエロー・d05895)
    羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)
    百舟・煉火(彩飾スペクトル・d08468)

    ■リプレイ

    ●ヒーロー、登場!
    「そこまでだ、横浜シューマイ怪人!」
     午前3時、横浜シューマイ怪人の登場に騒然となった駅構内に、停止した列車から正義に燃える8つの人影が滑り出した。
    「――変身!」
     先頭を駆けるのは、8人の中でも一際小柄な少年だ。その全身には疾走の1歩ごとに装備が追加されていき、怪人の目の前に到着する時には、赤いマフラー、赤い手袋、さらに出身ご当地を示す羊の角を装着したヒーローとして、そこにたたずんでいた。
    「我輩の野望を邪魔するとは! おのれ貴様ら、何奴ッ!」
     拳を横に払い、怪人は不機嫌を隠さず怒鳴りつける。その怒号を涼風にいなし、少年――羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)は声も高らかに名乗り上げた。
    「日本列島! 全国各地! ご当地愛がある限り! 北国のニュー☆ヒーロー『羊飼丘・子羊』、参上!」
     最終装備として現出した天星弓を子羊が一振りすると、背後に新たな風が吹き荒れる。よく見ればそれは人間……いや、ヒーローの姿をしており、瞬時に怪人を完全包囲した。
     布陣の中から前衛として、野々上・アキラ(レッサーイエロー・d05895)が一歩を踏み出す。ただならぬ事態に腕を組んで構える怪人へ、アキラは激烈な正義の視線を向け口上を叫んだ。
    「ご当地の自由と平和を守る、ハマのヒーロー『野々上・アキラ』、ここに見参!」
     声と共に堂々と掲げられたWOKシールドの横に、更に2つの殲術道具が振り上げられ、その全容をあらわにする。1つは百舟・煉火(彩飾スペクトル・d08468)のカスタム品、身の丈ほどもある偉容を誇る無骨な縛霊手だ。
    「横浜を愛する者が貴様だけだと思うな! 情緒溢れる文化と景観を守る、ヨコハマヒーローその2『百舟・煉火』、推参だっ!」
     その異形に負けぬ巨大さを不定の実体として持つ、霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)のバトルオーラもまた、天高く堂々と掲揚されている。脇に控えるライドキャリバー、『ドラグシルバー』の咆哮を契機として、竜姫はオーラを纏ったまま怪人を指差した。
    「――そんなちっぽけなシューマイじゃ、竜の腹は満たされない。横浜シューマイ怪人! この『霧島・竜姫』が、赤レンガをお前の墓標としてやろう!」
     竜姫の挑発にしかし、怪人は風にシューマイマントをはためかせるのみで、直立不動だ。そのシューマイヘッドに現れる表情には、不敵な余裕がうかがえる。
    「ククク、小癪ながら丁寧な挨拶痛み入るッ! その礼に答え、我輩も魂の本名を名乗らせていただこう!
     我輩こそ『横浜シューマイ怪人』! しかと覚えよ、我が主『大首領グロバールジャスティス』様に次いで、貴様らが地獄の底で語り継ぐに相応しい名であろうッ! ……さて、貴様」
     と、こちらも口上をキメた怪人は、後方で何かを待つように棒立ちになっていた一人の少女――アプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)に声を掛けた。
    「そう貴様。貴様である。……我輩あえて再び問うが、貴様何奴だ!」
    「悪党に名乗る名はないでやんす!」
     アプリコーゼは怪人のフリに即行で答えた。
    「ないでやんすが、倒される相手の名も知らないというのもまた不憫っす。『アプリコーゼ・トルテ』、ここに推参っす!」
     バシーン! という書き文字効果音が似合うポーズを取り、キラキラした笑顔で口上を述べるアプリコーゼの横で、水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)は冷めた表情を邪な笑みに歪ませ、手を挙げる。そこには、彼女が事前に用意したものであろう、餃子の土産箱が吊るされていた。
    「あー、なんか色々お約束読んでもらってる所悪ぃが、私は『通りすがりの餃子愛好家』だ。命が惜しくば餃子食え」
    「我輩シューマイの他に口にする固形物無しと心に決めたものであるッ! そもシューマイとは完全食であってだな――」
     別の食べ物を引き合いに出された怪人が、唐突にその自論を語り始める。熱意こそ伝わるものの、正面から仔細に聞けば失笑間違いなしな論ではあった――が、そうする者はいなかった。というのも、
    「はーい、危ないのでヒーロー達と怪人には近づかないで下さいねー。映画の撮影かって? ええまあ、違うんだけどね」
    「彼らが、来たからには……もう大丈夫、的な? 危険は、ないけど、できればみんな……にげてね?」
     神無月・晶(3015個の飴玉・d03015)と、六六・六(不思議の国のアリス症候群・d01883)の二人が、周囲の一般人の避難を促していたからである。
     その目立たぬ働きの結果として生まれつつある駅構内という戦場の中、演説を続けながらも彼女たちの動向を横目で眺めていた怪人は、戦域の確定と共にその両腕を広げ、ついに彼を囲む灼滅者たちへ宣戦を布告した。

    ●白昼の決戦!
    「ではこれより、貴様らを直々に叩きのめし人々にシューマイの偉大さを教育してやろうッ! その礎となること、光栄に思えッ!」
     ビシイ! と灼滅者たちへ指を突きつける怪人。その頭頂、シューマイヘッドに設置されたグリーンピース状物体に鈍く輝く力が集結していき、限界を超えて放たれんとした直前、アプリコーゼが一枚の皿を突き出した。
    「ふっふっふ、こいつが目に入らないっすか、横浜シューマイ怪人!」
    「のあッ! 貴様、それは……!」
     三つ指の上で危うくバランスを保たれているその皿の上には、山盛りのシューマイが乗せられていた。わざとらしく左右に傾けてみせるアプリコーゼを前にして、怪人は嘆きの声を上げ、怒りに震える目でアプリコーゼを睨みつけた。
    「ぬうッ、卑怯なり小娘! やはり我輩に刃向かうような非シューマイ者には、矯正が必要かッ!」
    「攻撃を受けるのはもちろん、この両手持ちの杖をあっしに構えさせたらどうなるか……わかるっすよね?」
     ビームを貯める姿勢のまま微動だにしなくなった怪人を前に、悪そうな笑顔を浮かべた煉火が、これ幸いと怪人の懐へ走りこむ。
    「ふはは、『ヒーローは正々堂々と戦うもの』という常識に騙されたな怪人め! シューマイを浸透させる貴様の目論見を、ボクが真空パックにしてくれるわ……!?」
     踏み込んだその時――技をかけようと間合いに入った煉火の首筋に、得体の知れない冷や汗が落ちた。ヤバい、という瞬間の判断が脳裏を走る。しかし煉火には、もはや己を動かす一連の流れを止めることはできず、ならばと突き出した渾身の掴み手は、空を切った。
    「な……」
    「――シューマイ、ビイイイィィィームッ!」
     一閃、煉火から数歩の距離を離した怪人の光線が、アプリコーゼに直撃した。
    「え、うわ、ひゃあぁー……」
     放ったビームの勢いを殺しきれなかったアプリコーゼが、駅構内の硬いコンクリート床をごろごろと転がっていく。皿の上にあったシューマイは宙に跳ね上げられ、しかしそのどれもが地に落ちることは無く、いつの間にか大口を開けて落下点に構えていた怪人が、その全てを一口に回収咀嚼し、飲み込んだ。
    「嗚呼。やはりシューマイは良いものであるな。我輩の怒りを優しく包みこんでくれる、その純白の……」
    「にゃーお」
    「……にゃーお? おおッ!?」
     思わぬ収穫に一息を入れてしまった怪人を、突如冷気が包み込む。折角上がったシューマイ熱量を、と憤る怪人が向けた視線の先には、その髪色に等しいピンクと、目を奪うパープルとの2色にきらめくエプロンドレスに身を包んだ、灼滅者・六の姿があった。
    「さあ、はじまるよ? 不思議な時間だよ?」
     その攻撃は冷たさだけでは終わらない。六が三日月の怪笑で弄ぶ鋼糸の擦過に合わせ、怪人は不可視の悪意で零度下に祟られたことを知った。
    「冷凍シューマイ、だね。いい感じ……的な?」
    「むむゥ! 我輩このままでは即身シューマイとなりかねぬか! ……望むところもとい時期尚早ッ!」
     錯乱を始めたのか素なのか、シューマイバトルスーツの端々を氷に食われた怪人は、しかしその言動の一切を止めてはいない。両手両足を大の字に広げ、待ち構えの姿勢を取る怪人に、輝く拳のアキラが挑みかかった。
    「怪人め! 横浜の名物はシューマイだけじゃねえと、オレが教えてやる! 行くぞ、サンマービーム!」
    「ふうむ、来いッ、サンマーメンなる自称名物の使徒よッ! 我輩がその傲慢を粉々に打ち砕いてくれるわ!」
     挑むは麺類、待つは点心、同じご当地名物としてどちらも譲れぬ者同士、相対する2者の間に乾いた風が吹く。……と、その緊張をまるで気にしないかのように、怪人は口を開いた。
    「ところで我輩、汁物でもある麺の上に魚を置くのはどうかと思うぞ。それに丼よりはみだすであろう、サンマでは」
    「そっちの秋刀魚じゃねえええぇぇぇっ!」
     サンマービームは全弾命中した。

    ●横浜シューマイ怪人の最期!
    「そう、横浜名物はシューマイだけじゃないんだ! 横浜シューマイ怪人!」
     片膝を付き、シューマイヘッドの鼻と口と思わしき箇所から煙を噴き上げる怪人に、北国出身である子羊が、下向きの指差しを突きつける。
    「この横浜にはまだ沢山の名物があって、それぞれを愛し、応援してくれる人たちがいる! それを切り捨てるのはいけないよ!」
    「――この我輩に、この我輩に! この我輩に『理』を説くか、貴様ッ!」
     対し、あくまで前方上方向、睨め上げの体勢を崩さない怪人との間で、衝突する視線が火花を散らした。もはや言葉など要らぬと、立ち上がりキックの構えを取る怪人と向き合いながら、子羊はその羊の角に光を集め始める。
    「これが僕の、ご当地を愛する正義の力! 喰らえ……! 子羊☆ビーム!」
     己の名を、そして故郷北国への思いを冠する子羊のビームが、眩い光とともに放たれた。本日二度目となる、ご当地への想いと情熱、そして何よりも愛を込めた光線の激突に、さしもの怪人もたたらを踏んで堪える他に抗う術はない。
    「ふぬうゥゥッ! も、持ちこたえてみせるッ! シューマイの為、大首領様の為にも――」
    「――そうさ。ここにいる誰にだって戦う理由がある。私だってそうさ。私はな、怪人」
     ビームの軌跡に煙る陽炎の向こうから、己の体躯を超える長さの無敵斬艦刀を背負った瑠音が現れた。そのゆっくりとした歩みに合わせ、彼女の纏う炎が、静寂の青から闘志の赤へと燃え変わっていく。
    「理由だと!? 己を捧げるに足る存在も知らぬような若輩者が、我輩を前にして何をか言わん!」
     隣接する一歩を始点に、瑠音は得物を振り上げる。
    「私はな……、シューマイについてるグリーンピースってやつが無性に許せなくてな」
    「そ、そんな理由でかあああぁぁぁぁッ?」
    「納得したなら、この一撃でこんがりうめぇ焼きシューマイにしてやるぜぇ。……必殺、ちゃぶ台返し」
     瑠音は上段の無敵斬艦刀を小手先で返し、紅蓮のレーヴァテインを切り上げた。炎禍の舌は怪人の全身を舐め尽くし、火柱となって燃え上がる。
    「……や、やったっすか?」
     戦線に復帰したアプリコーゼが思わず言ってしまう感嘆の向こうで、だが、しかし、怪人のシルエットは、揺らめきながらもその力を失わない!
    「真白く! 強く! 柔らかく! 風に冷めてもなお美味く、熱々ならばより旨く! ぬおりゃあああアアアぁぁぁッ!」
     次の瞬間、怪人はその身を覆う全ての邪魔者を、気合の一発で吹き飛ばした。総身に立ち上る脂汗の白煙が、怪人の振り絞った死力の凄まじさを物語る。
    「今の、シューマイを讃えるシャウトだったのかな。ちょっとというか、すごく五月蝿かったけど……、うん」
     その様子をつぶさに見ていた晶であったが、口元にはかすかに笑みが浮かんでいる。ヒーローたちと怪人の戦い……先も言ったとおり危険な代物ではあるが、自分は眺めるだけでなく、その中で応援として、回復役として手を貸せるのだ。
    「なら、ちょっとだけでも盛り上げてみようか。
     行くよヒーローたち! 絶対に負けないよう、もっと頑張れるように、僕が応援歌を歌ってあげるよ!」
     両手を大きく広げた晶の喉奥から、天上の美声が紡ぎ出された。メロディーはどこかできいたような、懐かしさを覚えさせるものだ。
     その歌声にヒーローたちは再起し、新たな力を握り拳に秘めようとする。その様を晶は温かく見守り、微笑を深くするのだった。
    「さて、シューマイ怪人さん。あなたに1つだけ、質問があります。私たちの攻撃を、未だに凌ぐその力で――」
     彼ら灼滅者が到着する前、ここに現れ、狼藉を働こうとした時とはまるで違う騒然の中、ライドキャリバーを手で制した竜姫が怪人に歩み寄った。間合いはどちらにとっても必殺、一触即発の気配が、急激に濃厚さを増していく。
    「――その力で、あなたは何をしようというのですか」
     一拍を待ち、怪人は声も朗々と答えた。
    「フウハハハハ! 知れた事ッ! 我輩の理想に基づく全くのご当地支配と、我輩の信念に基づく全くのご当地統治よ!」
     高笑いを続ける怪人を前に竜姫は、そう、と呟いて目を閉じる。――そして。
    「レインボー……キック!」
    「シューマイ……キイイィィーック!」
     二人は同時にキックを放ち、空中で交錯した。

    ●決着、そして……?
     爆発は七色、胸に竜姫の足跡をつけた怪人は、力なくその場に倒れこんだ。
    「こ、今度こそ! 今度こそやったっすね?」
     その動かなくなった体を杖でつつき、おっかなびっくりアプリコーゼが確認する。竜姫は上がりきった呼吸を整え、ライドキャリバーによりかかった。
    「シューマイ怪人……強敵でした」
     同じく見下ろしながらも、煉火と晶はそれぞれに怪人へ声をかける。
    「あいつが闇に堕ちる前なら、いい友になったかもしれんな……」
    「成仏しなよ……」
     その想いだけは本物だったと、二人だけでなく全員が一瞬目を閉じた。そして、瑠音が気だるそうに口を開く。
    「いやー、しかし戦った後は腹が減ったねぇ」
    「そういえば3時はおやつの時間! シューマイ買って食べた―い!」
    「おいしい、シューマイ……mgmgだよね?」
     その言に乗った子羊と六が、場を離れ始めた瑠音と同じ道を歩き始めた。横浜の食べ物ならば、とアキラも、その横に並ぼうとする。
    「そうそう、実はスパゲティナポリタンも横浜が発祥なんだって! こっちもカタカナ5文字だし……ん?」
     と、アキラの視界の端で、怪人の指先が動いたような気がした。
    「みんな、下がって!」
     気づいた煉火とアキラの二人が、全く同時に行動する。背後の仲間を、横浜の人々を守るように立つご当地ヒーローを尻目に、ゆらりと立ち上がった怪人は懐からシューマイ型爆弾を取り出した。
    「――この身の運命定まろうとも、この我輩、後進に恥ずべき最期は迎えぬものである。さらばよ!」
     ポチ、という耳に残る作動音を残して、爆弾は爆発した。その光爆をやりすごした灼滅者たちの眼前には、姿一つ影一つ、何も残ってはいなかった――。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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