痩せ行く身体

    ●都内某所
     こんな体型じゃ、お気に入りの服が着られない。
     ダイエットしなきゃ、ダイエットしなきゃ。
     鏡を見るたび、唱える呪文。
     ダイエットをするため、食事を制限し、適度な運動もしているはずなのに……。
     だが、鏡に映った自分は、太ったまま。
     そんな現実を目の当たりにするたび、食べたものを吐き出す毎日……。
     おかしい。有り得ない。そんなはずはない。
     否定的な言葉が頭の中を支配する。
     自分なりに気を付けているはずなのに……。
     食事制限だってしているし、間食だってしていない。
     きっと、鏡が悪いんだ。
     鏡のせいで太っているように見えるだけ。
     本当は痩せているはず。
     そうだ、きっとそうに違いない。
     いや、絶対にそうっ!
     みんな、この鏡のせいなんだ!!

    「そんな都市伝説から生まれたのが、今回の都市伝説だ」
     割れた鏡の写真を並べつつ、神崎・ヤマトが深い溜息をもらす。

     今回、倒すべき相手は、全身を映し出すほど大きな鏡の都市伝説。
     コイツが傍にいると、自分が太ったような錯覚を受け、物凄く嫌な気持ちになってしまう。
     しかも、鏡に映った自分が醜く太ったブタのように見えるため、だんだん食事を取らなくなり、衰弱死してしまうようだ。
     現在、コイツが確認されたのは、都内某所にあるマンション。
     ここに住むモデル志望の女性宅に、コイツが置かれているようだ。
     ただし、女性はノイローゼ気味になっており、人とまったく会おうとしない。
     まずは彼女を説得して、部屋の中に入らなければならないが、迂闊な事をすると逆に怪しまれてしまい、都市伝説の退治どころではなくなってしまう。
     まあ、最悪の場合は魂鎮めの風を使って、眠らせてしまえばいいと思うが……。
     ちなみに都市伝説はターゲットとなる相手を醜く映し出す力を持っており、その姿を他の鏡に映して、とても嫌な気持ちにさせる。
     被害者女性の家には大小様々な鏡が置かれているから、効果は絶大!
     ダイエットしなければならないという強迫観念に襲われ、物凄くヘコむ。
     それだけの能力しかないようだが、物凄く嫌な気持ちになる事は間違いないから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    七里・奈々(恋スル七ハ百万馬力・d00267)
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    星詠・雪風(姫蛍・d01172)
    ディアス・シャドウキャット(影猫スキル・d01184)
    如月・昴人(素直になれない優しき演者・d01417)
    禄此土・貫(ストレンジ・d02062)
    ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)
    アイネスト・オールドシール(アガートラーム・d10556)

    ■リプレイ

    ●見た目とのギャップ
    「なんともけったいな都市伝説やなぁ。そういや、どこぞの国の拒食症の危険を訴えるCMで似たようなのを見たような気がするわ……」
     しみじみとした表情を浮かべ、アイネスト・オールドシール(アガートラーム・d10556)が都市伝説の確認されたマンションにむかう。
     事前に渡された資料を読む限り、このマンションの3階に、被害者女性が住んでいるらしい。
    「まあ、自分の醜い姿なんて、誰だって見たくないだろうね。普通の自分の姿っていうのを覚えているなら、尚の事……」
     女性の気持ちを察した上で、禄此土・貫(ストレンジ・d02062)が溜息をもらす。
     おそらく、女性も最初は何となく気になる程度であったが、都市伝説が現れた事によって、いくら頑張っても痩せていないと思い込み、過激なダイエットをするようになり、家の中に閉じこもるようになってしまったのだろう。
    「どちらにしても、乙女の心理を悪用した、嫌な都市伝説ですね……。確かに、ダイエットは大切なのかもですが、それで命を落としてしまっては元も子もないのです。だからと言ってノイローゼ気味のところに、大人数で押しかけたりしたら、玄関先で扉も開けずに突然ヒステリックに叫んだりするかもです」
     近所の住民に怪しまれないようにするため、星詠・雪風(姫蛍・d01172)が旅人の外套で姿を消す。
     それに出来るだけ相手を刺激しないためにも、人数が少なく見えている方が何かと都合がいい。
    「あの、すみません」
     仲間達の準備が整った後、貫が被害者達のインターホンを押す。
     そして、被害者女性がドアホン越しに応対したのを確認してから、ダイエット経験者を装って、被害者の話を聞こうとした。
    「……間に合ってます」
     だが、冷たくピシャリ。
     おそらく、こういった話に何度も食いつき、虚しく散っていったのだろう。
     ドアホン越しでも、被害者女性が警戒している様子が嫌と言うほどわかった。
    「あ、あのっ、いきなりで悪いけど、最近おかしい事とかない? 急に自分が太っちゃったとか! それってズバリ! 悪霊にとりつかれてるのよっ! 奈々達が除霊するから中に入れてくれないかなっ」
     相手が反論する余裕すら与えず、七里・奈々(恋スル七ハ百万馬力・d00267)がドアホン越しに捲し立てる。
     これには、女性側も呆れ果て、『話を聞いたら、帰ってくれる?』と弱腰ムード。
    「もちろん!」
     そう答えたのと同時にドアのロックが外された事に気づき、貫が女性に対して魂鎮めの風を発動させた。
     方法としては、かなり強引であったが、可能な限り痕跡を残す事無く、都市伝説を倒した方が、お互いの為になる。
     そう言い聞かせつつ、部屋の中へ。
    「……まるでゴミ屋敷だな。その上、あっちも鏡、こっちも鏡。何だかイライラしてくるぜ!」
     不機嫌な様子で辺りを見回し、影道・惡人(シャドウアクト・d00898)が愚痴をこぼす。
     しかも、鏡に映った自分が、かなり醜く太っている。
     これも都市伝説の力なのだろう。
    「体重計に乗れば気付きそうなものだが……。まぁ、体型が歪んでいるのに乗る勇気は無いか」
     自分なりに納得しながら、ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)が部屋の奥へ。
     だが、これだけの力を持っている都市伝説なのだから、体重計の数値を増えたと錯覚させる事など容易な事だろう。
    「でも、ちょっと面白いですね」
     女の子の格好をしたまま、ディアス・シャドウキャット(影猫スキル・d01184)が自分の体を鏡に映す。
     そこに映っていたのは醜く太った自分自身の姿であったが、都市伝説の力を知っているせいか、思ったよりも気にならない。
     それどころか、『実際に太っていたとしても、鍛えてマッチョになればいいか』という考えが脳裏に過る。
    「すまん、覚悟はしとったんやけど……」
     目の前にあった鏡を叩き割り、アイネストがサッと視線を逸らす。
     事前に如月・昴人(素直になれない優しき演者・d01417)がサウンドシャッターを使っていたおかげで、鏡を割った音が外部に漏れる事はないが、アイネスト自身は未だに怒りを収まらない様子でイライラしているようだった。
     それを嘲笑うかのように、部屋の一番奥にある大鏡に映ったアイネストが笑う。
    「……!?」
     アイネストはそれが都市伝説であると、本能的に理解した。
    「歪んだ鏡は捨てなきゃいけない、鏡は事実を見せるものなんだ」
     都市伝説と対峙しながら、昴人が伊達眼鏡を握り潰す。
     歪んで映された自分の姿に苦しんでいる被害者に、劣等感ゆえ家出した自分をどこか重ねて見ているためか、彼女を救い出す事で自分自身も成長する事が出来るように思えた。

    ●鏡に映った自分
    「あれだけの事をしたんやから、もちろん覚悟は出来ているんやろうな」
     殺気に満ちた表情を浮かべ、アイネストが鏖殺領域を展開する。
     だが、都市伝説は怯むどころか、鏡に映ったアイネストの姿を使い、『掛かって来い!』と言わんばかりに舌を出す。
    「この都市伝説は紛れも無く女性の……いや、全人類の敵だ!!」
     鏡に映った自分自身の姿を見て激昂し、ヴァイスがブラックフォームを使う。
     その間も都市伝説はヴァイス達の姿を代わる代わる映し出し、挑発気味に滑稽な踊りをさせる。
    「こ、こんなの、奈々じゃないもんっ!」
     ムッとした表情を浮かべ、奈々が預言者の瞳を使う。
     しかし、都市伝説は鏡に映った彼女を使い、だらしなく伸びた腹をたっぷんたっぷんと揺らす。
     そのため、奈々が顔を真っ赤にして、都市伝説に突っ込んで行こうとした。
    「お、落ち着いてください。あれは幻。ここで我を失って戦えば、それこそ都市伝説の思うツボです」
     すぐさま奈々を取り押さえ、ディアスが必死になって説得をする。
     奈々自身もその事は理解していたつもりだが、あんなものを見せられて冷静ではいられない。
    「おぅ、その通りさ。みんな、ぶっ壊しちまえばいいんだよっ! ただし、一人で突っ走るな。俺達が怒りをぶつける相手がいなくなっちまうからな」
     ランドキャリバーのザウエルに跨り、惡人がガトリング連射をする。
     その一撃を食らって大きな鏡は割れたが、今度は他の鏡が惡人達の姿を映し出した。
    「なるほどな。本体は別か」
     納得した様子で割れた鏡に視線を送り、昴人が百億の星を発動させる。
     次の瞬間、大量の矢が降り注ぎ、まわりにあった鏡を割っていく。
     その間も昴人は大鏡から視線を逸らさない。
    「……ん? でも、確か都市伝説は大きな鏡だって言っていた気が……。他に大きな鏡なんて……、ないと思うけど……」
     キョトンとした表情を浮かべ、貫が大鏡に視線を送る。
     昴もその事実に気付いて、様子を窺っているのだろう。
     大鏡に映った自分が明らかに動揺していた。
    「このまま倒されたふりをして、僕達が帰るのを待っていたと言う訳ですか。もう容赦はしませんよ」
     霊犬の毘沙丸に合図を送り、雪風が闇の契約を発動させる。
     それと同時に毘沙丸が都市伝説に飛び掛かり、残っていた鏡の破片を払い除けるようにして攻撃を仕掛けていった。

    ●都市伝説
    「……たくっ! くだらねぇ真似をしやがって。望み通り、粉々にしてやるよ」
     邪悪な笑みを浮かべながら、惡人がザウエルに乗ったまま突っ込んで行く。
     だが、都市伝説は避ける事が出来ない。
     そのままザウエルに突っ込まれ、鏡としての形すら維持する事が出来なくなった。
    「別に壊しちゃってもいいよね?」
     念のため、仲間達に確認をした後、貫が都市伝説に光刃放出を仕掛ける。
     それでも、都市伝説は逃げる事が出来ない、動けない。
    「こんちくしょーっ! 乙女の怒り、思い知れーっ!」
     自らの怒りを爆発させ、奈々がマジックミサイルを撃ち込んだ。
     都市伝説の体は、既にボロボロ。
    「そろそろ、終わりにしましょう」
     次の瞬間、ディアスがバスタービームを放ち、都市伝説を跡形もなく消滅させた。
    「毘沙丸、お疲れ様」
     都市伝説が消滅した事を確認し、雪風が毘沙丸の頭をヨシヨシと撫でる。
     おそらく、都市伝説は予想もしていなかったのだろう。
     自分を滅ぼす存在が、この場に現れるとは……。
     故に倒されたフリをして、何とか生きながらえようとしたのかも知れない。
    「――むぅ、一度気にすると意外と気になってしまうものだな……」
     若干不安そうな表情を浮かべ、ヴァイスが鏡の破片に映った自分を眺める。
     しばらく、甘いものを食べる事を控えよう。
     そう心の中で自分自身に言い聞かせ、鏡の破片から視線を逸らす。
    「おとぎ話に出てくる魔法の鏡の言葉が、ヒロインを苦しめるというのは現実も同じなんやなぁ。……まぁ、今回のヒロインもハッピーエンドになったらええわなぁ」
     しみじみとした表情を浮かべ、アイネストが深い溜息をもらす。
     未だに女性は眠ったままだが、目を覚ました後に鏡を見る事があったとしても、自分が太っていると思う事はないだろう。
    「とにかく、掃除だ。こんな状況で目を覚まされたら、シャレにならないぞ」
     そう言って昴人がテキパキと辺りを片づけていく。
     それを見た惡人が『俺ぁやらねーよ、んじゃな』と言って、その場を後にするのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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