事の発端は一人の少年が、地方都市の郊外によくあるマンガやゲーム、衣類やよくわからない雑貨等の古物品を取り扱う大型の店で『ある物』を見つけた。ただそれだけの何気ない出来事だった。
「うおおお! こ、これは幻のアイドル『MU0b00110000』のブロマイド!! こんなものが存在するのか!?」
少し不良っぽく色々なところを着崩した少年が店内のアイドルグッズを取り扱っているコーナーで声を上げた。
「『MU0b00110000』……それは人前やメディアでの露出が極めて低く、世に出回っているCDはマイナーなインディーズよりも少ない。何よりライブが異常に画質の低い、しかも告知なしの不定期ストリーミング配信という形でしか行われない。メンバーも果たして何人なのか、1人という説もあれば40人を超えているとの声もある、非情に不明瞭なアイドルユニットだ。その上メンバーの顔すらはっきりとしない。まさにその名の通り、実在するのかしないのか全く実態の掴めない、一流のアイドルマニアにしか知られていないとされる伝説のアイドル……そのブロマイドがこんな所にあるとは!」
「俺は1人でここに来たはずなのに、どこからか湧いて出て来て解説をしてくれてありがとう相棒」
「しかもこの価格……ここの店員はこのブロマイドの価値がわからないと見たな」
「そうなんだよ、相棒。今ならこれを手に入れてあの人に――」
次の言葉を紡ごうとする刹那の時、彼らの耳に「ククク……」と低い笑い声が聞こえてきた。
「何者だ!!」
「MU0b00110000のブロマイドを独り占めにしようとしているアホがいるのは此処か? ンン?」
「貴様は、我々の高校と敵対している高校の不良グループの四天王の一人!」
「やはり解説ありがとう相棒」
「クク……なら話は早い。お前らのような弱小グループにゃあ勿体ねぇ代物よ。さあ、そいつを渡せ」
「こ、断る! これは俺が最初に見つけたんだ!」
「今なら彼奴も一人。このジャングルのような店内をすり抜けてレジまで持っていけば……」
「オイオイ、そっちの解説野郎。解ってねぇな? この店ン中には四天王がもう1人。そして俺の舎弟が何人かいる事に気が付いていねぇのか? ン?」
「――! この気配……囲まれて、いるのか……!」
「ハッ! 今更遅ぇンだよ。ホラ、痛い目見ねェうちにさっさとそのお宝を渡せよ。な?」
「断る! そんなに欲しいなら俺と勝負しろ!!」
「「!?」」
第一発見少年の提案に、彼の相棒と四天王は驚いた。前者は正気を疑い、後者は呆れを通り越してのものだった。
「MU0b00110000ブロマイドを賭けての勝負とな? ならばその勝負、ワタクシたちも混ぜて貰いましょうか!」
「MU0b00110000追っかけ歴2年の俺っちも忘れてもらっちゃ困るぜ!!」
「MU0b00110000とは我が人生。即ち我、共に在りしは摂理為」
「お、お前たちは偏差値65オーバーの知的エリート不良軍団! 謎の風来アイドルマニア不良高校生! それからえーっとお前誰!?」
「解説ありがとう!」
「ククク! 愉快。実に愉快だ! ならばその勝負、受けて立つとしよう。今から1時間後、近くの河川敷まで来な! ここでやったら迷惑だからな」
「そうだな、迷惑だしな!」
「いいとも。ここでやったら迷惑だもんな!」
「では……散ッ!!」
「「「応!!」」」
なんだか妙に統率の取れた一行は次々と歩いて店の外へと出ていった。
残されたのはブロマイドと最初の2人。
「……勝機はあるのか?」
「なあ相棒。俺はあの人と知り合いなんだ。あの人の力を借りれば……」
「あの人……まさか、愛弩留総長の事か!?」
アイドル……総長!?
その言葉にまだアイドルグッズコーナーにいた他の客を緊張させた。
「まさか、あの」「手に入れたい物は力で手に入れると噂の、あの」「2次元、3次元、メジャーマイナー問わず全てのアイドルを愛するという、あの」などと真偽はさておきの噂話が聞こえてくる。
「よし、ならば電話だ!」
同時刻。
放課後の屋上でアイドル瞑想を行なっていた愛弩留総長――本名、藍導・ルイ――は携帯電話から聞こえた言葉に戦慄していた。
「MU0b00110000……!?」
かつて自分を熱狂させ、追い求めた幻のアイドルではないか。それが今になり、ブロマイドが見つかった……だと。
「しかもそれがケンカで手に入るかもしれない……。くっ、色々とやり過ぎて、やらかしてしまうような自分がいるが……MU0b00110000を賭けた戦いだというのなら、鬼にも悪魔にも、熱狂的ファンにでもなろう! うおおおおおオオオオ!! MU0b00110000を奪うもの、そしてアンチをシューセーしてやるッツ!!」
ルイは屋上から飛び出した。無論、階段を用いて昇降口まで降りる。それから駆け出すのだ。新たな闘争の幕開けへの期待と、自らの内にある黒い何かへの恐怖と闘いながら。
「どうにかしろ!」
どうにか……!?
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は全てを出し切っていた。
「ん、説明を求めている顔をしているな。いいだろう。俺のエクスマト」
概要を簡潔にまとめるとこうなる。
愛弩留総長、藍導・ルイは普通の高校生である。少し前までは。
以前は随分と荒れていたようだが中学時代にとあるアイドルと出会い、それからはケンカの数も減り、大人しくなっていったという。
だが高校に入るとそこには目に余るほどの『ワル』がいた。何というかこう、ついついそんなワルをボコボコにしまくってしまい、その後アイドル好きがバレ、ルイは高校最強と共に愛弩留総長の名を得た。
「そういう経緯もあってかルイはダークネス、アンブレイカブルに……なりかけている」
まだルイには人間としての意識が多く残っており、完全なダークネスではない。
「まだ救う余地があるという事だな。だからどうにかして闇堕ちを阻止して来い!」
しかも理由がアイドルグッズを奪取するためというのも、まあ無視は出来ないようなそうでもないような。
ところで闇堕ちしそうな一般人は心に感銘を与えればその戦力を削ぐ事が出来るのだが。
「ルイの弱点というか好物はまさにアイドル! アイドルでどうにか気を惹く事が今回の重要なミッションになるだろう」
ルイはMU0b00110000という暗号じみたアイドルにご執心の様子。
「しかしMU0b00110000はその存在が謎すぎて俺にもどうこうできん。ましてグッズを手に入れてそれで……というのはまず不可能だろう。だから」
ヤマトは懐からルービックキューブを取り出すとそれを人差し指と中指で挟み込み、灼滅者たちに付き突けた。
どうでもいいがMU0b00110000は今後MUと呼称する事にする。なげぇし。
「お前たちがアイドルになれ!」
どうしてそうなるのか。いや、そうなる他無い気がしてきた。
「どんなアイドルでも構わない。ルイを感動させ、無益な戦いをやめさせるような気にさせるんだ」
しかし中途半端はよろしくない。
やるなら、全力だろ?
「彼女を救い、学園に帰ってくる事を願っているぜ」
ニヒルに笑い、ヤマトはルービックキューブをしまい――。
「ああ、言っていなかったな。ルイは女子高生だ」
重要な情報をさらりと言ってのけた。
参加者 | |
---|---|
犬神・夕(黑百合・d01568) |
黄色・紬(エソラゴト・d02177) |
創流・鉄彦(振武の演者・d02420) |
海老塚・藍(フェザースターウインド・d02826) |
黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566) |
笙野・響(青闇薄刃・d05985) |
旋風寺・真(嵐を呼ぶゲーム小僧・d07228) |
斉藤・歩(劫火拳乱・d08996) |
●プロモーション活動
一人の粗暴そうな少女が脇目もふらず全力で走っていた。
だからこそ注意を怠っていたとも言える。
「間に合うか!?」
「このままでは委員会に遅刻してしまいます!」
「へ」
「!」
しかし功を焦ったか。不良風の少女、藍導・ルイは赤い縁のメガネを掛けた知的でクールそうな少女、黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)とごっつんこ。
双方の間に星が飛び散り、摩那が咥えていた食パンが虚空を舞った。
「つう……テメェ、どこ見て歩いてるんだ!」
「ああ、これはすみません。ええと、メガネメガネ……」
「メガネぇ? ……ん」
ふと、ルイの足下にはこれ見よがしに黒い縁のメガネが落ちていた。
「ホラよ、コイツか?」
「あ、ありがとうございます」
地面を手でわさわさしていた摩那はそれを受け取り装着。
……いや、摩那は『黒縁の瓶底メガネ』など掛けていただろうか。
「じゃあ、アタシは急いでるから」
「お待ちなさい、ルイさん」
「あ?」
「じゅあッ!」
知的メガネ少女には到底考えられない跳躍を見せ、摩那はルイの進路を塞いだ。
「何のつもりだ? てか、今アタシの名前を……」
摩那はようやく重力に負けて落ちてきた最初に咥えていたパンを人差し指と中指で掴み取ると、
「ルイさん、どこに行くのです。学校さぼりですか」
豪快かつ楚々とした所作でパンを食らった。
「は? 今放課後だし……」
「今日は掃除当番でしょ。サボリだめです」
「いやそれは……って、そんな事よりもMUを!」
ルイが摩那を振り切って駆け出そうとしたその時。
「あ、あれは! ウワサの委員長アイドル『マーナ』なのです!」
どこからともなく現れた事情通っぽい少女、黄色・紬(エソラゴト・d02177)が嬉々として叫んだ。
「なにィ、アイドル!?」
「普段は赤縁メガネの普通の女の子。しかし黒縁ビン底メガネをかけると、世の不正を質そうとする正義のアイドル、委員長マーナとなるのです! ファンはマーナに叱られる事を至上の喜びにしているとかどうとか」
「ルイさん、あんな危険な速度で走っては他の人に迷惑がかかるでしょう?」
「ううっ、ハイ……。い、いやだが、こんな路地裏でアイドルとごっつんこだなんてありえない!」
ルイはこの出会いはなかった事にするかのように再び地を蹴りこの場を去る、
「アイドルは場所を選びません。真のアイドルとは、何時如何なる時も、輝きを失わない者なのだからっ」
「!?」
事は出来なかった。
清楚で上品なドレスを纏った清浄な輝きを放つプリンセス。そう呼称するに相応しい少女が行く手に現れたのだ。
それはプリンセスモードを全開にした犬神・夕(黑百合・d01568)。
「ああっ! 今度はは近接戦闘型アイドルの犬神・夕なのです!」
「き、近接戦闘?」
「はいっ、近接戦闘。ああ見えて犬が大好きというのが実にキュートですよね」
「え? あ、ああ。ところで近接戦闘って」
「今日のあの衣装……実に良い色なのです! 匂い立つカレーのような! そういえばカレーは玉ねぎを飴色になるまで炒めると聞きますが、吉祥寺駅から徒歩3分。そのカレー屋は黄金の光を」
「だから近接戦闘」
とにかく凄いらしい事がわかった。
吉祥寺のカレー屋が。
(「……と、自分で言ったものの……嗚呼、我ながら似合いませんね、これは……」)
「夕とやらの言う事ももっともだ。この輝きはアイドルのそれに違いはないだろうッ!」
などと気にしていたが、夕のプリンセス姿にはもっと自信を持っていいのかもしれない。
「だがッ、ユニットやグループでもあるまいし、この短時間で何人もの生アイドルとそうそう会えるわけが」
「ユニットなら問題ないな!!」
「何!?」
威勢の良い声と共に路地裏に新たな3人組が現れた。
「ヒャッホー! お姉さんは僕たちのこと、知ってるかな!?」
アクロバティックに飛び出してきたのは緑がイメージカラーの旋風寺・真(嵐を呼ぶゲーム小僧・d07228)。
「あなた、アイドルに詳しいみたいだけど、わたしたちは知らなかったみたいね」
ユニットの紅一点、黒を基調とした和装を着込んだ笙野・響(青闇薄刃・d05985)が全てを見透かすような瞳で言った。
「なら教えよう! 俺たちは『L'epee coulante』。3振りの刀のもとに集った剣術アイドルユニットだ!!」
最初の声の主である、燃えるような赤い和装が眩しい創流・鉄彦(振武の演者・d02420)が日本刀を抜いた。
それに合わせ、真は小さい体で巨大な斬艦刀を、そして響は小刀を魅せつけるようにかざした。
「あれは日本の伝統である刀を使ったパフォーマンスが大人気の刀剣演舞アイドル、L'epee coulanteなのです!」
「どうして武闘派なアイドルが多いんだ? いやしかし新しいジャンルではあるか……」
この場の雰囲気に飲み込まれそうなルイの背中を更に押し伏せるように響は告げる。
「流れ舞う剣の協奏……魅せてあげるから、しっかり覚えておきなさい?」
「よーし、まかせて!」
「ミュージックスタートだぜッ!」
真が元気よく拳を突き上げ、鉄彦は音楽プレイヤーと小型スピーカーを設置。
流れ出したのはあのゲームのあの戦闘BGMのようだ。
「あなたも刻んであげる」
薄く開いた瞳で髪をかき上げた響に、自分よりも幼い少女にルイは底知れぬ妖艶さを感じ、戦慄する。
が、それは怖れではなく畏れである事を自覚してしまった。
「お姉さんちゃんと見ててよ、僕の剣!」
「何の。この殺陣、そうそう負けるものではないぜ!」
真と鉄彦はそれぞれ全く異なる動きをして、各々自分だけをアピールするような剣技を見せていたがそれが徐々にシンクロし、やがて2人で1つの型へと昇華していく。
そこへ響も加わり、演舞は最高潮を迎える。
「優れた武芸は戦う相手がいなくても芸術さ! ラブ&ピース!」
ここは路地裏ではない。剣風巻き起こるライブツアーファイナルである!
「こんな凄いのなかなかお目にかかれないのです! 例えば吉祥寺某所、少しお高いカレー屋のルーを口に含んだ時の脳にまで響き渡るスパイスの何とやら」
そして美しくも猛々しい剣の宴は終わった。
「なんというパフォーマンス。これには目も心も奪われてしま――いやそんな時間は」
「さあて、いよいよトリをつとめますは炎の貴公子、シャイニング・アルクなのです!」
「キミいつの間にMCになったの?」
紬が指す方を見ると、なんと爆炎が上がっているではないか。
その炎を切り裂くように現れたのは斉藤・歩(劫火拳乱・d08996)!
「男気全開! キスより凄い唄で世界を創るぜ!」
「な!?」
歩、もといシャイニング・アルクは必然的に歌い出した。
甘くて眩しくて、ああ、こんな青春時代を送れたら最高だよね。そんなハピネスフルなラブソング。
歌って、そして踊る。甘い歌詞と情熱的なダンスはミスマッチでいて、しかし片思いの少年少女の内面を具現化したような、そういったハートを感じる。
「――そうカレーは言ってます」
先の3行は紬のカレートークを訳したものである。
「俺の全力、伝わったか?」
「アルク、か。アンタ、悪くないよ」
だが、とルイは言葉を切る。
「アタシを誰か知っている風で、かつ足止めしたってことは……わかっているんだろうな?」
「結局はこうなるか」
「勿論、解っていますよ」
「アンタたちがアイドルであるなら――力で証明してもらおうかッ! アイドルの実力を!!」
「えっ」
●ライブ開催!(物理)
気付いていただろうか。この路地裏という名のライブ会場にはもう1人、アイドルがいた事に。
それは突然現れ、告げる。
「憶えていますか、貴方が出会ったアイドルの事を……」
海老塚・藍(フェザースターウインド・d02826)は透き通るような肌に銀糸のような髪、極めつけは直に触って確かめたくなるようなぷにぷにっとしたもち肌の小学……いや、ゲフンゴフン。
「藍は不思議な力で突如として現れる神出鬼没な謎のエイティーンアイドルなのです。その正体は投入されたガラムマサラの分量を当てるくらい難しいという話ですよ?」
「微妙な難易度だな!」
わりと難しかった。
「午後6時以降は決して姿を見せない事でも有名で、一説によると労働基準がどうとか、あれこれしがらみがあるとかないとか!」
「一体何者なんだ」
紬やその他のアイドルたちは腕を組み唸った。
「アタシが、出会ったアイドル……だと……?」
「貴方の心に平穏をもたらした、貴方にとって特別なアイドルの事を」
右手を胸に。左手はルイに伸ばし、藍は語り続ける。
「そのアイドルは貴方に戦いをやめさせた。それから貴方は――」
いくつものシャボン玉がふわりと流れる中、うさ耳リボンに純白の羽が印象的な衣装の藍が少し悲しそうに一歩前に出る。
しかしルイは藍を拒絶するように大きく後ろに下がった。
「くっ! そ、そんな話……今さら、持ち出して来ても……無駄だァー!!」
頭を大きく振り、地面を蹴りながらルイは拳を突き出した。
藍に向けて、それとも他の何かに向けて放たれた拳は、しかし夕に食い止められた。
「いいパンチだ……しかし、輝きがくすんでいる」
「き、近接戦闘型アイドル!」
「何を恐れている、藍導ルイっ」
「ッ!」
鋭い眼光と共に拳を払われ、ルイは慌てて数歩距離を開けた。
「私には戦う事しかとりえが無い。だが、この拳に掛ける情熱は誰にも負けない」
夕は自分の掌を見つめ、そして強く握り締める。
「それが私の輝き、アイドルの証だ」
「……悪くない。悪くないアイドル像だ」
「この情熱、受けきる事が出来るか? 藍導ルイ!!」
夕の鋼鉄拳はどうという事はない、ただ真正面から繰り出された実に素直な一撃。
避けるのも、受け止めるのも容易。だが、アイドルに対する想い……アイドルオーラを失いつつあるルイにはその真っ直ぐなパンチが見えなかった。
「ぐっ!」
「で、出ましたー! あれはプリンセス鉄拳!」
「プリンセス鉄拳!?」
「プリンセスと冠を付ければどんな物理攻撃もマジカルでファンシーになると帝王学の書物にも記されているとか。サブミッションさえも例外ではありません」
マーナ、もとい摩那が委員長キャラらしく解説をしてくれた。
「まだまだ! プリンセス左片手一本突き! そして最後に、プリンセスアッパーカットォ!」
「ぐあはッ!」
姫による拳の乱打に、ルイは防戦を強いられてしまう。
「力は闇雲に使ってはいけない。守りたいものを守るために使うんだぜッ!」
「アタシにだって……ある!」
刀を振るう鉄彦にルイが応戦する。
「本当か? なら何故、藍を殴ろうとしたんだ!」
「ぐうっ!」
動揺したルイは鉄彦の居合斬りが見切れなかったようだ。
――心の闇を照らす光をここに♪
その時、ナノナノと一緒に仲間のサポートに徹しながら歌う藍が見えた。
――限りないそらへ愛よ羽ばたけ。
静かに、心があたたかくなるような歌声が路地裏に広がっている。
「隙ありだよ、お姉さん!」
そこへ真が組み付いてきて、
「え、ちょ、おまっ! ど、どどどこ触って!?」
「んー? 僕小学生だからわからなーい♪」
「わからないコトあるかこの、ふぎゃん!」
小学生だからこそ許される地獄投げである。おのれ真!
「はいはい、それ以上のおさわりは厳禁よ」
「えー、だってしょうがないんだよー?」
「どこか憎めないのが困るところ、ね……」
「しかし後で指導が必要ですね」
あっけらかんとした真に嘆息した響と摩那は、まだちょっと顔の赤いルイに迫る。
「しかしその前にルイさんをダークネスから解放しなくてはいけません!」
「そうね。存分に刻ませてもらうわ」
摩那の黒死斬で牽制し、響のティアーズリッパーが炸裂する。
「ん……良い感触、ね」
「こ、こういうのも悪くな……悪いわ!」
響の幼さと妖艶さが組み合わさり最強に思える笑みに落ちそうになるルイ。
「それではとっとと落としてしまうのです」
封縛糸を使い、ルイを捕縛する紬。
「ちぃ、この程度で!」
「星を追いかけて飛び回る、そんなお前だって間違いなく輝く星だ」
必死にあがくルイに、歩が後ろから優しく抱きしめた。
「ほあ!? ていうか、な、なにしてへ!?」
そのまま歩は耳元でそっと、
「俺達と来いよ、ルイ」
「!」
囁いた。
戦場は一瞬で淡い桃色な空間へと変貌していた。
「そ、それってどういう……。いや、そのアタシは」
「ま、その前にキッチリ負けとけ」
「え? みぎゃあああ!?」
歩はブリッジした。
つまり、ジャーマンスープレックスの形になるな。
「あ。目が覚めた?」
少し時間は経って、ルイは藍の膝枕の上で意識を取り戻した。
「ん、あれ……アタシは……」
「まだゆっくりしていて大丈夫。でも、話を聞いて欲しいかな」
藍のふにふかっとした膝はとても心地よくていつまでもそのままでいたい、が。
「……キミ、ちっちゃくなった?」
「あっ、それは」
「まあいいか。それで話ってのは?」
灼滅者たちは状況、世界、そして武蔵坂学園の事を……一緒に戦う仲間になって欲しい旨を説明した。
「お前も輝く術を知っているなら……共に目指してみないか、アイドルへの道を!!」
「あなたも素材は素敵だし、よかったら来てみない?」
夕と響が熱烈に誘うも、ルイはどこか思案顔だ。
「アイドル顔負けの美形が揃ってるし、色々発散もできるよ!」
「ううん、しかし。っと、スマン、電話か」
突如鳴ったのはルイの携帯電話。
「何だオマエか。なに、うん……ああ!? 河川敷に行って勝負しようと思ったらなんだか和気藹々とMUトークに華が咲いてみんなで仲良く店に戻ったらブロマイドがなくなっていただあ!?」
「お、おい……」
「ルイさん、大丈夫ですか?」
「決めた。アタシ、武蔵坂学園に行くよ」
「迷っていた原因それか!」
早い展開だった。
「よう後輩。これから色々教えないとな、手加減の仕方とか……な」
「あ、ああ。よろしくな。ところでアンタ……い、いや何でもない」
少し影がある笑顔を見せる歩に話しかけられると、また顔が赤くなっていた。
(「別に学園はアイドル養成学校とかじゃないのですけどねー」)
紬はそう思ったが面白そうだったから口に出さなかった。
「と、ちょっといいか?」
鉄彦がルイの両肩に手を置いて真剣な眼差しで問う。
「ど、どうした?」
「MUって結局なんて読むんだ!?」
「そもそもどんだけミステリアスなのよ。本当にアイドルなのかしら」
鉄彦と摩那をはじめとした全員の視線を集め、ルイは待ってましたとばかりに口を開いた。
「『ムー大陸を拠点としてアイドルの活動をしちゃうグループ(という設定の)10進数に直すとよんじゅうはち』が正式名称で、こ」
とにかく灼滅者たちの活躍により1人の少女を救い、武蔵坂学園は新たな仲間を迎え入れたのだった。
作者:黒柴好人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 11
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