俺はイチジクジョニー!

    作者:灰紫黄

     丸々とした赤い果実……を模したバトルスーツの男がいた。
     京都府城陽市、真っ昼間のことだった。彼はある高校に乗り込んだ。城陽市は日本有数のイチジク生産地だ。しかし、なんというかメジャーじゃない気がしていたのだ。主観的に。
     そこで若者を教育し、城陽のイチジクを広める尖兵にしようというのだ。そして最後はやっぱり世界制服。
    「食え、食え、イチジク食え!」
     むりやりイチジクを食べさせられた生徒たちが見る間にイチジク戦闘員へと変わっていく。
    「何者だ、お前!?」
     進み出た教師が叫んだ。
    「ふ、俺の名は……イチジクジョニーだ」
     男は(マスクの中で)ドヤ顔しながら答えた。

     灼滅者が教室に入ると、黒板には大きく『無花果』と書かれていた。五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)も一緒だ。
    「読めますか、これ? イチジクと読むんです」
     今回はご当地怪人がご登場。大首領グローバルジャスティスを頂点に、なんやかんやで世界制服を企む連中である。
    「場所は京都府の城陽市。同市はイチジクの生産が盛んで、怪人はイチジクを広めるため高校に突入し、生徒を配下に変えています。これを撃破してください」
     本体の外見はイチジク型マスクのバトルスーツ。配下にされた生徒達はそれを簡素にしたような格好になっている。某機動兵器の試作機と量産型みたいなかんじである。
    「あと、怪人はイチジクジョニーと名乗っていました。ぷっ」
     言ってから、ちょっと噴き出す姫子さん。怪人が可哀想だが、姫子さんが可愛いのでノープロブレム。
    「イチジクジョニーはイチジク型のハンマーを持ち、ロケットハンマーのようなサイキックを使います。また追い詰められると、イチジクの実のような散弾を放つようです。これは強力かつ、複数の標的を狙えます」
     特殊な効果はないが特に威力が大きいので気をつけて欲しい、と姫子は付け加える。加えて、配下にされてしまった生徒は十人ほど。強くはないのでさくっと倒してあげてほしい。倒せば元に戻るはずだ。
    「なお、戦いに突入すれば戦場は開けた場所、今回は校庭に移ります。なので細かいことは考えなくても大丈夫です」
     お約束ですよね、とくすくす笑いの姫子。
    「こんな感じの敵ですが、これでもダークネス。恐るべき戦闘能力を持っています。ですが、皆さんなら勝てると信じています」
     最後に小さく微笑んで、姫子は灼滅者たちを見送った。


    参加者
    一之瀬・梓(月下水晶・d02222)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    長瀬・霧緒(仮面ブルマーエックス・d04905)
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    衣川・正海(ジャージ系騎士志望・d07393)
    三園・小次郎(愛のみぞ知る・d08390)
    千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)
    神木・璃音(アルキバ・d08970)

    ■リプレイ

    ●恐怖! イチジク怪人!
     京都府城陽市、とある高校。イチジクマスクのご当地怪人、イチジクジョニーは尖兵作りに勤しんでいた。逃げまどう生徒を捕まえ、無理やりイチジクを食べさせる。するとたちまち顔がイチジクマスクに変わり、全身赤タイツの戦闘員へと変貌してしまった。飛び交う悲鳴と怒号。平和であるはずの高校は恐怖と混沌に支配されていた。
    「ふふっ、これならイチジクロードの成就も近いな」
     誰へでもなく、(例によってマスクの中で)ドヤ顔するジョニー。だが、そうは問屋が卸してくれない。
    「そこまでだ! いくらイチジクが好きでも愛の暴走は見逃せねェな!」
     啖呵を切った三園・小次郎(愛のみぞ知る・d08390)を先頭に、灼滅者たちが現れる。廊下ではさすがに狭いのでサーヴァントは今はおあずけ。
    「ジョニー、イチジクの名を汚す悪行もここまでだ!」
    「何者だ貴様ら!?」
     イチジク生産量日本一の愛知県出身の衣川・正海(ジャージ系騎士志望・d07393)が生徒達を守るようにジョニーの前に立ちはだかる。さらに戦意を示すように直刀を構えた神木・璃音(アルキバ・d08970)が並び立つ。
    「表へ出ろ」
     ポーカーフェイスでガトリングガンを構えるのは五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)だ。全身から発せられる殺気が余さずジョニーへと向けられている。
    「無理やり食わされても嫌いになるだけだぜ。俺も通った道だけどさ」
     かつてご当地怪人になりかけた千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)。彼の言葉には経験談ならではの重みが感じられる。
     けれどそれがジョニーに届くことはなかった。ジョニーにとっての正義を邪魔する灼滅者達に怒り心頭といった様子だ。
    「例え強引にでも世界を変えねばならん。それが今なのだ!」
     言うことだけはそれっぽいジョニー。どこからともなくイチジク型ハンマーを取り出し、頭上に掲げる。瞬時にジョニーと灼滅者達は校庭のど真ん中へと移動する。
    「我がイチジクロード、阻めるものなら阻んでみよ!」
    「イチィーーー!!」
     ジョニーの叫びに呼応し、戦闘員が集結。その数は10人。戦闘員的な叫びとともに、戦闘員的な動きで灼滅者達に襲い掛かる。
    「行くぞ、フォルン」
     一之瀬・梓(月下水晶・d02222)がスレイヤーカードを掲げ、霊犬のフォルンを呼び出す。みな同時に武装し、サーヴァントを呼び出す。イチジクの未来を占う(かもしれない)戦いの幕が上がった。
     
    ●イチジク怪人の怒り!
     先手をとったのは長瀬・霧緒(仮面ブルマーエックス・d04905)だった。ライドキャリバーのサイクロンゴーゴーの援護を受けながら、最大戦速で戦闘員へと迫る。
    「イチ!?」
     大胆に露出した太ももで風を切りながら一瞬で戦闘員に密着、回避運動を読み切り一気に投げ飛ばす。まともに投げを食らった戦闘員は脱力し動かなくなった。
    「おまえのあくじもここまでだ! イチジクジョ、ジョニー!」
    「笑うなコンチクショー!」
     背の高い戦闘員の頭上でポーズを決める赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)。途中でちょっと噴き出しちゃったけど、可愛いければノープロブレム。その場で下に蹴りを見舞って戦闘員を倒す。
     二人の戦闘員を倒し、さらにガチャリと物騒な金属音が響く。香の構えたガトリングが高速回転し、彼女が愛する弾幕を吐き出した。
    「そらそらそらぁ!」
     弾丸の雨に晒される戦闘員達。多少赤いものが飛び散っているが、果肉とか果汁なのでノープロブレム。たぶん。早くもボロボロの戦闘員。だが、灼滅者達は攻撃の手を緩めたりはしない。それが彼らを救う方法だからだ。
    「イチジクはいいもんだ。けど、こんなやり方はナシだろ」
     呟きながら、正海は槍の石突で戦闘員を吹き飛ばす。イチジク産地である愛知で育った彼はイチジクの良さは十二分にわかっている。だからこそジョニーの所業を許すわけにはいかないのだ。
    「Das Frieren」
     最小限の詠唱とともに放たれる氷の魔法。見えざる魔力によって熱が奪われ、ジョニーと戦闘員の身体が僅かに凍る。
    「ふん、俺達の魂はこれしきでは冷凍できんぞ!」
     しかし、ジョニーは気合で氷を吹き飛ばす。
    「俺達、じゃなくて俺、だろうが」
     呆れた様子で小次郎が戦闘員にアッパーをくらわす。相棒である霊犬のきしめんも六文銭で戦闘員をいびり倒す。
    「よくも俺の配下を! 許さん!」
     ハンマーごと勢い良く回転し、ジョニーが体当たりをぶちかます。けれどジョーを狙った一撃はシールドに防がれた。
    「お前がイチジクジョニーなら俺はチバダマジョニーだ! 冥土の土産に憶えておけ!」
    「それはこちらの台詞だ! 行け!」
    「イチ!」
     ジョニーが戦闘員をけしかけるも、その動きはすぐに止まる。その背後には気だるげに刀を構えた璃音の姿があった。
    「安心してください……峰打ちっすから」
     刀を担ぐのと同時、戦闘員が音を立てて倒れる。
     そうこうしているうちに戦闘員は全滅。これでイチジクジョニーを守るものはいなくなった。
     せっかく頑張ってつくった配下を倒され憤るジョニー。イチジクマスクに青筋がくっきりと浮かび上がる。
    「いいだろう! 貴様らを我がイチジクロードの障害と認めよう! 死体をイチジクの肥料にしてやるわ!」
     イチジクアーマーが筋肉のように盛り上がり、今まで以上の迫力(あまりなかったけど)を発するジョニー。ハンマーの後部が割れ、三連ロケットが顔を出す。さっきまでがテレビ版なら今は劇場版。それくらいの本気度だ。
     イチジクの未来を賭けた(かもしれない)戦いはさらにヒートアップしていく!

    ●イチジク怪人、決死の戦い!
     三連ロケットが火を吹き、霧緒に襲い掛かる。彼女は身をよじってそれをかわす。
    「な!?」
     しかしその瞬間、ハンマーが首をもたげた。ロケットで無理やり方向を変え、霧緒の身体に突き刺さる。
    「大丈夫か」
    「かたじけない」
     吹き飛ばされる霧緒の身体を受け止め、香がシールドの光で回復する。
    「いっとうりょうだーん!」
     緋色の巨剣が振り下ろされる。ここにいる灼滅者の中でも随一の威力を持つ一撃だ。だが、ジョニーはそれイチジクマスクで受け止める。さらに璃音が武器ごと斬らんと斬撃を放つが、これも目立ったダメージにはならない。
    「甘い、甘すぎる。ほどよい甘さこそ果実の魅力と知れ!」
     再度ハンマーが地面を叩く。衝撃波が校庭を走り、後衛を襲う。フォルンが主を守るべく飛び出し、梓をかばった。傷ついたフォルンの背を撫でながら、指輪から魔力の弾丸を放つ。
    「お前こそ甘い。イチジクはそのまま食べるだけじゃない。スイーツとか応用ができるんだ」
    「そうだな。味噌と合う……かは知らねェが、いい食材だと思うぜ」
     弟妹の面倒を見る小次郎は、料理人の視点から一言。おまけにご当地ビーム。二人の言葉を支持するように正海の起こす風が傷を癒す。
     灼滅者の攻撃は確かにジョニーにダメージを蓄積していた。しかしジョニーもダークネスの端くれ。怯まずに猛攻を重ねる。
    「破ァ!」
     幾度目かの衝撃波。かわしきれなかったサイクロンゴーゴーのボディを直撃。その姿がかき消える。
    「サイクロンゴーゴー!!」
     相棒を倒された霧緒が叫ぶ。
    「貴様もあとを追え!」
     その隙を見逃すはずもなくロケットが火を噴く。刹那、光が閃いた。ジョーのシールドの光が。
    「お前はたくさんの人を傷付けた。それはもうご当地愛じゃねえ!」
    「その通り。我らのご当地愛は貴殿には負けないでござる!」
    「菜の花」
    「カレー」
    「ビイイィィィム!!」
     ご当地ヒーロー同士、通じる者があるのだろう。二人の同時に放った光線がジョニーを包む。そこでようやく彼は膝を折った。
    「ふ、ここまでやるとはな。いいだろう。俺と貴様ら、どちらが正しいか雌雄を決そう。うおおおぉぉぉ!!」
     雄叫びとともに両手を空に掲げる。途端に巨大なイチジクが虚空に生み出される。これが彼の切り札、イチジクラスターだ。
     イチジクの未来を変える(かもしれない)戦いは最後のステージへと突入する!

    ●イチジク怪人の最期!
     放たれたクラスターは空中で破裂。前衛に大きなダメージを与えた。赤い散弾にまみれ、フォルンが姿を消す。
    「このっ!」
     梓の魔力の弾丸がジョニーに殺到する。その間に小次郎ときしめんのコンビが前衛を回復する。
    「焼きイチジクなんかお好き?」
     研ぎ澄まされた動作で振われた炎の剣がジョニーを火だるまにした。果実が焼ける匂いが秋風に溶けて消える。
    「すきあり! ひっさーつ!」
     すでに足元の覚束ないジョニーを魔力打撃が捉えた。ジョニーは再び膝を折る。だがマスクの奥の瞳に宿る戦意はまだ衰えない。
    「まだだ! まだ終わらん!」
     今度はクラスターが中衛を襲う。しかしそれを読んでいたかのようにガトリングガンが轟き、弾幕が散弾を相殺する。弾丸同士のせめぎ合い。世界で最も激しい、ミクロの戦争。
    「弾幕こそ正義だ。世界で通用する常識な」
     一寸の間も置かず、散弾の中を突き抜けて精度の高い弾丸がジョニーに突き刺さる。
    「イチジクは足が速いんだ。お前に明日は来ない」
     正海がゆったりとした動作で槍を振るう。巻き起こした風は初速を裏切り加速して、ジョニーの全身を切り刻む。その一撃がとどめとなり、その場にどさりと倒れた。
    「やるな、若者たちよ。今日は勝ちを譲ろう。だが憶えておけ、イチジクロードは不滅だと! ふははははは!!」
     倒れたまま哄笑し、ジョニーは爆発した。あとには赤い煙以外には何も残らない。イチジクを育む大地に吸い込まれていったかのように。
    「イチジクジョニー……恐ろしい敵だったぜ」
     疲れ切った身体を校庭に横たえるジョー。幸い倒れた者はいないが、みな満身創痍だ。寝転がったまま空を見上げる。夕日でも見えれば画になったろうが残念ながらまだ昼だ。
    「そだ。このあとイチジク食べに行かね?」
     じゃれつくきしめんを撫でながら、小次郎が提案する。せっかく武蔵坂から京都の城陽まで来たのだから。確かに金閣寺や平等院に行っても城陽にはなかなか来ないだろう。
    「いいね。俺もここのイチジクには興味ある」
     真っ先に賛同したのは正海だ。俺も腹減ったっすとヘッドホンを耳に戻しながら凛音。
    「イチジクカレーはあるでしょうか」
     とは霧緒。誰も返事はしてくれなかったが。
    「わたし、クラブのみんなと姫子さんにお土産買っていきたいなぁ」
     緋色は満面の笑みを浮かべた。家族にやクラブ仲間にお土産を買って帰りたい者は他にもいるだろう。
     なんやかんやでこのままどこかへ行くことが決まる。戦いの直後だったが、みな楽しそうだ。
    「まったく。お前は戦う相手を間違えたんだ」
     仏頂面でぼやく香。
     本当にいいものなら、ちゃんと開発、生産しろよ。正しいマーケティングができたなら世界はもうちょっとイチジク色をしていたかもしれない。
     視線を動かすと校庭の外にイチジク畑が見えた。今は殺風景だが、収穫の季節になれば賑やかになるはずだ。
     秋の終りの冷たい風が吹き抜け、イチジクの未来を救う(かもしれない)戦いの終りを告げた。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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