荒ぶる心を奮わせし刻

    作者:幾夜緋琉

    ●荒ぶる心を奮わせし刻
    『……!!』
     言葉にならない声を叫びながら、炎に包まれた身体の獣が暴れ回るは、とある山奥の一角。
     ダークネスの一つ、イフリートは周りにあるもの、目に付く物を何もかも、暴れ回り、壊し尽くしていく。
    『……ゥゥ……』
     そしてあらかた壊し終わった後……一端動きが止まるイフリート。
     そして……次なるターゲットの方へと向けて、更に荒げた声を上げながら、何もかも破戒し尽くしながら森の中を進むのであった。
     
    「皆さん集まって頂けた様ですね? それでは、説明を始めます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者達に柔和な微笑みを浮かべながら、説明を始める。
    「今回皆さんに灼滅してきて頂きたいのはダークネス、イフリートです。彼は山奥を、炎を纏った身体で暴れ回っています。これを被害が出る前に殲滅して欲しいのです。ダークネスは、強力で危険な敵ではありますが……ダークネスを灼滅する事は、皆さんの宿命でもあります。厳しい戦いになるかも知れませんが……どうか宜しくお願いします」
    「勿論、皆さんが知ってるとおり、ダークネスはバベルの鎖の力による予知があります。今回のダークネスは破壊衝動に突き動かされているので、暴れている所を吸収すれば問題は無いかと思います……ただ、待ち伏せようとすると、彼に木津亜kれてしまう可能性がありますので、注意して下さい」
     そして続けて姫子は、ダークネスの戦闘能力について説明を加える。
    「イフリートは一人です。ですがイフリートの戦闘能力は一人で皆さんが10人ほどとほぼ同等の能力を持ちます。なので決して油断しない様にして下さい」
    「彼は森の中で暴れ回っており、力を制限する事なくに振り回しているのです。もちろん、その炎の身体から繰り出される攻撃力は高く、下手に喰らえば即重傷にもなりかねません。その点はよく頭に入れて、戦って下さい」
    「ダークネスの隙を突けば、奇襲を仕掛ける事が出来ると思います。その奇襲を如何に続くターンにつなげられるか……その辺りは、皆さんで良く考えて見て下さいね」
     そして最後に姫子は。
    「状況は予断を許しません。しかし皆さんなら、きっとダークネスを灼滅する事が出来ると信じています。皆さん……頑張ってきて下さいね」
     と真剣な表情の中、微かに微笑みむのであった。


    参加者
    リリー・スノウドロップ(ほわいとわふー・d00661)
    甘粕・景持(龍毘の若武者・d01659)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    ライラ・ドットハック(サイレントロックシューター・d04068)
    辰峯・飛鳥(高校生ファイアブラッド・d04715)
    レオ・フーゴ(伊達男見習い・d06122)
    山岸・山桜桃(ワケありの魔法少女・d06622)
    リヒト・シュテルンヒンメル(星空の末裔・d07590)

    ■リプレイ

    ●炎焦がれ
     某県のとある山中……ダークネスであるイフリート出現の報告を姫子から聞いた灼滅者達は、急ぎ山中へと向かっていた。
    「しかし……随分と派手に暴れている様ですね……ですが、民家の無い山奥で幸いでしたね……」
    「ええ、暴走するイフリートの鎮火、と……何故これほどに荒ぶるのでしょうね?」
    「判りません。でも……これは、被害が出る前に、何とかしなくてはなりませんね」
     甘粕・景持(龍毘の若武者・d01659)に、リリー・スノウドロップ(ほわいとわふー・d00661)、そして山岸・山桜桃(ワケありの魔法少女・d06622)ら三人の会話。
     鬱蒼と生い茂った木々……当然そのような場所を好き好んで訪れる人は少ない。
     それはほんの僅かな幸福と言えるだろう。ゴーストの毒牙に掛かる被害者が現われる事は無い、という事なのだから。
    「しかし……何でしょうね? 彼はイフリートにその身を落としてしまった……何が彼をダークネスに落としたのでしょうか」
    「それは……判りませんね。ただ一つ言えるのは……最早彼が元に戻る事は出来ないと言う事。ただ……出会い方が違えば、もっと早ければ……仲間にもなれたのでしょうかね?」
    「そうだね……多分」
     レオ・フーゴ(伊達男見習い・d06122)、リヒト・シュテルンヒンメル(星空の末裔・d07590)、そして辰峯・飛鳥(高校生ファイアブラッド・d04715)が言うと、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)は。
    「まぁ何だ。宿敵との対峙は俺達にとっての宿命。あんまりうだうだ考えている暇はねぇぜ。だってぶっ飛ばすのが俺の役目だからな!」
     と拳を振り上げる。
     そんな言葉にライラ・ドットハック(サイレントロックシューター・d04068)と、飛鳥が。
    「……皆、予定通りに、落ち着いて冷徹に灼滅する、よ……」
    「そうですね……わたしの宿敵。サイキックを持つ者の末路が破壊と殺戮だなんて、そんな事は認めたくない。絶対に止めなくちゃ……怖いけど、立ち向かうってきめたんだから」
     そんな内に熱い心を秘めながら……灼滅者達は山路を進むのであった。

    ●狂乱者
     そして暫し歩き続け……灼滅者達は、ダークネス・イフリートの居る場所へと到着する。
    「あれが……イフリートですか」
     と飛鳥が呟いた様に、その視線の先には……目の前の物を何もかも破壊し、狂乱の如くに暴れ回るイフリートが居た。
    「……まるで何かに苦しんでいる様ですね。そんな彼にとっての唯一の救いが灼滅であるのなら……躊躇いはしない」
    「そうですね……」
     レオにこくり、と頷くリヒト。
     そして。
    「それじゃ打ち合わせた通りで……二班に分かれて左右から叩こう」
    「OK。こっちのサイドは宜しく頼むぜ」
     飛鳥に頷く康也。
     康也、山桜桃、レオ、リリー、そしてリリーの霊犬、ストレルカはそこから大きく回り道をし、イフリートを挟んで真逆の位置まで向かう。
     そして……イフリートが周りの物を一通り破壊し尽くし、僅かな隙が生じた所で。
    「……よし、今だ!」
     先手を取って仕掛ける康也らAチーム。
     それにほぼ遅れること無く。
    「よーしこっちも一気に行くよ! 皆、援護宜しくね!」
    「……うん。Brionac on……
     飛鳥が叫び、リヒトがスレイヤーカードを解除……そしてBチームの仲間達も一気に駆ける。
     両サイドからの挟撃を受けたイフリート。
    『ウグゥゥ……ガァァ!!』
     決して怯むような事はなく、先に仕掛けてきたAチームに身を向けて攻撃態勢……そして突っ込もうとする。
    「っ、ここから先は通行止めですっ!!」
     その攻撃を山桜桃がシールドバッシュで迎撃。
     とはいえその勢いはかなりの物で、そのまま少し後方へと吹き飛ばされる。
    「させねぇぜ!」
     代る様に康也が間に割り込みつつ、黒死斬を喰らわせる。
     そして吹き飛ばされた山桜桃に、リリーが。
    「ストレルカ、戦線維持の為に頑張って!」
    『ワゥ!』
     頷き吼えると、ストレルカはディフェンダーポジションに配置、そしてリリーがヒーリングライトで山桜桃を回復。
     ……そして残るレオは、真っ直ぐにイフリートを見定めながら。
    「……ここだ」
     見定めた影喰らいの一撃をイフリートに当てて、トラウマのバッドステータスを与える。
     ……そんなAチームが迎撃をしている中、対するBチームは間合いを一挙に詰めて反対側から攻撃。
    「アイギス……ワイドガード!
     と景持が飛鳥にバッドステータス耐性を付加し、そして飛鳥はライラとリヒトの霊犬、エアと共に。
    「美味く使えるかわかんないけど……きっと効くはず!」
    「……うん……徐々に、削り殺すだけ、よ……」
     飛鳥が影喰らい、ライラがバスタービーム、そしてエアは斬魔刀による一閃。
     そしてリヒトはエアにシールドリングを掛けて、防御力を強化する。
     ……続いて第二ターン。
     背後の方からの攻撃を仕掛けられたイフリートだが、攻撃ターゲットを変える事は無い……A班の面々に対して唸り声を上げている。
    「ほぅ、背後から奇襲されても動じないか……その度胸、流石だぜ! さぁ、俺の炎とどっちが熱いか勝負だぜ」
     ニヤリと笑う康也……そして武器を構えて、今度はレーヴァテインで炎を付加。
     そしてストレルカが六文銭射撃、山桜桃もフォースブレイクで攻撃。
     一歩後ろのレオもレーヴァテインで更に炎を付加しつつ、リリーは。
    「やはり強い……戦力差としては少々不利ですね。ですが、工夫と理性で、必ず勝つのです」
     と言いつつ……ダークネスの攻撃を待ち構え、攻撃を受ければメディックについた能力でヒーリングライトの二倍回復を行う。
     ……幸い攻撃は単一ターゲットのみであり、回復するのにさほどむずかしい所は無い。
     とは言えその攻撃力は遥かに高く、一人の回復だけではジリジリとダメージが残ってしまう。
    「流石、イフリートと言ったところか……」
    「……うん、流石に強い。でも……力があっても、致命傷にならなければ戦える。数ではこちらが有利。だから……時間は掛かっても、しっかり削る……」
     景持にライラはそう言うと……景持はそうだな、と頷いて。
    「……縛らせて……頂きます」
     と影縛りでイフリートの動きを抑制。動きが鈍るとすぐに。
    「その技を使わせないよ!」
    「……撃ち抜く」
     飛鳥の雲櫂剣と、ライラのバスタービーム。
     リヒトもセブンスハイロウで……七つの光輪を次々と放ち、その動きにエアも合わせて動いて攻撃。
     ……そんな灼滅者達の動きと連携攻撃に、流石にダークネスも後方が厄介だという事をうすうす気づいた様で。
    『……ウゥゥ……』
     睨み付ける視線……炎に包まれた身体から来る威圧感はとてつもないもの。
     でも……その威圧に決して負ける事は無い。それほど迄に、ダークネスを放置してはおけないという心が強く輝いていたのである。

     そして戦闘開始から6ターン経過。
     衝撃ダメージは回復できるものの、殺傷ダメージは着々と蓄積。
    「……くっ……仕方在りません。本気で……いきますっ!」
     そう言うと共に、山桜桃はマインドリセット……瞳は茶から赤に変わり、そして紅蓮撃へと繋げて攻撃。
     防御よりから、僅かに攻撃よりにシフト。
     そして……。
    「みんな、後もう一息の筈だ。油断は出来ないけど、一気に畳みかけよう!」
    「……了解。いまなら……っ!」
     景持は加速を付けてステップ、ジャンプ。そして落下の勢いと共に、刀を一閃、振り落とす。
     背後に大きな傷が切りつけられ、今までに無い悲痛な叫び声を上げる。
     そしてその痛みを示し、逃れるが如く暴れ回るイフリート。
    「……苦しいんだろうね。でも……灼滅しなければ、その苦しみから決して逃れられる事は無いんだ。だから……だから、今ここで、灼滅する……!」
     真っ直ぐイフリートを見据え、声を上げるレオ。
     ……既にダークネスとなった以上は、救われる道は死しかない。だから……彼の苦しみを救うが為に、その力を振るう。
     そして……9ターン目。
    「……その身体を撃ち抜く……!」
     ライラのオーラキャノンが真っ直ぐ、ゴーストの身体を打ち貫く。
    『……ウァァァ……!』
     そんな苦悶の叫びを上げるイフリートに。
    「最後だ……っ!」
     景持が渾身の力で以てゴーストを、全力で以て武器を振り落とすと……イフリートは断末魔の悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちるのであった。

    ●心穏に
    「……ふぅ……っ」
    「……Brionac off
     息を吐き、刀を納刀する景持。スレイヤーカードに再度封印するライラ。そして……。
    「……皆さん、お疲れ様です。大丈夫ですか?」
    「ええ……」
     山桜桃がそれに頷きつつも……すぐ顔を紅くして、ちょっと離れる。
     その反応にきょとんとしている景持だが、何でも無いんです、と言う山桜桃。
     ……そんな彼女の動静にくすくすと笑いながらも……死したイフリートの方に顔を向ける。
    「……しかしこれが、闇に落ちた獣の結末。こうはなりたくない、ね」
    「そ……そうですね。もともとはこのイフリートさんも人間だったんですよね……せめて、安らかに眠って下さい」
    「そうだな。今はただ……安らかに眠りな」
     ライラに山桜桃とレオが言葉を紡ぎ、そして。
    「さて……あー腹減ったぜ。みんなも減っただろ? ほらコレでも食べるか? リリー、ライラ」
     と康也が投げ渡すのはおでん缶。
    「……これ、何?」
    「美味しいんだぜ? 食べてみろよ!」
     指を立てて微笑む康也に、きょとんとしたままのリリーとライラ。
     ……パカリと開けて、中に入っていた具に目を丸く……でもそれを器用に食べていく康也。
    「他の皆も居るか? 食べたいならどんどん言ってくれよ!」
     笑う康也……山を登り、ちょっと小腹も減った訳で……灼滅者達は康也の持ち込んだソレを食指、その後その場を片付けてから、帰路につくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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