Knowledge stone

    作者:篁みゆ

    ●知識の石
     そこは附属中学もある、偏差値が高めの私立高校だ。有名大学への進学率もいいことから、ダメ元でもと受験させたがる親も少なくないという。
     けれどもその「ダメ元」で受かってしまい、折角受かったんだから通いなさいと言われて入学した者達、あるいは中等部から持ち上がったものの、中学受験で同じパターンを経て入学した者達、彼らがたどる道をご存知だろうか。
     授業にはついていくので精一杯、或いはついていくことすら諦める者。家に帰れば辞書と首っ引きで何時間も宿題と予習に費やし、気がつけばもう寝なければ明日に響く時間。それでも無情にも成績順位は下から数えたほうが早くて、親には「折角いい学校に入ったのに」と愚痴られる始末。
     せめてテストだけでもいい点を取りたいと思う者達は、テスト前に猛勉強する者と……怪しい噂に耳を傾ける者に分かれた。
     ――旧校舎の知識の石。
     それが噂。その正体は旧校舎の化学室、勿論薬品などはないが置き去りにされた人体模型や骨格標本などが存在するその部屋にいる黒フードの人物がくれる知識の塊。
     最初は各科目のノートを綺麗にデジタル化して筆跡がわからないようにしたものをプリントアウトして、通販で十把一絡げで売っている天然石のダミーをお守りとして与えていたという。
     だが、それを頼りにした者達からの要求は次第にエスカレートしていった。
     ノートが完璧だったこともあるのだろう、もっと簡単にテストの点が取れるようなものがほしい、そう言い出した者がいるのだ。
     そして黒フードの人物は、テストの山を張ったプリントを用意した。
     それが当たれば噂は広がり、少しでも外れれば苦情が来る。より簡単にテストの点を取りたい……だれでもそう思うはずだが、客が間違った方向に進んでいるとは黒フードの人物は思わない。むしろどうすれば彼らの希望を叶えてあげられるだろう、そう考えた。
    「より簡単に、確実に点を取りたいなら、テストの問題を盗んできなさい。そうすれば、私が解いて、答えを授けましょう」
     黒フードの人物はそれは名案だと思った。そして言われた客達も、何の疑問を持たずそれならば完璧だと喜んだ。
     じゃらり……巾着袋の中に詰め込まれた石が音を立てた。

     灼滅者達が姿を見せると、ふう、と溜息をついて五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は頭を下げた。
    「来てくださってありがとうございます。ソロモンの悪魔への闇堕ちを察知しました」
     通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし彼は元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
    「彼が灼滅者の素質を持つのならば、闇落ちから救い出してください。けれども完全なダークネスになってしまうようであれば……その前に灼滅をお願いします」
     灼滅者の素質を持つものならばKOすることで闇堕ちから救い出すことができる。
    「とある男子校の旧校舎で、テスト前にノートの写しやテストの山を張ったプリントに、お守りと称してパワーストーンまがいのものを添えて与えている人がいます。彼は黒フードを深くかぶって顔を見えなくしていますが、この学校の1年生です」
     名前は桜沢・飛良(さくらざわ・ひら)。この進学校でトップクラスに入る成績を維持している少年だ。友達から宿題を教えてくれと頼まれたり、ノートを貸してくれ、テストの山を張ってくれと頼まれて断れない、いわゆるいい奴である。
    「彼の誰かの役に立ちたいという心が、『旧校舎の知識の石』という噂になり、楽をして成績を上げたい者を引きつけています」
     ただし、と姫子はため息を付いて。
    「もっと役に立ちたいという心が少々エスカレートし過ぎまして、飛良さんはとうとうテスト問題を盗んでくるようにと、客達をそそのかしてしまうのです」
     テスト問題を盗むというのは犯罪でもある。それを見逃してはいけないことは、誰もがわかっていること。
    「日が落ちた頃から旧校舎での配布は始まります。蝋燭の灯を灯して、まるで何かの儀式の会場のような風体でしょう。そこに相談者として赴き、本来テスト問題を盗む指示を受けるはずだった客達の代わりに、その指示を受けるのが良いでしょう」
     飛良の側には同じく黒フードをかぶった手下が三人いる。飛良自身は元々それほど強くはないが、手下がいるのが少々厄介だ。ちなみに手下の一般人は、KOすることで正気に戻す事ができる。
    「夜ですから、私服の男子であれば飛良さんに怪しまれることはないでしょう。男装でも大丈夫だと思います。あとは……本来の相談者さんたちが一組、五人ほど訪れますので、戦闘に巻き込まれないよう対処をしたほうが良いでしょう」
     化学室の机や椅子は飛良が使っているもの以外は撤去されているため、広さに関して心配は無用だ。ただし明かりは飛良の手元にある蝋燭数本だけなので用意したほうがいいかもしれない。
    「飛良さんはただ、人の役に立ちたいと思っているだけです。それが方向を誤ってしまっていて……説得するならその辺を突くのが良いかもしれませんね」
     姫子は微笑んで、灼滅者達を見つめる。
    「皆さんならこの任務、成功させられると信じています。油断はせず、頑張ってください」
     よろしくお願いいたします、姫子は頭を下げた。


    参加者
    卜部・泰孝(アクティブ即身仏・d03626)
    桃野・実(瀬戸の兵・d03786)
    サリィ・ラッシュ(ブルホーン・d04053)
    藤平・晴汰(篝火・d04373)
    朽榧・オロカ(スケルトンライアー・d04798)
    ヘカテー・ガルゴノータス(深更のひと・d05022)
    アリス・スティグマ(ハートスティグマのアリス・d10732)
    弓塚・紫信(煌々星の魔法使い・d10845)

    ■リプレイ

    ●夜の旧校舎へ
     夜の旧校舎は不気味だ。ぎしぎしいう床は余計な物音を導くし、壁の隙間風が背を撫でる。旧校舎に入った八人の灼滅者達はそれぞれ灯りとなるものを持参していた。その灯りを頼りに目的の部屋へと向かう。
    「我は此方にて」
     途中、卜部・泰孝(アクティブ即身仏・d03626)が足を止める。やってくる本来の相談者達の相手をするためだ。ここはどの通路を通ってきても、二階を使ったりなどよほどの遠回りをしない限り化学室へ行くのに通りかかる場所だ。相談者達も通るだろう。尤も、普通は最短距離を使ってくるだろうからこれ以上は用心せぬとも心配はないだろうが。
     泰孝の言葉に頷き、残りの灼滅者達は化学室へと足を進める。薄暗い旧校舎の中ではパッと見、全員が男性か中性的な男の子のように見える。そう、女子はそれぞれ工夫をして、男装をしていた。ターゲットである飛良の学校が男子校であるので、女子が混じっていては不自然だからだ。
    (「うぅ……初めての依頼緊張するよ……頑張って助けなきゃ」)
     ゆっくりと後方からついていくアリス・スティグマ(ハートスティグマのアリス・d10732)は随分と緊張しているようだ。それに気がついたサリィ・ラッシュ(ブルホーン・d04053)がそっと彼女に近寄る。
    「大丈夫だ。私達は声を出さずに立ってればいいだけだろ? 戦闘になるまでは後ろの方でじっとしてればいい」
    「大丈夫よ。くす……人が良すぎて道を踏み外すというのも滑稽な話だけれど。このまま放っておくわけにもいかないわ」
     小声での励ましにアリスが落ち着いて頷いたその時、先頭を歩いていた桃野・実(瀬戸の兵・d03786)が抑えた声を上げた。
    「ここみたいだな」
     ライトで入り口のプレートを照らしてみれば、傷んではいるがかろうじて『化学室』と読み取ることが出来た。入り口扉のガラス窓の向こうには、確かにゆらゆらと揺れる蝋燭の火が見える。
    「行こうか」
     藤平・晴汰(篝火・d04373)が扉に手を掛ける。全員が頷いたのを見て、彼はその軋む扉を開けた。

    ●知識の石の元
    「ようこそ。こちらへどうぞ」
     前扉を開けると、教室の後ろの一番奥からそんな声が聞こえてきた。エクスブレインの話通り、黒フードに身を包んだ人物が四人いるのを灼滅者達は足を進めながら確認する。机の前の椅子に一人だけ座っているのが恐らく飛良だろう。
     緊張した表情を作って、実と晴汰を先頭に、一同は飛良達の側へと足を進めた。そっと、晴汰は後ろの女性達を庇うような位置に立って。
    「助けて欲しい」
     実がおもむろに口を開いた。その声色には焦りが籠っていて、それらしさを感じさせる。
    「親御さんから成績の催促でも来ましたか? これ以上親御さんをがっかりさせたくないというよりは……これ以上うるさく言われたくない」
    「よく分かったね」
     晴汰が答えると、フードの下の口がニィっと形を変えた。
     後方でその様子を見ているのは、男性用礼服に身を包み、髪を帽子の中に収めてゴーグルをつけた朽榧・オロカ(スケルトンライアー・d04798)。彼女は思う。飛良のしていることは間違っている。楽をしようとしている客達も間違っている。
    (「……でも。分からなくは、無い。理想に手の届かない絶望を、足掻いても足掻いても沈み行くだけの現実を、私だって、知っている、から」)
     飛良は善意でそうした者達を助けていると考えたら。
    (「だから。差し伸べた手は、きっと救いだ。間違いでも、間違いじゃないんだ。馬鹿な私には上手く言葉に出来ないけど、その思いが正しい事だけは、伝えなきゃ」)
     方法は間違っているけれど、手を差し伸べたことは間違っていない。きっと。
    (「殺しに比べたらテストの盗難なんてかわいいものだ。だがこれ以上エスカレートする前に正気に戻してやらないとな」)
     このままエスカレートしたら、どんな形で手を差し伸べようとするかわからない。最悪の事態だって考えられる。スーツにハイネックのセーター、ブーツに手袋、サングラスをかけた黒一色姿のヘカテー・ガルゴノータス(深更のひと・d05022)。目の前の飛良が嬉しそうに話しているのを聞くと、なんとも言えぬ気持ちになる。
    (「相手が喜ぶ事と相手の役に立つ事は違うと、飛良も気付けると良いんだが……その手伝いが今回の使命か」)
     相手の役に立っていると思っている飛良。彼の認識を正さねば。
    「無茶な事でもやる」
    「お願いします」
     最前列では実と晴汰が必死さと決意を訴えている。それを聞いた飛良は、ゆっくりと口を開いた。
    「より簡単に、確実に点を取りたいなら、テストの問題を盗んできなさい。そうすれば、私が解いて、答えを授けましょう」
    「……」
     その言葉に場に一瞬の沈黙が降りる。
     女装を解けない身である弓塚・紫信(煌々星の魔法使い・d10845)は中性的な服を着て、晴汰の後ろからそっと飛良を見ていた。
    (「彼は優しくて人の役に立つのが大好きな人なんでしょうね。間違いは誰にでもあります。けど、人として曲がったことは許せません」)
     今飛良が口にした事は、曲がったことだ。それを実行させるなんて許せない。
     代わりに沈黙を破ったのは、応対をしていた実だ。
    「……もう一つ、手伝いをして欲しい」
    「何でしょう?」
     実はすっと表情を、別の意味で真剣なものに変える。
    (「桜沢が悪いとは思わねぇ。ただ、頑張り過ぎただけだ」)
     だから。
    「……お前が化け物になるのを止める、その手伝いをして欲しい」
    「!?」
    「俺達が助けて欲しい事は、テストなんてもんじゃねえんだ。お前の事だ、桜沢」

    ●眠りの風
     泰孝が廊下で待ち受けていると、足音を抑えるようにして前方から懐中電灯の光が近づいてきた。抑えようとしても時折軋む床の音は隠しきれていないのだが。
    「わぁっ!?」
     先頭の少年が、光にぼうっと浮かび上がる泰孝をみて思わず声を上げた。一体何に見えたのだろうか。元々罪悪感があればそれが刺激されたようにも思えるのだが、ただ単に暗闇と灯りと泰孝の容貌のコンボで驚いたという方が大きそうである。
    「案内致す。準備が整うまで、此方にて待って頂きたい」
    「あ、案内の人か……」
     泰孝が言葉を発したので、少年たちは安心したように息を吐き、彼についていく。案内されたのは化学室近くの空き教室。少年たちを先に室内に入れると精神集中を促して座らせて目を閉じさせ、泰孝が発動させたのは魂鎮めの風。
    「暫し目を閉じて頂こう。準備が整い次第、呼び出させて頂く」
     少年達が次々と倒れ、眠りに落ちたことを確認し、泰孝は気持ち程度だが防寒対策にと暗幕を少年たちに掛け、扉を閉めて空き教室を出た。

    ●正気を願う
    「……私の事?」
     飛良の声が親しげなものから訝しげなものへと変わった。フードの下の瞳がじろっと実を始めとした灼滅者達を見やる。ゆらっと大きく蝋燭の炎が揺れた。
    「ズルしてテストをやりすごしてると、本当に大切な試験で失敗することになるんだよ!? お前のやってることは、目先にとらわれてるだけで、結局友達のためになってなんかいない」
     怒鳴るように叫んだサリィ。その声を聞いて飛良の周りの手下が「女!?」とざわめいたが、サリィはそれに構わずに声を上げる。
    「なんのために勉強してるのかよく考えなよ。目先のテストの点数が上がればいいってもんじゃないだろう?」
    「けれども彼らはその、目先のテストの点を欲しがっているのですよ?」
     飛良は自分のしていることが役に立っていると疑っていないのだろう。何が悪いのかわからないといった様子で返してきた。その言葉を聞いて、アリスが疑問を挟み込む。
    「そうやってテストのたびに手を貸してあげても、あなたが手伝えるのは在学中だけよね? 一生手伝ってあげられるわけじゃない」
    「そうだよ。飛良君のそれは、テストで低い点を取るより、ずっとずっと悪いことだもの」
     柔らかく告げる晴汰。飛良は不思議そうに彼を見上げている。
    「ほんとに彼らの事を思うなら、基礎からじっくり勉強を教えてあげるのが一番なんじゃないかな。飛良君には、そういう方向で頑張ってほしいな、俺」
    「でもそれじゃ、助け切れない……」
    「一人で全部やろうとしなくてもいいんだよ」
     そっとゴーグルを外したオロカは、すっと前へ出てまっすぐと飛良の目を見る。うまく出来るかわからないけれど、頑張って笑ってみせる。
    「今まで、正しいと思って、やってきたんだよね。誰かを助けたいって、心の底から思ったんだよね。なら、それは間違いじゃない。胸を張って、誇って良い事だよ。だから」
     言葉を切る。けれども飛良の瞳は離さずに、捕まえたまま。
    「最後まで胸を張れる方法でやろう? 私も一緒に頑張るよ。何の力にもなれないけど、きっと、正しく在り続ける事だけは出来るから」
    「でも私はこれが正しいことだと思って……」
    「もう一度考えてみてください。そしてお願いです。あなたを頼る人を想うなら、こんな歪んだ方法はやめてください」
     自分が間違っているという事実を突きつけられた飛良は混乱しているようだった。手下達はおろおろと、飛良と灼滅者達のやり取りを見ているしかできない。紫信の訴えが、飛良の肩をぴくんと揺らす。
    「こんなことで人の笑顔を見て感謝されて、あなたの心は満たされてるのですか?」
     改めて問われればどうだろう。最初は役に立って嬉しかったけれど。でも。
    「嬉しかったですよ……でも、最近、はどうだった、か……」
     顔に手を当てて苦しそうに唇を噛む飛良。傍から見ても彼の混乱は明らかである。
    「私は、私は……ああっ……!」
     ガタンッ!
     椅子を倒して飛良が立ち上がると同時に顔から離された手が蝋燭を倒した。近くにいた実がいち早く反応してその火を消して。
    「私は、正しい……正しい!」
     顔を上げた拍子に飛良のフードが取れる。何かを感じたのだろう、手下達が飛良を庇うように前へ出た。
     だが何か感じたの灼滅者達も同じ。
    「我、今至れり」
     合流した泰孝を加えて隊列を展開し、解除コードを唱えていく。
    「Hope the Twinkle Stars」
    「Promotion」
     紫信とアリスがコードを唱えるのに合わせてオロカがゴーグルをかける。反対にヘカテーはサングラスを外して。
    「さぁ、少し私と話をしようじゃないか」
     この瞬間を待っていたとばかりに告げた。

    ●救いの戦い
     泰孝が床に転がしたライトが十分に光源を確保してくれている。
    「汝の行いし救済、受けし者に一時の救い有。されど、当人勉学せず、回答得るのみなら力に成らず。真に役立ちたいなれば、自ら学ぶ事、説くべし」
     泰孝が飛良へ言葉を投げかけながら数珠を擦り合わせて印を結び、手下の一人を盾で殴りつける。飛良の反撃の石が後衛を穿つが、説得が効いているのか威力はそれほど強くはなかった。
     次いでサリィが十字架を降臨させようとしたが光条を発するのに変えて飛良を狙う。
    「テストとは日頃の成果を試すためのものだ。勉強せずにいい点をとることが彼らの為になるはずがない」
     ヘカテーの鋼糸が手下に巻き付き、そしてその手下を倒れ伏させた。
    「相手は喜んでいるかもしれないが害をなす事と同じだ。もっと実りあることに目を向けろ」
     手下の一人を倒したことを確認したヘカテーは、しっかりと飛良を瞳で捉えて告げる。続いて実がご当地の力を宿したビームで手下を撃ち、飛良へと呼びかける。
    「なぁ桜沢。お前は努力してる奴の邪魔をするのか? 誰かの役に立つ為に他の誰かの努力を踏みにじっていい訳ないだろ」
     霊犬のクロ助が六文銭で手下を狙う。
    「お前は人の役に立ちたいんだろ。なら他人を踏みにじるような方法は選ぶな」
     目覚めて欲しい、それは皆同じ思いで。オロカも思いを込めて攻撃するためにバベルの鎖を瞳に集中させる。晴汰の造り出した黒き弾丸が手下を打ち抜き、倒れさせる。残った手下が中衛の体温や熱量を急激に奪っていった。しかしそれにも負けず、紫信は糸の結界を張り、手下を抑制する。
    「風よ、癒しを!」
     アリスの発現させた清浄な風が中衛を包み、その傷を癒していった。
    「汝の救い、待つ者有。役立とうとする気あれば、闇に飲まれずその思いを忘れる事無かれ」
     飛良を見据え、強い言葉を発する泰孝は盾を広げて後衛の防御とし、その傷を癒す。飛良は魔法の矢をサリィへと命中させる。だがサリィは負けじと飛良へ向かって光を放った。死角に回りこんだヘカテーの一撃で手下はその膝を折る。これで残るは飛良だけだ。
    「桜沢! 聞こえてるんだろ!」
     実が槍を捻りながら飛良を穿つ。クロ助はサリィの傷を癒し、オロカの弾丸は自動的に飛良を狙う。
    「サリィを守って!」
     アリスの『トランプル・トランプ』がサリィを守るように飛んだ。
    (「彼に僕らの声が届きますように……」)
     紫信の願いのこもった魔法の矢が飛良を射って。
    (「役に立ちたいって気持ちは、すごく尊い事だと思う。どうか、彼に想いが届きますように」)
     その思いが体現されたかのように、命中率の上がった晴汰の弾丸は予想以上の威力を弾きだした。
    「私はっ……」
     撃ちぬかれた飛良は、そのまま後ろへとゆっくりと、倒れ伏した。

    ●目覚め
     戦いが終わってしばらくしてから、飛良はゆっくりと瞳を開けた。どこも痛くないというのでよかったと皆胸を撫で下ろし、それぞれ自己紹介をして。そして。
    「あなたのその聡明さと優しさを、もっと生かせる場所があります」
    「一人じゃ頑張っても助けられる人は少ない……だから俺達がいる。武蔵坂学園にこねぇか?」
     紫信が学園の説明をすると、飛良は興味を持ったようだった。そして後押ししたのは実の言葉。一人ではまともに助けられる人が少ないというのは飛良自身が一番良くわかっているからだ。
    「そうですね……もっと人を助けられるのならば」
     その答えに微笑んで、晴汰は今度勉強を教えてね、とすかさず予約を入れる。
    「よかったら手始めに救って欲しい人達がいるんだけど」
    「卜部、案内を頼む」
     オロカとヘカテーに促されて飛良が泰孝に案内されたのは空き教室。そこで眠っている五人を起こして。
    「すいません、もう今までのような協力はできません」
     飛良がはっきり告げれば返ってくるのはブーイング。それを聞いたサリィがたまりかねて口を開いた。
    「ズルして、いい成績とろうなんてセコいんだよ! 男なら堂々と劣等生やれぃ!!」
     その剣幕に少年たちが怯んだところでアリスがすかさず使ったのが会心の光。これで暫くの間、彼らは「悩める善人」になるのだ。と言っても今回の場合は噂が出る前に戻るようなものだから、自然、いい方向に進むだろう。
    「なんだか頭がすっきりしたような気がします」
     旧校舎を出て冬の空を見上げる飛良を、灼滅者達は暖かく見守ったのだった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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