温泉危機一髪!

    作者:西灰三

     温泉である。露天風呂である。日本人なれば一度は入った事のある者が大半だろう。これから寒風吹きすさぶ時期、身も心も温めてくれる温泉である。
     だが、そんな超大事なホットスポットに無粋な邪魔者がわらわらと。山を降りて露天風呂に現れたのは大量の鎌鼬ではないか、そしてあろうことかばっさばっさと両腕の鎌を振るい、浴場のあらゆるものを邪魔だと言わんばかりに切り捨てていく。
     また折しも今は掃除の時間、清掃員が赤い汚れとなるのも時間の問題であった。
    「というわけで温泉回だよ!」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)は力強く言い切った。そりゃもうこれ以上無いくらいのいい笑顔で。
    「……一度言ってみたかったんだ」
     それはともかく。
    「詳しい説明をするね。とある山の中の露天風呂に鎌鼬が10体現れるんだ。この鎌鼬を全部被害が出る前にやっつけて欲しいんだ。この鎌鼬はリーダー1体に率いられてるの。リーダーは一回り大きくて使う力もやっぱり一回り大きいみたい」
     要するに役割分担がはっきりしているらしい。
    「この鎌鼬は解体ナイフっぽいサイキックを使ってくるみたい。あと大事なことが一つ」
     真剣な顔でクロエは言う。
    「早めに全滅させれば露天風呂の被害も減らせるよ。そうするとなんと! 温泉に入れるの」
     手には回数券。それを灼滅者達に渡す。
    「だからもし温泉に入りたければどれだけ短い時間で倒せるか考えてみてね」
     ついでに忍び込むルートもクロエは伝える。
    「それじゃサクサクっと倒して温泉楽しんできてね!」
     はたと、彼女は何かを思いついたように付け加える。
    「ラッキースケベとか考えちゃだめだよ? ……だめだよ?」


    参加者
    白瀬・修(白き祈り・d01157)
    天王寺・楓子(和洋折衷の魔法使い・d02193)
    社樹・燵志(常闇崩し・d03142)
    水心子・真夜(剣の舞姫・d03711)
    鈴永・星夜(小学生神薙使い・d05127)
    耶麻・さつき(鬼火・d07036)
    ホイップ・ショコラ(中学生ご当地ヒーロー・d08888)
    西口・久義(ぐっすり眠るアドレナリン・d09813)

    ■リプレイ


     まだ開業前の早い時間、灼滅者達は露天風呂の中に立っていた。周りは木々に囲まれ、あるいは崖になっていて普通に外からは見えないところである。まあ灼滅者ならばバベルの鎖のお陰で見られても困ることはないのだけれど。
    「しっかし、なんでまた温泉の施設なんか破壊しに来たんだか」
     どこか冷めた様子で耶麻・さつき(鬼火・d07036)が呟いた。そりゃまあ通りすがりとかそういうこと何かもしれないし、そうで無いのかもしれない。
    「理由はどうあれ鎌鼬を放っておくとたくさん被害が出る恐れもあるから……」
     白瀬・修(白き祈り・d01157)は周りをうかがいなら返す。人のもとに眷属が現れて、そのまま何もしないと言うことはないだろう。少なくともエクスブレインからは人的被害が出ると言われている。
    「せっかくの温泉。台無しにされちゃあ元も子もないよね」
     西口・久義(ぐっすり眠るアドレナリン・d09813)の答えはこの場の灼滅者達の大半の考えと同じだ。眠たげな声で言われても、きっと。
    「温泉、入りたいしね」
     訥々と天王寺・楓子(和洋折衷の魔法使い・d02193)が言う。手を重ね合わせているのを見ると寒さには敏感なのかもしれない。
    「あっ」
     不意に鈴永・星夜(小学生神薙使い・d05127)が声を上げる。彼の視線の方に顔を向ければそこには鎌鼬の群れが現れていた。鎌鼬達もこちらを発見したようで襲いかかろうと向かってくる。社樹・燵志(常闇崩し・d03142)がすかさず日本刀を抜き構える。
    「来たか。だが入浴ルール守れねぇヤツは、即刻退場だ。 使い寄越したお前らのボスにも言っとけ」
     こちらに向かってきた一体の刃を弾き、燵志は続ける。
    「まぁ一匹も逃がすつもりはねえけどな」
    「そうですの! 温泉は日本の宝! それを壊そうとするなら叩きのめしますの!」
     ホイップ・ショコラ(中学生ご当地ヒーロー・d08888)が指を指して彼に続く。
    「今代が剣の舞姫の舞、とくと御覧あそばせ♪」
     水心子・真夜(剣の舞姫・d03711)が舞うように先陣を切り、かくして戦いは始まった。


     燵志が敵の群れに対し鏖殺領域を放ちダメージを与えていく。楓子もまたフリージングデスを放ち敵から体温を奪う。次々にそれらに合わせるようにさつきの龍翼飛翔や、ホイップの大震撃が敵の群れを飲み込んでいく。
    「……!!」
     だが多数の攻撃の嵐を受けた鎌鼬はその程度で怯むこと無く襲い掛かってくる。人では表現な出来ない叫び声を上げながら灼滅者達の周りを飛び回り傷つけていく。飛び散る水しぶきや舞い踊る湯気などと共に灼滅者の体を切り裂いていく。対象となるのは敵陣に深く切り込んでいた者達だが、むしろ固まっていたが故に傷は浅くて済んでいる。
    「大丈夫、落ち着いて!」
     修が癒しの光を真夜に届けるがそれも過剰なくらいである。その回復を受けた真夜はライドキャリバーと共に駆け、魔弾と突撃で鎌鼬のうちの一体を打ち崩す。
    「一つ!」
     同じように反対側から攻めていた久義がマシンガンの先に付いたナイフで敵を突き刺して消滅させる。
    「これで二つ目!」
     どちらにせよ最初の多層攻撃が効いての撃破だろう。部下をやられたためか、この中のボスと思われる大柄の鎌鼬が今さっき部下を倒した久義に向かって鋭い鎌を振りかぶる。
    「えーい!」
     そのボスの刃を封じ込めようと星夜の足元から影が伸びて戒めようとする。だが何も準備という準備もされていないその一撃では痛手を与えることは出来ても相手の動きを鈍らせるには至らない。よしんばそれができてもその頻度は多くないだろう。……結果敵の刃は久義を貫く。
    「……!」
     大きな痛みが彼を襲うが、彼の内の闇には届かない。まだ、その時ではないと確かめるように他の仲間たちを見る。
    「よっ……と」
     軽い様子でさつきが白く輝くハルバードを振り下ろす。その大きな刃が振り切られた時には敵の姿は真っ二つになり断末魔も許されずに消滅した。その隣では楓子が放ったマジックミサイルが鎌鼬を貫いていた。
    「これで……3つ、4つ目」
    「いや、5つ目だな」
     鎌鼬の姿が消えると共にその後ろから現れた燵志が呟く。そんな彼らに襲いかかろうとした鎌鼬が迫るが、彼らは攻撃が終わる前にその場から飛び退く。
    「温泉の平和は私たちが守りますの!」
     大きく振りかぶったホイップのロケットハンマーから衝撃波が再び放たれる。今度こそ敵の群れに直撃した大震撃はその体に大きなダメージを与える。勢いに乗った灼滅者達は相手に攻撃の暇を許さずに押し切っていく。真夜が舞うように剣を抜けば敵を切り捨て、星夜と楓子が回復に回ったために攻撃手となった修が敵を凍てつかせる。一度決まった趨勢はそのまま覆らずに、残りはボス1体となる。最後まで諦める気が無いのかボスは久義に斬りかかる。だがその動きを見切っていたのか久義は武器を構えて待ち構えていた。
    「狙いが甘いよ!」
     大きく横に武器を振りぬく、予想外の攻撃にボスはその威力に身を吹き飛ばされるがすぐに態勢を立てなおそうと床に鎌を突き立てて止まろうとする。だが。
    「てめぇで最後だ」
     ボスが立ち止まるよりも早く燵志の炎をまとった刃が敵を切り裂く。そしてすぐに灰になるように消えていった。


     戦闘が終わってから灼滅者達はすぐにその場を退散した。少しばかり手間取ったところもあったけれど概ね大きな被害は施設には残らなかった。
    「修理とかしなくって良かったわね」
     楓子が呟き、燵志も同意する。二人とも戦闘後の事を考えていたらしい。
    「それしてもずぶ濡れのままって気持ち悪いわね……」
    「着替えとかタオルとか用意しておけばよかったのに」
     真夜が濡れた袖をつまんで呟く、そう言うさつきの方もタオルは首にかけてるもののすぐに着替えられる所はなく服は濡れたままだ。そんな中冷気混じりの風が吹き抜けていく。サイキック的に気持ち悪いのはキュアでなんとかなるものの濡れた服が乾くわけでは無い。
    「ううっ、寒いですの。早く温泉に行くのですの!」
     ホイップが体をさすって少しでも熱が逃げないようにする。だが更に吹きすさぶ風、皆が寒さに耐えている時、星夜の髪だけがサラサラと流れている。
    「ねえ、鈴永くん。それって……クリーニング?」
    「え? うん」
    「……それ使えるのなら皆にも使って欲しいな……」
     修の問いに星夜は何くわぬ顔で頷く。久義がとりあえず彼に頼み全員をクリーニングした。


     場所は変わり彼らは先程まで戦場だった温泉施設に来ていた。店員が多少慌ただしく動いていたものの問題なく入浴できるらしい。一同はエクスブレインから渡された入場券を使って温泉へと。
    「えーっと……」
     何くわぬ顔で女湯へ行こうとする星夜。隣の楓子もそんな物なのかと何も言わないが慌てて修がそれを止める。
    「……ちゃんと男湯に行かないと」
    「6歳だけど?」
    「駄目。大変な事になる」
     まず間違いなく大変な事になるだろう。大体混浴どーのこーのは条例で色々決まってたりする。それに加えて前提が親同伴である。普通は一緒に来ている男子がいたらそっちに行くもんである。
    「あ、先に入ってるね」
     二人が話しあっている間、真夜が歌いながら女湯ののれんをくぐっていく。彼女に続いて女性陣も。彼女達を見送ると彼らも間違えないように男湯へと向かった。


    「火の国、日本ならではよね~」
     真夜が手で温泉をすくって呟いた。湯船に肩まで沈んだ彼女は鼻歌を再開していた。
    「そういうものなの?」
    「そういうものなの」
     楓子の問いに大きく頷く真夜。日本と言えば温泉である。田舎から都市部まで土地土地に温泉がある国柄なのである。火山帯上にある国というのなら火の国とも言えるかもしれない。
    「極楽極楽……」
     ホイップがそのまま湯船の中に沈み込みそうなくらいにリラックスしている。戦闘とその後で冷えた体を彼女たちは暖めていた。

    「ふぅ……極楽って言葉は宗教的には違うけど、言いたくなる気持ちはわかるなあ……」
     身を洗った修は湯船に体を沈めてそう呟いた。壁の向こうの誰かも同じ事を言っていたりするから問題はない。
     温泉に入り気が緩くなれば口も軽くなる。
    「ねえ、らっきーすけべって何?」
    「あー、ラッキーなスケベだ。それよりも牛乳かコーヒー牛乳か……そっちのほうがすげえ大事だ」
    「僕はイチゴ牛乳を推すよ」
     久義により選択肢が増えて更に悩み深くなる燵志。とりあえず後で女子にも聞いてみようと考えるのであった。

     温泉から出たのは男性陣が先だった。久義は迷うことなくいちご牛乳を手に取り、燵志は並べられたビンを眺めて唸っている。彼らがそんな風に待っていると女性陣が帰ってくる。
    「おまたせ」
    「なあ、湯上り何飲む? 牛乳かコーヒー牛乳かイチゴ牛乳」
    「やっぱり牛乳ですの!」
     びしぃっと効果音付きでホイップが返す。そして皆に牛乳を手渡ししていく。そして本人は腰に手を当ててその中身一気に飲み干す。他の者達も牛乳を飲み終えると帰途の準備をする。
    「っと、土産も忘れずに」
     燵志が待っている間に買っておいた温泉卵を忘れずに手に取る。一行は無事温泉を眷属から守りきり、その恩恵を受けて一仕事を終えるのであった。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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