寝たら死ぬぞ

    ●北海道某所・雪山
    「みんな、寝るなよ。寝たら、死ぬからな、ぐー」
    「……」「……」
    「おいおい、起こせよ。死ぬから。バッチリ死んでしまうから! そうだ! みんなで小屋の隅に座って、順番に肩を叩いていこう」
    「いや、3人しかいないから」「ひとり多いってオチだろ」「これ以上、体を冷やしてどうするねん」
    「あっ、みんな知っていたか。有名だもんな」
    「な、なあ……。ひとり多くないか」
    「またまたまた、何を言うとりまんねん。一人、二人、三人……、ピッタリやんか。あ、わいの分を入れ忘れ取ったわ」
    「つーか、誰だ、お前!!!!」
     そんな噂から生まれたのが、今回の都市伝説である。

    「コイツは薄ら寒いシャレを言って、まわりの温度を下げて、多くの登山者を凍死させている……らしい」
     被害者達の写真を並べ、神崎・ヤマトが溜息をもらす。
     写真に写った登山者達はみんな微妙な表情を浮かべていた。
     おそらく、死ぬまで寒いシャレを聞かされていたのだろう。
     死因としては、実に……哀れ。

     今回倒すべき相手は、登山者風の都市伝説。
     コイツは雪山で遭難した登山客の前に現れ、死ぬまで寒いシャレを言い続ける。
     そのため、登山者達は微妙な気持ちになったまま、あの世に逝ってしまう。
     まあ、中には極限状態で訳が分からなくなり、笑顔を浮かべたまま凍死している奴もいたが……。
     おそらく、お前達が行く頃には、登山客達が襲われている、もしくは凍死した後だろう。
     どちらしても、猛吹雪の中で山小屋に行く訳にもいかないから、彼らが生きている事を信じて、山小屋に行くしかないからな。
     最悪の場合、都市伝説だけでも倒せばいいから、最悪の事態も想定しておいた方がいいかも知れない。
     ちなみに都市伝説は寒いシャレを言う事で、まわりの温度を下げる力を持っている。
     しかも、その吐息は、まるで氷。
     バナナで釘が打てるほどの寒さだから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)
    天羽・蘭世(虹蘭の歌姫・d02277)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)
    イリヤ・ミハイロフ(ホロードヌィルナー・d07788)
    ハイナ・アルバストル(無法たる夢喰い・d09743)
    佐藤・角(高校生殺人鬼・d10165)
    神林・美咲(黒の魔剣士・d10771)

    ■リプレイ

    ●雪山にて
    「寒いシャレを言って、本当に寒くさせちゃうなんて、すごい都市伝説さんなのです……」
     都市伝説が確認された山小屋を目指しながら、天羽・蘭世(虹蘭の歌姫・d02277)がぶるりと体を震わせた。
     きちんと防寒対策をしてきたはずなのだが、それでも寒いと言うのが本音である。
     この状況でこれほど寒いのだから、雪山で遭難した登山者達は、もっと酷い状況になっているはずだ。
    「遭難して凍死というシチュエーションはよく聞くけど……、ダジャレで凍死するとはなんかあんまりな気がするな。早く救って温かいスープでも飲ませてあげたいところだが……」
     険しい表情を浮かべながら、字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)が山を登っていく。
     都市伝説が確認された山小屋は、しばらく先。
     この時期になると、頻繁に遭難事故が起こっていたため、数年ほど前に建てられたもので、十分な食糧が蓄えられていたのだが、それを知っている地元民が持ち帰っていたため、食べるものがなくて餓死している可能性も捨てきれない。
    「寒い雪山で寒いダジャレで、あの世にイかされるのは、寒そうで嫌だなぁ。雪に覆われた自然は美しいけれど、それを愛でるココロとカラダは『HOT! HOT!』を希望するよ」
     思わず想像してしまい、三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)がやれやれと首を横に振る。
     ナノナノのえくすかりばーも、ローランドとお揃いでピンクのスノーウェアを着込み、一緒になって首を振った。
    「シャレの質はともかく、寒いシャレで人まで殺すそのベタさは評価に値する。一笑にフしてやろう。それにしても最近山関連の依頼が多くないか? 偶然じゃなければ、面白いのだけれどね……」
     山に絡んだ事件がやけに多かったため、ハイナ・アルバストル(無法たる夢喰い・d09743)が口をつぐむ。
     おそらく、冬になって山に関連した事件が増えたため、都市伝説の動きが活発になっているのだろう。
    「確か、この辺りのはずなんですが……」
     目標周辺の登山地図を確認しつつ、佐藤・角(高校生殺人鬼・d10165)がコンパスや高度計を確認する。
     山小屋はそれほど離れていない場所にあった。
     小屋の半分が雪に埋もれ、見つけづらくはなっていたが……。
    「あっ、ほんとだ」
     懐に隠し持っていたバナナを取り出し、ハイナが近くの木に釘を打つ。
     確かに……、バナナで釘が打てる。
     だからと言って、何だと言う訳ではないのだが……。
    「こんな場所でずっと寒いシャレを……。同情するよ、色々と……」
     今までの犠牲者を思いつつ、イリヤ・ミハイロフ(ホロードヌィルナー・d07788)が山小屋を眺める。
     その間に角が救援のヘリを呼ぶため、無線を持って電波状況が良いところを探し始めた。
    「寒いシャレで死ぬなんて……、死んでも死にきれませんよね、それ。そんなつまらない都市伝説は、私の魔砲でジェノサイドDEATH!!」
     自分自身に気合を入れ、土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)が山小屋に入っていく。
     その途端、都市伝説が『団体さん、ご案内~』と言って、楽しそうに小躍りした。
    「これ以上あなたの好きにはさせません! ここからは少々熱く行かせていただきます!!」
     都市伝説に対して宣戦布告をした後、神林・美咲(黒の魔剣士・d10771)がスレイヤーカードを解除する。
     だが、都市伝説は『ちょっと、待って! おいらは戦うつもりなんてないよっ!』と言って、ブンブンと激しく首を横に振った。

    ●山小屋
    「例え、あなたの超寒いシャレを大阪人が許そうと、土星人の私が許さな――い!! 土星に代わってジェノサイドDEATH!! 覚悟はいいか、都市伝説」
     都市伝説と対峙しながら、璃理が高速演算モードを使う。
    「い、いや、だから戦うつもりなんてないんだって。ほら、笑顔、笑顔」
     大袈裟に驚きながら、都市伝説が自分の口を引っ張った。
    「……えと、これって面白いのですか……?」
     キョトンとした表情を浮かべ、蘭世が都市伝説を見つめて首を傾げる。
    「いや、今のはギャクとかそういうレベルじゃナインよ」
     激しく首を横に振り、都市伝説が何となくシャレを言う。
     しかし、何が面白いのか分からない。
     それ以前に何処から何処までがシャレだったのかすら判別不能。
    「面白くない、0点」
     都市伝説に生暖かい視線を送り、ハイナがキッパリと言い放つ。
     だが、都市伝説が面白いシャレを言うようであれば、登山者達の心も自然と温まり、凍死者など出ていなかったはずである。
     今までそう言ったケースが確認されていない以上、都市伝説が面白い事を言う訳がない。
    「登山家さん達は無事ですっ!」
     その間に美咲達の傍に駆け寄り、美咲が登山家達の安否を確認する。
     登山家達は『寒い、身体が凍る』と呟き、ガタガタと体を震わせた。
    「さむいダジャレよりもあたたかいダジャレ……そうだねぇ、おっぱいがいっぱい。おっぱい、ちっぱい、いっぱい、かんぱい! うーん、ニホンゴって難しいねぇ。えくすかりばー、何を怒っているんだい?」
     ハッとした表情を浮かべ、ローランドがえくすかりばーに視線を送る。
     えくすかりばーが小さく首を振っていた。
     やれやれと言わんばかりの表情を浮かべ……。
    「あの……寒いです……」
     一気にまわりの空気が冷たくなった事に気づき、蘭世が申し訳なさそうに呟いた。
     えくすかりばーも、コクコクと頷いている。
    「あまりにも寒すぎたせいで、みんな凍死寸前になっているが……」
     登山者に上着を着せながら、イリヤが呆れた様子で溜息をもらす。
     それを見た都市伝説が調子に乗って、寒いシャレを連発する。
    「……ものすっごいくだらないです、超寒い!! こんなの私の故郷、土星でもダメダメですよ、はぁ」
     途中から馬鹿らしくなり、璃理がツッコむ事を止めた。
     その途端、都市伝説が、大爆笑。
     何やらツボに入ったらしく、腹を抱えて笑っている。
    「何が面白いのか分からないが、これ以上この場を寒くされても困る。それに僕は暖かい方が好きだから、これで燃やす!」
     一気に間合いを詰めながら、望がレーヴァテインを放つ。
     その一撃を食らって都市伝説が派手に吹っ飛び、空になった食糧棚に突っ込んだ。
    「もう少ししたら、救助のヘリがここに来ます。その前にすべてを終わらせてしまいましょう」
     仲間達に声を掛けながら、角が登山者達に非常食を配っていく。
     身体が冷えているとは言え、極限状態で空腹になっていたせいか、登山者達はそれを受け取ると、貪るようにして平らげた。

    ●都市伝説
    「その前に、お前を始末しないとな」
     ライドキャリバーに飛び乗り、角が都市伝説に突っ込んで行く。
     間もなく救助ヘリが来る以上、ここでのんびりしている訳にはいかない。
     救助隊が山小屋に到着する前に、都市伝説を倒さなければならないのだから……。
     だが、都市伝説はそんな角の気持ちを逆撫でするようにして、寒いシャレをマシンガンの如く吐き捨てた。
    「うるさいな」
     不機嫌そうにナイフを逆手に持ち、イリヤがティアーズリッパーを放つ。
     それでも、都市伝説は壊れた人形の如く、くだらないシャレを連発した。
    「そのさっむい洒落を吐く口をぶち抜いてあげます!! マジカル☆クルエル・ロックオン。逝くよ、必殺バスタァァァビィィィッム!!」
     都市伝説の口めがけて、璃理がバスタービームを撃ち込んだ。
     その一撃を食らった都市伝説が『うぼら、ボケェ!』と叫び、大量の血を吐いて何かの真似をし始めた。
    「……そのダジャレは寒冷適応してても寒い。やめて貰おうか!」
     イライラとした様子で、望がギルティクロスを発動させる。
    「ちょ、ちょ、ちょっと待って! いまネタを考えるから! 心がホットになるネタを考えるからっ!」
     酷く慌てた様子で、都市伝説がネタを考えていく。
     だが、浮かばない。
     必死に考えれば、考えるほど、ネタが浮かばない。
     焦れば焦るほど時間ばかりが過ぎていき、出るのは大量の汗ばかり。
    「もう喋らないでくださいっ」
     都市伝説の言葉をピシャリと遮り、蘭世が彗星撃ちを発動させた。
     そのため、都市伝説は考える余裕が無くなり、涙目になって山小屋の中を走り回る。
    「それじゃ、ボクが最高に面白いシャレを……。えっ? なんだい、えくすかりばー」
     えくすかりばーが袖を引っ張っていたため、ローランドがキョトンとした表情を浮かべる。
     どうやら、えくすかりばー的にローランドのシャレはNGらしい。
     次の瞬間、都市伝説がニヤリと笑って、とびっきりに面白いシャレを言おうとした。
    「……させないっ!」
     都市伝説の懐に潜り込み、美咲が黒死斬を叩き込む。
     それと同時に都市伝説が悲鳴を上げようとしたが、その口めがけてタバスコを投入!
     悲鳴すら上げる事さえ出来ず、都市伝説が跡形もなく消滅した。
    「何とか間に合ったようだな」
     次第に救助ヘリの音が近づいてきたため、イリヤがホッとした様子で溜息を漏らす。
     ギリギリであったが、何とか間に合った。
     これで何とか登山者達も助かるはずだ。
    「ここは気の利いたシャレでシメたいとこだけど……、まあホラ僕はマジメ人間だからね」
     苦笑いを浮かべながら、ハイナが登山者達に視線を送る。
     その言葉を聞いた途端、登山者達が『もうシャレは懲り懲りだよ』と言って、力なく笑うのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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