灼滅者はつらいよ~ぶらり柴又人情散歩~

    作者:日暮ひかり

    ●『フーテンの』小虎
    「ばびゅ~ん! ちょっと、そこのあんた達! あたしに付き合わない?」
     愛機のライドキャリバー、その名もブラックタイガー号に跨って、車・小虎(小学生ご当地ヒーロー・d08114)はその日も天文台通りキャンパスにやってきていた。
     見慣れない顔に首を傾げる灼滅者達を前に、小虎は胸を張って自己紹介をする。
    「あたし? 生まれも育ちも葛飾柴又。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は小虎。人呼んで『フーテンの』コトラと発します! ちょいとヤボ用があって、最近井の頭とコッチを行き来してんだ。よろしくね」
     何でも、彼女にはあるダークネスとの因縁があるらしい。だから、これから生まれ故郷である柴又は帝釈天に、勝利を願ってお参りをしに行くのだという。
    「柴又って、今でも江戸下町の雰囲気が残ってて、超いいとこだよ!」
     昔ながらの風情が残る柴又駅の改札を出れば、有名な映画スターの像がお出迎え。
     賑やかな呼び込みが響くそこは、人情の町、葛飾柴又だ。
     
     駅前の道を左に歩けば、角のレトロな駄菓子屋の横に見えてくるのが、帝釈天へと繋がる参道への門。
     ほんの200メートルばかりの道に、30軒を越える店舗が並ぶ商店街だ。
    「柴又帝釈天参道っていってさ、柴又駅から帝釈天へ繋がる通り。そこにあたしの家もあるんだ。あ、うちはね、老舗草団子屋だよ!」
     古き時代の佇まいを守り続ける和風の街並みを歩けば、まるで映画の世界へ紛れ込んだよう。土日ともなれば、たちまち人であふれかえる。
     名物の草団子屋は何軒もある。よもぎを練り込んだ餅にあんこを乗せた正統派草団子は、店舗によって味の濃さが違うので、食べ比べが楽しい。
     その他にも団子の種類は色々とある。炙りたての草団子に醤油と刻みのりをかけた、香ばしい焼き草団子。揚げ団子やみたらし団子、紫いもや栗、ごま等の餡をかけた白団子もある。
    「あたしが言うのもなんだけど、すっごく美味いんだ。これがさ!」
     店内や、軒先の休憩所でお茶と一緒に頂くのもいいし、一本もらって食べ歩くのもまた粋なもの。
     手焼き煎餅に飴菓子、最中と、菓子屋はまだまだある。
     根付、手拭い、箸に傘。草履に提灯、湯呑に扇子。
     土産屋に所狭しと飾られた民芸品や和小物の山からは、きっと自分だけの一品が見つかるだろう。
     
     参道を抜ければ、そこは下町の人々に長年愛されてきた柴又帝釈天だ。
     映画やテレビで見るより小さいことに、君は少し驚くかもしれない。
     けれどそれが『下町らしくてイイでしょ』と、小虎は笑む。
    「東京のご当地って、いまいちピンとこないとか思ってんでしょー? ねっ、草団子一本サービスしちゃうから、皆一度おいでって!」
     あたしの恋も、戦いも、下町の風と帝釈天が全部見守ってくれてんだ――。
     そう言って、小虎は皆に快活な笑顔を向けた。
     
    ●このシナリオは『TRPGリプレイ連動シナリオ』です
     このシナリオは、11月20日に富士見書房から発売された、サイキックハーツTRPGリプレイ『灼滅者に涙はいらない』との連動シナリオです。
     今回登場した車・小虎は、この『灼滅者に涙はいらない』のメインキャラクターのひとりです。詳しくはリプレイを読んでみてくださいね!
     
    ●このシナリオは『参加無料』です
     みなさん気軽に右下の『参加する』をクリックし、参加してください。
     ただし、参加するには自分のキャラクターが必要です。まだキャラクターを持っていない人は、ここから作成してください。キャラクター作成も無料です。
     https://secure.tw4.jp/admission/
     
    ●リプレイには『抽選で選抜された100人』が描写されます
     このシナリオは学園シナリオです。参加者は必ずリプレイで描写される訳ではありませんが、冒険の過程や結果には反映されます。
     なお、今回のシナリオでは、抽選で選抜された100人のキャラクターが描写されます。抽選はトミーウォーカーが行います。
     
    ●2巻以降に登場してくれる人、募集!
     サイキックハーツTRPGシリーズは、今後も刊行される予定です。
     そこで『2巻以降のリプレイに登場していただける方』を募集します。登場してもいいよという方は、プレイングの1行目に、
     【TRPGリプレイ登場OK!】
     もしくは、
     【TRPGリプレイ登場OK!(闇堕ちもOK!)】
     という文章をコピー&ペーストしてください。
     今回の連動シナリオ4本のいずれかに参加し、プレイングの1行目にこう書いていた中から、FEARがキャラクターを選抜します。
     どのような形で登場するのかはFEARに一任となります。学園に通う生徒として事件に巻き込まれたり、重要な情報を教えるキャラクターになるかもしれません。闇堕ちもOKと書いたキャラクターは、ダークネスとして敵側に回ることもあるかもしれません(闇堕ち時の外見などをプレイングで指定しておくといいことがあるかも?)
     登場することになった場合でも、事前に連絡などは行われません。ご了承ください。


    ■リプレイ

     

     いち、にい、さん。
     すれ違う灼滅者を数え歩いていた阿欺兎(d07792)だったが、もういいかと草団子を頬張る。
    「みんなこんな風にぶらぶらできる日常が続けばいいんだがなぁ」
     呟いた言葉も雑踏へ吞まれる程に、今日の帝釈天参道は賑わっていた。
    「さっきの映画スター像、あの映画を撮っていた撮影所が、ボクの町の近くにあったんだ!」
    「マジ!?」
    「柴又は歴史情緒あふれる町って聞いたけど、本当だね。戸塚も中々だけどいまいち目立ってないんだ……」
     だから今日はご当地を盛り上げる勉強に来たのだという旭(d06921)と共に、小虎は帝釈天へ向かう。
     流石にここまで人が多いと、小虎の相棒もひいて歩くしかない。
    「やほ~♪ そのエビ、かっこいいね!」
     門を潜れば、待ち合わせ中のミカエラ(d03125)と目があった。
    「あたい、みっきー。あんたはコトラだっけ? 美味しそうな名前だねっ!」
    「エビじゃなくて虎だーい!」
    「あっ、車小虎はんや。うちと友達になってくれへんかなぁ……」
    「水くさいねぇ。誘いに乗ったら皆仲間だよ」
    「ほんま?」
     友達の証。大事にしてなぁと、ひさぎ(d07932)はサイン入りの名刺を渡す。絶対ハリウッドスターになるって今帝釈天と約束してきたからと。
    「ここがかの有名な帝釈天ですか……♪」
     そう呟き、七日(d02181)はダイスを振る。これでキャラを決めているらしい。
    「やっべぇマジパネェ! 超アゲぽよって感じ~♪」
     道化の衣装も相まって非常に怪しいが、大道芸人か何かと思われたろう。
    「ふえ~。これがジャパニーズ魔神の帝釈天かぁ~」
     同じくハイテンションなルーシア(d03114)は賽銭箱の前でくるくる。小声でなにやら秘密のお願いを唱える。知られたら大変なことらしい。
    「車さん。あちらの方々は何をされてるのでしょうか?」
     常香炉の煙を浴びる参拝客が、初めて神社を訪れるヴァン(d02839)には不思議に映った。
    「身体の悪い箇所に煙をかけると良くなるんだよ。はぁ、これであたしの失恋の傷も癒される……」
    「ふふ、不思議な煙ですね。私も一緒にやってみましょう」
     そう言って、二人は胸に頭に煙を煽る。
     その時本堂の方から与一(d11249)の声が聞こえた。
    「ごっつ可愛い彼女さんできますよーに!!」
    「何? 運命!?」
    「小学生はなぁ……って、ちゃうちゃう! 今のは冗談やで?」
    「ちぇー。小学生はつらいよ……」
     本当は真面目に強くなる事を願うつもりと与一は照れ笑いする。
    「南無妙法蓮華経よ。南無阿弥陀仏って言っちゃダメだからね?」
     本堂付近では、慣れない留学生たちに魅姫(d04426)がお参りの仕方を教えていた。
    「帝釈天さんには魔障を退散させるご利益があるのよ。灼滅者としての武運長久をお祈りしましょ」
    「そーそー。だから帝釈天ビームはすごいんだぞ。帝釈天参道だって今年は百周年記念ですごかったんだから!」
     小虎が首をつっこめば、そうなのねと魅姫は笑む。霊犬のもみじを抱き、熱心に耳を傾ける歌織(d08126)。
    「お願い事の内容は何でも良いの? だったら、家内安全をお祈りしてみようかしら」
     もみじも家族なんだから戦闘で無理しないでねと言えば、相棒はどこか不服そうな目を向ける。どうやら主人が心配なようだ。
     ライラ(d04068)の故郷には神に祈る習慣はなかった。けれど日本に慣れる良い機会と、見よう見まねで賽銭を投げ手を合わせる。仲間とこれからも仲良く。父に会いたい。電話したい。振り向いてくれますように。更に言えば……結ばれたい。
    「すっげー気合だな! よーし、あたしもっ」
     小虎も負けじと賽銭を投げ入れ、むむむと念じる。
     何をお願いしたのかと、光貴(d05986)が問う。
    「もっちろん、宿敵をブッ飛ばすこと! あんたは?」
    「僕は健康かな。健康で体を鍛えて、もっともっと強くならなきゃ」
     そして自分の力で勝利を掴みたいのだと言えば、くそーなんかカッコイイじゃんと小虎は少し悔しがる。
     光影(d11798)も健康祈願と共に、灼滅者として己の仁義を貫けるように祈った。
    「神様が祀られているところには、ちゃんとお参りしろってじいちゃんが言っていたからな」
     観光もしたかったけどと翔汰(d08853)が快活に笑う。地元や皆を守れるくらい強く、優しい人でいる。付け足したテストの点向上はご愛嬌。ヒーローの志は受け継いでいる。
    (「不良時代の僕の話を唯一聞いてくれたあの人みたく、素敵な紳士になれますように」)
     隣で一樹(d04275)は憧れの人を想う。足りない知識や教養を、じっくり身につけるだけの時間はまだまだある。
    「今日はぶらぶらするよ。後で小虎のお店にも行くね」
    「うん、待ってんよ!」
     ちらっ。 
     知人を見つけた前(d11881)は談笑する皆の目の前を横切ったり、視線を送ったりしてみたが、全く気づかれずにいた。おみくじも凶だしいつもの事だががっくりだ。
     存在感を上げるお守りが欲しい……そう思いつつ、安全第一を手に取る。

     下町の街並みはどこか懐かしい。弾む気持ちで瑞希(d00993)が願うのは『無病息災』。難しい言葉だけど、この四字に自分の願いが全て篭っている。
     おみくじを引けば末吉。お兄ちゃん、さては今日のお昼もジャンクだな。健気な妹はおみくじを力いっぱい木にくくった。
     本名すらも失うこの不運、もはや神にすがるしかない。せめて気持ちだけでも軽くなればと、スガタ(d03740)は厄除けを強く願った。
    (「お願い聞いてよ、帝釈天さん」)
     波乱万丈な情報屋生活。楽しい事もあるけれど、やっぱりそろそろ普通の女子高生に戻りたい。
    (「ふわもこな動物達を思う存分もふもふ出来ますように」)
     真剣な顔で賽銭を投じるヴィラン(d03457)の願いを誰が想像出来るだろう。しかしふわもこは大事だ。戦いで疲れた心を癒してくれる。灼滅で得る魂の癒しも、ふわもこの力には敵うまい。
     甘いものを沢山食べたい。兄や姉を、守れるようになりたい。それから。
    (「友達沢山作れますように」)
     これから始まる数多の縁に思いをはせ、茅和(d10936)はそろりと手を合わせた。欲張りすぎたかなと不安にもなるけれど、今日は一人だから自分だけの秘密。
     帝釈天に願えば、武運も上がるかもしれない。いろは(d03805)が景気よくどっさり浄財を投入すれば、周りの生徒たちが少し驚いた目で彼女を見た。お参りのあとは彫刻や庭園を見て回るのも良いだろう。回廊を歩いて彫刻ギャラリーへ向かった。
    (「程々にいい学園生活と……あとは……あいつとの……って……私は何考えてるのよ……!?」)
     口には出せぬ淡い恋も、帝釈天は黙って聞いてくれる。ほんのり顔を赤らめ、零香(d01739)は想い人との縁を願う。
     もっと積極的になりたい。そう願った桜華(d01091)は、おみくじを引くために足を踏み出す。恐る恐る紙を開けば、書かれていたのは小吉の文字。
     簡単にはいかない。けれど、無理じゃない。ささやかな希望の言葉はなんだか本当の事に思え、変わろうと決意した。
    「ひぃ! こ、こりゃヤバイっす! ええっとまずは破魔矢を買って、それからそれから……!」
     おみくじの結果に大慌てでお守りを買う歩(d08996)だが、家内安全はまだしも安産祈願は何か違う。けれど彼女を想ってこそだ。
     45円で始終ご縁がありますよう。平和を願って漣香(d03598)はおみくじを引くが、凶。
     不吉な内容は見なかった事にして、木に結ぼうとするもびりっと破れる。
    「く、くそっお守り買っとこうお守り!」
     やっぱり平和なんて無理なのか。幸先に不安を感じつつ、販売所へ走る。
     あっちも凶かと思いつつ、充実した学園生活も結局は自分次第かと和希(d06598)もおみくじを木に括った。
    「まぁ底辺なら後は上がるだけだ」
     我ながら前向きだと思う。深刻には考えないけれど、お守りを買ってみるのもいい。気の持ちようというのは案外大事だ。
     だが下には下。大凶をひいた崩(d11966)が、人知れずぐしゃりとおみくじを握りつぶした。面白い事は一体いつ起きるのだろう。
     おみくじの結果に一喜一憂する生徒たちを見ながら、夢衣(d01798)も運試し気分でひいてみる。中吉。いいのか悪いのか、よくわからない。
    (「けど、みんなが楽しめてるならきっといいことだよね」)
     久々の遠出、折角だからと何か願掛けを考えるも、これといった願いが無いことに楓子(d02193)は思い至る。今は仲間がいる。息災を願わなくとも皆なら大丈夫と信じているし、自分だって満ち足りている。願うなら、そうだ。この幸いが、少しでも長く続くよう。
     エリス(d00723)も思う。只、こんな平和な日々が続けばいい。慎ましい願いは、それをとても難しいことと心得るから。参拝が終わったら、お守りを買おう。ほんの少しかもしれないけど、平穏な今日の思い出はきっと何かの、誰かの支えになる。
     けれど。
     神様が本当に居るなら、なぜ世界は支配されているのだろう。どこか冷えた瞳で藍花(d04699)は帝釈天を見上げた。
     どうかどうか、世界から少しでも悲しみが減りますように。それが気休めであろうとも、何も知らぬ人たちのため静かに祈る。
     杞憂で済めばいいのですが。灼滅者の行く末に一抹の不安を感じ、願う祐士(d10511)の顔色はどこか冴えぬまま。それでも魂の安住の地を得るために、探求をやめる訳にはいかない。
     倒さねばならない人が居る限り、焔迅(d09292)の心の翳りは、消えない。
    (「帝釈天様、勝利の加護をお与えください。……見合うよう、修練頑張ります」)
     未だ至らぬ力と心得るからこそ、今はただ神妙に勝利を願う。己と仲間の心の焔が戦禍の内に潰えぬよう。
     それでも。
    (「なるべく、今という時の流れがゆるやかになりますように」)
     その今を恵まれているとも織絵(d03318)は思う。良い事を思いついたと、長く長く願い続けた。ここに居ない仲間の分までぐっと力を籠め。下町の粋な神様は、きっと寛大な心で聞いてくれるから。
     これだけ人が集まると、帝釈天様も大変だ。けれど団子を犠牲にしてでも那由他(d11358)には願いたかった事がある。
    (「灼滅者以外の闇堕ちした人々も、いつか元に戻れる日が来ますように」)
     想うのは養父の羅刹と、従弟たちのこと。いつかは皆が幸せになる方法を見つけたい。
     真面目なもの、くだらないもの、はてや呪いじみたものまで願いは人それぞれと、レオン(d08240)の師匠は言った。この下町情緒溢れる寺も、そんな思いを受け止めてきたのだろう。
     ――いつもあんがとございます。
     帝釈天と、周りの皆へ。元気でいられるのも、きっと誰かのお陰。


    「ここ、初めて来たんだ。よかったら案内してくれない?」
     帝釈天へのお参りをすませた小虎は、下町初体験という翡翠(d03021)、ミシェル(d11520)、れおん(d11852)達を案内がてら店へと向かう。初めて見る景色に、三人はあちこち目を移しながら参道を歩く。あたしも入れてと桜(d05173)もやってきた。
    「この辺りでお勧めの物はなんでしょうか?」
    「そうだなー、食べ物も美味しいけどお土産屋さんもいいよ。あっちは達磨、あっちはカエルグッズのお店。駅前にはたわしとかヘンなもんいっぱい売ってるお店もあるし、あと映画の記念館もおすすめ!」
    「記念館かあ。後で行ってみようかな。部屋に飾れる物が欲しいと思ってたんだ、覗いてもいいかな?」
     日本文化には興味があったんだと、ミシェルが達磨屋さんに向かった。翡翠も財布を手にして後を追っていく。
    「あたし、趣味で色んな種類の玉かんざし集めてるんだよねー♪」
     名前と同じ桜色のかんざしを見つけ、桜も店へ。
    「いいお土産ないかなー。砂吐きそうなほどとんでもなく甘ったるいお菓子!」
    「うーん。あっ、あそこの煎餅屋のざらめせんべいとか! あっちにはスイートポテトも売ってるよ」
     霞(d04367)にもお菓子のお勧めを教えて、小虎は進む。
     初めて訪れた帝釈天。けれど神社の娘である湯里(d03864)には、門前町の風景もどこか懐かしく感じる。身近だからこそゆっくり見る機会もなかったからとのんびり歩く。行きかう人々、露店の賑わい。大阪でも東京でも、その暖かさは変わらない。
    「まあ、なんですのこれは? ……『5円チョコ』? まさか、5円なんかでものが買えると言うんですの? ご冗談も程々になさってくださいな」
     お嬢様に駄菓子屋はアウェー。言っている事はある種可愛いのだが、みえ子(d10646)の迫力に子供がびびる一幕もありつつ。
     結祈(d02440)が考えるのは小さな弟妹たちへのクリスマスプレゼント。これなら皆で遊べるかなと、ベーゴマとめんこを手に取る。勿論お父さんも忘れずに、ハンカチを買った。
    (「喜んでくれると、いいな」)
    「おじさん、これからひいきにするから少し安くして頂戴。お、ね、が、い」
    「こっちも商売でなぁ……でも可愛いお嬢ちゃんに言われると参るねぇ」
     工具を求め店を覗いた里美(d09849)は良い品を見つけたようだ。ここからは店主との根気勝負、あと一押しだろうか。
     手にした子年の年賀状は、萌申面(d11454)の父が幼少時に帝釈天で撮ってくれた写真入りだ。当時と変わらぬ街並みを懐かしみながら、家族そろって歩んだ参道をひとり旅ゆく。あの団子屋が、まさか同業者の実家とは思わなかったけど。
    「カードを見せると一本おまけしてくれるお店があるらしいけど……人が多くてどこかよくわからないの」
    「それあたしんちじゃん! 今行くとこだから連れてったげんね」
     そう背丈の変わらない小1の小鳥(d06205)の手をひいて、小虎は参道をゆく。
    「テキ屋さんはどっちですかー?」
     通りすがった牛肉(d00142)が問う。入口のほうだと指差せば、
    「ありがと。総なめにする勢いで満喫しまーす!」
    「おーい、射的やるなら前髪はジャマだぞー!」
     とてとて歩いていく彼女を、大きな声で送り出す。
     続いて珊瑚(d11579)がお勧めのおやつを問う。歌を歌う人ならあそこの飴! と小虎は元気よく指をさす。
    「生姜やよもぎを使った優しい味ののど飴なんだ」
    「ありがとうございます」
     お礼に珊瑚もお勧めの飴を置いて行った。欧州の黒い悪魔――サルミアッキ。
    「わぁ……! なんだが、楽しそうなとこだね!」
     縮緬細工の干支マスコットを見つけ、涼葉(d00186)が目を輝かせる。でも一目散に食べ物に向かう人たちを見ていると、やっぱり。
    「小虎さんの家のお団子もおいしそうだよね。私も買おう!」
    「うーん、お団子おいしいです~」
    「あ! 口にみたらしつけてる」
     小虎に指差され、陽和(d02848)はこほんと咳払い。次は煎餅だと口を拭って歩き出した。
     初めて食べる手焼きの醤油煎餅は、香ばしくて暖かい味。姉と弟にも食べてもらいたいと、お土産は三人分買った。
    「む、これはテルに似合いそうだな……いやいかん、ただでさえ愛らしいテルがより可愛くなっては色々心配だしな……」
     肩に愛猫の照葉を乗せ、散葉(d00752)は鈴付きのリボンを手に取った。娘の服を見立てるように悩むのは愛情ゆえ。草団子を頬張りながら、じっくり考える。
    (「べつに……可愛い物が好きとか……そんなんじゃないぞっ!」)
     そう、クラブへの土産を選びに来ただけだ。でも隣の猫は気になるし、並んだ猫グッズを眺める夜兎(d02876)の頬は今にも緩みそう。ころっと丸いぶちの楊枝入れなんかは手に取らずにはいられない。
     そんな猫好き達の頭上、屋根の上では茶色の虎猫に変身した凜(d05491)がそろりと雑貨屋の猫に近づく。お昼寝から起こさないよう隣に失礼。大きくなった柴又の街を見下ろせば大迫力だ。けれど日差しと毛皮のぬくぬくに敵わず、いつしか微睡みの中へ。
     扇子に提灯。今日を形に残せる品をと決めてはいたものの、眺めると色も柄も大小も様々。
     迷いに迷った頼翔(d11076)は、赤と藍の二つの扇子をかざし隣の客に声をかける。
    「なァお前さん。お前さんなら、どちらを選ぶ? 参考までに聞かせてくんねェ?」
     何を買っていいのやら悩んでいたジョイ(d02356)は顔を上げ、
    「扇子か。どちらも良いな。俺も民芸品とか伝統とかに、興味があってな」
     同じく黒い扇子を手にし悩み始めた。
    「あ、あの! 扇子なんて、小学生には早いかな。うう……」
     綿菓子を食べながら、何度も店の前を行き来していた愛(d07977)も意を決し輪に入ってきた。薄桃の背景に石楠花の咲く、大人びた扇子へ憧れの眼差し。
    「ここは皆で一緒に買ッちまおうか!」
     頼翔が頷く。お土産決まったらお団子屋にも行けるねと、愛が笑った。
     好みの雑貨に溢れた店頭は一日中見ていられそうだけど、可愛い鳩のお手玉に想い起こしたのは姉のこと。木鳥(d03834)は気恥ずかしさを覚えながらも、家族へ贈る箸置きを買った。姉はどこで何を買ったのだろう。夕飯の時間になったら、土産を渡して聞いてみようか。
     恋人と別れ、今日は一風変わったデートを。小さな花車を手に取って、これに決めたとユッカ(d02207)は土産屋の店主にお金を出す。車に積まれた匂い袋から仄かに漂う、白檀の香りもいい。さて、どちらが良いお土産を探せたか。彼女が喜んでくれるのを楽しみに、包みを持って待ち合わせ場所へ。
     振袖を揺らし、朱里(d00235)は淑やかに参道を歩く。古道具を探して土産屋の奥を覗きこめば、軒先に飾られた蛇の目傘が目に付く。数ある色のどれが一番サロンに合うだろう――考えていると、帰る客から白檀の良い香りがふわりと漂う。傘を手に取りながら、自分へのお土産も少しならと考えた。
    「この土星の様な色、土星の環の様なカーブ……これを作った職人は同胞の土星人ですね♪」
     同じく傘を見ていた璃理(d01097)はうっとり何か呟いている。
    「良い出会いでした、土星様ありがとうです☆」
     いや日本橋の職人が作った傘です。

     団子と共にカードの有難さも噛みしめ、蒼朱(d02079)はビハインドと並んで歩く。
    「楽しいか? ノウンが食べれない分も俺がしっかり食べるから安心してくれ」
     余計な一言につっこみを喰らい、頭をさすりながらも蒼朱は満足気に笑んだ。二人でのんびり出来て良かった。
     湯呑みが欲しいと、店を覗いた磨璃華(d01031)が店主に聞いた。
     バイクで轢いても大丈夫、いやねーよと渡されたのは、寿司屋で使うような厚手の渋い湯呑みだ。
    「たまにゃこうしてノンビリ散策ってえのも悪かねえやな」
     鞄の中の重みに、再び日常の相棒を得た喜びを感じる。
     以前は兄と共に来た柴又の街。一人で歩む今に、感慨深く時の流れを思う。草団子を齧りながら、最中に飴にと銀河(d02202)は目移り。甘くて美味しいものは幾らでも欲しいけど。
    「……お、お小遣いたりねぇ」
     買ってくれる人は今はいないが、悩むのもまた中学生の特権だ。
     参道を往来する人々を眺めながら、立花(d00205)は茶店で甘味を堪能していた。
    「ひゃー、お姉さんいい食べっぷり!」
     店を覗いた小虎が瞳をさらに丸くした。皿に積まれた団子をつまみながら、立花は手を振る。
    「誘ってくれてありがとうね。楽しませてもらっているから」
    「へへっ。あたしも声かけた甲斐があるってもんだよ!」
    「あの、私の友人を見かけませんでした?」
     振り向けば、何やら慌てた由希奈(d01252)が立っていた。
    「どした、迷子? 一緒に探すよっ。お代はその袋の中身ね!」
     ちゃっかり買いこんだ煎餅の袋を隠しても、遅い。美味しかったんですと由希奈は頬を染めた。
    「……うっ、た、助け……!」
     人探しをしつつ店の前に着けば、団子を喉につまらせた絵莉羽(d09169)が悶えているところだった。初めての下町スイーツにはしゃぎすぎてしまったようだ。それでもお土産の達磨とお菓子山盛りは離さない。
     今お茶持ってくるからと、小虎は慌てて店へ駆けこんだ。


     人の波に揺られ、美味しいにおいにつられてふらふら。一際香ばしい香りに顔を上げれば。
    「あ、小虎先輩のおうち!」
    「らっしゃーい」
     早速カードを差し出すめいこ(d01110)に、小虎は笑顔を向ける。
    「お団子ってここであってますか?」
     続いてやってきた海(d01131)にも団子を渡し、あんた達小さいのによく一人で来たねぇと感心する。
    「でも一人だからはぐれないんだよっ。……美味しい! もう一本買おうかな?」
    「皆で違うの買って少しずつわけたら、色んな味楽しめるね」
    「それもいいなぁ」
     小さな二人の後ろでカードを取り出しながら、清和(d00627)がふと呟く。
    「君も思ったよりちっちゃいな」
    「なにー! もう団子あげないっ」
    「はは、ごめん。僕もご当地系だ。よろしく」
    「この雰囲気、いいねー。ボクのご当地、浅草ともいい勝負だよ!」
     帝釈天参道で買えるありったけのお菓子を抱えた陽菜(d07083)は、並んでいる間に煎餅を一齧り。食べ歩いても誰も咎めないのは下町のいいところ。
    「武蔵野に浅草かぁ。みんな東京仲間だな!」
     サービスだよっと山盛りされたあんこに苦笑しながら、清和はお土産用も注文した。
    「どこも風情の在る店が並んでいるでござるな~」
     拙者もご当地ヒーローでござると自己紹介をしながら、霧緒(d04905)は小虎にカードを見せる。
    「しかし、ただ食いなど粋ではござらんっ! 店主よ、10本頂こうかの?」
    「まいどー! でもなんでブルマーなんだ……?」
    「『フーテンの』小虎、ね。イキな名前じゃん」
    「おっ、柴又ラムネとはあんたも通ねぇ」
     つぶ餡の甘さを堪能し、鈴(d06617)は旅を再開。飴に煎餅に相棒のギター、荷物が増えれば思い出も増える。遊ぶと決めたら財布の紐は空気だ。親父にも漬物を買おうかと、次の店へ。
     ぴかぴかのカードを準備して、渚沙(d01439)も草団子を待つ。実は今日初めて使うので、少しどきどき。本当におだんごもらえた! と無邪気に喜んで串をぱくり。
    「甘くておいしいのを教えてください。おみやげにいっぱい、買っていくの!」
    「それなら、揚げ団子とみたらし団子を詰めとくよ!」
    「とらにゃーん、俺もお土産に団子……二十本ほど」
    「何それあだ名? カワイイじゃん」
     縁(d00371)の財布は少々軽くなってしまったが、渡された草団子の包みはなかなか重い。沢山いるクラブ仲間全員分には到底達しそうもないが、他の誰かも買っていたら暫く草団子祭りになりそうだ。
     気前の良い先輩達に負けじと、慶(d09391)もクラブ仲間への土産を注文しかけるが。
    「どったの?」
    「こ、小虎サン、お団子二本は無料にならないっすよね」
    「あんたどんだけ貧乏なの!?」
     ズバッと言われてしまい慶は撃沈。食べ過ぎて小遣いが無くなっていた。
    「はぅ、柴又に遊びに来ない? って誘いまわっている人が居ると聞いてやってきました」
    「ほい、あたしだよ! 楽しんでる?」
    「はい、食べ歩きしてますがどれも美味しくて幸せですよ~♪」
     和の味は好きだ。サービス草団子を嬉しそうに頬張るクゥ(d02496)。新品の草履を手にした凛香(d11519)は、クラブへのお土産を5包ぶんどっさり買っていった。
    「ここが草団子美味しいお店でゴザルか、ぜひとも食してみねば」
     日本のマナーを守ってサイゾウ(d04097)は順番に並ぶ。草団子を一口食べれば、益々ハイテンション。
    「うむ、旨いでゴザル! この風味が絶品でゴザル!」
    「他の味のやつも1本ずつくれ」
    「おいしいからもう5本ほどちょうだい」
    「あいよー! ありがとさーんっ」
     クロト(d03057)や遙(d00620)の気前良いおかわりも飛び出し、小虎が破顔する。一本ずつ食べ比べるクロトにどれが一番美味しいかと聞いて、遙は更に追加を検討中だ。
    「この超絶甘党のあちきの恐ろしさを教えてやるっすよ!」
     両手の指に隙間なく20串の団子を詰め、フォルリア(d09896)はまさかの一気食い。ちなみにこれは彼女の小遣い前借り二か月分で、本日の手持ち金全て。甘味処全制覇どころか帰りの電車賃が心配だ。
    「草団子、揚げ団子、みたらし団子、紫いも団子、栗団子、ごま団子、それから……あ、やっぱり全部一本ずつ下さい!」
     アスカ(d11177)も全種類注文。順に団子を頬張り、お土産まで頼む気満々だ。甘味の魔力は恐ろしい。
    「僕も全部の団子1本ずつ下さい」
     修太郎(d06271)も実に爽やかな笑顔で団子を注文する。想像以上の売れ行き、これなら赤字の心配もないだろうか。
    「関西の方の出身だからさー、いっぺん来てみたかったんだよね! こういう雰囲気って嫌いじゃないよ」
     彩陽(d03086)もこのさい全種制覇だともりもり食べる。可愛いグッズを買おうかとも思っていたけど、美味しそうなものの誘惑には勝てない。
     手持ちの団子を一旦口に咥え、淼(d04945)は下げていた袋の一つを探る。
    「交換だ。縁起物だぜ? しばらく飾っといてくれ!」
    「おおぉー! すげー! 粋じゃん」
     出てきたのは得意の飴細工で作った小さな火の鳥。飴屋でも見られない芸に皆も小虎もどよめいた。
     店は灼滅者達のみでなく、一般の観光客や近所の常連でも賑わっている。
    「小虎って意外と人気あるんだな」
     今は花より団子かもなと一馬(d00726)がからかえば、意外とってなんだと小虎はふくれる。
    「今度横浜に遊びに来ないか? 今回の礼に案内してやるぜ……動物園に中華街と盛りだくさんだぜ」
    「え、何、ナンパ? どうしよっかな~」
     と言いつつ嬉しそうだ。
    「その服ってのも随分フーテンだよ、この時期だと寒くないかい?」
    「寒さなんてのはさ、歩いてるうちにばびゅーんと吹き飛ぶんだい!」
     団子と共にもらった甘茶をすすり、南(d11459)は元気だねぇと笑った。
    「ブラックタイガー号って、なんか海老より別のもんが浮かぶんだよなぁ。何だっけ……」
    「あたしにゃわかんないねー。ほら小学生だし?」
     追加の団子を注文しながら、結衣(d07281)は店先のブラックタイガー号をしげしげと眺め首を捻る。そういやあたしもそろそろ名前考えなきゃなあ、と南。
    「それって……虎なんだよね? 海老じゃないのよね?」
    「だーかーらー! ちがーう!」
     クラレット(d01548)はごめんねと笑って、お土産だとご当地仙台の名物ずんだ餅を差し出した。
    「あっ、ずんだだ! うちにもずんだ団子あるんだよ」
    「じゃあ食べ比べてみようかな?」
     店の前で、知らない人に記念撮影してもらったと多岐(d09003)はカードと一緒にカメラを見せた。
    「これが下町マジック……」
     例えば一本だった筈の団子が三本に増えたり。貧乏学生の財布が泣いている。今日の写真を見る度、初めて食べた団子の美味さを思いだすのだろう。
     草団子を買っていく仲間達を見やり、休憩所に座った源一郎(d03269)は瞳を細めて柔らかな笑みを浮かべた。賑わう店先を眺め、団子と共に暖かいお茶を食べれば、心地良いひと時に胸が和む。
    「……今日も平和だの」
     その時お店の中で団子を食べていた藍(d02826)が突如むせかえる。
    「おいおい、大丈夫?」
     ふーふー冷ましながらお茶を飲む藍を小虎が気遣う。
    「どうもありがとうなのです」
     ぺこりと礼儀正しく頭を下げて、再び美味しそうに団子を頬張った。
    「皆もお茶のおかわりいるー?」
    「お手伝いえらいわね♪」
     大繁盛の合間、休憩所にお茶を運んできた小虎に、耀夜(d01272)は言った。まるで母親のような口ぶりにきょとんと首を傾げられて、彼女はくすくすと笑う。
    「ね、ね、それ何?」
    「これ……柴又の、スケッチ」
    「すっごーい! 上手だねぇ」
     鉛筆で優しく描かれた柴又の街を、小虎も気に入ったよう。お店も描いて良いかと問えば快諾した。
     素敵な街だ。下町の人々は、皆優しい顔をしている。ここで育ち、ここを護る小虎へ憧憬を感じながら、シエナ(d01312)は鉛筆を持つ。
    「なるほど、よもぎを団子に練りこんだのですね」
     ほろ苦い団子には餡子も醤油もよく合うと知る。和の味をまったりと堪能し、ローラ(d10031)は行儀よくこくりとお茶を飲んだ。三鈴(d10972)は飼い猫のミケにも団子を差し出してみる。
    「今日はここで草団子売り切れでーす!」
    「ヒャッハー!! 連綿と受け継がれてきた奥深い味だったぜぇ!」 
     最後の一つをゲットした三成(d01741)は少々意外な感想を述べると、土産の芋羊羹を抱えて映画スターの記念館へと走り出した。その背中に、小虎が叫ぶ。
    「おーい! 山本亭を突っ切ると近道だかんねー!」
     寒空の下でも、下町はこんな風に活気と優しさに溢れていて、胸が温もるよう。
    「時代は移り変わってゆくけれど、人の心の温かさまでは変えられないのだわ。街並みだけでなく、大切な心も、下町には残っているのですね」
     いろは(d11000)がしみじみ言う。小虎はとびきりの笑顔で、そうでしょと返事をした。
    「ねー! お店の前で写真とろーよー! 皆も入って入って!」
     お気に入りのコートを纏った虎治(d00376)が、携帯を構え弾んだ声で笑う。画面には草団子をくわえてピースする女生徒達が写っていた。
    「ココみててね、ね! はい、チーズ!」
     ここは葛飾柴又、人情の街。
     今日繋がった少しの縁が、いつか大切な絆となる日が――きっと来る。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月13日
    難度:簡単
    参加:958人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 38/キャラが大事にされていた 36
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