アルビレオの宝石

    作者:志稲愛海

     ――そうだ、サファイアのような、新しい蒼い瞳が欲しい。
     だって、昨日手に入れたばかりのこの金色の瞳と並べれば、きっと。
     夜空に輝くアルビレオみたいに綺麗だろうから。
     そう私は、大切な宝石箱から取り出した金色の瞳を、無邪気に掌の上で転がしてみた。
     私の求めるは、サファイアの様な、蒼の瞳。
     全天一美しい二重星といわれているアルビレオの星を、この掌に輝かせたい。
     だから。
    「ねぇ、どこまで行くの?」
    「もう少し先に車を停めてるから……それにさ、折角の縁でしょ? もっと君のことが知りたいな」
     そう優しく笑んでみせる私の言葉に、隣を歩く獲物は頬を紅潮させつつも頷く。
     煌々と星のように輝かせた、サファイアブルーの瞳を細めて。


    「随分な趣味してるよね、まじ気分悪ィわ」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はそう吐き捨てた後。
    「……んじゃ、未来予知始めるね」
     集まった灼滅者達に、へらりといつも通り笑んでみせてから。
     サイキックアブソーバーの解析結果から導き出された未来予知を語り始める。
    「今回はね、ヴァンパイアのダークネスの行動が察知できたよ。このヴァンパイアは大学生くらいの男でね、本名は分からないけど、スカーレットって呼ばれてるみたい。それで……このスカーレットなんだけど、蒼い瞳の少女を連れ去ろうとしてるんだ」
     そしてスカーレットに連れ去られたその少女の末路は、死。
     このままでは、じわじわと肢体を切り落とされ、血を啜られ、そのサファイアのような蒼の瞳をえぐられてしまう。
     放っておけば、この少女の無残な死は勿論、今後も被害者がさらに増える可能性が高い。
     そうなる前に、このヴァンパイアを灼滅して欲しい。
    「それで、予測されたタイミングはね、駅で終電を逃した少女をスカーレットが巧みに誘い出したその後。二人で裏道を歩いている時だよ。これより早くても遅くても、バベルの鎖によって察知されちゃうから」
     幸い時間が遅い裏道のため、他の一般人の姿はないという。
     裏道の幅は、横に3人ほど並べる程度で、障害物なども特にないようだ。
     だが、スカーレットのすぐ隣には、蒼い瞳の少女がいる。
     巧く少女をダークネスから引き離し、助けることができればベストな結果だが。
     敵は、灼滅者達よりも格上の力を持つヴァンパイア。
     最悪、これ以上犠牲者が増えぬよう、スカーレットの灼滅だけでも果たして欲しい。
     遥河はざっと無造作に前髪をかきあげた後、続けて、敵の詳細を説明する。
    「スカーレットはガンナイフを持っていて、ダンピールの皆と同じヴァンパイアのサイキックを使ってくるよ。勿論、基本戦闘術も会得してる。かなりの強敵だから、十分気をつけて。あと、スカーレットは、冷徹で残忍な頭が切れる男みたいだよ。欲する綺麗な瞳をしていれば、ターゲットは男女に拘りは無いみたい」
     強い力を持つ上に、ただ闇雲に力をふるうだけではない相手というわけだ。
     そしてあくまでも強く執着するは、その宝石のような瞳だけ。
     遥河はそこまで説明した後。
    「相手はかなり危険な相手だけど……みんななら大丈夫って、オレ信じてるからね」
     いってらっしゃい、と、灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    早鞍・清純(全力少年・d01135)
    白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)
    赤槻・布都乃(暗夜刀・d01959)
    柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)
    川原・咲夜(ニアデビル・d04950)
    片桐・秀一(高校生殺人鬼・d06647)

    ■リプレイ

    ●伸ばした手の行方
     先程まで都会の空で瞬いていた星たちは、まるでその身を潜めるかの様に。
     いつの間にか分厚い雲に隠れ、ひとつも見えない。
    「今回は手強そうな相手じゃのぅ……」
     薄暗い裏道を進みながら、アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)はそう呟いた後。
    「まずは……様子見じゃな」
     箒に跨ると、滑るように空へと舞い上がる。
     そんな黒髪靡かせ夜空を飛ぶ彼女の装いや姿は、まさに魔法少女。
     アリシアは星の見えぬ空からそっと、頼りなく照る街灯が伸ばしたふたつの影を目で追った。
     ひとつは、サファイアの瞳を持つ少女のもの。
     もうひとつは……その宝石を狙う、ヴァンパイア・スカーレットのもの。
     そして天翔ける魔法使いは、アリシアだけではない。
     建物の影から、気取られぬよう注意を払いつつも。
    (「女性の救出は努力目標ですが……努力でなんとかなるなら、身命賭してでもなんとかしてやりましょう!」)
     相手の真上やや後方に位置取ったのは、川原・咲夜(ニアデビル・d04950)。
     目的は、ダークネスの灼滅。
     だが咲夜は少女を助ける為に身を呈する事も辞さない。
    (「女性を助ける私を仲間が助けてくれる、つまり全員が救出役という事。全員の助けたいという想い、必ず成し遂げる―!」)
     それは――仲間を信じるからこそできる覚悟。
     早鞍・清純(全力少年・d01135)も、万一の場合はダークネスの灼滅を優先すると心に決めながらも。
     そうならない為に頑張る、と。上空からライムグリーンの瞳で、少女の姿を捉える。
     そして、星々さえも息を潜める闇を飛ぶ仲間達の準備が整った頃合を見計らって。
    「青い星をお探しっすか?」
     スカーレットに立ち塞がる様に路地裏から姿をみせたのは、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)。
     いや、ギィだけでない。
    (「眼球集めのヴァンパイア……色んな意味で厄介だな」)
     彼と共に道を塞ぎつつ、足を止めたスカーレットを見遣る片桐・秀一(高校生殺人鬼・d06647)は。
     ヴァンパイアとの戦いを前に、より一層気合いが入っている。
    「何なんだ、おまえたちは」
     そう言って大切なサファイアを守るべく位置取るヴァンパイアに、柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)も視線を投げた。
     例え少女を人質に取られたとしても……躊躇わず敵を灼滅する決意を、その眼光に宿して。
    「な、何なの……?」
     突然現われた灼滅者に怯み、隣にいる彼の腕を掴む少女。
     だがギィは、少女にではなくスカーレットへと、さらに続ける。
    「ここにも二つあるっすけど、いかがっす?」
    「……!」
     そして、ギィの瞳の色を見たヴァンパイアの表情が大きく変わった、刹那。
    「まあ、寄ってきなよっ!」
    「!」
     殲具解放――そう紡がれると共に、勢い良く振り下ろされるは。
    (「いよいよ本物のヴァンパイアが相手っすね。油断なく遺漏なく細大漏らさず、ぶった切るっすよ」)
     その背丈ほどもある、宝玉嵌りし無敵斬艦刀の一撃。
     その攻撃を皮切に飛び出し、敵の背後からも現われる灼滅者達。
    「見付けたからには逃がさねぇ。灰も残さず潰してやる!」
     ギィの攻撃を振り払ったスカーレットは、そんな赤槻・布都乃(暗夜刀・d01959)の声に振り返って。
    「後ろからも……くっ!」
     思わぬ挟撃に、深紅を帯びた瞳を忌々しげに細める。
     そして、その奇襲の目的は勿論。
    「きゃっ!」
     スカーレットの意識が逸れた隙をつき、少女を救い出すため。
     一気に空から急降下し、目一杯腕を伸ばす、清純と咲夜。
     ――だが。
    「くっ!」
    「もうちょっと……!」
     立っている状態ならば、その身を救い上げられたかもしれないが。
     恐怖のあまり、完全にうずくまってしまった彼女まで、僅かに手が届かない。
     頼りない街灯しかない薄暗い裏道で、視界的にも今一歩、狙いが定まらなかったのだ。
     だがそんな少女にすかさず声を掛けたのは、白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)。
    「済まないがお姫様、お手を拝借したい。貴方を悪い吸血鬼から護らせてくれ」
    「悪い……吸血鬼!?」
     ラブフェロモンの効果か、睡蓮の言葉に素直に耳を傾けた少女へと。
    「俺達怪しいけど、君を助けたい気持ちは嘘じゃないんだ。ちょっとだけキミを誘惑した男を見てみて?」
     空をUターンしながらも清純は続ける。
    「あれは君だけじゃない、誰かの大切な人を傷つける危険なモノだから。悪いモノ程綺麗なのは残酷な実態を隠す為だから。可愛い女の子が傷つくのは世界的損失だからね」
    「攫いに来ましたよ、お姉さん」
     さらに同じくラブフェロモンを纏った咲夜も、もう一度、清純と共にその手を伸ばした。
     そして少女は、隣にいるヴァンパイアの姿をそのサファイアの瞳に再び映してみて。
    「あ……!」
     瞬間、恐怖の色を宿すと、魔法使い達の手を取るべく必死に立ち上がったのだった。
     だが――伸ばされた手と手がまさに触れんとした、その時。
    「なっ!?」
    「!!」
     一瞬にして咲いたのは……眩暈がするほど鮮やかな、血の華。
     虚しく空を切ったふたりの手にも、噴き出した小さな赤の色が残酷に飛沫く。
     灼滅者達が少女を救い出すよりも、早く。
     スカーレットのガンナイフが、少女の身を容赦なく切り裂いたのである。
    「どうして……」
     スカーレットは少女のサファイアの瞳に執着し、あれほど欲していたではないか。
     アルビレオの星を、完成させるために。
     なのに何故……。
     それを察してか、スカーレットはふっと残忍な笑みを宿してから。
     ギィを見ると、こう言ったのだった。
    「何を驚く? 自分達で言っていたじゃないか。サファイアの瞳は、そこにもあるって」
    「!」
     そう、執着しているのは、あくまで『サファイアの瞳』。
     冷徹で頭の回る彼が下した判断は、守りながら戦うと足手纏いになる少女のものから。
     目の前のギィの蒼い瞳へと、狙いを変えたのである。
     彼のその瞳の色が偽装したものだとも……今は気付かずに。
     
    ●イミテーション
     無残にも自らの血の海に沈んだ少女。
     だが、悲しんでばかりはいられない。
     村雨と時雨の二刃を構え、迷うことなく眼前のダークネスを敵と見做し灼滅すべく。
     魔力によって成した霧で戦場を満たした秀一が、攻撃態勢を整えれば。
    「少女には申し訳ないが参るのじゃ!」
     魔法少女の杖をくるくると回して前へと突き出し、可愛くポーズを決めたアリシアが。
     スカーレット目掛け撃ち出すは、眩い光放つ魔法の矢。
    「火葬(インシナレート)開始」
     そう炎の力解放されし刹那、風を巻き起こし回転する槍を携え突撃する睡蓮。
     そんな睡蓮の心は、少女が殺された事により、闇落ちへと傾いていた。
     だが、闇落ちはやろうと思って出来るものではない。
     絶体絶命の状況に陥った時、万が一するかもしれない、というものだ。
     今はただ仲間と共に、目の前のダークネスを倒すのみ。
     だが、貫くような矢や槍の鋭撃にも平然と、ただサファイアの瞳を抉らんと刃閃かせるスカーレット。
     そんな彼へと、少女の血飛沫で染まった手をぐっと握り締めて。
    「イケメン滅びろーーー!!」
    「今度こそ、色男さんの邪魔してやります」
    「スカーレット、勝負っ!」
     連携しホーミングバレットの弾丸を撃ち込む清純と真上から急所を狙った一撃で斬りこむ咲夜に続き、燃え盛る炎の翼を羽ばたかせるギィ。
    「ったく、胸糞悪ぃ野郎だ。ヴァンパイアはいつも気取りやがる」
     布都乃は、出来る限りにがしてやりたかったと少女を見、躊躇なく彼女を切り裂いたスカーレットへ吐き捨てる様に言った後。
     完全に叩き潰す――そう息巻き、地を蹴ると、背後から思い切り縛霊手で殴りつける。
    「背後がお留守だぜ伊達男っ!」
     自らの全てを高みから奪った吸血鬼への嫌悪感を、隠そうともせずに。
     だが刀弥は、そんな吸血鬼を完全に否定する事は難しい、と思う。
     欲しいものを手に入れたい衝動を抑えきれぬ彼と、仇討ちをすると決めて生きている自分は、同じだと感じる所があるから。
     でも、だからこそ。
    「てめぇは何も手に入れられない、ここで終われ!」
     敵を灼滅するために生きる自分の我を通そう、と、唸るチェーンソー剣を振り上げるのだ。
     しかしスカーレットは灼滅者達の攻撃をもろともせず、8人の瞳を順に品定めする様に見てから。
    「やはり……今私が求めるのは、美しきアルビレオの星!」
    「……!!」
     成した赤き逆さ十字で、灼滅者達を次々と容赦なく引き裂いていく。
     小さな宝石を沢山ばら撒いたように戦場に飛び散る、赤き血飛沫を興奮した様に眺めながら。

     犠牲こそ出してしまったものの。
     挟み撃ちに成功し、逃げ場のないダークネスを灼滅すべく、全力で攻撃を仕掛けていく灼滅者達。
     だがヴァンパイアは冷静に、容赦なく灼滅者達の体力を奪い、雨霰と弾丸を浴びせてくる。
    「なんだ……ヴァンパイアとは話に聞いていたが、この程度のものなのか……?」
     一気に距離を詰め抜刀し斬撃を見舞いながらも、敵を煽る様に言い放つ秀一。
     同時に動いた睡蓮も、雷を纏いし拳をスカーレットの顎目掛け突き上げる。
    (「前にヴァンパイアは灼滅した事があるが、知性が回ると言うのは非常に厄介だな」)
     スカーレットはよく状況を見ている上、彼の趣向か、じわじわと全員の体力を範囲攻撃でいたぶるように的確に削っている。
     そのため、ほぼ全員が傷を負っているかわりに、倒れている者は幸いまだ誰もいない。
     だが範囲攻撃でも、ダークネスの力は格が違う。
    「変態目玉ドロボー!」
     アリシアの杖から生じた衝撃が敵の熱を奪い凍らせる間に、清純の裁きの光条や力もたらすメロディが休みなく奏でられ、己の奥底の闇を癒しへと変える咲夜。
     その回復を受け、ギィの『剥守割砕』から繰り出されるは、敵を粉砕する重い一撃。
    「そのガンナイフで受けられるものなら受けてみろ!」
     ――真っ向力押し、どれだけ通じる!?
     ガッと得物同士が交わる音と伝わる手応えに、ギィは正面から斬撃を叩きつけた相手を見遣るも。
     スカーレットはガンナイフで受け止めた力押しの衝撃を、スッと冷静にいなす。
     その隙に、逃がさねぇ為にも陣の崩れは防ぎたい、と。布都乃が盾を構え、戦線を支える癒しを施すと同時に、雄叫び代わりに轟音をあげる刀弥のチェーンソーが相手の服ごと切り裂かんと唸りをあげた。
    (「俺の赤い瞳が興味を引けるほどの物だと楽なんだが」)
     彼の興味がもしもルビーの瞳であれば、きっと刀弥の赤の瞳は何としてでも欲しい宝石であっただろう。
     だが今彼が欲するは、アルビレオのサファイアブルー。
    「さあ、俺を狙ってこい。ダークネスには、ヴァンパイアには決して負けねーよ!」
     そして敵を引きつけるべく、サファイア色を帯びた瞳のギィは、宿敵へとそう声を上げた。
     それに応える様に、深紅の瞳を細めるヴァンパイア。
     だが――その時だった。
     雲に隠れていた月がふと顔を見せた、瞬間。
    「……!?」
     サファイアの瞳を見つめていた紅に生じたのは、動揺という彩り。
     そして震えた声で、スカーレットは呟く。
    「違う……このサファイアは……イミテーション!?」
    「!」
     これまで薄暗かったこともあり、またギィの外見が蒼の瞳でも違和感が少なかった為、カラーコンタクトの偽装に惑わされていた彼であったが。
     月光を浴びた目の前のサファイアが、イミテーションだと気がついたのだ。
     それから慌てる様に、本物のサファイアを持つ少女を振り返ったスカーレットであったが。
     とっくにその蒼の色は血に溺れ、澱んでしまっている。
     ――そして。
    「うぅ……うああ、あああああぁぁあああああッ!!!」
    「……ッ!?」
     夜の闇を揺るがすような大きな叫び声と同時に。
     戦場に、幾つもの大輪の血の華が咲いた。

    ●乱心
     ガンナイフからスカーレットが乱れ撃った弾丸が。
     進行方向の前衛に位置取っていた、ギィと刀弥と秀一の急所を、一気に貫いて。
     これまでじわじわと積み重なっていた殺傷の衝撃を抉り、纏めて地に沈める。
     だが、ギィと秀一は限界を超えた肉体を魂で奮い立たせて。
    「星は天に輝くからこそ、誰の目にも美しい。自分一人の手に収まった『星』なんて、輝きは失せているだろ」
     血を啜られる感覚、とくと味わえ! と、尚も果敢に刃を振るうも。
     サファイアの宝石を失って怒りに震えるヴァンパイアは、ただ目の前の彼等に八つ当たりするかのように、残酷に立ち上がったその身を斬り刻み、引き裂く。
     だが、倒れてもさらに追撃しようかといわんばかりに怒り狂うヴァンパイアに。
     決して、仲間をやらせはしないと。
    「手前ぇみてえな眼の曇り切った野郎になんざ、簡単に負けてやるかよ。ってな!」
    「……ッ!」
     代わりに前へ立った布都乃は、雷纏った一撃でスカーレットの顎を跳ね上げる。
     乱心し冷静さを欠いたダークネスは狂気の沙汰ではなく非常に危険であるが。
     逆に、怒りで周りが全く見えていない今が、倒す絶好の機会。
     スカーレットの強烈な紅蓮斬が布都乃へ見舞われるも、一気に攻撃をたたみかける灼滅者達。
     アリシアの魔法の矢が、躊躇なく吸血鬼の身を貫けば。
    「そんなに星の耀きが欲しいのなら私がお前を太陽として灼いてやろう。貴様が夜空の星になれ」 
     続けて叩き込まれる、睡蓮の炎宿すレーヴァテインの一撃。
    「ぐ……!」
     そして揺らいだスカーレットへと見舞われるは。
    「女の子の敵、天誅!」
    「人は星とは違う。人は生きてる時こそ輝くものなんですよ」
     清純の撃ち出したホーミングバレットの弾丸と、咲夜のペトロカースの呪いの衝撃。
     そして布都乃のヴァンパイアミストが戦線を保つべく展開されたのが幸いし、続くスカーレットの弾丸の嵐にも、膝をつく者はいない。
     いや……むしろ。
    「このような闇は浄化を以て消えるがよい」
     アリシアのフリージングデスの凍気をモロに貰い、大きく揺らいだダークネスへと叩き込まれたのは。
    「穢れた魂、風と共に散り失せ墓標となるがいい! 灰燼」
     靡く赤き髪と同じ、睡蓮の燃え盛る紅蓮の炎であった。
    「な……ッ!? ぐ、はあぁッ!!」
     そして深手を負い地に伏せながらも。
     刀弥は灼滅の業火に焼かれる哀れなヴァンパイアの姿に、呟く。
    「そのまま消えろ、ダークネス……」

     裏道に戻ってきたのは――夜の静寂と、微かな星の瞬き。
    (「少女よ、申し訳なかった……だが敵は撃ち取ったぞ」)
     アリシアはそう、そっと瞳を閉じて。
    (「ああ、俺は弱い……弱すぎて、そんな自分に反吐が出る」)
     仲間に肩を貸して貰いながら唇を噛み締める刀弥は、強く欲する。
     力を……すべてを灼滅できるほどの力を。
     だが灼滅者達の手によって、ヴァンパイア・スカーレットは灼滅された。
     これでもう二度と、残酷な星の輝きが血塗れた掌の上で転がることは、ないだろうから。

    作者:志稲愛海 重傷:ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) 柩城・刀弥(大学生ダンピール・d04025) 片桐・秀一(戦慄の刃・d06647) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月30日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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