こわれゆくこころ

    作者:七海真砂

    「ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪」
     順番に指をさしながら数えていく声は、嬉々としたものだった。ひとつふたつみっつ……数えたそれが止まった先には、ひっと小さく息を呑んで震える、顔面蒼白な男がひとり。
     その周囲でホッと、安堵の吐息がいくつか、しぼり出された次の瞬間。
    「やっぱりこっち♪」
     気まぐれに、全然別の方角へと、大鎌の先が向けられた。
     一瞬、空気が止まって。何が起こったのかを理解し、本当の標的にされた男が青くなる。
    「な……なんだって、いうんだよッ。俺達が、一体何をしたって……!」
     ガチガチと歯を鳴らしながらも、ありったけを振り絞って男が紡いだ言葉に、少年の目から笑みが消える。
    「えー? なにそれ白々しい」
     顔は笑っているのに、でも少年はもう、笑ってはいない。
    「君達がおねえちゃんを傷付けたんじゃないか。女の子を泣かせるだなんて、男として最低だよね。なにより、その相手が僕のおねえちゃんって、いうのがさァ」
     ぐっと握る手に力を込めて、闇を帯びたそれを振るえば、すぱんっと一気に首が落ちた。床の血溜りに新しい飛沫を散らしながら、ぐらりと残りが倒れこむ。
    「あー! またやっちゃった。こんなに簡単に殺しちゃダメなのにぃ。もっともっと苦しませなくちゃ足りないよ。あーもう、目障りだから片付けちゃって!」
     投げやりな少年の声に反応して、ちゅちゅちゅちゅ集まるのはネズミ達。彼らは一斉に、生まれたばかりの死体に群がって。
    「つ・ぎ・は・ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪」
     それきり死体に興味を失った少年は、残る男達にまた向き直る。
     全部くるしめてくるしめてくるしめて殺して殺して殺し尽くして。
     ……ああでも、コレを知ったら、おねえちゃんは悲しむかな?
     ――ああでも、おねえちゃんも殺しちゃえば、いいよね。そうすれば、こうなった僕ともずっとずっと一緒にいられるんだし。
     薄暗い部屋の中、獲物を見つめる少年の顔は、笑っているのか――泣いているのか。

    「来たようだな……! 早速だが、サイキックアブソーバーが、新たな未来を導き出した。闇堕ちし、ノーライフキングになりかけの少年が事件を起こそうとしている」
     教室に集まった灼滅者達を前に、そう神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は話を切り出した。
    「少年の名はフェルディナンド・アマデウス。12歳のイタリア人だ。春休みを使い、日本の大学に留学している、姉の元へ遊びに来ていたのだが」
     その姉が、ロクでもない男達に絡まれているのを目撃したのが、発端だとヤマトは言う。
     暴行と脅迫――心配する弟に、大丈夫よと笑いかけようとして涙をこぼした姿が引き金となり、怒りや憎しみに駆られた少年の心は、闇に堕ちた。
    「だが、今ならば食い止めることが出来る。それにどうやら、少年の意識はまだ、完全には失われてはいないようだ。もしも意識が残っている理由が、少年に灼滅者の素質があるからだとしたら、彼を救うことすら可能かもしれない」
     もちろんその見込みが無ければ、完全にノーライフキング化して手が付けられなくなってしまう前に灼滅してくれ、とヤマトは告げる。
    「少年は姉を苦しめている男達を惨たらしく殺し、手っ取り早く復讐するつもりのようだ。少年は既に、相手の男達5人を捕らえ、廃工場に監禁している。あとは1人1人順番に……という計画らしい」
     場所はここだ、とヤマトはプリントアウトした地図をよこす。
    「倉庫には少年と、それから少年が支配下に置いているネズミが10匹いる。お前達が倉庫に立ち入れば、すぐに邪魔者を排除すべく動いてくるだろう」
     少年は咎人の大鎌を持っており、それを使って攻撃してくる。一方、ネズミ達は鋭い牙と爪を持っており、その攻撃はそれぞれ毒や、痺れを与えてくる効果があるようだ。
    「ネズミ達は普通のネズミより一回り大きく、体自体も強靭なようだ。なりかけとはいえ、ダークネスから力を分け与えられているからだろう。少年自身も、お前達と比べれば非常に強大な力の持ち主だ。互角、あるいはそれ以上に不利な戦いを覚悟してくれ」
     だが、それでも。
     この少年と戦い、彼を止められるのは灼滅者だけなのだから。
    「それと……もしまだ残っている少年の心に、何かを訴えることができれば、あるいは戦いを有利に運べるかもしれない」
     少年に素質があるなら、それは彼を灼滅者として生き残らせるきっかけにもなるかもしれない。だから思うところがあれば、少年に呼びかけるなどしてみるといいだろう。
     そう、最後にヤマトは告げた。


    参加者
    時渡・みやび(シュレディンガーの匣入り娘・d00567)
    村上・忍(龍眼の忍び・d01475)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    月代・アレクセイ(闇堕ち常習犯・d06563)
    高倉・奏(拳で語る元シスター・d10164)
    村井・昌利(吾拳に名は要らず・d11397)
    オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)

    ■リプレイ

    ●くらいやみ
    「あれだね」
     廃工場に到着した灼滅者達は中の様子を伺う。電気は通っていないようだが、崩れた天井から入った月明かりで床に転がる数人の男と、その前に立つ少年が分かる。
    「……さて――闘ろうか」
     上着を脱いだ村井・昌利(吾拳に名は要らず・d11397)は、バンテージを巻いた手の調子を確認しつつ走り出す。
     様子見している暇は無い。灼滅者達はすぐさま突入する。
    「誰?」
    「動くな!」
     少年が振り返ったのと、時渡・みやび(シュレディンガーの匣入り娘・d00567)が中へと言い放つのは、ほぼ同時だった。
     剣呑な気配に少年――フェルディナンドの眉が吊り上がったところへ、
    「いましたねダークネス……あなたの活動もここまでです」
     そう呼びかけた村上・忍(龍眼の忍び・d01475)の言葉に、フェルディナンドは探るような視線を向けてくる。おそらくは、まだダークネスという言葉を理解できておらず、意味を掴みあぐねているのだろう。
    「こんばんは、少年。君が今しようとしてる事の邪魔をしに来ました」
    「なにそれ。――アレ追い払ってよ」
     高倉・奏(拳で語る元シスター・d10164)の言葉に、フェルディナンドは不愉快そうな顔になる。
     邪魔をする、敵対者。それなら排除するまで、ということだろう。ネズミ達へ指示を出しつつ、フェルディナンドもブラックウェイブを放ってくる。
    「く、情報より強い……!?」
     忍は、あえてそう驚愕しながら下がり、男達から彼を引き離そうとする。だが、シールドリングを飛ばしていたオリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)は、フェルディナンドが全く動いていないことに気付いた。
    (「動かなくても攻撃できるし、動く理由が無いから動かない……ってことかな」)
     戦いつつ気を引き、その間に何人かが回りこんで男達への攻撃に備える、というのが今回の作戦だったが、この状況ではそれを気取られずに成功させるのは少々難しいだろう。
     少しずつその隙を作ろうとする灼滅者達だが、フェルディナンドやネズミからの攻撃は、なかなかに厄介だ。特に何度も攻撃された前衛の傷は少ないものではなく、更に襲ってきた虚空ギロチンが、二重の意味で追い討ちをかけた。
    「基本スタイルはガンガン行こうぜ! なんでキュアとか回復とかその辺お任せします!」
     さっきの発言のせいか、奏には中でも攻撃が集中していたが、それでも軽い口調で笑ってネズミを叩いていく。
    「お任せくださいませ」
     頷き、それを引き受けたみやびは、リバイブメロディで回復していく。だが、それはせいぜい半分がいいところ。戦いが続けば続くほど癒せない傷は増え、状況は辛くなるだろう。
    「それ、早く片付けてよね」
     実際フェルディナンドは、あとはもうネズミだけで十分だろうと踏んだのか、そう指示を出して視線を男達の方へ戻そうとする。
    (「仕方ないですね」)
     だが、そうさせる訳にはいかない。
    「弱いもの苛めは止めてくれませんか」
     歌声を響かせていた月代・アレクセイ(闇堕ち常習犯・d06563)は、それを阻むように、強引に進み出ながら告げた。
    「僕は仲間を助けに来たんです」
     アレクセイにとって仲間とは奏らのこと。だが今のように、まるで男達を庇うような動きとセットだったら?
    「えー……なにそれ、そういうことなの?」
     フェルディナンドは男達と、アレクセイと、それから奏を見た。
    「……そういえば、邪魔しに来たって言ってたっけ」
     あいつらを助けに来たのか、と。
     常人であれば、ぞっと青ざめるだろう冷酷な笑み。
     それは確かに狙い通りの誤解で――彼らの仲間なら直接この手で切り裂いてやる、とでも考えたのか、フェルディナンドは大鎌を振りかぶって、駆け出した。

    ●復讐の意味
     ネズミを抗雷撃で殴り続けていた昌利は、その瞬間を見逃さなかった。フェルディナンドが動いた隙を突き、すぐさま男達との間を取る。
     更に桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)が回り込むと、先程ネズミを貫いた際の螺穿槍で高めた力を上乗せし、月光衝を一気に放った。
    (「――これが」)
     ちらりと背後を振り返れば、縛られている男達が見える。彼らが顔を引きつらせているのはフェルディナンドが怖いからか、あるいは自分達もその対象か。
    「待って。話を聞いて」
     一方、風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)は光を放ちつつ、フェルディナンドに呼びかけた。
    「僕達は、君を止めに来たんだ」
    「……はあ?」
     何おかしなこと言ってるの、と言いたげなフェルディナンドの視線。
     彼からすれば、さっきまでと全然逆のことを言われた気分だろう。無視して攻撃を重ねようとするフェルディナンドに、アレクセイも誤解を解こうとする。男達のそばにはリデルも張り付いているし、こちらの引きつけはもう、十分だ。助けに来た仲間とはあくまでも奏達のことであり、そこで縛られている男達など知らない、と紡ぐアレクセイだったが、
    「あっそう。まあもうどっちでもいいよ。結局僕のこと邪魔するなら同じだし」
     あっさりした口調でフェルディナンドは攻撃を続ける。まずは邪魔者を排除して、それから……と考えたらしい。
    「あなた、彼らも殺すつもりですね」
    「そうだよ。こいつら、それに相応しい連中なんだ」
     忍の問いに歪んだ笑みを浮かべるフェルディナンド。それを見て、オリキアは叫んだ。
    「お願い、誰かの命を奪うような真似はやめて!」
     闇堕ちして誰かを殺す。――大切な人を殺す。
     そんな事をすれば、彼の心がどれだけ傷付くか……オリキアには痛いほど解っていた。
     だからこそ、殺させてはいけない。その前に止めて、絶対に助けてあげなくては、とオリキアは言葉を重ねる。
    「今一番辛いのはお姉さんなんだって、分かっているでしょう?」
    「……なんで、お姉ちゃんのこと知ってるの」
    「どうしてだと思います?」
     鋭い視線を向けたフェルディナンドに、問いを問いで返したのはアレクセイだ。
    「なんでお姉さんが大丈夫って、言おうとしたのか解りますか? あなたに、こんなことをして欲しくなかったからですよ」
     はぐらかすように――また誤解を呼ぶように。姉弟しか知らないはずの会話に、アレクセイは言及する。
    「君が今していることは、そいつらが君のお姉さんにやったことと同じことだよ。仕返しをしたところで、それで大切な人は喜ばないってこと」
     心が揺れているのなら、もう一押しかもしれない。彼方は更に呼びかけた。
     闇に堕ちたきっかけがそうなら、戻る糸口もきっと、そこにあるはずだから。
    「少年。こんなことをして、君のお姉さんは笑顔を見せてくれるでしょうか?」
     奏の言葉は更にダイレクトだ。お姉さん想いの子ならば、お姉さんのことを思い起こさせれば止められるのではという読みは、おそらく外れてはいない。
    「それとも、君のお姉さんは、人が死ぬことを喜ぶ人なのかな?」

    ●痛みと強さ
    「違う!」
     即答だった。尋ねた彼方をまっすぐに見つめ返して――それがまた揺らぐ。
    「……でも、僕がこいつらを許せないんだ」
     かたくなに振り返った先には、ひっと息を呑む男達がいる。きつく握ったままの大鎌を、振りかぶるフェルディナンドだったが、
    「………」
     そこに昌利が割って入った。体を張ってかばい、大鎌で切り裂かれても、目はじっとフェルディナンドを見つめたままだ。
    (「辛かっただろうと、苦しかっただろうと、どんな言葉を掛けようと、大切なものを傷つけられた怒りと悲しみは、簡単には癒えないだろう」)
     ならばいっそ、すべてをぶつけてしまえばいい。
     昌利は、それにとことん付き合うつもりだった。このくらいの傷など、どうということはない。――ただ大切なものを守ろうとしただけの心が、ここまで堕ちてしまうほど傷付いたことに比べたら。
    「な、んで……」
    「言ったでしょう、止めに来たのよ。あなたを救うために」
     どうしてここまでするのか、理解できないまま呟く声に、理彩は静かに言った。
    「あなたが振るっているその力、それはすぐにあなたの心を蝕み、食い尽くすわ。たとえ今ここで復讐を果たせても、その後は堕ちるだけ」
     形は違えど、理彩はそれを知っている。だからこそ、その言葉は力があった。
    「ええ。闇に身を委ねることは、あなたがあなたではなくなること。あなたがいなくなってしまうこと、なのですよ」
     そう頷いた、みやびにも兄がいる。大切な兄は自分が傷ついたら、彼と同じように憤ってくれるだろう。だが、こんな風に闇へ堕ちるなど――想像しただけで涙が浮かんだ。
     だからこそ止めたくて、止めてあげたくて、言葉を重ねる。
    「う……うるさい、うるさいっ」
     一瞬、言葉を詰まらせて。でも、まるで癇癪を起こした子供のように、フェルディナンドは衝撃を飛ばす。
    「あなたのお姉さんを、殺人者の姉にする気!? ――それともこんな風に、堕ちたあなたは一番大事なお姉さんを、手に掛けるのかしら」
    「そんなこと、」
     ありえない、と言いかけた言葉をフェルディナンドは最後まで紡げなかった。その理由は、まだ飲み込めていないのだとしても。
    「……あなたは知ってはいけない、最も愛する人を自ら殺す事のおぞましさを」
     忍は無意識のうちに掌を広げた。
     今でも、忘れられないあの感触。おそらく一生、鮮明に刻まれたままであろう、あの記憶が生み出すぞっとするほどの後悔があるから――忍の言葉は淡々としているのに、それだけではない響きがあった。
    「僕は家族をアンデッドにしましたが、誰も残りませんでしたよ。誰も」
     アレクセイも深くは語らない。しかしそれが決して偽りではなく、真実なのだということは、その重みは、伝わっているだろう。
    「それに、お姉さんが動いたとしても、それはお姉さんの形をした、ただの肉塊です。魂はそこにありません。君が望む『ずっと』は、そんな寂しいものなんですか?」
     更に奏が突きつける。フェルディナンドにその力があることは、おそらくもう自覚できているはずだ。思考がまだそこへ至っていない彼には、わからないかもしれないけど――このままでは、そうなってしまうことを、灼滅者達は知っている。
    「それで、いいわけじゃないよね?」
    「今の君には、お姉さんと笑って暮らす道が、そのための力が、あるんです」
     だから、止めに来たのだと、何度目かになる言葉を彼方とアレクセイは繰り返した。

    ●こころのゆくえ
    「一生後ろ指を指される十字架を、愛する家族に負わせてはダメ。大切なお姉さんを傷付けてはダメ。守りたいのなら、絶対にその衝動に身をまかせてはダメなのよ!」
     理彩の言葉に、初めて柄を握り締めていた手が緩んだ。それを慌てて握り直すフェルディナンドに、みやびの声が飛ぶ。
    「あなたの姿をした、あなたでない誰かに、大切なものを踏みにじらせてはいけません。
     ……だって、あなたならそんなことは許せないはずですもの。本当の望みを、思い出してくださいませ」
    「ぼ、くは……」
     ――離れた国へ行くのは、大切な夢をかなえるため。だから姉は、遠くても幸せに暮らしているんだと、思っていた。
     そうあって欲しいと、思っていた。
     ただ幸せでいて、欲しかったのだ。
    「笑ってくれるお姉さんと一緒に生きて。お姉さんを笑顔に出来るのは、君だけなんだよ。傷ついたお姉さんを支えてあげられるのは、君だけなんだから」
     オリキアは、そう優しく語りかけた。今ならまだオリキアとは違う形で、彼らは生きていくことができる。
     だから、と。
    「ぼ、くは……お姉ちゃんを……っ」
     死人のように青白かった頬に、僅かな赤みが戻る。つう――っと、そこへ涙が落ちた。
     それで、それだけで。灼滅者達には十分だった。
    「待ってろ少年」
     誰よりもボロボロで、今にも倒れそうな奏はそれでもフォースブレイクを打った。攻撃に転じた昌利も、一気に決めるべく閃光百裂拳を叩き込む。
     オーラの宿った連打によろめいたところに、更に彼方のマジックミサイルが次々とフェルディナンドに刺さっていく。続く攻撃の数々も無防備に受け続けているのは、オリキアの縛霊撃のせいなのか――それとも、彼自身がそれを望んでいるからか。
    「闇のみを……断て、心壊!」
     今なら、それが出来るはずだ。
     理彩はそう確信しながら、一気にフェルディナンドを斬った。
     からんからん、と大鎌が転がっていく。そのまま崩れ落ちるのを見たオリキアは、慌ててフェルディナンドに駆け寄った。真っ先に確認した喉元は微かに動き、その口は呼吸を繰り返している。
    「生きてる……」
     救えたのだ。本当によかったと、オリキアは安堵の笑みを見せた。
    「さて……」
     と、男達を見るのは忍だ。彼らの無事を喜び、ただちに解放してあげるのが普通なのかもしれない。だが、忍のまとう雰囲気は、今も戦闘中と変わらない。
    「あと一仕事……」
    「村上先輩、ご一緒したいわ」
     抜き放ったままの心壊を理彩は構えた。2人が「殺すつもりはありません」「少し痛い目を見てもらいましょう」と男達を見据えれば、彼らの顔色は更に青くなるばかりだ。
    「あー、そうっすねー。ほら言葉の説得とか苦手なんでー」
     さっきフェルディナンドには言葉を尽くしたことを棚に上げて奏が拳を握る。とはいえ、男達にはもう、その矛盾に気付く余裕も無いようだ。
    「チャンスを差し上げます」
     そこで男達に近付き、みやびは微笑みかけた。
    「今すぐ自首してください。……そうしない場合は、法で裁かれた方がましだということを、お教えしなくてはなりませんね」
     王者の風の効果もあって、男達は何度も首を縦に振る。それを見た昌利に拘束を解かれると、彼らは我先にと逃げていった。
    「彼にエクソシストとしての力の使い道を、知ってもらう機会になるかと思ったのですが」
    「まあ、それは今度でいいんじゃないっすか? それに、まだ直接顔を合わせるのは辛いと思うっすよ」
     お姉さんのこともあるし、彼らが男達と二度と会わずに済むなら、その方がいいのかもしれない。そう考えつつ昌利は、拘束を解く際にさりげなく確保しておいた、彼らの財布から免許証を抜き取る。これがあれば、裏からそう手を回すようなこともできるだろう。
    「んん……う……」
     そんな中、気を失っていたフェルディナンドが目を開けた。
     まずは彼を送っていく必要があるだろう。夜こんな時間に弟がいないのだから、お姉さんだって心配しているはずだ。
     その途中で話せばいい。自分たちのこと、これからのこと。
     今留学すると、お姉さんを近くで守れますよ……という言葉は、きっと彼にとっても魅力的だろう。新学期からは彼を学園で見かけるようになるかもしれませんね、とアレクセイは思った。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年4月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 1
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