校門を出た、そのあとで

    作者:宮橋輝


     教室に、六時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
     ホームルームや帰りの会が終わり、掃除当番を済ませたら、いよいよ放課後だ。
     クラブに顔を出したり、教室に残ったりするクラスメイトもいるが、今日のあなたはそのまま学園を出ることにする。
     灼滅者だからといって、いつもダークネスとの戦いに明け暮れているわけではない。
     たまには、こんな平穏な日も存在するのだ。

     下駄箱で靴を履き替え、校門に向かいながら、どうしようかと考える。
     一人で過ごしてもいいし、誰かを誘ってもいい。

     何をするでもなく、のんびり歩いて帰る?
     カフェに立ち寄って、お茶でも飲む?
     久しぶりにカラオケに行って、声がかれるまで歌う?  
     前から気になっていたあのお店で、思い切って買い物してみる?
     それとも――。

     選択肢はいくらでも浮かんできて、すぐには決められない。
     だけど、今日という一日は今この時しか楽しめないのだ。

     ――さて、家に帰るまで何をしよう?


    ■リプレイ


    「こーちゃん、一緒に帰ろう?」
     急ぎ到着した玄関で、漣子が兄を呼ぶ。
     待ってたよ、の一言を胸に秘め、航平は妹と並んで外に出た。手袋は無いけれど、二人一緒ならきっと温かい。
     帰り道、かえでが幼馴染の紘疾に語りかける。
    「今日のね、算数の宿題……わかんない」
    「んじゃ、一緒にやる?」
     何気ない会話の中に流れるのは、ささやかで穏やかな幸せの時間。
     寒風の中を歩くマーテルーニェに、鞄を持つ花之介が従う。
     冬を好む主の優しげな表情に一瞬目を見開けば、彼女はたちまち眉を寄せ。そんな照れ隠しに、思わず笑みが零れる。
     一方、幼馴染の二人が語るは遠い記憶。奈津が食べ損ねたモンブランを、幼い花音は一人で買いに出た――その時の騒動を思い出し、モンブランを買って帰ろうと笑い合う。今度は、一緒に。

     井の頭キャンパス中学2年I組の面々は、移動販売車を前に買い食いを楽しんでいた。
    「みんなのも美味そうじゃん!」
     焼き芋を手に、太一が級友達を振り返る。 
    「ん、蒼月……。食べる?」
     揚げたこ焼きとキーマカレーたこ焼きを仲良く交換する澪と蒼月の傍らで、緋織が茉莉のハバネロきな粉クリーム鯛焼きを毒見。意外に美味しいという声に、茉莉も恐る恐る食べ始めた。
    「普通のでごめんね」
     変り種の口直しにと、波琉那が今川焼を差し出す。こんな楽しい時間がずっと続くようにと、誰もが願っていた。
     同じ頃、近くの公園には焼き芋を分け合う男女の姿。
     喉を詰まらせた勇に、結衣が自分の飲み物を手渡す。間接キスと気付き赤面すれば、勇もたちまち照れた表情を浮かべた。


     賑わう商店街を、『ちょーほー部』の面々が和気藹々と歩く。
    「寒いときは温かいものが一番ですね」
     シルビアと半分こした肉まんを嬉しそうに頬張る一二三の前で、荷物で両手が塞がった雛子が叫んだ。
    「だ、誰かわたしに食べさせてくれー!」
    「もう、お姉さんは大変な?」
     すかさず、熱々の肉まんを口に押し込むシルビア。
    「……し、しぃ部長っ! そんなに入りまあぐぐっ!?」
     巻き添えになった直子ことストレリチアが雛子ともども目を白黒させる一方で、ウェンディが隼のたこ焼きをつまむ。お礼と称して明太フランスパンをねじ込めば、佐佑梨が両腕に抱えたシェーク(四種ブレンド)で追い打ち。
    「どれどれ、俺もご賞味を……」
     たこ焼きを一つ手に取った式夜が、悶絶する隼に対価の駄菓子を手渡した。

     今日は、スポーツ用品店で買物。
    「他に足りないものは――」
     櫂が振り返れば、ラグビーボールに触れる冬崖の姿。真摯に抱負を語る彼を見て、クラブ活動も悪くないなと思う。
     チョコ菓子を咥えた咲耶が、買い込んだ大量の菓子を鞄に詰めながら店の前を通った時、なをが隣のコーヒー店から出てくる。豆を買うだけでなく、たまには奥の席でケーキを楽しみたくもあるのだが……。

     その頃、『武蔵坂軽音部』の四人娘はアクセサリーショップに寄り道。
    「これとかどう?」
     千波耶が指したのは、誕生石が選べる揃いのネックレス。
    「あ、丁度四対じゃん」
     トランプマークのチャームを見て鈴が言えば、ウルスラも頷き。
    「良いデスネー。実にオシャレでゴザル」
    「わたくしはダイヤにしますわね♪」
     早速一つを手に取り、由良がにっこり笑った。

     中には、ブティックを訪れる学生達も。
     女物オンリーの和巳のため、ターシアは男物を見繕う。
    「これ、かな……?」
     どこか楽しげに服を合わせれば、彼も気に入った様子で。
    「一生大事にするッス!」
     満面の笑みで、お会計。
     同刻、少女達は相手が選んだ服を試着する。
     桜色を纏う由衣の可憐さに、きらめは思わず見とれて。自分が衣装負けしてないかと不安がる彼女に、由衣は優しい微笑を向けた。
     小物コーナーには、仲睦まじい恋人達の姿。
     友梨がブルーの手袋に決めると、静流は深い青のマフラーを選んで。
    「……お揃いみたいで照れる、ね」
     各々の青を身に付け、次はドーナツ屋へ。

     狗白に引きずられて来た古本屋、薄荷は次々に手渡される本を抱えて歩く。荷物持ちのお礼にと、狗白が彼のポケットに忍ばせた飴玉に気付くのは、もう少し後。
     古びたレコード店で過ごす士騎が、ゆるりと盤に触れて好みの『音』を探す頃――雑貨屋では、唯と讃良が来年の手帳を選んでいた。
     宝物のような雑貨に思わず目移りする讃良に、唯があらあらと笑う。悩みに悩んで手帳を決めたら、次は先輩のお土産探しだ。
     一方、『ひつぢ家』の四人はクリスマスツリーのオーナメントを探す。
    「星にひつじさん乗っけたら可愛くない?」
    「アヤサちゃんたら天才なの……?」
     実演を交えた綾沙の提案に、クライネは目から鱗。思い切って巨大サンタ羊のぬいぐるみを手に取る迪琉には、紳士なナオが荷物持ちを申し出た。
     帰ったら、皆で楽しく飾りつけ。もちろんお菓子も忘れずに。

     場面は変わって、こちらは花屋。
    「純ちゃん。綺麗なお花がいっぱいだよ」
     はしゃぐ聖に、純が微笑む。花選びに悩む姉の隣で、そっと白い花を指し。
    「僕と聖姉の色だしね」
     白の姉妹が花を決める頃、雷歌は仏花を携え駅に向かう。
     ――墓前で、父に伝えたい。友達も出来たし、心配は要らないと。


     喧騒に包まれたゲームセンターで、由乃がクレーンゲームに挑戦する。惜しくも失敗した彼女に代わり、黒々が一発ゲット。
    「はい、どうぞ」
     ぬいぐるみを受け取り、由乃は嬉しそうに笑う。
     プリントシール機の前には、食べ歩きツアー中に立ち寄った『図書室の片隅』の四人。初めての撮影に緊張する千結が可愛らしい。
     落書き画面では、全員が順番にペンを取る。先の二人に続いた鉄心が『図書室の片隅参上』と記せば、『またみんなで行こうね』と白兎。それを見た陽向は、彼女らしいなと微笑んだ。
     この一枚は、皆で過ごした楽しい一日の思い出。

     外では、期せずして集まった『路地裏ラジカル』の面々がクレープ屋台を賑やかしていた。
    「どーんと奢ってやるゥ!」
     たかる気満々の面子を前に、正海が腹を括る。さりげなく自費で注文する宗二郎の気遣いが身に沁みて有難い。
    「感謝です。いやマジで」 
     遠慮なく高価なクレープを味わうクロトが、心からの礼を述べる。一は即座にクレープを平らげると、甘いものに気が緩んだシャルリーナのスカートに手を伸ばし――。
    「ふぇぇっ!?」
     ――心ある紳士達の活躍により犯行は阻止。一部始終を見ていたイヅルが、呆れ顔で溜息を漏らす。
    「えっと、何かありましたか?」
     クレープに集中していた桜華が、ようやく騒動に気付いて首を傾げた。

    「ひよひよって呼んでいい?」
     並んでアイスを食べながら、不意にかけられた言葉。良いですよと頷く緋頼に、鈴音が無邪気に抱きつく。驚いたけれど、なぜか悪い気はしない。
     少女達が交友を深めている頃、久義はお気に入りのドーナツが詰まった特大の袋を手にご満悦。甘い香りが漂う中、南守と梗花が思い出話に花を咲かせる。
     ようやく見つけたケーキ屋には、一足早いクリスマスケーキ。今年のクリスマスは一緒にと、二人は笑って約束を交わした。

     ヒトカラに行く筈が、隣には悪友。溜息をつく誉に、昴が涼しい顔でたこ焼きを差し出す。
    「大丈夫、これ『は』奢るわよ」
     ――カラオケ代は出せと?
     諦め半分で、誉は昴と店に向かう。
     カラオケ店では、井の頭キャンパス高校2年5組の一行が既に盛り上がっていた。
    「テメェ等、テンション上げてくぞ!!」
     採点をONにした月吼が叫べば、恋は迷わずラトリアにマイクを渡し。
    「デスボはよろしく、ふふっ!」
     次々に運ばれる料理や飲み物を前に、代わる代わる選曲。
    「おや、これは私も知ってますよ。一緒に良いですか?」
     アニソンを入れた優輝に、撫子がそう声をかけ。即席デュオを眺めつつ、ベルデはサンドイッチ片手にレパートリーの曲を端末で探す。
     歌の合間には、ジャックがラトリアに腕相撲を申し込む一幕も。
    「無理無理無理!?」
     慌てる彼女に、彼は加減するからと三本の指を差し出し。洋楽を歌い終えた杏が、それならと審判を引き受けた。
    「……備品壊すなよ?」
     賑やかな様子を、惡人が奥の席からのんびり眺める。皆が思い思いに時を過ごせること、それが一番だ。
     サシカラの回転は速い。周は、入部祝いと言う徹太のテンションに圧倒されつつ曲を選ぶ。
     トイレに立った徹太が戻れば、何度目かの乾杯。これからもよろしくと、二人の声が重なった。
     別室では、芸術発表会の打ち上げ。
     ポエムで最優秀賞に輝いた一文字・剣に、ヘカテーがパフェを差し出す。賭けていたジュースの代わりと知り、思わず笑って。
     彼が照れ隠しにグラスを掲げた時、乾杯の音が響いた。


     ――こんな気分の日は、独りで遠くへ。
     ヘッドフォンの音だけを聞きながら、琥太郎が駅へと歩く。
     行き交う人を眺めて様々な思いに耽っていた蓮璽が、ふと目を伏せた。今はただ、愛しい人に会いたい。
     そんな折、公園にやって来た『箱庭ラボ』の三人が、カフェで買った飲み物を手にベンチに座る。
     買い食いなんて初めてと叡が笑えば、コーヒーを味見した律花が苦いと呟いて。そんな二人に、春翔がコンビニの中華まんを分ける。寒くても、三人を包む空気はどこか温かい。 
     浪を後ろに乗せた已鶴の自転車が、公園の前を通り過ぎる。
     互いの温もりを感じる二人には、いつもの道が少し違って見えて。頬を緩ませる已鶴の背で、浪は不機嫌そうに目を逸らした。

     帰り道、散歩中の犬と戯れる功紀を見つけて。
    「わーい、わんこー」
     無邪気に喜ぶりりの隣で、撫でたら負けと耐える治胡。
     だが、犬を抱いたりりが振り返った時、彼女はとうとう呟いた。
    「……可愛い」
     動物は、卑怯だ。
     夕焼けに染まる道、他愛ないお喋りに興じる大切な時間。
     今日こそ転寝にクリスマスの予定を訊こうとした利亜が、寸前で口を噤む。その横顔は、空の色を映したように赤かった。
     同じ空を見上げ、手を繋いで。少女達は、ゆっくりと帰路につく。
     大好きよと百花が言えば、貴女がいれば何も要らないとフィーネも返し。
     二人の心を満たすのは、輝く星のような幸福。


     智恵美お勧めのカフェで、『星葬剣』の面々が席につく。
     店案内の礼と誕生祝いを兼ねて会計は自分が払うとヴァンが言えば、少女達は目を輝かせて。
     注文の品が届くと、ブラックコーヒーに挑戦した優希那と智恵美は一口で轟沈。ヴァンが笑いを堪える中、こっそり砂糖とミルクを加えたマッキがカップを差し出した。
    「これなら飲める?」
     返答は、満面の笑顔。
     窓側の席には、ケーキをお供に談笑する千早と志摩子の姿があった。
     クリスマスの話題の中、親友へのプレゼントを何にしようかと互いに悩み始めて。僅かな沈黙すらも、幸せの演出。
     奥のテーブル、カフェオレにシロップを多めに入れるしいなを見て、レクトが表情を和ませる。甘い物好きなのも可愛いと思いつつ、サンドイッチを一つ貰って。今日は、何を話そうか。
     
     コーヒーにケーキ、読みかけの小説。寄り道した喫茶店で、冰雨はゆるりと時を過ごす。
     幸せを堪能した彼女が席を立てば、買い物帰りの二人と入れ違い。
    「付き合ってくれてありがと~」
     新品のぬいぐるみ達を傍らの席に座らせ、穂乃香が言う。嬉しそうな笑顔を見て、どういたしましてと微笑む静歌。
     同じ頃、甘味処では鏡・剣と葬が甘味を楽しんでいた。
    「ほれ、葬……あーん、だ」
    「あーん……♪」
     店主自慢の甘味も、砂糖菓子のような恋人達の時間には敵わない。

     ファミリーレストランには、『しんぷる。』の四人。
    「……これ、食べきれるのか?」
     目の前の特大パフェに圧倒される葵咲の隣で、同じ物を頼んだ紫臣は満面の笑み。『激甘党』の面目躍如とばかりパフェを消費していく彼を、影華は驚きの表情で見つめる。
    「うん、おいしい」
     特大パフェを味見して、ゆうひが一言。――見た目に負けなければ、だけど。
     近くの席では、幼馴染の二人が寄り道中。
     晶子のパスタを一口貰ったかれんが、不意に口を開く。
    「水族館いきたい。イルカ見よーよ」
    「いいね、楽しそう」
     週末の予定は、これで決まり。
     一方、こちらは仲良く牛丼をかきこむ中学生達。
     帰りは遠回りでダイエットしようと涼花が言えば、軍は思わず噴き出して。
     二人笑い合って食べる丼は、今までで一番美味しい。


     ――猫カフェの食材が、足りなくなる頃だろうか。
     そう考えていた月風・雪花のもとに、同じことを思っていた春原・雪花の姿。
     さりげなく手を繋ぎ、二人の雪花は買い物に向かう。

     スーパーでは、天羽三兄妹が全員で買い出し。
    「今日はシチューだって」
     梗鼓が言えば、兄妹たちの嬉しげな顔。蘭世が食材を手に取り、桔平の押すカートのカゴに入れていく。
     会計の前に、お気に入りの菓子を一個ずつ選んで。三人仲良く、母が待つ我が家へ帰ろう。
     料理は、得意な方ではないけれど――愛しい人を想ってハンバーグの材料を揃える憂妃の傍らを、鍋の材料を買いに来た『百花荘』の面々が通り過ぎる。
    「やはり鍋にはこれであろう」
     当然のように荷物持ちを務める在処のカゴに、宮呼が餅巾着と締めのうどんを入れ。
     豆腐を手にした紫紅が、タイムセールに突貫する非と朝恵の背を見送る。
    「……怪我だけはしないようにな」
     戦場で安売り肉をゲットした二人が誇らしげに戻れば、皆でレジへ。
     同じ屋根の下で暮らす仲間達と、他愛ない会話を交わしながら思う。今晩はきっと、騒がしくも良い夜になるだろう。

     この時間、商店街も夕飯の買い物をする人々で賑わっていた。
     貴耶に同行する瑞帆は、馴染みの店で値引き交渉を行う級友の姿にちょっと引きつつ。
    「つか自分完璧主婦やで」
     突っ込まれても、貴耶は育ち盛りが居るからな、と涼しい顔。
     二人が帰る頃、兄弟が商店街を訪れた。
     弟が買い物する間、悠は出会った功紀に今晩の献立を聞き。
    「俺らも肉じゃがにしようぜっ!」
    「また今度な」
     戻った氷空、兄の提案をさらりと却下。材料買った後に言われても困る。
     兄弟と別れた功紀を、持ち前の敏捷さで各店を巡っていたリュシールが発見。
     挨拶を交わせば、足元には商店街の野良猫達が。
    「……人懐っこいコですね」
     偶然通りがかった悠太郎も、一緒に猫達を愛でる。買い物中の、和みの一時。

     商店街の客足が少し落ち着く頃、橋の下にはラーメンの屋台。
     前から興味を抱いていた美空は、勇気を奮って暖簾を潜る。その近くでは、ナナイが怪談話を求めてそっと暗がりを覗いていた。
     今日は、そろそろ帰ろうか――。


     夕暮れの街と、家路につく人々の列。
     平和なその光景を高台から眺めていた龍一郎は、想いを胸に踵を返す。
     今は人の為に戦える、それでいい。

     独り秘密の住処へ帰るルチャカが、彼女と別れて巣に戻る小鳥をそっと見上げた。
     ――また、明日。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月28日
    難度:簡単
    参加:139人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 23
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