休日はゲームセンターで

    作者:君島世界

     東京都武蔵野市内、とあるゲームセンター2階、ビデオゲームフロア。今日は新作格闘ゲームの稼動以来初の休日ということもあって、この場所はいつにも増して熱い空気に満たされていた。
     その中心となるのはやはり、新作を待ちわびていた格闘ゲームファンたちだ。席に座って連勝を重ねる者、力及ばず敗退していく者、はたまた観戦と研究に余念がない者もいて、その楽しみ方は人それぞれだ。
     それ以外の定番対戦ゲームだって盛況だ。普段なら対戦相手に恵まれないようなゲームでも、今日なら確実に誰かと戦える。画面に向かう彼らの表情はみな真剣で、この機会を心から楽しんでいる。
     1階プライズゲームフロアの人手は、2階に比べれば若干見劣りするものの、休日ということもあっていつもよりにぎやかだ。目玉商品の大きなぬいぐるみが入ったマシーン前を筆頭に、奥にはちょっとマニアックなグッズも並べられたりしていて、全体に人の流れが途絶えることはない。

     さて、灼熱者であるあなたにとっても、今日は休日である。
     エクスブレインからの呼び出しはなく、こなす宿題だって今のところはない。
     一人でふらっと出かけるもよし、気の合う仲間と連れ立って行くもよし。
     戦いから離れた平和な一日を、あなたはどういう風にすごしますか?


    ■リプレイ

    ●サウンド・プレイヤーズ
     開店と同時に音楽ゲームコーナーに来た瑠音と翠葉は、同時に隣同士の台に立ち会うこととなった。
    「偶然だね。ちょっと、対戦で腕試ししない?」
    「いいぜー。負けた方がジュースおごりで」
     翠葉の提案を、瑠音は不敵に笑って受ける。その後ろを、大量の百円玉を用意した絢矢が歩いていった。
    「今日こそはフルコン……できたらいいなあ。振り向きもセットで」
     凜は突然の速度変化についていけずクリアを逃したが、背後にいた椛が拍手を贈った。
    「天渡さん、お上手なのですね♪ わたしにもできるでしょうか?」
    「あ、椛さん来てたんですね。簡単な曲もあるから、始めるならこのモードからだね」
     仲間と一緒に来ている【アーケードゲーム同好会】の面々は、それぞれにゲームを楽しんでいる。
    「これがいい運動になるのよねー、新一郎君。汗はかくけど」
     ダンスゲームの高難度面をクリアし、汗を拭うハンナ。名を呼ばれた新一郎は、上の空でこう呟いた。
    「……揺れた、なあ」
     床が、ではない。動きを止めたハンナを尻目に、耕平と零はそれぞれに満足の行く結果を出していた。
    「よし、乗り切った! イメトレどおり!」
    「勝利、っと。上達の早道は好敵手との切磋琢磨ですね」
     ダンスゲームを終えたレイシーも、充実の笑顔だ。
    「マラソンでは悔しい結果だったけど、少しはこれで体力ついたかな……っと!」
     ここの常連客である弥勒は、モニターに表示される多彩なジャンルに目を輝かせていた。
    「オレみたいな常連でも、飽きさせないのが音ゲーのいい所だよねえ」
     弥勒はそう言って、ボタンに手をかけるのだった。

    ●戦いに集う者たち
    「→←↓↑+ABC! 待機状態からレバー1回転+Aで、奥の手発動!」
    「な、ここでまさかの自爆、だと……!?」
     ホワイトアウトする画面に表示されたのは、『Draw Game』の文字列。ジュースをかけたウルフラムと遊の戦いは、こうして引き分けに終わった。
     格闘ゲームコーナーは、空前の盛り上がりを見せている。【レトロゲーム部】の一行も、そんな熱気の中にいた。
    「実戦で培った直感、見せてやるよ……!」
    「えーと、軽量級キャラの技は……っと」
     磨璃華が腕まくりをする対面では、伝斗がコマンド表とにらめっこをしている。ひなたはマイペースに、馴染みの少し古いゲームで対戦を楽しんでいた。
    「むう……、n択相手はきつい……」
     一方、新作は順番待ちが出るほどの人気だ。事前に情報収集を済ましていた都香は、勝利を重ねていた。
    「あら? ここで4フレームも頂けるなんて、優しいのね」
     同じく新作で遊ぶ【ファイターズヘヴン廃ビル1・格ゲー組】のプレイは、小規模大会の様相を呈してきている。
    「(斬の固めがキツい……。ここはジャンプで間合いを離し――)て、え?」
    「残念ね~? ここで君がコマ投げを嫌って飛ぶのは見えていたのだよ♪」
     と、龍人は斬の対空投げに撃墜された。その隣では、なずなの放った逆転技がフィズィにクリーンヒットしている。
    「どうせやるなら一発逆転! 巻き返すよ!」
    「こちらの予測を抜いてきたでございますか!? いやいや、対応次第ではここからでも……」
     腕前の近い稜と真二もまた対戦を楽しんでおり、それを焔弥が見守っていた。
    「あ、この跳び蹴り強いな! あたしも今度マネしてみよ」
    「痛え! くそ、そっちのがリーチ長いからってブン回しやがっ痛え!」
    「ふむ、楽しそうなものだな……。俺も久しぶりにやるとするか」
     息抜きにやってきたリヒトも、様子を見てすぐさま両替機へと向かう。
    「大会みたいなトコもあるなー。こりゃ俺が参加しないのはウソでしょ!」
     アザミと一緒に三人で来ている龍哉と牢也のバトルは、一方的な公開処刑になっていた。
    「くっそ、牢也お前動きがエグいぞ? リーチ長いわスピードあるわで俺の闇――あ」
    「ははー、エグいは褒め言葉っすわ。どーですアザさん、この華麗な指先テク――あ」
    「あ、ろーちゃんの変な技当たっちゃった? 判定つき挑発? まあ次はアザミの番だねー女の子キャラー」
     ガチからカジュアルまで様々に繰り広げられる戦いを、香は静かに観察していた。
    「独自の戦法が見られるのは、稼動初期独特のものだな。興味深い」
     タッグバトルを繰り広げていた【ジャックポット・格ゲー組】では、ミア・陽子の小学生タッグが縁・蓮次の眼鏡ーズ(部長命名)との初戦を制していた。
    「はっはっは、部長であるボクに負けは許されないのだよ!」
    「く……こうなったられんれん! ジュース代は俺に任せて敵を討ってくれ!」
    「了解っすヨッスィー先輩! あ、部長マジで強いんで本気でいきますよ?」
    「タッグ戦なら次は私の出番ですね。ミア姉さんの前に、私が相手になりますよー」
     見学で情報を得ていた昴は、経験者の感想を聞こうと席を立ったばかりの泰若に声をかける。
    「よ、泰若。今のキャラの使い心地とか、何かコツみたいのって教えてくれるか?」
    「そうね、この子一見してバッタタイプだけど、システムが敵に――」
     その後、昴との情報交換を一通り終え、観戦に回っていた泰若の肩を、そっと叩く者がいた。

    ●狙うは誰かの為に
    「あ、泰若ちゃん捕まったかー! 今日はみんないるし、これは普段より多く取らないとね!」
    「咲耶さんはお菓子タイプ狙いなのね。ふふ、楽しみにしてるわ」
     意気込む咲耶と合流した泰若も含めた【武蔵境キャンパス中学3年F組】は、五人でクレーンゲームコーナーに来ていた。
    「――よし、横の狙いはこの辺で、縦は……いいや、適当!」
    「ふむ、適当の割にはいい線行ってると思うぞ。見受けるに重心へ一直線だ」
     ギルドールの操作は、由燠の見立てどおりの軌道を取って、ウサギのぬいぐるみをバランスよく持ち上げる。
    「あ……、届くかな……。もう少し……もう……うん」
     ファンファーレとともにぬいぐるみが取り出し口へと落下し、零桜奈は目を輝かせた。
    「おお、ここが『くれえんげえむ』の間でござるか! どこを見ても『けもなあ』垂涎の品ばかり!」
     燃え上がる京一の眼前の台には、動物系景品が山盛りで配置されている。イワンとイリヤの兄弟は、巨大ぬいぐるみ台と格闘していた。
    「いけるいける、今度こそ持ち上がるってマジ問題ないし! って、あー!」
    「あーもう、ちょっとどいてイワン。まず動かせる場所から動かしていくべきだ」
     通常サイズのほうでは、涼花が指差すブタのぬいぐるみに挑みかかる軍の姿がある。
    「うし、見とけよすず。あの1ミクロンも可愛くない豚だな」
     涼花は一瞬物凄い形相を見せた。
    「いんえ! かわいいでしょ? 超かわいいでしょ? と言ってる間にいっくん一回目しっぱーい」
     その横では、勝てる台を吟味する小雪の姿がある。
    「人気の高さとアームの緩さは比例しますが、可愛くないもので妥協するのは……うむむ」
     ストラップの台では、【ぼたん鍋】の三人が、それぞれに取れたストラップを前に、なにやら話をしていた。
    「みんな上手いこと取れたもんやなあ。よかったよかった」
    「わたしはただの偶然で……。でも、嬉しい、です……」
     鳴琴はウミガメ、ゆまはウサギのストラップだ。そして心太は、
    「ん、そうだね……、『鳴琴』、『ゆま』」
     照れた表情でウリ坊のストラップをポケットに入れた。
    「はい、朱美さんにプレゼントです。可愛がってあげてくださいね」
     お小遣いを使い切った朱美の胸に、エイナが獲得したぬいぐるみを優しく手渡す。
    「ありがとう、エイナさん! すっごく大事にするねっ!」
     受け取った朱美の笑顔は、花が咲くようだった。
    「ほら、その『ピンクの血付き熊』は優奈にプレゼントな。後は、個人用に『眠そうな潰れ猫』を、と……」
    「ありがと、大事にする……! って、ゆうやが狙ってるの、もしかして――」
     悠埜が狙うぬいぐるみを見た優奈は、自分とその姿を比べ、あることに気づき頬を綻ばせる。
    「にゃああああ! はな、離すのじゃ隼! 妾はこの景品取出口から直接侵入を!」
    「班超曰く『虎穴に入らずんば虎子を得ず』。ただ部長、虎穴の危険性は常に考慮し――」
    「すなわち『次の商品は部長殿だ』という事でござるか。部長殿、拙者それはいかんと思うでござる」
     騒がしいのは【ちょーほー部】だ。シルビア・海・隼と攻防を繰り広げていたが、なぜかその場には雛子の姿がない。
    「にゃははー、このわたしの華麗な紐掛けのテクを見よ諸君……って、あれ?」
     実際は雛子が一行の移動に気づかなかった、というのが事実として正しかった。と、そこにクラブの腕章をつけた蝸牛が、店員とともに現れる。
    「あ、こんにちは。記念撮影、よろしければ承ってますよ」
     勧誘を始める蝸牛をよそに、紐でかかった景品を外す店員の顔が、ある瞬間にひきつった。
    「この戦い、ゲーセンの癖を熟知してたあたしの勝ちだな」
     フィルギアが【ファイターズヘヴン廃ビル2・プライズ組】の『千円トライアル』を菓子荒稼ぎで戦っているのだ。
    「ラー油に岩塩に焼肉のタレ、変なの結構ありますね」
    「菓子以外にも面白ぇモンは……あ、マグカップとかあんのか」
     食料品系を狙う火室・梓は2個、実用品に回った悠悟は1個を獲得する。
    「景品と私、正に一騎討ちの戦い……!」
     熱中しすぎた巴は、トライアルのことを忘れ1個で終了となった。
    「はい、アキちゃんにプレゼント。これ見るなり『チョコ!』だなんて大きな声出して、ホントに好きなのね」
     唯庵が難なく獲得した大型板チョコを、千亜妃は真っ赤になって受け取る。
    「え、俺のこと今――いや、でっけーからついびっくりして……あ、有難ウゴザイマス」
     素直な受け渡しが成立する所もあれば、アリスと誠のように一筋縄ではいかない所もある。
    「別に欲しいなんて言ってはいないわよ、誠さん?」
    「――いや、さっきのプレイを応援してくれてた、その礼だ」
     無愛想にぬいぐるみを受け取ったアリスは、嬉しそうな顔をその白兎に隠した。
     二手に分かれた【井の頭高校1-9】のうち、こちら側の鞠藻と千巻の戦況は芳しくない。
    「リターンは、危険を冒した先っ……!」
    「ま、鞠藻チャンの財布がどんどん薄く……。アタシはどうにかお菓子だけかぁ。うう」
     最終的に意地で勝った鞠藻だったが、その代償は大きかった――。

    ●これもまた楽しく
     別行動だった【井の頭高校1-9】の祐一と右九兵衛は、鞠藻のくれた菓子を胸ポケットに、ガンシューティングを楽しんでいた。
    「イィヤッハアァ! どうよこの弾幕! 超かっこよくね?」
    「ゲームは気楽でええなあ。ゾンビ撃つんはここだけにしたいわ、ほんま」
     同じくガンシューティングをする五十鈴・梓だったが、ふと明がその素顔を見つめているのに気づく。
    「そういえば、これを見せたのは初めてだったな。うーむ、少し気恥ずかしいような」
    「なるほど、五十鈴君の素顔って――あ、こういう時目を逸らすんですね」
     流希はパズルゲームでハイスコアを叩き出し、ネームエントリーに『RYU』と入力した。
    「こういう濃い色のゲームって、目が痛くなるのですがねえ」
     2枚の硬貨を並べ、黙々とシューティングゲームを攻略するのは鋭二郎だ。
    「弾幕系は、同じ所で同じミスをしないのが肝心……と」
     カードゲームの大きな筐体にいるディーンは、自分のデッキをあれこれと改造し続けていた。
    「このカードはコスト厳しいか……いや、シナジー重視でこれを入れてみよう!」
     京と立夏の二人も、並んで座れるその筐体にいる。
    「そのみゃーって言い方辞める。で、このカード強いの?」
    「対戦したら俺のサキュバスたんがみゃーにボコられるサダメが見えるッス……」
     へえ、と、京は輝くカードをまじまじと見つめていた。

    ●エレメカ・バトル!
    「男らしさを磨くなら、パンチ力は必須だよなっ!」
     ボン、と割合派手な音を立て、ジュンが殴打したパンチングマシーンが沈んだ。
     ここは、万全メンテナンスのエレメカを並べているコーナーだ。【ファイターズヘヴン廃ビル3・もぐら叩き組】美弦と夏海の血沸き肉踊る戦いは、互角のスコアで第1ラウンドを終えていた。
    「ぐぬぬ、後一歩か……! 加納、もう一回だ!」
    「望むところだ、鴇サン! こっからがアタシの全力全開ってヤツだっ!」
     ここにあるエアホッケーの台でも、風貴と雷歌を始めとして熱き戦いが繰り広げられている。
    「見よ雷歌サン! これぞ九重流奥義! キラメキ☆ダブルシューッ!」
    「はいはいかっこいいな。あとサンとかいらねえ、呼び捨てでいいっつの」
     五人で来ていた【ジャックポット・エアホッケー組】では、1ミス交代制の変則タッグマッチでスコアを争っていた。
    「地元では友達とよくやっていたからね、それなりに自信はあるわよ?」
     余裕の表情を見せる歌織に、地元話題ということで見学中の旭が食いつく。
    「地元と言えば、戸塚って駅近くにゲーセン二つしかないんだよね……あ、あきのちゃん交代~」
    「だんどうに迷いがない……さすが……」
     あきのは真剣な表情のままサイドに退く。今の一発を放った弓弦と、反応できなかった紫乃の視線が空中でかち合った。
    「向かってくる弾は全て避け……じゃない、打ち返す!」
    「今ので紫乃は秘められた力に覚醒したの。見える……私にも見えるぞなの!」
     譲と煉火は、女装or猫耳猫尻尾装着を賭け『高度な心理戦』を繰り広げていたが、接戦を制したのは譲だ。
    「ハッ、ヨユーだな! じゃ、約束どおり百舟はコレつけて『にゃん』語尾な。さらに写真もだ!」
    「ぐぬ、悔しいけど勝負なら仕方あるま……ないにゃん。でも新妻くん、カメラなんて持ってきてたにゃ?」
     言われた譲が指差したのは、立ち並ぶシールプリント機の群れだった。

    ●休日の群像
    「いやーヤッバイ、オレすごいカワイ……あ、ナナちゃんもメイド服超似合っててるよ!」
    「雨宮の女装は似合うわ、あたしはどうしてこうなった状態だわ……なによ、なんなのよこれ……」
     自分の可能性に気づいた芳春とは対称的に、七はやけっぱちな表情でシール撮影の時間を迎えた。
    「文月さんもご一緒にどうですか? わたくし、こうやって皆さんと一緒に遊べるなんて、夢みたいで……」
    「仕方ないなセカイ、今回だけだぞ――って、変な引っ張り方せんでも……うん」
     咲哉の腕を抱えたセカイの先導で、全員の撮影を終えた【びゃくりん】一行。操作に手馴れた向日葵と悠花は、率先して咲哉の画像にデコレーションを施している。
    「デコはキラキラのつかう~♪ そーれ、おひげキラキラ~♪」
    「わたしも負けてはいられません! アイラインはお任せください!」
    「こういう休日も、たまにはいいものですね……。どんなシールに仕上がるのでしょうか」
     中途半端に横を向いた状態で写ってしまった真琴だったが、構わないと二人に声をかけ、その作業を見守っていた――。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月30日
    難度:簡単
    参加:94人
    結果:成功!
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