母さんが、くれた

    作者:旅望かなた

     長く続く熱、震えの止まらない体。
     抗う気力すら、少女の心から抜けていた。
     ――熱が下がったって、座っているだけでもふらふらするし、外になんか行けないの。
     お父さんも私が病気だから帰ってこないし、お母さんの手はどんどん細くなってるの。帰ってくるのも遅いし、いつも疲れ切っているのに無理して笑顔を作るのは、全部私が病気だから。
     だから、もう、いい。
     絶望に包まれた少女が――ふと、顔を上げた。
    「……あれ?」
     ゆっくりと、霧が広がる。
     己の指から生まれたそれを見ているうちに、病に蝕まれた体が癒され、力が体中に満ちていく。
     そっと、彼女は悟った。
     
    「お母さん、ありがとう」
    「断腸の思い――その由来となったのは、母が子を案じる想いだそうですね」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はそう呟くように言ってから、集まった能力者達に感謝を述べた。
     そして、ある少女が闇堕ちした、と告げる。
    「しかけている、というのが正確ですね。彼女はまだ、元の人間としての意識を残しています」
     彼女がなりかけているダークネスは、ヴァンパイア。
     即ち、彼女の近親者が既にヴァンパイアとして完全に闇堕ちしており、救えない事を表す。
    「反対に言えば、自我を持っている彼女はまだ、灼滅者の素質を持ち救うことができる可能性があります。しかし、もしも完全なダークネスになってしまうなら」
     姫子は一度言葉を切り、そして続けた。
    「灼滅を、お願いします」
     小学一年生である彼女の名は、細野・真白。
    「彼女の母親であったダークネスは、今も真白さんと共にいます。母親は強力なヴァンパイアとなっており、真白さんと二人同時に相手する事は不可能です……そのため今回は、母親が出かけている隙に真白さんと戦闘し、彼女が灼滅者であればそのまま武蔵坂学園で保護することです」
     ダークネスとなった母親に、既に元の人格は存在しない。しかし真白をヴァンパイアにして手懐け、手駒にするためか共にいる時間が多い。
     唯一の隙は、一週間に二度ほど母親が買い物に出る時間。
     その時間は、サイキックアブソーバーによって予知されている。
    「もし真白さんが灼滅者の素質を秘めていれば、説得によって力を削ぐことができるでしょう。しかし、しかし、彼女は母親に救われたと思っており、力についてもちゃんと理解してるとは言い難いのです……」
     全てお任せするのは申し訳ないのですが、どうかお願いしますと姫子は頭を下げて。
    「真白さんは、ダンピールと同じサイキックを使います。もし母親が参戦するならば、彼女よりずっと強力であり、他のサイキックを使用する可能性もあります。――その場合は、撤退を視野に入れてください」
     そう、静かに告げる。
    「闇堕ちから救われたとしても、真白さんは母親を失うことになります。それを、支えてあげる事が出来たら――」
     辛い任務だけれど、どうか。
     そう、姫子は言って、再び頭を下げた。


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    卯道・楼沙(脱兎之勢・d01194)
    神宮寺・琴音(金の閃姫・d02084)
    土方・士騎(高校生殺人鬼・d03473)
    ルイーザ・ヴァレンティノ(ルナ・ヌエバ・d04273)
    七生・有貞(アキリ・d06554)
    荒野・鉱(中学生ダンピール・d07630)
    リーファ・シルヴァーニ(翡翠姫士・d07947)

    ■リプレイ

     無防備と、思うほどに。
     呼び鈴を鳴らせば、すぐさま年端もいかぬ少女が「はぁい」と扉を開く。
    (「母は娘を愛していたと、そう思うのだ。真白が堕ちれば、母の想いも無為となる」)
     そう、土方・士騎(高校生殺人鬼・d03473)は思った。願った。
     であれば、少女――細野・真白を、闇に沈めるわけにはいかない。
    「母親と言うのはどのような姿や存在になっても……きっと我が子を大事にしたいと思うのでしょうね……」
     士騎の思いを読み取ったかのように、少女に聞こえぬ密やかな声でルイーザ・ヴァレンティノ(ルナ・ヌエバ・d04273)が呟く。
    「ヴァンパイアの闇堕ちは周囲も巻き込む……親子ですら例外じゃないなんて酷いよね」
     隣の仲間に聞こえるか、聞こえないかの声で呟いて、神薙・弥影(月喰み・d00714)はゆらりと目を伏せる。
    「霧は、彼女自身のサイキックなのかな」
     ふと、リーファ・シルヴァーニ(翡翠姫士・d07947)がやはりほんの小さな声で囁いた。
    「彼女のお母さんがヴァンパイアと化した事で力を得たのなら、あながち母親が救ったという認識は間違いではないのかも……」
     けれど我が子が救われた事を喜ぶ母の人格は、もう、存在しない。
    「……彼女を説得するの、正直辛いっす」
     やはり小さな声が、灼滅者達の鼓膜を揺らす。荒野・鉱(中学生ダンピール・d07630)が小さく、けれど強く唇を噛んだ。
     自分がダンピールになった時や、家族から離れる決心をした時の絶望感を思い出すから。
     孤独の中戦い続けてきた彼が、仲間達とその境遇を、決意を理解し合う幸せを知ったのは、そんなに昔の話ではない。
    「心の古傷を抉るのは痛いけど……だからこそ生きていく決意を新たにできるんじゃないかと思うっす」
     それは、小さく呟かれた、けれどはっきりと口に出す事で心に決めた、決意。
     真白のためにも、自分自身のためにも、必ず、真白を闇から救出する、と。
    「私達の話を聞いていただけますか?」
     ルイーザが優しく尋ねる。きょとん、と真白は首を傾げて。
    「でも、しらない人をおうちに入れたら、お母さんにおこられちゃう」
     その言葉に、七生・有貞(アキリ・d06554)が僅かに眉を寄せた。首に引っ掛けたゴーグルのフレームを、苛立ったように爪が叩く。
     親に放任されて育った有貞には、真白がひたすらに母を想う気持ちはどこか苛立たしい。……重ねて、いるのかもしれない。
     己に。
    「大事な話がある」
    「お母様にも、関係ある話です」
     士騎の明快な言葉に、神宮寺・琴音(金の閃姫・d02084)がさらに言葉を重ねる。ぱちぱちと瞬きした真白は、「おはなしって、なぁに?」と首を傾げながらも灼滅者達を招き入れた。
    (「せめて真白さんだけでも救いたい……」)
     手の届かぬ事件も多い中、ぎりぎりで届くかもしれない魂を。
    「闇堕ちする前に助けられるのであれば、何としてでも助けたいのだ」
     ウサギ帽子を深めに被った卯道・楼沙(脱兎之勢・d01194)が頷く。明確な声として聞いてはいなくても、気持ちは同じだ。
    「でも、我では説得は出来そうにないのだ。だとすれ出来ることは一つだけ……」
     そっと、楼沙はカードへと手を置いた。己の力を封じた、カードへと。
    「せまいけど、どうぞごゆっくり、なの。おざぶとん、足りなくてごめんね」
     母に教えられたのか、ぺこりと少女はどこか大人びた仕草で頭を下げ、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して、紙コップと共に抱えてちょこんと座る。
    「それで、おはなしって?」
     二リットルのペットボトルをよろよろと傾けようとする真白に、小さく舌打ちしてから有貞が手を貸した。見ちゃいられん、とでも言いたげに。

    「母上を愛しているのだな」
    「ははうえ……お母さん?」
     静かに切り出した士騎に、少女は「うん!」と満面の笑みを浮かべた。
    「闇に堕ちれば、真白の今の想いも消えてしまう」
     士騎の言葉に、真白はぱちぱちと瞳を瞬かせる。
    「やみ? ……おちる?」
     ぎゅっと拳を握りしめてから、リーファが頷く。
    「お母さんは、真白の病気を治すために戻れない一線を越えてしまった……その効果は真白の今の力にも出てるのだけど」
     ぱっと少女の瞳が零れ落ちそうなほどに見開かれ。
    「うそ! お母さん、どこかおちちゃったりしてないよ。変じゃないよ」
    「ええ、変じゃない」
     ルイーザが、そっと頷いて。
    「けれど、堕ちてしまったのです。私達も貴女と同じ存在です。愛する者……そばにいてくれた方からいただいた者です」
     ダンピールとしての在り方。吸血鬼というモノ。それを同じ存在として真白に伝えたいと、ルイーザは心の底から語りかける。
    「血を吸いたいって気持ちとか、不思議な力を使えるとか、ないっすか?」
     一つ深呼吸してから、鉱が落ち着いた――意図して落ち着かせた口調で尋ねた。真白が戸惑いながら、おずおずと頷く。
    「急に身体が元気になった事も含めて、おかしいと思わなかったすか」
    「それは、お母さんが……っ!」
     真白が言葉を途切れさせ、顔を引きつらせる。
     気付いてしまったのだろう。母が病気を治した事を肯定するならば、己の不思議な力も、母がもはや人ではない事も、否定できぬ事実に。
     鉱はゆっくりと話していく。彼女が灼滅者となった事、そして母親はダークネス――もう、本人ではないのだと。
    「真白、びょうき治ったよ。……真白も、お母さんも、わるいこなの?」
     目に涙をためて尋ねる真白の前に進み出た琴音は、姿勢を低くししっかり真白と視線を合わせる。
    「真白さん。あなたのその能力、人を害するものではありません。守るためのものです」
     ゆっくりと噛み砕くように。己の理想とする女性像に従い、琴音は告げる。
    「まもる、もの……」
     同じくゆっくりと繰り返した真白は、じっと琴音の瞳を見返して。
    「お母さんも、守るもの、なの?」
     その問いに答えるのは、苦しかった。
     けれど、はっきりと琴音は「いいえ」と答える。
    「そして、そのままだと両方とも助からない」
     本当の意味で助けるには、いずれ真白の母にも会わなければいけないけれど。
     真白が助かって育ってから、と今はリーファは考える。
    「渡してくれた方は、既に遠くに行ってしまいました。悲しい事ですが……私達は生きなければなりません」
    「ちがうよ……お母さん、毎日帰って来るもん……おうちに……」
     そう言って首を振る真白は、けれどどこかで、灼滅者達の言葉を真実と理解していたのかもしれない。
    「今は無理でも、お母様に安らぎを与えられるのはあなただけです。一緒にいきましょう」
    「お母さんは……」
     悲しげに、琴音は首を振った。
    「真白、君だけは人として生きてくれ。そうでなければ、母上が哀れだ」
     士騎が静かに、けれど心を込めて伝える。
    「お母様は既に遠くに行く方です……貴女は人として生きてほしい」
     ルイーザの言葉に、真白はぶんぶんと首を振る。
    「だったら、お母さんといっしょに行く!」
     ふと、窓の側で見張りについていた有貞が、一緒に見張りに立っていた弥影と楼沙をちらと見る。大丈夫、と言うように、弥影が頷いた。
     軽く礼を言うように頷いて、有貞は真白へと向き直る。
    「俺ら小学生にとって、親ってのは良くも悪くも一番影響力のある存在だからな」
     親からは放任され、他人のソウルボードを渡り歩く故に、歳不相応な落ち着きや見聞を備えている。けれど、まだ小学四年生だ。
     まだ子どもらしくあるはずの時に、有貞は大人の手助けを得られないまま戦いの中にある。
    「小1には酷な話だろうが、死ぬか生きるかとなりゃ選び取らなきゃならんだろ。俺もだいぶ昔に選んだけど、後悔はしてねぇよ」
     けれどだからこそ、これから同じ境遇に身を置くことになる少女に対して、彼の口調はぶっきらぼうながらどこか優しく、それ故の痛みがにじむ。
    「だから、自立の決意をしてほしいっす……家族から離れて生きて行くのは辛いっす。けど、同じ境遇の仲間や、それを受け入れてくれる人たちもいるから」
     鉱が懸命に、涙がにじむ真白の瞳に語りかける。
    「大好きだったお母さんのためにも、勇気を出してほしいっす」
    「お、かあ、さん、の……」
     ぱちりと瞬きすれば、涙がこぼれた。確かめるように、少女は口を開く。
    「真白が、お母さんとバイバイしたら、お母さん、ふつうの人に、もどれる……?」
     楼沙が小さく目を伏せる。答えは、解り切っている。
     ダンピールを中心とする仲間の方が、真白の気持ちを理解できるだろうと説得を任せていた。けれど、楼沙も真白の気持ちがわかると思った。
     己の過去に、真白の今が重なる。唇を噛み締めれば、ちり、と痛みと共に血の味が広がった。
     心は、もっと痛い。きっと、真白も同じだろう。
     苦しい一言を口にしたのは、琴音であった。
    「……戻れません」
    「…………ああ」
     少女の口から、絶望の吐息が漏れる。
     そして。
    「あ……ああああああ!」
     叫びと共に、その背中に血が凝り固まったような、細い線によって構成されたような翼が現れる。涙が、血の色をまとう。
    「真白、君だけは人として生きてくれ! そうでなければ、母上が哀れだ」
     士騎がかけた言葉に、びくんと真白の体が震えた。絞り出すような声が、口から壊れたように零れる。
    「やだ、お母さんと、いっしょに、なんか、ましろの、な、かで、なにか、だめ、やめ……お母さ……」
     少女の唇が、確かに動いた。
     たすけて、と。
    「神宮寺琴音、推して参る」
    「剣は風を! 杖は火を! 杯は水を! 硬貨は土を! 想いは闇に負けない勇気を! OpenCard!」
     琴音が、楼沙が、力を一気に解放する。
    「喰らい尽くそう……かげろう」
     弥影の影業が現れ膨らみ、漆黒の狼のシルエットとなった。その瞳は、切り取られたような空洞。
    「大切なお母さんを助けられなくてごめんね。本当はすごく助けたいのにできないなんて……」
     同時に弥影の手から飛んだ制約の弾丸が、咄嗟に真白の動きを縛る。トラウマに包まれ青ざめる少女に、さらに士騎がトラウナックルを重ねた。
    「血が欲しいか、それとも怖いか」
     士騎の問いに、叫び声を上げた真白が腕を紅蓮に染めて突き刺す。戦うべき己の闇に向き合えと、士騎は攻撃を真正面から受け止めて手を伸ばした。
    「真白殿、我と我の仲間が、絶対に助けてみせるのだ!」
     制服を一気にプリンセスモードへと変貌させた楼沙が、大きく口を開けた影を伸ばす。
     リーファが一気に床を蹴り、細い体に似合わぬ膂力で振り上げた無敵斬艦刀を一気に斬り下ろす。名前通り戦艦すらも断ち切らんとする重い一撃。
     片手で器用にゴーグルをかけながら、反対の手でガトリングガンを引っ掴んだ有貞が、小さく舌打ちした。真白に共感する故に、その母を想う心に反発する年相応な苛立ちを表すかのように、胸に漆黒のマークが浮かんだ。
     鉱が構えたガトリングガンからも、弾丸が迸り少女の闇を穿っていく。琴音が小さな体を大きく使い、巨大な斬艦刀で思いっきり闇を断ち切る。身にまとうバベルの鎖を瞳に集めたルイーザがマジックミサイルを解き放ち、仲間達の間を縫って飛ばす。
     必死に逆十字を飛ばす真白に、リーファは向かい合い紅蓮のオーラをまとった刀を振るった。闇なき夜、白夜の名を冠した刀が、真白と同じ力でその魔力を吸い上げる。弥影の合図に合わせて狼のシルエット、かげろうが跳ねた。鋭い牙を影の刃と為し突き立て、身の守りごと斬り裂く。
    「でも、罪を重ねる前に灼滅することも救いだと私は思うの。だから真白さんは生きて。それでいつか、私達がダークネスを灼滅できるようになったら助けよう?」
    「……お母さん、殺す……だめ……!」
     弥影の言葉にいやいやと首を振り、少女の手が紅蓮に染まる。
     昏き想念を凝らしデッドブラスターとして撃ち付けながら、楼沙の心は一つの意思に染まっていく。助けたい、助けたい、と。
     やはり紅蓮を宿しながら、鉱がガトリングガンを振るう。力の源も同じ、境遇も似ている彼女に――生きて、ほしい。仲間となって、ほしい。
     さっとルイーザがその懐に飛び込み、杖から一気に衝撃波を流し込んだ。有貞がガトリングの引き金を引き、弾丸を一点に集中させる。
    「抗え、真白。君だけは忘れてくれるな。私にできることは、これぐらいだと言ったろう」
    「ああああああ――!」
     その間に死角に入り込んだ士騎が、素早く蝕喰の銘を持つ刀を引き寄せ、一気に急所を斬り裂く。叫びによって己を癒そうとした真白を――琴音が、抱き締めた。
    「あなたは一人じゃありません。私たちがいます」
    「あ……!」
     少女の叫びが、止まる。
     その瞬間、琴音の刃は紅蓮のオーラをまとって、的確に真白の……否。闇の急所を突いていた。
    「わた、し……」
     小さな体から、がくりと力が抜ける。瞳から紅の色が、徐々に抜けていく。
     けれど、息を吐く暇は与えられなかった。
    「お母さんが帰って来たのだ!」
     その言葉に灼滅者達は、素早く窓へと駆け寄る。足止めを担当する者達が残り、すぐさま放てるようサイキックを準備する。
    「お母さん! おかあさああああん!」
     叫ぶ少女の体を、ルイーザがそっと抱き締める。
    「真白様。お母様にさよならを……言って下さい。そして貴女を元気にしてくれたことに感謝を……」
    「いや! お母さん!」
     涙を流し首を振る真白に、ルイーザは「泣いて、良いのですよ」と告げる。
     そして、女性が、かつて母であった者が入って来た瞬間、窓から身を躍らせた。
    「あなた達……? 真白は? 真白はどうしたの?」
     女性の声と共に、サイキックが爆ぜる。有貞のデッドブラスターが毒を与え、鉱が一気にフェニックスドライブで傷を癒す。弥影が足元に、制約の弾丸を叩き込んだ。
    「子を想い消えた母のために、貴女を止める」
     士騎の声が、外にいた者達の耳まで響いた。
     お母さん、と叫ぼうとした少女の顔が、絶望に染まる。
    「あの子は私の大事な……大事な手下よ! 手駒よ!」
     それは、確かに母の声であった。
     そして、もはや母ではない言葉だった。
     灼滅者達が、既に母の意志が消えていることを話していなければ、真白の精神は壊れてもおかしくなかっただろう。
    「お母様が……例え貴女が色々と知って悲しむと思っても……それでも貴女には精一杯生きて欲しかったはずなのですから……」
     生きましょう。真白様。
     今は泣いても良いですから。
     そう告げたルイーザの腕の中で、少女は静かに「ばいばい、おかあさん」と呟いて。
     堰を切ったように、涙を零す。
     足止めに残った者達が、窓から飛び出してくる。傷は負っているが、酷く深いものではない。
    「闇に染まらず、真白のままでいればいい」
     引かれる手に従い、覚束ない足取りで――けれど自分の足で、少女は歩き出した。
     己の人生を己で決めた、それが始まりだった。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 12/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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