この穴は地下世界に通じているんだよ

    ●千葉県某所
     ずさんな工事なのが原因で、地盤沈下がよく起こっていた地域はある。
     この辺りの土はとても柔らかく、きちんと土台を固めていなかったため、このような事態に陥ったのだが、中高生の中には『いや、あれは地底人の仕業だ。だってオカルト雑誌に書いてあったもん』と言った感じで噂が広まり、都市伝説が生まれてしまったようである。

    「地底人は両目に肌色の目張りを……って古いか、さすがに……」
     何となくまわりの空気が生暖かくなった事に気づき、神崎・ヤマトが気まずい様子でコホンと咳をする。

     今回、倒すべき相手は、地底人風の都市伝説。
     コイツはモグラ人間のような姿をしており、地中を自由自在に動き回る事が出来る。
     そのため、コイツが現れた場所は穴だらけ。 だからと言って穴の中に入ろうとすれば、都市伝説の思うつぼ。
     すぐに天井の土が崩れて生き埋めだ。
     その上、都市伝説は素早い身のこなしで、穴の中を移動していく。
     しかも、全く無関係な一般人が何人か落ちているから、迂闊に頭を出したところで叩く訳にはいかない。
     状況的にはかなり厳しいが、くれぐれも気を付けて頑張ってくれ。


    参加者
    木戸・夕焼(フラッシュバックノスタルジー・d00230)
    紅先・由良(夜闇に溶ける殺人者・d00556)
    志倉・桜(魔を滅ぼす者・d01539)
    更科・五葉(忠狗・d01728)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)
    星野・優輝(銃で戦う喫茶店マスター・d04321)
    下総・文月(フラジャイル・d06566)

    ■リプレイ

    ●異界へと通じる穴
    「ずさんな工事で出来た穴に現れる都市伝説ですか。穴に落ちてしまわれた方は災難でしたね。もっとも、地盤沈下の起こってるような危険な場所に近付いて、穴に落ちてしまうなんて、自業自得とも思いますが……」
     どこか遠くを見つめながら、ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)が都市伝説の確認された穴に向かう。
     被害者達の大半が興味本位で穴を覗き込み、自爆に近い形で大怪我をしたのだが、その責任を行政の怠慢と決めつけ、かなり騒いでいたようである。
     そのため、ほとんどの穴が埋め立てられているが、都市伝説のせいで結果的に穴の数は増えていた。
    「……と言うか、オカルト雑誌を信じて広まった噂って……。普通は笑われると思うんだけどな。それだけ、この辺りが平和なのかも知れないけど……」
     噂の発端となったオカルト雑誌を眺めつつ、草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)が深い溜息をもらす。
     記事を読む限り、いかにもそれっぽく興味を引く書き方なので、騙されてしまう人間がいてもおかしくはないが、モグラからしてみればいい迷惑である。
    「……ん? 地底人? そんなのが出るんや……、変なの。……まぁ、ともかく、一般の人が被害に合うなら早くなんとかしないといけんね……地底人……どんなのやろ」
     地底人の姿を想像する事が出来なかったため、志倉・桜(魔を滅ぼす者・d01539)が首を傾げた。
     一応、ネットでも検索してみたのだが、両目に肌色の目張りをした人間がヒットしただけで、いまいちよく分からない。
    「今回みたいに好奇心が生んだ都市伝説は、あからさまな分、弱点がなかったりするパターンが多いから、やりづらいんだよね……」
     複雑な気持ちになりながら、木戸・夕焼(フラッシュバックノスタルジー・d00230)が口を開く。
     今回の敵もあからさまな感じがするが、必ずしもそれが弱点とは限らないため、油断は禁物である。
    「トンネルと言ったら、やっぱこれが無いとな」
     都市伝説が確認された穴に辿り着き、下総・文月(フラジャイル・d06566)が警戒した様子でヘッドランプを照らす。
     どのくらいの深さがあるのか分からないが、ヘッドランプの明りを飲み込むほどの暗さ。
    「これじゃ、懐中電灯を照らしたところで意味がねえな」
     懐中電灯で穴の中を照らしつつ、更科・五葉(忠狗・d01728)が小さく首を横に振る。
     その時……、奥の方からかすかに、『助けてくれ~』と声が聞こえてきた。
    「どうやら、もぐら男……。いえ、都市伝説に連れ去られた人達のようね。私達も引きずり込まれないように気を付けましょう」
     警戒した様子で辺りを見回しながら、紅先・由良(夜闇に溶ける殺人者・d00556)が身構える。
     その途端、道路に次々と穴が開いていき、完全に逃げ道を塞がれた。
    「ミッション・スタート!」
     ただならぬ気配を感じ取り、星野・優輝(銃で戦う喫茶店マスター・d04321)がカードを人差し指と中指で挟み、カードの表面が見えるよう掲げて宣言する。
     それと同時に地の底からケモノのような唸り声が響き、優輝の間に緊張が走るのであった。

    ●暗い地の底
    「先ずは私から試しますね」
     都市伝説をいぶりだすため、桜が発煙筒を放り投げる。
     その途端、穴の中から『うぎゃあああ、煙い、煙い、煙いィ!』と悲鳴が上げた。
    「……無事か? 自分で動けるようなら、これを使え!」
     拡声器を使って穴の中の誰かに呼びかけ、優輝が木に括り付けたロープを垂らしていく。
     それと同時に穴の中の誰かがロープを引っ張り、勢いよくバキッと木がへし折れた。
    「どうやら、都市伝説も一緒のようだね」
     何となく穴の中の状況を理解し、悠斗が闇の契約で自らを強化した。
     おそらく、都市伝説は穴の中に落ちた一般人を餌にして、助けに来た者達を穴の中に引きずり込もうとしているのだろう。
     先程、垂らしてロープをクイクイと引っ張りつつ、人質にした一般人に『穴の下まで来てくれ~』と言わせているようだった。
    「ちょっと待っててね。いま助けるから」
     穴の中にカメラを向け、夕焼がストロボを焚く。
     そのたび、眩い光が穴の中を照らし、『おい、こら、やめろ!』と悲鳴が響いた。
    「ひょっとして、光に過剰反応するんじゃねえか……?」
     穴の中にライトを照らし、五葉が仲間達に合図を送る。
     それに合わせて、仲間達が懐中電灯を放り投げ、しばらく様子を窺った。
    「こ、こ、殺す気か!」
     B級コントのノリで、穴の中から飛び出す都市伝説。
     よほど光が苦手なのか、都市伝説が懇々と説教を始めている。
    「これが地底人……」
     都市伝説に視線を送り、桜がダラリと汗を流す。
     どこからどう見ても、モグラ人間。
     そうとしか言えない風貌。
     その上、何となく着ぐるみチックな雰囲気が漂っているため、胡散臭さが満載であった。
     もちろん、そう言った噂が流れていた事が原因であるのだが、サングラス越しに見える肌色の目張りがさらに安っぽい。
    「つーか、うるさい」
     都市伝説が延々と説教をしていたため、五葉が真正面からライトを照らす。
    「こらこらこら、死ぬって! サングラスが無かったら、瞬殺だって。あ、やべえ!」
     ハッとした表情を浮かべ、都市伝説が口元を押さえた。
    「なんというか、色々な意味でベタですね。まあ、噂が元である事を考えれば、当然の結果なのかも知れませんが……」
     都市伝説に生暖かい視線を送り、ヴァンが乾いた笑いを響かせる。
     その間に穴の中にいた一般人が、ロープを伝って地上に戻ってきた。
    「ほら、ここは危ないから、さっさと帰った、帰った」
     ヘッドランプで都市伝説を牽制しつつ、文月が一般人を守るようにして陣取る。
     それに気づいた一般人が『あ、ありがとう』と呟き、逃げるようにしてその場を去っていく。
    「それじゃ、私が強くなるための架け橋になってもらうわよ!」
     都市伝説と対峙しながら、由良がスレイヤーカードを解除する。
     それと同時に都市伝説が全身の毛を逆立て、『お前達を穴の中に引きずり……込めねえじゃねえか!』と逆切れした。

    ●光の穴
    「その様子じゃ、光が弱点なんでしょ。その邪魔なグラサンを外してもらおうかしら」
     一気に間合いを詰めながら、由良がティアーズリッパーを放つ。
     その攻撃に驚いた都市伝説が後ずさり、『こ、殺す気か!』と悲鳴をあげた。
     おそらく、自分でも地上に現れた事を後悔しているのだろう。
     だからと言って安らぎの聖地であった地下は、懐中電灯の明かりによって半ば光の国と化している。
    「殺す気も何も、最初からそのつもりだ」
     戸惑う都市伝説をよそに、五葉がレーヴァテインを叩き込む。
    「おいおいおい、物騒な事を言わないでくれ。なら、こうしよう。お前達が穴の中から懐中電灯を取ってきてくれたら、俺も大人しく穴の中に帰るから。もう二度と悪さはしないからさ」
     傷ついた身体を庇いつつ、都市伝説が交渉を持ちかけた。
    「そんな事を言って、俺達が懐中電灯を取ってきた途端に手のひらを反して命を奪うつもりだろ? その前に、大人しくしてもらおうか」
     疑いの眼差しを都市伝説に送り、文月が逃げ道を塞いで封縛糸を仕掛ける。
    「お、おいおい、俺がそんなマネをする訳ないだろ」
     あからさまにそっぽを向きつつ、都市伝説かせ口笛を吹き始めた。
     おそらく、都市伝説なりに誤魔化しているつもりなのだろう。
     顔からは汗が流れ落ちており、明らかに動揺しているようだった。
    「どちらにしても、今の時代には相応しくない相手のようですね」
     ほんのりと昭和の香りを感じつつ、ヴァンが都市伝説にギルティクロスを放つ。
     その一撃を食らってサングラスが宙を舞い、そのまま穴の中へと落ちていった。
    「お、お前、何をっ!」
     慌てた様子で両目を隠し、都市伝説がサングラスを探す。
     都市伝説の計算上では足元に落ちた事になっているが、そんな場所をいくら探したところで見つかる訳がない。
    「都市伝説に対して、薄ら寒さしか感じないのは、時代のせい……なのかなぁ」
     複雑な気持ちになりながら、夕焼が再びカメラのストロボを焚く。
     そのたび、都市伝説が『止めろ』と叫び、必死になって宙を掻き始めた。
    「だったら、これで……、終いや!」
     都市伝説をジロリと睨みつけ、桜がホーミングバレットを放つ。
     その途端、都市伝説が『ま、待て! 話せばわかる!』と叫んだが、既に桜が攻撃を仕掛けた後。
     都市伝説は桜の攻撃を食らって断末魔を響かせ、弾け飛ぶようにして消滅した。
    「やれやれ、なんというか……、残念な相手だったね」
     他に言葉が浮かばず、悠斗が都市伝説のいた場所を眺める。
     都市伝説が消滅する瞬間、ほんの一瞬だけ見えた円らな瞳。
     何故かそれだけが脳裏に焼き付き、残念感を増していた。
    「それよりも、この穴……どうする? 放っておくのも、問題だと思うんだが……」
     ポッカリと開いた穴を眺め後、優輝が仲間達に視線を送る。
     どちらにしても、ここまで深いと自分達で埋める訳にもいかない。
     後の事は警察に任せて、この場を去るしかないだろう。
     そう思いつつ、優輝が警察に連絡をするのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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