ユキイロ

    作者:呉羽もみじ


     君の雪の様な白い肌が好きだ。
     入退院を繰り返す君と徐々に会える時間が少なくなってきて「もう会えることは無い」と親にも君の両親にも、君の主治医にも言われたけど、思い切って会いに行って良かった。
     だって君は僕の傍で微笑んでいるじゃないか。
     病院に居る時は暖かい手をしていたけど、今の君の冷たい手も好きだよ。
     真っ白の顔も、青ざめた唇も、甘えるように僕に身を寄せる君も全部好きだよ。
     只、少し困ったことが起きた。
     暫くお風呂に入って無いからかな。少しだけ酸っぱい匂いがするようになってきたんだ。
     駆け落ち同然で逃げ出した僕達に安息の地は無いのは分かっているのだけれど……女の子の君に不自由な思いをさせるのは申し訳ない。
    「ごめんね、頼り無くて。でもずっと一緒だから。離れない」
     マリア。彼は彼女をそう呼んで唇にそっと触れる。彼女の唇は雪の様に冷たかった。

    「一般人がダークネスに身を落としそうな気配を察知しました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、灼滅者達を見て説明を始めた。
     落ちかけている一般人の名前は和泉・裕也(いずみ・ゆうや)。通常ならば人間としての意識は直ぐに消えダークネスとして暗躍するのだが、彼はまだ完全に人としての心を手放してはいない。
    「彼を救ってあげてください。それが難しい場合は……」
     いつもふわりと微笑んでいる彼女の唇が真一文字に結ばれた。そして、決意したかのように再び開かれた。
    「灼滅を、お願いします」
     裕也が闇落ちしかけた切っ掛けは、幼なじみで恋慕の情を抱いていた「マリア」と呼ばれる少女の存在だ。
     元々、身体が丈夫では無いマリアは入退院を繰り返しており――次に退院する可能性は絶望的に低いと主治医から伝えられていた。
     裕也はそれを信じることが出来ず、病院に侵入。命の火が消えかけている彼女にダークネスとしての力を使い、仮初めの命を与え、病院を抜け出した。
     現在二人は、街外れの廃ビルの一室に身を隠している。
     廃ビルとはいえ、戦闘に邪魔になる大きな障害物は無いと考えて良い。
     彼は、マリアとの時間を邪魔する灼滅者達に敵意をむき出しにしてくるだろうが、先ずは説得を試みて欲しい。
     裕也はノ―ライフキングの能力をマリアの命を救った力と捉え、ダークネス化しかけていることに敢えて気付かない様にしている。先ずは自身の異変を自覚させ、マリアの死と向き合う様に説得するのが適当だろう。とはいえ、おいそれと説得に応じる筈も無く、戦いながらの説得を余儀なくされるであろう。
     裕也はエクソシストと同等の能力を使用する。また、眷属であるマリアはリングスラッシャーと同等のサイキックを使用するが、彼女は裕也の回復にほぼ従事する。が、裕也の説得を上手く進める事が出来れば、マリアの動きを多少鈍らせる事が出来る。
     長期戦を避けマリアを先に倒すのも手ではあるが、最愛の人を目の前で殺された裕也は怒り狂い、説得は絶望的、更に戦闘力も爆発的に跳ね上がることを覚悟した方が良いだろう。
     
    「只、一緒に居たかっただけなんですよね。……でも、それを叶えることはもう出来ないんです。――辛い役目でしょうが、よろしくお願いします」
     姫子はそう締めくくり頭を下げた。


    参加者
    伊舟城・征士郎(群青ノスタルジア・d00458)
    水鏡・蒼桜(真綿の呪縛・d00494)
    田所・一平(ガチンコ・d00748)
    古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029)
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    式道・黒鵐(白虹貫日・d04040)
    黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)
    鬼形・千慶(乾坤一擲・d04850)

    ■リプレイ


     言うなれば、手負いの猫。
     傷付いた身体や心を休ませる事も出来ず、救う為に差し出された手に爪を立てる、そんな憐れな猫。
     和泉裕也は灼滅者達にその様な印象を与えた。
    「僕達に何の用事? 出来れば邪魔して欲しくないんだけど。帰ってくれないかな?」
     口調は柔らかいが断固とした拒絶を裕也は示す。
    「あー、悪いわね。アタシ達はアンタ達に用事があってここに来たのよ」
    「僕達に?」
     へらりと笑い田所・一平(ガチンコ・d00748)が裕也に声を掛ける。一平の女性の様な口調に虚を突かれた様に、裕也は目を瞬かせる。
    「奇跡って、起きたらいいよな。テメェの気持ちはちょっとわかるわ。でもな……起きないから奇跡っていうんだぜ」
    「悲しいけれど、人は必ず死ぬの。死なない人は、もはや人ではないの」
    「君達は一体何の話を……?」
     一転して表情を引き締め、一平は強い口調で言い、古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029)がいきなり核心を突かない様、言葉を選びながら話しかける。彼女は、闇落ちしかけた人間を救う資格が果たして自分にあるものかと自問を重ねていた。
    (「でも、そのままにしておけない。結末はどうなろうとも、だ」)
     目を瞑り、再び目を開く。その目は揺らぐこと無く裕也を見つめていた。
    「彼女をゆっくり眠らせたるんも愛なんとちゃう?」
     斑目・立夏(双頭の烏・d01190)の言葉に裕也はハッとしたが、慌てて、何でも無いという表情を取り繕う。
    「眠らせる? どうして? こんなに元気なのに」
    「お前さん、もう歪みに気付いておるのだろう?」
    「ここに逃げてきてから、貴方は彼女の声を聞いたことがあるの?」
     式道・黒鵐(白虹貫日・d04040)が、智以子が徐々に核心に迫る。裕也は苦しげに眉間に皺を寄せた後、隣に座るマリアをそっと抱き寄せ、頭を振る。
    「貴方の今使っている力は闇の力、このままだと貴方は闇に堕ちてしまう」
     黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)は裕也を自身と重ね合わせていた。もし自分と同じなら灼滅しない事ことこそが救いであるのかもしれない。迷う心が自然と彼女を俯かせる。
    「貴方の能力は、マリア様を救うのではなく、ただ人でないモノに変えているだけ。この力を使い続けていれば、お二人の想いも、記憶も、完全に無くしてしまいます」
    「君達が何を言っているのか全然分からない」
     伊舟城・征士郎(群青ノスタルジア・d00458)が藍花を補足する様に説明をするが、裕也は頭を振り説得を拒否する。
    「これ以上こんなこと続けたらこっちの世界に戻って来れなくなるぞ」
     鬼形・千慶(乾坤一擲・d04850)は、本来ならば殴りつけたい程に怒りをたぎらせていた。仮初の命を与え死者を弄ぶ行為は、彼にとっては許し難い事。しかし、ここは持論を展開する場所では無い。ふっと息を付き、呼吸を整える。
    「僕は、マリアに、何もしてない」
    「しっかり見ろ! テメェの好きだった女は、そんな意志のないガラス玉みたいな目をしてたのかよ!!」
     一平の叱咤に、裕也は首を動かしマリアの顔を見る。そこには瞳に何も写さない虚ろな表情をしたマリアが、居た。彼女を見る裕也の顔が悲しみに染まる。が、再び頭を振り、灼滅者達を敵意を持った目でねめつける。
    「そん子て、自分の意志残ってるん? 意志があらへんのに、繋ぎ止めてもそれはマリアやあらへんで」
    「煩いな……分かったよ」
     立夏をきつく睨み付け、一転して優しい表情に変わりマリアの頬を優しく撫でた後、裕也が立ち上がる。
    「マリア。少し騒がしくなるけど、待ってて。直ぐに終わらせるから」
    「さすがに簡単に説得には応じてくれませんか」
     ため息と共に水鏡・蒼桜(真綿の呪縛・d00494)が武器を構える。皆もそれに続き、いつでも攻撃が繰り出せる様、身構えた。


     藍花の持つ指輪から光が放たれる。
    「やっぱり、君達は僕達の邪魔をしに来たんだ。そうはさせないよ」
     裕也は憎らしげに、そして僅かに寂しげな色を含ませ光を避ける。
    「行って、……彼を止めるために」
     藍花と寸分違わない容貌をしたビハインドは、柔らかい笑みを湛えながらマリアの元へと飛ぶ。
    「っ!? 駄目だ!」
     ビハインドの攻撃がマリアに当たる直前に裕也は彼女を抱きしめ、攻撃を背中で受け止める。
    「どうしてマリアを攻撃するんだ!? 君達……お前らの目的はなんなんだよ!」
    (「大事な人と放れ難い気持ちは解んねんけど……無理やり繋ぎ止めるいうんは自己満足やと思うねん。せやから……止めてみせるで」)
     慟哭する裕也に同情する気持ちは、ある。しかし、見逃すことは出来ない。立夏が影を膨らませマリアを包みこむ。
    「ああ、マリア! お前ら……っ! いい加減にしろっ!!」
     裕也は憎悪を込めた目を灼滅者達に送り、十字架を降臨させる。身体中を貫かれるような痛みが灼滅者達を襲うが、その攻撃で膝を折る者は誰も居なかった。
    「いい加減にするのはテメェの方だろ! 目を覚ませ!」
     後衛に居るマリアに攻撃を当てるのは無理と判断した一平が、気合と共に裕也を殴り付ける。
    「大切な人の死を認められない、認めたくない。テメェの気持ちは痛い位分かるよ。――だけど、今のテメェは敵なんだよ。自分と、そして新たに手に入れた家族の未来を脅かす敵だから倒す。それだけだ」
    「貴方は、そのままで本当に良いのですか?」
     ソーサルガーダーで守備力をアップさせ、どんな攻撃も全て受け止める覚悟で征士郎が言う。
    「死者には安らぎを、生者には救済を。――マリアさんを眠らせてあげましょう」
    「マリアは死んでない! だって、こんなに元気に」
    「仏さんを弄んでんじゃねぇよ! この外道!!」
     我慢の限界を超えたのか。千慶が怒号と共に裕也を切り裂く。裕也はその攻撃を受け、数歩後ろに下がる。
    「マリアはやっと病気の苦しみから開放されたんだ。もう、寝かせてやれよ。なあ?」
     先程の激情に駆られた様子からは打って変わって、千慶が優しい声を出す。
     身体のダメージよりも、心に響いたものがあったらしい。裕也は唇を噛みしめ何かに耐えるような表情を作る。
    「お前さんは愛した者をこれからもずっと自分の寂しさを紛らわせる道具扱いするつもりか? 亡骸も戻らぬ彼女の家族の遺憾は、考えた事はないのか?」
     裕也の表情の変化を見て、黒鵐は噛んで含める様に言葉を紡ぐ。それを聞いて裕也は目を見開く。
    「マリアの、家族……」
    「漸く気付いたか。悲しんでいるのはお前さんだけでは無い。お前さんが彼女にしてやれる事は、こんな事じゃない筈だろう?」
    「でも……! でも、だって! 僕はマリアを守る為に」
    「マリアさんの死を受け止めて。そして闇に打ち勝って。マリアさんの為に……」
    「違う! 僕はマリアが大切でマリアが望むことは何でもしてあげたくて僕にはマリアしか居なくてマリアの為に――……僕がマリアに、してあげられる、こと? マリア。僕は」
     藍花の言葉を裕也は反射的に否定し、その後はマリアへの思いが溢れだす。
     ――その時。
     裕也の背後からマリアがそっと彼を回復した。その回復を受け、混乱していた裕也が正気に返り彼女の方を向く。
    「マリア? 僕の為に?」
     マリアの焦点の定まらない瞳が、一度だけ、裕也と捉えたかの様に見えたのは錯覚だろうか。
    「マリア様が、貴方に正しく生きよと言っているのかもしれません」
    「……マリア」
     征士郎の言葉が的を得ていたかは分からない。真実はマリアのみが知っている。が、彼の言葉を受けて裕也が力無く崩れ落ちる。
    「戻ってくるの、貴方は、まだ間に合うの」
     智以子が願いを込めて言う。
    「お願いだ。僕をこの力から解放させてくれ」
     裕也が絞り出す様な声で灼滅者達に要請する。
    「多少手荒になるが構いませんか?」
    「構わない。只……マリアには手を出さないで欲しい」
    「……分かった」
     決意に満ちた裕也の目は、出会った時よりも大きく開かれ、真っ直ぐに灼滅者達を捉えていた。


    「本気でかかって来いよ? 変に悔根を残して、また闇落ちされたら堪らないからな」
    「8対1だったら、どうやっても瞬殺されるような気がするんだけどね?」
    「残念ながら、貴方だけで私達8人分の力を持っているのですよ。ですから、私達も全力で戦わせて頂きます」
    「ふふ、そういうものなの? じゃあ、僕も全力でいかせて貰うよ。お願い。僕を……マリアを、救って」
    「元よりそのつもりだよ」
    「よし! じゃあ、いくぞ!」
     一平が裕也へと一気に距離を詰め、拳を叩きつける。
    「さっきは直撃したけど今度はそうはいかないよ」
     裕也は一平の拳を手で包みこみ、そのまま払いのける。
    「あなたを救う事が、結果、マリアさんを救う事になるの」
    「……マリア」
     智以子の「マリア」という言葉に足を止める裕也を見逃す筈も無く、その身体に躊躇無く斬り付ける。斬り付けられ軽く顔を顰める裕也に、立夏は再び影を膨らませる。
    「本当に容赦無いな」
     苦笑する裕也へ追い打ちを掛ける様に、黒鵐が素早く死角に回り込み彼を斬り付ける。
    「ガッツリ足止めさせて貰おうかな」
     千慶は更に足止めさせようと刃を振るう。
    「やられっぱなしじゃ格好がつかないよ」
     裕也は手近に居る千慶に攻撃せんと手のひらに光を集中させる。
    「うお!? やべっ」
    「至近距離だからね。外す気がしないよ」
    「なあ、お前、キャラ変わって無いか?」
    「……さあ?」
     にっこりと裕也がほほ笑み、光を放とうとした正にその瞬間。
    「させません」
     征士郎の声と共に、彼らに割り込む様に赤いオーラが放たれた。それに続いて征士郎のビハインドも攻撃を放つ。裕也の意識がそちらに向き照準が僅かに逸れた為、千慶は何とかその場に踏み留まっていた。
    「大丈夫ですか?」
    「あまりだいじょばないから、回復お願いします……」
    「ご、ごめんなさいっ。直ぐに回復、するから、ね?」
     藍花が慌てた様に千慶を回復する。
    「うー……今、三途の川が一瞬見えた……」
     奇跡の生還を成し遂げ、ホッと一息付く千慶を尻目に戦闘はまだ続いていた。
    「お前さんの得た力は、不可能も可能にしてしまう便利なものだ。それによって別の歪みを生み出すかもしれないという事に気付きもせずに。だが、お前さんは力に完全に飲まれる前に気付いた。俺はそれを評価したい」
    「……まだ、全てが終わった訳じゃないよ。僕は、まだ君達を倒したい衝動が抑えられないんだ」
     だから、救済を。泣きそうな声で裕也は黒鵐に懇願する。
    「やっぱり一回倒さんといかへんのか……じゃあ、ちょっと痛いけど、勘忍してな?」
     立夏がジグザグスラッシュを放つ。裕也は咄嗟に避けようと足に力を入れかけるが、力を抜きその場に留まる。立夏のナイフが裕也の身体を切り刻んでいく。彼の顔が苦痛に歪む。
     蒼桜の投げた導眠符にふらつきながら膝を折る。
    「見ていられないな……。これで終わりにしよう」
     一平のティアーズリッパーが裕也を射抜く。
    「マリアは……見ていてくれたかな?」
    「ああ、ずっと見ていた」
    「……なら、良かった」
     崩れ落ちる裕也を一平はそっと支えた。


     裕也が倒れた後もマリアはずっとその場に佇んでいた。
     マリアを「あるべき姿」に戻さなくてはいけない。これからせねばならない事を考え、灼滅者達の顔が曇る。
    「……マリア」
    「あ、目ぇ覚めたー?」
     裕也が目覚めたのにいち早く気付いた千慶が、暗い空気を払拭するように殊更明るい声を出す。
    「マリアは?」
    「あなたを待っています。行ってあげて下さい」
     藍花の声を最後まで聞かず裕也はマリアの傍へと駆ける。その背へ遠慮がちに征士郎が声を掛ける。
    「マリア様を解放してあげましょう。お辛いのならこの場に居なくとも」
    「いや、ここに居る」
    「……分かりました」
     せめて少しでも苦しまない様に、と一番攻撃力の高い立夏がマリアを不死の呪縛から解放する。
     マリアの身体は、雪の彫刻が太陽の光に耐えきれなくなったかの様にゆるやかに溶けていく。それは見てはいけないものの様に美しく、灼滅者達はそっと瞳を伏せる。
    「マリア……君が居ないと僕は……」
     溶けていくマリアを裕也は躊躇無く抱きしめる。その時、マリアの手がぴくりと動いた。ゆっくりと裕也の背中にマリアの腕が回る。
    「マリア……!」
    「彼らだけにしてやろか? ……行こう」
     二人の様子を一瞥した立夏はそう言うと背を向けドアの方へ歩き出した。皆もそれに続く。

     廃ビルの外で待つ事暫し。
     雨にでも打たれたかのように全身をしとどに濡らした裕也がドアを開けて外に出てきた。
    「待たせてごめんね。……お別れは済ませてきたから。ありがとう」
     彼は気丈に笑顔を見せる。それを見た智以子はマリアの死を悼み、胸に手を当てて黙祷を捧げる。そして、今は亡き家族へと思いを馳せる。
    (「いつもはこんな気分にならないのに。……でも、そんな日があってもいいの」)
     幾つもの戦闘を経験して、智以子の中で小さな変化が訪れたのかもしれない。
    「それで、僕はどうなるの? 君達に殺されるなら仕方ない、かな。マリアにも君達にも迷惑掛けちゃったから。……死んだらマリアに会えるかな? それとも違う世界に行くのかな? 僕はとんでもない罪を犯したんだから」
     笑顔が歪む。皆の前では泣くまいと必死に堪えてきた涙が一筋零れる。
    「私達は武蔵坂学園の生徒です」
    「……え?」
     不意に聞き慣れない学園の名前を挙げられ、裕也はきょとんとした表情を作る。
     彼らは、学園の事、ダークネスの事、灼滅者の事を簡単に説明した。
    「もし貴方が望むなら、魂を修復した、こういう存在も居ます。……良く考えて答えを出して下さい。決めるのは貴方です」
     藍花は自身のビハインドを見上げ、そして裕也に決断を促した。
    「どんな決断をしても、お前さんが前に進む事を、相方も望んでおると思うぞ」
    「……きっと、何があってもマリアは見ててくれるさかいに。な?」
     黒鵐、立夏の言葉が、裕也の背中を押す。
    「僕は皆みたいに強くないし、もしかしたらまた迷惑を掛けるかもしれないけど。もし、これから僕みたいな人が現れて、それを知らん振りしたら、きっと僕は僕を許せないと思う。だから……僕も行く。よろしくお願いします」
    「こちらこそ!」
     裕也の決断を皆は笑顔で歓迎した。
     皆の後ろ姿を見送ってから、千慶は菊の花束をマリアの為に手向けた。
    (「来世でも、幸せに」)
     千慶の呟きは、雪が混じりそうな程の冷たい風に掻き消えた。

    作者:呉羽もみじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 6/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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