右か左か

    作者:池田コント

     昼、茨城県某所にある廃屋に二人の男女が拉致された。
     全身をなます切りにされて、血だらけとなって息も絶え絶え。
     かなり消耗しているようだが、互いをかばいあいながら、床に座っている。
     そんな二人のそばに、よれよれのスーツを着て、ナタを持ったひどく猫背な男が立っている。
     まだ、終わりにするつもりはないのか、思い出したように男女の大きく裂かれた肉の内側にナタの先を突っこんでいじる。
    「悲しいね。悲しいね。こんな、誰かもわからないみすぼらしいおじさんに、ある日突然殺されちゃうなんて、悲しいね。ところで、二人はあれなの? 仲良さそうだったけど、どういう関係なの? ……ああ、そうなんだ。姉弟なんだ? お姉さん、若く見えるね。ふうん。なあんだ。恋人じゃないのか。でも、仲睦まじい姉弟が仲良く買い物していたら、ある日突然異常者に殺されてしまうなんて悲しいね。へぇ、そうなの? お姉さん、交際している人がいるの? 悲しいね。弟君は? ああ、高校生? 未来ある若者だ。悲しいね。でも、大丈夫。その悲しみが残ることはないから」
     ナタ男は少しも感情の見えない風につぶやいた。
     悲しみという人らしい感情など、ないかのように。
    「ああ、悲しい」
     
     エクスブレインの未来予測が、灼滅者の宿敵であるダークネスの行動を察知した。
     ダークネスは、バベルの鎖の力による予知があるが、エクスブレインが予測した未来に従えば、その予知をかいくぐり、ダークネスに迫る事が出来るだろう。
     ダークネスは強力で危険な敵ではあるが、ダークネスを灼滅する事こそ、灼滅者の宿命である。

     六六六人衆、番号六五八『サッドマン』
     武器はナタと影。
     拉致した相手に、同時に拉致した一般人を殺させたりする、悪趣味な性格をしている。
     感知されていないだけで既に相当な数の人間を殺害している。

     まず言っておかなければならないことがあります、と姫子は寂しげに目を伏せた。
    「お二人のうち一人は、助けられません」
     何度再計算しても、その可能性は出てこなかった。
     姉弟の内、片方は必ず死ぬ。
     そして、その一人がどちらになるかは灼滅者の行動によって変わってくる。
     廃屋は細長い構造をしていて、左の方にある入口か、右の方にある勝手口から入ることになる。
     左から入れば姉が死に、右から入れば弟が死ぬ。
     そこに理屈や因果関係があるのかわからない。ただそうなる。
     両方またはそれ以外から入った場合はバベルの鎖に感知されてしまうので、どういう結果になるかはわからない。
     また、左右のどちらかから侵入して、人質の救護を一切せず、敵と戦った場合、サッドマンを灼滅できる確率は八割近くまで跳ね上がる。

     拉致された二人の簡単な資料がある。こちらは必ず読まなければならないということはない。
     拉致されたのは、カシマ姉弟といい、姉の名はユウコ。弟は不明。
     両親を早くに亡くし、年齢の離れた姉が親代わりとなって生きてきたようだ。
     姉には交際相手がいるらしい。
     弟は高校生で奨学金をもらって通学しているようだ。

     わかってほしいのは、彼女ら一般人が犠牲になってしまうのは、完全にダークネスの責任であって、灼滅者が気に病む必要は全くないということだ。
     この件に関して、思うことがある人もいるだろう。
     けれど、ダークネスに対抗できるのは灼滅者しかおらず、貴方達灼滅者が動かなければより多くの人間が不幸になるのだということを理解して欲しい。
    「皆さんに幸いがありますように、祈ってます」


    参加者
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    花凪・颯音(花燈ストラーダ・d02106)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    物部・虎丸(夜行性・d05807)

    ■リプレイ


     窓からさす光の中をほこりが水泡のように舞っている。
     生活感がなく、まるで時が止まった異境のような雰囲気。
     望みの絶える場所とは本当はこういう光景なのだろうか。
     二人の前には、サッドマンという、男が立っていた。
     どこにでもいる風体のおじさんだが、どこか根本的ななにかが違っているような、そんな引っかかりを覚える男。
     過酷な痛めつけを受けても屈さずにいる姉弟に、男は提案する。
    「君がその子を殺しなさい。そうしたら君だけは助けてあげよう」
     弟に差し出されたナタ。
     姉を殺せば助かる。ズシリとしたナタの重み。
    「サタロウ、殺して」
     姉は言う。
     あなたこそが私の宝。せめてあなただけでも生き残って。
     弟は言う。
     姉さんがいなければ俺はここまで大きくなれなかった。できない。
     男は言う。
     時間切れだ。女を殺そう。
     待て! そんなの話が違う!
     そんな話はしていないよ。
     男に対して、弟は刃を向ける。
    「姉さんは、俺の一番大切な家族だ。俺の為に苦労して、これから幸せにならなくちゃいけない人なんだ! 殺させはしない!」
     残っていた力の振り絞って弟は踊りかかった。
     ナタを力任せに振り回す……と。
     ザシュ!
     影が弟の背中から生えた。
     ……プシャアァ!
     姉の体に、温かくどろりとしたものがふりかかった。鉄と生ものを混ぜ合わせた臭い。
     ぼとりと落ちる弟の体を姉は受け止めた。
     分かたれた弟の上半身は軽すぎて、もう人とは思えなかった。
    「いやぁぁあああぁあああぁぁ!?」
     絶叫。
     悲鳴。
     狂乱。
     噴水のように血を噴き上げていた弟の下半身がぼとりと倒れた。
     男はナタを拾い上げ姉に近づき、頭めがけてその手を振り下ろす。
     スイカのように、頭は割れる、その前に。
     ピタリ。
     男の手が止まった。
     男は、ゆらりと部屋の入口へと首を向けた。
     そこには、気だるげな雰囲気を漂わせた少女が立っていた。
    「よぉ、趣味のわりぃ遊びしてるな」
     気安い調子だが、目は少しも笑っていない。青い炎をまとい、水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)は部屋の中に踏み入る。
    「なんだい、君達? ここは君達の家じゃないだろ?」
    「お前の家でもないだろ」
    「……その通り」
     男を中心に風が巻き起こる。
     唐突に、言いようもない不安が湧き起こった。
     一秒たりともここにいたくない。
     関わり合いになりたくない。絶対に。絶対に。
     そんな思いを抱かせる元凶。
     それは、このさえない男が発する、おぞましさ。
     けれど。
    「いよゥ、666野朗」
     楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)はその強烈な殺気の中を物ともせずに男へ向かって行く。
    「ゼンリョーな市民がいきなりロクデナシに攫われてブッ殺される悲しい世の中だ、ロクデナシが乱入して来たヒトゴロシに殺されたッて、珍しかねェよなァ?」
     突き出された槍をナタで防ぎ、続けざまに盾衛が振るった刀は素手でつかんだ。
     男が影を使わなかったのは、背後に気配を感じていたから。影はその刃を防ぐために残しておいた。
    「名乗らせて貰うよ六五八番?」
     その太刀の主、着物を着た銀髪の少女の胸元に、スートが浮かぶ。
    「時遡十二氏征夷東春家序列肆位四月一日伊呂波。君がばら撒く悲しみは此処でお仕舞い」
     にひ、と男がいびつな笑いを浮かべたので、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)達はとっさにその場を離れた。
     男の足元から枝分かれしたいくつもの影が針のように誰もいなくなった空間を貫く。
    「ふひっ! いーい反応だねぇ」
    「貴様に褒められても嬉しくない」
     龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)は正眼に構えて、刃を男に向けた。
     窓、扉、崩れそうな壁。
     逃走経路をふさぐように、聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)達が動いていることに男は気づいた。
    「なるほど。そういうこと……」
    (「察されましたか」)
     普通以上の洞察力はあるようだと、ヤマメは男の目の動きを読んで思った。
     男になにを言われても、心を乱さぬようにとヤマメは自分を戒めた。
     声一つで、こちらの動向を先読みされてはならない。
     花凪・颯音(花燈ストラーダ・d02106)は姉達と男の間に割り込んだ。
     この程度なら、救護活動にはあたらないだろう。
     少年の背中を悲痛な叫びが叩く。
     助けて、ねぇ、助けて!
     サタロウの体が、は、半分になっ……い、息してなくて。
     ど、どうしたら……どうすれば、助かるの? ね、こ、れは……。
     ああああぁあ……。
     弟の亡骸を抱いて姉が泣き喚いている。
     物部・虎丸(夜行性・d05807)はそれを一瞥した。瞳に複雑な感情がよぎる。
    「……生きて苦しむか、死んで救われるか、選ばせてやりたかったぜ……」
     けれど、どうにもできない。
     超常の力を得ても、失った命を取り戻すことはできない。
    「冷たいようだけれど、こいつに攫われた時点で君たちの命は終わってる。ボクたちはこれ以上増えないために戦うんだよ」
     沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)は瞳にバベルの鎖を集中させる。
     助けられなかった者の断末魔を、残された者の慟哭を。
     彼女らが生きた記憶をボクは覚えていよう。
    「天然理心流土方道場一番隊組長、沖田直司。推して参る」
     鋭い刺突。
     飛燕の速さで突き出された切っ先は、しかし、空を切った。
    「……!?」
     重力から解き離れたかのように、男は直司の刀の上に立っていた。そこへ、
    「曲芸はそこまでにすることだ」
     柊夜が斬りかかり、逆側から颯音の影が襲いかかる。
     丁々発止。目にもとまらぬ連続の攻めを、男はそれぞれ片手で対応する。
     二人の対応に追われる男を、漆黒のオーラが呑み込んだ。
    「殺人中毒野郎。今日がてめぇの命日だ!」
     だが、男は息の合った虎丸達の攻撃に傷を負いながらそのふざけた笑いを一層深くする。
     柊夜達ごと虎丸のオーラを薙ぎ払うと、室内を駆け回り始めた。
     いろははそれに追いすがり斬りつける。男はそれに応戦しながら、行く手に先回りしていた瑠音の腹部を蹴り飛ばし、反動を利用していろはの背後にまわった。
     とっさに振り返るいろはの頭部にナタが振り下ろされるより早く、男の体を影が絡め取る。そうして生まれた一瞬の隙にいろはは距離をとった。
    「オラオラ、縛られて悲しいか嬉しいかオラァ!」
     影が肉に食い込むのも構わず、男はそれを引っ張り、主を引きずり出そうとするが、盾衛は影を自在に伸ばしそれをさせない。
     男のおぞましい殺意のオーラが周囲にいる直司達を呑み込む。
     すかさず、ヤマメは仲間への想いを込めて歌い始めた。
    (「皆様どうぞ安心して、前を」)
     想いを受け取って、瑠音は自らの身の丈より大きい斬艦刀を振り上げた。
     悔しいが、ダークネスは強大すぎる存在で、対して人間はあまりに弱すぎる。
     心も、体も。
     灼滅者も、ただの人間よりは強い。けれど、できることは限られている。
     目の前の人間一人、救えないことだってある。
    「ダークネスから人間全部救えるなんて思っちゃいねぇ。だからこそ、お前の被害者はこいつで最後にする」
     瑠音はいろはから合図を受け取り、二人同時に攻撃を仕掛ける。
     片方を避けられても、もう片方は当てるよう、絶妙に時間差を作り、燃え盛る斬艦刀をぶち込む。
     いつのまにか、彼女の泣き声がやんでいることに気づいて、颯音は姉弟達を見た。
     そして、すぐに目をそらした。
     仕方ないこと、と言い聞かせても、心がささくれ立つのを止められるわけでもない。
    (「ま、言ッてみりャ殺虫剤と害虫の話ッてなモンさな。殺虫剤が虫退治そッちのけでヒト様の心配してどうすンの、と」)
     殺虫剤は、刺された人間の夢を見るか?
    「……あーヤダねヤダね、何言ッても言い訳にしかならねェや」
     人が二人いなくなり、それを助けることのできなかったことは事実。
     人は万能でないとしても。
    「やりきれないですね。私達にもっと力があれば」
     違う結末にできた?
     柊夜の言葉を耳にしながら、
    「捧ぐは白詰草、導くは復讐……」
     颯音の指輪に怒りと共に魔力が凝縮されていく。
    「この弾丸は、外道を滅ぼす!」
     男はいろはの斬撃を防ぎつつ、柊夜の体を影で握りつぶさんとし、直司の接近に気づいて身構えたところで……。
     その右胸を撃ち抜かれた。
    「……けひっ」
     対価を得なければならない。
     姉弟を代償とした対価をなんとしてでも受け取らなければならない。
     男はそうした想いをあざ笑うかのように、暴虐にふるまい続ける。
     虎丸の夜霧の支援を受けて、直司が男との間合いを詰めていると、視界の隅からなにかが飛び出てきた。
     なにかと思えば、犠牲になった姉の体だ。
    「いやん、殴らないでぇ~……なぁんちゃって」
     男は影を操り、姉の体を見せびらかすように掲げてみせる。
     その行為は、戦闘的には無意味。今やただの物である彼女はサイキックを防ぐ盾にすらならない。
     男はむざむざ戦いを一時的に放棄して、灼滅者に死者を傷つけさせる気なのだ。
    「……ッ! 悪趣味な」
     瑠音の目が細まり、表情から感情が消え失せる。
    「さぁ、この子を斬れるかな?」
     斬!
     次の瞬間、いろはは冷徹に姉の体ごと男を斬った。
    「ひどぅい。こんなお腹じゃ、もう子供産めなぁい」
    「戯言。この惨劇の責めを負うべきは君以外にいないよ?」 
     いろはは一旦刀を納め、次の刹那には男の胸部を真一文字に切り裂いていた。
     その表情は暗い。顔をのぞかせる過去の記憶。それが彼女から感情を奪う。
     それに気づきながら、柊夜はなにも言わず魔力を集約させる。制約の弾丸は、姉の体を貫通して男の左手を爆散させた。
     すかさず、直司が刺突。
     男は素早く跳んでかわす。が、
    「その動きはボクの予測の内にある」
    「な、んだと」
     更に一歩。
     空間を縮めたかのように、直司は男に迫り、上段から斬撃を放つ。男を守るように伸びる影。しかし、その影ごと、日本刀菊一文字は闇を断つ。
    「次はボクの大切な人達がお前の被害者にならないとも限らないから」
     柄を握る手に渾身の力を込める。
    「ここで終わりにする」
     闇を裂く刃は、しかし、男の右肩から入って胸の中ほどで止まった。
     骨を断たれ肉を裂かれてなお、男は下卑た笑みを絶やさない。
    「早いか遅いかだけだよ」
    「……!」
     男の全身から爆発的に影が生えた。至近でそれを喰らった直司は全身を串刺しにされて宙へ放り出される。
     ヤマメはそれを全身で受け止め、意識があるか確認して男から離れた床に横たえさせた。
     攻撃的な陣容。六六六人衆相手にメディックが一人では支えきれないことはわかっていたが、灼滅を果たすまで一瞬でも長く仲間を癒そうとヤマメはより一層心を引き締める。
    「てめーはここで終いだ。じたばたすんじゃねぇぞ」
     瑠音の一撃。炎はいつしか青から真っ赤に変化していた。
     男はにやけた面のまま自分の左腕が潰されるのを見ていた。
     そして、斬艦刀が左腕をミンチに変えた瞬間、巨大な影の拳が瑠音を押し潰した。
    「瑠音様!」
     寄ってきたヤマメの手を借りながら、瑠音はかすれる視界に男をとらえる。
    「まだだ……あいつをぶっ倒すまで、倒れねぇ……が、ハァ」
     大量の吐血。
     内臓が破裂しているのだろう。ヤマメは懸命に歌声を響かせる。
     仲間が倒れても、柊夜は振り返ることなく男に斬りかかる。歩みを止めては、すべてが水泡に帰す。
     仲間の努力も、人の死も。
     黒狼牙が男の肩口をとらえた。
     と思った瞬間、衝撃が全身を揺さぶる。
     ナタが胸部深くまで肉をかち割っていた。
    「貴様による犠牲はここで止める」
     しとどに体を血で濡らしながら、柊夜は逃がさぬようナタを握る男の手をつかむ。
     けれど、そこで力尽きて意識を失った。
     ぞぶり。
     その瞬間、月下残滓が男の胸に生えた。
     背後からの一撃が男を貫いたのだった。
     が、男はいろはを振り返り、にたりと笑う。
     いろはは、太刀に体重をかけてより深く肉を裂いた。
     ズブズブズブ……。
     だが、まだ足りないことは他ならぬいろは自身が理解していた。
     影に殴られ、いろはは壁に激突。
    「……せめて、あと一太刀」
     最後まで戦意を持ちながら、気絶した。
     この十数分の内に、立っている姿は五人になった。
     血が流れる。人が転がる。上等だ。
    「ハッハァ! 痛くて辛くて悲しくて楽しいなァ、えぇオイ!?」
     口から鼻から耳から目から、血を流しながら、盾衛は笑う。
     男も笑う。
    「その通りだなぁ! 全くその通りだ! けひひひ……おやぁ?」
     着地した瞬間に詰め寄られ、ナタと自在刀七曲が金属音をかち鳴らす。
     男は気持ち悪い笑顔で盾衛の顔をのぞきこんだ。
    「……おや、おやおや、おやぁ? 誰だい? こんなところに鏡を置いたのは」
    「……ハッ! てめぇなんかと一緒にすんじゃねェよ」
     盾衛は男の利き足を引っかけバランスを崩したところを影で地面に押さえ込んだ。
     すかさず、負傷した肩をかばいつつ、颯音の影が男に喰らいつく。
     それでもなお、すべてを振り払おうとする男の前に、虎丸が立った。
    「今更ジタバタすんじゃねぇよ」
     虎丸のナイフが男の腱という腱を断ち切り、男は芋虫のように転がった。
     勝敗は決した。後はとどめを……。
    「けひひ。一ついいことを教えてあげるよぉ。お前らは俺を殺すんじゃないんだよ。俺が殺されてあげるだけなんだよ。けひひ、けひひひ! 実力で殺せると思った!? ねぇ、思った!? 違うよ! 俺が殺されてやるんだ! じゃなけりゃお前らみたいなクズどもが俺を殺せるわけがないだろう? 悲しいねぇ、悲しいねぇ、悲……」
     がしゅ!
     虎丸は男の顔面にナイフを突き刺した。
    「……ふざけんな。これは、俺達の勝利だ。俺達が勝ち取った成果だ……」
     逃げられぬように警戒し攻め続けた。
     男の言葉は負け惜しみに違いない……。
    「いやァ悲しい、お前みてェにブッ殺すのに遠慮ねェ野朗に会えてとッても嬉しいのにもうお別れだ、悲しいねェ」
     盾衛達に取り囲まれ、半死半生。
     けれど男はナイフの突き刺さった顔面に笑みを浮かべた。
    「……ンじゃ、あばよ」
     盾衛の刀がその首を斬り飛ばした。
     声が枯れるまで歌い終え、アヤメは気力果てたようにその場に膝を屈した。
     十一人いるはずのこの部屋は、三人が物言わぬ骸に成り果てた。
     虎丸はナイフを握りしめたままつぶやく。
    「悲しむなよ。きっとこれが幸せだ」
     自分のようにならずに済んだのだから。
     救うことのできなかった、悔しさ。
     灼滅を終えても、この手にはなにも残らない、虚しさ。
    (「守れなかった事は本当に責任では無いのなら此の光景は誰が償うと言うんだろう」)
     颯音は、姉を守ろうとして無念のうちに落命した弟と、最愛の弟を殺され自らも泣きながら逝った姉の手をつながせる。
    「……ごめん、苦しかったね、痛かったね……二人で生きたかったね……」
     されど奇跡は起こらず、惨劇は静かに幕を閉じた。

    作者:池田コント 重傷:龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 12
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