●喧嘩神輿を知ってるか!
おっさんは近所でも有名な神輿職人だった。
それも得意分野は喧嘩神輿。四人で担いだ神輿をぶつけ合い、破壊されれば負けという非情にアグレッシブかつバイオレンスな競技だが、ところがどっこい伝統行事である。
古き良き伝統に乗っ取って木材のみで作り上げると言う彼の神輿には神がかった耐久性と攻撃性が発揮され、年に一度の喧嘩祭りではその実力を存分に発揮していた。
そんなおっさんの夢の中……。
「グハハハハ! それが貴様の神輿か、見事な出来ではないか!」
奇妙な形の化物が祭りやぐらの上で高笑いしていた。
おっさんの後ろには神輿が三つ。
昨年、一昨年とそれぞれの祭で優勝した渾身の神輿たちである。それぞれ丁寧に分解してシンボル部分だけ棚に飾っていた筈だが……どうやらここは夢の中、当時のままに再現されているらしい。
対して目の前には、不定形生物からそのまま切り取ったかのような奇妙なヒトガタがわらわらと並び、その中心には黒光りした神輿が二台、置かれている。
方や、高射砲と戦車装甲を搭載した神輿と言う名の殺戮兵器。
もう一方は、巨大チェーンソーやパイルバンカーをごてごてとつけた神輿とは名ばかりのモンスターである。
「どうだね、吾輩の神輿の方がずっと強そうだろう?」
「これが神輿だと……? テメェふざけんじゃねえ!」
「グハハ! 今時木工細工なぞクソの役にも立たぬわ。今から磨り潰してやろう……と思ったが、神輿だけに興が乗った。その者達と喧嘩神輿で勝てたら、貴様を見逃してやるぞ」
「…………」
「まあ、貴様一人では棒切れ一本担げんだろうがなあ!」
●担ぎ屋募集
「伝統を……何だと思ってやがる……!」
大爆寺・ニトロ(高校生エクスブレイン・dn0028)は拳を握って震えていた。
「神輿ってのは意味自体が色々あるが、担ぐヤツの魂が乗ると言われることがある。だからこそ神輿職人は担ぎ手のために神輿を作り、毎年のように腕を振るうんだ。そいつを無粋な鉄細工で汚しやがって、許せねえ!」
震えた拳が机を叩く。
彼女の説明によれば、ダークネス『シャドウ』が一般人の夢に入り込み、心ごと圧し折ろうとしているようなのだ。
「この事件で失われる命は一つだけだ。けどのその一人は、これまで何十年にも渡って人々の魂を神輿に乗せつづけた一人だ。人類の全てがそうであるように、この人だって死んでいい人間じゃねえ。そうだろう!」
夢へはソウルアクセスで入ることができる。
だが、普通に戦闘をこなすだけでは……シャドウを退かせることはできてもおじさんの心を守り切ることはできないだろう。
「そこで神輿だ。喧嘩神輿の出番だ!」
ぐっと拳を握り直すニトロ。
「幸いにしてここは精神世界。おじさんの『神輿は担ぎ手の魂を乗せる』っつー概念がギッチリと刻まれてる。つまり……俺達が神輿を担ぎ、サイキックを込めてぶつかることで相手の神輿にエネルギーを叩きつけることができるっつー寸法だ」
神輿は二つあるので、担ぎ手は四人ずつ。
二台あるシャドウ神輿とそれぞれ一台ずつ対戦することになるだろう。
個人ごとの力を打ち込むもよし、併せた力を一つにして叩き込むもよし。
灼滅者ならではの凄まじい神輿バトルが繰り広げられるに違いない。
「相手の神輿をボッコボコにして、シャドウを追い返してやろうぜ!」
参加者 | |
---|---|
ポンパドール・ガレット(休まない翼・d00268) |
水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010) |
水無月・戒(疾風怒濤のナンパヒーロー・d01041) |
水島・ユーキ(ゲイルスライダー・d01566) |
黒咬・昴(叢雲・d02294) |
有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923) |
戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549) |
岸本・麻美(いつも心に聖剣を・d09489) |
●魂を乗せ心を乗せ、囃せイキザマ――喧嘩神輿!
高射砲の銃口が鎮座した神輿への向く。
「まずは一つ目、木端微塵に砕いてくれるわ」
「や、やめろ!」
魂と人生を賭けて作り上げてきたものを、たとえ夢の中であっても壊されたくは無かったのだ。それも……喧嘩神輿以外の、ただの破壊によってなど!
おっさんは慌てて神輿の前に立ちふさがるが、それに何の意味があろうか。
「やれい!」
重く激しい音と共に、高射砲が発射される。
手を前に翳し、目をぎゅっと瞑るおっさん。
だがしかし、予想していたような衝撃は訪れなかった。
恐る恐る目を開くと、黒咬・昴(叢雲・d02294)の背があった。
豪華絢爛に刃を束ねたふた振りの剣を十字に交わらせ、高射砲の攻撃を受け切ったのだ。
「そっちの里では、そんなゴテゴテとした戦車を神輿いうのね。……結構」
「あ、あんた……ぁ」
「通りすがりのお祭娘だよ、その神輿、担ぎに来たんだ!」
マスケットを肩に担ぎ、昴の横に並ぶ有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)。
同じくギターを(やったら低い位置で)ぶら下げつつ滑り込んでくる戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)。
「そう、僕らは喧嘩神輿の精霊です! 困ってるオッサンを助けたいという思いが僕達に人間の姿をサプライズしてくれたんですよ!」
「さっきと設定が違うが……」
「気にすんな!」
何処からともなく現れ、すちゃっと着地するポンパドール・ガレット(休まない翼・d00268)。
「おっさんはそこで見てろ! あんたの神輿が最強だってことをおれたちが証明してやっかんな!」
「そーそ、私らってば、神輿も祭も大好きだからねぇー!」
ハッピを翻し、水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)が登場。
同じく水無月・戒(疾風怒濤のナンパヒーロー・d01041)もハッピを羽織って仁王立ちした。
「伝統を汚す邪道神輿なんぞはぶっ飛ばしてやらあ!」
「敬意が、ない……」
どこか陰鬱そうな顔をして端から現れる水島・ユーキ(ゲイルスライダー・d01566)。
岸本・麻美(いつも心に聖剣を・d09489)もまたチェーンソー剣を担いでずんと足を踏み出して見せる。
「ってことで、気合入れていくわよ!」
「邪魔立てをするか、灼滅者どもよ……」
やぐらの上で目を細めるシャドウ。
「よかろう。この私にたてついたことを後悔させ……そして神輿もろとも粉砕してくれる! やれい!」
●
喧嘩神輿のルールとして、彼らは四人ずつに分かれておっさんの神輿を担がせてもらった。
木材だけでできているというのに、肩や手にずっしりと、それでいてぴったりと収まる。まるで自らが神輿と一体になったかのような絶妙のフィット感がそこにはあった。
「おっさんスゲー……掛け声はワッショイで、相手が壊れるまでぶつかればいいんだよな? よし、オッケーだ!」
神輿の右後を掴んでじっと足を踏ん張るポンパドール。
そこへ相手の近距離型神輿が突っ込んでくる。
「相手は所詮木材! パイルバンカーで風穴をあけてくれよう!」
「まるで城攻めね。でも、中身の脆弱さが隠せてないわよ?」
昴がぎゅっと神輿の左後を握る。
するとどうしたことか、神輿の前方から大量の刃を組み合わせた巨大な剣が生えたではないか。
それだけではない。普段ポンパドールが纏っているような炎が剣の各所から噴き出してくる。
「うお、思ったよりすげえ!?」
「行けるわ……私達の一撃、受けて見なさい――わっしょいぎりぃぃぃ!」
剣がパイルバンカーの杭と正面から衝突。しかし強度はこちらが上だ。相手の杭を圧し折って装甲をへこませる。
「弥咲、チャンスだぜ! ……あとなんで褌してこなかったんだ」
「いくらなんでもムリだ! それより、畳み掛けるぞ!」
「おう!」
弥咲と戒は同時に腰を屈めると、それぞれ別々のオーラが沸き上がり、神輿を包んで行く。
「「必殺!」」
まるで飛び上がるかのように突撃する神輿。
「紅蓮――!」
「「神輿!」」
「キィィック!」
混じり合ったオーラが力となり、相手のパイルバンカーをまるごと破壊して吹き飛ばした。装甲版が派手に剥がれて飛んでいく。
「ぐぬ!? 調子に乗るなよ木材の分際で……真っ二つにしてやれ!」
好調を見せていた灼滅者たちだったが相手はあのシャドウ。一筋縄でいく相手ではない。
神輿から巨大チェーンソーを展開すると、大鋏のような斬撃によって神輿のウワモノを真っ二つに切断してしまったのだった。
鬼瓦の屋根を表現した木製の屋根が無惨に転がる。
「ククク、脆い脆い。さあ次は左右にちょんぎってやろうかな?」
「しまった!」
冷や汗を流す弥咲。
「敵のなかなか……だが我等のこの気合、負けるわけがなぁい!」
弥咲が脚を大きく踏み鳴らすと、神輿の中心から木製の大砲が飛び出した。
敵の装甲神輿にバスタービームを乱射。と同時に、光線が天へと激しく登って行く。
「何だと!?」
「ったくよー……」
ポンパドールは自らの炎をよりいっそうに湧き上がらせ、神輿へと注ぎ込んで行く。神輿が、まるで彼自身が宿ったかのように、激しい炎を螺旋状にして天へと吹き上げ始める。
「神輿に武器付けまくるとか、空気読めてねえっつうか何つうか……」
「風情が無いわね」
戦神降臨によって神輿に新たなウワモノを作り上げていく昴。
新たに形作られた祭壇のような神輿の上に、疾風弐号(ライドキャリバー)ががしょんと嵌った。
「全力全壊!」
「合体技くぜぇ! 天狗ダイナミック!」
戒は腰に天狗の面を装着。同じく巨大な天狗の面を顕現させる疾風弐号。
「ってお前何やってんだぁ!?」
「序盤にセクハラできなかった分が溜って……じゃなかった、俺のフルパワーだ! 行くぜ!」
四人は、まるで魂がまじりあったかのようなシンクロを見せた。
四人同時に足を踏ん張り、四人同時に駆け出していく。
「くっ、こんなもの巨大チェーンソーで!」
「お呼びじゃないわ、土俵が違うのよ!」
昴の気合と共に疾風弐号のホイールに巨大な刃が生え、相手のチェーンソーを逆にバラバラにして見せた。
そのまま神輿の先端(天狗の鼻部分)が相手の神輿に突入。内側から七色のビームと炎を吹き出していく。
人々の魂が籠った一撃が、敵の装甲を貫けぬわけはない!
人々の魂が乗ったエネルギーが、ただの兵器に負けるわけがない!
「ぐあああああああっ!?」
木端微塵に爆発四散する装甲神輿。
シャドウの眷属体たちが悲鳴をあげて飛び散って行く。
ぐしょぐしょと溶け、消滅していく眷属。
四人は顔を見合わせ、高々と神輿を担ぎ上げた。
今日だけは、キャラを忘れて叫ぼうではないか。
さあご一緒に――。
「「わっしょい!」」
●
高射砲の弾幕が荒れ狂う中、四人は神輿を担いで踏ん張っていた。
天に上る龍をイメージして作られたという喧嘩神輿は、匠の技で彫られたた美しいパーツの数々を弾き飛ばされ、徐々に丸みを帯びていく。
へるは片目をつぶって弾幕を耐え忍んだ。
「神輿を担ぐときは楽しく熱狂的に、そして敬意を忘れずに! そして掛け声は元気に――わっしょい!」
肩と腕に気合を入れたその時、神輿の両脇に二丁のマスケット銃が出現した。
そして連続で放たれるデッドブラスター。無数の弾丸が空中でぶつかり合い、拉げて明後日の方向へと散って行く。
しかし弾幕の全てをそれで凌げるわけではない。
「ここは僕の出番のようですね」
前右を担いでいた蔵乃祐は、目を光らせると持ち手の先端部分へと身を乗り出し、左右の持ち手を両手で支えるように、大の字を作るように構えて見せた。
彼の身体に晒される無数の弾丸。
「ペインキラー発動……うっ、ふぅ、ぬふううううんん! き、きくぅぅぅぅぅ! 痛みが消えていくゼェ! 絶好調ぉぉぉぉぉお!」
「オ、オオ……」
白目を向きながらもびよんびよん跳ねまくる蔵乃祐。さすがのシャドウもこれにはドン引きした。
その間にも武装はさらに追加。デッドブラスターに加えてマジックミサイルまでもが乱射され、勢いづいた神輿は相手の高射砲神輿へと突撃を開始する。
「まずは邪魔な砲台を破壊するわよ、手伝ってユーキさん!」
「……了解」
二人は同時に気合を入れ、神輿に自らの魂を注入。
龍型のウワモノが激しい電撃を放ち、まるで生きているかのように爪を大きく振り上げる。
「抗雷――」
「黒死――」
「「斬撃!!」」
嵐の如く繰り出された衝撃により、相手の高射砲が圧し折れる。
「な、ナニィ!? サイキックエナジーを神輿に注入だと? ありえん、お前らごと吹き飛ばしてくれる!」
シャドウの高射砲神輿は一旦圧し折れた砲台をパージすると、新たに二本同時に発射するタイプの高射砲を創りだした。
先刻の倍ほどの弾幕をはってくる高射砲神輿。
無論神輿はただでは済まない。
龍の首が吹き飛び、地面に着く前にばらばらに砕かれてしまった。
「まだよ!」
「魂、こめる、よ!」
四人はそこで、同時に気合を入れた。
そう、同時にだ。
まるで四人がひとりの生き物であるかのように、闇と影と炎とがまじりあい、竜の鱗をてらてらと覆って行く。
それが首にまで達した段階で、そこから蔵乃祐の上半身が生えた。
「ファイトオオオオオオオイッパアアアアアアツ!!」
目と口から謎の光を放ちながら叫ぶ蔵乃祐。
「……え」
「思った以上にキモチワルイことになってる!?」
「た、叩き込めばなんでも一緒よ! 今必殺の、クリムゾンデッドエンドー!」
彼等は荒れ狂う蔵乃祐ドラゴンを盾にして(盾にして!)激しい弾幕の中を突っ切る。
そして、彼らのエネルギーがまるごと詰まった龍の首を相手の神輿へ激しく突っ込ませた。
が、それで足を止めるわけではない。
彼らは勢いをつけたまま突っ走り、高射砲神輿をバラバラに打ち砕いたうえで、漸くブレーキをかけたのだった。
一拍遅れ、四人同時にぶっ倒れるシャドウの眷属。
「へいシャドウ。伝統を馬鹿にする態度はいただけねーが……お前のセンス、嫌いじゃないわ。シーユーアゲイン!」
「クッ……!」
やぐらの上で、シャドウは忌々しげに歯噛みした。
そしてやぐらごと霧のように掻き消える。
「今度会う時はこうはいかん。覚えているがいい、灼滅者たちよ!」
●
ボロボロになった神輿を置いて、ポンパドールは肩を回した。
「やったな、昴さん!」
「でも神輿が大変なことになっちゃったわね……」
「いや、気にすることは無い」
それまで様子を見ていたオッサンが、腕組みをして頷いた。
「喧嘩神輿は壊れてナンボよ。熱い魂がぶつかりあえば、神輿なんてのはぶっ壊れちまう。その代りに、魂が硬く鍛えられる。まるで刀を打って鍛えるようにな」
「おっさん……」
「おっさん……」
振り返る弥咲(ハッピ)。
振り返る戒(天狗)。
「いい加減にそれを外せ!」
「へぶしっ!」
そして炸裂する弥咲ラリアット。
「とにかく……無事で、良かった」
ユーキはそれだけ言うと、後は皆に任せたとばかりに半歩後ろへ下がった。
そのさらに後ろでは、麻美がなにやらごそごそと敵の残骸を漁っている。
「これも伝説のエクスカリバーじゃないかぁ」
「何だい、お嬢ちゃん。そのえぐす何とやらを探してんのかい」
興味本位で振り向いて見る麻美。
「おじさん知ってるの?」
「いや全く知らんが……伝説っちゅうのはその辺の残骸から探し出すようなもんじゃあないだろうな」
「ほう、興味深いことを言いますね」
今更キリッとした顔で(かつ龍の上に跨って)振り返る蔵乃祐。
「お嬢ちゃんが何か伝説を為した時、手に持っていたモンが伝説の道具だ。俺はそういう瞬間を何度か見てきた。喧嘩神輿限定だがな」
「それで、ここまで情熱を燃やしてたってわけね。来年の神輿も期待してるよ。それじゃっ!」
その言葉を最後に、少年少女は霧のように消えた。
「ふむ……次の神輿のアイデアが、まとまったな」
おっさんは顎を撫で、満足げに目を瞑った。
来年にどんな喧嘩神輿が完成するのか、それはまだ分からない。
だがきっとおっさんの神輿は、担ぎ手の魂を乗せてくれるだろう。
そして人々の心を囃したて、街を元気にしていくのだ。
少年少女が守った、ひとつの命で。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年12月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 4/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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