●都内某所
喧嘩が弱くてイジられてばかりの少年を鍛え上げ、強い男にして回っている老人がいるという噂があった。
この老人は飄々としており、どこか人を小馬鹿にしたところがあるのだが、彼に鍛えてもらった少年の大半が、イジメっ子を倒すほどの実力を得る事が出来たようである。
そんな噂から生まれたのが、今回の都市伝説。
「つーか、いつのネタだよ」
何となくツッコミを入れつつ、神崎・ヤマトが頭を抱える。
最近、リニューアルやリメイクやらが流行っている影響なのか、それとも似たような話があったのか、どこかで聞いたような噂だと思いつつ、今回の依頼を説明した。
今回、倒すべき相手は、老人の姿をした都市伝説。
コイツはイジメられてばかりいる少年の前に現れ、何となく鍛えて強くしてくれるらしい。
もちろん、それは都市伝説の催眠効果のおかげ。
だから強くなった少年が調子に乗って、そのまま喧嘩を続けると……、酷い目に遭う。
まあ、これに関しては自業自得なんだが……。
コイツのおかげで救われた少年も沢山いるし、そう言った意味では悪い奴ではないと思うんだが……、相手が都市伝説となれば話は別だ。
おそらく、お前達が行く頃にも誰かを鍛えている最中だろう。
もしかすると、お前達にその少年を嗾けてくるかもしれない。
そこで相手を倒す事は簡単だが、確実にそいつの心は折れる。
それこそ、ポッキリと音が聞こえるくらい。
これに関してはわざと負けるか、完膚なきまでに叩きのめすか、それとも別の方法を試すかのどれかになるな。
ちなみに都市伝説は無駄に動いているように思えるが、油断すると渾身の一撃を放ってくるから、くれぐれも気を付けてくれ。
参加者 | |
---|---|
鷲宮・密(散花・d00292) |
秋庭・小夜子(大体こいつのせい・d01974) |
夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) |
叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580) |
クラウィス・カルブンクルス(朔月に狂える夜羽の眷属・d04879) |
神武侍・晴香(鉄拳ガール・d06042) |
雪椿・鵺白(ブランシュネージュ・d10204) |
エリ・セブンスター(駄犬スレイヤー・d10366) |
●最強の格闘家
「まあ、強くなりたいって気持ちはわかるけど、相手が都市伝説となれば、話は別。少年を説得して老人を倒さないと……」
都市伝説が確認された場所に向かいながら、雪椿・鵺白(ブランシュネージュ・d10204)がある程度の理解を示す。
一応、都市伝説に鍛えてもらう事で自信が持てるようになり、結果的にこの出来事がプラスに働いているのだが、強くなった事で自信過剰になってしまい、手当たり次第に喧嘩を吹っかけ、返り討ちに遭っているケースも少なくはないようだ。
「どうやら、都市伝説の噂になった老人って、それなりに名の知れた格闘家だったみたいだね。何でも知人に騙されて道場を手放す事になって、ホームレスをしていたとか」
モデルになった老人の話をしつつ、叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580)が資料に目を通す。
老人に鍛えられた少年達の大半は肉体的にも精神的にも鍛えられ、それなりに結果を残しているようだが、逆に都市伝説は強くなったと錯覚するだけで、実際に強くなった訳ではない。
おそらく、この差があるため、後々でトラブルを起こしてしまうのだろう。
「どちらにしても……、このままでは後々痛い目に合いそうですし、今のうちに止めてあげた方が良いのかもしれませんね……」
険しい表情を浮かべながら、クラウィス・カルブンクルス(朔月に狂える夜羽の眷属・d04879)が口を開く。
クラウィスも過去に虐げられてきた事があるため、力が欲しい気持ちも少しはわかる。
だが、闇堕ちして沢山の人の命を奪い、弟も巻き込んだ事実もあるので、『簡単に得た力』の恐ろしさは重々承知。
故に、例え強力な力を得たとしても、必ずしもそれが自分に味方せず、裏切る可能性があると言う事を理解してほしかった。
「そうだね。きっと、自分が騙されている事にも気づいていないと思うから……」
都市伝説が確認された道場跡に辿り着き、エリ・セブンスター(駄犬スレイヤー・d10366)が悲しげな表情を浮かべる。
この場所は噂の元となった老人がいた道場。
知人によって乗っ取られた後、所有者が何度か変わっているようだが、その過程で何らかのトラブルがあったらしく、今では廃墟となっていた。
「たのもー! ……でいいのかな? えーと、道場破りにきました!」
勢いよく道場内に足を踏み入れ、神武侍・晴香(鉄拳ガール・d06042)がてへっと笑う。
道場内には都市伝説と少年がおり、床や壁の補修を行っていた。
これがどういった修行なのか分からないが、外観とは比べ物にならないほど道場内が綺麗になっていた。
「さーて、少年。ちいと聞きたい事がある。力が欲しいのか、単に苛められて悔しかったのか。後者なら、一回沈んでもらうぜ? ……そっから、一緒に這い上がるべ」
少年に対して問いかけながら、秋庭・小夜子(大体こいつのせい・d01974)が指の関節を鳴らす。
「お前達に答える必要はない。いや、違う。これが……答えだっ!」
思いっきり調子に乗った様子で、少年が小夜子に殴りかかっていく。
すぐさま、小夜子が攻撃を避けようとしたが……、体が重い。
(「……なるほど、これが都市伝説の力か」)
間一髪で少年の拳を受け止めたが、強引に身体を動かしたせいで、全身がビリビリと痛む。
「幾ら強くなっても、力だけでは解決できない事も沢山あるわ」
少年が再び小夜子に攻撃を仕掛けてきたため、鷲宮・密(散花・d00292)が悲しげな表情を浮かべて訴えかける。
「……邪魔をしないでもらおうか」
それを遮るようにして、都市伝説が密の行く手を阻む。
……その表情はまるで蛇。
「いい加減に目を覚ませ! オマエはあのじーさんに騙されているだけだ。んな事をしなくたって、オマエが本気になりゃ強くはなれるんだよ。これから強くなってきゃ良いんだ。俺も昔は身体が弱くてね、すげーヘタレだったんだ。今はそれなりに強くなれた、とは思う。まァ、相棒に敵わねー程度の強さでしかねぇが、昔は守られるだけだった俺が、他人を守れるようになったんだ。本当の強さ、アンタは何に求めるんだい? 我儘を通すための強さってんじゃ、独りよがりの迷惑な力にしかならねーぞ。肉体的な強さだけじゃなく、心も強くなれ。こんなインチキみてーな方法で、本当に強くなったとは言えねーだろ?」
少年の心に届くようにして語りかけ、夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)がラブフェロモンを使う。
その途端、少年の心にほんの一瞬だけ迷いが生まれたが、都市伝説の力によってあっという間に掻き消された。
●少年
「ねえ……、それは本当に君の力なの? 自分の強さは簡単に降って湧いたりしないよ!」
悲しげな表情を浮かべ、晴香が少年に対して語りかける。
……少年も薄々気づいているのだろう。
本当は自分に力がない事を、都市伝説から学んだ事が間違っている事を……。
「あなたも分かっているはずです。その力はまやかし。誰しも初めは弱いかも知れませんが、努力次第で強くなる事が出来るんです。いい加減に目を覚ましてください」
ラブフェロモンを使いながら、クラウィスが少年に近づいていく。
その途端、少年の心に迷いが生まれたが、都市伝説の見えざる力によって、それが歪んだ感情へと変えられていく。
「そ、そうやって、僕を油断させて、騙し討ちをする気だな! やっぱり、師匠の言った通りだ。信用できる奴なんで誰もいない!」
あからさまに警戒した様子で、少年が殺気に満ちた様子で身構える。
おそらく、都市伝説から『他人を信じるな』と教えられているのだろう。
まるで獣の如く勢いで、再び襲いかかってきた。
「強くなりたいってのは、わたしにもある。でも、人を傷付ける強さはいらない。守る強さが欲しい」
少年の攻撃を受け止め、鵺白がグッと唇を噛む。
驚くほど……、痛くはない。
これで本気を出しているのか、と疑ってしまうほどに……。
「人を傷つけるのは良い事じゃない。それはキミも分かってるはずだよ。相手を打ち倒す力より君に必要なのは折れない、負けない力。アタシ達に向かってきた勇気、それは催眠効果があったとしてもキミの中にあったもの。目を覚まして。そして、見ていてくれないかな、アタシ達が強者を倒すところを……」
少年の攻撃を受け止めながら、エリが真剣な表情を浮かべて説得を試みる。
「うるさい、うるさい、うるさい! 黙れ、黙れ、黙れえええええええええええええええ!」
半ばパニックに陥った様子で、少年が続け様に拳を放っていく。
まるで、もう一人の自分を否定するように、弱くて情けなくて惨めな自分を消し去るように……。
「イジメから抜ける方法は何でもいいけど……力じゃさ、お前もいつか力に負けんぜ? お前が苛める側に回ってどうするよ。手ならいくらでもあんだから、一緒に考えようぜ?」
それでもあきらめる事なく、小夜子が少年に語りかけていく。
だが、少年の考えは変わらない。
ここで考えを変える事は、せっかく変わろうとしていた自分を否定し、消し去りたかった自分自身に戻る事。
(「いっそ、ポッキリ心を折った方が本人の為なんだろうな。まあ、この様子じゃ、立ち直るのは絶望的かも知れないけど……」)
少年の顔色を窺いながら、秋沙が深い溜息をもらす。
この様子では、もう少しで説得する事が出来そうなのだが、都市伝説の事が気になっているせいか、なかなか本音を口にする事が出来ないようである。
それがどうしてなのか分からないが、何か弱みを握られているのかも知れない。
「あまり良いやり方ではないけど……」
覚悟を決めた様子で、密が魂鎮めの風を使う。
その途端、少年がとろんとした表情を浮かべ、その場に崩れ落ちるようにして眠りについた。
「ほっほっほっ、惜しかったのう。まあ、例え説得する事が出来たとしても、わしが命を奪っていたところじゃが……。どちらにしても、このまま前に進むしかないのじゃから……」
含みのある笑みを浮かべ、都市伝説が密達に視線を送る。
「それじゃ、予想の範囲内って事か? だったら、勘違いもいいところだな。これから、アンタが予想できないほどの未来が待っているんだから!」
少年を安全な場所まで運び、治胡が吐き捨てるようにして言い放つ。
それでも、都市伝説は『ならば、やってみろ』と言って、治胡達を挑発するのであった。
●都市伝説
「それじゃ、手加減なしに本気で行くよ」
堂々と宣言した後、エリが都市伝説に鋼鉄拳を放つ。
都市伝説はそれをひょいっとかわすと、飄々とした態度で『もっと素早く打ち込んで来い』と挑発する。
それは戦っているというよりも、鍛えてもらっているという感じであった。
「だったら、胸を借りるつもりで全力を尽くしますっ!」
都市伝説を牽制しながら、晴香が閃光百烈拳を叩き込む。
それと同時に都市伝説が左右に跳ぶようにして、晴香の攻撃を次々とかわしていく。
「武術の達人と言うだけあって、思ったよりも強そうだな。だが、いつまでもその余裕が続くと思ったら、大間違いだぜ!」
都市伝説の逃げ道を塞ぎようにして、小夜子がマジックミサイルを放つ。
それに合わせて密が影くらいを放ち、都市伝説を覆い尽くすようにして飲み込こうとした。
しかし、都市伝説は軽快な足取りでヒョイッとかわし、『ホッホッホッ』と笑い声を響かせる。
「ちょっと、調子に乗り過ぎじゃないのかな」
ムッとした表情を浮かべ、秋沙が都市伝説に地獄投げを放つ。
その一撃を食らった都市伝説が派手に宙を舞い、クルクルと回転しつつ着地をした。
だが、都市伝説も余裕がなくなっているらしく、いつの間にか笑みを浮かべなくなっている。
「だいぶ余裕がなくなってきたようですね。ならば、もう少し……!」
都市伝説を追い詰めるようにして、クラウィスが攻撃を仕掛けていく。
さすがに都市伝説も余裕がなくなってきたのか、すぐさま反撃に転じてきたが、全く余裕がないせいか、隙だらけになっていた。
「ひょっとして、得意なのは身を守るだけか? まあ、元になった噂を考えれば、おかしな話じゃないんだが……。どちらにしても、その弱点……有効に使わせてもらうぜ!」
都市伝説の死角に回り込み、小夜子がトラウナックルを叩き込む。
それに気づいた都市伝説が両手をクロスして受け身を取ったが、そのせいで完全に無防備な状態になった。
そのため、都市伝説も慌てた様子で、自らの身を守ろうとしたが……。
「既に……、手遅れよ」
完全に守りが固まる前に、鵺白のガトリング連射を食らう。
それでも、都市伝説は体勢を元通りにして反撃に転じようとしたが……、間に合わない。
「これで……、終わりだあああああああ」
都市伝説の胸倉を掴み上げ、治胡が地獄投げを炸裂させる。
次の瞬間、都市伝説が壁に突っ込み、崩れ落ちるようにして消えていく。
「お、お師匠様!」
その途端、少年が慌てた様子で飛び起きる。
少年の瞳に映っていたのは、消えゆく都市伝説の姿。
『消えないで!』と叫んで、腕を掴もうとしたが、その手は虚しく空を切るのみ。
「心が折れたままにしないように、ね。いじめる人間よりも、それに屈しない心を持つ人間の方が強いわ」
その場で立ち尽くす少年に駆け寄り、密が優しく語りかける。
しかし、少年は何も答えない。
ただ呆然と都市伝説がいた場所を眺め、一筋の涙をこぼしただけ。
おそらく、少年にとっては世界が終るのと同じくらいショックな出来事であったのだろう。
泣きたくても泣けず、絞り出すようにして、ようやく零れたのは、たった一滴の涙。
それが少年の気持ちを、すべて物語っていた。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2012年12月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|