シニカルエッジの他殺幇助

    作者:空白革命

    ●『シニカルエッジ』惨殺原・幸助
    「俺はさァ、人間は強い意志を持って生きていくべきだと思うのね」
     赤いサングラスに黒いスーツ、そして妙にぎらついたネクタイをした男が、頬杖をついて階段の段差に腰掛けていた。
     空いている手で、ごちゃごちゃと飾りのついた折り畳みナイフを弄んでいる。
    「そりゃあさァ、世の中辛い事ばっかりだし? いざ乗り越えてみたら更なる難関がーみたいな腐ったゲームバランスしてっけども。だからって投げ出してもさァ、どうせ次に生まれ変わっても似たような所で投げ出すんだぜ?」
     ドクロやらサイコロやら、統一性の無いじゃらじゃらとしたストラップがナイフから下がっている。それをつまらなそうに弄って、男は言う。
    「そんならこう、ギリギリまで粘ったり活路を見出してだな、絶望的な困難にも立ち向かっていくとか、そういうのって大事じゃねえ?」
     彼の後ろ、つまり上階から数人の男が降りてくる。
     それぞれ黒いスーツに身を包んではいたが、ネクタイやサングラスはしていなかった。ラフだ。
     しかしその代り、彼らのスーツには大量の血液が付着し、酷いものに至っては内側のシャツまで真っ赤に染まっていた。
     手にはズタ袋が握られ、その中には人間数人分と思える『何か』が詰まっていた。
    「処理は済みました。彼は?」
    「ああご苦労さん。少し待っててくれや、今やらせっから」
     彼等からのアイコンタクトを受けて、サングラスの男はナイフをボールペンのように握った。
    「俺ね、惨殺原幸助ってぇの。トンでもねえ名前だろ? 苗字考えた先祖出て来いやっつーの。でもまあ、そんなに嫌ってわけでもねえんだわ」
     ナイフを、ダーツの様に放る。
    「こういうのの扱い、すげー上手くなったからさ。看板みたいに名のれんの」
     しかし本来のダーツとは異なり、それは放物線を描いて足元へと突き刺さった。
     誰の?
     手枷足枷をされた女の、足元である。
     他の男達に枷を外され、手足を自由にされる。
     床に刺さったナイフを挟んだ1m先に、老婆が横たわっていた。薬でも使われているのか、ぐったりと眠ったまま動かない。
    「その、アンタのおばあちゃんでしょ? 聞いたよぉー、結婚してから姑としてイビられまくって、やっと大人しくなったら今度はボケて生活がんじがらめにされてんだって? 可哀そうじゃねーの。これじゃあお互い幸せになれねえよ? でしょ? だからさ、ほら、始末はしてあげっから……」
     サングラスの男、幸助は立ち上がり、女の後ろへと回った。肩に手を置き、耳元でささやく。
    「殺しちゃおうぜ、そのナイフでさ」
     恐る恐るナイフを手に取る女。
     勢いよく掲げ。
     そして――。
     
    ●他殺幇助
    「……この後、御婆さんは12回に渡って全身を刺されたそうです。盛っていた睡眠薬や麻酔のせいか、目覚めることも抵抗することもなく、死亡しました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は資料のページを捲る手を、ぴたりととめた。
    「いえ、『死亡することになる』と言うべきかもしれません。これは、まだ起きていない事実……未来に起ころうとしている予測です」

     今日もまた、ダークネスの一角『ソロモンの悪魔』の活動を感知し、灼滅者たちへと依頼が下りた。
     ソロモンの悪魔は非常に狡猾で、彼が力を与えた『強化一般人』に背徳的な活動をさせ、そのエネルギーを我がものとするという。しかも背徳的集団の尻尾を掴めても、肝心のダークネスへの手がかりが絶えているケースばかり。まるでトカゲの尻尾を切るかのような暗躍ぶりであった。
    「今回は、部外者の一般人を新たに勧誘するべく、殺人を起こさせるという事件が発生しています。一般人が魔の囁きに負け殺人を犯してしまう前に、この事件を止めて下さい」
     
     他殺共有会。それがこの集団の呼び名らしい。そもそも特定の組織名を持たず、時折集まっては身動きの取れない人間を殺して殺人の背徳を共有し合うという、邪教じみた連中である。
    「組織のリーダーはこの男、惨殺原幸助。無論、強化一般人です」
     ここには彼の他に12名の強化一般人がおり、現場に居合わせている。武装は主にナイフ。
     この建物へ強行的に乗り込み、残らず灼滅する必要があるだろう。
    「罪を犯していない人を殺人者にするなんて行為を、認めるわけにはいきません。皆さんどうか、宜しくお願いします」


    参加者
    凌神・明(Volsunga saga・d00247)
    九条・風(紅風・d00691)
    乾・舞夢(煮っ転がし・d01269)
    杜之宮・摩耶(寧静なる癒し手・d03988)
    ディートリヒ・エッカルト(水碧のレグルス・d07559)
    トランド・オルフェム(闇の従者・d07762)
    上倉・隼人(伝説のパティシエ・d09281)
    ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)

    ■リプレイ

    ●『命はたった一つのものだから。人生は一度きりのものだから』
     トランド・オルフェム(闇の従者・d07762)はこめかみの辺りに指を当てて、メガネのテンプルフレームを軽く二度ほど叩いた。
    「御姑さんと御嫁さんですか……」
     古今東西のあらゆる場所で当たり前に起きている問題だ。選択の理由はどうあれ、半生を何等かに縛られることを多くの人は良しとしないだろう。
    「それが愛情表現の内……かどうかは分かりません。ですがどうあれ、命の尊さに勝るものはありません」
     願わくば優しさを持ってほしいものですと、彼は瞑目ながらに言った。
    「それは、色々と、あると思いますけど……」
     僅かに口をとがらせるディートリヒ・エッカルト(水碧のレグルス・d07559)。
    「酷いのはあの惨殺原っていう強化一般人です。絶望的な状況にあっても立ち向かえというのは良い事だと思いますけど、だからって元凶を殺して解決っていうのはどうなんでしょうか。また違う絶望が待ってるだけだと思うんです。たまには、逃げたって……」
    「……うん」
     言を継ぐように、ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)は自らの前髪を指で摘まんで言った。
    「殺すだけ、解決、違う。後悔してからは、遅い。止めないと」
     それきり口を閉じ、ルナールはゆっくりと息を吐いた。

     他者の人命を重く捉える向きが大きい中で、当然の個体性として他人は他人というラインを引きっぱなしにできる者もまた、少なからず存在している。
     乾・舞夢(煮っ転がし・d01269)はこと今回に於いては、後者に当たる人物だった。
    「せっかく家族なんだし仲良くして欲しいものだよー。ね?」
    「はあ、はい。弱い心に漬け込む悪行許せませんね(30歳以上は守備範囲外なので)」
    「ねー」
     舞夢と一緒に首をかしげる杜之宮・摩耶(寧静なる癒し手・d03988)。
     彼女もまた、ライン引きの外側にいる人間である。
     人間トラブルの多くは、時として彼女達のような『第四者的』立場の人間が解決法を持っていたりするのが、また複雑な所ではあるが。
     さておき。
    「まあでも? 目の前で人死に出されるのは気分悪いですしね。頑張りましょうね」
    「ねっ」
     笑顔で首を傾げあう二人。
     その後ろで、凌神・明(Volsunga saga・d00247)はじっと腕を組んでいた。
    「如何なる理由や苦悩が在れど、囁きに任せることに意思など有るものか。覚悟亡き罪過ほど、重い枷は無い」
    「俺はそういうトコまでは分からなないけどさ、なんつうかこう……」
     上倉・隼人(伝説のパティシエ・d09281)が頭をがしがしとやる。
    「胸糞悪い野郎がいるもんだよな」
    「あァ? ヤるのに躊躇がいらねェってなもんだろ。面倒くせェお節介焼きが……」
     九条・風(紅風・d00691)はそう言って口に輪ゴムを咥えて髪を縛り、胸のポケットに入れていた眼鏡をかけてから手袋に手を嵌め込んだ。
    「さァて、俺らもちょっかいかけに行きますかァ」

    ●『他人に良いようにされるなんてとてもいけないことだから』
     場面を、あのシーンへと移す。
     枷を外された女が囁きに流されてナイフを振り上げ、その高さが頂点にまで達したその時のことだ。
    「はいっ、遊びの時間はここまでだよっ!」
     開け放たれた扉より、舞夢が箒飛びで飛び込んできた。
     爪先でナイフを蹴っ飛ばすようにしてから、ブレーキもかけずに着地。てんてんとステップを踏むと、足元から粘り気のある影が沸き上がった。
    「これ、すっごく痛いよっ!」
     途端に影に呑まれていく黒服の男。
     取り乱す黒服たちの中で、赤いサングラスの男――惨殺原・幸助は頭を軽くかきながら立ち上がった。
     女の肩から手をどかしぐいぐいと背伸びをする。
    「灼滅者かぁー、面倒くせえー。あ、アンタ邪魔だから帰っていいよ」
    「え、と……」
     どうしていいか分からずオロオロとする女。だがそれ以上何をするでもなく、その場にコトンと倒れてしまった。
     様子からして深い眠りに落ちたようだが、振り向いて見れば摩耶が護符を手の上で弄びながら壁に背を付けて立っていた。
    「回復はちゃんとしますんで、色んな所はよろしくです」
    「はいどうもーっと、正義の味方がやって来ましたよっ!」
     隼人は手元に出現させた大鎌を横凪に振る。すると大きな波動が沸き起こり、男達へと叩きつけられた。
     振り回したブレードで顔の半分が隠れる。
     隼人は少しだけ顎を引いて、鎌にエネルギーを流し込んだ。
    「覚悟しやがれ」
     途端、部屋中に大量の刃が出現。男達へと襲い掛かる。
     男達はそれぞれナイフを抜き、濃密な夜霧を展開していった。
     やがて霧は奇妙な竜巻へと変わり、隼人たちへと襲い掛かる。
    「…………」
     ルナールは片腕で風を遮りつつ、カードを軽く手の中で反転。
    「フェルヴール!」
     するとどうしたことか。彼女の手には一本のフルートが握られているではないか。
     フルートを手の中で更に回転させ、周囲の風を巻き込んで行くルナール。
    「この風、返すねっ」
     言うや否や、魔術の風を生み出して男達へと叩き返した。
     そこへ飛び込んで行くトランド。
    「――失礼」
     彼は反射的につき出されたナイフを軽やかによけ、男達をすり抜ける。
     そして胸に沿えていた手を水平に払った。その途端彼の足元から犬型の影が飛び出し、男の背中へ激しい爪撃を繰り出す。振り向いた男のナイフを犬が噛みつくかのように影で受け止め、紅蓮のオーラを纏わせた爪撃を叩き込む。
    「おーおー、頑張るねえ。最近の若者は元気で――っとお!」
     自分に向けて突っ込んでくる明。彼の拳を、惨殺原幸助は片手で受け止めた。
     直後に電撃を纏った拳がた叩き込まれるが、それもまた片手で受け止める。
     指こそ組み合っていないが、ちょっとした力比べの体勢へともつれ込むことになる。
     しかし惨殺原はどこか余裕そうにニヤニヤとしている。
     一方、明の方は元より表情が硬いせいか心情が読めない。
    「意識の無い人間を殺すことが、嫌いな人間を殺させて重荷を背負わせることが、貴様のいう困難への抵抗か」
     明は脚に力を入れ、惨殺原を半歩ほど押し込む。
    「本気で言っているなら貴様、ずいぶん楽な人生を送ってきたようだな。義があろうが殺人は罪だ。もっとも忌避すべき罪だ。故に貴様等を消すのは正義でなく同類と知れ!」
     更に半歩押し込――もうとした、その時、惨殺原にタイミングよく足を払われた。
     引っ張りまわすように投げられる明。その際にも影を蹴りを加えられる。ギリギリで身を捻って脚を捌くが、続けざまに繰り出された二度目の蹴りで明は壁に叩きつけられた。
     よく見れば彼の革靴には影業が張り付いていた。
     そのまま転がることなく立ち上がり、自らに戦神降臨をかける明。
     そんな彼を、惨殺原は片眉を上げて眺めていた。
    「あのさァ」
     内ポケットに手を入れる惨殺原。武器を出すのかと思いきや、櫛を出して髪を整え始めた。
    「さっきのアレ本音? ポーズとかじゃなく?」
    「……どういう意味だ」
    「いや、あっはっはゴメンゴメン。マジな顔すんなよ。ちょっと、宗教詐欺に引っかかりそうな反応してるなって思ってさ」
     そこまで言うと、彼は持っていた櫛に影業を絡め、ナイフの形に整える。
    「もしかして俺が語ってた『困難に立ち向かいましょう頑張りましょう』みたいな文句、マジに受け取ったの? ダメでしょーそれじゃ。もしそれであの女がスッキリして帰っちゃったらどうすんの。うっかりヤっちゃって『キャー私どうしよー!』てなった所で弱み握って漬けこんで、でもってアレしてコレしてコロっとイかせるのが俺らの役目じゃん? あの文句だってあれよ、真言宗あたりからパクったやつだぜ?」
    「…………そうか、理解した」
     明は再び身構え、そして目を細めた。
    「貴様はただの、悪か」
    「お分かり頂けてなによりー。じゃ、御帰りはあちらになりますんで」
     ナイフで外を差す惨殺原。
     が、勿論帰すつもりなどないのだろう。黒服達が明めがけて飛び掛ってくる。
    「そこまでです!」
     カツン、とロッドを地面に突き立てる音。
     ディートリヒは胸を張って、明の周囲にある空気を急激に凍結させた。
    「それ以上殺させたりなんか、しません!」
     氷につまづく男達。
     そこへ、大量の弾丸が叩き込まれる。
    「オラオラどうしたァ! もっと踊ってみろよ!」
     風は出入り口に立ちふさがるようにして、細身の重機関銃を右へ左へと振り回した。
     部屋中を跳ねまわる弾丸が男達へとぶつかり、その幾つかはナイフによって弾かれる。
     だがそんなことなど気にならないとばかりに、風は弾丸の嵐を重ねるかのようにまき散らして行った。
    「強い意志が大事なんだろ、粘れよ活路見出せよ投げ出さずに最後まで困難に立ち向かおうぜェ、オラァ!」

    ●『人の人生を奪うなんてとてもいけないことだから』
    「ルルと一緒に踊る?」
     乱れる黄金色髪の間から、小さな唇が覗く。
     だがそれも一瞬のこと。ルナールはまるで踊るように男達の間を駆け抜け、彼らの脚や頭、腹や胸といった様々な個所にフルートの打撃を与えていく。
     無論、フルートなどと言う繊細な楽器をそこまで乱暴に扱えばダメにしてしまうかもしれないが、これはあくまで殲術道具。超常の道具に常識は通用しないものだ。
    「おつかれさま」
     ルナールはぴたりと足を止め、頭上でフルートを水平に掲げる。
     彼女の後ろで黒服達が次々に地面へ倒れて行った。
    「く、こんな子供に……!」
     辛うじて立ち上がった黒服だが、その脇腹に大鎌のブレードが差しこまれ、まるで招くように引っ張り込まれた。
    「これも現実。ごめんねー」
     無理矢理退路を塞いでからの、オーラを纏ったパンチ。
     男は大きく弾かれるが、鎌に引っかかって仰け反るに留まった。
     そこへ更なる連打を叩き込む舞夢。
     最後には鎌を大きく振り上げ、フルスイングでぶった切った。
     分断された黒服。その残骸を飛び越え、別の黒服がナイフを掲げて飛び掛ってくる。
     が、彼の刃が舞夢に届くことは無い。
     後方から放たれた魔矢が男の腕に突き刺さり、反動で空中で大きく身を回転させる。更にもう一発叩き込まれ、それは男の喉を貫通した。
     どしゃりと地面に崩れ落ちる男。
    「舞夢さん、大丈夫ですか?」
    「うん、平気」
     そんな余裕を見せられて、平静でいられぬが黒服である。
     最後の力で立ち上がり、ナイフをジグザグに変形させる。
    「死ね、小僧!」
     殺意をむき出しにして襲い掛かる黒服。
     だがしかし、彼の背後にはトランドの姿があった。
     いや、それはまだいい。
     トランドの正面にして、黒服の眼前。
     そこに犬のような影業が出現し、口をあんぐりと広げたのだった。
     ただ広げたのではない。口部分だけを異常に肥大化させ、男を一瞬で丸のみにしてしまったのだ。
     そっと眼鏡を外すトランド。
     彼の足元では、息絶えた黒服がひとり。

     呪いの風が巻き起こり、竜巻の形をとる。
     同時に、摩耶は護符を放り投げ清めの風を渦巻かせた。
     二つの竜巻がぶつかり合い、弾けて消える。
    「っかー、ラスト俺一人かよ。つっかえねぇ部下だなーオイ」
    「私が言うことじゃないですけど、次は自分だとか思わないんですか」
     鞘に納めたままの刀をぽんぽんと叩く摩耶。
     惨殺原の戦闘力は確かに高いが、それはダークネスレベルのものではなく、あくまで強化一般人としての強さでしかない。灼滅者1~2人程度の戦闘力と言った所か。
     彼の放つヴェノムゲイルくらいなら、彼女一人で半分以下に軽減できる。これからの展開が消化試合にすら思えてくる戦力差だった。
    「ウオラァ!」
     風が思い切り飛び込み、惨殺原の腹部にガトリングガンを叩き込む。そしてゼロ距離から影喰らいを連射した。
    「おらどうした、次の人生に賭けるか? それとも困難に立ち向かって頑張るかァ!?」
     惨殺原は声を出して体力を回復させるが勢いの差と言うものがある。彼の体力は削れる一方だった。
     周囲に次々と現れる風の幻影が惨殺原へと殴りかかり、彼を徐々に追い詰めていく。
    「ハッ、どうだ気持ちいいか!?」
     そこへ隼人が飛び込み、闇を纏わせた鎌を矢鱈滅多に叩き込んで行く。
     彼を囲む無数の幻影が、一切の逃げ場なく袋叩きにしていくのだ。
     その様子を見て、明は剣を抜いた。
    「俺は最強を求める。そのために多くの者を殺めようと……」
     惨殺原へと急接近。反射的に繰り出されたであろう蹴りを片腕で捌き、真っ直ぐに剣を突き出す。
     それは惨殺原の胸を貫通し、背中より突き出るに至った。
    「ああ……あーあ……」
     サングラスを血塗れの指で押す惨殺原。
    「もういいか、飽きたわ」
    「……」
     剣を抜く明。
     惨殺原はその場に崩れ落ち、頬を地面につける。
    「現実に生まれ変わりもリセットもねえ。人は死んだら死ぬんだよ。だから飽きたら……死んだらいいんじゃねェ?」
     そういって、惨殺原幸助は、動かなくなった。

    ●――だったら、悪いのは誰?
     この後のことを深く述べるべきかどうかは、個人の価値観によるところではあるが。
    「御姑さんは厳しい人だったかもしれないけど、それだけじゃないと思うし、あなたしか頼る人がいないと思うから……」
    「人間は甘言に弱いものです。しかし負ければ人の道から外れてしまいます。それを止める強さを持つものではないでしょうか」
     ディートリヒやトランドがそのように女を諭したのは、それは当然のことだったろうと思われる。
    「すみませんでした。本当にすみませんでした。すみません」
     対して女は狂ったように平謝りをして、ぐったりとした老婆をやや乱暴に抱えて帰って行った。
     一般社会に生きる以上、人殺しなどしないだろうし、他に生きる術がない以上介護をして暮らすだろう。どのようにかは分からないが。
     誰かがため息をついて。
     幕の下がった劇場がそうであるように、彼等はごく普通にその場を後にした。
     誰が救われたのか。
     誰が犠牲になったのか。
     この先に何があったのか。
     それはまだ、闇の内にあることである。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ