灼熱の別府

    作者:atis


     教室を開けた灼滅者たちは、びっくりした。
     そこには、塗立ての泥で顔を真っ白にした須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)の姿。
    「あっ、みんな事件だよー」
     いつも通り、笑顔のまりん。顔の白泥がつやつやと光る。
    「あっ、この顔? 別府温泉の白泥だよ。お肌すべすべになるんだって」
     みんなもどう? と笑顔で泥パックを勧めてくれるまりん。
    「もう聞いたかもしれないけど、別府温泉のあたりでイフリートがたくさん目撃されているんだ」
     ダークネス『イフリート』とは全身に灼熱の炎を纏う、神話の獣。
     言葉も通じなければ、理性も無い。
     その圧倒的な破壊力と殺戮欲は、まさに神話の幻獣そのもの。

     今回のイフリートの増加は、どうやら別府温泉の源の鶴見岳のマグマエネルギーを吸収して、強大な力を持つイフリートが復活しようとしている為らしい。
     サイキックアブソーバーにより、イフリートの出現予知はできるのだが、問題がひとつ。
     復活しようとしている強大なイフリートの影響か、直前になるまで事件の予知が出来ないのだ。
     普段のダークネス事件のように、予知出来てから移動していると間に合わない。
    「だからね、みんなには別府温泉のあたりで待機していて欲しいんだ」
     出現が確認され次第、すぐに迎撃に向かえる様に。


     イフリートは1体、強いという程でもない。ファイアブラッドと似たサイキック。
     強敵ではないとはいえ、迎撃に失敗すれば、平和な温泉街に被害がでてしまう。
     だから、イフリートが温泉街に到着する前に、迎撃して撃破して欲しい。
    「イフリートの出現がわかったら、すぐに携帯電話に連絡するね」
     詳しくは携帯で、とまりん。

    「あのね、イフリートの出現がいつになるかは予知できていないんだ。到着してすぐかもしれないし、数日後になるかもだよ。……だから連絡があるまで、別府で英気を養いつついつでも迎撃に向かえるようにしていてね」
     別府といっても広いから、何処で何をしているかは皆に任せるよ、とまりん。
    「あっ、でも携帯電話の圏外や電源offや長電話や連絡に気づかなかった……っていうのには気をつけてね」
     きっとみんななら、イフリートを灼滅して別府を守れるよ。
     もうすっかり乾いた顔の泥パックをパリパリさせながら、笑顔でまりんは灼滅者達に手をふった。


    参加者
    ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)
    月代・沙雪(月華之雫・d00742)
    七瀬・遊(ポジティブファイア・d00822)
    風音・瑠璃羽(高校生魔法使い・d01204)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    綾瀬・栞(空見て歩こう・d01777)
    藤堂・丞(弦操舞踏・d03660)
    東堂・昂修(曳尾望郷・d07479)

    ■リプレイ

    ●別府の湯
     たっぷりとした源泉掛け流しの温泉に、紅く黄色く染まる紅葉が彩りをそえる。
     露天風呂はまるで森の中にいるような風情をかもし、柔らかな木漏れ日が水面をゆらす。
    「ふみゅぅ……暖いです……」
     月代・沙雪(月華之雫・d00742)は、すでに温泉にとろけていた。
    「露天風呂は空気が肌寒いけど、その分温泉の熱さが引き立つわ」
     ちゃぷりと温泉を掌ですくうミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)。
    「でも『強大なイフリートがマグマエネルギーを吸収』って、温泉冷えちゃうんじゃないかしら」
     小首をかしげるミレーヌ。
    「ぬるめのお湯にゆっくりつかるのも、好きだよ」
     綾瀬・栞(空見て歩こう・d01777)。
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)も「温泉温泉♪」と普段よりごきげんだ。
     温泉も睡眠も常に男女1人ずつは、まりんからの連絡を受け取れる体制にしている。
     だから思う存分別府を楽しめる、しあわせな8人。
    「ふみゅ、イ、イフリート退治は忘れてないです……本当ですよ……」
     沙雪が露天風呂の岩に腕枕をして、眠る様につぶやいた。

    ●別府晩餐
     旅館の浴衣に身を包み、湯上がりほかほかでくつろぐ灼滅者たち。
     外を見れば、ライトアップされた別府の湯けむりが幻想的に立ち上る。
     仲居さんが笑顔と共に、別府の海の幸山の幸を部屋に運んで来てくれた。
     いただきます、とさっそく豊後牛の溶岩石焼きを頬張る藤堂・丞(弦操舞踏・d03660)。
     ふと七瀬・遊(ポジティブファイア・d00822)の方を見れば、遊は『豊後とらふぐ』ふぐ三昧中。
    「お、それどんな味なんだ? 俺も一口……ってわけにもいかないか」
    「ふぐ刺し、焼きふぐ、唐揚げ、ふぐ皮、肝ポン酢和え、ふぐちり鍋、ふぐ雑炊……どれがいい?」
     料理好きな七瀬・遊(ポジティブファイア・d00822)。
     次はふぐ料理に挑戦だ、と言いつつ丞にとりわける。
    「と、ありがとな。こっちもお裾分けだ」
     お礼に溶岩焼きを切り分ける丞。
     皆のメニューも様々で、自然と銘々『お裾分け』が始まる。
     別府名物さっくり『とり天』、関の一本釣りの『関あじ』『関さば』。
     野菜好きな東堂・昂修(曳尾望郷・d07479)は野菜たっぷり手延べ団子汁。
    「団子汁の団子とやせうま、そっくりだね」
     郷土料理2品を、しげしげ見つめる風音・瑠璃羽(高校生魔法使い・d01204)。
     汁の『団子』ときな粉の『やせうま』は、どちらも平たい麺状だ。
    「なあ皆、番号交換しようぜー」
     団体行動が基本だけどこれで万が一はぐれても安心っ、と満腹で幸せな丞。
    「明日はひと先ず……地獄めぐりってやつだな」
    「別府地獄めぐりするぞー、ひゃっほーっ!」
     箸を持ったまま躍り上がる遊。初別府に大はしゃぎだ。
    「所で、地獄めぐりってどんな事するですか?」
    「青くて綺麗な海地獄や、間欠泉の龍巻地獄みたいな見所が満載よ」
     沙雪の疑問に別府観光パンフを取り出すミレーヌ。いずれも国指定名勝だ。
    「足湯も有名らしいな。地獄蒸し料理というやつが美味しいらしい。他にも名物あるみたいだし楽しみだよ」
    「ちょっと調べてみたら、蜜柑があるらしいな……。地獄蜜柑とは何とも魅力的な名前だ……喰ってみたい」
    『地獄蒸し』とは地獄(温泉)からの蒸気を利用した、天然の加熱料理器具『地獄釜』による料理のことだ。
     地獄釜で地獄の蒸気の上にザル等に入れた食材を乗せ、蒸す。
     地獄蒸し料理は温泉成分や硫黄の香りなどが混ざって、えもいわれぬ独特の美味となる。
    「……楽しみなのです」
     丞と昂修の話に、沙雪がほろんと笑顔になった。
    「お腹もいっぱいになったし、そろそろ仮眠するね」
     栞がもう少し一緒に楽しみたいけど、と居間隣の男女別の和室へと襖(ふすま)を開けた。

    「ね、眠気覚ましにトランプしない?」
     連絡当番を残し皆が寝静まった夜中、瑠璃羽がトランプを配り始める。
     しばらく経った頃、紅緋がそお~っと女部屋の襖を開けた。皆幸せそうに眠っている。
    「誰かの夢にソウルアクセスしようかなー♪ 楽しい夢を見てるの誰だー♪」
     楽しそうな紅緋。
    「夢渡りか……危ないぜ? 最近それで闇堕ちした子いたよな?」
     遊がぽそりつぶやくと、満面の笑みでカードを開く。
    「よっしゃーオレ様の勝ちっ、ロイヤルストレートフラーッシュ!」
     もう一勝負しようぜ! とカードをシャッフルし始めた。

    ●地獄めぐり
     バラバラに動くとイフリートの出現時集合に手間取るし、せっかくだからみんなで一緒に楽しもう♪ と別府八湯が一つ、鉄輪温泉の地獄の扉を叩いた8人。
    「わーほんとに血の色ですよー♪」
    「きゃあ♪ このプリン、血の池色だよ♪」
     国指定名勝・日本最古の天然温泉・血の池地獄に笑顔の紅緋。
     血の池を模したプリンに瑠璃羽が興味津々。
    「こういう時小さなデジカメは便利だよな」
     ミレーヌと丞は写真を撮りまくる一方、遊は携帯の電池を温存中。
    「足湯があるわ。ちょっと休憩しない?」
     ミレーヌの言葉にうなずく灼滅者たち。
    「おお、ここが地獄か……いや、楽園だろ、これ……!」
    (「じんわりと温まるなぁ……」)
     丞がうっとりと空を見上げる。
    「この足湯……十円玉が綺麗になるらしいな」
     昂修が一番くすんだ十円玉を財布の底から探し出す。
    「うわ、オレの十円玉も光り輝いたぜ!」
     遊が足湯につけた十円玉を、太陽にキラキラとかざし大喜び。
     誰ともなく「そろそろお土産探さなくちゃ」と、名残惜しいが足湯を立つ。

    「あっちの地獄とこっちの地獄、温泉卵も微妙に味が違うね」
     瑠璃羽が各地獄の温泉卵を食べ比べている。
     遊も負けじと「濃厚だ、香りが強い」と食べ比べに加わる。
     地獄に浸けるタイプ、蒸すタイプ。泉質の違いでも風味が変わる。
     瑠璃羽と栞が地獄蒸しプリンを発見した。
    「……地獄蒸しプリン……ものすごく怖そうな名前だけど」
     私の一押しだよ、との瑠璃羽の笑顔におそるおそるプリンを口に運ぶ栞。
    「とろーりほろ苦カラメルが癖になる~! 美味しいね♪」
    「……ん、おいしいね♪」
    「私もお気に入りよ。お土産に買っていきましょう」
     ミレーヌもプリンに思わず笑顔。
    「ふみゅ……お土産、色々あるですね。ふみゅぅ…迷うです」
     沙雪がピリ辛饅頭や親指大の饅頭、地獄の温泉を粉末にした入浴剤等の前にいた。
     丞はすでに包装された何かを手に持っている。
    「ああ、これか? 妹に土産だよ、買ってかないと拗ねるんだよ」
     困った風で嬉しそうな丞。
     遊のお土産は『自宅へ配送』の手続き済み。

    「鉄輪の街を散策してから帰りませんー?」
     紅緋の誘いに「それも楽しそう♪」と地獄を後にする灼滅者達。
     鉄輪の街は道路や至る所から湯煙が立ち上る。
     一遍湯かけ上人の像にお参りしたり、鬼の口から流れ出る飲泉を楽しんだり。
     名物の蒸し湯や足岩盤も外せない。
    「地獄蒸し、自分で調理できるのか」
    「オレも、地獄蒸し作りたいぜ! とりあえず卵に魚介だよな?」
     観光客も地獄釜を使える事に昂修が驚き、遊はすでにメニューを考え始めている。
    「俳句……? えっと、地獄釜~」
     最優秀賞には毎年句碑が立てられる、などと書かれた投句筒に湯けむり俳句をひねり始める灼滅者たち。
     別に俳句が好き、というわけでもないけれど。
     温泉街は不思議な魅力で満ちている。

    ●出動!
    「ふぃぃ足湯もよかったけど全身浸かるのもいいな。疲れがとれるよ」
     灯りにふわりと浮かぶ旅館の露天風呂で、羽を伸ばす丞。
    「……覗くなよー?」
     女湯と垣根越しに談笑している内に、夜がゆるりとふけていく。
     
     部屋では連絡当番が、皆でまったりと眠気覚ましのゲームをしていた。
     ーーリリリ!
    「携帯に着信っ! 予知来ましたーーもしもしっ」
     紅緋がすばやく携帯に出る。
    「と、皆連絡来たぞ!」
     スパン! と男部屋の襖を開け、遊と昂修を起こす丞。
    『夜中にごめんねっ!』
     まりんの声が携帯に響く。
     時計を見れば、草木も眠る丑三つ時。
    『鶴見岳の北、伽藍岳から明礬(みょうばん)温泉方面へイフリートが森を走ってるよ! 急がないと、泥パックの湯が火の海になっちゃうよ~』
     地図その他資料もシェアしておくよ。みんな、別府を守ってね! よろしくね!
     まりんの切なる願いと共に受話器を置く紅緋。
    「上等! イフリートなんかにこの街を燃やさせたりしませんっ!」
    「楽しむのはここまで……ですね。行きましょうか」
     すでに戦闘モードに切替わった沙雪とミレーヌ。
     照明道具と地図を手に凛と立つ。
    「……終わったら改めて温泉にでも入りましょう」
     灼滅者たちは、まりんの予知した場所へと急ぎ向かう。

    ●灼熱の獣
    「ほんとにこっちか~? あってんだよな~? ……いてっ」
     元気よく木の枝にひっかかる遊。
     森深い暗闇の中、ゴロゴロした岩道をひたすら登り、沢の流れる側を歩く灼滅者たち。
    「着きましたです」
     沙雪が静かにその歩を止めた。
     突然開けた荒涼とした草原、強い硫黄の香りが鼻をつく。
     硫黄谷のような石がゴロゴロとしている
     キンと冷えた頭上には、氷煌めく冬の星座。
     銀砂の星空に、思わず息をのむ。

     ーーその暗闇を裂くように、焰が上がった。

    「炎の化身イフリート……温泉街には似合っているのかいないのか」
     栞がスレイヤーカードを手にする。
    「……ともあれ、憩いの場を破壊するのは駄目だよね。マナーを守れないのなら……退場だよ!」
     全身に灼熱の炎を纏った猛獣。
     獰猛なうなり声を上げ、こちらへと走って来た。
    「これより灼滅を開始します」
    「刎ねろ、断頭男爵」
     紅緋とミレーヌの解除と同時に炎獣・イフリートから激しい炎の奔流が前衛へと雪崩れ込む。
     昂修が皆を守ろうとするも守れたのはミレーヌ1人、紅緋は炎に流される。
     昂修の影から解体ナイフ・断頭男爵の鋭牙を手に炎獣へと黒死斬を放つミレーヌ。
     瑠璃羽は炎に巻かれながらも炎獣の懐に一気に駆け込む。
     愛刀・黒龍雷刃剣、納刀からの居合斬りするや瞬時に炎獣から距離をとる。
    「力も大事だけど技量も大事ってね♪」
    「意識が、感情が希薄になる……」
     紅緋の胸にスートが浮かぶ。これで戦闘準備完了。
    「癒しを……」
     沙雪の癒しの風が、炎に巻かれた前衛を優しく包む。
    「それじゃ、今回の旅行の本命イベントいってみよっか」
     栞が丞と呼吸をあわせる。
     丞の指が細やかに動けば、炎獣は蜘蛛の巣に捉えられた蝶の如く動きを止める。
     そこへ撃ち込まれる栞の魔法矢。
     ガアッと口から炎を上げ栞を睨みつける炎獣。
     自分に注意を惹き付けたまま囮として大地を蹴る栞。
     炎獣の炎の毛皮に拳をめりこませば網状の霊力が炎獣を縛りあげる。
    「行くぜ、ハチ!」
     遊の螺旋槍が炎獣を穿てばライドキャリバー八兵衛はうなりをあげる。
     昂修の背中が切裂かれ、闇にバサリと炎の翼が顕現する。
     本当は炎獣を直接殴りに行きたいが、作戦第一。私情は挟まない。
     炎獣が紅緋へと目標を定めた。
     体内からひときわ強く炎を噴出させると紅緋へと体当たりしてくる。
     それを肥大化した腕で払いのける紅緋。
    「同じダークネスでも、シャドウとは全然格が違いますね。あの圧倒的な強さは、これからは感じられない」
     ミレーヌが炎獣の首を狩らんと死角より断頭男爵の鋭牙を振るう。
     その影で、瑠璃羽が静かにバベルの鎖を瞳に集める。
    「皆さんに手出しはさせません。それじゃあ、私も始めましょうか」
     紅緋の腕が再び肥大化する。
    「躾のなっていない動物は、殴って言うことを聞かせるしかありませんからね」
     炎獣へと飛びかかるや言葉通り、殴って殴って殴って殴る。
    「私も、参ります!」
     今しばらくは回復不用、ならば灼滅だけを考える。
     沙雪の放った導眠符が炎獣の心を惑わせる。
     丞が輝くエネルギーの盾で炎獣へと身体ごと突撃していく。
     炎獣は炎を噴出させ反撃しようとするも、身体が思う様に動かない。
     遊が今だ、とばかりに槍の妖気を冷気のつららに変換していく。
    「凍っちまいな!」
     炎獣へと突き刺さる妖冷弾。
     被せる様に八兵衛の機銃掃射が炎獣の身体を駆け抜けていく。
     栞の神薙刃が激しく渦巻き炎獣を斬り裂いていく。
    「平和な場所を脅かすのは、決まって奴らってか。……腸煮えくり返る」
     家族へ心で黙祷を捧げ、秘めた炎獣への激しい嫌悪感をレーヴァンテインに乗せて叩き込む昂修。
     炎獣・イフリートがズンと前脚を折る。
     だが残った力で丞たちを睨みつけるや、噴火マグマの土石流の如く激しい炎の奔流を流し込む。
     昂修がその身を盾にしようとするも間に合わない。
     丞、遊、栞、八兵衛が炎の濁流に飲み込まれる。
    「さすがに強い……でも私たちが勝つわ」
    「それじゃ、そろそろ灼滅されてください。素体がどんな人だったか知りませんけど、ここでバッドエンドです」
     紅緋の声を背中にミレーヌが断頭男爵の鋭牙の刃をジグザグに変形させるや、炎獣の身体を複雑に斬り刻む。
    「熱いのは温泉だけで十分よ、アナタはここで倒されなさい」
     ひらり、大地に着地するミレーヌ。
     その背後で火の粉を舞わせ轟音を立て、炎獣・イフリートの身体が岩石大地へと沈む。

     炎獣・イフリートは一段と大きな炎に包まれ、跡形も無く灼滅された。

    ●白泥の湯へ
     気がつけば、空はすっかり白んでいた。

     あたりを見渡せば、所々湯気がたつ一面の地獄谷。
    「わー、湯の町別府ですねー♪」
     紅緋が、すぐそばにあった人の手の入った野天風呂に気がついた。
    「別府の三大秘湯のひとつ、『鍋山の湯』ね」
     荒涼とした地獄谷から湧き出る、白灰色の泥湯。
     遠くには高崎山。湯煙たゆたう別府市街、そして別府湾に昇る朝日。
     神々しささえ感じる絶景に、溜息しかこぼせない。

    「ね、ふもとの明礬温泉に行ってみない? まりんちゃんの白泥パックも、そこのらしいわ」
     鍋山の湯には残念ながら、今は入浴できないしね、とミレーヌ。
    「そうだな、イフリートも灼滅したし……。ゆっくり温泉に浸かりたいな」
     昂修に瑠璃羽も丞も大賛成だ。

     明礬温泉まで降りると、あたりは硫黄の匂いと白い湯気で包まれていた。
     長期湯治客用の地獄釜がちらほら見える。
    「ふみゅ……藁葺き屋根が、地面から生えてます……」
     沙雪が、縄文時代の様に直接地面から建っている『湯の花小屋』を見つけた。
    「……湯の花小屋は、江戸時代から続く『国の重要無形民俗文化財』の湯の花(明礬)製造技術……なんだって」
     栞が立て看板を読み上げる。

    「あっ、ここにも地獄蒸しプリン発見だぜ!」
     遊の楽しそうな声が響く。
    「きゃあ♪ ここが白泥パックの温泉みたい♪」
     瑠璃羽も嬉しそうに仲間を振り返る。

    「さて、もう一泊してくか! じっくり温泉を楽しみたいしな」
     丞のほがらかな声。

     深呼吸をすれば感じる、地球の鼓動。生命力。
     身体の芯から、力強い大地のエネルギーで満たされていく気がした。

    作者:atis 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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