十人十色の45分

    作者:零夢

     キーン、コーン、カーン…………。

    「やっと終わったぁ!」
    「なんか今日、先生やたらと話長かったよねー」
    「よっしゃ! メシにしようぜ」
    「あ、俺部室に顔出すんだった」
    「やっべ、早く行かねぇと購買売り切れる!」

     授業が終わりを告げるなり、教室は一気に活気付いてゆく。
     そう、これからは昼休み。
     たったの45分のそれは、午前の疲れを癒し、午後の英気を養うための貴重な時間だ。
     チャイムと同時に購買や学食へ駆け出す者、教室内で机を寄せ合いお弁当を広げる者。
     部室で仲間達とお昼を食べたり、人気の無い空き教室ではこっそり恋人達が二人の時間を楽しんでたり。
     笑い声が響けば、なんてことない話題に花が咲く。
     灼滅者といえど学生、学生の本分は勉強。
     だが、今はその必要もない。
     普通の学生として、普通の昼休みをめいっぱいに満喫するだけだ。
     もちろん、お昼ご飯だけでは終らない。
     持ち寄ったお菓子を広げておしゃべりを続ける者達がいれば、窓辺の席でうたた寝をする者もいる。
     元気良くグラウンドに飛び出したり、図書館で本を読みふけったり、はたまたしっかり次の時間の準備をしていたり……。

     十人十色の45分。
     長いようで短いが、短いようでいろいろ出来る。
     午後からはまた授業。
     だからその前に、思いっきりリフレッシュをしよう――。


    ■リプレイ

     キーン、コーン、カーン…………。
     昼休み開始のチャイムが響けば、それを合図に学園は一気に活気付く。
     それが鳴り終わる頃、最早ジェットは教室にいない。
     目指すは購買、脳内で響く激しいビートにあわせ、軽快なテンポで人波をかきわけ進む。
     その間にも財布からジャストの小銭を取り出して。
     そうして彼は、颯爽と焼きそばパンを入手し、程なく屋上で頬張ることになるのだった。
     摩那もまた、チャイムと同時に走り出した一人だ。
     鐘の音はゴングの音。
     お目当ての品をゲットし、昼休みを長く過ごすため、素早さは不可欠だ。
     狙いは焼きそばコロッケパン。濃厚ソースとふんわりコロッケの絶妙なハーモニー、こればっかりは譲れない。
     気合を入れて手を伸ばし――そして彼女は勝ち取った。
     そしてご機嫌で購買を後にするのはるりか。
    「お・ひ・るーっ」
     手には買ったばかりのスイーツ、これと持参したお弁当・卵とじカツ丼で今日のお昼は完璧だ。
     これを食べたらスイーツ巡りに突入かな、なんて、楽しそうに計画を立てていく。
     でも、お腹いっぱいで午後の授業が眠いのは内緒の話。

    「エレナ先輩! 一緒にメシ食おうぜ!」
     昼休みの賑わしい教室に、蓮次が入り口から声を張り上げるとエレナはすぐに気がついた。
     元気がいいのねと小さく笑い、誘いに応じて教室を出る。
     向かうは屋上ドアの前、中学校が同じだった二人には思い出の場所だ。
    「先客がいたら無理にでも――あ、駄目ッすか」
     意気込む蓮次だが、エレナの視線に気づき急遽撤回。
    「間違っても武力行使なんてしないでちょうだいね?」
     その言葉で蓮次が反省すれば、エレナは彼のコンビニ弁当に気づき、一つ約束を口にする。
    「……今度は、二人分のお弁当作ってくるわね」
     午後の授業も頑張れるように。

     とまぁ、そんな向上心のある生徒ばかりではない。
     リゼルは鐘が鳴ろうと、顕めがけてぽいぽい物を飛ばしていた。
     が、顕の提案でその手が止まる。
    「メシん時くらい大人しゅうせえ、とりあえず購買にでも行こーや」
    「デコちゃんの奢りかっ! リゼは宵越しの金は持たない!」
     叫ぶように食いつけば、ちょいと小金が入ったということで顕も頷いてやる。
     で、いざ購買。
    「やきそばパンとジャムパンとあんぱんと牛乳っ、それとおまけっ!」
     どどどーっとレジ横で山を作るリゼルに、さすがに焦る顕。
    「おいおいおいおいアカンアカン、ちょー待てえやコラぁ!」
     腹に収まらんとか底なしだとか、ぎゃいのぎゃいのと二人の昼休みは過ぎてゆく……。

     自販機の前で、キィンは己を呼ぶ声に振り向いた。
    「キィせんぱぁ~い!」
     見れば、花織が腕に抱えた大量のパンを零しながら大きく手を振っている。
    「大食い大会か何かか?」
     拾いながらまじまじと見つめるキィンに、やだなぁと花織は笑う。こんなの普通だと。
    「何を飲む?」
     拾い終えたキィンが訊けば、
    「イチゴみるく」
     思わず答えた花織に、オレも同じだと彼はボタンを二度押す。
     慌てて財布を出しかける花織に、キィンは一つ提案を。
    「奢りに気がひけるなら、パンと交換でどうだ?」
     その言葉で、花織はぱっと笑う。
    「交換なら喜んで!」
     いつもと同じ時間。でも、いつもと違う優しい一時。

    「はい、デザート。とお茶ね」
     言って、暁は春香の机に購買の品々を並べていく。
     中等部への高校生の乱入に困り顔の春香だが、暁の優しさが見えるようで、実はこのオマケに弱かったりする。
     なもので、思わず気が緩めば――ぱくん。
    「うん、美味い。いい嫁になれるぞ、春香」
     もぐもぐ動く暁の口、春香の箸の先のだし巻き卵は行方不明。
    「た、食べましたね本日のお楽しみを!!」
     思わず声を荒げる春香に、暁は両耳塞いで知らんぷり。
     が、やがて暁は不満顔の春香にラスクを差し出す。
    「ほら、春香。あーん」
     言われて春香は小さく口を開き、けれどどうにも誤魔化されている気がするのだった。

    「俺、法子のサツマイモ料理楽しみにしてたんだぜ!」
     窓際で寄せた机を囲み、購買のパンと飲み物を取り出した燵志は、向かいの法子にそう言った。
     そして隣の聡一郎にはぽそっと一言。
    「聡のは……普通に期待しといてやるよ」
     別に僻んでるワケじゃねーぞ、と付け加えれば、聡一郎はぷすすと笑う。
    「僻むって何さ、燵」
     彼は笑いながらも、今日のために慌てて調べたのだと白状し、「法子は料理得意なの?」と大学芋とスイートポテトを並べる彼女に話を振る。
    「あら。大したことないわ。案外簡単に出来たわよ、これくらい」
     なんて微笑とともに答えるけど、実は何度も失敗しちゃって。
     つまんだ二人が笑顔を見せればようやく法子も一安心、お礼と言って振舞われた聡一郎の南瓜スープに、今度は彼女が頬を緩める番だ。
    「今度……よけりゃ、料理のコツとか教えろよ」
     最後に燵志がお返しのプリンを渡せば、二人は口々に礼を言って受けとる。
     いつもより美味しいのは、きっと皆で食べるから。

    「蓮ニはまたそのチョイス……飽きないもんすね」
     定番化したパンとお茶を広げる蓮ニに、呆れとも感嘆ともつかぬ吐息を漏らしたのは煌介。
     だがそれを『一途』と呼んでしまう蓮ニには清々しさすら感じる。
     一方で蓮ニは、お握りとサラダを食べる煌介に「健康的だな」なんて感心すると、声を落として続きを言った。
    「あれ、どうなった?」
    「……まぁ、進展なし」
     あれというのは、煌介の一方通行な想いのことで。
     恥ずかしながらも素直に答えれば、蓮ニはそっかと頷き、その温かな声で、煌介は人知れず目を細める。
     級友というたった一つの共通点。
     そのもたらす時間が、とても心地良かった。

    「いやー、危なかった危なかった! あと1分遅れたら売り切れてた!」
     購買のパンと牛乳を手に、恵理は机を寄せ合う仲間達のもとへ凱旋する。
    「別にその、お弁当が作れないわけじゃないんじゃよ?」
     ちょっと寝坊しただけでね? との言い訳には神音が頷いた。
     自分で作るのは難しい。なにせ早起きが難しい。
     そんなわけで、神音のお弁当はお母さんのお手製だ。
    「皆さんもたくさんどうぞですよ~♪ お勧めは卵焼きですー」
     その言葉で、早速つまんだ桜子が「おいしー!」と笑う。
     桜子のお昼は手作りおにぎりと出来合のおかず。
     少々飽きてきた味だったが、ひょこっと覗いた永嗣は言う。
    「江東ちゃんの唐揚げ美味しそうね……アタシのタコさんウインナーと交換しない?」
    「わ、いいのー? ありがとう!」
     タコさんと唐揚げが行き交い、その隣で感心したように目を輝かせているのは恋。
     彼女の前には手作りサンドイッチと、やたら甘味に特化されていそうな不思議な飲み物がある。
    「初之藤さん、も八千代さんも手つくり、ですごい、です」
     タコさんを始めとしたプチトマトにそぼろご飯な永嗣の弁当も、富貴の金平にひじきの佃煮といった菜食弁当も、目を見張る出来栄えだ。
    「料理は最近練習しているの。誰かの為に作るのは幸せね」
     富貴がくすくす笑えば、ちょうだいなちょうだいな、と笑顔をお代に恵理がおねだり。
     快くお裾分けした富貴は、賑やかな皆を眺め、やがておもむろにデジカメを取り出した。
    「一枚、写真を撮らせてもらってもいい?」
    「おーけーおーけー」
    「アタシもいいわよっ」
    「あ、変顔は消してね!」
    「ふふ、照れくさいですね~」
     皆で寄って――はい、チーズ。
    「……ありがとう。とても、とても素敵」
     画面を確認した富貴が笑みを浮かべれば、横から覗いた恋も「わぁ」と声を上げる。
    「皆きれーな人ばっかりで、こうやって見たら、みんな女の人みたい、です」
     違う人もいるけれど。
     そうして、恵理様と愉快な仲間達の昼食は続いてゆく。

     時代小説片手に、一人黙々と昼食を取っていたのは秀春だ。
     持参の弁当、といってもコンビニ弁当を弁当箱に移しただけだが、この出来栄えがお昼の気分を左右する。
     幸いにも今日は上出来。
     あとはいかに本を汚さず読書スピードを落とさず食べられるか――それが残りの問題だ。
     勿論、教室で過ごすばかりがお昼ではない。
     大和は豆乳スコーンを手に、部活のカフェへ顔を出す。
     いつもの仲間に手渡したお土産は喜んでもらえたようで、紅茶を飲みつつ、可愛い犬について他愛もない談義に花が咲く。
     そして、こっそり学園を抜け出したのは昌利。
     目指すは定食屋、狙いは550円のアジフライ定食だ。
     一方、珊瑚は中庭の木下で歌っていた。
     透き通るような高いソプラノ、低く響くバス――彼女の口から紡がれる様々な音に、周りでお弁当を広げていた生徒達は驚きながらも感心したように見つめている。
     男声かと思えば、次の曲では女声が。
     彼女はめくるめく音を奏で続けるのだった。

    「うん、かんぺき!」
     ひんやりとした茶道室で、恋愛が満足げに卵焼きを頬張ると、向かいの英太も自分の卵焼きを一口。
    「甘い卵焼きっていいよね。おれの家、味付けはお醤油だからさ」
     こっちも好きだけど、と彼は笑う。
     どちらの前にも大きめのお弁当。特に恋愛のおかずは昨夜から下拵えしていた力作だ。
    「えーたんママのお弁当も相変わらず美味しそう! ねぇ、これひとつ頂戴な?」
     英太の好きなのと交換、と唐揚げを頼んだ恋愛に、英太が示したのは卵焼き。
     そして、
    「はい、あーん」
     恋愛が差し出せば、英太は照れたように笑ってぱくりと受け取る。
     口には優しい甘さが広がった。

     そしてここからは屋上組。
     ぽかぽかの日差しを浴びながら、敦真は箸を進めていく。雑穀米に唐揚げ、南瓜の煮物にそぼろあんのレタス敷き。
     うとうともぐもぐ、眠気と戦いながらもよく噛んで、けれど食べ終えた敦真はそのまま眠りに落ちるのだった。
     コールスローを挟んだパンを手に、友人と昼食を楽しんでいるのは流希。
     前日の安売りパンと寮の余り野菜で作られたそれは、とってもお財布に優しかったりする。
     なんじゃそりゃ、と言われようと、安く美味しく量があればそれが学生のご馳走だ。
     が、それとは逆に蝸牛が広げたのは三段重と汁物入りのフードポット。
     お値段の程は謎だが、これが彼の通常装備らしい。
     味覚は優秀、大喰らいにして早喰らいな彼は程なく全てを平らげると光画部の腕章をつけ、ふらりと屋上を後にする。
     カメラを持って、神出鬼没の撮影会だ。

    「やっぱ俺は可愛くてお淑やかな子っすね。こう、守ってあげたくなるような!」
     ぐっと狭霧が拳を握れば、
    「いや、まず胸だろ!?」
     そこがスタートだと清純はがつんと語る。
     屋上に男子二人、集ってやるこた一つ……でもないと思うが、まぁ一つ。好みの女子談義だ。
     で、結論。
    「ロリ顔天然ドジっコとか純情属性とか付いてたら完璧な女神降臨!」
    「世話好きの属性も加えて更に最強! 世の中にそんな子がいたら良かったのに!」
     否、いるかどうかじゃない。欲しいんだ、彼女に。
    「例え空から降って来ても俺は受け入れる覚悟があるぜ!」
     どんと来い非日常。
     彼らの日常はとても平和だった。

     うって変わって、こちらは清らかな女子二人組。
     智恵美と優希那は並んでお昼を食べていた。
    「いいな、いいな、タコさんウインナー、私のおかずと交換して欲しいのですよぅ~」
     優希那は智恵美のお弁当を覗いて目を輝かせる。
     キラキラ、ぢー……っと見つめれば、智恵美も優しく笑ってくれて。
     そうと決まればさっそく交換だ。
     まずは智恵美が優希那の南瓜のカレー煮を一口。
    「わっ、美味しい……今度是非レシピを教えてくださいっ」
     ぱあっと感激する彼女に、
    「カレー煮は、醤油とみりんとカレー粉を3:2:1で煮るのです~」
     ざっくり説明する優希那は、嬉しそうにタコさんをもぐもぐ。
     二人の時間は、まったり流れる。

     お菓子の乗ったティースタンドの隣で、鵺白とノクトはお茶会だ。
     お気に入りのお店の新作ケーキ、鵺白のマフィンにノクトのアイシングクッキー。
    「クッキーはね、クリスマス仕様にしてみたの」
     言われ、鵺白は愛らしい色合いのクッキーを食べて柔らかに笑う。
     甘いものは正義よね、と。
    「なんだろ、くーちゃんと過ごすとわたし女の子になった気分」
     いや、女の子なんだけど。
     なんて思えば、向かいのノクトが、あ、と短く声を上げた。
     手にはマフィン、そこに書かれた「くーちゃん」の文字。
    「鵺白ちゃんたらお茶目さんですね」
     ふわりと笑い、彼女は言う。
     また、お茶会しましょうね、と。

     舞台は戻って学園内。
     友達とともに学食でカレーうどんを平らげた一真は、近くに知っている顔を見つけた。
     周りの女の子達と笑いながら弁当を食べているのは八鹿だ。
     むくむく湧きだす悪戯心。こういうの、魔が差したって呼ぶんだろうか。
    「いただき!」
     さっと近づきぱくっと一品頂けば、ばっと八鹿が振り向いた。
    「ちょっと……なに勝手に私のデザート食べてるわけ?」
     なんで食べ終ったはずの一真の口が動いてるのよ、なんて視線で訴えて。
    「とりあえず、メロンパン一年分で許してあげなくもないけどー?」
     とか凄まじい和解条件を提示して。
     だって、仲良しこよしなんかじゃないんだから。

    「もうすぐテストね、ヤダヤダ!」
     学食から戻った千愛は織緒と由乃にそう零す。
    「日頃授業を聞いていれば問題あるまい?」
     とは織緒の言だが、それに頷けるのなら苦労はない。
     問題があるからイヤなのだ。
    「物理、由乃に見てもらおうかしら」
     言って千愛が窺えば、
    「私は構いませんけど……期末の範囲はいつもより広いんじゃないですか?」
     なんて、由乃の言葉はトドメに近い。
    「うーん。……あ、でも終ったら冬休みね♪」
     と、気づいて一変、千愛の顔は期待に輝く。
    「二人はもう予定立ててるのかしら?」
    「クリスマスは来るべきRB団との戦いに備えている」
    「私は、空いた時間で普段出来ないことをやりたいなって思います」
     どこからかロープを取り出す織緒に、具体的には未定ですけどね、と苦笑する由乃。
    「ああ、皆で何処かへ行くのも良いかもな」
     そう織緒が提案すれば、由乃と千愛も笑顔を見せる。
     クリスマスにお正月、初詣にお年玉。
     楽しいことは、いっぱいだ。

     やがて午後の授業の予鈴が鳴れば、
    「もう終わりかぁ」
     と、白夜がベースを片付けだす。
     獣耳のことを考えながらの昼食も、空き教室での個人練習も、たまにはいいなぁ、なんて納得のいく充実感だったりして。
    「午後も頑張ろう」
     そうして彼は教室へ向かう。
     今日も残りはあとちょっと。
     まだまだおしゃべりが足りなかったり、なんだか眠たくなってきたり。
     予鈴も気にせず騒いでみたり、授業の準備を始めてみたり。
     相変わらずの中に、いつもよりちょっと楽しいことがあったりして。
     そんな感じの45分は、今日もこうして終わりを告げるのだった。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月11日
    難度:簡単
    参加:44人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 7
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