湯の郷迫る影一つ

    作者:幾夜緋琉

    ●湯の郷迫る影一つ
    「皆さん、集まって頂けた様ですね? それでは、説明を始めさせて頂きます。今回皆さんには、別府温泉に向かって頂きたいのです」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達を見渡しながら、早速、説明を始める。そしてその説明に。
    「最近……別府温泉のあたりで、イフリートの目撃情報が多数発生しているのは皆様聞いているでしょうか? どうやら鶴見岳のマグマエネルギーを吸収し、強大な力を持つイフリートが復活しようとしているみたいなのです」
    「私達にはサイキックアブソーバーがあり、これによりイフリートの出現は予測可能なのですが……強大なイフリートの力の影響なのか、この予知は直前になるまで行えないみたいなのです」
    「普段皆様にお願いしている様、予知があってから移動するとなっては間に合いません。その為皆さんには別府温泉の周辺で待機して頂き、出現が確認され次第すぐに迎撃へと向かって欲しいんです。という訳で……まずは皆様二は、別府温泉へと向かって頂けないでしょうか?」
     小首を傾げながら微笑む姫子。
     それにちょっと不安な顔をしている灼滅者がいるが……それにくすり、と笑って。
    「大丈夫ですよ……イフリートの出現が判れば、私からすぐに皆さんに携帯電話で連絡を入れさせてもらいますから。ソレまでの間は、別府温泉の近くで張っておいて頂ければいいのです」
     その言葉にほっとして、そして。
    「ちなみにイフリートは眷属等を連れてはいない様です。つまり……強力な個体という訳では無さそうです。しかし迎撃に失敗すれば、平和な温泉街の人々が被害にあってしまうかもしれません。そうさせない為にも皆さんは温泉街に居て、イフリートが到着する前に迎撃して欲しいのです」
     そして、最後に姫子は。
    「何度も言う様ですが、イフリートの出現はいつになるか判りません。到着後すぐに皆さんにご連絡する事になるかもしれませんし、数日後まで魔って頂く、という事になるかもしれません。連絡が入るまでは温泉に入って、身体を休めながら待っていて……いつでも充分な力で戦いに赴けるようにしておいて下さいね?」
    「後……まぁ無いと思いますが、電源を切ったり、充電を忘れて電話を受け取れないとか……長電話で連絡に気づかないで終わるとか、そういう事は無いようにお願いしますね……」
     と、ささやかな注意をしっかりと行うのであった。


    参加者
    加賀・亜祈(高校生ファイアブラッド・d00289)
    銀嶺・炎斗(シルバーわんちゃん・d00329)
    エステル・アスピヴァーラ(紅雪舞のピエニアールヴ・d00821)
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    垰田・毬衣(炎を纏うケモノ・d02897)
    草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)
    秋風・紅葉(恋愛したいお年頃・d03937)
    ロコ・モコナート(南国健康系娘・d09338)

    ■リプレイ

    ●湯郷
     姫子より話しを聞き、大分県は別府温泉郷の地。
     湯気立つ郷の風景は、何処か心穏やかになる風景。
     そんな長閑な風景を怖そうとする者……イフリートを倒すが為、灼滅者達はやってきていた。
    「しっかしイフリートねぇ……最近多い様ね?」
     と、加賀・亜祈(高校生ファイアブラッド・d00289)が小首を傾げつつ呟いた言葉に。
    「うん。強力なイフリート……その影響で、別府温泉に沢山イフリートが出現しているのは、色々と嫌な予感がするよ」
    「全くだ。別府温泉周辺だけにイフリートの大量出現……強力な個体では無くとも、ここまでダークネスが集まるのは異常だ」
    「ええ。イフリート達が活発化しているのは、何かの起こる前兆なんでしょうかね」
    「うーん……温泉だけに火山と連動していたりするのかしら……まさか、ね?」
     垰田・毬衣(炎を纏うケモノ・d02897)と、草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)、花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)も、亜祈との会話に加わる。
     ……とは言え現時点で判ることはほとんど無い。
     少なくともイフリートが、この別府温泉の地に集まりつつある事だけは紛うことなき事実。
    「この周辺に何があるのかもしれないが、まずは目の前の事を成功させる事を考えるのが先だよな」
     と悠斗の言葉に秋風・紅葉(恋愛したいお年頃・d03937)が。
    「そうだよ。温泉地を護る為に頑張らないといけないよね!!」
     と拳を振り上げると、毬衣と焔も。
    「今はイフリートを倒す……うん、頑張るよ!」
    「そうだね。とにかく、被害が出ない様にしっかり出張ってないとね」
     そして。
    「よーし、みんな頑張って行くよ! 姫子さんから連絡が来るまではあんまり油断しないようにね!」
     ロコ・モコナート(南国健康系娘・d09338)が拳を振り上げると、それに焔が。
    「ええ……それじゃ、二班に分かれて6時間交代で行きましょう。連絡が来るまでは温泉とかに入っていても構わないわよね?」
    「温泉…………風呂って混浴なのか……ぽろりとか……あうのかな?」
    「うにゅー。温泉にイフリート……お猿さんみたいに入るのかなー? でも燃えてるからすぐ沸騰するのかなー?」
     銀嶺・炎斗(シルバーわんちゃん・d00329)と、エステル・アスピヴァーラ(紅雪舞のピエニアールヴ・d00821)が呟いた言葉。
     その言葉に周りの仲間達が返す言葉につまりつつ。
    「さて、戦うついでにのんびりあったまるのです~。温泉温泉~♪」
     とことこと歩いて行ってしまうエステルに、周りの仲間らもついていくのであった。

    ●未明まで
    「……ふぅ、なんか肌がぬるぬるするー……でも、なんだかお肌に良い感じがするよね!」
    「そうだねー。傷に染み渡りますねー」
     そして……班に分かれて第一班。
     焔、紅葉、悠斗に炎斗の四人がまず訪れるのは、やはり別府名物の温泉。
     どこかトロリとした湯は肌を奥深くから温めてくれる……それに美人の湯と聞いてしまえば、二人の女性陣からすれば是が非でも入らなければ……という事になる。
     ……とは言え今ここにいるのは焔と紅葉。男性の悠斗と炎斗は、すぐ傍らにある男湯に入浴中。
     ちなみに二人の首からは防水カバーに入れて、更に袋に入れた携帯電話がしっかりとある。
    「……混浴じゃなかった……」
    「まぁ……仕方ないよね。でも気を取り直して、しっかりやっていかないとな」
     そんな会話をしている二人。
     そうして……静かにしていれば。
    『あはは。もー焔ちゃんってばー』『紅葉ちゃんもだよー』
     そんなキャピキャピした声が、女湯の方から響いてきて……色々な方向で想像がかき立てられてくる。
     ……そして、小一時間ほど経過すれば、四人は温泉街のお土産物やさんに連れ立っていく。
     そして見つけたかわいい猫のフィギュアに。
    「うわー、これかわいいっ!! ねーねー、これみんなのお土産にいいよねー?」
    「んー……うん、そうだねー。こういうのって意外にワンポイントに入れたりすると可愛く見えたりするんだよね。あ、つけてみるー?」
    「うん♪」
     ……と言った感じで、万事が全部の如く、焔と紅葉が楽しむのに対し二人が付き合うといった感じ。
     ……炎斗も悠斗も、女性陣二人の元気良さに圧倒されつつ……6時間経過。
     すれば続けての六時間、残る四人のグループが行動開始。
     でもやっぱり……こっちのペアも、お風呂がまず最初のスポットとなる訳で。
    「……ん、いい湯加減なの。暖かくて、ほっとするの」
    「ええ。しかしたまにはこういいうものもいいものね。本当はもっとゆっくり出来ると一番良いんだけど」
    「全くなの。こういう機会で来るんじゃなかったら、もっとゆっくり出来るのにね」
    「うにゅー。そうなのー。さぁてなにがあるかなー?」
     と、亜祈と毬衣にニコニコ笑いながらエステルがお風呂にざっぶんと入浴。
    「こらこら、あまりはしゃいで水しぶき飛ばしちゃだめだよ?」
    「あ、ごめんなさいなのー」
     とロコがエステルを軽くたしなめながらも、そんな彼女の頭を撫でて上げたり。
     ……こっちは全員が女性なので、男湯、女湯に分ける必要は無い。
     同じ湯船に浸かりながら空を見上げ……のんびりとした時間を過ごしていく。
     丁度時間は星が輝く星空の頃だから……気を抜きすぎれば、名一杯楽しめたことだろう。
     でも、余り気は抜けない。
     いつ、イフリートが出るのかも判らないし、姫子からの連絡は何時入るとも知らないから……。
     ……そしてその後も、六時間毎に班を交代し、朝も昼も、夜も深夜も警戒。
     そして三日目の……夜半過ぎ。
     丁度ロコ達が、夜中の時を警戒していた時。
    『プルルルルル……!』
    「きゃっ!? ……あ、電話だ!」
     深夜に鳴り響く電話の音色は、流石に心臓に悪い。
     でもすぐにその電話に出るロコ。
    『あ、ロコさん、夜遅くに申し訳ありません!』
     その声の主は当然姫子。
     姫子から電話が来たという事は……当然。
    「イフリートの気配を感知しました。イフリートは別府温泉の郊外に現われ、今そちらに向けて進んでいる模様です。至急そちらに向かって下さい」
    「了解、姫子さんもありがとうね!」
     亜祈が携帯電話を取りだし、そしてロコの言葉を聞いた亜祈がすぐ自分の携帯電話から、炎斗らにその情報を伝える。
     そして。
    「うにゅ、それじゃ急ぐのー」
    「そうなの。ああ、これをみんな使うの。真夜中だから真っ暗だし、なの」
     エステルに頷きながら毬衣がヘッドライトを各自に配布。
     そして各自が頭に取り付けると共に……姫子へと聞いたその場所へ、急いで駆けつけるのである。

    ●影より現われ
    「……あれか。流石に燃えているから遠くからでもよく分かるね!」
    「そうね。あいつをこの先に通さない様に……気を引き締めて行くわよ!」
     ロコに亜祈が頷き、そしてエステル、亜祈、毬衣、ロコがイフリートの進路の先に立ち塞がる。
    「ったく、何が目的かは知らないけれど、町中には入らせない。ここで行き止まりだよ!」
    「そうなのです。にゃ、一緒に遊びましょう♪」
    「……おいで、アタシの獣!」
     亜祈にエステル、毬衣が頷きながらスレイヤーカード解除。
     他仲間達もスレイヤーカードを解除し戦闘態勢を整えるも、イフリートはそれに対して……グゥゥと何か呻きながら、すぐに攻撃を開始。
     イフリートの力を持った彼の攻撃力は高い。先ずは手始めに、とばかりに立ち塞がるエステルへ組み付き、食いかかる。
    「むー、いたいのいやー。おしおきですよー」
     とエステルが反撃の初撃、ヴァンパイアミスト。
     それに続けて亜祈がレーヴァテインで攻撃する。
     その一方、中衛、後衛に位置する毬衣とロコは、敵の動きを見渡しながら。
    「思い通りには暴れさせないよ!!」
    「そうだね! 回復は私に任せてくれていいから……さあ、喰らって!」
     毬衣が影縛りでイフリートの捕縛を狙い、ロコも催眠を狙う。
     とは言え相手はダークネスのイフリート……その実力は相当なもの。
     一発だけではそのバッドステータスも、余り効いていない様である。
     そしてイフリートは、立ち塞がるクラッシャーのエステル、ディフェンダーの亜祈へと次々攻撃。
     ある程度のダメージに到達すれば、ロコがエンジェリックボイスで回復していく。
     ……そして、毬衣達が戦い始めて3ターン程が経過する。
     すると、遠くの方から聞こえる声。
    「待たせたな。俺達が来たからもう大丈夫だ!」
     炎斗が叫び声を上げながら入ってくると、彼と焔が最前線のディフェンダーに、一歩後ろに紅葉のディフェンダーが立つ。
     また、中衛に紅葉の霊犬、マカロ、後衛のスナイパーに悠斗という立ち位置。
     すぐさま悠斗が制約の弾丸と黒死斬によるバッドステータスを継続して与えていく。
     ある程度バッドステータスが重なると、前衛陣の炎斗、焔、紅葉の三人が。
    「敵も同じ炎なら、負ける訳にはいかねぇな!! あいつらには借りもあるし、徹底的に殲滅してやるぜ。全力で戦ってやるよ!!」
    「さぁ……斬り潰す!!」
     炎斗、焔が戦艦斬りで攻撃を仕掛け、プレッシャーを重ね与えると、エステルもそんな二人に合わせる様にして。
    「にゅー。わんこさん? それともおおかみさん? こっちにおいでー♪」
     と攻撃を引き寄せるようにしながら騒音刀で攻撃。
     クラッシャー三人が次々と攻撃を与える事でダメージの量を引き上げ攻撃すると、対してディフェンダーの亜祈、紅葉がイフリートの攻撃から仲間達を庇い、ダメージを肩代わりする。
     そして中衛、後衛陣でもってバッドステータスを幾重にも重ねて叩き込み、イフリートの行動、動きに制限を加え続けて行く。
     ……ある程度のバッドステータスが重なれば、その後は削るのみ。
    「……くっ、流石に、しぶといね……!」
    「そうだね。さすがはダークネスといった所だね……」
     毬衣に頷く悠斗……。
     少しずつ……イフリートの体力を削り続けて10ターン経過。
     蓄積していった結果、ダークネスの体力も残り半分を過ぎていく。
    「皆さん、あと少しです!」
     と悠斗が元気づけるように声を上げる。
     前衛陣は戦艦斬り、黒死斬、ティアーズリッパーを組み合わせてダメージを蓄積。
     ……動きが鈍り始めると、その周りを一斉に取り囲む。
     そして退路封鎖すると共に。
    「これで……息の根を止めてやるぜ!」
     炎斗が渾身の戦艦斬りを喰らわせると、その身体は大きく吹き飛ばされる。
    『ぐ……グゥゥゥ……』
     呻き声を上げ、威嚇。
     ……ダークネスは牙を剥いて反撃してくるも、それ以上効果的なダメージを与える事が出来ない。
     そして。
    「マカロ、一緒に行くよ!」
     紅葉が霊犬にそう声を掛け、マカロもワン、と吼えて頷くと……二人連携し、六文銭射撃と雲櫂剣。
     その連携攻撃にダークネスの身体に大きな傷痕を斬り裂き、イフリートは断末魔の悲鳴を上げて倒れるのであった。

     そして……。
    「……ふぅ、終わった。これで街を守れたわけですね……」
    「うん、そうなのー。でも、もう私ねむねむなのー」
     うつらうつら、うたた寝がちに首を振るエステル。
     そんな彼女に苦笑しながら、焔は……消え失せたイフリートの影を見下ろしつつ。
    「しかし……イフリートの動向が気になりますね。何か良く無い事が起こらなければいいんですが……」
    「全くなの。でも……どうなるかは判らないの。だから今は祈るしかないの」
     毬衣が焔にこくりこくりと頷く。
     この別府温泉に頻発し始めたゴースト……その真相は何なのかは分からない。
     でも、何か起きてるのかも判らない……そんな状態。
    「……ま、何にせよ俺達の出来る事はしたわけだし、帰ろうか」
    「うん、そうだね。あー、旅館に帰ったらまた温泉ハイロウよ! 汗掻いたしね!」
    「にゃ、温泉なのですー♪」
     嫌な気配を肌身に感じつつも、悠斗の言葉にロコ、エステルもうなずいて、灼滅者達はホテルへと帰るのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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